説明

プリント配線板の穴埋め用熱硬化性樹脂組成物及びそれを用いたプリント配線板

【課題】硬化処理やはんだレベリングなどの高温条件下において、穴部絶縁層に内部クラックが発生したり、穴部絶縁層の周辺部でデラミが発生するという問題がなく、絶縁信頼性や耐熱性等に優れる穴部絶縁層を形成できる熱硬化性樹脂組成物及びそれを用いたプリント配線板を提供する。
【解決手段】プリント配線板1の穴部3に充填するため熱硬化性樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)エポキシ樹脂硬化剤、及び(C)無機フィラーを含有し、上記エポキシ樹脂(A)が2官能のエポキシ樹脂(A−1)と3官能以上のエポキシ樹脂(A−2)を含み、上記無機フィラー(C)が周期律表のIIa族の元素の塩からなることを特徴としている。好適には、前記エポキシ樹脂(A)は、3官能以上のエポキシ樹脂(A−2)を液状の2官能エポキシ樹脂(A−1)に溶解した混合物であり、その溶解後の粘度が25℃で5〜100dPa・sである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板の穴埋め用熱硬化性樹脂組成物に関し、特に、多層基板や両面基板等のプリント配線板におけるスルーホールやバイアホール等の永久穴埋め用組成物として有用な液状の熱硬化性樹脂組成物に関する。さらに、本発明は、該組成物を用いてスルーホールやバイアホール等の永久穴埋めを行なったプリント配線板に関する。
なお、本明細書において、「穴部」とは、プリント配線板の製造過程で形成されるスルーホールやバイアホール等を総称する用語である。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板は、基材上に導体回路パターンを形成したものであり、導体回路のランド部には電子部品がはんだ付けによって搭載され、ランド以外の回路部分にはソルダーレジスト膜が導体保護のために被覆されている。このように、ソルダーレジスト膜は、プリント配線板に電子部品を搭載する際にはんだが不必要な部分に付着するのを防止するとともに、回路が酸化したり腐食したりするのを防止する機能を有する。
【0003】
ところで、近年、プリント配線板の導体回路パターンの細線化と実装面積の縮小化が進んでおり、さらにプリント配線板を備える機器の小型化・高機能化に対応すべく、プリント配線板のさらなる軽薄短小化が望まれている。そのため、プリント配線基板に設けたスルーホールに樹脂充填剤を充填し、硬化して平滑面とした後、その配線基板上に層間樹脂絶縁層と導体回路層を交互に積層してなる多層プリント配線板、あるいはスルーホール等に樹脂充填剤を充填した基板に直接ソルダーレジスト膜を形成する多層プリント配線板が開発されている。このような状況下において、スルーホールやバイアホール等の穴部に充填するための充填性、研磨性、硬化物特性等に優れた永久穴埋め用組成物の開発が望まれている。
【0004】
また、特に台湾、アジア地域では、銅スルーホール配線板のような配線板の貫通孔の全てを液状ソルダーレジスト組成物で充填する仕様、即ちプリント配線板の穴埋めとソルダーレジスト膜の形成を同時に行う方法が主流となっている。しかしながら、従来の液状ソルダーレジスト組成物を、例えば銅スルーホール配線板のような配線板の貫通孔にも充填するような仕様で用いる場合、形成したソルダーレジスト膜は、はんだレベリング時にスルーホールの周辺部が浮きあがってしまうという現象(以下、「デラミ」と略称する)、あるいはポストキュアやはんだレベリング時にスルーホール中の塗膜が突出してしまうという現象を招き易いという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するために、種々の方策が考えられており、例えば、用いる活性エネルギー線硬化性樹脂の組合せを特徴とするフォトソルダーレジスト組成物を用いることも提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、フォトソルダーレジスト組成物を用いてプリント配線板の穴埋めとソルダーレジスト膜の形成を同時に行った場合、溶剤を含むため、硬化後の穴部絶縁層に硬化収縮やクラックが発生するという問題があった。また、スルーホールのアスペクト比が高いため、深部硬化性が不充分であり、またヒートサイクル時の熱膨張率の変化率が大きいという問題があった。
