説明

プリンタ装置

【課題】 プリンタ装置自体を大型化することなく、印字ヘッドの撥水膜のキズ付きや用紙の汚れ防止と印字ヘッドのメンテナンス作業時における用紙押さえ部材の干渉防止を同時に実現する。
【解決手段】 印字ヘッド6を装着したメインキャリア11と用紙押さえ部材10を装着したサブキャリア12を設け、印字対応領域Xからサービスステーション対応領域Yに印字ヘッド6を退避させる際に接合分離操作手段16の位置で用紙押さえ部材10を揺動させて印字ヘッド6の先端から離間させ、更に、接合分離操作手段16の位置に用紙押さえ部材10を残して印字ヘッド6のみをサービスステーション対応領域Yに移動させて印字ヘッド6のメンテナンス作業を行う。揺動動作と直線移動動作を組み合わせた退避動作を行わせることでキャリアガイド3,4の短縮化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタ装置の改良、特に、サービスステーションに印字ヘッドを移動させてメンテナンスを行う際に生じる用紙押さえ部材の干渉を防止するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
印字ヘッド先端と用紙との接触を防止するための用紙押さえ部材を印字ヘッドの用紙対向面に設けたプリンタ装置が既に公知である。
【0003】
用紙押さえ部材は印字ヘッドの撥水膜のキズ付きや用紙の汚れを防止するために是非とも必要な部材ではあるが、印字ヘッドのクリーニングやキャッピング(封止)等のメンテナンス作業を自動化したプリンタ装置に用紙押さえ部材を不用意に装着すると、クリーニングやキャッピング等の作業に際して用紙押さえ部材が邪魔になり、適切なメンテナンス作業が行われなくなる可能性がある。
【0004】
印字ヘッド先端と用紙との接触を防止するための用紙押さえ部材と印字ヘッドをメンテナンスするためのサービスステーションとを同時に備えたプリンタ装置としては、例えば、特許文献1に開示されるような印字装置が既に公知である。
【0005】
この印字装置は、キャリアガイドの端部に移動した印字ヘッドの先端と対向する位置に印字ヘッドをメンテナンスするためのサービスステーションを備えたプリンタ装置であり、用紙押さえ部材は常に印字ヘッドと一体的に移動する。そして、カムローラ,ブラケット,セクタギャ,ピニオン,ラック,ガイドローラ等からなる複雑な機構を印字ヘッドの送り動作に連動させ、印字ヘッドが印字対応領域とサービスステーション対応領域との間のキャリアガイドを移動する間に、前述の機構を利用して用紙押さえ部材の位置および姿勢を徐々に変化させて、用紙押さえ部材を印字ヘッドの用紙対向面から印字ヘッドの側方に退避させるようにしたものである。
【0006】
このような構成を適用すれば、印字ヘッドの撥水膜のキズ付きや用紙の汚れを防止し、同時に、印字ヘッドのクリーニングやキャッピング等の作業に際して印字ヘッドの用紙対向面から用紙押さえ部材を自動的に退避させることが可能となる。
【0007】
しかしながら、特許文献1の印字装置では、用紙押さえ部材を退避させるための機構がカムや歯車列等で構成されている関係上、用紙押さえ部材の位置や姿勢はキャリアガイドに対する印字ヘッドの位置関係に従って一義的に特定されてしまい、キャリアガイドに対する印字ヘッドの位置を移動させずに用紙押さえ部材の位置や姿勢のみを変化させることは全く不可能である。
【0008】
従って、用紙押さえ部材の位置や姿勢を変化させて印字ヘッドの用紙対向面から用紙押さえ部材を退避させるためには、印字ヘッドがキャリアガイドに沿って相当の道程を移動しなければならず、結果的に、キャリアガイドの全長が冗長して印字装置自体が大型化するといった弊害が生じる。
【0009】
【特許文献1】特開2000−326575号公報(段落番号0010,0038,0039,図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の課題は、前記従来技術の不都合を改善し、キャリアガイドの長さ即ちプリンタ装置自体を大型化することなく、印字ヘッドの撥水膜のキズ付きや用紙の汚れ防止と印字ヘッドのメンテナンス作業時における用紙押さえ部材の干渉防止を同時に実現することのできるプリンタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のプリンタ装置は、印字ヘッド先端と用紙との接触を防止するための用紙押さえ部材を印字ヘッドの用紙対向面に有し、キャリアガイドの端部に移動した印字ヘッドの先端と対向する位置に、印字ヘッドをメンテナンスするためのサービスステーションを備えたプリンタ装置であり、前記課題を達成するため、特に、
印字ヘッドを装着したメインキャリアと用紙押さえ部材を揺動可能に装着したサブキャリアとをメインキャリアがサービスステーション寄りに位置するようにしてキャリアガイドに移動可能に取り付け、前記メインキャリアをキャリアガイドに沿って移動させるキャリア駆動手段を設けると共に、
前記キャリアガイドにおける印字対応領域とサービスステーション対応領域との間に、前記印字対応領域から前記サービスステーション対応領域に向けて移動するメインキャリアからサブキャリアを分離する一方、前記サービスステーション対応領域から前記印字対応領域に向けて移動するメインキャリアにサブキャリアを接合する接合分離操作手段を配備し、
前記サブキャリアには、該サブキャリアが前記印字対応領域から前記接合分離操作手段に接近したことを検知して用紙押さえ部材を印字ヘッド先端から離間させる方向に揺動させる一方、該サブキャリアが前記接合分離操作手段から前記印字対応領域へ離間したことを検知して用紙押さえ部材を印字ヘッド先端に揺動復帰させる用紙押さえ部材揺動手段を設けたことを特徴とする構成を有する。
【0012】
以上の構成により、キャリアガイドにおける印字対応領域では、用紙押さえ部材を揺動可能に装着したサブキャリアと印字ヘッドを装着したメインキャリアとが一体的に接合された状態が維持され、用紙押さえ部材を印字ヘッドの用紙対向面に位置させた状態で、キャリア駆動手段の作動に応じてメインキャリアとサブキャリアとが一体的にキャリアガイドに沿って移動する。これにより、印字ヘッド先端と用紙との接触で生じる印字ヘッドの撥水膜のキズ付きや用紙の汚れが防止される。
ここで、印字ヘッドのメンテナンスを行うためにキャリア駆動手段を作動させ、メインキャリアとサブキャリアをキャリアガイドの印字対応領域からサービスステーション対応領域に向けて一体的に移動させると、まず、サブキャリアの用紙押さえ部材揺動手段が、印字対応領域とサービスステーション対応領域との間に配備された接合分離操作手段への接近を検知して、用紙押さえ部材を印字ヘッド先端から離間させる方向に揺動させる。
そして、一体的に移動するメインキャリアとサブキャリアが接合分離操作手段を通過する時点で、接合分離操作手段が、印字対応領域からサービスステーション対応領域に向けて移動するメインキャリアからサブキャリアを分離させる。
キャリア駆動手段はメインキャリアのみを駆動してキャリアガイドに沿って移動させる構成であるから、メインキャリアから分離されたサブキャリアは駆動力を失い、キャリアガイドにおける印字対応領域とサービスステーション対応領域との間で停止し、サブキャリアに比べてサービスステーション寄りに位置するメインキャリアのみが、サブキャリアおよび用紙押さえ部材を前述の停止位置に残して、そのままキャリアガイドの端部のサービスステーション対応領域にまで移動する。
メインキャリアに装着された印字ヘッドのメンテナンス作業、例えば、クリーニングやキャッピング等の作業は、サブキャリアおよび用紙押さえ部材を分離されてキャリアガイドの端部に移動した印字ヘッドの先端に対して行われるので、印字ヘッドのメンテナンス作業時における用紙押さえ部材の干渉が確実に防止される。
また、用紙への印字を行うためにキャリア駆動手段を作動させ、サブキャリアと分離しているメインキャリアをキャリアガイドのサービスステーション対応領域から印字対応領域に向けて移動させると、まず、メインキャリアが接合分離操作手段を通過する時点で、接合分離操作手段が、サービスステーション対応領域から印字対応領域に向けて移動するメインキャリアにサブキャリアを接合し、再び両者が一体となって移動するようにする。
そして、一体的に移動するメインキャリアとサブキャリアが接合分離操作手段を通過すると、サブキャリアの用紙押さえ部材揺動手段が接合分離操作手段からの離間を検知し、用紙押さえ部材を再び印字ヘッド先端に揺動復帰させて印字ヘッドの用紙対向面に位置させ、印字ヘッド先端と用紙との接触で生じる印字ヘッドの撥水膜のキズ付きや用紙の汚れを防止する。
接合により一体化されたメインキャリアとサブキャリアは、印字対応領域でキャリアガイドに沿って往復移動する。キャリア駆動手段から駆動力を与えられるのはメインキャリアのみであるが、この時点では既にメインキャリアとサブキャリアが接合されて一体化しているので、サブキャリアは用紙押さえ部材を印字ヘッドの用紙対向面に位置させたままメインキャリアと共に移動することができる。
