説明

プリプレグシート

【課題】 本発明は、無機フィラーが含有されているエポキシ樹脂組成物が半硬化状態で基材シートに担持されてなるプリプレグシートの柔軟性の向上を課題としている。
【解決手段】プリプレグシートに係る本発明は、無機フィラーが含有されているエポキシ樹脂組成物が半硬化状態で基材シートに担持されてなるプリプレグシートであって、前記基材シートに織布が用いられており、該織布を構成する糸には、芯鞘構造を有し、芯部がポリエステル樹脂で形成され、該芯部に用いられているポリエステル樹脂よりも融点の低い低融点ポリエステル樹脂で鞘部が形成されている熱融着性繊維が用いられていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機フィラーが含有されているエポキシ樹脂組成物が半硬化状態で基材シートに担持されてなるプリプレグシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラスクロスなどを基材シートとし、この基材シートに半硬化状態のエポキシ樹脂組成物が担持されてなるプリプレグシートが広く用いられており、このようなプリプレグシートに銅箔を積層させた積層シートは、電子部品用途におけるプリント回路基板形成材料として広く用いられている。
このようなプリプレグシートは、通常、ガラスクロス自体が、ガラス繊維が複数本束ねられた糸が緊密に平織りされて曲げ強度が高い状態に形成されていることから十分な柔軟性を有していない。
このようなことに対し、プリプレグシートに柔軟性を付与すべく、柔らかな樹脂繊維からなる糸で織られた基材シートをガラスクロスに代えて用いることが考えられる。
【0003】
ところで、エポキシ樹脂組成物は、Bステージなどと呼ばれる半硬化な状態とさせると脆くなって、少しの応力によって割れなどが生じてしまうことが知られている。
そのため、基材シート自体を柔軟にしても基材シートとエポキシ樹脂組成物との間に優れた密着性を有していないとプリプレグシートに加えられた応力によって基材シートからエポキシ樹脂組成物が脱落するおそれがある。
このことに対しエポキシ樹脂組成物との密着性に優れた樹脂繊維については、これまで十分な検討がなされておらずプリプレグシートへの柔軟性付与が困難な状況となっている。
【0004】
なお、近年、下記特許文献1に示されているように、無機フィラーを含有させたエポキシ樹脂組成物を用いてプリプレグシートの熱伝導性を向上させる試みがなされているが、無機フィラーを含有するエポキシ樹脂組成物は、無機フィラーを含まない場合に比べてBステージ状態における脆化が顕著であり基材シートからの脱落を防止することがより一層困難である。
【0005】
このようなことから、無機フィラーが含有されているエポキシ樹脂組成物が半硬化状態で基材シートに担持されてなる熱伝導性に優れたプリプレグシートにおいては、柔軟性の付与が特に難しい状況となっている。
そのため、無機フィラーが含有されているエポキシ樹脂組成物が半硬化状態で基材シートに担持されてなるプリプレグシートと、金属箔とが積層されてなる積層シートにおいても柔軟性の確保が難しい状況となっている。
【0006】
【特許文献1】特開2008−274046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題点の解決を図ることを課題としており、無機フィラーが含有されているエポキシ樹脂組成物が半硬化状態で基材シートに担持されてなるプリプレグシートの柔軟性の向上を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、エポキシ樹脂組成物との密着性に優れた樹脂繊維について鋭意検討を行った結果、エポキシ樹脂組成物がポリエステル樹脂繊維に対して密着性が高く、しかも、芯鞘構造を有し、芯部がポリエステル樹脂で形成され、該芯部に用いられているポリエステル樹脂よりも融点の低い低融点ポリエステル樹脂で前記鞘部が形成されている熱融着性繊維がエポキシ樹脂組成物と密着させ易いことを見出し本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、上記の課題を解決するためのプリプレグシートに係る本発明は、無機フィラーが含有されているエポキシ樹脂組成物が半硬化状態で基材シートに担持されてなるプリプレグシートであって、前記基材シートに織布が用いられており、該織布を構成する糸には、芯鞘構造を有し、芯部がポリエステル樹脂で形成され、該芯部に用いられているポリエステル樹脂よりも融点の低い低融点ポリエステル樹脂で鞘部が形成されている熱融着性繊維が用いられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のプリプレグシートには、前記基材シートとして織布が用いられており、しかも、この織布を構成する糸に、芯鞘構造を有し、芯部がポリエステル樹脂で形成され、該芯部に用いられているポリエステル樹脂よりも融点の低い低融点ポリエステル樹脂で前記鞘部が形成されている熱融着性繊維が用いられていることから基材シートとエポキシ樹脂組成物との密着性を従来のプリプレグシートに比べて向上させうる。
