説明

プリンタ及びプリンタの制御方法

【課題】 搬送誤差を極力低減し、高速且つ高精度なプリントを行なうことができるラインプリンタを低コストに実現する。
【解決手段】 回転ローラの回転情報を取得する第1の取得手段と、メディアの表面を検出して信号処理によって前記メディアの移動情報を取得する第2の取得手段を備える。回転ローラの少なくとも1回転分について、第1の取得手段で取得した情報と第2の取得手段で取得した情報とを対応付けて補正データとしてメモリに記憶する。そして、第1の取得手段で回転情報を取得し、該取得した回転情報に対応した補正データをメモリから読み出して、ライン型プリントヘッドの記録タイミングを補正してプリントを行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メディアの幅方向全域にわたるライン型プリントヘッドを持つプリンタ及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メディアを搬送させながら画像を形成するプリンタにおいては、搬送ローラによるメディアの搬送精度が悪いとプリント位置ズレとなり画質劣化を引き起こすので、その影響を軽減するための様々な工夫がなされている。
【0003】
特許文献1に開示の装置では、搬送ローラにロータリエンコーダを設けると共に、搬送されるメディアの表面の動きを検出するレーザドップラ速度センサを設ける。そして、これら2つの検出手段の検出に基づいてライン型プリントヘッドからインクを吐出するタイミングを調整することで、搬送ローラに偏心があったとしても高精度な画像形成を実現するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−6655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プリントラボのように大量プリントする分野では、画質を維持しながらプリント速度をいかに引き上げるかが課題である。特許文献1に開示の装置で用いるレーザドップラ速度センサは、その測定原理上、測定した情報を一旦保管して信号処理を行って結果を出力する。そのため、複雑な信号処理に要する検出遅延が律速となって、リアルタイム補正制御の高速化を妨げて、プリント速度(メディアの移動速度)の高速化が困難でなる。
【0006】
本発明は上述の課題の認識に基づいてなされたものである。本発明の目的は、搬送誤差を極力低減し、高速且つ高精度なプリントを行なうことができるラインプリンタを低コストに実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決する本発明のプリンタは、回転ローラを有しメディアを第1の方向に搬送する搬送手段と、前記第1の方向と交差する第2の方向において使用するメディアの最大サイズ以上の長さに渡って形成されたライン型プリントヘッドと、前記回転ローラの回転情報を取得する第1の取得手段と、前記メディアの表面を検出して信号処理によって前記メディアの移動情報を取得する第2の取得手段と、前記回転ローラの少なくとも1回転分について、前記第1の取得手段で取得した情報と前記第2の取得手段で取得した情報とを対応付けて補正データとして記憶するメモリと、前記第1の取得手段で回転情報を取得し、該取得した回転情報に対応した前記補正データを前記メモリから読み出して、前記ライン型プリントヘッドの記録タイミングを補正して前記メディアにプリントを行なうように制御する制御手段とを有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、プリント中の信号処理量を大幅に減らすことが可能で、高速な搬送への対応が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】プリンタの主要部の構成を示す斜視図
【図2】図1の構成の模式的な断面図
【図3】制御系の全体構成を示すブロック図
【図4】メディアセンサの構成を示す図
【図5】メディアセンサで画像処理によって移動情報を検出する手順を説明する図
【図6】メディアの搬送手順を説明するための図
【図7】実施例1の動作手順を示すフローチャート
【図8】搬送に伴うメディア搬送誤差の変化を示すグラフ図
【図9】実施例2の動作手順を示すフローチャート
【図10】実施例3の動作手順を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示する。ただし、この実施の形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、この発明の範囲をそれらのみに限定する主旨のものではない。以下、ライン型プリントヘッドを用いたインクジェット方式のプリンタを例に説明する。本明細書において「プリンタ」とは、プリント機能に特化した専用機に限らず、プリント機能とその他の機能を複合した複合機や、メディア上に画像やパターンを形成する製造装置等も含むものとする。また、本明細書では、紙、プラスチックシート、フィルム等のシート状のプリントメディアを「メディア」と称する。
