説明

プリプレグ用の工程剥離紙原紙

【課題】 剥離剤塗工時の耐溶剤性に優れ、寸法・形状安定性が良好で、プリプレグの製造工程において、ゴムロールと工程紙とのスリップを防止し、ライン速度の低下を起こさず、また摩擦が高すぎてシワが生じることのない工程剥離紙の提供。
【解決手段】 この課題は、多層抄き原紙の両面に、カオリン顔料、スチレン‐ブタジエン系共重合体ラテックス、ポリビニルアルコール、澱粉、及び耐水化剤を含み、前記カオリン顔料100質量部あたり10〜50質量部のガラス転移温度が0℃以上のスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスを含有する塗工層を片面当り5〜20g/mの塗工量で両面に塗設し、更にシリコーンを塗布することによって得られる工程剥離紙原紙であって、カオリン顔料のアスペクト比が40〜70であることを特徴とする前記工程剥離紙原紙によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料製造におけるプリプレグ用の工程剥離紙原紙に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維などの各種強化繊維を補強材とする複合材料は、軽量で、かつ、強度及び弾性率においても優れていることから、ゴルフシャフト、釣竿、テニスラケットなどのレジャー・スポーツ用品の構成部材として、更には、宇宙航空機用部材として、幅広い分野にわたって用途開発がなされ、また、実用化されている。これらの複合材料は、一般に、プリプレグと呼ばれる強化繊維に熱硬化性樹脂(マトリックス樹脂)を予め含浸させた半製品を材料とする。前記プリプレグは、所望の形状に整えられ、その後、加熱成形して所定の形状に成形される。このプリプレグには、形態保持、貯蔵、又は輸送に適するように工程紙が使用され、該工程紙によってプリプレグはロール状又は所望寸法のシートの多層積層体とされているのが通常である。
【0003】
前記プリプレグ材は、その貯蔵環境下での湿度や温度の変化によって、工程紙がプリプレグから部分的に剥がれ、プリプレグ表面に凹凸が発生するといった問題があった。このような凹凸が発生したプリプレグを用いると、成形体には、前記凹凸によるシワやボイドが発生し、成形体の強度が低下し、更には外観を損ねるといった問題が生じる。このプリプレグ材の工程紙の剥がれは、工程紙の水分量の変化によって発生する。すなわち、貯蔵状態の湿度や温度がプリプレグ材の製造時の湿度や温度と異なる場合、例えば貯蔵状態での湿度が製造時の湿度より低い場合には、前記工程紙から水分が蒸発し、該工程紙が収縮する。反対に、貯蔵状態における湿度が高い場合には、前記工程紙が水分を吸収し、該工程紙が伸長する。一方、強化繊維にマトリックス樹脂が含浸されてなるプリプレグは、貯蔵状態において湿度や温度の変化があっても、その形態及び寸法は変化しにくい。そこでプリプレグと工程紙との間で剥がれが生じる。
【0004】
さらに、前記プリプレグの製造工程において、ゴム又は金属と工程紙の軽剥離面側との間で張力をとる箇所がある。その際、ゴム又は金属と軽剥離面側との摩擦が低い場合には、スリップしてしまい、それによるライン速度の低下という問題が起こり、改善が求められていた。また、ゴム又は金属と軽剥離面側との摩擦が高過ぎる場合には、シワが逃げなくなり、シワが発生し易くなるという問題があった。
【0005】
これらの問題を解決するために、両面に防湿層を有する原紙の少なくとも片面に剥離処理を施し、JIS Z 0208に準拠して測定した透湿度が、200g/m・24時間以下である改善された工程紙が示されている(例えば、特許文献1を参照。)。しかしながら、前記の製造工程における摩擦の問題は未解決のままであり、耐水性についても依然不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−220482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、プリプレグ製造加工工程で使用される工程剥離紙に関するものであり、剥離剤塗工時の耐溶剤性に優れ、寸法・形状安定性が良好で、プリプレグの製造工程において、ゴムロールと工程紙とのスリップを防止し、ライン速度の低下を起こさず、かつ、摩擦が高すぎてもシワが生じることのない製造加工工程剥離紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、塗工剤に使用する無機顔料のアスペクト比及びシリコーン塗布後の摩擦係数の点から検討を重ね、前記課題を解決しようとするものである。
