説明

プリンターおよびプリンターの制御方法

【課題】印刷ヘッドに貼り付いた記録媒体をより確実に剥がせるようにすること。
【解決手段】記録媒体2に印刷を行う印刷ヘッド5と、前記印刷ヘッド5に対向配置され、前記記録媒体2を搬送するプラテンローラー4と、前記記録媒体2を収容する収容部と、前記収容部を開閉するカバー22と、前記カバー22を閉位置から開位置に変位させる変位機構と、前記変位機構を駆動制御する制御部と、を備え、前記カバー22が閉位置にあるとき前記印刷ヘッド5と前記プラテンローラー4とが前記記録媒体を介して密着状態で対向配置され、前記カバー22が開位置にあるとき前記印刷ヘッド5と前記プラテンローラー4とは離れるよう構成され、前記制御部は、電源がオンされたときに、前記変位機構により前記カバー22を開位置に変位させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体を印刷ヘッドとプラテンローラーの間に挟んで押圧状態にして、プラテンローラーを回転駆動することにより記録媒体を搬送しながら印刷するプリンターおよびプリンターの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷ヘッドに対してプラテンローラーを対向配置し、印刷ヘッドとプラテンローラーとの間に記録媒体を挟み込んで搬送しながら印刷するプリンターにおいては、印刷ヘッドとプラテンローラーとの間に記録媒体が挟まれた状態で待機状態に入り、印刷ヘッドに記録媒体が押し付けられた状態のまま、長時間が経過してしまうことがある。印刷面にコーティングが施された記録媒体などでは、待機状態で長時間放置された場合に印刷ヘッドに記録媒体が貼り付いてしまうことがある。
【0003】
特許文献1には、印刷ヘッド(サーマルヘッド)への記録媒体(ラベル)の押し付け状態が長時間続いたことによる貼り付きを解消するための動作を行うサーマルプリンターが開示されている。このサーマルプリンターでは、所定時間以上印刷待ち状態が続いたときには、印刷ヘッドをプラテンローラー側に押し付けた状態のままプラテンローラーを正逆方向に回転駆動させる制御を行い、印刷ヘッドに貼り付いた記録媒体を搬送方向に沿って前後に繰り返し引っ張って剥がすようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−334858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、印刷ヘッドをプラテンローラー側に押し付けて静止させた状態で記録媒体を前後方向に動かそうとしており、せん断力によって記録媒体を印刷ヘッドから剥がす構成である。しかしながら、記録媒体が印刷ヘッドに強く貼り付いている場合、これを剥がすために必要なせん断力は、一般的なモーターによるプラテンローラーの回転駆動力、および、一般的なプラテンローラーと記録媒体との間の摩擦等による力の伝達能力の範囲を超えてしまい、プラテンローラーが滑りを起こして記録媒体を搬送できないおそれがある。従って、記録媒体を十分な力で引っ張ることができず、貼り付きを解消できないおそれがある。本発明の課題は、記録媒体が印刷ヘッドに強く貼り付いた場合においても容易に記録媒体を剥がすことができるプリンターおよびプリンターの制御方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]記録媒体に印刷を行う印刷ヘッドと、前記印刷ヘッドに対向配置され、前記記録媒体を搬送するプラテンローラーと、前記記録媒体を収容する収容部と、前記収容部を開閉するカバーと、前記カバーを閉位置から開位置に変位させる変位機構と、前記変位機構を駆動制御する制御部と、を備え、前記カバーが閉位置にあるとき、前記印刷ヘッドと前記プラテンローラーとが前記記録媒体を介して密着状態で対向配置され、前記カバーが開位置にあるとき前記印刷ヘッドと前記プラテンローラーとは離れるよう構成され、前記制御部は、電源がオンされたときに、前記変位機構により前記カバーを開位置に変位させることを特徴とするプリンター。
【0008】
本適用例によれば、プリンターの電源オン時にカバーを強制的に開いて、印刷ヘッドとプラテンローラーとの押圧状態を解除することにより、ユーザーは記録媒体をセットし直すこととなり、記録媒体の貼り付き状態を解消することができる。