【0011】
図1は本発明の実施形態に係るプリンタの主要部の構成を示す斜視図、図2はその模式的な断面図である。ロール状に巻かれた連続シートであるメディアMは、その巻き中心がホルダ6によって保持され回転自在となっている。ホルダ6に保持されたメディアMは、先端から引き出されて給送ローラ3(図1では不図示)によって供給される。そして、パルスモータを含む駆動源から駆動力が与えられた回転ローラである搬送ローラ1と、従動回転するピンチローラ2のローラ対によって挟持される。搬送ローラ1の回転によってメディアMはプリント中に一定速度で連続搬送される。排出ローラ4と排出ローラ5はそれぞれプリント後のメディアMをプリント部から排出する。
【0012】
なお、本実施形態では、メディアMを挟持する搬送ローラ1によってメディアを搬送するものであるが、これに限らない。少なくとも1つに回転駆動力が与えられた複数の回転ローラの間にベルトを張り渡して、ベルトの上にメディアを保持してベルトの移動によってメディアを搬送する、いわゆるベルト搬送系としても良い。
【0013】
搬送ローラ1の回転情報(回転量、回転速度など)を取得する第1の取得手段の一部として、コードホイール7、ロータリエンコーダ8、原点センサ9が設けられている。コードホイール7は、円周上に等間隔ピッチの多数のバーからなるパターンと共に1箇所に原点パターンが形成されており、搬送ローラ1と同軸に取り付けられて搬送ローラ1と共に回転する。ロータリエンコーダ8は、コードホイール7に形成されたパターンの各バーを光学的に読み取るフォトインタラプタを有し、フォトインタラプタの出力信号パルスからコードホイール7の回転量(回転角)を検出する。原点センサ9はコードホイール7の原点パターンを検出する。第1の取得手段は、原点センサ9の出力タイミングを原点として、ここからロータリエンコーダ8のパルス数をカウントすることで、コードホイール7のアブソリュート回転位相を検出することが可能である。ロータリエンコーダ8のフォトインタラプタの出力パルス数から検出できるのは相対的な回転角度だが、原点センサ9の検出を基準としてロータリエンコーダ8のパルス数をカウントすれば、絶対的な回転角度、即ちアブソリュート回転位相を検出することができる。このように、センサを2つ設けることでアブソリュートエンコーダを構成している。後述するように、本実施形態のプリンタの動作には、搬送ローラ1のアブソリュート回転位相(以降、単に「回転位相」という)の情報が必要である。
【0014】
また、メディアの一部を撮像して画像処理によってメディアの移動情報を取得する第2の取得手段の一部として、メディアセンサ10が設けられている。メディアセンサ10は、排出ローラ4と排出ローラ5の間の設置され、ライン型プリントヘッド11を構成する複数のラインヘッドのうち最も下流側(プリント時の搬送方向の下流側)のラインヘッドよりも下流側においてメディアの表面の一部を撮像する。メディアセンサ10は撮像素子を有し、メディアMと非接触でメディアMの移動情報を検出する。本実施例では、メディアセンサ10は、プリント面と同じ側の表面を撮像しているが、プリント面とは反対側の表面を撮像するようにしてもよい。詳細については後述する。
【0015】
ライン型プリントヘッド11は、複数のインク色に対応した複数のラインヘッドがメディアの搬送方向(Y方向:第1の方向)に沿って平行に並べられユニット化されている。例えば、C、M、Y、PC、PM、Kの6色であれば、6本のラインヘッドが並んでいる。各色のラインヘッドは、搬送されるメディアMの表面(プリント側の面)に微小な間隔を持って対向し固設されている。各色のラインヘッドは、メディアの搬送方向と交差する方向(X方向:第2の方向)において使用するメディアの最大サイズ以上の長さに渡って複数(例えば4800個)のインクノズル(記録素子)が形成されている。本実施形態では、第2の方向は第1の方向と直交するものであるが、これに限らず直交に対して若干の角度で傾けて配置しても良い。また、傾き角度を調整する機構を設けて、各ノズル間のピッチを微調整することもできる。各色のラインヘッドは、継ぎ目無く単一のノズルチップで形成されたものであってもよいし、分割されたノズルチップが一列又は千鳥配列のように規則的に並べられたものであってもよい。
【0016】