【0009】
すなわち、本発明は、多層抄き原紙の両面に、カオリン顔料、スチレン‐ブタジエン系共重合体ラテックス、ポリビニルアルコール、澱粉、及び耐水化剤を含み、前記カオリン顔料100質量部あたり10〜50質量部のガラス転移温度が0℃以上のスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスを含有する塗工層を片面当り5〜20g/mの塗工量で両面に塗設し、該塗工層の上に更にシリコーンを塗布することによって得た防湿塗工層を有する工程剥離紙原紙であって、カオリン顔料のアスペクト比が40〜70としたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の工程剥離紙原紙は、前述のとおり多層抄き原紙の両面に防湿塗工層を有することによって、吸湿寸法安定性が改善でき、貯蔵運搬時にプリプレグから工程紙が浮き上がって剥がれるという現象を防止できる。さらに、本発明であれば、プリプレグの製造工程において、ゴムロールと工程紙とのスリップを防止し、ライン速度の低下を起こさず、かつ、摩擦が高すぎてもシワが生じることのない工程剥離紙原紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の工程剥離紙原紙を構成する多層抄き原紙に使用するパルプは特に限定されるものではなく、通常に使用されているパルプが使用できる。例えば、NUKP(針葉樹未晒クラフトパルプ)、NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、LBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)、GP(砕木パルプ)、TMP(サーモメカニカルパルプ)、BCTMP(晒ケミサーモメカニカルパルプ)、NBSP(針葉樹晒サルファイトパルプ)などの木材パルプが使用でき、これを主体として古紙パルプ、非木材繊維、合成繊維、無機繊維などを適宜混合することもできる。
【0013】
抄紙に際しては、製紙用パルプに湿潤紙力増強剤、定着剤、更に必要に応じて乾燥紙力増強剤、サイズ剤などを適宜添加し、通常フリーネス500〜600mlC.S.Fで長網抄紙機、円網抄紙機などを使用して常法によって抄紙する。ここで、多層抄き原紙は、一定以上の耐水性を有していることが好ましい。耐水性を有していないと、貯蔵環境下の水分を吸収し、工程紙の変形の原因になるからである。本発明においては、多層抄き原紙はJIS P 8122で規定するステキヒトサイズ度が10秒以上であり、かつ、該多層抄き原紙が針葉樹晒クラフトパルプと広葉樹晒クラフトパルプとを主体として含むことが好ましい。ステキヒトサイズ度がこの範囲内であれば、溶剤バリアー性の点でより優れた工程紙が得られるからである。
【0014】
本発明において、更に多層に抄紙した原紙に無機顔料とバインダーとを主体とする塗工液を表裏に塗工し、防湿塗工層とする。無機顔料としては、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、サチンホワイト、二酸化チタン、プラスチックピグメントなどが挙げられる。そのなかでも、カオリンが好ましい。カオリンとしては、デラミネートカオリン、エンジニアードカオリン、焼成カオリン、構造化カオリンなどが挙げられる。ここで、デラミネートカオリンとは、積層状のカオリン粒子に剪断力をかけて機械的に薄板状に剥がしたものである。したがって、一般的なカオリンと比較してアスペクト比(粒子の、直径と厚さとの比率である。値が大きいほど、相対的に薄く直径の大きな粒子形状となる。アスペクト比=直径÷厚さ)が高く粒度分布が揃っている。さらに、エンジニアードカオリンとは、デラミネートカオリンの粗粒及び微粒を分級除去し、粒度分布を特定の狭い範囲に揃えたものである。本発明においては、アスペクト比40〜70のカオリンを使用する。アスペクト比がこの範囲内にないと、溶剤バリアー性とキュアー性が不十分となる。例えば、アスペクト比40〜70のシェイプエンジニアードカオリンを使用するのが好ましく、特に、アスペクト比50〜60のシェイプエンジニアードカオリンを使用するのが好ましい。
【0015】
