説明

プリント基板からの電磁放射簡易計算方法、プリント基板からの電磁放射簡易計算装置及び、電磁放射簡易計算プログラムを記録した記録媒体

【課題】 精度が良く、電界をベクトルとして考えて打ち消しの場合も考慮した、基板設計CADの中で会話的に利用できる電界強度計算の装置を提供する。
【解決手段】 電界強度計算手段1は、プリント基板レイアウトCADのデータaを読んで、配線ごとにその配線をドライブするICのピン、レシーバとなっているICのピンを抽出し、IC・配線情報bから得られるそれぞれのICと配線の情報と、電界観測点までの距離などのパラメータが定義された計算パラメータcの情報を使って、微小ループアンテナが作る電界の式に基づき、その配線が作る電界強度を計算し、結果データdを生成する。結果表示手段2は、結果データdから、計算パラメータcに定義してある許容値をこえている配線を抽出し、その周波数とネット名の一覧eを出力しまた、電界ベクトルを周波数ごとにベクトル加算し、基板全体の電界を得、周波数−電界強度グラフfを出力する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はプリント基板からの電磁放射簡易計算方法、プリント基板からの電磁放射簡易計算装置及び、電磁放射簡易計算プログラムを記録した記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】プリント基板からの電磁放射を押さえることが課題となっている。そのアプローチとして、たとえば、特開平10−91663や特開平11−94889に詳述されているように、シミュレーション、数値解析によって電界強度を求める手法が提案されている。
【0003】特開平10−91663では、プリント基板を升目に切り、各升目が作る電界を計算する方法を採っている。
【0004】また、特開平11−94889では、配線を伝送線路として扱い、また、電源・グランドプレーンもメッシュに切り、モーメント法で解くことにより精度を上げている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上述した特開平10−91663では、プリント基板を升目に切り、各升目が作る電界を計算するが、近接している升目からの電界が逆向きの場合があり、基板全体としては、観測点において打ち消しに働くことがあることを考慮していない。また、配線を流れる電流が、配線のどこでも一定として微小ループアンテナの作る電界の式で計算しているが、最近の高速な回路においては波長が短くなり電流は一定でなく、配線全体を微小ループとみなすのは無理である。よって、精度の面で問題がある。
【0006】また、特開平11−94889では、配線を伝送線路として扱い、また、電源・グランドプレーンもメッシュに切り、モーメント法で解くことにより精度を上げているが、基板をメッシュに切り、モーメント法で解くことは処理時間がかかりすぎ、特開平10−91663のように、基板CADにおいて対話的に設計していく中では、利用しづらいという問題がある。
【0007】基板設計をおこなうという意味では、基板設計CADの中で設計中に良否判定ができる方がよく、また、その方が修正も容易である。完全に設計してしまった後で、悪いことがわかっても、それを修正するのは難しく、基板の再設計になってしまうなど、コスト・時間の面で不利である。基板開発では、配線作業の中で、高速に良否判定できるものが望まれている。
【0008】そこで、本発明では、計算処理がモーメント法ほどは重くならない微小ループアンテナからの電界強度の式を用いることで高速性を確保し、かつ、波長を考慮して、微小ループのサイズを制限して精度を上げ、電界をベクトルとして考えて打ち消しの場合も考慮した、基板設計CADの中で会話的に利用できる電磁放射簡易計算方法、電磁放射簡易計算装置及び、電磁放射簡易計算プログラムを記録した記録媒体を提供する。
【0009】
【課題を解決するための手段】本願の第1の発明は、プリント基板からの電磁放射簡易計算方法において、前記プリント基板におけるネット(配線)及びICの物理的レイアウトを規定するプリント基板レイアウトデータと前記IC間の出力電圧や動作周波数などの情報伝達条件を規定するIC・配線情報と電界観測対象のネット名や観測対象の周波数などの電界観測条件を規定する計算パラメータをそれぞれ格納するファイルを予め具備し以下のStepを行うことを特徴とする。
Step1:前記計算パラメータを読んで、セグメントの長さl、電界の観測点までの距離r、計算する周波数の範囲fmin、fmax、計算対象の前記ネット名を得る。
Step2:前記計算対象のネットごとに、以下のStep3〜Step5処理をおこなう。