【0009】
[適用例2]バッテリーで動作可能な計時部を備え、前記制御部は、前記プリンターの電源がオンされたときに、前記プラテンローラーによる前記記録媒体の搬送動作が行われていない待機時間が第1所定時間を越えている場合に、前記変位機構を駆動して前記カバーを開位置に変位させることを特徴とする上記のプリンター。
【0010】
記録媒体が印刷ヘッドに貼り付いていると想定される場合にのみカバーを開かせることにより、ユーザーが記録媒体をセットし直す負担を軽減することができる。
【0011】
[適用例3]前記制御部は、前記プラテンローラーによる前記記録媒体の搬送動作が行われていない前記待機時間が前記第1所定時間以下である第2所定時間を越えた場合に、前記プラテンローラーを正逆回転させて前記記録媒体を往復動させることを特徴とする上記のプリンター。
【0012】
プラテンローラーの正逆回転動作によって、印刷ヘッドへの記録媒体の貼り付きを解消することにより、カバーを開く回数を低減することができる。
【0013】
[適用例4]前記制御部は、前記第2所定時間を経過する毎に前記記録媒体を往復動させる動作を所定回数実施した後さらに前記第2所定時間経過した場合に、前記変位機構を駆動して前記カバーを開位置に変位させることを特徴とする上記のプリンター。
【0014】
電源オン時のみではなく、電源オン状態であっても待機時間が長時間続きプラテンローラーの正逆回転だけでは印刷ヘッドへの記録媒体の貼り付きを解消することができない恐れのある場合であっても、カバーを開くことでより確実に貼り付き状態を解消することができる。
【0015】
[適用例5]前記印刷ヘッドを前記プラテンローラー側に押し付ける付勢手段と、前記印刷ヘッドを、前記プラテンローラー側に押し付けた状態を保ったまま、前記プラテンローラーによって押圧される位置がずれるよう移動可能に支持するとともに、前記プラテンローラーの正回転または逆回転に基づき、前記印刷ヘッドを所定の方向に移動可能に支持するヘッド支持機構を備えたことを特徴とする上記のプリンター。
【0016】
この構成により、印刷ヘッドに記録媒体が貼り付いた場合に、記録媒体が貼り付いた部位(押圧されている部位)をプラテンローラーによる押圧から開放することができる。例えば、印刷ヘッドの移動可能方向に向けて何らかの力を作用させることにより、記録媒体および印刷ヘッドを一体となって移動させ、記録媒体が貼り付いた部位をプラテンローラーによる押圧位置から外すことができる。押圧から開放されると、印刷ヘッドから記録媒体を剥がし起こす方向に記録媒体を動かすことが可能になる。記録媒体を剥がし起こす場合には、せん断力のみによって剥がす場合よりも小さい力で記録媒体が剥がれる。
【0017】
また、記録媒体が貼り付いた状態で印刷ヘッドを移動させることによって記録媒体をたるませたり、通常の搬送経路から外れた位置に移動させることにより、印刷ヘッドから記録媒体を剥がし起こす力を作用させることもできる。従って、容易に、且つ、高い成功率で記録媒体の貼り付きを解消することができる。
【0018】
本発明は、プリンターの制御方法としても把握することが適当であり、その場合においても同様の作用、効果を奏する。
【0019】
[適用例6]記録媒体に印刷を行う印刷ヘッドと、前記印刷ヘッドに対向配置され、前記記録媒体を搬送するプラテンローラーと、前記記録媒体を収容する収容部と、前記収容部を開閉するカバーと、前記カバーを閉位置から開位置に変位させる変位機構と、前記変位機構を駆動制御する制御部と、を備え、前記カバーが閉位置にあるとき前記印刷ヘッドと前記プラテンローラーとが前記記録媒体を介して密着状態で対向配置され、前記カバーが開位置にあるとき前記印刷ヘッドと前記プラテンローラーとは離れるよう構成され、電源がオンされたときに、前記変位機構により前記カバーを開位置に変位させることを特徴とするプリンターの制御方法。
【0020】
[適用例7]前記プラテンローラーによる前記記録媒体の搬送動作が行われていない待機時間を計測し、前記プリンターの電源がオンされたときに、前記待機時間が第1所定時間を越えている場合に、前記変位機構を駆動して前記カバーを開位置に変位させることを特徴とする上記のプリンターの制御方法。