このように、用紙押さえ部材を揺動させて印字ヘッド先端から取り除く用紙押さえ部材揺動手段は、接合分離操作手段に対する接近や離間を検知して用紙押さえ部材を揺動させる構成であるため、キャリアガイドに対してメインキャリアやサブキャリアを大きく移動させなくても印字ヘッド先端から用紙押さえ部材を確実に取り除くことができ、更には、改めて印字ヘッド先端に用紙押さえ部材を位置させることができるので、キャリアガイドの全長を伸ばしてメインキャリアやサブキャリアの移動ストロークを冗長する必要はなく、プリンタ装置の大型化の問題が改善される。
より厳密に言えば、印字ヘッドに対するメンテナンス作業を行うためにはメインキャリアをキャリアガイドの端部にまで移動させてサービスステーション対応領域に位置決めすることが必須の要件であり、実際問題としては、印字ヘッド先端から用紙押さえ部材を揺動させて取り除くために接合分離操作手段の位置でサブキャリアを僅かにサービスステーション対応領域の側に向けて移動させる必要が生じるが、この際のサブキャリアの移動量は、メインキャリアをサービスステーション対応領域に位置決めする際に必要とされるメインキャリアの移動量に比べて遥かに少ないので、用紙押さえ部材を揺動させて印字ヘッド先端から取り除くことを目的としてキャリアガイドの全長を冗長させるといった必要性は全くない。
また、用紙押さえ部材を印字ヘッド先端から取り除く操作は、印字対応領域とサービスステーション対応領域との間で実質的に停止したサブキャリア上で作動する用紙押さえ部材揺動手段を利用した用紙押さえ部材の揺動動作と、サブキャリアおよび用紙押さえ部材を前述の停止位置に残してキャリアガイド端部のサービスステーション対応領域に移動するメインキャリアの直線移動動作とを複合して行われるかたちとなり、この際、用紙押さえ部材の揺動動作によってキャリアガイドの方向性を基準とした用紙押さえ部材の見かけ上の長さも僅かではあるが短縮されるため、メインキャリアの直線移動動作のみに頼って用紙押さえ部材から印字ヘッドを離脱させる場合と比べ、用紙押さえ部材から印字ヘッドを離脱させるために必要とされるメインキャリアの移動量自体を短縮することができ、キャリアガイドの全長の短縮、更には、プリンタ装置の小型化が実現される。
【0013】
より具体的には、前記接合分離操作手段は、キャリアガイドに沿って移動するメインキャリアの通過を許容する一方、前記印字対応領域から前記サービスステーション対応領域へのサブキャリアの進入を禁止するように構成され、
この接合分離操作手段に、前記サービスステーション対応領域から前記印字対応領域に向かう方向に移動するサブキャリアの移動を設定限度の力で拘束する第一のロック手段を設けると共に、
前記メインキャリアとサブキャリアとの間には、前記サービスステーション対応領域から前記印字対応領域に向けて移動するメインキャリアと第一のロック手段により接合分離操作手段に拘束されたサブキャリアとの当接を前記設定限度の力の範囲内の反力で検知してメインキャリアとサブキャリアを接合し、この接合を設定限度の力で維持する第二のロック手段が設けられていることが望ましい。
【0014】
このような構成を適用した場合、メインキャリアとサブキャリアをキャリアガイドの印字対応領域からサービスステーション対応領域に向けて一体的に移動させると、まず、メインキャリアとサブキャリアが接合分離操作手段を通過する時点でサブキャリアの移動が接合分離操作手段によって禁止され、接合分離操作手段に設けられた第一のロック手段により設定限度の力でサブキャリアが接合分離操作手段の配設位置に拘束される。より厳密に言えば、接合分離操作手段を超えてサービスステーション対応領域に向かうサブキャリアの動きは、サブキャリアが接合分離操作手段に当接することで完全に禁止され、接合分離操作手段から印字対応領域に向かうサブキャリアの動きは、第一のロック手段によって設定限度の力で禁止されるということである。
この時点ではメインキャリアとサブキャリアが第二のロック手段によって設定限度の力で接合状態を維持されているが、接合分離操作手段によってサブキャリアの移動が完全に禁止され、同時に、メインキャリアがキャリア駆動手段で駆動され続ける結果、メインキャリアをサブキャリアから離間させようとする力が働き、この力が設定限度の力を超えた時点で第二のロック手段が解除されてメインキャリアがサブキャリアから分離し、メインキャリアのみが、サブキャリアおよび用紙押さえ部材を前述の停止位置に残して、そのままキャリアガイドの端部のサービスステーション対応領域にまで移動する。
一方、サブキャリアと分離されたメインキャリアをサービスステーション対応領域から印字対応領域に向けて移動させた場合には、まず、メインキャリアが接合分離操作手段を通過する時点で、接合分離操作手段によって保持されているサブキャリアにメインキャリアが当接し、第二のロック手段が、メインキャリアとサブキャリアとの当接を設定限度の力の範囲内の反力で検知して作動状態となり、サービスステーション対応領域から印字対応領域に向けて移動するメインキャリアにサブキャリアを接合し、この接合状態を設定限度の力で維持する。
この時点ではサブキャリアが第一のロック手段により設定限度の力で接合分離操作手段の配設位置に保持されているが、このサブキャリアが、移動するメインキャリアによって押される結果、サブキャリアを接合分離操作手段から離間させようとする力が働き、この力が前述した設定限度の力を超えた時点で第一のロック手段が解除され、メインキャリアとサブキャリアが一体化した状態で印字対応領域に移動する。
そして、一体化されたメインキャリアとサブキャリアは、印字対応領域でキャリアガイドに沿って往復移動する。キャリア駆動手段から駆動力を与えられるのはメインキャリアのみであるが、この時点では、既に、メインキャリアとサブキャリアが第二のロック手段によって一体化されているので、サブキャリアはメインキャリアと共に移動することができる。
前述した通り、本発明においては、キャリアガイドにおける印字対応領域とサービスステーション対応領域との間で実質的に停止したサブキャリア上で作動する用紙押さえ部材揺動手段を利用した用紙押さえ部材の揺動動作と、サブキャリアおよび用紙押さえ部材を前述の停止位置に残してキャリアガイド端部のサービスステーション対応領域に移動するメインキャリアの直線移動動作とを複合したかたちで印字ヘッド先端に対する用紙押さえ部材の退避動作および再配置動作が行われるようになっており、この段落で説明しているのは、メインキャリアおよびサブキャリアの直線移動動作に関わる構成である。
【0015】
更に具体的に言えは、前述の第一,第二のロック手段は、キャリアガイドの方向に沿った長穴によって揺動自在に軸支され、長穴から一方にオフセットして配備されたバネにより回転付勢されると共に、長穴から他方にオフセットして設けられたリリース用スタッドに当接して前記回転付勢の方向と逆方向に揺動されるスタッド当接レバーを備えたペリカンフックと、このペリカンフック先端のシアに係合するロック用スタッドとによって構成することができる。
【0016】
このロック手段は、ペリカンフック先端のシアとロック用スタッドとの係合によって接合分離操作手段とサブキャリアとの接合状態あるいはメインキャリアとサブキャリアとの接合状態を設定限度の力で維持するもので、ペリカンフック先端のシアとロック用スタッドが係合した状態でシアとロック用スタッドを離間させる方向の力をキャリアガイド方向に沿って作用させると、まず、シアとロック用スタッドが係合したままの状態でバネが前記回転付勢の方向と逆方向に弾性変形して姿勢変化を伴わないペリカンフックの位置変化を許容し、この位置変化によりペリカンフックのスタッド当接レバーがリリース用スタッドに当接した時点でペリカンフックの位置変化が禁止されて姿勢変化が開始され、この姿勢変化でペリカンフック先端のシアがロック用スタッドから外れて、接合分離操作手段とサブキャリアとの接合(第一のロック手段)、あるいは、メインキャリアとサブキャリアとの接合(第二のロック手段)が解除される。
一方、ペリカンフック先端のシアとロック用スタッドとの係合が解除された状態でペリカンフック先端のシアとロック用スタッドとを接近させる方向の力をキャリアガイド方向に沿って作用させると、まず、シアとロック用スタッドとが接近してシアのテーパ面にロック用スタッドが摺接し、ロック用スタッドがバネの付勢力に抗してペリカンフックを前記回転付勢の方向と逆方向に揺動させながらテーパ面上を移動し、最終的に、ロック用スタッドがテーパ面を乗り越えた段階で、ペリカンフックがバネの付勢力で前記回転付勢の方向に揺動してペリカンフック先端のシアとロック用スタッドとが係合し、接合分離操作手段とサブキャリアとの接合状態(第一のロック手段)、あるいは、メインキャリアとサブキャリアとの接合状態(第二のロック手段)を設定限度の力で維持する。
