説明

プリント配線基板の製造方法及びプリント配線基板

【課題】
回路形成後のポリイミド層と導体層との間において充分な密着力が得られ、かつ熱負荷後の密着力低下を防ぐことを可能としたフレキシブル回路基板の製造方法及び該製造方法により得られるフレキシブル回路基板を提供する。
【解決手段】
基材となるプラスチックフィルムの表面に対し、描画用溶液を回路パターンとして印刷する印刷工程と、回路パターン印刷済みプラスチックフィルムを金属錯体を溶融してなる超臨界二酸化炭素溶液に浸漬する浸漬工程と、超臨界二酸化炭素溶液中にてプラスチックフィルムの表面に印刷された回路パターン部分のみに金属錯体を構成する金属のみを析出させる金属析出工程と、を備えてなる製造方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプリント配線基板の製造方法及びプリント配線基板に関する発明であって、具体的には、従来の転写法やエッチング法等によるプリント配線基板の製造方法とは異なる新規なプリント配線基板製造方法及び該製造方法により得られるプリント配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基材上に導電性を有した層を積層することにより得られた積層体による電気回路基板は、例えばフレキシブル回路基板(以下「FPC」とも言う。)、テープ自動ボンディング(以下「TAB」とも言う。)、チップオンフィルム(以下「COF」とも言う。)等として、幅広く利用されている。中でも特にFPCの利用は盛んである。またこれらの基板に用いられる基材の原材料として、優れた機械的特性、電気的特性、また優れた耐熱性を有するということから、ポリイミド樹脂を用いる、又はポリイミドフィルムを用いることが多く、また導電性を有した層、回路パターンを形成するためには、入手、取り扱い、加工の容易さ等の点から銅(銅箔)を用いることが多い。
【0003】
このような、ポリイミドフィルムを基材として用いたFPC回路基板としては、ポリイミドフィルムと銅箔とを接着剤を介して積層する3層構成タイプ(以下単に「3層タイプ」とも言う。)のものと、ポリイミド樹脂層又はポリイミドフィルムと銅箔又は銅層とを接着剤を用いずに直接積層する2層構成タイプ(以下単に「2層タイプ」とも言う。)のものと、に大別することが出来る。
【0004】
さてこのように3層タイプの積層体と2層タイプの積層体とが存在するのであるが、電子機器の軽薄短小化による要求に伴いFPC等では回路パターンの高密度化が強く要求されるようになってきている昨今において、3層タイプの積層体では充分に対応出来ない事態が生じている。例えば層タイプの積層体であれば、利用される接着剤の耐熱性が基材であるポリイミドフィルムよりも劣るため、加工時の加熱に耐えることが出来ず、その結果寸法精度が著しく低下してしまう、という問題点が生じることがある。また3層タイプの積層体に用いられる銅箔の厚みが10数μmであるため、上述の軽薄短小化の要求に答えようとしても回路の微細化、基板の薄膜化がある程度以上には困難なものとなってしまっていた。
【0005】
そのため、より一層薄くする、高密度回路を形成する、という目的のために2層タイプの積層体を利用することが増加している。この2層タイプの積層体を製造する積層方法としては、銅箔上にポリイミド樹脂をキャスティングすることによるキャスティング法、銅箔と非熱可塑性ポリイミド樹脂とを熱可塑性ポリイミド樹脂を介して接着するラミネート法、ポリイミドフィルム上に乾式メッキ法又は湿式メッキ法によりシード層を形成した後に電解メッキ法にて銅層を形成するメッキ法、等がある。また、高密度回路を形成するために、乾式メッキ法にて形成した導電層(シード層)の上に、配線形成用レジストを塗布、エッチングした後、湿式メッキ法にて銅を導電層として積層し、その後、レジストを除去するセミアディティブ法が採用されることもある。
【0006】
しかし2層タイプにおいて、ポリイミドと銅とが直接積層されてなる構成として使用する場合、そこには必ず密着性の点において問題が生じていた。即ちこれらを積層した積層体とした場合、特にメッキ法及びセミアディティブ法による場合、密着力が低い、という問題が生じていた。
【0007】
そしてこのような問題点を解消するために、ポリイミドフィルムと銅層との間に第2金属層を形成する、という手法が提案されているが、これにしてもやはり間に1層存在するため、より薄くする、という目的を達するには限界があった。
【0008】
そこで視点を変えて、基材となるプラスチックフィルム表面に銅層を積層するのではなく、銅層の一部がプラスチックフィルム内部に食い込むような構成とすることによりプラスチックフィルムと銅層との密着性を向上させようという試みがなされるようになっている。