しかも、この基材シートは、ポリエステル樹脂が用いられてなる熱融着性繊維で形成されていることからガラスクロスに比べて柔軟なプリプレグシートを形成させ得る。
したがって、無機フィラーを含むエポキシ樹脂組成物を用いることで高熱伝導性化が図られたプリプレグシートに対してもその柔軟性を向上させうる。
すなわち、本発明によれば、無機フィラーが含有されているエポキシ樹脂組成物が半硬化状態で基材シートに担持されてなるプリプレグシートの柔軟性を向上させ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について(添付図面に基づき)説明する。
図1は、本実施形態のプリプレグシートを示す断面図である。
また、図2は、本実施形態のプリプレグシートに用いられている熱融着性繊維の断面構造を示す断面図である。
さらに、図3は、プリプレグシートの製造工程と、その後に行われる積層シートの製造工程との概略とを示す側面図である。
【0012】
この図1に示されているように、本実施形態に係るプリプレグシート1は、半硬化状態のエポキシ樹脂組成物3が基材シート2に含浸された状態で担持されておりシート状に形成されている。
【0013】
前記基材シート2は、熱融着性繊維20aが用いられてなる糸20が織製された織布であり、前記熱融着性繊維は、芯鞘構造を有し、芯部20a1がポリエステル樹脂で形成され、該芯部20a1に用いられているポリエステル樹脂よりも融点の低い低融点ポリエステル樹脂で鞘部20a2が形成されている。
【0014】
この基材シート2には、前記熱融着性繊維20aで形成された、50〜150μmのいずれかの太さの糸20が、タテ、ヨコそれぞれ40〜80本/インチの織密度で平織りされた織布が好適に用いられる。
また、基材シート2は、目付が10〜50g/m2のいずれかであることが好ましい。
【0015】
また、前記糸20は、前記熱融着性繊維からなる単糸であってもよく、複数本の前記熱融着性繊維が撚りのかけられた“より糸”であっても、撚りのかけられていない“引きそろえ糸”であってもよく、この糸20を構成する前記熱融着性繊維20aとしては、通常、25〜300dTexの太さのものが用いられる。
【0016】
本実施形態においては、前記芯部20a1は、ポリエチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル樹脂によって形成されており、前記鞘部20a2は、芯部20a1に用いられているポリエステル樹脂よりも融点の低い低融点ポリエステル樹脂が用いられている。
中でも芯部20a1の形成材料としては、実質上の繰り返し単位が、下記のようなテレフタル酸とエチレングリコールとの縮合構造のみとされたポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
【0017】
【化1】

【0018】
この芯部20a1の形成材料として、テレフタル酸とエチレングリコール以外の重合成分を含んでいないポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましく用いられる一方で、鞘部20a2の形成材料は、エチレングリコールとテレフタル酸以外に、イソフタル酸を共重合成分として含有する低融点ポリエチレンテレフタレート樹脂であることが好ましい。
【0019】
なお、基材シート2を構成する糸20は、上記のような熱融着性繊維20aのみで構成される必要はなく、要すれば、木綿、羊毛、絹などの天然繊維、ポリエチレン樹脂繊維、ポリプロピレン樹脂繊維、ポリアミド樹脂繊維、ポリイミド樹脂繊維、フッソ樹脂繊維などの合成樹脂繊維、カーボンファイバー、ガラスファイバー、ロックウール、金属繊維などの無機繊維が熱融着性繊維20aとともに混紡された糸が用いられたものであっても良い。
ただし、柔軟性に富んだプリプレグシートを得る意味からは、基材シート2は、上記熱融着性繊維20aのみで構成されていることが好ましい。
【0020】