このような構成を有するロック手段を前記第一,第二のロック手段として利用した場合には、サブキャリアと分離されたメインキャリアをサービスステーション対応領域から印字対応領域に向けて移動させる際に、第一のロック手段を介して接合分離操作手段に保持されたサブキャリアにメインキャリアを押し付けて第二のロック手段を作動させることになるが、ペリカンフックとロック用スタッドからなるロック手段の構成においては、シアのテーパ面とロック用スタッドとの摺接でペリカンフックを回転付勢の方向と逆方向に揺動させる際に必要とされる力、つまり、接合の操作に必要とされる力に比べ、バネを弾性変形させて長穴に対してペリカンフックを位置変化させる際に必要とされる力、つまり、接合を解除する操作に必要とされる力の方が大きいので、第一のロック手段を利用して接合分離操作手段にサブキャリアを保持したままの状態で第二のロック手段を作動させてサブキャリアとメインキャリアとを一体化することができる。
この場合、第二のロック手段の一部を構成するペリカンフック先端のシアのテーパ面がメインキャリアとサブキャリアとの当接を設定限度の力の範囲内の反力、つまり、第一のロック手段を解除するために必要とされる力よりも小さな力の反力で検知して第二のロック手段を作動させたことになる。
【0017】
また、前述した設定限度の力は、メインキャリアをキャリアガイドに沿って移動させるキャリア駆動手段の出力に比べて小さく設定されている必要がある。
【0018】
メインキャリアの相対移動によって第一,第二のロック手段の作動状態を解除する関係上、第一,第二のロック手段の作動を解除するために必要とされる力、要するに、設定限度の力は、キャリア駆動手段の出力に比べて小さくしておかなければならない。
【0019】
更に、前述した用紙押さえ部材揺動手段は、用紙押さえ部材を印字ヘッド先端から離間させる方向に揺動させる操作桿を含むリンク機構と、用紙押さえ部材を印字ヘッド先端に揺動復帰させる自動復帰バネとで構成することが可能である。この際、この操作桿には、接合分離操作手段に設けられたテーパ面に摺接して操作桿を作動させる接近検知部を設けるものとする。
【0020】
このような構成を適用した場合、用紙押さえ部材は、外力が作用しない限り、自動復帰バネの復元力によって、定常的に印字ヘッドの用紙対向面に保持される。
そして、メインキャリアとサブキャリアを印字対応領域からサービスステーション対応領域に向けて一体的に移動させると、まず、サブキャリアの用紙押さえ部材揺動手段の一部を構成する操作桿の接近検知部が、接合分離操作手段に設けられたテーパ面と摺接することによって、サブキャリアが接合分離操作手段に接近したことを検知する。
この状態から更にサブキャリアが移動すると、操作桿の接近検知部が接合分離操作手段のテーパ面に摺接した状態で押圧され、この接近検知部と連絡した操作桿がリンク機構を作動させて、用紙押さえ部材を印字ヘッド先端から離間させる方向に揺動させる。前述した通り、この後、メインキャリアからサブキャリアが分離し、メインキャリアのみが、サブキャリアおよび用紙押さえ部材を前述の停止位置に残してキャリアガイドの端部のサービスステーション対応領域にまで移動することになる。
一方、サブキャリアから分離されたメインキャリアをサービスステーション対応領域から印字対応領域に向けて移動させると、まず、メインキャリアが接合分離操作手段を通過する時点でメインキャリアとサブキャリアが前述したようにして接合され、サブキャリアとメインキャリアとが一体化される。
そして、メインキャリアと一体化したサブキャリアが移動して接合分離操作手段から離間すると、操作桿の接近検知部が接合分離操作手段のテーパ面に沿って前述の押圧方向と逆向きに移動することで接合分離操作手段からの離間を検知し、接近検知部に連絡した操作桿およびリンク機構が自動復帰バネの付勢力によって初期位置に復帰することで、用紙押さえ部材が印字ヘッド先端の用紙対向面に再配置される。
前述した通り、本発明においては、キャリアガイドにおける印字対応領域とサービスステーション対応領域との間で実質的に停止したサブキャリア上で作動する用紙押さえ部材揺動手段を利用した用紙押さえ部材の揺動動作と、サブキャリアおよび用紙押さえ部材を前述の停止位置に残してキャリアガイド端部のサービスステーション対応領域に移動するメインキャリアの直線移動動作とを複合したかたちで印字ヘッド先端に対する用紙押さえ部材の退避動作および再配置動作が行われるようになっており、この段落で説明しているのは、用紙押さえ部材の揺動動作に関わる構成である。
実際には、接合分離操作手段のテーパ面で操作桿の接近検知部を操作して用紙押さえ部材を揺動させる関係上、接合分離操作手段の位置でサブキャリアを僅かにサービスステーション対応領域の側に向けて移動させる必要があるが、この際のサブキャリアの移動量は、メインキャリアをサービスステーション対応領域に位置決めする際に必要とされるメインキャリアの移動量に比べて遥かに少ないので、用紙押さえ部材を揺動させて印字ヘッド先端から取り除くことを目的としてキャリアガイドの全長を冗長させるといった必要は全くない。
【0021】
また、操作桿の接近検知部は、操作桿の端部に回転自在に軸支されたローラによって構成されていることが望ましい。
【0022】
接合分離操作手段のテーパ面に摺接する接近検知部を回転自在なローラとすることで用紙押さえ部材を円滑に揺動させることができ、用紙押さえ部材を揺動させるために必要とされる力が軽減される。
用紙押さえ部材を印字ヘッド先端から離間させる方向に揺動させる操作は、第二のロック手段によってサブキャリアとメインキャリアとを一体化した状態を維持したまま、メインキャリアでサブキャリアを引くようにしてサブキャリアの接近検知部を接合分離操作手段のテーパ面に摺接させて接近検知部を作動させることにより達成されるが、用紙押さえ部材を揺動させるために必要とされる力は僅かなものであるから、接近検知部とテーパ面の摺接で生じる抵抗がサブキャリアの移動を阻害して第二のロック手段が不用意に解除されるといった心配はない。
【0023】
更に、用紙押さえ部材とメインキャリアとの間に、用紙押さえ部材の揺動を許容すると共にキャリアガイドの方向に沿った用紙押さえ部材とメインキャリアとの間の相対移動を禁止する第三のロック手段を設けることが可能である。
【0024】
前述した第二のロック手段に加え、第三のロック手段と用紙押さえ部材を介してメインキャリアとサブキャリアが接合されることになるので、メインキャリアとサブキャリアを更に強固に接合することができ、特に、高速の双方向印字を行うプリンタ装置において、印字対応領域でメインキャリアからサブキャリアが離脱する問題を確実に防止することができる。
【0025】
第三のロック手段は、用紙押さえ部材から揺動方向に突出した突片と、この突片に係合するメインキャリア側の係合部とによって構成することができる。
【0026】
用紙押さえ部材から揺動方向に突出した突片とメインキャリア側の係合部との組み合わせでは引っ掛かりとなるアンダーカット部分が発生せず、用紙押さえ部材の揺動動作が阻害されることがないので、用紙押さえ部材の揺動動作によって第三のロック手段の作動状態と非作動状態とを容易に切り替えることができる。
用紙押さえ部材が印字ヘッドの用紙対向面に位置した状態、つまり、メインキャリアとサブキャリアが一体となって印字対応領域を移動する状況下では、突片と係合部との係合によってキャリアガイド方向におけるサブキャリアとメインキャリアとの相対移動が完全に禁止されて両者が一体となり、また、用紙押さえ部材が印字ヘッドの用紙対向面から取り除かれた状況下では、突片と係合部との係合が完全に解除されるので、サブキャリアを停止位置に残したままメインキャリアをサービスステーション対応領域に移動させる動作が容易に許容される。
【0027】
あるいは、用紙押さえ部材と印字ヘッドとの間に、用紙押さえ部材の揺動を許容すると共にキャリアガイドの方向に沿った用紙押さえ部材と印字ヘッドとの間の相対移動を禁止する第三のロック手段を設けてもよい。
【0028】
印字ヘッドはメインキャリアに実質的に一体に取り付けられているので、このようにして、印字ヘッドと第三のロック手段および用紙押さえ部材を介してメインキャリアとサブキャリアを接合するようにしても同等の作用が得られる。
【0029】
このような構成を適用した場合、第三のロック手段は、用紙押さえ部材から揺動方向に突出した突片と、この突片に係合する印字ヘッド側の係合部とによって構成する。
【0030】
作用については既に述べた通りである。
【発明の効果】
【0031】