【0009】
例えば特許文献1では、有機銅化合物を超臨界二酸化炭素に溶解させた混合流体を基材表面に向け噴出すると同時に、これが基材に到達する手前で混合流体にレーザ光を照射することで銅成分のみを基板表面に融着させることが提案され、また特許文献2では、加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させた後、浸透物質を溶媒により溶解することによりプラスチック部材の表面からこれを除去する手法が提案されている。
【0010】
【特許文献1】特開2006−13321号公報
【特許文献2】特開2008−69340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで上記に示した特許文献1に記載の発明であれば、確かに銅と基材フィルムとの密着性は大変良好なものとなるが、一方で混合流体を基材に噴射し、これが基材表面に到達する前に混合流体に向けてレーザ光を照射し余分なものを除去して最終的に銅だけを付着させる、という構成が必須となっているため、係る装置の設定が非常に微細なものとなってしまうことが考えられ、問題であると言える。即ち、例え密着性が向上するとしても実際の操作性が容易ではなくむしろ困難である、という点が問題であると言える。
【0012】
また特許文献2であれば、予めプラスチック部材の表面にサブミクロンからナノオーダーのサイズによる凹凸を設けておき、そのうち凹部の表面に浸透物質を浸透させ、次いで浸透物質のみを溶媒により溶解することでこれを除去する、という手順になっているが、特に予めプラスチック部材の表面に凹凸を設けておく必要がある、という点で問題となると言える。即ち、工程が増加する、凹凸を所望する通りに設計し、またその通りに凹凸を設けなければならない、等の微細な工程が必要であることより、係る凹凸を設ける工程を実行しなければならない、という点が、その容易性の観点から問題であると言えるのである。
【0013】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、より一層薄型化が容易に可能であり、かつ密着力向上をも実現することを可能とした、即ち、回路形成後のポリイミド層と導体層との間において充分な密着力が得られ、かつ熱負荷後の密着力低下を防ぐことを可能としたフレキシブル回路基板の製造方法及び該製造方法により得られるフレキシブル回路基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本願発明の請求項1に記載の発明は、基材となるプラスチックフィルムの表面に対し、描画装置を用いて、描画用溶液を回路パターンとして印刷する印刷工程と、前記印刷工程終了後、得られた回路パターン印刷済みプラスチックフィルムを、金属錯体を溶融してなる超臨界二酸化炭素溶液に浸漬する浸漬工程と、前記浸漬工程終了後、超臨界二酸化炭素溶液中にて、前記プラスチックフィルムの表面に印刷された前記回路パターン部分のみに金属錯体を構成する金属のみを析出させる、又は前記浸漬工程終了後、超臨界二酸化炭素溶液から超臨界二酸化炭素を蒸発させた後、前記プラスチックフィルムの表面に印刷された前記回路パターン部分のみに付着した金属錯体を分解することによりこれを金属のみとする、金属析出工程と、を少なくとも備えてなること、を特徴とする。
【0015】
本願発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のフレキシブル回路基板の製造方法であって、前記金属析出工程終了後、基材を熱劣化させないようにしつつ析出した金属を連続膜状とする金属連続膜化工程を行うこと、を特徴とする。
【0016】
本願発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のフレキシブル回路基板の製造方法であって、前記金属錯体が銅錯体であること、を特徴とする。
【0017】
本願発明の請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載のフレキシブル回路基板の製造方法であって、前記描画用溶液が、前記プラスチックフィルムを構成する樹脂を化学的に活性化する溶液であること、を特徴とする。
【0018】
本願発明の請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のフレキシブル回路基板の製造方法であって、前記溶液が、塩基性溶液又はチオール溶液の何れか若しくは双方であること、を特徴とする。
【0019】