【0006】
そこで、一般に、プリント配線板の穴埋めとソルダーレジスト膜の形成には別々の組成物が用いられている。プリント配線板の永久穴埋め用組成物としては、一般に、その硬化物が機械的、電気的、化学的性質に優れ、接着性も良好であることから、熱硬化型のエポキシ樹脂組成物が広く用いられている。この場合のプリント配線板の永久穴埋め加工は、エポキシ樹脂組成物をプリント配線板の穴部に充填する工程、該充填された組成物を加熱して研磨可能な状態に予備硬化する工程、予備硬化した組成物の穴部表面からはみ出している部分を研磨・除去する工程、及び予備硬化した組成物をさらに加熱して本硬化する工程からなる。
【0007】
しかしながら、上記のように、プリント配線板の穴埋めにソルダーレジスト用組成物と異なるエポキシ樹脂組成物を用いた場合、硬化処理やはんだレベリングなどの高温条件下において、図2に示されるように、穴部絶縁層5にクラック(内部クラックY)が発生したり、穴部絶縁層5の周辺部で外層絶縁層6(ソルダーレジスト層や絶縁樹脂層)との間に剥離(デラミX)が発生するという問題があった。このようなクラックやデラミが発生すると、高温高湿下でのPCT耐性(プレッシャー・クッカー耐性)が低下し、また、プリント配線板の絶縁信頼性の悪化を招いてしまう。
【特許文献1】国際公開WO2003/059975号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前述したような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その基本的な目的は、プリント配線板のスルーホールやバイアホール等の穴部への充填に最適であり、硬化処理やはんだレベリングなどの高温条件下において、穴部絶縁層にクラック(内部クラック)が発生したり、穴部絶縁層の周辺部で外層絶縁層(ソルダーレジスト層や絶縁樹脂層)との間に剥離(デラミ)が発生するという問題がなく、絶縁信頼性や耐熱性、耐湿性、PCT耐性等に優れる穴部絶縁層を形成できる熱硬化性樹脂組成物を提供することにある。
さらに本発明の目的は、ヒートサイクル時のクラック発生や、絶縁信頼性の悪化、穴部絶縁層周辺部の外層絶縁層(ソルダーレジスト層や絶縁樹脂層)の剥離(デラミ)等がなく、絶縁信頼性や耐熱性、耐湿性、PCT耐性等の特性に優れる高信頼性のプリント配線板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明によれば、(A)エポキシ樹脂、(B)エポキシ樹脂硬化剤、及び(C)無機フィラーを含有し、プリント配線板の穴部に充填される熱硬化性樹脂組成物であって、上記エポキシ樹脂(A)が2官能のエポキシ樹脂(A−1)と3官能以上のエポキシ樹脂(A−2)を含み、上記無機フィラー(C)が周期律表のIIa族の元素の塩からなることを特徴とする穴埋め用熱硬化性樹脂組成物が提供される。
【0010】
好適な態様においては、前記エポキシ樹脂(A)は、3官能以上のエポキシ樹脂(A−2)を液状の2官能エポキシ樹脂(A−1)に溶解した混合物であり、その溶解後の粘度が25℃で5〜100dPa・sである。
さらに本発明によれば、プリント配線板の穴部が、前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物で充填されていることを特徴とするプリント配線板も提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、組成物中のエポキシ樹脂(A)が2官能のエポキシ樹脂(A−1)と3官能以上のエポキシ樹脂(A−2)を含み、好ましくは3官能以上のエポキシ樹脂(A−2)を液状の2官能エポキシ樹脂(A−1)に溶解した混合物であり、前記フィラー(C)が周期律表のIIa族の元素の塩からなるため、その硬化物は高いガラス転移点Tgを示し、且つ、ヒートサイクル時の熱膨張率の変化率が小さく、クラック発生や穴部絶縁層周辺部の外層絶縁層(ソルダーレジスト層や絶縁樹脂層)の剥離(デラミ)等の発生がないという特有の効果を奏する。