この基材シート2に半硬化状態で担持させるエポキシ樹脂組成物3は、エポキシ樹脂と無機フィラーとを含有するものである。
なお、このエポキシ樹脂組成物が半硬化状態であるかどうかについては、示差走査熱量計(DSC)を用いてエポキシ樹脂の硬化反応による熱変化が観測されるかどうかをもって判断することができる。
【0021】
このエポキシ樹脂組成物に用いるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールタイプのもの、ノボラックタイプのものを挙げることができ、例えば、ビスフェノールタイプのものとしては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂、さらには、例えば、これらをCTBN変性したものなどが挙げられ、エポキシ当量が180〜2500g/eqのものが挙げられる。なお、このエポキシ当量は、JIS K 7236に準拠して求められうる。
なかでも、CTBN変性等の変性がなされていない、900〜2500g/eqのいずれかのエポキシ当量を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂が好適である。
また、ノボラックタイプのものとしては、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂が挙げられ、例えば、70〜90℃のいずれかの軟化点を有するo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を例示することができる。なお、前記軟化点は、JIS K 7234の環球法によって測定されうる。
これらのエポキシ樹脂は、単独あるいは複数種類混合された状態でエポキシ樹脂組成物に含有させることができる。
【0022】
前記無機フィラーとしては、プリプレグシート1に優れた熱伝導性を付与する観点から、高熱伝導率のものをより多く含有させることが好ましい。
このような無機フィラーとしては、例えば、10nm〜100μmの粒径を有する窒化ホウ素粒子、窒化アルミニウム粒子、窒化ケイ素粒子、窒化ガリウム粒子、酸化アルミニウム粒子、炭化ケイ素粒子、二酸化ケイ素粒子、ダイヤモンド粒子などが挙げられる。
なかでも、窒化ホウ素粒子は、比較的安価でありながらも、高い熱伝導率を有している点において好適である。
このような無機フィラーの配合割合は、プリプレグシート1の用途に応じて適宜決定されるものではあるが、ガラスクロスが基材シートとして用いられるようなプリプレグシートにおいて僅かな応力で剥離を生じることから担持させること自体が困難であるために本発明の効果がより顕著化されうる点において、エポキシ樹脂組成物の固形分に40体積%以上となる割合で配合されることが好ましい。
【0023】
また、このエポキシ樹脂組成物には、前記エポキシ樹脂を硬化させるための硬化剤や促進剤と呼ばれるものを含有させうる。
この硬化剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ジアミノジフェニルスルホン、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、トリエチレンテトラミンなどのアミン系硬化剤、フェノールノボラック樹脂、アラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、ナフタレン型フェノール樹脂、ビスフェノール系フェノール樹脂などのフェノール系硬化剤、酸無水物などを用いることができる。
中でも、プリプレグシートに電気絶縁性が強く求められるような場合においては、電気特性における信頼性を確保し易い点において、フェノールノボラック樹脂、ジアミノジフェニルスルホンなどが好適である。
前記硬化促進剤としては、特に限定されるものではないが、イミダゾール類や、トリフェニルフォスフェイト(TPP)、三フッ化ホウ素モノエチルアミンなどのアミン系硬化促進剤がプリプレグシートの保存時における硬化反応の進行を抑制させ得る点において好適である。
【0024】
また、上記のようなエポキシ樹脂、無機フィラー、硬化剤、促進剤以外に、分散剤、粘着性付与剤、老化防止剤、酸化防止剤、加工助剤、安定剤、消泡剤、難燃剤、増粘剤、顔料などといったゴム、プラスチック配合薬品として一般に用いられるものをエポキシ樹脂組成物に適宜含有させることができる。
【0025】
次いで、このようなプリプレグシート1と、該プリプレグシートを用いた積層シートの製造方法について図3を参照しつつ説明する。
【0026】