【0021】
[適用例8]前記待機時間が前記第1所定時間よりも短い第2所定時間を越えた場合に、前記プラテンローラーを正逆回転させて前記記録媒体を往復動させることを特徴とする上記のプリンターの制御方法。
【0022】
[適用例9]前記第2所定時間を経過する毎に前記記録媒体を往復動させる動作を所定回数実施した後さらに前記第2所定時間経過した場合に、前記変位機構を駆動して前記カバーを開位置に変位させることを特徴とする上記のプリンターの制御方法。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態のサーマルプリンターの外観図。
【図2】サーマルプリンターの主要部分の断面構成を示す説明図。
【図3】サーマルヘッドの斜視図。
【図4】印刷ヘッドの貼り付き解消動作を示す説明図。
【図5】印刷ヘッドの貼り付き解消動作のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明で参照する図面では、説明および図示の便宜上、部材ないし部分の縦横の縮尺を実際のものとは異なるように表す場合がある。
【0025】
(プリンターの全体構成)
本実施形態に係るプリンターの全体構成について、図1および図2を参照して説明する。図1は本実施形態のサーマルプリンターの外観図、図2はサーマルプリンターの主要部分の断面構成を示す説明図である。
【0026】
図1、図2に示すように、サーマルプリンター1(プリンター)は、長尺の記録紙2(記録媒体)をプリンター内の搬送経路3に沿って搬送しながら印刷するものであり、搬送経路3上の所定位置に配置されたプラテンローラー4と、このプラテンローラー4に対向配置されたサーマルヘッド5(印刷ヘッド)を備えている。記録紙2は、ロール状に巻かれケース21内の収容部に収容されている。ケース21にはロール状の記録紙2を装填するための開口が設けられており、この開口はカバー22によって開閉される。カバー22は、不図示のロック機構により開口を閉じる閉じ位置にロックされる。この状態でケース21の開口部の前端縁とカバー22の前端との間に、記録紙2が排出される排出口23が形成される。
【0027】
また、ケース21の上面右側端部には、ロックを解除してカバー22を開くためのオープンボタン24が設けられている。本実施形態のサーマルプリンター1では、サーマルヘッド5はケース21側に設けられ、プラテンローラー4はカバー22側に設けられており、カバー22を開くことによって、プラテンローラー4はサーマルヘッドから離れるよう構成されている。そして、カバー22を開きケース21の開口から収容部に装填された記録紙2は、カバー22を閉じると、紙入り口1aから、サーマルヘッド5とプラテンローラー4との間、サーマルヘッド5およびプラテンローラー4の上方にある紙出口1bを通り、排出口23に至る搬送経路3に沿ってセットされる。記録紙2としては、長尺状の感熱紙や、長尺状の台紙の上に感熱紙のラベルを貼り付けたラベル紙などを用いることができる。
【0028】
また、ケース21には、カバー22の開閉動作を行う変位機構が設けられている。変位機構は、例えば、電磁ソレノイド式のアクチュエーター等の駆動源が好適に用いられ、制御部からの制御信号を受信することによって、上記ロックを解除するとともにカバー22を開閉することができる。
【0029】
紙入り口1aからサーマルヘッド5およびプラテンローラー4に至る上流側の搬送経路部分には、記録紙2を案内するための紙案内部材6(案内部材)が設けられている。本実施形態では、サーマルヘッド5とプラテンローラー4による記録紙2の挟み込み位置Pの真下よりもわずかにプラテンローラー4側(図2の左側)に紙入り口1aが配置されている。従って、紙案内部材6による案内経路は、紙入り口1aに対して右上方向に位置する挟み込み位置Pに向かって傾斜して延びている。紙案内部材6を通った記録紙2は、プラテンローラー4に掛け渡されて上向きに方向転換している。
【0030】