従って、例えば、プリント配線基板に設けたスルーホール等の穴部に樹脂充填剤を充填し、硬化した後、その配線基板上に層間樹脂絶縁層と導体回路層を交互に積層してなる多層プリント配線板や、スルーホールに樹脂充填剤を充填した基板に直接ソルダーレジスト膜を形成する多層プリント配線板において、樹脂充填剤として本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いることにより、ヒートサイクル時のクラック発生や、絶縁信頼性の悪化、穴部絶縁層周辺部の外層絶縁層(ソルダーレジスト層や絶縁樹脂層)の剥離(デラミ)等がなく、絶縁信頼性や耐熱性、耐湿性、PCT耐性等の特性に優れる高信頼性のプリント配線板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者らは、プリント配線板のスルーホールやバイアホール等の穴部に充填した従来のエポキシ樹脂組成物の硬化物のクラック発生や穴部絶縁層周辺部の外層絶縁層(ソルダーレジスト層や絶縁樹脂層)の剥離(デラミ)等の原因について鋭意研究した結果、硬化物が低いガラス転移点Tgを示し、且つ、ヒートサイクル時の熱膨張率の変化率が大きいことに関係があり、これは主として、用いるエポキシ樹脂及び従来一般に用いられている無機フィラー(シリカ)に起因していることを見出した。そこで、この関係についてさらに研究を進めた結果、熱硬化性樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)が2官能のエポキシ樹脂(A−1)と3官能以上のエポキシ樹脂(A−2)の両方を含み、好ましくは3官能以上のエポキシ樹脂(A−2)を液状の2官能エポキシ樹脂(A−1)に溶解した混合物からなり、且つ、無機フィラー(C)が周期律表のIIa族の元素の塩からなる場合、その硬化物は高いガラス転移点Tgを示し、且つ、ヒートサイクル時の熱膨張率の変化率が小さく、クラック発生や穴部絶縁層周辺部の外層絶縁層(ソルダーレジスト層や絶縁樹脂層)の剥離(デラミ)等の発生を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0013】
以下、本発明の熱硬化性樹脂組成物の各構成成分について詳しく説明する。
まず、前記エポキシ樹脂(A)としては、1分子中に2つのエポキシ基を有する2官能のエポキシ樹脂(A−1)と、1分子中に少なくとも3つ以上のエポキシ基を有する3官能以上のエポキシ樹脂(A−2)を組み合わせて用いる。2官能のエポキシ樹脂(A−1)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビキシレノール型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂など、3官能以上のエポキシ樹脂(A−2)としてはフェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、トリヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、ジグリシジルフタレート樹脂、フェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ化物、又はそれらの臭素原子含有エポキシ樹脂やりん原子含有エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート等のエポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂など公知慣用のものを、単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。また、反応性希釈剤としての単官能エポキシ樹脂を含有していてもよい。
【0014】
前記したようなエポキシ樹脂としては、特に、室温で液状の2官能エポキシ樹脂(A−1)に3官能以上のエポキシ樹脂(A−2)を溶解した混合物を用いた場合、低分子量の液状の2官能エポキシ樹脂が、得られる硬化皮膜の可撓性及び密着性向上に寄与し、3官能以上のエポキシ樹脂が、ガラス転移点を上昇させるのに寄与するので、これらの比率を調整することにより上記特性のバランスを調整することが可能となる。即ち、室温で液状の2官能エポキシ樹脂(A−1)に所定量の3官能以上のエポキシ樹脂(A−2)を溶解した混合物を用いることにより、得られる硬化物は高いガラス転移点Tgを示し、且つ、ヒートサイクル時の熱膨張率の変化率が小さく、クラック発生や穴部絶縁層周辺部の外層絶縁層(ソルダーレジスト層や絶縁樹脂層)の剥離(デラミ)等の発生を効果的に抑制できる。また、液状の2官能エポキシ樹脂(A−1)を用いることにより、組成物を無溶剤化することが可能となり、ボイドやクラックの発生抑制に効果的である。液状の2官能エポキシ樹脂(A−1)と3官能以上のエポキシ樹脂(A−2)の配合比率(質量基準)は、(A−1):(A−2)=100:5〜100:100の範囲の範囲、より好ましくは(A−1):(A−2)=100:10〜100:40の範囲である。