ライン型プリントヘッド11は、熱エネルギを利用してインクノズルからインクを吐出させるインクジェット方式を採用したものであり、各インクノズル毎に発熱素子を備えている。なお、これに限らず、ピエゾ素子を用いる方式、静電素子を用いる方式、MEMS素子を用いる方式など、別の方式のインクジェット方式を採用するようにしてもよい。また、インクジェット方式に限らず、別のプリント方式、例えば熱昇華型あるいは熱転写方等のサーマルプリント方式の記録素子(発熱素子)がライン状に形成されたラインヘッドを用いることも可能である。
【0017】
PEセンサ12(ペーパエッジセンサ)(図1では不図示)は、給送ローラ3とピンチローラ2の間の位置においてメディアMのエッジを検出するために設けられている。給送ローラ3でメディアMが給送された際に、PEセンサ12でメディアの先端を検出することで、メディアMの給送が正常であるかを判定することができる。また、PEセンサ12がメディアMの先端部を検知したタイミングを利用して、メディアMのプリント開始位置を確定することができる。また、プリントの最終段階において、PEセンサ12でメディアMの後端を検出することで、現在プリントを行っているメディア上の位置を割り出すことができる。また、連続シートをページ単位ごとに切断するためのカッタ13が、ライン型プリントヘッド11の下流側の搬送経路の途中に設けられている。コントローラ100は、第1の取得手段の信号処理及び第2の取得手段の信号処理を行なう他、プリンタ全体の各種制御を司る制御手段である。
【0018】
図3は制御系の全体構成を示すブロック図である。コントローラ100はプリンタの主コントローラであり、CPU101及びメモリ102を備え、メモリ102はROM、RAMの他、後述する補正データを記憶するための書き換え可能な不揮発性メモリを有する。ホスト装置110は、プリンタの外部に接続されて画像の供給源となる装置である。ホスト装置110は、プリントに係る画像等のデータの作成や処理等を行うコンピュータでもよいし、画像読み取り用のリーダ部等の形態であってもよい。ホスト装置110から供給される画像データやその他信号はインタフェース(I/F)111を介してコントローラ100と送受信可能な構成となっている。操作部120は入力デバイス121及び表示器122を備える。センサ部130は装置の状態を検出するためのセンサ群である。上述したロータリエンコーダ8、原点センサ9、メディアセンサ10、PEセンサ12の信号が入力される。ヘッドドライバ140はプリントデータに応じてライン型プリントヘッド11の各ラインヘッドの素子を個別駆動する。また、ヘッドドライバ140には、プリントデータを複数の素子のそれぞれに対応させて整列させるシフトレジスタ、適宜のタイミングでラッチするラッチ回路、駆動タイミング信号に同期して素子を作動させる論理回路素子が含まれる。更にヘッドドライバ140には、メディア上でのドット形成位置を調整するために吐出タイミングを適切に設定するタイミング設定部等が含まれる。モータドライバ170は搬送ローラ1の駆動源であるパルスモータ40を駆動するためのである。パルスモータ40の駆動により搬送ローラ1が回転駆動される。モータドライバ160は給送モータ35を駆動するためのであり、給送モータ35の駆動によって給送ローラ3が回転駆動される。
【0019】
ここで、メディアセンサ10の構成及び検出原理について説明する。図4はメディアセンサ10の構成を示す図である。図4(a)において、メディアセンサ10には、発光素子41と、発光素子41から照射されメディアMによって反射された光を光学系43を介して受光する撮像素子42が配設された読取部を有する。使用する部品が少なく光学系43も簡素であるため、レーザドップラ速度センサに較べると非常に小型且つ安価という特徴がある。撮像素子としては、CCDやCMOSのような、複数の光電変換素子が配列されたラインセンサ又はエリアセンサである。例えば撮像素子42は縦横10μmの1画素が、図4(b)のように横(X方向)11画素×縦(Y方向)20画素の2次元に配列されている。光学系43と撮像素子42は光学倍率が1倍となるように構成されており、1画素で検出される領域はメディアの縦横10μmの領域に相当する。撮像素子42で撮像された画像データはアナログフロントエンド44にて所定の処理が施された後、コントローラ100へ転送される。メディアセンサ10で取得される画像データは、メディアMの部分的な表面状態が特徴づけられるような画像情報である。メディアMの表面形状(例えば紙の繊維パターン)により現れる陰影であってもよいし、予めメディア表面に形成されているパターンであってもよい。
【0020】