プラテンローラー4には、搬送モーター7の回転駆動力が図示しない歯車等の伝達機構を介して伝達される。プラテンローラー4が正方向(図2の矢印A方向)に回転すると、この回転に伴って記録紙2が紙出口1bに向かって正方向に搬送される。また、逆方向(矢印Aの反対方向)にプラテンローラー4が回転すると、記録紙2が紙入り口1aに向かって逆送される。ここで、本明細書では、紙出口1bに向かって記録紙2を搬送する搬送方向(印刷時の記録紙2の搬送方向:図2の矢印B方向)を基準搬送方向とする。
【0031】
(印刷ヘッドおよびその支持構造)
次いで、本実施形態に係る印刷ヘッドおよびその支持構造について、図2および図3を参照して説明する。図3はサーマルヘッドの斜視図である。
【0032】
図2、図3に示すように、サーマルヘッド5は、プラテンローラー4の側を向いているヘッド本体部8と、ヘッド本体部8の背面側において上下方向に延びている支持フレーム9を備えている。ヘッド本体部8の上端寄りの部分には、記録紙2を加熱して印刷を行うための発熱部8aが設けられている。サーマルヘッド5は、印刷を行うときには、ヘッド本体部8における発熱部8aの部分をプラテンローラー4に正対させ、発熱部8aとプラテンローラー4との間に記録紙2を挟み込んだ状態を形成する。
【0033】
支持フレーム9は、ヘッド本体部8の下方に向かって延びている部分、すなわち、発熱部8aよりも基準搬送方向の上流側に向かって延びている部分に形成された切り欠き部10を備えている。この切り欠き部10は、搬送経路3が設けられている側に向かって開口しており、ヘッド本体部8におけるプラテンローラー4による押圧部位に近い側、すなわち、発熱部8aに近い側が浅く、発熱部8aから遠い側が深い形状となっている。切り欠き部10の底部には直線状のガイド面11が設けられ、ガイド面11の下端には湾曲形状の回転支持面12が連続して形成されている。ここで、ガイド面11はヘッド本体部8に対して傾斜して延びており、その傾斜方向は、回転支持面12の側(図2の下側)に向かうに従ってヘッド本体部8の背面側(図2の右側)に後退する方向となっている。
【0034】
ヘッド本体部8をプラテンローラー4に対峙させるようにサーマルヘッド5を配置すると、サーマルプリンター1の本体フレームに支持されている回転軸13が切り欠き部10の開口側に面した状態となる。回転軸13は、プラテンローラー4の回転軸線と平行に設けられている。サーマルヘッド5は、ヘッド本体部8の背面側に設けられたヘッド押圧バネ14(付勢部材)によってプラテンローラー4の側に付勢されている。ヘッド押圧バネ14の付勢力により、ヘッド本体部8がプラテンローラー4に押し付けられると共に、切り欠き部10の内側面に回転軸13が押し付けられた状態が形成される。
【0035】
図2に示すように、プラテンローラー4に発熱部8aを正対させると、回転軸13は、切り欠き部10の下端に位置し、回転支持面12に内接した状態となる。このとき、回転軸13の外周面に回転支持面12を摺接させてサーマルヘッド5を回転させることが可能である。すなわち、回転軸13を中心としてサーマルヘッド5が回転可能に支持された状態が形成されている。
【0036】
また、回転軸13は、サーマルヘッド5が記録紙2の基準搬送方向の上流側もしくは下流側(図2の上向き方向もしくは下向き方向)に引っ張られた場合には、ガイド面11に沿ってスライドすることにより、ヘッド押圧バネ14の付勢力に対向してサーマルヘッド5を支持しながら、サーマルヘッド5をガイドして、引っ張り方向に応じた方向に移動させる。つまり、サーマルヘッド5は、回転軸13およびガイド面11を設けたことにより、ガイド面11に沿って回転軸13がスライドするときの動作範囲内で回転軸13に対して相対移動可能に支持されている。
【0037】
(記録紙の貼り付き状態解消動作)
次いで、上述の印刷ヘッドに記録紙が貼り付いた場合の解消動作について、図4および図5を参照して説明する。図4は印刷ヘッドにおける記録紙の貼り付き状態解消動作を示す説明図であり、図4(a)は印刷ヘッドと記録紙との貼り付きが発生した状態、図4(b)は印刷ヘッドを移動させて貼り付き部分を押圧から開放した状態、図4(c)は貼り付き解消後に元の位置まで印刷ヘッドを戻した状態を示している。図5は貼り付き状態解消動作のフローチャートである。
【0038】