Step3:1)前記プリント基板レイアウトデータを読んで、前記ネットにつながっているICの出力ピンと、入力ピンを取り出す。
2)前記IC・配線情報を読んで、前記ICの出力ピンと入力ピンの情報と、前記ネットの動作周波数f0を取り出す。
3)高調波ごとの電圧振幅V(n*f0)を計算する。このとき、計算する周波数の前記範囲fmin、fmaxを考慮して、その範囲の高調波だけを選び出す。
Step4:1)前記プリント基板レイアウトデータを読んで、前記ネットの配線幅w、配線厚h、プレーンまでの距離s、誘電率ε、配線経路、配線長を得る。
2)前記1)の情報に基づき前記セグメントにおけるインダクタンスLt,キャパシタンスCtを求める。
3)前記ネットの配線長と前記セグメントの長さを考えて、前記ネットを前記セグメントからなる等価回路に置き換える。
Step5:前記選ばれた高調波ごとに、以下の処理をおこなう。
1)前記ネットの各セグメントごとに前記インダクタンスLtに流れる電流を求める。
2)求められた前記電流から前記ネットの各セグメントごとに電界の大きさを求める。そして前記各セグメントの始点、終点の前記プリント基板上の座標を使って前記電界をベクトル化する。
3)前記各セグメントごとの電界ベクトルを加算し前記ネット全体からの電界を求める。
Step6:Step2で求められた前記計算対象のネットごと前記電界ベクトルを、前記高周波ごとに加算して、基板プリント全体の電界を得る。
【0010】本願の第2の発明は、第1の発明における前記Step3の前記高調波ごとの電圧振幅V(n*f0)は、前記ICの出力ピンにおける電圧波形を台形波と定義し、前記台形波のフーリエ変換により求めることを特徴とする。
【0011】本願の第3の発明は、第1の発明における前記Step3の前記高調波ごとの電圧振幅V(n*f0)の計算を行わずに、前期Step5の1)にて前記インダクタンスLtに流れる電流をシミュレーションにより求めることを特徴とする。
【0012】本願の第4の発明は、プリント基板からの電磁放射簡易計算装置において、前記プリント基板におけるネット(配線)及びICの物理的レイアウトを規定するプリント基板レイアウトデータと前記IC間の出力電圧や動作周波数などの情報伝達条件を規定するIC・配線情報と電界観測対象のネット名や観測対象の周波数などの電界観測条件を規定する計算パラメータをそれぞれ格納するファイルを予め具備し、以下のStep1〜Step5を行う電界強度計算手段1と、前記電界強度計算手段1によって得られた前記計算対象のネットごと前記電界ベクトルを、前記高周波ごとに加算して周波数−電界強度グラフfを出力する結果表示手段2とを含んで構成されることを特徴とする。
Step1:前記計算パラメータを読んで、セグメントの長さl、電界の観測点までの距離r、計算する周波数の範囲fmin、fmax、計算対象の前記ネット名を得る。
Step2:前記計算対象のネットごとに、以下のStep3〜Step5処理をおこなう。
Step3:1)前記プリント基板レイアウトデータを読んで、前記ネットにつながっているICの出力ピンと、入力ピンを取り出す。
2)前記IC・配線情報を読んで、前記ICの出力ピンと入力ピンの情報と、前記ネットの動作周波数f0を取り出す。
3)高調波ごとの電圧振幅V(n*f0)を計算する。このとき、計算する周波数の前記範囲fmin、fmaxを考慮して、その範囲の高調波だけを選び出す。
Step4:1)前記プリント基板レイアウトデータを読んで、前記ネットの配線幅w、配線厚h、プレーンまでの距離s、誘電率ε、配線経路、配線長を得る。
2)前記1)の情報に基づき前記セグメントにおけるインダクタンスLt,キャパシタンスCtを求める。
3)前記ネットの配線長と前記セグメントの長さを考えて、前記ネットを前記セグメントからなる等価回路に置き換える。
Step5:前記選ばれた高調波ごとに、以下の処理をおこなう。
1)前記ネットの各セグメントごとに前記インダクタンスLtに流れる電流を求める。
2)求められた前記電流から前記ネットの各セグメントごとに電界の大きさを求める。そして前記各セグメントの始点、終点の前記プリント基板上の座標を使って前記電界をベクトル化する。
3)前記各セグメントごとの電界ベクトルを加算し前記ネット全体からの電界を求める。
【0013】本願の第5の発明は、第4の発明における前記Step3の前記高調波ごとの電圧振幅V(n*f0)は、前記ICの出力ピンにおける電圧波形を台形波と定義し、前記台形波のフーリエ変換により求めることを特徴とする。
【0014】本願の第6の発明は、第4の発明における前記Step3の前記高調波ごとの電圧振幅V(n*f0)の計算を行わずに、前期Step5の1)にて前記インダクタンスLtに流れる電流をシミュレーションにより求めることを特徴とする。
