説明

プリンタヘッド用有機EL素子

【課題】 発光する光の混色を容易に抑制することができるプリンタヘッド用有機EL素子を提供する。
【解決手段】 プリンタヘッド用有機EL素子1は、基板2上に半透明反射膜3、陽極層4、ホール注入層5、ホール輸送層6、発光層7、電子輸送層8、陰極層(請求項に記載の反射膜に相当)9が積層されている。半透明反射膜3は、発光層7で発光された光を一部透過可能に構成され、陰極層9は、発光層7で発光された光を全て反射可能に構成されている。発光層7によって発光された光を共振することができるように、半透明反射膜3と陰極層9が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光紙や感光ドラムを感光させるためのプリンタヘッド用有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、感光紙や感光ドラム等の感光体を感光させて画像を印刷するための光プリンタが知られている。感光体を感光させる技術としては、レーザやLED(発光ダイオード)が知られている。
【0003】
レーザにより感光体を感光させる光プリンタの場合、レーザを感光体の幅だけ走査させて、感光体を感光させなければならない。従って、レーザを駆動させるための駆動手段が必要になり、光プリンタが大型化するといった問題があった。
【0004】
そこで、感光体の幅に対応させてLEDが配列されたプリンタヘッドを備えた光プリンタが知られている。このようにLEDが配列されたプリンタヘッドの場合、プリンタヘッドを感光体の幅に対応させて走査させる必要がないので、プリンタヘッドを駆動させるための駆動手段を省略することができる。これによって、光プリンタを小型化することができるといった利点があった。
【0005】
しかしながら、同一基板上にLEDを感光体の幅に合わせて配列する場合、大型の基板が必要になるため、基板の製造コストが増大するといった問題があった。また、複数の基板上にLEDを配列したLEDアレイを作製し、そのLEDアレイを感光体の幅に合わせて配列するといった技術も知られているが、LEDアレイ間のアライメントが困難であるといった問題や、LEDアレイ間にできる隙間によりLEDの高密度化が困難であるといった問題があった。
【0006】
そこで、ガラス等の安価な基板上に形成することができる有機EL素子が配列されたプリンタヘッドを備えた光プリンタが注目されている。
【0007】
有機EL素子を有する光プリンタでは、感光紙の幅に合わせてプリンタヘッドに配列された有機EL素子を発光させ、その発光された光によって感光紙を、例えば、RGBの3色に感光させて画像を印刷する。
【0008】
しかしながら、当然、有機EL素子は、単一の波長の光のみを発光するのではなく、発光スペクトルがある程度広がって、色が混じった光を発光する。このように発光スペクトルが広がった光により感光体を感光させると、発光スペクトルと同様に混じった色が印刷されることになる。
【0009】
そこで、特許文献1には、有機EL素子により発光された光の混色を抑制する技術が開示されている。
【0010】
この特許文献1の技術では、青色と緑色の光を発光する有機EL素子の照射方向に、カラーフィルターを配置して、このカラーフィルターによって混色成分の光を除去することができる。
【特許文献1】特開2005−67026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の技術では、カラーフィルターを別部品として用意しなければならないため、部品点数が増加して光プリンタの構成が複雑化するといった問題がある。また、カラーフィルターを別部品にすることによって、カラーフィルターと有機EL素子とのアライメントが必要になり、製造工程が複雑化するといった問題がある。
【0012】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、発光する光の混色を容易に抑制することができるプリンタヘッド用有機EL素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、発光層と、前記発光層で発光された光を全反射可能な反射膜と、前記発光層を挟んで前記反射膜と反対側に位置し、前記発光層で発光された光のうち一部を反射可能な半透明反射膜とを備え、発光した光を共振可能なように前記反射膜と前記半透明反射膜とが配置されていることを特徴とするプリンタヘッド用有機EL素子である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、反射膜と半透明反射膜との間で、発光層で発光された光を共振可能に構成したので、発光層によって発光された光のうち、所望の光を共振させて強めることができると共に、所望の光以外の光を弱めることができる。これによって、共振させた後、半透明反射膜から外部へと照射される光の混色を容易に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。図1は、本発明によるプリンタヘッド用有機EL素子(以下、有機EL素子という)の断面構造を示す。