【0015】
前記エポキシ樹脂硬化剤(B)としては、エポキシ樹脂の硬化反応を促進する効果があれば何れのものも使用でき、特定のものには限定されない。それらの中でもイミダゾール誘導体が好ましく、特に常温で固体のイミダゾール誘導体であり、150℃にて液状のエポキシ樹脂に融解するものが好ましい。イミダゾール誘導体の具体例としては、例えば2−メチルイミダゾール、4−メチル−2−エチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、4−メチル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールなどが挙げられる。市販されているものの具体例としては、商品名2E4MZ、C11Z、C17Z、2PZ等のイミダゾール類や、商品名2MZ−A、2E4MZ−A等のイミダゾールのAZINE化合物、商品名2MZ−OK、2PZ−OK等のイミダゾールのイソシアヌル酸塩、商品名2PHZ、2P4MHZ等のイミダゾールヒドロキシメチル体(前記商品名はいずれも四国化成工業(株)製)などが挙げられる。
【0016】
前記イミダゾール以外にも、ジシアンジアミドとその誘導体、メラミンとその誘導体、ジアミノマレオニトリルとその誘導体、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラメチレンペンタミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエタノーアミン、ジアミノジフェニルメタン、有機酸ヒドラジッド等のアミン類、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(商品名DBU、サンアプロ(株)製)、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(商品名ATU、味の素(株)製)、又は、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン等の有機ホスフィン化合物などを、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。しかし、芳香族アミン類を用いた場合には加熱硬化後の樹脂組成物の収縮が大きく、硬化後にスルーホール壁との間に隙間が生じたり、穴埋め部の硬化物にボイドが生じ易いので好ましくない。これらの硬化触媒の中でも、ジシアンジアミド、メラミンや、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、3,9−ビス[2−(3,5−ジアミノ−2,4,6−トリアザフェニル)エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等のグアナミン及びその誘導体、及びこれらの有機酸塩やエポキシアダクトなどは、銅との密着性や防錆性を有することが知られており、エポキシ樹脂の硬化触媒として働くばかりでなく、プリント配線板の銅の変色防止に寄与することができる。
【0017】
前記したようなエポキシ樹脂硬化剤(B)の配合量は、一般に、前記エポキシ樹脂(A)100質量部当り3質量部以上、20質量部以下、好ましくは5質量部以上、15質量部以下が適当である。エポキシ樹脂硬化剤(B)の配合量が3質量部未満の場合、一般に樹脂組成物の予備硬化速度が遅くなり、穴部深部の組成物の硬化が不十分となる結果、クラックの発生を生じ易くなるので好ましくない。一方、エポキシ樹脂硬化剤(B)の配合量が20質量部を超えて多量に配合すると、保存安定性が悪くなる他、一般に樹脂組成物の予備硬化速度が早くなり過ぎ、硬化物にボイドが残留し易くなるので好ましくない。
【0018】