バインダーとしては、合成ゴムラテックスを使用する。合成ゴムラテックスとしては、スチレン−ブタジエン系共重合体(SBRラテックス)、ポリブタジエン、メチルメタクリレート−ブタジエン系共重合体、2−ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン系共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン系共重合体、クロロプレンラッテクスなどが挙げられる。その中でも、本発明においては、ガラス転移温度(Tg)が0℃以上のスチレン−ブタジエン系共重合体ラッテクスを使用する。Tgがこの範囲内にないと、塗工面のべたつきによるブロッキングが発生し、溶剤バリアー性の点で劣る。特にゲル分率80%以上、ブタジエン/スチレン比が30〜40/50〜60であるスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスが好ましい。バインダーの比率は、無機顔料100質量%に対して10〜50質量%、好ましくは15〜35質量%とする。なお、ゲル分率がこの範囲内であれば、溶剤バリアー性の点でより優れた工程紙が得られる。ブタジエン/スチレン比がこの範囲内であれば、塗工層強度、溶剤バリアー性の点でより優れた工程紙が得られる。バインダー比率がこの範囲内であれば、溶剤バリアー性の点でより優れた工程紙が得られる。
【0016】
水溶性バインダーとしては、ポリビニルアルコール及び澱粉を使用する。澱粉としては、未加工澱粉又は加工澱粉のいずれでもよいが、加工澱粉が好ましい。加工澱粉としては、燐酸エステル化澱粉、尿素燐酸エステル化澱粉、酸化澱粉、カチオン化澱粉などが挙げられる。その中でも、コーティングバインダーとして作用する、尿素燐酸エステル化澱粉、酸化澱粉が好ましい。使用するポリビニルアルコールは、重合度1700、ケン化度98モル%以上のものが好ましい。
【0017】
さらに、保水剤、耐水化剤、流動性改良剤、防黴剤、防腐剤、消泡剤などの添加剤を加えることができる。耐水化剤としては、通常使用されるものでよく、例えば、尿素ホルマリン樹脂、炭酸ジルコニウムアンモニウム、ポリアミドポリ尿素系樹脂、変性アミン樹脂、変性ポリアミド系樹脂、メラミン・ホルムアルデヒド重縮合物などが挙げられる。
【0018】
調製した塗工液は、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロールコーター、コンマコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、バーコーター、グラビアコーター、スプレーコーターなどの公知の塗工機を用いた方法で多層抄き原紙に塗工する。片面当りの塗工量(固形分)は、5〜20g/m、好ましくは10〜15g/mとする。片面当りの塗工量がこの範囲内にないと、溶剤バリアー性の点で劣った工程紙しか得られないからである。
【0019】
塗工後の平滑化処理は、通常使用される平滑化装置、例えば、スーパーキャレンダー、マシンキャレンダーなどを使用して実施することができる。さらに、その後、シリコーンの塗布を行う。
【0020】
平滑化処理は、シリコーン塗布前において多層抄き原紙に塗工した面のベック平滑度(JIS P 8119)を250秒以下となるように行うとよい。それによって、シリコーン塗布後において、JIS P 8147で規定する紙及び板紙の摩擦係数試験方法に従い、おもり(金属製ブロック、質量1kg)にゴム板(質量9.2g)を貼り付けたときの軽剥離面(以下、「軽面」と記載することもある。)側の静摩擦係数を0.10〜0.40で、かつ、工程剥離紙原紙のベック平滑度を50秒以上400秒以下の範囲とすることができる。前記数値範囲内の工程剥離紙原紙であれば、プリプレグの製造工程において、ゴムロールと工程紙とのスリップを防止し、ライン速度の低下を起こさず、また摩擦が高すぎてシワが生じることがないからである。さらに、好ましくは、シリコーン塗布前において多層抄き原紙に塗工した面のベック平滑度を200秒以下とするとよい。それによって、シリコーン塗布後において、前記の軽剥離面側の静摩擦係数を0.15〜0.25で、かつ、工程剥離紙原紙のベック平滑度を50秒以上250秒以下の範囲とすることができる。また、本発明の別の実施形態においては、シリコーン塗布前において多層抄き原紙に塗工した面のベック平滑度を90秒以上200秒以下とするとよい。それによって、シリコーン塗布後において、前記の軽剥離面側の静摩擦係数を0.15〜0.20で、かつ、工程剥離紙原紙のベック平滑度を50秒以上250秒以下の範囲とすることができる。
【0021】
工程剥離紙原紙の製造においては、抄紙機と直結している装置で塗工するオンマシンと、抄紙機と切り離された装置で塗工するオフマシンがある。本実施形態に係る工程剥離紙原紙の製造方法では、前記塗工液の塗工をオフマシンにて行ってもよいが、生産効率の観点からオンマシンにて行うことが好ましい。