【0016】
有機EL素子1は、基板2上に半透明反射膜3、陽極層4、ホール注入層5、ホール輸送層6、発光層7、電子輸送層8、陰極層(請求項に記載の反射膜に相当)9が積層されている。
【0017】
この有機EL素子1では、基板2側から光が発光するように構成されているので、基板2は、ガラス基板等の光を透過可能な透明基板が用いられている。
【0018】
半透明反射膜3は、Ag、Al、Cr又はこれらの化合物、若しくは、誘電体多層膜によって構成される。この半透明反射膜3は、約50%の反射率に構成されている。従って、半透明反射膜3によって、発光層5により発光された光のうち、半分の光は透過し、半分の光は陰極層9に向かって反射される。
【0019】
陽極層4は、発光層7により発光された光を透過可能な厚さ約100nmのITO等の透明電極からなる。
【0020】
ホール注入層5は、陽極層4から注入されるホールの注入率を向上させるものであり、銅フタロシアニン(CuPc)からなる。ホール輸送層6は、ホール注入層5を介して陽極層4から注入されたホールを発光層7に輸送するためのものであり、NPBからなる。
【0021】
発光層7は、注入された電子及び正孔によって光を発光可能に構成されている。電子輸送層8は、陰極層9から注入された電子を円滑に発光層7に輸送するためのものであり、Alからなる。
【0022】
陰極層9は、発光層7によって発光された光を全反射可能なAl等の反射膜からなる。
【0023】
ここで、ホール注入層5〜電子輸送層8からなる有機EL素子1の有機層10と、陽極層4とを合わせた厚みは、発光層7によって発光された光を共振可能な厚みに構成されている。具体的には、有機層10と陽極層4との厚みから算出される半透明反射膜3の上面から陰極層9の下面までの光学的距離(実際の距離に物質の屈折率をかけたもの)Lが、L=kλ/2n(反射面での位相のずれなし)、若しくは、L=kλ/4n(反射面で位相が半波長ずれ有り)のいずれかを満たすように構成されている。尚、kは整数、λは発光層7が発光する発光スペクトルのピークの波長とする。
【0024】
従って、発光層7によって発光された光は、半透明反射膜3と陰極層9との間で共振する。そして、その共振した光の一部が半透明反射膜3及び基板2を透過して、外部へと放出される。この外部へ放出された光によって感光紙を感光することにより、感光紙に画像を印刷することができる。
【0025】
このように半透明反射膜3と陰極層9との間で、発光層7によって発光された光を共振させることによって、発光スペクトルのピークの波長の光を強めることができると共に、それ以外の波長の光を弱めることができる。これによって、共振された後、基板2及び半透明反射膜3を透過して外部へ照射される光の多くを所望の波長の光によって構成することができ、それ以外の波長の光を減少させることができるので、光の混色を抑制することができる。
【0026】
次に、本発明に係る有機EL素子の効果を証明するために行った実験結果について説明する。
【0027】
最初に、混色が減少する効果について発光スペクトルを用いて証明する。
【0028】
まず、青色の光を発光可能な有機EL素子の実験結果について、図2を参照して説明する。図2において、実線は本発明による共振可能な有機EL素子の実験結果を示している。図2において、一点鎖線は光を共振不能に構成した比較例による有機EL素子の実験結果を示している。図2において、点線は共振可能な有機EL素子のシミュレーションによる結果を示している。尚、図2における実線の実験結果は、有機層10の厚みを約120nmとし、陽極層4の厚みを約100nmに構成した有機EL素子1を用いて実験した結果である。
【0029】
図2に示す本発明による発光スペクトル(実線)と比較例による発光スペクトル(一点鎖線)とを比較すれば明らかなように、約470nm以上の波長の発光スペクトルが大幅に減少しているのがわかる。このことから、約410nmのピーク波長以外の光による混色を大幅に減少できることがわかる。
【0030】
また、共振可能な青色の有機EL素子をモデルとしたシミュレーションでは、緑色の光との混色率が約3.5%と低い値になった。尚、ここでいう混色率とは、シミュレーションにより得られた発光スペクトルのうち、異なる色(青色の有機EL素子の場合は緑色及び赤色)にかかっている割合のことである。具体的には、青色の有機EL素子における緑色の混色率は、
混色率=(青色の発光スペクトルの面積×緑色のフィルタ特性)/青色の発光スペクトルの面積
となる。
【0031】