本実施形態では、記録紙2に印刷を行うときには、図2および図4(a)に示すように、回転軸13が回転支持面12に内接する位置にサーマルヘッド5が位置決めされ、発熱部8aがプラテンローラー4における最もサーマルヘッド5の側に突出した部分に正対している。そして、ヘッド押圧バネ14により、回転軸13を中心としてサーマルヘッド5がプラテンローラー4の側に旋回する方向に付勢され、発熱部8aがプラテンローラー4との間に記録紙2を挟んだ状態でプラテンローラー4側に押し付けられている。サーマルプリンター1の印刷待機状態では、この状態が維持されている。このため、印刷待機状態が長時間続くと、発熱部8aを中心とする被押圧領域Cに押し付けられていた記録紙2が、プラテンローラー4側からの押圧力により、被押圧領域Cに貼り付いた状態が形成される。
【0039】
図5に示すように、サーマルプリンター1の制御部は、印刷開始命令などの記録紙2の搬送を伴う動作の実行命令を受信した場合には、その時点での待機時間T(印刷待機状態の継続時間)が、予め設定した限度時間T0を越えているか否かを判断する(ステップS1)。そして、限度時間T0を越えて印刷待機状態が継続していた場合には(ステップS1:Yes)、ステップS2に進む。一方、待機時間Tが限度時間T0以内であった場合には(ステップS1:No)、ステップS2〜S3を省略してステップS4に進み、印刷動作などの指示された動作を開始する。
【0040】
サーマルプリンター1の制御部は、ステップS2において、記録紙2を基準搬送方向とは逆向きに所定量搬送するための搬送動作を行う。例えば、サーマルヘッド5によって形成される印刷ドットの24ドット分の長さに相当する搬送量だけ記録紙2を逆送するために、プラテンローラー4を24ドット分の逆送りに相当する回転量だけ逆回転させる。このようにすると、被押圧領域Cに貼り付いている記録紙2の部分に、基準搬送方向の上流側に向かう搬送力が作用し、記録紙2を介してサーマルヘッド5が基準搬送方向の上流側に引っ張られる。
【0041】
サーマルヘッド5は、ガイド面11に沿って回転軸13がスライド可能であるため、プラテンローラー4に対して相対移動可能な取り付け状態となっている。従って、被押圧領域Cに貼り付いた記録紙2を介して上流側に引っ張られると、回転軸13をガイド面11に沿ってスライドさせながら、全体として引っ張り方向と同じ側に移動する。このように、プラテンローラー4に対してサーマルヘッド5を相対移動させると、押圧位置が被押圧領域Cから基準搬送方向の下流側に向かってずれてゆく。ステップS2の逆送量は、図4(b)に示すように、被押圧領域Cがプラテンローラー4による押圧位置から完全に外れるまでサーマルヘッド5を移動させることが可能な搬送量である。従って、ステップS2を行うことにより、被押圧領域Cが上流側に移動して押圧から完全に開放される。
【0042】
また、サーマルヘッド5は、ステップS2において移動するとき、ヘッド本体部8の上部が押し付けられているプラテンローラー4、および、ガイド面11に押し付けられている回転軸13によって動きが規制されている。この規制により、サーマルヘッド5は、引っ張り力と完全に同じ移動方向には移動せず、全体として上部をプラテンローラー4側に傾ける方向(図4(b)では反時計回りの方向)にわずかに旋回しながら、ガイド面11と平行な右斜め下向きに下降する方向に移動することとなる。従って、被押圧領域Cは通常の搬送経路3を外れた位置に移動し、被押圧領域Cに貼り付いた記録紙2もまた、通常の搬送経路3を外れた位置に移動する。これにより、被押圧領域Cの上流側において、記録紙2がヘッド面から所定の立ち上がり角度Eをなすように斜めに立ち上がる姿勢となり、被押圧領域Cから記録紙2を剥がし起こす力(図4(b)のF方向に作用する力)が作用する。よって、従来のせん断力によって剥がす方法よりも容易に記録紙2が剥がれる。
【0043】