【0015】本願の第7の発明は、データ処理装置に第1の発明におけるStep1〜Step6を実行させる電磁放射簡易計算プログラムを記録した記録媒体であることを特徴とする。
【0016】[作用]本発明は、プリント基板の配線から放射される電磁波の電界強度を計算し、あらかじめ設定しておいた許容値をこえる配線について報告をするとともに、各配線がつくる電界をベクトル加算することにより、基板全体から放射される電磁波の電界強度のグラフを出力するものである。
【0017】図1において、電界強度計算手段1は、プリント基板レイアウトCADのデータaを読んで、配線ごとにその配線をドライブするICのピン、レシーバとなっているICのピンを抽出し、IC・配線情報bから得られるそれぞれのICと配線の情報と、電界観測点までの距離などのパラメータが定義された計算パラメータcの情報を使って、微小ループアンテナが作る電界の式に基づき、その配線が作る電界強度を計算し、結果データdを生成する。結果表示手段2は、結果データdから、計算パラメータcに定義してある許容値をこえている配線を抽出し、その周波数とネット名の一覧eを出力する。
【0018】また、結果表示手段2は、結果データdを読んで、電界ベクトルを周波数ごとにベクトル加算し、基板全体の電界を得、周波数−電界強度グラフfを出力する。以上により、電磁波の放射が大きい配線を特定でき、その配線を修正することにより、電磁放射の少ないプリント基板設計が可能になる。
【0019】また、基板全体から放射される電磁波の電界強度の計算では、ベクトルとして計算しているので、同じ大きさの電流が逆向きに流れるような配線ペアがある場合でも、正しく電界が打ち消すように処理することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0021】図1は、本発明の一実施の形態を示す構成図である。
【0022】図1を参照すると、本プリント基板から放射される電磁波の電界強度計算装置は、プリント基板レイアウトCADのデータaを読んで、配線ごとにその配線をドライブするICのピン、レシーバとなっているICのピンを抽出し、IC・配線情報bから得られるそれぞれのICと配線の情報と、電界観測点までの距離などのパラメータが定義された計算パラメータcの情報を使って、微小ループアンテナが作る電界の式に基づき、その配線が作る電界強度を計算して、結果データdを生成する電界強度計算手段1と、結果データdを読んで、計算パラメータcに定義してある許容値をこえている配線を抽出し、その周波数とネット名の一覧eと、電界ベクトルを周波数ごとにベクトル加算して、基板全体の電界を得て、周波数−電界強度グラフfを出力する結果表示手段2からなる。
【0023】次に、本発明の実施の形態の動作について図面を参照して説明する。
【0024】図2は、典型的な4層のプリント基板を示したものである。1層目はx方向の配線であり、2層目はグランドプレーン、2層目は電源プレーン、4層目はy方向の配線である。IC1からのIC2への配線NET1は、IC1の2番ピンからvia1までを 1層目をx方向に走り、次に4層目をy方向にvia2まで走り、そして、1層目をx方向にIC2の1番ピンまで走っている。このような、接続するICのピンとピン、配線名、配線経路の座標、配線幅、層間の距離、導体の厚さなどの情報が、プリント基板レイアウトデータaである。
【0025】図3は、IC・配線情報bの例である。IC1の2番ピンは出力ピンであり、その出力の論理値0と論理値1の電圧スウィング幅が3.1Vであり、また、その電圧変動が立ち上がり時間3.2nsで起こることが記述されている。また、IC2の 1番ピンの入力容量は、10pFである。これらの情報は、半導体メーカーが提供しているIC、LSIのデータシートから得ることができる。配線NET1ついては、33MHzの信号が伝わることが記述してある。この情報は、回路の仕様で定義されているものである。
【0026】以上のように、このIC・配線情報bは、回路設計者であれば当然知っており、定義可能な情報である。
【0027】電界強度計算手段1は、周波数ごとに、各配線からの電界を計算し、それをベクトル加算することで、プリント基板全体の電界を求めていく。
【0028】まず、その電界の計算の理論について、説明する。
【0029】図4は、2本の平行導体線に、同じ大きさで、流れる向きが異なる電流が流れている場合に、この2つの導体が作る最も強い電界を空間的なベクトルとして表したものである。最も強い電界は、2平行導体線を含む平面上に、導体線に平行になっている。また、向きは、近い導体線に流れる電流の向きに等しい。
【0030】この電界の大きさを求める式は、微小ループ電流が作る電界として知られているもので、次式で計算できる。