本実施形態におけるプリプレグシート1及び積層シートの製造方法においては、予め前記エポキシ樹脂組成物を液状化させたエポキシ樹脂ワニスを作製し、次いで、図3に示すように、作製されたエポキシ樹脂ワニスを長尺の帯状の基材シートに対して連続的に塗工、乾燥することによりプリプレグシート1を作製する。
このエポキシ樹脂ワニスの作製方法としては、通常、ビスフェノールタイプのエポキシ樹脂やノボラックタイプのエポキシ樹脂の軟化点が120℃以下であることから、この軟化点以上の温度(例えば、120℃以上)に加熱することで液状のエポキシ樹脂組成物を得る方法が挙げられる。
また、このような方法に代えて、エポキシ樹脂を可溶な有機溶剤を用いて液状のエポキシ樹脂組成物を作製することができる。
例えば、エポキシ樹脂、無機フィラー、硬化剤、促進剤、その他配合剤をメチルエチルケトンなどの有機溶剤中に分散させて液状のエポキシ樹脂組成物を作製することができる。
【0027】
なお、図3では、有機溶剤を用いて作製したエポキシ樹脂ワニス3rを、帯状の基材シート2sがロール状に巻き取られた基材シートロール2rから連続的に繰り出された基材シート2sにスプレーコート機4で連続的に塗工する様子を示している。
本実施形態においては、この塗工の後、基材シート2sにエポキシ樹脂ワニス3rを担持させた状態で乾燥炉5に導入して加熱乾燥を実施して帯状のプリプレグシート1を作製し、この帯状のプリプレグシート1sをロール状に巻き取ってプリプレグシートロール1rを形成させる。
【0028】
なお、基材シート2sを構成する糸の間隔が大きく開いておりこのような塗工によって基材シート2にエポキシ樹脂ワニス3rを含浸させて担持させることが困難な場合には、例えば、基材シートを下面側から離型処理されたフィルムなどで支持させて、そのフィルムによって基材シート2sにエポキシ樹脂ワニス3rが担持された状態を維持させつつフィルムごと乾燥炉5に導入して加熱乾燥をさせればよい。
【0029】
このようにして得られた帯状のプリプレグシート1sは、例えば、図3に示すように、プリプレグシートロール1rから、一定長さ繰り出して、切断装置6で定尺に切断した後、この所定の大きさに切断されたプリプレグシート1と金属箔Mとを重ね合わせて、熱プレス機8でエポキシ樹脂組成物を完全硬化させない温度条件で熱プレスして熱接着が可能な積層シートLを作製することができる。
このときの金属箔は用途に応じて適宜選択すればよく、プリント回路基板用であれば、5〜300μm厚みの、電解銅箔、圧延銅箔、電解アルミニウム箔、圧延アルミニウム箔、ニッケルメッキ銅箔、アルミニウム/銅二層クラッド箔などが例示される。
【0030】
また、このような積層シートを銅板、アルミニウム板、SUS板などに接着させて金属箔をエッチング加工して回路形成を行うことで金属ベース回路基板として用いられ得る。
さらには、両面に金属箔を積層した積層シートを作製し、多層回路基板用材料とすることも可能である。
【0031】
本実施形態に係るプリプレグシートや積層シートは、プリント回路基板用途のみならず、熱伝導性と電気絶縁性などが求められる用途において好適に用いられ得る。
例えば、このプリプレグシートをパワーモジュールなどの発熱部材と、放熱フィンなどの放熱部材との間に介装させて、このパワーモジュールと放熱フィンとを近接させる方向に加圧するとともにエポキシ樹脂組成物の硬化反応温度まで加熱して、一面側をパワーモジュールに熱接着させるとともに、他面側を放熱フィンに熱接着させて熱伝導性接着シートとして用いることができる。
【0032】
なお、通常は、平織りされた織布を基材シートに用いてプリプレグシートを作製すると、プレス時に、糸が重なり合う部分において圧力が集中して目ずれが生じる他、圧力のかかり方が不均一になって接着力にバラツキを生じやすい。
一方で本実施形態のプリプレグシートは、鞘部に芯部よりも低融点のポリエステル樹脂が使用されていることから、この低融点ポリエステル樹脂の融点以上あるいは、融点に近いプレス温度を採用することで糸の目ずれが抑制されるとともに、接着力の均一化が図られうる。
【0033】
さらに、本実施形態におけるプリプレグシートや積層シートは、基材シートを構成する糸が、ポリエステル樹脂が用いられた熱融着性繊維で形成されていることから柔軟性に富んでおり慎重な取り扱いを要しない。
例えば、図3に示すようなロールトゥロールでの取り扱いが可能で製造時のみならず加工時においても作業効率の向上を期待することができる。