更に、本実施形態では、上流側の搬送経路3には、プラテンローラー4の手前まで延びる紙案内部材6が設けられ、記録紙2をガイドしている。従って、被押圧領域Cが通常の搬送経路3を外れた位置に移動した場合には、紙案内部材6から被押圧領域Cまでの狭い区間において、記録紙2は、図4(b)において破線で示すたわみ経路Dに沿ってたわんだ状態となる。このたわみ状態は、記録紙2がヘッド面から立ち上がる部分において、立ち上がり角度Eが大きいたわみ状態であり、被押圧領域Cから記録紙2を剥がし起こす力が大きいたわみ状態である。つまり、この状態を形成することにより、記録紙2を高い成功率で剥がすことができる。記録紙2の立ち上がり角度Eは、サーマルヘッド5を図4(a)の位置から図4(b)の位置まで移動させる過程で徐々に増大するため、記録紙2を剥がし起こす力は徐々に増大する。よって、記録紙2をスムーズに剥がすことができる。
【0044】
なお、紙案内部材6を省略した場合には、上流側で記録紙2の経路が規制されないため、記録紙2が大きくゆるやかにたわむことが可能になる。従って、記録紙2の立ち上がり角度Eがそれほど大きくならない。但し、剥がし起こす力は作用するため、従来のせん断力によって剥がす方法よりは容易に剥がすことができる。また、被押圧領域Cの移動先が通常の搬送経路3を大きく外れていない場合においても、逆送による記録紙2のたわみは生じるため、上記の場合ほど大きくはないものの、剥がし起こす力は作用する。よって、従来のせん断力のみによる方法よりも容易に記録紙2を剥がすことができる。
【0045】
サーマルプリンター1の制御部は、ステップS2の動作が完了した後には、ステップS3に進み、ステップS2の逆送量と同一の搬送量だけ記録紙を正方向(基準搬送方向)に搬送する。例えば、プラテンローラー4を24ドット分の正送りに相当する回転量だけ正回転させる。これにより、図4(c)に示すように、記録紙2が待機前の位置に戻り、記録紙2の印刷開始位置がプラテンローラー4による挟み込み位置Pに位置決めされる。また、基準搬送方向に搬送される記録紙2に押し付けられているサーマルヘッド5が記録紙2と共に下流側に引っ張られ、ステップS2で移動した移動経路を逆向きに移動して、発熱部8aとプラテンローラー4との間に記録紙2を挟んだ状態が形成される。なお、このとき、ガイド面11が傾斜しているため、ヘッド押圧バネ14の付勢力が、サーマルヘッド5全体をガイド面11の方向に沿って斜め左上側にスライドさせる力として作用する。以上により、サーマルヘッド5が復帰したら、ステップS4に進み、印刷動作などの指示された動作を開始する。
【0046】
なお、サーマルプリンター1は、電源がオフにされた場合にも待機時間Tを計時できるようリアルタイムクロックを備えている。リアルタイムクロックはバッテリーで動作可能な計時部として機能する。
【0047】
以上詳述したように、これらの実施形態によれば、以下に示す効果が得られる。
(1)本実施形態のサーマルプリンター1は、ヘッド本体部8に貼り付いた記録紙2をプラテンローラー4による押圧から開放して剥がし起こす方向の力を作用させることが可能な、サーマルヘッド5の支持機構を備えている。そして、これにより、容易且つ確実に貼り付き状態を解消することができる。また、この支持機構によるサーマルヘッド5の可動範囲内でサーマルヘッドを移動させる貼り付き状態解消動作を、プラテンローラー4の正逆回転動作のみで実施することができる。従って、サーマルヘッドを移動させるための駆動源を新たに設ける必要がなく、低コストで貼り付き解消を実現できる。
【0048】
(変形例)
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、上述した実施形態に種々の変更や改良などを加えることが可能である。変形例を以下に述べる。
【0049】
(1)上記実施形態では、基準搬送方向の上流側に記録紙2を搬送してプラテンローラー4による押圧位置をずらしていたが、基準搬送方向の下流側に記録紙2を搬送して、貼り付き部位を押圧から開放することも可能である。例えば、サーマルヘッド5および回転軸を、プラテンローラー4による押圧位置を基準として図2の上下方向を逆転させて配置すればよい。このような構成により、基準搬送方向への搬送によって貼り付き状態を解消することができる。また、このとき、紙出口1bの手前に紙案内部材を設けて、上記実施形態の紙案内部材6と同様に、記録紙2を剥がし起こす力を積極的に作用させることも可能である。
【0050】
(2)上記実施形態では、貼り付き状態解消動作として、逆送動作および正方向への搬送動作を1回ずつ行うものであったが、逆送動作および正方向への搬送動作を複数回行うようにしてもよい。これにより、強く貼り付いている記録紙2をより確実に剥がすことができる。