【0031】
E [V/m] = 131.6e-14 * I * f^2 * l * d / r (式1)
I = 導体線に流れる電流 [A]
f = 周波数 [Hz]
l = 導体線の長さ [m]
d = 導体線間の距離 [m]
r = 2つの導体線が作る長方形の中心から電界の観測点までの 距離 [m]
なお、この式の導出にあたっては、1) 電界の観測点までの距離rが、導体線長l、導体線間dに比べて十分に大きいこと。
【0032】2) 電流が、導体線のどこでも同じ大きさ、同じ位相であること。
【0033】いいかえると、考えている周波数の波長よりも、十分に短いことという仮定を元にした近似がおこなわれている。
【0034】図2のような電源プレーンやGNDプレーンを有する多層基板においては、配線を流れる電流に対して、配線と隣接する電源プレーンまたはGNDプレーンが鏡面となり、同じ大きさで逆向きの鏡像(イメージ)の電流が流れていると考えることが出来る。この状況は、まさに、上述の2本の平行導体線と同じである。
【0035】ただし、式の導出時の仮定から、次の条件を満たさなければならない。
【0036】1) 観測点が基板から十分に遠いこと。
【0037】通常、基板のサイズは大きくても50cm程度である。観測点は、EMC規制での電界測定方法で考えると、3mもしくは10mなので、十分に満足できる。
【0038】2) 基板上の配線に一様な電流が流れていること。
【0039】高速な回路では、周波数が高いので、配線が長い場合には、一様に電流が流れていると見なすことはできない。一様と見なせる長さに分割する必要がある。
【0040】また、基板上には多数の配線があり、基板全体からの電界を計算するためには、それぞれの配線からの電界を、ベクトル的に加算する必要がある。図5は、その様子を示したものである。電流I1が作る電界E1=(E1x, 0)、電流I2が作る電界E2=(E2x, E2y),電流I3が作る電界E3=(-E3x, 0)があり、基板全体の電界Etotalは、次式に当てはめることで求めることができる。
Etotal = (Etx, Ety) (式2−1)
Etx = E1x + E2x + E3x + ..... + Emx (式2−2)
Ety = E1y + E2y + E3y + ..... + Emy (式2−3)
| Etotal | = sqrt(Etx^2 + Ety^2) (式3)
各電流が作る電界を求めている観測点の座標は、それぞれの配線の真上であり、基板全体からの電界を求めている観測点とは異なっているので、上述の方法は正確ではないが、電界の観測点までの距離が、基板のサイズよりも十分に大きいならば、このような近似計算で問題はない。
【0041】次に、(式1)の各パラメータの求めかたについて、説明する。
【0042】上述のように、長い配線は、電流が一様と見なせる長さに分割する必要がある。以降、配線を分割したそれぞれをセグメントと呼び、その長さをセグメントの長さと呼ぶ。
【0043】セグメントの長さlは、電磁放射として興味を持っている最大の周波数に合わせて、決定する。例えば、EMC規制で問題とされる1GHzまで対象とするならば、プリント基板の材質中での1GHzの波長を求め、その10分の1程度に設定する。典型的なプリント基板だと1cmになる。この長さは、配線を流れる電流の分布を考えたときに、その電流がほぼ一定に流れているとみなせる長さである。
【0044】電界の観測点までの距離rは、EMC規制で定義している距離に設定すれば、算出される電界強度と規制値を比較することが可能になる。3mまたは10mを設定する。
【0045】処理速度を考えると、放射の大きくなりそうな特定のネットのみを計算対象した方がよいこともある。そこで、計算対象のネット名を指定することが考えられる。
【0046】同様に、計算する周波数の範囲も指定できた方がよい。EMC規制では30MHzから1GHzの範囲で規制がおこなわれているが、規制自体今後変更される可能性もあるし、処理速度を上げるために、高周波だけに絞りたいこともあるだろう。
【0047】以上のセグメントの長さl、電界の観測点までの距離r、計算対象のネット名、計 算する周波数の範囲を、電界強度計算手段1は、利用者があらかじめ作成した計算パラメータcから得る。なお、計算パラメータcには、結果表示手段2が使用する電界の許容値も設定されている。
【0048】図6は、計算パラメータcの例である。
【0049】2つの導体線間の距離dは、鏡像の電流を考えることから、プリント基板における信号層と電源・GNDプレーン間の距離sの2倍であり、プリント基板レイアウトデータaを参照することで得られる。