前記無機フィラー(C)としては、周期律表のIIa族の元素の塩、例えば炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム等を用いることができ、特に炭酸カルシウムが好ましい。従来、プリント配線板のスルーホール等の穴埋め用液状熱硬化性樹脂組成物では、無機フィラーとしてシリカが一般に用いられている。しかしながら、後述する表5に示されるように、無機フィラーとしてシリカを用いた場合、デラミが発生し易くなるので好ましくない。
【0019】
無機フィラー(C)の平均粒径は、0.1μm以上、25μm以下、好ましくは0.5〜10μm、より好ましくは1〜10μmであることが望ましい。
また、無機フィラー(C)の形状は、球状、針状、板状、鱗片状、中空状、不定形、六角状、キュービック状、薄片状等が挙げられるが、高充填性の点からは球状が好ましい。
【0020】
また、無機フィラー(C)の配合量は、組成物全体量の45〜85質量%が好ましい。45質量%未満では、デラミが発生し易くなり、一方、85質量%を超えると、液状ペースト化が難しく、印刷性、穴埋め充填性などが得られなくなる。
【0021】
本発明の液状熱硬化性樹脂組成物では、エポキシ樹脂として主として液状の2官能エポキシ樹脂を用いている場合、必ずしも希釈溶剤を用いる必要はないが、組成物の粘度を調整するために、ボイドが発生しない程度に希釈溶剤を添加してもよい。
【0022】
希釈溶剤としては、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、及び上記グリコールエーテル類の酢酸エステル化物などのエステル類;エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類;オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサなどの石油系溶剤などが挙げられる。
【0023】
さらに本発明の熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、アイオジン・グリーン、ジスアゾイエロー、クリスタルバイオレット、酸化チタン、カーボンブラック、ナフタレンブラックなどの公知慣用の着色剤、保管時の保存安定性を付与するためにハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、tert−ブチルカテコール、ピロガロール、フェノチアジンなどの公知慣用の熱重合禁止剤、クレー、カオリン、有機ベントナイト、モンモリロナイトなどの公知慣用の増粘剤もしくはチキソトロピー剤、シリコーン系、フッ素系、高分子系などの消泡剤及び/又はレベリング剤、イミダゾール系、チアゾール系、トリアゾール系、シランカップリング剤などの密着性付与剤のような公知慣用の添加剤類を配合することができる。特に、有機ベントナイトを用いた場合、穴部表面からはみ出る予備硬化物部分が研磨・除去し易い突出した状態に形成され易く、研磨性に優れたものとなるので好ましい。
【0024】
かくして得られる本発明の液状熱硬化性樹脂組成物は、従来より使用されている方法、例えばスクリーン印刷法、ロールコーティング法、ダイコーティング法等を利用してプリント配線板のバイアホールやスルーホール等の穴部に容易に充填することができる。
以下、添付図面を参照しながら、プリント配線板の穴部絶縁層及び外層絶縁層(ソルダーレジスト層や絶縁樹脂層)の形成について具体的に説明する。なお、添付図面は、コア基板として両面基板を用いた例を示しているが、多層プリント配線板についても同様に適用できる。
【0025】
(1)穴埋め
まず、図1(a)に示すようなコア基板1のめっきスルーホール3(コア基板として多層プリント配線板を用いる場合には、めっきスルーホールの他にさらにバイアホール等の穴部)に、図1(b)に示すように本発明の液状熱硬化性樹脂組成物を充填する。具体的には、スルーホール部分に開口を設けたマスクを基板上に載置し、印刷法等により塗布したり、ドット印刷法などにより、スルーホール内に容易に充填できる。コア基板1としては、銅箔をラミネートしたガラスエポキシ基板やポリイミド基板、ビスマレイミド−トリアジン樹脂基板、フッ素樹脂基板などの樹脂基板、セラミック基板、金属基板などの基板2にドリルで貫通孔を明け、貫通孔の壁面及び銅箔表面に無電解めっきあるいはさらに電解めっきを施して、めっきスルーホール3及び導体回路層4を形成したものを好適に用いることができる。めっきとしては銅めっきが一般に用いられる。
【0026】
(2)研磨