本願発明の請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載のフレキシブル回路基板の製造方法であって、前記描画装置が、インクジェットプリンタ装置であること、を特徴とする。
【0020】
本願発明の請求項7に記載の発明は、請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載のフレキシブル回路基板の製造方法であって、前記プラスチックフィルムが、ポリイミドフィルムであること、を特徴とする。
【0021】
本願発明の請求項8に記載のフレキシブル回路基板に関する発明は、請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載のフレキシブル回路基板の製造方法により得られてなるものであること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本願発明に係るフレキシブル回路基板の製造方法であれば、結果的に回路パターンを構成する金属部分は基材となるプラスチックフィルム内部に浸透しているので、即ち回路パターン部分の金属とプラスチックフィルムとの間の密着性は極めて高く、フレキシブル回路基板に描かれる回路が微細回路とした場合であっても、層間密着力の強さ故に充分実用に耐えうるものとなる。さらに本願発明に係るフレキシブル回路基板の製造方法であれば、回路パターンの基本を描画装置にて基材に直接書き込むこととしているので、例えばマスキングやエッチング等の手法を用いる必要がなくなり、製造工程そのものを簡潔化出来る。そして本願発明に係る手法であれば、従来広く行われているエッチング法であれば発生してしまっていた有害物質である廃液に関する問題なども一切考慮する必要がなくなり、即ち環境的にやさしい製造方法を容易に得られることとなる。またそのようにして得られたフレキシブル回路基板であれば、いわゆる層間密着力が従来のものに比して大変高いため、従来品以上に長期間の使用に耐えうるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずしもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0024】
(実施の形態1)
本願発明に係るフレキシブル回路の製造方法について第1の実施の形態として説明する。
【0025】
この第1の実施の形態に係るフレキシブル回路基板の製造方法は、基材となるプラスチックフィルムの表面に対し、描画装置を用いて描画用溶液を回路パターンとして印刷する印刷工程と、印刷工程終了後得られた回路パターン印刷済みプラスチックフィルムを金属錯体を溶融してなる超臨界二酸化炭素溶液に浸漬する浸漬工程と、浸漬工程終了後超臨界二酸化炭素溶液中にてプラスチックフィルムの表面に印刷された前記回路パターン部分のみに金属錯体を構成する金属のみを析出させる、又は浸漬工程終了後超臨界二酸化炭素溶液から超臨界二酸化炭素を蒸発させた後プラスチックフィルムの表面に印刷された回路パターン部分のみに付着した金属錯体を分解することによりこれを金属のみとする、金属析出工程と、を少なくとも備えてなるものである。
【0026】
以下、順番に各工程の説明をするが、その前に、本実施の形態を説明するにあたり用いる材料等につき述べておく。
【0027】
まず基材となるプラスチックフィルムであるが、これは特段制限をするものではなく、従来公知のものであって良い。本実施の形態においては、フレキシブル回路基板の基材として広く用いられているポリイミドフィルムを基材となるプラスチックフィルムとして用いることとする。
【0028】
また金属錯体は、やはりフレキシブル回路として広く用いられている銅による錯体を用いることとするが、必ずしもこれに限定されるものではないことを予め断っておく。
【0029】
さらに描画用溶液として、本実施の形態では塩基性溶液を用いることとするが、これはチオール溶液とすることも考えられる。描画用溶液として重要なことは、基材となるプラスチックフィルムを構成する高分子樹脂を化学活性化出来ることであり、本実施の形態における基材フィルムであるポリイミド樹脂を化学活性化可能とするためには、塩基性溶液又はチオール溶液を用いることが好適なのである。これらの溶液とする理由については後述する。
【0030】
本実施の形態では以上の材料を用いて、フレキシブル回路基板を得ることとする。
そこで本実施の形態に係るフレキシブル回路基板の製造方法につき、順次説明をしていく。
【0031】
まず最初に、基材となるプラスチックフィルムの表面に対し、描画装置を用いて描画用溶液を回路パターンとして印刷する印刷工程を行う。
【0032】