【0050】周波数fに対する電流Iは、ICの出力ピンの電圧波形からフーリエ変換により、各 周波数での電圧振幅を求め、そのようなsin波電圧源がIC出力ピンにあり、プリント基板上の配線を伝送線路とした回路を考え、解くことで求めることができる。
【0051】電界強度計算手段1は、まず、プリント基板レイアウトデータaを読んで、配線名とその配線が接続しているICとそのピン番号を取り出す。そして、IC・配線情報 bを参照して、配線に流れる信号の出力ピンにおける電圧波形を図7のように定義する。立上り時間で電圧スウィングの電圧値まで直線で変化し、それから動作周波数の周期の半分から立上り時間を引いた時間だけ、その電圧値を保持し、その後、立下り時間で電圧値ゼロまで直線で変化し、同じく動作周波数の周期の半分から立下り時間を引いた時間だけ、電圧ゼロを保持する。
【0052】このような台形波の第n次高調波(基本周波数をf0とするとf=n*f0と書ける)の電圧振幅 V(n*f0)は、フーリエ変換により、次式で求めることができる。ただし、立上り時間と立下り時間は、等しいとしている。
【0053】
V(n*f0) = 2 Vs d sin(n π d) / (n π d) * sin(n π tr f0) / (n π tr f0) (式4)
f0 = 動作周波数 (基本周波数)
Vs = 電圧スウィング d = デューティ。上述の電圧波形の定義より、値は0.5 tr = 立上り時間次に、配線をモデル化する。計算パラメータcで指定されたセグメントの長さlを単位長さとし、この単位長さ当たりの配線のインダクタンスLtとキャパシタンス Ctを求める。この計算式は、マクロストリップ、ストリップラインなど、配線がどの層にあるかで変わるが、多数の文献(例えば、Dally Poulton著DigitalSystem Engineering)で計算式が紹介されている。ここでは、マイクロストリップの場合について示す。
【0054】
Ct = w ε / s + 2πε / (log(s/h)) (式5)
Lt = με / Ct (式6)
w = 線幅 s = 配線とプレーン間の距離 h = 配線の厚さ ε = 誘電率 μ = 透磁率そして、プリント基板上の配線をこの単位長さで分割し、図8のような回路モデルを生成する。このモデルは、各セグメントを、集中定数 Lt,Ctで表現したものである。Lt,CtのL型の接続が基本なり、配線長をセグメントの長さlで割った分だけのはしご回路になっている。最終段には、配線の終端からIC側を見た負荷として、ICの入力ピンの容量Ciが接続される。
【0055】なお、この例では各セグメントをLt,Ctの接続で定義しているが、線路の損失として抵抗R、コンダクタンスGを加えたものにしてもよい。抵抗Rは表皮効果も考えた導体の抵抗であり、コンダクタンスGは基板の導体と導体を絶縁している誘電体の誘電損失を表すものである。
【0056】電界計算のための電流Iを得るには、各セグメントのインダクタンスLtに流れる電流を求めればよい。図9のように、Ctに並列につながる右側のインピーダンスを Z(k−1)、Lt,Ctが接続したときのインピーダンスをZ(k)、Ltに流れる電流をI(k),Z(k−1)に流れる電流をI(k−1)とすると、次の漸化式で求めることができる。
【0057】
k = m, m-1, m-2, … 1 (mはセグメントの数)
ω = 2 π n f0 (f0は動作周波数。 n倍することにより第n次高調 波となる)
Z(0) = 1 / (jω Ci) (式7−1)
Z(k) = jωLt + Z(k-1) / (1 + jωCt Z(k-1)) (式7−2)
I(m) = V(n*f0) / Z(m) (式8−1)
I(k-1) = I(k) / (1 + jω Ct Z(k-1)) (式8−2)
以上の処理により、各セグメントが作る電界が、(式1)によって求めることができる。1つの配線がつくる電界は、各セグメントが作る電界をベクトルとして加算すればよい。また、基板全体がつくる電界は、各配線が作る電界をベクトルとして加算すればよい。そして、さらに第n次高調波ごとにおこなえば、周波数ごとの電界強度を求めることができる。
【0058】以上をまとめると、次のような処理フローになる。
【0059】Step1計算パラメータcを読んで、セグメントの長さl、電界の観測点までの距離r、計算する周波数の範囲fmin、fmax、計算対象のネット名を得る。
【0060】Step2計算対象ネットごとに、以下の処理をおこなう。
【0061】Step31)プリント基板レイアウトデータaを読んで、ネットにつながっているICの出力ピンと、入力ピンを取り出す。
【0062】2)IC・配線情報bを読んで、ICの出力ピンと入力ピンの情報と、ネットの動作周波数f0を取り出す。