本発明のプリンタ装置は、印字ヘッドを装着したメインキャリアと用紙押さえ部材を揺動可能に装着したサブキャリアとをキャリアガイドに移動可能に取り付けてメインキャリアをキャリア駆動手段で駆動するようにすると共に、キャリアガイドにおける印字対応領域とサービスステーション対応領域との間に、印字対応領域からサービスステーション対応領域に向けて移動するメインキャリアからサブキャリアを分離する一方、サービスステーション対応領域から印字対応領域に向けて移動するメインキャリアにサブキャリアを接合する接合分離操作手段を配備し、更に、サブキャリアには、サブキャリアが印字対応領域から接合分離操作手段に接近したことを検知して用紙押さえ部材を印字ヘッド先端から離間させる方向に揺動させる一方、サブキャリアが接合分離操作手段から印字対応領域へ離間したことを検知して用紙押さえ部材を印字ヘッド先端に揺動復帰させる用紙押さえ部材揺動手段を設け、印字対応領域においてはサブキャリアとメインキャリアとを一体化して用紙押さえ部材を印字ヘッドの用紙対向面に位置させて印字ヘッド先端と用紙との接触で生じる印字ヘッドの撥水膜のキズ付きや用紙の汚れが防止する一方、印字ヘッドのメンテナンスを行うためにメインキャリアをサービスステーション対応領域に移動させる際には、印字対応領域とサービスステーション対応領域との間で、サブキャリアに装着された用紙押さえ部材を印字ヘッド先端から揺動させて離間させ、更に、メインキャリアからサブキャリアを分離させてサブキャリアおよび用紙押さえ部材を残してメインキャリアのみをキャリアガイドの端部のサービスステーション対応領域にまで移動させてクリーニングやキャッピング等を始めとする印字ヘッドのメンテナンス作業を行うようにしたので、印字ヘッドのメンテナンス作業時における用紙押さえ部材の干渉が確実に防止される。
しかも、用紙押さえ部材を揺動させて印字ヘッド先端から取り除く用紙押さえ部材揺動手段は、接合分離操作手段に対する接近や離間を検知して用紙押さえ部材を揺動させる構成であって、キャリアガイドに対してメインキャリアやサブキャリアを大きく移動させなくても印字ヘッド先端から用紙押さえ部材を確実に取り除くことができるので、印字ヘッド先端から用紙押さえ部材を取り除くためにキャリアガイドの全長を伸ばしてメインキャリアやサブキャリアをオーバートラベルさせる必要はなく、プリンタ装置の大型化の問題が改善される。
更に、用紙押さえ部材を印字ヘッド先端から取り除く操作は、印字対応領域とサービスステーション対応領域との間で実質的に停止したサブキャリア上で作動する用紙押さえ部材揺動手段を利用した用紙押さえ部材の揺動動作と、サブキャリアおよび用紙押さえ部材を印字対応領域とサービスステーション対応領域との間に残してキャリアガイド端部のサービスステーション対応領域に移動するメインキャリアの直線移動動作とを複合して行われるかたちとなっており、この際、用紙押さえ部材の揺動動作によりキャリアガイドの方向性を基準とした用紙押さえ部材の見かけ上の長さも僅かではあるが短縮されるので、メインキャリアの直線移動動作のみに頼って用紙押さえ部材から印字ヘッドを離脱させる場合と比べ、用紙押さえ部材から印字ヘッドを離脱させるために必要とされるメインキャリアの移動量自体を短縮することができ、キャリアガイドの全長の短縮、更には、プリンタ装置の小型化が実現され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明を適用した一実施形態のプリンタ装置のキャリアガイドの周辺構造を示した斜視図である。このプリンタ装置は通帳等の用紙に印字作業を行うインクジェット式のプリンタ装置であり、用紙が湾曲して浮き上がるなどして印字ヘッドの先端部に接触して汚れが発生する可能性が高いため、印字ヘッドの先端と用紙との接触を防止するための用紙押さえ部材が是非とも必要なものである。
【0033】
プリンタ装置1の主要部は、フレーム2に両端を保持されて上下に併設されたキャリアガイド3,4と、キャリアガイド3,4に沿って移動可能に取り付けられたキャリア5、および、キャリア5に装着された印字ヘッド6と、キャリアガイド3,4に沿ってキャリア5を双方向に駆動するためのキャリア駆動手段7、ならびに、キャリアガイド3,4の端部に移動した印字ヘッド6の先端と対向する位置に配備されたサービスステーション8によって構成され、印字ヘッド6の先端と用紙9との接触を防止するための用紙押さえ部材10は、印字ヘッド6の先端つまり用紙対向面に位置するようにして配備されている。
【0034】
この実施形態のキャリア5は、図2に示されるように、印字ヘッド6を装着したメインキャリア11と用紙押さえ部材10を揺動可能に装着したサブキャリア12とで構成され、メインキャリア11がサービスステーション8寄りに位置するようにして、キャリアガイド3,4に移動可能に取り付けられている。
メインキャリア11とサブキャリア12は、図2に示すようにして分離することも、また、図3に示すようにして一体的に接合することも可能である。
【0035】
キャリアガイド3,4に沿ってキャリア5を双方向に駆動するためのキャリア駆動手段7は、図1に示されるように、キャリアガイド3,4の一端部に位置して図示しないステッピングモータ等で回転駆動されるプライマリープーリ13と、キャリアガイド3,4の他端部に位置するドリブンプーリ14、および、ライマリープーリ13とドリブンプーリ14に掛け渡されたタイミングベルト15で構成され、タイミングベルト15の一点がメインキャリア11に固着されている。
つまり、図示しないスステッピングモータ等の作動により、メインキャリア11に対してキャリアガイド方向の送りが掛けられる構造である。
【0036】
そして、用紙9に対して通常の印字動作を行う場合には、メインキャリア11とサブキャリア12を一体化した状態でキャリア駆動手段7を作動させ、キャリアガイド3,4における印字対応領域つまり図1に示す区間Xの範囲でキャリア5を双方向に移動させて印字動作を行い、また、印字ヘッド6の先端をクリーニングしたり、あるいは、印字ヘッド6の先端をキャッピング(封止)してインクの揮発を防止する際には、キャリアガイド3,4の端部のサービスステーション対応領域つまり図1に示す区間Yまでキャリア5を移動させ、印字ヘッド6の先端をサービスステーション8に位置決めした状態でメンテナンス作業を行うようになっている。
【0037】
クリーニングやキャッピングの実施に必要とされるサービスステーション8の構造や機能、および、印字動作のためにキャリア5の移動範囲を規制したりメンテナンス作業のためにキャリアガイド3,4の端部にまでキャリア5を移動させる際に必要とされるステッピングモータ等の自動制御については既に公知の技術であり、また、本発明の要旨に直接的に関連するものでもないので、ここでは説明を省略する。
【0038】
この実施形態では、更に、キャリアガイド3,4における印字対応領域Xとサービスステーション対応領域Yとの間に接合分離操作手段16が配備されている。接合分離操作手段16は、印字対応領域Xからサービスステーション対応領域Yに向けて移動するメインキャリア11からサブキャリア12を分離したり、サービスステーション対応領域Yから印字対応領域Xに向けて移動するメインキャリア11にサブキャリア12を接合したりするための構成要素である。
【0039】
この接合分離操作手段16は、キャリアガイド3,4に沿って移動するメインキャリア11の通過を許容する一方、印字対応領域Xからサービスステーション対応領域Yへ向かうサブキャリア12の進入を禁止するようにして、フレーム2の長手方向におけるサービスステーション8寄りの位置に固設されている。
具体的には、例えば、キャリアガイド3,4と接合分離操作手段16のプレート部分16aとの間にメインキャリア11の通過を許容するに足る間隙が図3中の紙面垂直方向に形成されてメインキャリア11の通過を許容する一方、図3中でサブキャリア12に固設されて紙面垂直方向手前側に突出するロック用スタッド18等が接合分離操作手段16のプレート部分16aと干渉することで、サブキャリア12が接合分離操作手段16の配設位置を越えてサービスステーション対応領域Yの側に進入することを禁止している。
【0040】
この接合分離操作手段16には、更に、サービスステーション対応領域Yから印字対応領域Xに向かう方向に移動するサブキャリア12の移動を設定限度の力で拘束するための第一のロック手段17が設けられている。
【0041】
第一のロック手段17は、図2に示されるように、キャリアガイド3,4の方向に沿って接合分離操作手段16のプレート部分16a上に穿設された長穴19により軸20を介して揺動自在に軸支されたペリカンフック24と、このペリカンフック24の先端に一体に設けられたシア25に係合するサブキャリア12側のロック用スタッド18とで構成される。
ペリカンフック24は長穴19から一方にオフセットしてプレート部分16a上に配備されたバネ21により図2中でクロックワイズ方向に回転付勢され、更に、長穴19から他方にオフセットしてプレート部分16a上に設けられたリリース用スタッド22に当接してペリカンフック24を図2中でカウンタークロックワイズ方向に揺動させるスタッド当接レバー23を備える。
【0042】
また、メインキャリア11とサブキャリア12との間には、サービスステーション対応領域Yから印字対応領域Xに向けて移動するメインキャリア11と第一のロック手段17によって接合分離操作手段16に拘束されたサブキャリア12との当接を設定限度の力の範囲内の反力で検知してメインキャリア11とサブキャリア12を接合し、この接合を設定限度の力で維持する第二のロック手段26が設けられている。