次に、緑色を発光させるための有機EL素子の実験結果について、図3を参照して説明する。図3において、実線は本発明による共振可能な有機EL素子の実験結果を示している。図3において、一点鎖線は光を共振不能に構成した比較例による有機EL素子の実験結果を示している。図3において、点線は共振可能な有機EL素子のシミュレーションによる結果を示している。尚、図3における実線の実験結果は、有機層10の厚みを約160nmとし、陽極層4の厚みを約100nmに構成した有機EL素子1を用いて実験した結果である。
【0032】
図3に示す本発明による発光スペクトル(実線)と比較例による発光スペクトル(一点鎖線)とを比較すれば明らかなように、約550nm以上の波長の発光スペクトルが大幅に減少していることがわかる。このことから、約520nmのピーク波長以外の光による混色を大幅に減少できることがわかる。
【0033】
また、共振可能な緑色の有機EL素子をモデルとしたシミュレーションでは、赤色の光との混色率が約3.0%、青色の光との混色率が約3.0%と低い値になった。
【0034】
次に、混色が減少する効果について色度座標を用いて証明する。
【表1】

【0035】
表1は、緑色及び青色の光を発光する有機EL素子について、共振しない比較例の有機EL素子と本発明に係る共振可能な有機EL素子とを作製してそれぞれの色度座標を調べたものである。また、参考として、液晶による色度座標も掲載している。図4は、表1に示す実験結果を色度座標上にプロットしたものであり、○が本発明による色度座標を示し、△が比較例による色度座標を示し、□が液晶による色度座標を示している。尚、ここでいう色度座標とは、実験によって得られた発光スペクトルを混色たものである。
【0036】
表1に示すように、緑色の光を発光する有機EL素子の場合、比較例の有機EL素子の色度座標は(0.24,0.43)となっているのに対し、本発明に係る有機EL素子の色度座標は(0.22,0.73)となっている。これにより、図4に示すように、本発明の有機EL素子は、比較例の有機EL素子に比べて混色の少ない深い緑色の光を発光していることがわかる。
【0037】
また、表1に示すように、青色の光を発光する有機EL素子の場合、比較例の有機EL素子の色度座標は(0.16,0.12)となっているのに対し、本発明に係る有機EL素子の色度座標は(0.14,0.08)となっている。これにより、図4に示すように、本発明の有機EL素子は、比較例の有機EL素子に比べて混色の少ない深い青色の光を発光していることがわかる。
【0038】
以上、上記実施形態を用いて本発明を詳細に説明したが、当業者にとっては、本発明が本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではないということは明らかである。本発明は、特許請求の範囲の記載により定まる本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく修正及び変更形態として実施することができる。従って、本明細書の記載は、例示説明を目的とするものであり、本発明に対して何ら制限的な意味を有するものではない。以下、上記実施形態を一部変更した変更形態について説明する。
【0039】
例えば、上記実施形態の各層を構成する材料は、上述したものに限定されるものではなく、適宜変更可能である。また、同様に、発光層7で発光した光を共振することができるならば、各層の厚みに関しても適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明によるプリンタヘッド用有機EL素子(以下、有機EL素子という)の断面構造を示す。
【図2】青色の光を発光可能な本発明に係る有機EL素子、比較例及びシミュレーションによる発光スペクトルを表す図である。
【図3】緑色の光を発光可能な本発明に係る有機EL素子、比較例及びシミュレーションによる発光スペクトルを表す図である。
【図4】青色及び緑色の光を発光可能な本発明に係る有機EL素子、比較例及びシミュレーションによる色度座標を表す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 有機EL素子
2 基板
3 半透明反射膜
4 陽極層
5 ホール注入層
6 ホール輸送層
7 発光層
8 電子輸送層
9 陰極層
10 有機層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光層と、前記発光層で発光された光を全反射可能な反射膜と、前記発光層を挟んで前記反射膜と反対側に位置し、前記発光層で発光された光のうち一部を反射可能な半透明反射膜とを備え、
発光した光を共振可能なように前記反射膜と前記半透明反射膜とが配置されていることを特徴とするプリンタヘッド用有機EL素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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