【0022】
本発明の工程剥離紙原紙は、前記した塗工層の上にシリコーン剥離層を設ける。シリコーンは、剥離及び摩擦効果を有するものであれば、特に限定されるものではなく、従来公知のシリコーン剥離剤を用いることができる。シリコーン剥離剤は、例えば、エマルジョン系、溶剤系、又は無溶剤系の塗布又は混合溶融押し出し物の形態で塗布することができる。硬化機構としては、例えば、ラジカル重合型、縮合型、付加型、架橋型、開環重合型などの反応を挙げることができる。
【0023】
シリコーン剥離剤の塗布量は特に限定されるものではないが、好ましくは0.1〜5.0g/m、より好ましくは0.3〜3.0g/mである。塗布量が0.1g/m未満になると、剥離不良となることがある。5.0g/mを超えると、コストがかかるだけでなく、剥離剤の硬化不良が発生することがある。
【0024】
〈実施例〉
本発明を実施例によって、更に詳細に説明するが、本発明は、勿論これに限定されるものではない。なお、特に断らない限り、例中の部、添加%は、それぞれ特に断らない限り固形分換算での質量部、質量%を示す。なお、物性の測定方法は、次のとおりである。
【実施例1】
【0025】
(原料スラリーの調製)
表層用、裏層用として、針葉樹晒クラフトパルプ(N−BKP)30部と広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)70部とを配合した後に、叩解機によってカナダ標準濾水度(CSF)550mlとなるように叩解処理した。この原料パルプ100部に対して固形分換算で、サイズ剤(AL−1200、中性ロジンサイズ剤、星光PMC社製)0.08部、硫酸バンド1部、紙力増強剤(ネオタック40T、カチオン澱粉、日本食品化工社製)1部、湿潤紙力増強剤(WS4002、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂、日本
食品化工社製)1部を含有するように添加して原料スラリーを調製した。
次に、中間層用として、針葉樹晒クラフトパルプ(N−BKP)30部と広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)70部とを配合した後に、叩解機によってカナダ標準濾水度(CSF)550mlとなるように叩解処理した。この中間層用の原料パルプ100部に対して固形分換算で、サイズ剤(AL−1200、中性ロジンサイズ剤、星光PMC社製)0.08部、硫酸バンド1部、紙力増強剤(ネオタック40T、カチオン澱粉、日本食品化工社製)1部、湿潤紙力増強剤(WS4002、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂、日本食品化工社製)1部を含有するように添加して原料スラリーを調製した。
(多層抄き原紙の抄紙)
次に、これらの原料スラリーを用いて、円網式5層抄合せ抄紙機にて表層、中層、裏層の3層抄合せで抄造し、サイズプレスにおいて濃度30%の表面紙力剤(ST−5000、ポリアクリルアマイド、星光PMC社製)を両面に3g/m(固形分)になるように塗布し、坪量71g/mの3層抄き原紙を抄紙した。
【0026】
(顔料塗工)
<塗工液の調製>
顔料分散液の調製は、次に示す配合とし、分散濃度を68%とした。
カオリン(イメリスミネラルズジャパン社製、商品名Contour 1500、
アスペクト比59) 100部
分散剤(日本触媒社製、商品名アクアリックDL−40、40%濃度品) 0.1部
水 47部
【0027】
塗工液の調製は、次に示す配合とし、分散濃度を68%とした。
顔料分散液(68%濃度) 100部
SBRラテックス(日本A&L社製、商品名PA−8029、47.7%濃度品、 Tg=7℃、ゲル分率84%) 20部
酸化澱粉(日本食品化工社製、商品名MS−3800、10%濃度品) 4.8部
ポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA−117K、10%濃度品) 2.5部
潤滑剤(サンノプコ社製、商品名SN―243、55%濃度品) 0.7部
耐水化剤(昭和高分子社製、商品名ミルベンSM−850、40%濃度品) 5部
消泡剤(日新化学研究所社製、商品名AF−1N、10%濃度品) 0.3部 水 68.6部
前記塗工液をエアナイフ塗工機にて片面当り10g/mの塗工量(固形分)で両面塗工を行った。前記塗工紙は金属ロールと弾性ロールとからなるキャレンダー装置にてキャレンダー加工して平滑化処理を行い、ベック平滑度(軽面)180秒の工程剥離紙原紙を得た。