【0063】3)(式4)を用いて、高調波ごとの電圧振幅V(n*f0)を計算する。このとき、計算する周波数の範囲fmin、fmaxを考慮して、その範囲の高調波だけを選び出す。
【0064】Step41)プリント基板レイアウトデータaを読んで、ネットの配線幅w、配線厚h、プレーンまでの距離s、誘電率ε、配線経路、配線長を得る。
【0065】2)(式5),(式6)を用いて、セグメントにおけるインダクタンスLt, キャパシタンスCtを求める。
【0066】3)配線長とセグメントの長さを考えて、図8に示されるような等価回路を生成する。このとき、各セグメントの始点と終点に対応するプリント基板上での座標も定義しておく。
【0067】Step5高調波ごとに、以下の処理をおこなう。
【0068】Step61)(式7−1),(式7−2),(式8−1),(式8−2)を用いて、各セグメントごとにインダクタンスLtに流れる電流を求める。
【0069】2)(式1)を用いて、各セグメントごとに電界の大きさを求める。そして各セグメントの始点、終点のプリント基板上の座標を使って、電界をベクトル化する。つまり、電界の向きを、始点から終点に向かう向きとする。
【0070】3)各セグメントごとの電界のベクトルを、(式2−1),(式2− 2),(式2−3)を用いて加算し、ネット全体からの電界を求め る。
【0071】以上により、ネットごとに、各高調波ごとの電界ベクトルが求められる。これが計算結果データdである。図10は、この例である。
【0072】結果表示手段2は、計算パラメータcを読んで、電界の許容値を得、結果データdを読んで、その許容値と照らし合わせて、超えている周波数とそのネット名一覧eを出力する。図11は、この例である。
【0073】また、電界ベクトルを、周波数ごとに加算して、基板全体の電界を得、電界の許容値とともに、横軸を周波数、縦軸を電界としたグラフfを出力する。図12は、この例である。
【0074】上述の実施の形態では、各セグメントに流れる電流の計算において、ICの出力ピンの電圧波形を定義して、それを元に解いている。
【0075】ICの出力回路のシミュレーションモデルがあれば、そのモデルを多段にセグメントで表現した上述の配線モデルに接続し、シミュレーションによって、直接、各セグメントに流れる電流時間波形を求めることができる。
【0076】このようなシミュレーションをおこなうコンピュータプログラムとして、SPICEが有名である。
【0077】図13は、このシミュレーションにかける回路モデルの一例である。ICの出力回路は、CMOS回路として、プルアップ側のMOS FETとプルダウン側のMOS FETからなっている。各、MOS FETの電気的な動作特性は、あらかじめライブラリとして定義されている。また、IC、LSIのパッケージの部分も抵抗、インダクタンス、キャパシタンスで等価回路が構成されている。
【0078】シミュレーションは、動作周波数に合わせて、MOS FETのゲートに論理0と論理1に相当する電圧時間波形(矩形波)を与え、それによってMOS FETのON、OFFが起こり、出力の論理値に応じた電圧が出力ピンに発生する。そして、この電圧と電流が、接続されている配線を伝わっていく。シミュレーションにより、この過渡的な過程を、時間領域での波形として得ることができる。
【0079】電流波形が求められれば、それをフーリエ変換することによって、周波数と電流の大きさに分解でき、以降は、上述の実施例と同様の処理をおこなうことで、電界を計算することができる。
【0080】上述の実施の形態では、この時間領域での波形を、立上り時間と周期で定義しているが、それは近似であり、より精度を上げるためには、このようなシミュレーションによって波形を得る方がよい。
【0081】次に、図14は、本発明の第二の実施の形態を示す構成図である。
【0082】図14を参照すると、本発明の第二の実施の形態は、電磁放射簡易計算プログラムを記録した記録媒体3を備える。この記録媒体3は、磁気ディスク、半導体メモリその他の記録媒体であって良い。
【0083】電磁放射簡易計算プログラムは、記録媒体3からデータ処理装置4に読み込まれ、プリント基板レイアウトデータaとIC・配線情報bと計算パラメータcに基づきデータ処理装置4の動作を制御する。データ処理装置4は、電磁放射簡易計算プログラムの制御により本発明の第一の実施の形態におけるStep1〜Step6の処理を実行した後、計算パラメータcを読んで、電界の許容値を得、結果データdを読んで、その許容値と照らし合わせて、許容値を超えているネット名一覧eを出力し、かつ、電界ベクトルを、周波数ごとに加算して、基板全体の電界を得、電界の許容値とともに、横軸を周波数、縦軸を電界とした周波数−電界強度グラフfを出力する。