図5はメディアセンサで画像処理によって移動情報を検出する手順を説明する図である。画像処理はコントローラ100において行なうが、メディアセンサ10の中に画像処理を行なう信号処理部を内蔵させてもよい。基本的な処理の考え方は、2つの異なるタイミングT1とT2においてメディアセンサ10から得られた複数の画像データ同士を、パターンマッチング処理で比較してメディアMの移動情報(移動量及び移動速度)を求めるものである。図5(a)は、時刻T1においてメディアセンサ10が搬送中のメディア表面を撮像して得られた第1画像データである。コントローラは、画像データに対して所定の位置に所定の大きさ(ここでは5画素×5画素)を有する相関窓領域Aを設定する。相関窓領域A内にはメディアMの表面に存在する特徴的なパターンP1(ここでは十字パターン)が存在していることが分かる。コントローラは相関窓領域Aの画像データを抽出しマッチングパターンとして記憶する。図5(b)は、時刻T1の後に異なる時刻T2においてメディアセンサ10が搬送中のメディア表面を撮像して得られた第2画像データである。コントローラは、第2画像データに対して対相関窓領域Aと同じサイズ(5画素×5画素)のマッチング領域を順次移動させてサーチし、記憶されているマッチングパターンと最も類似する位置を検出する。第1画像データにおける十字パターンP1は、第2画像データにおいては十字パターンP2のように搬送方向下流側に12画素分だけ移動していることが分かる。コントローラは、第1画像データにおける相関窓領域Aの位置と、第2画像データにおいてマッチングパターンと最も類似する位置との画素数差(12画素)を求める。そして、時刻T1とT2の間にメディアMが移動した移動量L(=12画素×10μm=120μm)を演算して取得する。更に、時刻T1とT2の時間差よりメディアMの移動速度(移動速度=移動距離÷時刻T1とT2の時間差)を算出する。その後も、時刻T2の後に、T1とT2の間の時間差と同じ時間差を置いた時刻T3で第3画像データを取得して、第2画像データと第2画像データとを用いて同様の処理を行なう。以下同様に繰り返していく。こうして得られた移動情報(移動量と移動速度)が第1の取得手段の出力となる。
【0021】
図6はプリント動作時のメディアの搬送手順を示すものである。図6(a)はプリント前の初期状態を示し、メディアMはロール状に巻かれた状態でホルダ6に保持され、メディアの先端は給送ローラ対3に挟持されている。プリントが開始されると、給送ローラ3の回転によってメディアMが搬送され、メディア先端がPEセンサ12で検出されると、搬送ローラ1が回転を始める。図6(b)はメディア先端が搬送ローラ1とピンチローラ2に挟持された状態を示す。搬送ローラ1の回転によってメディアMはライン型プリントヘッド11の下まで搬送される。このとき、搬送ローラ1の回転情報はロータリエンコーダ8により検出されている。図6(c)は、メディア先端がライン型プリントヘッド11によるプリント位置を過ぎて排出ローラ4で挟持された状態を示す。ここでプリントを開始するが、メディアセンサ10はまだメディアの移動を検出することはできない。更にメディアMが進行すると、図6(d)に示すように、メディア先端はメディアセンサ10の検出位置を過ぎて排出ローラ5で挟持される。
【0022】
(実施例1)
次に、図7のフローチャートを用いて、記録タイミングの補正の手順について説明する。図7のステップS101で処理を開始して、ステップS102で給送ローラ3でメディアの給送を行なう(図6(a)参照)。ステップS103では、PEセンサ12がメディア先端を検出して検出出力がONになるまで待つ。ステップS104では、搬送ローラ1の回転駆動を開始して、搬送ローラ1とピンチローラ2でメディアを挟持してメディアを搬送する(図6(b)参照)。ステップS105では、原点センサ9によりコードホイール7の原点位置を計測する。続いて、ステップS106で、第1ページのプリント動作を開始する(図6(c)参照)。プリント開示時点では、メディア先端はメディアセンサ10に到達していないので、メディアセンサ10による移動情報の取得は行なうことはできない。この領域では、ロータリエンコーダ8を出力信号パルスを基準にインクの吐出制御を行う。メディア先端がメディアセンサ10の撮像位置まで到達すると、ステップS107でメディアセンサ10はメディアMの移動情報を計測開始する(図6(d)参照)。少なくとも搬送ローラ1の一回転分の区間でメディアセンサ10及びロータリエンコーダ8の計測を行なったら、ステップS108でメディアセンサ10の計測を終了する。
【0023】
続いて、ステップS109で、ロータリエンコーダ8とメディアセンサ10のそれぞれの計測結果を比較する。ステップS110で、ロータリエンコーダ8と原点センサ9(第1の取得手段)から取得された搬送ローラ1の回転位相と、メディアセンサ10(第2の取得手段)で取得した移動情報とを対応付けて補正データとしてコントローラのメモリに記憶する。この詳細について以下説明する。
