説明

プリプレグ切断機

【課題】プリプレグを切断する際に、金属粉がプリプレグに付着しないプリプレグ切断機を、提供する。
【解決手段】上刃及び下刃を備え、前記上刃と下刃とでプリプレグを切断するプリプレグ切断機において、前記上刃及び下刃が、少なくとも上刃と下刃との切断時重なり部分に、ダイヤモンドコートを有する。好ましくは、上刃と下刃との切断時重なり部分を有する第1の面及び、前記第1の面とともに刃を形成する第2の面にもダイヤモンドコートを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグを切断するプリプレグ切断機に関する。
【背景技術】
【0002】
プリプレグは、無機繊維、有機繊維、又はそれら混合繊維の織布又は不織布(以下、「基材」と言う。)に、樹脂を含浸させ、加熱乾燥して半硬化状態(Bステージ)にさせたものであり、これを、1枚又は複数枚積層して加圧・加熱成形して硬化状態(Cステージ)にし、積層板として使用する。
プリプレグの製造は、任意の大きさに切断した基材ごとに、樹脂を含浸しても良いが、効率を考えると、連続して製造することが好ましく、移送する長尺の基材に対し、連続して樹脂を含浸させた後に、乾燥させている。そのため、乾燥後には、任意長に切断を行う必要がある。
【0003】
プリプレグの切断は、金属製の刃を用いた切断機が使われている。この切断機は、共に金属製の上刃及び下刃を備え、この上刃と下刃とでプリプレグを切断する。
例えば、図1に示すように、回転式の上刃1と回転式の下刃2とで、前記上下刃が長尺のプリプレグの幅方向に走行してプリプレグ3を切断する。刃の寸法は上刃1が直径:180mm、下刃2が直径:150mm、上下刃の材質は汎用炭素鋼となっている。上下刃の送り速度は、5m/分、上刃1の回転数は、9回転/分、下刃2の回転数は、15回転/分、上刃1、下刃2は、それぞれ駆動軸に接続されて回転する。このような回転丸刃を用いるものは、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−114186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述したプリプレグ切断機は、金属製の上刃及び下刃を用いるので、プリプレグ切断時に、上刃と下刃が接触して金属粉を発生させ易く、この金属粉が、プリプレグに付着する可能性がある。
プリプレグは、その後配線板等を構成する絶縁材として使用されるため、導電性の金属粉が付着することは問題が大きく、回路をショートさせる要因になってしまう。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、プリプレグを切断する際に、金属粉がプリプレグに付着しないプリプレグ切断機を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のものに関する。
(1)上刃及び下刃を備え、前記上刃と下刃とでプリプレグを切断するプリプレグ切断機において、前記上刃及び下刃が、少なくとも上刃と下刃との切断時重なり部分に、ダイヤモンドコートを有するプリプレグ切断機。
(2)項(1)において、上刃と下刃との切断時重なり部分を有する第1の面及び、前記第1の面とともに刃を形成する第2の面にもダイヤモンドコートを有するプリプレグ切断機。
(3)項(1)又は(2)において、ダイヤモンドコートが、その厚みを0.5〜3μmとするプリプレグ切断機。
(4)項(1)乃至(3)の何れかにおいて、上刃と下刃とのクリアランスが0mmであるプリプレグ切断機。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、金属製の刃先をダイヤモンドコートすることにより、刃の金属同士が、直接接触しないようにすることができ、刃先の金属部分の摩耗がなくなり金属粉の発生を、なくすことができる。
ダイヤモンドコートを、上下刃の重なる部分を有する第1の面及び、前記第1の面とともに刃を形成する第2の面にも行った場合には、より金属粉の発生をなくすことができる。
ダイヤモンドコートの厚みを0.5〜3μmとした場合は、上下刃のダイヤモンドコート同士がある程度接触摩耗しても、金属部分が露出しにくいため、刃先の金属部分の摩耗がなくなり金属粉の発生をなくすことができる。
上刃と下刃とのクリアランスを0mmとした場合は、プリプレグ切断部分の白化幅を小さくできる。なお、前記白化とは、基材に含浸し半硬化させた樹脂が、切断時の衝撃により基材から剥離して、プリプレグ外観が白く見える現象である。
上刃及び/又は下刃が、その刃を加熱する加熱具を有する場合は、切断時にプリプレグの樹脂粉が飛散せず、切断できる。