【0084】
【発明の効果】以上説明したように、本発明は、以下のような効果を有する。
【0085】1.微小ループアンテナが作る電界の遠方界の計算式を用いているために、モーメント法などの他の方法に比べて、高速に電界強度が計算できる。
【0086】2.微小ループとみなせるように、配線を波長に合わせて分割して、それぞれに流れる電流をもとめている。これにより、微小ループアンテナが作る電界の計算式の導出条件に合った計算ができるため、精度よく電界強度を求められる。
【0087】3.電界はベクトルで考えているために、同じ大きさ、流れる向きが逆の2つの電流が作る電界の打ち消しを考慮した、基板全体がつくる電界も正しく計算できる。
【0088】4.各配線に対して、周波数ごとに電界が計算されるので、電磁放射が多い配線を特定することができ、配線経路の修正、IC・LSIのドライブ能力を下げるなどの対策が可能になる。
【0089】5.基板全体の放射量が分かるので、EMC規制にパスするかしないかが判定できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態を示す構成図である。
【図2】4層のプリント基板を示す図である。
【図3】IC・配線情報bの一例を示す図である。
【図4】2本の平行導体線に、同じ大きさで、流れる向きが異なる電流が流れている場合の最も強い電界を空間的なベクトルとして表した図である。
【図5】基板全体からの電界を計算するための説明図である。
【図6】本発明における計算パラメータcの一例を示す図である。
【図7】配線に流れる信号の出力ピンにおける電圧波形を示す図である。
【図8】プリント基板上の配線を単位長さで分割した回路モデルを示す図である。
【図9】各セグメントのインダクタンスLtに流れる電流を求める説明図である。
【図10】ネットごとに、各高調波ごとの電界ベクトルを求めた一例を示す図である。
【図11】許容値を超えている周波数とそのネット名の一例を示す図である。
【図12】横軸を周波数、縦軸を電界としたときの基板全体の電界をグラフとして示す図である。
【図13】ICの出力回路のシミュレーションモデルの一例を示す図である。
【図14】本発明の第二の実施の形態を示す構成図である。
【符号の説明】
1 電界強度計算手段
2 結果表示手段
3 記録媒体
4 データ処理装置
a プリント基板レイアウトデータ
b IC・配線情報
c 計算パラメータ
d 結果データ
e 許容値を超えているネット名一覧
f 周波数−電界強度グラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 プリント基板からの電磁放射簡易計算方法において、前記プリント基板におけるネット(配線)及びICの物理的レイアウトを規定するプリント基板レイアウトデータと前記IC間の出力電圧や動作周波数などの情報伝達条件を規定するIC・配線情報と電界観測対象のネット名や観測対象の周波数などの電界観測条件を規定する計算パラメータをそれぞれ格納するファイルを予め具備し以下のStepを行うことを特徴とするプリント基板からの電磁放射簡易計算方法。
Step1:前記計算パラメータを読んで、セグメントの長さl、電界の観測点までの距離r、計算する周波数の範囲fmin、fmax、計算対象の前記ネット名を得る。
Step2:前記計算対象のネットごとに、以下のStep3〜Step5処理をおこなう。
Step3:1)前記プリント基板レイアウトデータを読んで、前記ネットにつながっているICの出力ピンと、入力ピンを取り出す。
2)前記IC・配線情報を読んで、前記ICの出力ピンと入力ピンの情報と、前記ネットの動作周波数f0を取り出す。
3)高調波ごとの電圧振幅V(n*f0)を計算する。このとき、計算する周波数の前記範囲fmin、fmaxを考慮して、その範囲の高調波だけを選び出す。
Step4:1)前記プリント基板レイアウトデータを読んで、前記ネットの配線幅w、配線厚h、プレーンまでの距離s、誘電率ε、配線経路、配線長を得る。
2)前記1)の情報に基づき前記セグメントにおけるインダクタンスLt,キャパシタンスCtを求める。
3)前記ネットの配線長と前記セグメントの長さを考えて、前記ネットを前記セグメントからなる等価回路に置き換える。
Step5:前記選ばれた高調波ごとに、以下の処理をおこなう。
1)前記ネットの各セグメントごとに前記インダクタンスLtに流れる電流を求める。
2)求められた前記電流から前記ネットの各セグメントごとに電界の大きさを求める。そして前記各セグメントの始点、終点の前記プリント基板上の座標を使って前記電界をベクトル化する。
3)前記各セグメントごとの電界ベクトルを加算し前記ネット全体からの電界を求める。