また、ロール巻取りによる収容形態においても、その曲げ半径を小さくすることができることから、エポキシ樹脂組成物の剥離を防止するために太い心材を採用する必要がなく従来に比べて収容スペースの削減を図ることができる。
【0034】
なお、本実施形態においては、プリプレグシートを上記のように構成し、上記のように製造する場合を例示しているが、上記例示に限定されるものではない。
例えば、さらに基材シートとエポキシ樹脂組成物との密着性を向上させる工程を設けることも可能である。
【0035】
このことについてより具体的に説明すると、本実施形態に係るプリプレグシートは、基材シートを構成する糸が、ポリエステル樹脂が用いられた熱融着性繊維で形成されている。
通常、ポリエチレンテレフタレート樹脂は、250℃以上の融点を有し、他のポリエステル樹脂も同様に、エポキシ樹脂の熱溶融温度や有機溶剤を揮発させるための乾燥温度(例えば、100〜160℃)などに比べて高い融点を有している。
したがって、例えば、有機溶剤を用いた方法でエポキシ樹脂ワニスを作製して100〜160℃の温度で乾燥させる場合でも、100〜160℃程度の加熱温度でエポキシ樹脂を熱溶融させてエポキシ樹脂ワニスを作製した場合でも、基材シートへの担持において問題を生じさせるおそれが十分低い。
【0036】
また、基材シートを構成する熱融着性繊維は、芯鞘構造を有し、しかも、鞘部20a2が芯部20a1に用いられているポリエステル樹脂よりも融点の低い低融点ポリエステル樹脂で構成されていることから、この融点の違いを利用して基材シートとエポキシ樹脂組成物との密着性を高めることができる。
すなわち、熱溶融させたエポキシ樹脂ワニスの接触や、有機溶剤を用いたエポキシ樹脂ワニスを基材シート上で加熱乾燥させる際の熱によってエポキシ樹脂組成物と熱融着性繊維との接触温度を、鞘部20a2を構成する低融点ポリエステル樹脂の融点近傍、あるいは、融点以上としてエポキシ樹脂組成物と熱融着性繊維との密着性向上を図ることができる。
【0037】
例えば、芯鞘構造を有しておらず、内部まで同じ樹脂によって構成された繊維では、密着性の向上を目的としてこの繊維を構成する樹脂の融点温度に加熱すると繊維内部までもが軟化してしまい、繊維が切断されてしまうこととなるが、本実施形態にかかる基材シートはこのようなおそれを抑制しつつ工程内の温度条件の調整によって熱融着性繊維とエポキシ樹脂組成物との密着性向上を図ることができる。
【0038】
言い換えれば、芯部20a1を250℃以上の融点を有する一般的なポリエチレンテレフタレート樹脂で構成させるとともに鞘部20a2を構成する低融点ポリエステル樹脂の融点を、ポリエチレンテレフタレート樹脂よりも十分温度の低い、例えば、160℃以下とすることで、一般的な条件設定でも基材シートへのエポキシ樹脂組成物の担持においてその密着性を優れたものとさせ得る。
すなわち、エポキシ樹脂の熱溶融や有機溶剤を揮発させるための乾燥は、通常、100〜160℃の温度域でなされることから、鞘部20a2を構成させるための樹脂として160℃以下の融点(好ましくは、140℃以下の融点)のものを採用することで基材シートとエポキシ樹脂組成物との密着性を向上させ得る。
なお、この樹脂の融点については、DSCを用いた10℃/minの昇温速度での熱分析によって融解ピーク値を測定することによって求めることができる。
【0039】
また、このような芯部20a1と鞘部20a2との素材選択による基材シートとエポキシ樹脂組成物との密着性向上方法に加えて、例えば、一旦作製したプリプレグシートに対して熱プレスを実施して更なる密着性向上を図ることができる。
【0040】
例えば、鞘部20a2を構成する低融点ポリエステル樹脂の融点以上で、且つ、芯部20a1を構成するポリエステル樹脂の融点以下の温度でプリプレグシートの熱プレスを実施して、基材シートとエポキシ樹脂組成物との密着性の向上を図ることができる。
また、その際には、エポキシ樹脂組成物の硬化度合い(Bステージ状態)の調整を同時に実施することができプリプレグシートとしての品質の均一化を図ることが出きる。
【0041】
このようにして無機フィラーを含有するエポキシ樹脂組成物が半硬化状態で担持されていながらも柔軟性に優れたプリプレグシートを得ることができる。
なお、ここでは詳述しないが、プリプレグシートにおいて従来公知の技術事項を本発明においても採用が可能である。
【実施例】
【0042】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