【0024】
図8は、ロータリエンコーダ8とメディアセンサ10のそれぞれの検出出力の関係に基づく、搬送に伴うメディア搬送誤差の変化を示すグラフである。横軸は搬送距離、縦軸はメディア搬送誤差(設計上の値に対する搬送量の誤差)である。横軸の座標0位置が原点センサ9で検出された原点位置であり、ロータリエンコーダ8のパルス数が横軸の単位となる。搬送中にロータリエンコーダ8が連続して出力するパルス間隔は、設計上の所定の単位移動距離に対応する。原点とそこからのパルス数カウント値(=回転量)の2つの情報により回転位相が得られる。
【0025】
計測の際には、搬送中に、ロータリエンコーダ8が1パルスカウントアップするごとに、前のパルスの発生タイミングとの間の時間内に、メディアMが現実にどれだけ移動したかの移動量をメディアセンサ10で検出する。図8のグラフの実線は、このメディアセンサ10の検出値と設計上の所定の単位移動距離との差分(メディア搬送誤差)をプロットしたもの得たものである。同図から分かるように、搬送距離に応じてメディア搬送誤差は等周期で増減して変動し、搬送ムラが起きている。これは、搬送ローラ1の回転軸が本来の中心位置から偏心しているために生じる現象である。つまり、搬送ローラを等角速度で回転させても、偏心があると搬送ローラがメディアに接する部位の周速度(=メディア搬送速度)は周期的に変動して、これが搬送ムラを引き起こすのである。また、図8のグラフでは、メディアセンサの出力の曲線(実線)は全体的に搬送誤差がマイナス方向にシフトしている。これは搬送ローラ1とメディアとの間に僅かなスリップが生じて、実際の搬送距離が本来の搬送距離よりも小さくなってしまったからである。なお、図8は、搬送ローラ1の外周が真円の場合の例であるが、搬送ローラ1が製造誤差などの理由で真円でない場合には、周期的な増減に更に非真円による局所的な誤差が上乗せされた複雑なグラフ曲線となる。
上述の図8の特性を考慮して、コントローラは、少なくとも搬送ローラ1回転の間の各プロット値(メディア搬送誤差)を、原点0からのエンコーダパルスのカウント値(回転位相)と1対1で対応付けて、データテーブルの形で補正データとしてコントローラのメモリに記憶させる。
【0026】
別法として、設計値に対する搬送量の誤差ではなく、メディアセンサ10の出力値そのものを、原点0からのエンコーダパルスのカウント値と1対1で対応付けて、データテーブルの形で補正データとしてメモリに記憶させるようにしてもよい。あるいは、メディア搬送誤差を吐出タイミングのずらし時間(必要補正量)に換算して、データテーブルの形で補正データとしてメモリに記憶させるようにしてもよい。いずれにせよコントローラは、第1の取得手段で取得した情報(回転位相)と、第2の取得手段で取得した情報(メディア搬送誤差、メディアセンサの出力値、又は吐出タイミングのずらし時間)とを対応付けて補正データとしてメモリに記憶させるように制御する。この補正データのデータテーブルを参照することで、回転位相に応じた適切な補正値を取得することが出来る。
【0027】
図7に戻って、ステップS111では、第1ページのプリントを終了させる。第1ページのプリントでは、ロータリエンコーダ8の出力に基づいて、各ラインヘッドからのインク吐出タイミングを決定する。
【0028】
続く、ステップS112では、第1ページに次ぐ第2ページ以降のプリントを行なう。この際、ステップS110でメモリに記憶した補正データを用いて、各ラインヘッドのインク吐出タイミング(記録タイミング)に補正を加える。原点からのロータリエンコーダ8の出力パルス数を元に、このパルス数に対応付けて記憶された補正データをメモリから読み出す。読み出した補正データに基づいて、各ラインヘッドのインク吐出タイミングを本来のタイミングからずらして、メディア上のインク着弾位置が理想的な位置に近づくようにする。図8の例では、搬送距離Aの位置においては誤差が−20μmであり、例えば搬送速度vが100mm/sの場合は、0.02/100=0.0002[秒]だけインク吐出タイミングを遅らせるように制御すれば良い。これにより、第2ページ以降のプリントについては、搬送ローラ1の偏心や形状精度に拠らず非常に高い精度での画像形成が可能となる。このようにコントローラは、プリントの際には第1の取得手段で取得した情報(回転位相)に対応してメモリに記憶されている補正データに基づいて、ライン型プリントヘッド11の記録タイミングを補正してプリントを行なうように制御する。第2ページ以降の全てのページのプリントが済んだら、ステップS113に移行して終了する。
【0029】