【0051】
(3)上記実施形態では、搬送経路3の側に開口した切り欠き部10を設けて、この底部に回転軸13をスライドさせるガイド面11を設けていたが、切り欠き部10の代わりに、ガイド面11と同一方向に延びる長穴などを形成して、この長穴に回転軸13を取り付ける構成としても良い。
【0052】
(4)上記実施形態のステップS3におけるサーマルヘッド5の復帰をより確実にするために、予め、サーマルヘッド5を上側(基準搬送方向の下流側)に引っ張る付勢部材などを設けておいてもよい。
【0053】
(5)上記実施形態は、発熱部8aを中心として記録紙2がサーマルヘッド5に貼り付くものであったが、貼り付き位置(記録紙2の挟み込み位置)は発熱部8aが設けられた部位に限定されるものではない。
【0054】
(6)上記実施形態は、本発明をサーマルプリンター1に適用したものであったが、他のプリンターにも適用できる。すなわち、本発明は、プラテンローラーと印刷ヘッドとの間に記録媒体を挟んで押圧し、印刷待機時にはこの押圧状態のまま放置されることによって記録媒体が印刷ヘッドに貼り付く可能性がある任意のプリンターに適用できる。
【0055】
(7)上記実施形態では、記録紙2を搬送するための搬送力によってサーマルヘッド5を引っ張って移動させていたが、記録紙2の搬送手段とは別の駆動源によってサーマルヘッド5を移動させてプラテンローラー4との当接位置をずらすように構成してもよい。
【0056】
(8)上記実施形態では、記録紙2の搬送を伴う動作の実行命令を受信した時点での待機時間Tに応じて、図5に示す貼り付き状態解消動作を行うものであったが、実行命令の受信に拘わらず待機時間が所定時間を経過する毎に貼り付き状態解消動作を行うよう構成してもよい。
【0057】
(9)上記実施形態では、リアルタイムクロックを設けて、サーマルプリンター1の電源オフ状態を含む待機時間Tに基づいて、図5に示す貼り付き状態解消動作を行うものであったが、さらに、サーマルプリンター1の電源がオンされるときにカバー22を強制的に開き、記録紙2を再セットさせるよう構成してもよい。記録紙2の再セットの際に、貼り付き状態を解消することができる。
【0058】
この場合に、カバー22を開かせる条件としては、(a)電源オン時点で常にカバーオープン、(b)電源オン時点での待機時間Tが限度時間T0またはT0よりも長い限度時間T1(T0<T1)を越えている場合にカバーオープンなど、記録紙2の品質やサーマルプリンター1の使用環境等に応じて適宜に設定することができる。
また、電源オン時点に限らず、上記変形例(8)に示す電源オン状態における貼り付き解消動作を所定回数実施した後の次の解消動作実施タイミングで、その解消動作に代えてカバー22を強制的に開かせるようにしてもよい。すなわち、プラテンローラー4の正逆回転による貼り付き解消動作を所定回数実施する毎にカバー22を強制的に開くようにしてもよい。
【0059】
(10)上記実施形態では、サーマルヘッド5をケース21側に設けプラテンローラー4をカバー22側に設けていたが、プラテンローラーをケース21側に設けサーマルヘッド5をカバー22側に設けてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…サーマルプリンター(プリンター)、1a…紙入り口、1b…紙出口、2…記録紙(記録媒体)、3…搬送経路、4…プラテンローラー、5…サーマルヘッド(印刷ヘッド)、6…紙案内部材(案内部材)、7…搬送モーター、8…ヘッド本体部、8a…発熱部、9…支持フレーム、10…切り欠き部、11…ガイド面、12…回転支持面、13…回転軸、14…ヘッド押圧バネ、21…ケース、22…カバー、23…排出口、24…オープンボタン、A…正方向、B…基準搬送方向、C…被押圧領域、D…たわみ経路、E…立ち上がり角度、F…剥がし起こす力、P…挟み込み位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に印刷を行う印刷ヘッドと、
前記印刷ヘッドに対向配置され、前記記録媒体を搬送するプラテンローラーと、
前記記録媒体を収容する収容部と、
前記収容部を開閉するカバーと、