これは、要するにフレキシブル回路基板の回路部分を構成するための下書きをするようなものであると言えるが、ここで描画装置としては、例えばインクジェットプリンタ等を用いることが考えられる。
【0033】
これは昨今のインクジェットプリンタによる描画性能の急激な向上を考慮したものであって、即ち微細な表面積に対し、さらに微細な細密画を印刷するのにインクジェットプリンタによる印刷が好適だからである。
【0034】
より具体的に説明すると、昨今フレキシブル回路基板にあっては、限られた面積の中により一層複雑で細密かつ緻密な回路を設ける必要に迫られており、その細密さはすでにミクロン、ナノオーダーレベルまでに到達していると表現しても過言ではない。しかるに、従来公知の印刷方法、例えばシルクスクリーン法を実行する装置を描画装置として採用したとしても、細密な部分の描き分けは容易ではなく、慎重に取り扱わないと隣接する回路パターンを構成する線同士が、つまり隣接する回路同士が接してしまうこととなる。尚、当然この段階ではまだ単なる回路パターンの下書きに過ぎないのであるが、後述する各工程を経ることにより、最終的にはこの段階で描かれた回路パターンがそのままフレキシブル回路基板における電子回路となるのであって、故にこの段階で描画されるパターンを構成する線が接してしまうと得られる回路そのものもショートしてしまい、使用出来ないものしか得られなくなってしまう。
【0035】
よって、ミクロン、ナノオーダーレベルに至るまで隣接する回路同士が接してしまわないように細密描画が可能な装置としてインクジェットプリンタが好適なのであるが、当然これ以外の装置であっても、上述したような細密描画の描き分けが完全にかつ容易に可能な装置であればそれを用いても構わない。
【0036】
以上の通り、描画装置を用いて描画用溶液により基材フィルムの表面に回路パターンを印刷する、という印刷工程は、本実施の形態において具体的には、インクジェットプリンタを用いて塩基性溶液によりポリイミドフィルムの表面に回路パターンを印刷する、ということになるのである。
【0037】
そして前述したように、ポリイミドフィルムの表面に対し塩基性溶液を塗布することで、塩基性溶液を塗布されたポリイミドフィルム表面はその部分のみ化学的に活性化される状態となるのである。この点に関し、別な視点から述べるならば、本実施の形態において用いられる描画用溶液である塩基性溶液には、ポリイミドフィルム表面に印刷、即ち塗布された塩基性溶液は、印刷された部分のポリイミドフィルム表面を活性化させなければならず、故にこれを活性化させられる塩基性溶液でなければならない、という条件が必須である、とも言えるのである。係る条件を満たすものとしてここでの詳述は省略するが、例えば濃度に関する数値範囲を規定することにより、その条件とすることが考えられるし、その他の従来公知な物理的条件、化学的条件、等により規定することも考えられる。
【0038】
以上説明した印刷工程が終了すると、引き続き浸漬工程を実行する。
この浸漬工程とは、描画用溶液により回路パターンをその表面に印刷されたプラスチックフィルムを、金属錯体を溶融してなる超臨界二酸化炭素溶液に浸漬することであり、本実施の形態では塩基性溶液によりインクジェットプリンタによって回路パターンをその表面に印刷されたポリイミドフィルムを、銅錯体を溶融してなる超臨界二酸化炭素溶液に浸漬することである。
【0039】
このようにすることで、超臨界二酸化炭素溶液に浸漬された銅錯体が選択的にポリイミドフィルムの表面に付着する現象が発生する。具体的には、塩基性溶液により印刷された回路パターン部分に対してのみ銅錯体が付着し、それ以外の部分、つまり回路パターンが印刷されていない箇所に対しては銅錯体は付着しないのである。これは、単純に説明するならば、ポリイミドフィルムの表面において予め塩基性溶液をその表面に対し塗布された箇所では、浸漬工程に移行するまでの段階で塩基性溶液によってポリイミドフィルムが化学的に活性化されている状態となっている。一方、塩基性溶液が塗布されていない箇所においては化学的に活性化された状態とはなっていないものと考えられる。
【0040】
そして印刷された回路パターンの箇所のみが化学的に活性化された状態のポリイミドフィルムを、銅錯体を溶融してなる超臨界二酸化炭素溶液に浸漬させると、ポリイミドフィルムの化学的に活性化された箇所、即ち回路パターン部分においては、ポリイミドフィルムを構成するポリイミド樹脂が化学的に活性化されており、それが故に超臨界二酸化炭素溶液中の銅錯体と反応し、これが付着する。一方、回路パターンが印刷されていない箇所におけるポリイミド樹脂は化学的に活性化されていない、即ち単なるポリイミド樹脂のままであるので、これが銅錯体を含有した超臨界二酸化炭素溶液へ浸漬されたとしても、そこには何らの反応も生じない、と考えられる。