なお、搬送ローラ1の駆動源にパルスモータを用いた場合は駆動パルスのパルス数が搬送距離に対応する。本実施例の第1の取得手段は、搬送ローラ1の回転状態をロータリエンコーダ8で検出するものたが、パルスモータの駆動パルスから搬送ローラ1の回転情報を取得するようにしてもよい。これは後に説明する実施例2、実施例3においても同様の置き換えが可能である。
【0030】
補正データを記憶するメモリは書換え可能な不揮発性メモリであり、プリンタの電源がオフでもメモリの記憶内容が保持される。そのため、一旦プリントを終えて電源を再投入した際にも、前の補正データは残っているので、最初の第1ページから補正データを用いたプリントが可能となる。
【0031】
なお、プリンタの使用経過に伴って搬送ローラの磨耗や取付精度の変化が生じて最適な補正データが変化する場合がある。また、メディアの種類、厚みあるいはサイズによってメディアと搬送ローラ1との間の摩擦係数が異なるので、使用するメディアによって最適な補正データは変わり得る。それを考慮するなら、所定のイベントで補正データを再取得してメモリを上書きすることが好ましい。所定のイベントの例としては、例えばプリンタの電源投入や新しいメディアをホルダ6に装着し直す毎などが挙げられる。電源投入が所定イベントの場合は、電源投入後に最初の第1ページで補正データを取得してメモリの内容を更新して記憶させる。これにより、搬送系の経時変化に拠らず最適な補正データに更新することができるので常に良好なプリントが可能となる。また、メディアの装着し直しが所定イベントの場合は、メディアをホルダ6に装着し直したことを自動的に検知して、最初の第1ページで補正データを取得してメモリの内容を更新して記憶させる。これにより、種々のメディアに対して最適な補正データに更新することができるので常に良好なプリントが可能となる。たとえ未知のメディアであっても、そのメディアに対する計測を行なうことで最適な補正データを設定することができる。
【0032】
(実施例2)
上述の実施例では、第1ページのプリントでは補正データを取得するだけで、記録タイミングの補正は行なわない。連続大量印刷するラインプリンタでは、装置起動時の第1ページはテストプリントの場合が多いので、第1ページの画質が第2ページ以降に較べて劣っていても通常は問題ない。もし、第1ページから高精度なプリントを求めるのであれば、以下のようにすれば良い。
【0033】
図9は本実施の動作手順を示すフローチャートである。ステップS201からステップS205までは、上述の図7のフローチャートにおけるステップS101からステップS105と同一である。
【0034】
続くステップS206で、メディアセンサ10はメディアMの移動情報を計測開始する。ステップS207で、搬送ローラ1の少なくとも一回転分の区間でロータリエンコーダ8の出力パルスに基づいてメディアセンサ10で計測を行ない、ステップS08でメディアセンサ10の計測を終了する。続いて、ステップS209で、ロータリエンコーダ8とメディアセンサ10のそれぞれの計測結果を比較する。ステップS210で、ロータリエンコーダ8と原点センサ9(第1の取得手段)から取得された搬送ローラ1の回転位相と、メディアセンサ10(第2の取得手段)で取得した移動情報とを対応付けて、データテーブルの形で補正データとしてメモリに記憶する。この詳細について上述の実施例1と同じなので説明は省略する。
【0035】
次いで、ステップS211では、搬送ローラ1の回転方向を逆転させて、メディアMを図6(b)に示すプリント前の待機位置まで送り戻す。そして、ステップS212でプリントを開始する。これにより第1ページも補正データを用いてプリントを行なう。第1ページ以降も最終ページまで全てのページのプリントを、メモリの補正データを用いて記録タイミングを補正しながら行う。全てのページのプリントが済んだら、ステップS213に移行して終了する。
【0036】
このように実施例2では、プリント動作開始前に計測動作を行い補正データを取得するので、常に最初のページから良好な画質のプリントが可能となる。
【0037】
(実施例3)
実施例2の変形例として、第2ページ以降のプリントシーケンスの途中にも、補正データの取得とメモリ更新を行なうようにしてもよい。図10は本実施の動作手順を示すフローチャートである。ステップS301からステップS310までは、上述の図9のフローチャートにおけるステップS201からステップS210と同一である。
【0038】
続くステップS311では、メモリの補正データを用いて第1ページのプリントを行なう。ステップS312では、第2ページ以降の各ページに必要な補正データを取得する。前のページのプリントを行なう際に、搬送ローラの少なくとも1回転分の補正データを取得してメモリを更新する。そして、ステップS313では最新の補正データを用いてプリントを行なう。ステップS314では、全ページのプリントが終了するまで各ページについて同様にプリントを繰り返す。全てのページのプリントが済んだら、ステップS315に移行して終了する。