【0043】
第二のロック手段26は、図4に示されるように、キャリアガイド3,4の方向に沿ってサブキャリア12のステー12a上に穿設された長穴27によって軸28を介して揺動自在に軸支されたペリカンフック32と、このペリカンフック32の先端に一体に設けられたシア33に係合するメインキャリア11側のロック用スタッド34とで構成される。
ペリカンフック32は長穴27から一方にオフセットしてステー12a上に配備されたバネ29により図4中でカウンタークロックワイズ方向に回転付勢され、更に、長穴27から他方にオフセットしてステー12a上に設けられたリリース用スタッド30に当接してペリカンフック32を図4中でクロックワイズ方向に揺動させるスタッド当接レバー31を備える。
【0044】
そして、更に、サブキャリア12には、このサブキャリア12が印字対応領域Xから接合分離操作手段16に接近したことを検知して用紙押さえ部材10を印字ヘッド6の先端から離間させる方向に揺動させる一方、サブキャリア12が接合分離操作手段16から印字対応領域Xへ離間したことを検知して用紙押さえ部材10を印字ヘッド6の先端に揺動復帰させて再配置する用紙押さえ部材揺動手段35が設けられている。
【0045】
用紙押さえ部材揺動手段35は、例えば、図1に示されるように、サブキャリア12に軸36を介して揺動自在に取り付けられた用紙押さえ部材10を印字ヘッド6の先端から離間させる方向つまり図1中でカウンタークロックワイズ方向に揺動させる操作桿37を含むリンク機構38と、用紙押さえ部材10を印字ヘッド6の先端に揺動復帰させて再配置する自動復帰バネ39とを備え、操作桿37には、接合分離操作手段16側に設けられたテーパ面40に摺接して操作桿37を作動させるための接近検知部が設けられている。この接近検知部は、操作桿37の上端部に回転自在に軸支されたローラ41によって構成されている。
【0046】
用紙押さえ部材揺動手段35の一部を構成するリンク機構38は、図2に示されるように、操作桿37と、操作桿37の上端部にローラ41と共に一端を枢着されたリンク片42と、リンク片42の他端をサブキャリア12上に枢着するための軸43とで構成され、操作桿37の下端部は、用紙押さえ部材10の揺動中心を構成する軸36よりも用紙押さえ部材10の先端寄りの位置つまり図2中で左側にオフセットされた位置で、用紙押さえ部材10に軸44を介して枢着されている。
従って、図2に示されるようにして接近検知部であるローラ41を下方に押圧すれば、リンク機構38が作動して操作桿37の下端部が用紙押さえ部材10を押し下げ、用紙押さえ部材10が印字ヘッド6の先端から離間して図2中に示した揺動位置に開放される。
また、この状態でローラ41に対する押圧力を解除すれば、リンク片42の軸43に環装するかたちで取り付けられ、一端をサブキャリア12上に、また、その他端をリンク片42に固定された自動復帰バネ39の弾性復帰力によってリンク片42が図2中のカウンタークロックワイズ方向に揺動し、操作桿37が図2中で上方に引き上げられて、用紙押さえ部材10が、図3に示されるようにして印字ヘッド6の用紙対向面に再配置されることになる。
【0047】
更に、この実施形態においては、用紙押さえ部材10と印字ヘッド6との間に、用紙押さえ部材10の揺動を許容し、かつ、キャリアガイド3,4の方向に沿った用紙押さえ部材10と印字ヘッド6との間の相対移動を禁止する第三のロック手段45が設けられている。
【0048】
第三のロック手段45は、図2に示されるように、用紙押さえ部材10から用紙押さえ部材10の揺動方向に突出した突片46と、この突片46に係合する印字ヘッド6側の係合部47とによって構成されている。
係合部47は印字ヘッド6の下端部に形成されたスリットもしくはダボ状の突起で形成することが可能である。係合部47をスリットもしくはダボ状の突起の何れによって形成した場合であっても、係合部47に対する突片46の突入と離脱は用紙押さえ部材10の揺動動作のみで達成することができ、また、係合部47に突片46が突入して両者が係合した状態では、図3に示されるように、キャリアガイド3,4の方向に沿った用紙押さえ部材10と印字ヘッド6との間の相対移動、つまり、サブキャリア12がメインキャリア11から離脱する方向の動作が完全に防止される。
この場合、サブキャリア12は軸36,用紙押さえ部材10,突片46,係合部47および印字ヘッド6を介してメインキャリア11に固定されていることになる。
【0049】
第三のロック手段45はサブキャリア12をメインキャリア11と一体化するための手段であるから、前述のようにして用紙押さえ部材10と印字ヘッド6との間に第三のロック手段45を設ける代わりに、用紙押さえ部材10とメインキャリア11との間に第三のロック手段45を設けても差し支えない。
この場合、サブキャリア12は軸36,用紙押さえ部材10,突片46およびメインキャリア11に設けられた図示しない係合部を介してメインキャリア11に固定されることになる。
【0050】
次に、図面を参照してプリンタ装置1の各部の具体的な動作を説明する。
【0051】
まず、図1に示されるように、メインキャリア11およびサブキャリア12からなるキャリア5が印字対応領域Xに位置する状況下、つまり、通常の印字動作が行われる状況下においては、図4に示される第二のロック手段26が作動し、サブキャリア12側に設けられたペリカンフック32先端のシア33とメインキャリア11側に設けられたロック用スタッド34とが係合してサブキャリア12をメインキャリア11に固定している。
また、図3に示される用紙押さえ部材揺動手段35の接近検知部であるローラ41からは押圧力が取り除かれ、自動復帰バネ39の付勢力によりリンク片42が図3中のカウンタークロックワイズ方向の原位置に復帰して操作桿37を上昇させ、操作桿37が用紙押さえ部材10の揺動中心である軸36よりも先端寄りの位置で軸44を介して用紙押さえ部材10を引き上げることで、印字ヘッド6の用紙対向面に用紙押さえ部材10を保持している。
この結果、図2に示される第三のロック手段45も、用紙押さえ部材10の揺動位置に従って作動状態となり、用紙押さえ部材10側の突片46と印字ヘッド6側に設けられた係合部47が係合することで、サブキャリア12をメインキャリア11に固定している。
【0052】
印字動作に際してキャリア駆動手段7のタイミングベルト15によって駆動力を与えられるのはメインキャリア11のみであるが、メインキャリア11とサブキャリア12が第二のロック手段26および第三のロック手段45により接合されて一体化しているので、サブキャリア12は用紙押さえ部材10を印字ヘッド6の用紙対向面に位置させたまま、不用意な位置ズレを生じることなく印字対応領域Xの範囲をメインキャリア11と共に移動することができる。
【0053】
特に、この実施形態では、第二のロック手段26に加え、第三のロック手段45を併用してメインキャリア11とサブキャリア12が接合されることになるので、メインキャリア11とサブキャリア12を極めて強固に接合することができる。従って、高速の双方向印字を行うような場合に、メインキャリア11とサブキャリア12を図1中の左側から右側に向けて移動させた後、高速の切り返し動作を行ってメインキャリア11とサブキャリア12を図1中の右側から左側に向けて移動させたとしても、メインキャリア11に対するサブキャリア12の追従動作に遅れが生じることはなく、また、両者間に間隙が生じたり、メインキャリア11からサブキャリア12が離脱するといった心配も全くない。
【0054】
従って、位置ズレを生じることなく印字ヘッド6の用紙対向面に用紙押さえ部材10を的確に保持することができ、用紙9との接触で生じる印字ヘッド6の撥水膜のキズ付きや用紙9の汚れを確実に防止することができる。
【0055】
ここで、印字ヘッド6のメンテナンスを行うためにキャリア駆動手段7を作動させ、タイミングベルト15に接続されたメインキャリア11に送りを掛けてメインキャリア11とサブキャリア12を印字対応領域Xからサービスステーション対応領域Yに向けて一体的に移動させると、まず、サブキャリア12に設けられた用紙押さえ部材揺動手段35が、印字対応領域Xとサービスステーション対応領域Yとの間に配備された接合分離操作手段16への接近を検知して、用紙押さえ部材10を印字ヘッド6の先端から離間させる方向に揺動させる。
【0056】
より具体的には、まず、メインキャリア11とサブキャリア12が図1に示される状態から僅かにサービスステーション対応領域Y側に移動した段階で、用紙押さえ部材揺動手段35の操作桿37に設けられた接近検知部であるローラ41が、接合分離操作手段16のテーパ面40の下面と摺接することでサブキャリア12が接合分離操作手段16に接近したことを検知し、用紙押さえ部材揺動手段35の作動が開始される。
【0057】