プリプレグの切断部分を予め加熱した場合は、上刃及び/又は下刃が加熱具を有さなくても、プリプレグの樹脂粉が飛散せず、切断できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】従来例である、プリプレグ切断機の概略図であり、左側は正面図、右側は断面図を示す。
【図2】本発明の1実施例である、プリプレグ切断機の概略図であり、左側は正面図、右側は断面図を示す。
【図3】図2のプリプレグ切断機の待機状態の概略断面図を示す。
【図4】図2のプリプレグ切断機の上刃を下降させた状態の概略断面図を示す。
【図5】図2のプリプレグ切断機の稼働状態での概略断面図を示す。
【図6】図2のプリプレグ切断機の拡大断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<上刃及び下刃>
本発明にて述べる上刃及び下刃は、上下方向からプリプレグを切断可能なものであれば、特に限定されるものでなく、回転丸刃方式、シャーナイフ方式、及び、ロータリーナイフ方式等を、使用することができる。
但し、1回の切断に必要な時間が、ロータリーナイフ方式よりも、回転丸刃方式や、シャーナイフ方式の方が短いことから、回転丸刃方式やシャーナイフ方式を用いることが好ましい。
【0011】
シャーナイフ方式を用いる場合は、その刃幅を、切断するプリプレグの幅に、プリプレグの位置ずれを考慮した長さを加算したものとする。回転丸刃方式、ロータリーナイフ方式の場合は、ナイフの稼働長さを、シャーナイフ方式と同様にして決定する。
【0012】
上刃及び下刃の材質は、特に限定されるものではないが、耐久性、強度の観点から、金属製のものを使用し、より具体的には、炭素鋼、超硬合金、ステンレス等を用いることができ、特殊な材質でなく一般的な炭素鋼を用いても十分に効果が得られる。
【0013】
上刃と下刃とのクリアランスは、切断するプリプレグを座屈させない範囲で、任意に設定することができるが、プリプレグの切断部分の白化幅が小さくなることから、回転丸刃方式では、「0mm」とすることが好ましい。シャーナイフ方式及びロータリーナイフ方式では、クリアランスを「0mm」とすることができないので、可能な限り小さくする。尚、ここで述べるクリアランス「0mm」とは、上刃と下刃との切断時重なりの際に、上刃のダイヤモンドコート表面から、下刃のダイヤモンドコート表面迄の距離を、意味している。
【0014】
<プリプレグ>
本発明にて述べるプリプレグは、基材に樹脂を含浸させ、半硬化させたものであれば良く、基材及び樹脂は限定されない。基材として具体的なものを列挙すると、ガラス繊維、アラミド繊維等を使用することができ、これらを織布又は不織布の形態で用いる。また、基材は、そのままでも、表面処理しても使用することができる。樹脂として具体的なものを列挙すると、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等を使用することができる。
プリプレグの形状は、帯状の連続体であり、少なくとも所望する大きさよりも大きなものであり、製造工程を簡略化するには、幅が一定長の長尺体であることが好ましい。
【0015】
<ダイヤモンドコート>
本発明にて述べるダイヤモンドコートは、硬度がダイヤモンドに近い、アモルファスなカーボン膜を意味しており、ダイヤモンド構造と、同等の結合を有し、ダイヤモンドライクカーボン(以下、「DLC」とも言う。)とも呼ばれる。
DLCは、非晶質であるので、表面平滑性が極めて高く、また、潤滑性もあるので、刃へコートすることで、金属同士の直接接触を防ぐばかりでなく、切断能力を向上させることもできる。
【0016】
ダイヤモンドコートの厚みは、特に限定されるものでないが、0.5〜3μmであることが好ましく、0.5μm未満であると、徐々にDLCが剥離または摩耗しやすくなり、3μmを超えると、徐々に高価となる。
【0017】
ダイヤモンドコートを行う部位は、少なくとも、上刃と下刃の切断重なり部分であり、これにより、上刃と下刃の金属部分が直接接触することがなく、金属粉の発生を阻止できる。
また、ダイヤモンドコートは、切断時重なり部分以外にも行うことができ、切断時重なり部分を有する第1の面及び、前記第1の面とともに刃を形成する第2の面(図6参照)にもコートすることで、より金属の露出面が減少し金属粉の発生を阻止できる。特に、上刃及び下刃の全体にダイヤモンドコートを行った場合は、刃の金属露出箇所がなくなり、誤動作等で刃位置がずれても、金属粉を飛散させることがない。
【0018】
<加熱具>
本発明にて述べる加熱具は、上刃及び/又は下刃を加熱することができるものであれば、他に限定はなく、温度を可変できるものが、切断すべきプリプレグの樹脂に合わせることができることから、好ましい。具体的には、可変抵抗を有した電気ヒータ、スイッチングによる温度調整ができるヒータ等を用いることができる。
【0019】