【0039】
このように実施例3では、連続してプリントする各ページ毎に補正データを更新するので、連続大量プリントを行なっている途中に最適な補正データが変動したとしても、それ対応してよりきめ細かい補正が可能となる。なお、実施例1の形態においても同様に、連続してプリントする各ページ毎に補正データを更新するようにしてもよい。
【0040】
なお、以上の実施例1〜実施例3において、第2の取得手段として、メディアセンサ10をドップラ速度センサに置き換えることも可能である。予めドップラ速度センサを用いて補正データをメモリに記憶して、補正データをメモリから読み出して記録タイミングを補正してプリントを行なうように制御する。上述したように、ドップラ速度センサは物体表面の移動状態を検出するために複雑な信号処理で検出遅延が生じるが、本発明を適用することで検出遅延の課題を克服して従来にないプリント速度(メディアの移動速度)の高速化を実現することがきる。好ましくは、補正データを取得する際には、ドップラ速度センサの検出遅延に応じた通常よりも遅い搬送速度で搬送して確実に計測を行なう。そして、メモリの補正データを用いてプリントする際には、通常速度(最高速度)で搬送するように制御する。
【0041】
なお、実施例1〜実施例3においても、補正データの取得時の搬送速度がプリント時の搬送速度よりも小さくなるように制御することは有効である。メディアセンサ10においても撮像で取得した画像データの信号処理が必要であり、搬送速度が小さければそれだけ時間的な余裕があるため、信号処理系の処理能力が小さいものでも済むためである。
【0042】
以上説明してきた各実施例によれば、メディアの表面を検出して信号処理によってメディアの移動情報を取得して、搬送ローラの誤差の補正データを得る。そして、搬送ローラの少なくとも1回転分について予め補正データを求めてメモリに記憶して、メモリの値を基にライン型プリントヘッドの記録タイミングを制御する。これにより、プリント中のリアルタイムの信号処理量を大幅に減らすことが可能で、非常に高速な搬送への対応が可能となる。また、補正データの取得時の搬送速度をプリント時の搬送速度よりも小さくすれば、第2の取得手段の信号処理の負荷の軽減され、高価なCPUを使わずにより低コスト化を実現することができる。また、第2の取得手段に小型で簡素な構造のメディアセンサを用いれば、プリンタの低コスト化且つ小型化を実現する。
【0043】
また、仮に、補正データを搬送ローラ1の回転速度制御にフィードバックした場合には、搬送ローラの駆動源のモータの回転速度制御に指令値を与えてから、駆動モータが目標の回転速度にまで変化するのにタイムラグを生じる。高速なラインプリンタほどメディアの移動速度が大きいので、前記タイムラグによる搬送遅れの影響はより顕著になる。これに対して、本実施例のようにラインヘッドの記録タイミングにフィードバックすれば、搬送速度制御に較べてタイムラグはほとんど無いため、より高速なプリンタを実現することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 搬送ローラ
2 ピンチローラ
3 給送ローラ
4 排出ローラ
5 排出ローラ
6 ホルダ
7 コードホイール
8 ロータリエンコーダ
9 原点センサ
10 メディアセンサ
11 ライン型プリントヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転ローラを有し、メディアを第1の方向に搬送する搬送手段と、
前記第1の方向と交差する第2の方向において使用するメディアの最大サイズ以上の長さに渡って形成されたライン型プリントヘッドと、
前記回転ローラの回転情報を取得する第1の取得手段と、
前記メディアの表面を検出して信号処理によって前記メディアの移動情報を取得する第2の取得手段と、
前記回転ローラの少なくとも1回転分について、前記第1の取得手段で取得した情報と前記第2の取得手段で取得した情報とを対応付けて補正データとして記憶するメモリと、
前記第1の取得手段で回転情報を取得し、該取得した回転情報に対応した前記補正データを前記メモリから読み出して、前記ライン型プリントヘッドの記録タイミングを補正して前記メディアにプリントを行なうように制御する制御手段と
を有することを特徴とするプリンタ。
【請求項2】
前記メディアがロール状の連続シートであることを特徴とする、請求項1に記載のプリンタ。
【請求項3】