【0028】
(剥離層の形成:シリコーン剥離剤塗布)
シリコーン剥離剤塗布液の調製は、次に示す配合とし、濃度を6%とした。
〈重剥離面(以下、「重面」と記載することもある。)用シリコーン剥離剤塗布液〉
重面シリコーン(信越シリコーン社製、商品名KS−830、30%濃度品) 100g
硬化触媒(信越シリコーン社製、商品名CAT−PL−50T、100%濃度品) 0.8g
トルエン 400g
〈軽面用シリコーン剥離剤塗布液〉
軽面シリコーン(信越シリコーン社製、商品名KS−778、30%濃度品) 100g
硬化触媒(信越シリコーン社製、商品名CAT−PL−50T、100%濃度品) 0.8g
トルエン 400g
前記塗工液をメイヤーバーにて片面当り0.7〜0.8g/mの塗工量(固形分)で重面と軽面とに塗工を行い、熱風循環式乾燥機にて105℃で1分間熱キュアーした。
【0029】
このようにして得られた工程剥離紙原紙において、坪量、厚さ、溶剤バリアー性、キュアー性、水中伸度、吸湿寸法変化率、ベック平滑度、摩擦係数の評価を行った。これらの評価は、23℃、50%RHで調湿後、次の方法に準拠して行い、その結果を表1に示した。
【0030】
[坪量]
JIS P 8124:1998で規定する「紙及び板紙−坪量測定方法」に従って測定した。
【0031】
[溶剤バリアー性]
赤インクで染色したメタノール溶液に船形に折ったサンプル(接触面積は5cm×5cm)の測定面を下にして10秒間浮かべ、すぐに取り出して布で残液を拭き取り、未染色部分の面積比率(%)を画像解析ソフト(ImageJ「http://rsb.info.nih.gov/ij/」)で測定する(測定面積は4cm×4cm)。
○:実用レベルである(未染色部分の面積比率が90%以上)。
×:実用レベルでない(未染色部分の面積比率が90%未満)。
【0032】
[キュアー性]
シリコーン剥離剤塗布面を指で数回こすり、くもり、脱落の有無を観察する。
○:くもり無し、脱落無し、実用レベルである。
×:くもり有り、脱落有り、実用レベルでない。
【0033】
[水中伸度]
JAPAN TAPPI紙パルプ試験法No.27:2000「紙及び板紙−水中伸度試験方法」に従って、幅15mm、長さ150mmの紙の横方向の試験片をフェンチェル伸縮度試験機にて、23℃の水に5分間浸漬させ、その伸びを%で評価した。
【0034】
[吸湿寸法変化率]
15cm×15cmの試験片の表面に、紙の横方向に10cmの線を引き、110℃の乾燥機中に2時間加熱後、23℃、湿度50%RHに24時間放置後の横方向の伸びの割合で評価した。
【0035】
[ベック平滑度]
JIS P 8119:1998で規定する「紙及び板紙−ベック平滑度試験機による平滑度試験方法」に従って測定した。
【0036】
[静摩擦係数]
静摩擦係数についてはJIS P 8147:2010で規定する「紙及び板紙−静及び動摩擦係数の測定方法」の水平法に従い、おもり(金属製ブロック、質量1kg)にゴム板(質量9.2g)を貼り付け、紙の流れ方向に10mm/分の試験速度で静摩擦係数を測定した。
【実施例2】
【0037】
酸化澱粉の代わりに尿素燐酸エステル化澱粉(日本食品化工社製、商品名MS−4600、10%濃度品)を使用した以外は実施例1と同様にした。
【実施例3】
【0038】
SBRラテックスを30部とした以外は実施例1と同様にした。
【実施例4】
【0039】
混合液をエアナイフ塗工機にて片面当り15g/mの塗工量(固形分)で両面塗工を行った以外は実施例1と同様にした。
【実施例5】
【0040】
シリコーン剥離剤塗布前の多層抄き原紙のベック平滑度を210秒とした以外は実施例1と同様にした。
【実施例6】
【0041】
シリコーン剥離剤塗布前の多層抄き原紙のベック平滑度を80秒とした以外は実施例1と同様にした。
【0042】
[比較例1]
顔料としてアスペクト比が30〜35のカオリン(イメリスミネラルズジャパン社製、商品名アストラプレート、アスペクト比30〜35)を用いた以外は実施例1と同様にした。
【0043】
[比較例2]
顔料としてアスペクト比が80〜100のカオリン(イメリスミネラルズジャパン社製、商品名バリサーフHX、アスペクト比80〜100)を用いた以外は実施例1と同様にした。
【0044】
[比較例3]
酸化澱粉、ポリビニルアルコール(PVA)を使用しない以外は実施例1と同様にした。
【0045】
[比較例4]
耐水化剤を使用しない以外は実施例1と同様にした。
【0046】
[比較例5]