加熱具は、刃を加熱することにより、切断時の樹脂粉飛散を少なくすることを目的にして、設置されるものであり、作業環境を大幅に改善することができる。
また、プリプレグの切断部分を、切断前に予め加熱するのも同様の理由であるが、これには、ハロゲンヒータを好適に用いることができる。
尚、加熱する温度は、使用される樹脂により異なるが、例えば、エポキシ樹脂を使用したものであれば、60〜90℃とすることができる。
【実施例】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図2は、本発明の1実施例である、回転丸刃方式のプリプレグ切断機の概略図である。
刃の寸法は、上刃1が直径:180mm、下刃2が直径:150mm、上下刃の材質は汎用炭素鋼、上刃のダイヤモンドコート4の厚み:1.5μm、下刃のダイヤモンドコート5の厚み:3μmとなっている。
【0021】
ダイヤモンドコート4は、上刃の全体(上刃と下刃との切断時重なり部分を有する第1の面及び、前記第1の面とともに刃を形成する第2の面)に、日本コーティングセンター株式会社製のスリックコートH(商品名)を行い、ダイヤモンドコート5は、下刃の全体(上刃と下刃との切断時重なり部分を有する第1の面及び、前記第1の面とともに刃を形成する第2の面)に同社製のスリックコートS(商品名)を行っている。
上刃のスリックコートHは、コート厚み0.5〜1.5μm、ビッカース硬度(H)2500〜4500であり、下刃のスリックコートSは、コート厚み1〜3μm、ビッカース硬度(H)1000〜2000である。
上下刃の送り速度は、5m/分、上刃1の回転数は、9回転/分、下刃2の回転数は、15回転/分とした。
【0022】
切断時の刃の動作を、図3〜5を用いて説明する。図3に切断動作前の待機状態を示す。プリプレグの切断を行う時は、先ず、図4に示すように上刃1を下降させる。上刃1の下降量は、上刃1と下刃2との重なりが、約1mmになる位置である。次に、図5に示すように、上刃1を下刃2の方向に移動させ、上刃1を下刃2に接触させた後、上刃1及び下刃2を回転し、この状態を保持してプリプレグを切断する。
【0023】
<実施例1>
先に説明した図2〜5に示すプリプレグ切断機を用いて、プリプレグを切断した。
用いたプリプレグは、質量15g/mのガラス不織布基材に、エポキシ樹脂を含浸したもので、厚み:0.17mm、1回当りの切断長さ:500mmである。
評価は、切断したプリプレグ断面に付着した直径10μm以上の金属粉を、マイクロスコープで観察した。なお、プリプレグ1枚について、1mm角の範囲を1箇所観察し、プリプレグ4枚分の平均値で評価した。
【0024】
<比較例1>
先に説明した図1に示す従来のプリプレグ切断機(ダイヤモンドコートなし)を用いて、実施例1にて用いたものと同じプリプレグを用い、同様にして切断を行った。
切断後、実施例1と同様にして、金属粉の発生の有無を調べた。
【0025】
<金属粉の測定結果>
実施例1及び比較例1とで調べた、金属粉の発生についての結果を、以下の表1に示す。表1に示す通り、実施例1にて用いた、ダイヤモンドコートを備えるプリプレグ切断機では、金属粉の発生が皆無であったが、比較例1に示すものでは、3000個/mmであった。
【0026】
【表1】

【符号の説明】
【0027】
1…上刃、2…下刃、3…プリプレグ、4…上刃のダイヤモンドコート、5…下刃のダイヤモンドコート、6…切断時重なり部分、71,72…第1の面、81,82…第2の面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上刃及び下刃を備え、前記上刃と下刃とでプリプレグを切断するプリプレグ切断機において、前記上刃及び下刃が、少なくとも上刃と下刃との切断時重なり部分に、ダイヤモンドコートを有するプリプレグ切断機。
【請求項2】
請求項1において、上刃と下刃との切断時重なり部分を有する第1の面及び、前記第1の面とともに刃を形成する第2の面にもダイヤモンドコートを有するプリプレグ切断機。
【請求項3】
請求項1又は2において、ダイヤモンドコートが、その厚みを0.5〜3μmとするプリプレグ切断機。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかにおいて、上刃と下刃とのクリアランスが0mmであるプリプレグ切断機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−16792(P2012−16792A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156096(P2010−156096)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】