【0041】
このように本実施の形態における浸漬工程を行うことで、ポリイミドフィルムの表面に回路パターン部分にのみ銅錯体が付着した状態の積層体を得られるのである。そして係る状態を現出させるために、より具体的には銅錯体をどのようなものとするか、また銅錯体を超臨界二酸化炭素溶液に含有させるに際しての銅錯体の濃度、その他銅錯体以外に第三成分を添加させるか否か、浸漬させる際の温度、圧力等の雰囲気、といった点につき条件を設定することも考えられるが、ここではこれ以上の詳述は省略する。
【0042】
浸漬工程を終えると、次に金属析出工程を実行する。この金属析出工程とは、単純に述べると、引き続き超臨界二酸化炭素溶液中において、浸漬工程を終えた積層体、即ち塩基性溶液により描かれた回路パターン部分にのみ銅錯体が付着した状態のポリイミドフィルムにおける銅錯体を分解することにより、金属銅をポリイミドフィルム内部に析出し、一方で錯体を構成する有機物及び超臨界二酸化炭素はポリイミドフィルム外部に排出する、という工程である。若しくは、引き続き超臨界二酸化炭素中に浸漬工程を終えたポリイミドフィルムが存在したままで、まず超臨界二酸化炭素を蒸発させた後、ポリイミドフィルムの表面において回路パターン部分にのみ付着している銅錯体を、ポリイミドフィルムが熱劣化しない方法によってこれを分解する、という工程である。
【0043】
何れの方法であっても効果的に所望のように金属を析出出来るので、金属析出工程としては何れの方法であっても構わないが、本実施の形態では前述の方法とする。尚、何れの方法を選ぶかは、用いる金属錯体の種類、その他種々の条件等に応じて適宜選択すれば良いのであり、ここではこれ以上の詳細な説明は省略する。
【0044】
但し、これは当然の事柄ではあるが、例えば係る分解が吸熱反応によるものであれば特段問題が生じることはないかもしれないが、これが発熱反応であるならば、予めそれに伴う危険性については充分考慮される必要があることを付言しておく。
【0045】
本実施の形態に係るフレキシブル回路基板の製造方法として、以上説明した工程を順次経ることにより、フレキシブル回路基板を得ることが出来る。本実施の形態に係る製造方法により得られたフレキシブル回路基板につき観察すると、基材フィルムがポリイミドフィルムであり、回路パターンは銅により構成されたフレキシブル回路基板を得られることとなるが、回路パターンを構成する銅はポリイミドフィルム内部に浸透している状態となっているので非常に密着性が良好であり、またインクジェットプリンタにより微細なレベルであっても回路パターンがショートしないように描き分けられることが可能であるため、超微細な回路パターンであっても密着性が非常に高い状態を維持出来るものとなるのである。
【0046】
尚、上述した方法により得られたフレキシブル回路基板において、回路パターンにおける金属部分の連続性が充分でない場合、再び浸漬工程に戻り実行し、引き続き金属析出工程を行えば良く、この工程を繰り返すことを総じて金属連続膜化工程として実行しても良い。要するに所望の回路パターンが形成され完成されるまで必要なだけ繰り返せば良い。この点につき付言すると、繰り返し何度でもこれらの工程を容易に実行出来る点も本願発明に係る製造方法の特徴であると言える。
【0047】
しかし場合によってはそれでも再度の繰り返しが望ましくない場合も考えられるが、係る場合にあっては、金属析出工程後に引き続いてさらに金属連続膜化工程を実行することが考えられる。
【0048】
これは、金属析出工程を経ることにより、ポリイミドフィルム表面に一応回路パターンが形成されたものの、金属部分が充分に連続していないため導電性が所望のレベルに到達していない、という状態に至る可能性が考えられ、またこの状態で前述の通り仮に何度も浸漬工程と金属析出工程とを繰り返しても回路として実用に耐える充分なレベルに到達させられないことも考えられる。
【0049】
そこでかような状態となってしまった場合、金属析出工程を終えた積層体に対し、さらに、すでに析出している金属部分を増強することにより、確実な金属膜の連続状態を作り出すのである。尚、この金属連続膜化工程を実行するにあたり、基材を熱劣化させない、という点は必須であることを付言しておく。
【0050】
以上説明した本願発明に係るフレキシブル回路基板の製造方法であれば、要すれば、まず予備的にフィルム構成物質を化学的に活性化させた後に、超臨界二酸化炭素の樹脂との高い相溶性を利用し、樹脂内部に超臨界二酸化炭素をキャリアーとしてこれに溶融した金属錯体を運び込み、その後錯体を分解することにより樹脂内部に金属を残留させることとなるのであり、いわば金属が樹脂内部に浸透している状態を現出する方法であり、また得られたフレキシブル回路基板において基材となるフィルムと回路パターンを形成する金属とは物理的に密着しているのである。