酸化アルミニウム粒子が60体積%含有されているエポキシ樹脂組成物を、芯鞘構造を有し、芯部がポリエステル樹脂で形成され、該芯部に用いられているポリエステル樹脂よりも融点の低い低融点ポリエステル樹脂で鞘部が形成されている熱融着性繊維が用いられてなる基材シート(目付20g/m2)に半硬化な状態で担持させた厚さ130μm×幅20mm×長さ50mmの形状のプリプレグシートを作製し、実施例1のプリプレグシートとした。
【0044】
(比較例1)
基材シートを用いずに、厚さ130μm×幅20mm×長さ50mmの形状のプリプレグシートを作製し比較例1のプリプレグシートとした。
【0045】
(比較例2)
芯鞘構造を有していない、ポリエステル繊維が用いられていること以外、実施例1において用いた基材シートと同様に構成された基材シートを用いたこと以外は実施例1と同様にプリプレグシートを作製し、比較例1のプリプレグシートとした。
【0046】
(評価1:屈曲試験)
実施例1のプリプレグシートと、比較例1のプリプレグシートとを、長さ方向中間部において90度の角度で屈曲している状態となるように折り曲げた際のそれぞれの様子を観察した。
その結果、比較例1のプリプレグシートが完全に破断してしまったのに対して、実施例1のプリプレグシートは、曲げ部に若干のひび割れが観察された程度で、比較例1のような破断に至る様子が見られなかった。
【0047】
(評価2:接着力試験)
厚み35μmの電解銅箔と、厚み2mmのアルミニウム板との間に実施例1のプリプレグシートを挟んで、熱プレスで加熱接着を実施し銅箔引き剥がし用試験片を作製した。
また、比較例2のプリプレグシートを用いて同様に銅箔引き剥がし用試験片を作製した。
このそれぞれの試験片について、JIS C 6481に準じて銅箔の90度剥離試験を実施した。
測定は、初期状態における場合と、前記試験片を、260℃のハンダ槽に2分間浮かべるハンダ耐熱試験を実施した後との2通りで実施した。
その結果、それぞれの測定における引き剥がし強さの最小値と最大値については、下記、表1に示す通りとなった。
【0048】
【表1】

【0049】
この表1からもわかるように本発明のプリプレグシートに用いられている基材シートは、エポキシ樹脂組成物に優れた接着力を示すものであることがわかる。
また、接着力のバラツキも少ないことがわかる。
以上のようなことから、本発明によれば柔軟なプリプレグシート、積層シートの提供が可能であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】一実施形態におけるプリプレグシートの断面図。
【図2】同実施形態のプリプレグシートに用いられている熱融着性繊維を表す断面図。
【図3】一実施形態のプリプレグシート及び積層シートの概略製造工程を示す側面図。
【符号の説明】
【0051】
1:プリプレグシート、2:基材シート、3:エポキシ樹脂組成物、20:糸、20a:熱融着性繊維、20a1:芯部、20a2:鞘部、L:積層シート、M:金属箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機フィラーが含有されているエポキシ樹脂組成物が半硬化状態で基材シートに担持されてなるプリプレグシートであって、
前記基材シートに織布が用いられており、該織布を構成する糸には、芯鞘構造を有し、芯部がポリエステル樹脂で形成され、該芯部に用いられているポリエステル樹脂よりも融点の低い低融点ポリエステル樹脂で鞘部が形成されている熱融着性繊維が用いられていることを特徴とするプリプレグシート。
【請求項2】
前記無機フィラーが前記エポキシ樹脂組成物の固形分に占める割合が、40体積%以上である請求項1記載のプリプレグシート。
【請求項3】
前記熱融着性繊維が、芯部がポリエチレンテレフタレート樹脂で形成され、鞘部がイソフタル酸を共重合成分として含有する低融点ポリエチレンテレフタレート樹脂で形成されている請求項1又は2記載のプリプレグシート。
【請求項4】
前記基材シートは、50〜150μmのいずれかの太さを有する糸が、40〜80本/インチのいずれかの織密度で織製された織布である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のプリプレグシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−138355(P2010−138355A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318605(P2008−318605)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【Fターム(参考)】