そして、ローラ41がテーパ面40の下面と摺接した状態で更にメインキャリア11とサブキャリア12がサービスステーション対応領域Y側に移動していくと、操作桿37のローラ41が接合分離操作手段16のテーパ面40の下面に摺接した状態で押圧され、ローラ41と連絡した操作桿37が下方に移動してリンク機構38が作動する。
つまり、操作桿37の下端部が用紙押さえ部材10の揺動中心である軸36の位置よりも用紙押さえ部材10の先端側に位置する軸44を介して用紙押さえ部材10を押し下げることで、用紙押さえ部材10が印字ヘッド6の先端から離間した位置、つまり、図2中で示すように約15°程下方に傾斜した揺動位置に開放されることになる。
【0058】
用紙押さえ部材揺動手段35を作動させて用紙押さえ部材10を揺動させるためには、第二のロック手段26によってメインキャリア11とサブキャリア12の接合状態を維持したままの状態でメインキャリア11によりサブキャリア12を引くようにしてサブキャリア12の接近検知部を接合分離操作手段16のテーパ面40に摺接させる必要があり、この際、テーパ面40が接近検知部を押圧することでサブキャリア12を静止させようとする抵抗が作用するが、この実施形態では、接近検知部として回転自在なローラ41を採用しているので、静止抵抗は僅かなものであり、用紙押さえ部材10を円滑に揺動させることが可能でああって、この静止抵抗によって第二のロック手段26の係合が不用意に解除される心配は全くない。
【0059】
用紙押さえ部材10は、例えば、図4に示されるように、印字ヘッド6の先端を囲む矩形状の枠体によって形成されているが、前述のようにして用紙押さえ部材10を印字ヘッド6の先端から離間する方向に揺動させることで、メインキャリア11がサブキャリア12から分離してサービスステーション対応領域Y側に移動する際の印字ヘッド6の先端と用紙押さえ部材10との干渉が防止される。
そして、この揺動動作により、用紙押さえ部材10の突片46と印字ヘッド6の係合部47との係合が解かれ、第三のロック手段45も解除された状態となる。
【0060】
また、接合分離操作手段16のテーパ面40の下面にローラ41を摺接させ操作桿37を押圧することで用紙押さえ部材10を揺動させる構造上、印字ヘッド6の先端から用紙押さえ部材10を揺動させて取り除くためには、接合分離操作手段16の位置でサブキャリア12を僅かにサービスステーション8の側に向けて移動させる必要があるが、この際のサブキャリア12の移動量は、メインキャリア11をサービスステーション対応領域Yに位置決めする際に必要とされるメインキャリア11の移動量に比べて遥かに短いので、用紙押さえ部材10を揺動させて印字ヘッド6の先端から取り除くことを目的としてキャリアガイド3,4の全長を冗長させるといった必要性は全くない。
つまり、印字ヘッド6に対するメンテナンス作業を行うためにはメインキャリア11をキャリアガイド3,4の端部にまで移動させてサービスステーション8に位置決めすることが必ず必要であり、印字ヘッド6の先端から用紙押さえ部材10を揺動させて取り除くために必要とされるサブキャリア12の移動量は、これを上回るものではない。
【0061】
このように、用紙押さえ部材揺動手段35は、接合分離操作手段16に対するサブキャリア12の接近を検知して用紙押さえ部材10を揺動させる構成にあり、キャリアガイド3,4に対してサブキャリア12を大きく移動させなくても印字ヘッド6の先端から用紙押さえ部材10を確実に取り除くことができるので、キャリアガイド3,4の全長を伸ばしてサブキャリア12の移動ストロークを冗長する必要はなく、プリンタ装置1の大型化の問題が改善される。
【0062】
更に、このようにしてサブキャリア12がキャリアガイド方向に沿って接合分離操作手段16に接近していく過程で、接合分離操作手段16側のペリカンフック24にサブキャリア12側のロック用スタッド18が接近し、例えば、図3に示されるようにして、ペリカンフック24のシア25のテーパ面にロック用スタッド18が摺接し、ロック用スタッド18がバネ21の付勢力に抗してペリカンフック18を回転付勢の方向と逆方向つまり図3中のカウンタークロックワイズ方向に揺動させながらテーパ面上を移動する。
そして、最終的に、ロック用スタッド18がシア25のテーパ面を乗り越えた段階で、ペリカンフック24がバネ21の付勢力で図3中のクロックワイズ方向に揺動してペリカンフック24の先端のシア25とロック用スタッド18とを係合させることで第一のロック手段17が作動し、接合分離操作手段16とサブキャリア12との接合状態が設定限度の力で維持されることになる。
第一のロック手段17の締結動作と用紙押さえ部材10の揺動動作は実質的に同時に行われる。
【0063】
前述した通り、メインキャリア11は接合分離操作手段16の配設位置を越えてサービスステーション対応領域Y側に移動することが可能であるのに対し、印字対応領域Xからサービスステーション対応領域Yへ向かうサブキャリア12の進入は、接合分離操作手段16によって禁止される。
【0064】
この段階では、未だ、第二のロック手段26によってメインキャリア11とサブキャリア12の接合状態が維持されているが、接合分離操作手段16によってサブキャリア12の移動が禁止され、同時に、メインキャリア11がキャリア駆動手段7で駆動され続ける結果、メインキャリア11をサブキャリア12から離間させようとする力が働き、この力が設定限度の力を超えた時点で第二のロック手段26が解除されてメインキャリア11がサブキャリア12から分離される。
【0065】
具体的には、まず、第二のロック手段26の一部を構成するサブキャリア12側のペリカンフック32のシア33とメインキャリア11側のロック用スタッド34が係合したままの状態で、メインキャリア11の移動に伴って、ロック用スタッド34がシア33を引く。
この結果、バネ29が弾性変形して伸び、キャリアガイド方向に沿って穿設された長穴27の長さによって許容される範囲でペリカンフック32と一体の軸28の移動、つまり、姿勢変化を伴わずにペリカンフック32がサブキャリア12上でメインキャリア11側に移動する位置変化が許容される。
そして、この位置変化によってペリカンフック32のスタッド当接レバー31がサブキャリア12上のリリース用スタッド30に当接すると、スタッド当接レバー31とリリース用スタッド30との当接でペリカンフック32の位置変化が禁止され、同時に、軸28を揺動中心としてスタッド当接レバー31がリリース用スタッド30によって操作されるかたちでペリカンフック32の姿勢変化(揺動)が始まり、この姿勢変化によりペリカンフック32の先端のシア33がロック用スタッド34から外れて、第二のロック手段26によるメインキャリア11とサブキャリア12との接合が解除される。
【0066】
つまり、メインキャリア11がサブキャリア12から分離されるタイミングは、実質的には、メインキャリア11が接合分離操作手段16を通過するタイミングと同時である。
また、接合分離操作手段16でサブキャリア12の移動を禁止した状態でメインキャリア11に送りを掛けることで両者を分離する構成であるから、広い意味で、接合分離操作手段16には、印字対応領域Xからサービスステーション対応領域Yに向けて移動するメインキャリア11からサブキャリア12を分離する機能があるといって差し支えない。
【0067】
なお、移動を禁止されたサブキャリア12に対してメインキャリア11を相対移動させることで第二のロック手段26の作動状態を解除する関係上、第二のロック手段26の作動を解除するために必要とされる力、つまり、設定限度の力は、キャリア駆動手段7の出力に比べて小さくしておくことが必要である。
具体的には、例えば、軸28からペリカンフック32の先端までのモーメントまたはスタッド当接レバー31のモーメントあるいはバネ29の弾性係数等を適切に選択することで、この要件は満たされる。
【0068】
このようにしてメインキャリア11からサブキャリア12が分離される結果、サブキャリア12は駆動力を失い、印字対応領域Xとサービスステーション対応領域Yとの間の接合分離操作手段16の位置に停止し、図5に示されるように、サブキャリア12に比べてサービスステーション8寄りに位置するメインキャリア11のみが、サブキャリア12および用紙押さえ部材10を前述の停止位置に残して、そのままキャリアガイド3,4の端部のサービスステーション8の位置まで移動する。
前述した通り、用紙押さえ部材10は印字ヘッド6の先端を囲む矩形状の枠体によって形成されているが、この段階では既に用紙押さえ部材10が印字ヘッド6の先端から離間する方向に揺動されており、また、突片46等からなる第三のロック手段45も既に解除されているので、メインキャリア11は引っ掛かりを生じることなく容易にサブキャリア12から分離して移動することができる。
【0069】
メインキャリア11に装着された印字ヘッド6のメンテナンス作業、例えば、クリーニングやキャッピング等の作業は、サブキャリア12および用紙押さえ部材10を分離してキャリアガイド3,4の端部にまで移動した印字ヘッド6の先端に対して行われるので、印字ヘッド6のメンテナンス作業時における用紙押さえ部材10の干渉を確実に防止することができる。