前記制御手段は、前記補正データの前記メモリへの記憶は、第1ページのプリント中又はプリント前に行ない、前記第1ページに次ぐ第2ページのプリントの際には前記第1ページで記憶された補正データを用いてプリントを行なうように制御することを特徴とする、請求項1又は2に記載のプリンタ。
【請求項4】
前記制御手段は、前記補正データの前記メモリへの記憶は、所定のイベントに基づいて更新するように制御することを特徴とする、請求項1から3のいずれか記載のプリンタ。
【請求項5】
前記所定のイベントはプリンタの電源投入であり、電源投入後に最初の第1ページで前記補正データを取得して前記メモリに記憶させることを特徴とする、請求項4記載のプリンタ。
【請求項6】
前記所定のイベントはメディアの装着し直しであり、メディアを装着し直したら最初の第1ページで前記補正データを取得して前記メモリに記憶させることを特徴とする、請求項4記載のプリンタ。
【請求項7】
前記制御手段は、前記補正データの前記メモリへの記憶は、連続してプリントする各ページ毎に更新するように制御することを特徴とする、請求項1から6のいずれか記載のプリンタ。
【請求項8】
前記メモリは書換え可能な不揮発性メモリを有し、プリンタの電源がオフでもメモリの記憶内容が保持されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか記載のプリンタ。
【請求項9】
前記第1の取得手段は、前記回転ローラの回転状態を検出するロータリエンコーダを有することを特徴とする、請求項1から8のいずれか記載のプリンタ。
【請求項10】
前記第1の取得手段は、前記ロータリエンコーダと原点センサを有し、前記回転ローラのアブソリュート回転位相を検出することが可能であり、前記制御手段は前記アブソリュート回転位相と前記第2の取得手段で取得した情報とを対応付けて前記補正データを前記メモリに記憶することを特徴とする、請求項9に記載のプリンタ。
【請求項11】
前記回転ローラに駆動力を与えるパルスモータを有し、前記第1の取得手段はパルスモータを駆動ための駆動パルスから前記回転ローラの回転情報を取得することを特徴とする、請求項1から8のいずれか記載のプリンタ。
【請求項12】
前記制御手段は、前記補正データを得る際にメディアを搬送する搬送速度が、前記記録タイミングを補正してプリントを行なう際にメディアを搬送する搬送速度よりも小さくなるように制御することを特徴とする、請求項1から11のいずれか記載の制御方法。
【請求項13】
前記第2の取得手段は撮像素子を持ったメディアセンサを有し、異なるタイミングで取得した複数の画像データを比較して前記メディアの移動情報を検出することを特徴とする、請求項1から12のいずれか記載のプリンタ。
【請求項14】
前記第2の取得手段はドップラ速度センサを有し、移動するメディアの表面の移動情報を検出することを特徴とする、請求項1から12のいずれか記載のプリンタ。
【請求項15】
前記第2の取得手段は、前記ライン型プリントヘッドよりも、プリント時の搬送方向の下流側において前記メディアの表面を検出することを特徴とする、請求項13又は14に記載のプリンタ。
【請求項16】
前記プリントヘッドはノズルからインクジェット方式でインクを吐出するものであることを特徴とする、請求項1から15のいずれか記載のプリンタ。
【請求項17】
回転ローラを有しメディアを第1の方向に搬送する搬送手段と、前記第1の方向と交差する第2の方向において使用するメディアの最大サイズ以上の長さに渡って形成されたライン型プリントヘッドと、前記回転ローラの回転情報を取得する第1の取得手段と、前記メディアの表面を検出して信号処理によって前記メディアの移動情報を取得する第2の取得手段とを有するプリンタの制御方法であって、
前記回転ローラの少なくとも1回転分について、前記第1の取得手段で取得した情報と前記第2の取得手段で取得した情報とを対応付けて補正データとしてメモリに記憶する第1ステップと、
前記第1の取得手段で回転情報を取得し、該取得した回転情報に対応した前記補正データを前記メモリから読み出して、前記ライン型プリントヘッドの記録タイミングを補正してプリントを行なう第2ステップ
を有することを特徴とするプリンタの制御方法。
【請求項18】
前記第1ステップにおいてメディアを搬送する搬送速度が、前記第2ステップにおいてメディアを搬送する搬送速度よりも小さいことを特徴とする、請求項17記載の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−284883(P2010−284883A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140272(P2009−140272)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】