Step6:Step2で求められた前記計算対象のネットごと前記電界ベクトルを、前記高周波ごとに加算して、基板プリント全体の電界を得る。
【請求項2】 前記Step3の前記高調波ごとの電圧振幅V(n*f0)は、前記ICの出力ピンにおける電圧波形を台形波と定義し、前記台形波のフーリエ変換により求めることを特徴とする請求項1記載のプリント基板からの電磁放射簡易計算方法。
【請求項3】 前記Step3の前記高調波ごとの電圧振幅V(n*f0)の計算を行わずに、前期Step5の1)にて前記インダクタンスLtに流れる電流をシミュレーションにより求めることを特徴とする請求項1記載のプリント基板からの電磁放射簡易計算方法。
【請求項4】 プリント基板からの電磁放射簡易計算装置において、前記プリント基板におけるネット(配線)及びICの物理的レイアウトを規定するプリント基板レイアウトデータと前記IC間の出力電圧や動作周波数などの情報伝達条件を規定するIC・配線情報と電界観測対象のネット名や観測対象の周波数などの電界観測条件を規定する計算パラメータをそれぞれ格納するファイルを予め具備し、以下のStep1〜Step5を行う電界強度計算手段1と、前記電界強度計算手段1によって得られた前記計算対象のネットごと前記電界ベクトルを、前記高周波ごとに加算して周波数−電界強度グラフfを出力する結果表示手段2とを含んで構成されることを特徴とするプリント基板からの電磁放射簡易計算装置。
Step1:前記計算パラメータを読んで、セグメントの長さl、電界の観測点までの距離r、計算する周波数の範囲fmin、fmax、計算対象の前記ネット名を得る。
Step2:前記計算対象のネットごとに、以下のStep3〜Step5処理をおこなう。
Step3:1)前記プリント基板レイアウトデータを読んで、前記ネットにつながっているICの出力ピンと、入力ピンを取り出す。
2)前記IC・配線情報を読んで、前記ICの出力ピンと入力ピンの情報と、前記ネットの動作周波数f0を取り出す。
3)高調波ごとの電圧振幅V(n*f0)を計算する。このとき、計算する周波数の前記範囲fmin、fmaxを考慮して、その範囲の高調波だけを選び出す。
Step4:1)前記プリント基板レイアウトデータを読んで、前記ネットの配線幅w、配線厚h、プレーンまでの距離s、誘電率ε、配線経路、配線長を得る。
2)前記1)の情報に基づき前記セグメントにおけるインダクタンスLt,キャパシタンスCtを求める。
3)前記ネットの配線長と前記セグメントの長さを考えて、前記ネットを前記セグメントからなる等価回路に置き換える。
Step5:前記選ばれた高調波ごとに、以下の処理をおこなう。
1)前記ネットの各セグメントごとに前記インダクタンスLtに流れる電流を求める。
2)求められた前記電流から前記ネットの各セグメントごとに電界の大きさを求める。そして前記各セグメントの始点、終点の前記プリント基板上の座標を使って前記電界をベクトル化する。
3)前記各セグメントごとの電界ベクトルを加算し前記ネット全体からの電界を求める。
【請求項5】 前記Step3の前記高調波ごとの電圧振幅V(n*f0)は、前記ICの出力ピンにおける電圧波形を台形波と定義し、前記台形波のフーリエ変換により求めることを特徴とする請求項4記載のプリント基板からの電磁放射簡易計算装置。
【請求項6】 前記Step3の前記高調波ごとの電圧振幅V(n*f0)の計算を行わずに、前期Step5の1)にて前記インダクタンスLtに流れる電流をシミュレーションにより求めることを特徴とする請求項4記載のプリント基板からの電磁放射簡易計算装置。
【請求項7】 データ処理装置に請求項1におけるStep1〜Step6を実行させる電磁放射簡易計算プログラムを記録した記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図8】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図12】
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【図14】
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【公開番号】特開2001−165974(P2001−165974A)
【公開日】平成13年6月22日(2001.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−349409
【出願日】平成11年12月8日(1999.12.8)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】