【0070】
なお、クリーニングやキャッピング等のメンテナンス作業自体については既に公知であるので説明は省略する。
【0071】
以上に述べた通り、この実施形態では、用紙押さえ部材10を印字ヘッド6の先端から取り除く操作が、印字対応領域Xとサービスステーション対応領域Yとの間で実質的に停止したサブキャリア12上で作動する用紙押さえ部材揺動手段35を利用した用紙押さえ部材10の揺動動作と、サブキャリア12および用紙押さえ部材10を停止位置に残してキャリアガイド3,4の端部のサービスステーション8まで移動するメインキャリア11の直線移動動作とを複合して行われるかたちとなり、この際、用紙押さえ部材10の揺動動作によってキャリアガイド3,4の方向性を基準とした用紙押さえ部材10の見かけ上の長さ、つまり、図2の矢視B−Bに投影される用紙押さえ部材10の長さも僅かではあるが短縮されるため(見かけ上の長さは用紙押さえ部材10の長さ×cos15°の長さとなる)、メインキャリア11の直線移動動作のみに頼って用紙押さえ部材10から印字ヘッド6を離脱させる場合と比べ、用紙押さえ部材10から印字ヘッド6を離脱させるために必要とされるメインキャリア11の移動量自体を短縮することができ、キャリアガイド3,4の全長の短縮、更には、プリンタ装置1の小型化が実現される。
【0072】
一方、通常の印字作業を行うために改めてキャリア駆動手段7を作動させ、サブキャリア12と分離しているメインキャリア11にタイミングベルト15による送りを掛けてサービスステーション対応領域Yから印字対応領域Xに向けて移動させると、メインキャリア11が接合分離操作手段16を通過する時点で、接合分離操作手段16がメインキャリア11にサブキャリア12を接合し、再び両者を一体化させる。
【0073】
具体的には、メインキャリア11がキャリアガイド方向に沿ってサブキャリア12に接近していくと、まず、サブキャリア12側のペリカンフック32にメインキャリア11側のロック用スタッド34が接近し、例えば、図4に示されるように、ペリカンフック32のシア33のテーパ面にロック用スタッド34が摺接し、ロック用スタッド34がバネ29の付勢力に抗してペリカンフック32を回転付勢の方向と逆方向つまり図4中のクロックワイズ方向に揺動させながらテーパ面上を移動する。
そして、最終的に、ロック用スタッド34がシア33のテーパ面を乗り越えた段階で、ペリカンフック32がバネ29の付勢力で図4中のカウンタークロックワイズ方向に揺動してペリカンフック32の先端のシア33とロック用スタッド34とを係合させることで第二のロック手段26が作動し、メインキャリア11とサブキャリア12との接合状態が設定限度の力で維持される。
【0074】
この際、第一のロック手段17を介して接合分離操作手段16に保持されたサブキャリア12にメインキャリア11を押し付けて第二のロック手段26を作動させることになるが、ペリカンフック24とロック用スタッド18からなる第一のロック手段17の構成、および、ペリカンフック32とロック用スタッド34からなる第二のロック手段26の構成においては、ペリカンフック32のシア33のテーパ面とロック用スタッド34との摺接でペリカンフック32をバネ29の回転付勢の方向と逆方向に揺動させる際に必要とされる力、つまり、第二のロック手段26のロック操作に必要とされる力に比べ、バネ21を弾性変形させて長穴19に対してペリカンフック24を位置変化させる際に必要とされる力、つまり、第一のロック手段17のロックを解除する操作に必要とされる力の方が大きいので、第一のロック手段17を利用して接合分離操作手段16にサブキャリア12を保持したままの状態で、第二のロック手段26を作動させてサブキャリア12とメインキャリア11とを一体化することができる。
【0075】
この場合、第二のロック手段26の一部を構成するペリカンフック32の先端のシア33とロック用スタッド34との係合が、第一のロック手段17の解除に必要とされる力よりも小さな力で操作されて解除されたことになるから、第二のロック手段26におけるペリカンフック32は、メインキャリア11とサブキャリア12との当接を設定限度の力の範囲内の反力、つまり、第一のロック手段17を解除するために必要とされる力よりも小さな力の反力で検知して第二のロック手段26を作動させたことになる。
また、接合分離操作手段16が第一のロック手段17を介してサブキャリア12を保持することで、サービスステーション対応領域Yから印字対応領域Xに向けて移動するメインキャリア11が自動的にサブキャリア12に接合される構成であるから、広い意味で、接合分離操作手段16には、サービスステーション対応領域Yから印字対応領域Xに向けて移動するメインキャリア11にサブキャリア12を接合する機能があるといって差し支えない。
【0076】
メインキャリア11にサブキャリア12が接合された段階では、未だ第一のロック手段17が作動しており、サブキャリア12は第一のロック手段17を介して設定限度の力で接合分離操作手段16の配設位置に保持されているが、移動するメインキャリア11によってサブキャリア12が押される結果、サブキャリア12を接合分離操作手段16から離間させようとする力が働き、この力が前述した設定限度の力を超えた時点で第一のロック手段17が解除される。
【0077】
具体的には、まず、第一のロック手段17の一部を構成するサブキャリア12側のロック用スタッド18と接合分離操作手段16側のペリカンフック24のシア25とが係合したままの状態で、メインキャリア11に押されるサブキャリア12の移動に伴って、ロック用スタッド18がシア25を引く。
この結果、バネ21が弾性変形して伸び、キャリアガイド方向に沿って穿設された長穴19の長さによって許容される範囲でペリカンフック24と一体の軸20の移動、つまり、姿勢変化を伴わずにペリカンフック24が接合分離操作手段16のプレート部分16a上でサブキャリア12側に移動する位置変化が許容される。
そして、この位置変化によってペリカンフック24のスタッド当接レバー23がプレート部分16a上のリリース用スタッド22に当接すると、スタッド当接レバー23とリリース用スタッド22との当接でペリカンフック24の位置変化が禁止され、同時に、軸20を揺動中心としてスタッド当接レバー23がリリース用スタッド22によって操作されるかたちでペリカンフック24の姿勢変化(揺動)が始まり、この姿勢変化によりペリカンフック24の先端のシア25がロック用スタッド18から外れて、第一のロック手段17による接合分離操作手段16とサブキャリア12との接合が解除される。
【0078】
固定配置された接合分離操作手段16に第一のロック手段17を介して保持されたサブキャリア12を相対移動させることで第一のロック手段17の作動状態を解除する関係上、第一のロック手段17の作動を解除するために必要とされる力、つまり、設定限度の力は、キャリア駆動手段7の出力に比べて小さくしておくことが必要である。
前記と同様、軸20からペリカンフック24の先端までのモーメントまたはスタッド当接レバー23のモーメントあるいはバネ21の弾性係数等を適切に選択することで、この要件は満たされる。
【0079】
そして、一体的に移動するメインキャリア11とサブキャリア12が接合分離操作手段16を通過すると、サブキャリア12の用紙押さえ部材揺動手段35が接合分離操作手段16からの離間を検知し、用紙押さえ部材10を再び印字ヘッド6の先端に揺動復帰させて印字ヘッド6の用紙対向面に位置させ、印字ヘッド6の先端と用紙9との接触で生じる印字ヘッド6の撥水膜のキズ付きや用紙の汚れを防止する。
【0080】
つまり、サブキャリア12が移動して接合分離操作手段16から離間すると、操作桿37の接近検知部を構成するローラ41に対するテーパ面40からの押圧力の減少により、接合分離操作手段16からサブキャリア12が離間したことが検知され、押圧力の減少に応じ、自動復帰バネ39で付勢されたリンク片42が例えば図2中のカウンタークロックワイズ方向に揺動し、操作桿37が図2中で上方に引き上げられて用紙押さえ部材10が図3に示されるようにして印字ヘッド6の用紙対向面つまり初期位置に再配置される。
【0081】
この際、第三のロック手段45の一部を構成する用紙押さえ部材10の突片46が印字ヘッド6側の係合部47と再び係合して第三のロック手段45が作動し、この時点で既に作動している第二のロック手段26と共に、サブキャリア12をメインキャリア11に強固に固定する。
【0082】
接合分離操作手段16に保持されたサブキャリア12にメインキャリア11が接近する際には、前述した第二のロック手段26が作動してから第一のロック手段17の作動状態が解除され、更に、これらの動作に重畳して用紙押さえ部材10の揺動による原位置復帰動作と第三のロック手段45のロック動作が行われることになるが、場合によっては、用紙押さえ部材10の揺動による原位置復帰動作と第三のロック手段45のロック動作に多少の遅れが生じる可能性がある。