混合液をエアナイフ塗工機にて片面当り3g/mの塗工量(固形分)で両面塗工を行った以外は実施例1と同様にした。
【0047】
[比較例6]
SBRラテックス(旭化成ケミカルズ社製、商品名B1335、Tg=−6℃、ブタジエン/スチレン比=46/18)を用いた以外は実施例1と同様にした。
【0048】
[比較例7]
バインダー比率を、無機顔料100質量%に対して5質量%とした以外は実施例1と同様にした。
【0049】
これらの結果を表1に示す。
【表1】

【0050】
表1の結果から明らかなように、本発明の工程剥離紙原紙であれば、多層抄き原紙の両面に防湿塗工層を有するので、吸湿寸法安定性が改善され、貯蔵運搬時にプリプレグから工程紙が浮き上がって剥がれるという現象を防止し、更に、プリプレグの製造工程において、ゴムロールと工程紙とのスリップを防止し、ライン速度の低下を起こさず、また摩擦が高すぎてシワが生じることのない工程剥離紙原紙を提供することができる。
【0051】
詳細には、特定の範囲のアスペクト比(40〜70)を有するカオリン顔料を使用した場合において、溶剤バリアー性、キュアー性ともに良好であり、ベック平滑度と静摩擦係数も好適な範囲内にある工程剥離紙原紙が得られた(実施例1〜6)。それに対して、カオリン顔料のアスペクト比が一定の範囲にない場合、少なくとも溶剤バリアー性とキュアー性について不備のある工程剥離紙原紙しか得られなかった(比較例1及び2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層抄き原紙の両面に、カオリン顔料、スチレン−ブタジエン系共重合体ラテックス、ポリビニルアルコール、及び澱粉を含み、前記カオリン顔料100質量部あたり10〜50質量部のガラス転移温度が0℃以上のスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスを含有する塗工層を片面当り5〜20g/mの塗工量で両面に塗設し、該塗工層の上に更にシリコーンを塗布することによって得られる工程剥離紙原紙であって、前記カオリン顔料のアスペクト比が40〜70であることを特徴とする前記工程剥離紙原紙。
【請求項2】
前記塗工層に、耐水化剤を更に含み、前記多層抄き原紙はJIS P 8122で規定するステキヒトサイズ度が10秒以上であり、かつ、該多層抄き原紙が針葉樹晒クラフトパルプと広葉樹晒クラフトパルプとを含むことを特徴とする請求項1に記載の工程剥離紙原紙。
【請求項3】
JIS P 8147で規定する紙及び板紙の摩擦係数試験方法に従い、おもり(金属製ブロック、質量1kg)にゴム板(質量9.2g)を貼り付けたときの軽剥離面側の静摩擦係数が0.10〜0.40の範囲であり、JIS P 8119で規定する紙及び板紙のベック平滑度試験機による軽剥離面側の平滑度が50秒以上400秒以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の工程剥離紙原紙。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコールが重合度1700、ケン化度98モル%以上であり、前記澱粉が酸化澱粉又は燐酸エステル化澱粉であり、前記スチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスがゲル分率80%以上であり、かつ、ブタジエン/スチレン比が30〜40/50〜60であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の工程剥離紙原紙。
【請求項5】
多層抄き原紙の両面に、カオリン顔料、スチレン−ブタジエン系共重合体ラテックス、ポリビニルアルコール、及び澱粉を含み、前記カオリン顔料100質量部あたり10〜50質量部のガラス転移温度が0℃以上のスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスを含有する塗工層を片面当り5〜20g/mの塗工量で両面に塗設し、更にシリコーンを塗布する工程剥離紙原紙を製造する方法であって、前記カオリン顔料のアスペクト比が40〜70であることを特徴とする前記方法。

【公開番号】特開2012−92470(P2012−92470A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242742(P2010−242742)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000241810)北越紀州製紙株式会社 (196)
【Fターム(参考)】