前記カバーを閉位置から開位置に変位させる変位機構と、
前記変位機構を駆動制御する制御部と、を備え、
前記カバーが閉位置にあるとき前記印刷ヘッドと前記プラテンローラーとが前記記録媒体を介して密着状態で対向配置され、
前記カバーが開位置にあるとき前記印刷ヘッドと前記プラテンローラーとは離れるよう構成され、
前記制御部は、電源がオンされたときに、前記変位機構により前記カバーを開位置に変位させることを特徴とするプリンター。
【請求項2】
請求項1に記載のプリンターにおいて、
バッテリーで動作可能な計時部を備え、
前記制御部は、前記プリンターの電源がオンされたときに、前記プラテンローラーによる前記記録媒体の搬送動作が行われていない待機時間が第1所定時間を越えている場合に、前記変位機構を駆動して前記カバーを開位置に変位させることを特徴とするプリンター。
【請求項3】
請求項2に記載のプリンターにおいて、
前記制御部は、前記プラテンローラーによる前記記録媒体の搬送動作が行われていない前記待機時間が前記第1所定時間以下である第2所定時間を越えた場合に、前記プラテンローラーを正逆回転させて前記記録媒体を往復動させることを特徴とするプリンター。
【請求項4】
請求項3に記載のプリンターにおいて、
前記制御部は、前記第2所定時間を経過する毎に前記記録媒体を往復動させる動作を所定回数実施した後さらに前記第2所定時間経過した場合に、前記変位機構を駆動して前記カバーを開位置に変位させることを特徴とするプリンター。
【請求項5】
請求項3または4に記載のプリンターにおいて、
前記印刷ヘッドを前記プラテンローラー側に押し付ける付勢手段と、
前記印刷ヘッドを、前記プラテンローラー側に押し付けた状態を保ったまま、前記プラテンローラーによって押圧される位置がずれるよう移動可能に支持するとともに、
前記プラテンローラーの正回転または逆回転に基づき、前記印刷ヘッドを所定の方向に移動可能に支持するヘッド支持機構を備えたことを特徴とするプリンター。
【請求項6】
記録媒体に印刷を行う印刷ヘッドと、
前記印刷ヘッドに対向配置され、前記記録媒体を搬送するプラテンローラーと、
前記記録媒体を収容する収容部と、
前記収容部を開閉するカバーと、
前記カバーを閉位置から開位置に変位させる変位機構と、
前記変位機構を駆動制御する制御部と、を備え、
前記カバーが閉位置にあるとき前記印刷ヘッドと前記プラテンローラーとが前記記録媒体を介して密着状態で対向配置され、
前記カバーが開位置にあるとき前記印刷ヘッドと前記プラテンローラーとは離れるよう構成され、
電源がオンされたときに、前記変位機構により前記カバーを開位置に変位させることを特徴とするプリンターの制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載のプリンターの制御方法において、
前記プラテンローラーによる前記記録媒体の搬送動作が行われていない待機時間を計測し、
前記プリンターの電源がオンされたときに、前記待機時間が第1所定時間を越えている場合に、前記変位機構を駆動して前記カバーを開位置に変位させることを特徴とするプリンターの制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載のプリンターの制御方法において、
前記待機時間が前記第1所定時間よりも短い第2所定時間を越えた場合に、前記プラテンローラーを正逆回転させて前記記録媒体を往復動させることを特徴とするプリンターの制御方法。
【請求項9】
請求項8に記載のプリンターの制御方法において、
前記第2所定時間を経過する毎に前記記録媒体を往復動させる動作を所定回数実施した後さらに前記第2所定時間経過した場合に、前記変位機構を駆動して前記カバーを開位置に変位させることを特徴とするプリンターの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−206369(P2012−206369A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73588(P2011−73588)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】