仮に、そのような場合であっても、用紙押さえ部材10の揺動が開始される時点では既に第二のロック手段26によってサブキャリア12がメインキャリア11に固定されてサブキャリア12とメインキャリア11との相対位置関係が補償されており、また、この段階では、サブキャリア12はメインキャリア11によって単純に一方向に押されるだけであって、第二のロック手段26を介してサブキャリア12がメインキャリア11に引かれるような動きは全く生じないので、サブキャリア12とメインキャリア11との間に間隙が生じる等の問題はなく、従って、用紙押さえ部材10の原位置復帰のための揺動動作に際して用紙押さえ部材10が印字ヘッド6に引っ掛かったり、用紙押さえ部材10の突片46が印字ヘッド6側の係合部47と適切に嵌合しなくなる等の不都合が発生する心配は全くない。
【0083】
以上でプリンタ装置1の各部が完全に初期の状態に復帰し、通常の印字動作のための態勢が整う。
【産業上の利用可能性】
【0084】
通帳用のプリンタ装置やインクジェット式のプリンタ装置に限らず、印字ヘッドに用紙や冊子等の紙、あるいは、布等の印字媒体が接触する可能性があるプリンタ装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明を適用した一実施形態のプリンタ装置のキャリアガイドの周辺構造を示した斜視図である。
【図2】同実施形態のプリンタ装置においてメインキャリアとサブキャリアが分離した状態を示した側面図である(図1の矢視Aから見た図)。
【図3】同実施形態のプリンタ装置においてメインキャリアとサブキャリアが一体化した状態を示した側面図である(図1の矢視Aから見た図)。
【図4】同実施形態のプリンタ装置においてメインキャリアとサブキャリアが分離した状態を示した断面図である(図1の断面B−Bから見た図)。
【図5】同実施形態のプリンタ装置においてメインキャリアがサービスステーションに移動した状態を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0086】
1 プリンタ装置
2 フレーム
3,4 キャリアガイド
5 キャリア
6 印字ヘッド
7 キャリア駆動手段
8 サービスステーション
9 用紙
10 用紙押さえ部材
11 メインキャリア(キャリアの一部)
12 サブキャリア(キャリアの一部)
12a ステー
13 プライマリープーリ(キャリア駆動手段の一部)
14 ドリブンプーリ(キャリア駆動手段の一部)
15 タイミングベルト(キャリア駆動手段の一部)
16 接合分離操作手段
16a プレート部分
17 第一のロック手段
18 ロック用スタッド
19 長穴
20 軸
21 バネ
22 リリース用スタッド
23 スタッド当接レバー
24 ペリカンフック
25 シア
26 第二のロック手段
27 長穴
28 軸
29 バネ
30 リリース用スタッド
31 スタッド当接レバー
32 ペリカンフック
33 シア
34 ロック用スタッド
35 用紙押さえ部材揺動手段
36 軸
37 操作桿
38 リンク機構
39 自動復帰バネ
40 テーパ面
41 ローラ(接近検知部)
42 リンク片
43 軸
44 軸
45 第三のロック手段
46 突片
47 係合部
X 印字対応領域
Y サービスステーション対応領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印字ヘッド先端と用紙との接触を防止するための用紙押さえ部材を印字ヘッドの用紙対向面に有し、キャリアガイドの端部に移動した印字ヘッドの先端と対向する位置に、前記印字ヘッドをメンテナンスするためのサービスステーションを備えたプリンタ装置であって、
前記印字ヘッドを装着したメインキャリアと前記用紙押さえ部材を揺動可能に装着したサブキャリアとを前記メインキャリアが前記サービスステーション寄りに位置するようにして前記キャリアガイドに移動可能に取り付け、前記メインキャリアを前記キャリアガイドに沿って移動させるキャリア駆動手段を設けると共に、
前記キャリアガイドにおける印字対応領域とサービスステーション対応領域との間に、前記印字対応領域から前記サービスステーション対応領域に向けて移動する前記メインキャリアから前記サブキャリアを分離する一方、前記サービスステーション対応領域から前記印字対応領域に向けて移動する前記メインキャリアに前記サブキャリアを接合する接合分離操作手段を配備し、
前記サブキャリアには、該サブキャリアが前記印字対応領域から前記接合分離操作手段に接近したことを検知して前記用紙押さえ部材を前記印字ヘッド先端から離間させる方向に揺動させる一方、該サブキャリアが前記接合分離操作手段から前記印字対応領域へ離間したことを検知して前記用紙押さえ部材を前記印字ヘッド先端に揺動復帰させる用紙押さえ部材揺動手段を設けたことを特徴とするプリンタ装置。
【請求項2】
前記接合分離操作手段は、前記キャリアガイドに沿って移動する前記メインキャリアの通過を許容する一方、前記印字対応領域から前記サービスステーション対応領域への前記サブキャリアの進入を禁止するように構成され、
この接合分離操作手段に、前記サービスステーション対応領域から前記印字対応領域に向かう方向に移動する前記サブキャリアの移動を設定限度の力で拘束する第一のロック手段を設けると共に、
前記メインキャリアと前記サブキャリアとの間には、前記サービスステーション対応領域から前記印字対応領域に向けて移動する前記メインキャリアと前記第一のロック手段により前記接合分離操作手段に拘束された前記サブキャリアとの当接を前記設定限度の力の範囲内の反力で検知して前記メインキャリアと前記サブキャリアを接合し、この接合を設定限度の力で維持する第二のロック手段が設けられていることを特徴とする請求項1記載のプリンタ装置。
【請求項3】
前記第一,第二のロック手段が、前記キャリアガイドの方向に沿った長穴によって揺動自在に軸支され、前記長穴から一方にオフセットして配備されたバネにより回転付勢されると共に、前記長穴から他方にオフセットして設けられたリリース用スタッドに当接して前記回転付勢の方向と逆方向に揺動されるスタッド当接レバーを備えたペリカンフックと、このペリカンフック先端のシアに係合するロック用スタッドとによって構成されていることを特徴とする請求項2記載のプリンタ装置。
【請求項4】
前記設定限度の力は、前記メインキャリアを前記キャリアガイドに沿って移動させるキャリア駆動手段の出力に比べて小さく設定されていることを特徴とする請求項2または請求項3記載のプリンタ装置。
【請求項5】
前記用紙押さえ部材揺動手段は、前記用紙押さえ部材を前記印字ヘッド先端から離間させる方向に揺動させる操作桿を含むリンク機構と、前記用紙押さえ部材を前記印字ヘッド先端に揺動復帰させる自動復帰バネとを備え、前記操作桿には、前記接合分離操作手段に設けられたテーパ面に摺接して該操作桿を作動させる接近検知部が設けられていることを特徴とする請求項1,請求項2,請求項3または請求項4記載のプリンタ装置。
【請求項6】
前記接近検知部が、前記操作桿の端部に回転自在に軸支されたローラによって構成されていることを特徴とする請求項5記載のプリンタ装置。
【請求項7】
前記用紙押さえ部材と前記メインキャリアとの間に、前記用紙押さえ部材の揺動を許容すると共に前記キャリアガイドの方向に沿った前記用紙押さえ部材と前記メインキャリアとの間の相対移動を禁止する第三のロック手段が設けられていることを特徴とする請求項5または請求項6記載のプリンタ装置。
【請求項8】
前記第三のロック手段が、前記用紙押さえ部材から揺動方向に突出した突片と、この突片に係合する前記メインキャリア側の係合部とによって構成されていることを特徴とする請求項7記載のプリンタ装置。
【請求項9】
前記用紙押さえ部材と前記印字ヘッドとの間に、前記用紙押さえ部材の揺動を許容すると共に前記キャリアガイドの方向に沿った前記用紙押さえ部材と前記印字ヘッドとの間の相対移動を禁止する第三のロック手段が設けられていることを特徴とする請求項5または請求項6記載のプリンタ装置。
【請求項10】
前記第三のロック手段が、前記用紙押さえ部材から揺動方向に突出した突片と、この突片に係合する前記印字ヘッド側の係合部とによって構成されていることを特徴とする請求項9記載のプリンタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−175707(P2006−175707A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370990(P2004−370990)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000168285)エヌイーシーコンピュータテクノ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】