【0051】
この点において、従前の製造方法であればフィルムを構成する物質の局部的な、即ち回路パターン部分及びそれに応対するフィルム表面部分のみとその表面の金属との熱溶融力に基づく密着であり、これに対し本願発明に係る製造方法であれば、それよりも遙かに高い密着力、換言すれば物理的な密着が現出されているのであり、しかも回路パターンが微細なレベルのものであっても細密描画が可能な描画装置を用いれば容易に完成させることが出来るものであり、この点において従前の手法に比して有利であると言えるのである。
【0052】
さらには、本願発明に係る製造方法であれば、かようにしてフィルムの表面に直接回路を構成する金属が密着している、しかも密着力は強大であることより、フィルム及び金属をより一層薄いものとしても、製造過程において何れかが破損してしまう、という現象が生じることを回避しやすくなり、即ち従来のフレキシブル回路基板に比して同等の性能であってもより一層薄いものを容易に得られるようになると言えるのである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材となるプラスチックフィルムの表面に対し、描画装置を用いて、描画用溶液を回路パターンとして印刷する印刷工程と、
前記印刷工程終了後、得られた回路パターン印刷済みプラスチックフィルムを、金属錯体を溶融してなる超臨界二酸化炭素溶液に浸漬する浸漬工程と、
前記浸漬工程終了後、超臨界二酸化炭素溶液中にて、前記プラスチックフィルムの表面に印刷された前記回路パターン部分のみに金属錯体を構成する金属のみを析出させる、又は前記浸漬工程終了後、超臨界二酸化炭素溶液から超臨界二酸化炭素を蒸発させた後、前記プラスチックフィルムの表面に印刷された前記回路パターン部分のみに付着した金属錯体を分解することによりこれを金属のみとする、金属析出工程と、
を少なくとも備えてなること、
を特徴とする、フレキシブル回路基板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のフレキシブル回路基板の製造方法であって、
前記金属析出工程終了後、基材を熱劣化させないようにしつつ析出した金属を連続膜状とする金属連続膜化工程を行うこと、
を特徴とする、フレキシブル回路基板の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のフレキシブル回路基板の製造方法であって、
前記金属錯体が銅錯体であること、
を特徴とする、フレキシブル回路基板の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載のフレキシブル回路基板の製造方法であって、
前記描画用溶液が、前記プラスチックフィルムを構成する樹脂を化学的に活性化する溶液であること、
を特徴とする、フレキシブル回路基板の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のフレキシブル回路基板の製造方法であって、
前記溶液が、塩基性溶液又はチオール溶液の何れか若しくは双方であること、
を特徴とする、フレキシブル回路基板の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載のフレキシブル回路基板の製造方法であって、
前記描画装置が、インクジェットプリンタ装置であること、
を特徴とする、フレキシブル回路基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載のフレキシブル回路基板の製造方法であって、
前記プラスチックフィルムが、ポリイミドフィルムであること、
を特徴とする、フレキシブル回路基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載のフレキシブル回路基板の製造方法により得られてなるものであること、
を特徴とする、フレキシブル回路基板。

【公開番号】特開2010−3760(P2010−3760A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159433(P2008−159433)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【特許番号】特許第4209459号(P4209459)
【特許公報発行日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】