次に、充填物を予備硬化する。例えば約90〜130℃で約30〜90分程度加熱して予備硬化させる。好ましくは、約90〜110℃で一次予備硬化させた後、約110〜130℃で二次予備硬化させる。このようにして予備硬化された硬化物の硬度は比較的に低いため、基板表面からはみ出している不必要部分を物理研磨により容易に除去でき、平坦面とすることができる。なお、ここでいう「予備硬化」又は「予備硬化物」とは、一般に、エポキシの反応率が80%〜97%の状態のものをいう。また、上記予備硬化物の硬度は、予備硬化の加熱時間、加熱温度を変えることによってコントロールすることができる。その後、図1(c)に示すように、スルーホールからはみ出した予備硬化物5の不要部分を研磨により除去して平坦化する。研磨は、ベルトサンダーやバフ研磨等により好適に行なうことができる。
【0027】
(3)外層絶縁層の形成
その後、基板表面を必要に応じてバフ研磨や粗化処理により前処理を施した後、図1(d)に示すように外層絶縁層6を形成する。この前処理によりアンカー効果に優れた粗化面が形成されるので、その後施される外層絶縁層6との密着性に優れたものとなる。外層絶縁層6は、その後に行われる処理に応じてソルダーレジスト層や絶縁樹脂層、あるいは保護マスクなどであり、従来公知の各種熱硬化性樹脂組成物や光硬化性・熱硬化性樹脂組成物等の硬化性樹脂組成物を塗布したり、あるいはこれらの硬化性樹脂組成物をキャリアフィルム上に塗布し、溶剤を乾燥させた樹脂シート(ドライフィルム)や、ガラスクロス、ガラス及びアラミド不織布等のシート状繊維質基材に塗工及び/叉は含浸させて半硬化させた樹脂シート(プリプレグシート)をラミネートして形成することができる。外層絶縁層に微細なパターンを形成する場合には、光硬化性・熱硬化性樹脂組成物やそのドライフィルムを用いることが好ましい。その後、約130〜180℃で約30〜90分程度加熱して本硬化(仕上げ硬化)し(外層絶縁層の形成に光硬化性・熱硬化性樹脂組成物を用いた場合には周知の方法に従って乾燥(仮硬化)し露光した後、本硬化し)、外層絶縁層6を形成する。なお、上記硬化性樹脂組成物に配合されるフィラーとしても、前記した理由により、前記穴埋め用の熱硬化性樹脂組成物と同様に周期律表のIIa族の元素の塩を用いることが好ましい。
【0028】
コア基板1として図1(a)に示すような両面基板を用いた場合には、さらに周知の方法に従って無電解めっき及び電解めっきによる導体回路層の形成と、層間樹脂絶縁層の形成を交互に繰り返し、必要に応じてバイアホールの形成(層間樹脂絶縁層が感光性樹脂を含有する場合には露光、現像処理にて行ない、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を含有する場合にはレーザ光にて行う)を行うことによって、多層プリント配線板を形成することもできる。
なお、層間樹脂絶縁層の材料としては、樹脂付き銅箔、ドライフィルム、プリプレグ等を用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例及び比較例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものでないことはもとよりである。なお、以下において「部」とあるのは、特に断りのない限り全て質量基準である。
【0030】
実施例1〜7
下記表1に列挙した各成分を表1に示す割合で配合し、予備混合した後、3本ロールミルで練肉分散させて熱硬化性樹脂組成物のペーストを得た。
【0031】
【表1】

【0032】
比較例1〜5
下記表2に列挙した各成分を表2に示す割合で配合し、予備混合した後、3本ロールミルで練肉分散させて熱硬化性樹脂組成物のペーストを得た。
【0033】
【表2】

【0034】
前記実施例1〜7及び比較例1〜5の熱硬化性樹脂組成物に用いたエポキシ樹脂のみ(2種類のエポキシ樹脂を用いた場合にはそれらの混合物、単独のエポキシ樹脂を用いた場合にはそれ自体)について、以下の方法で25℃での粘度を測定した。また、実施例1〜7及び比較例4、5においては、液状の2官能エポキシ樹脂と、固形もしくは半固形の3官能以上のエポキシ樹脂を組み合わせて用いたので、液状エポキシ樹脂に対する固形もしくは半固形のエポキシ樹脂の溶解性を目視にて評価した。その試験結果を表3に示す。なお、実施例7の場合、25℃での粘度が高いため印刷等の作業性の点で好ましくないので、粘度調整を行うことが好ましい。
【0035】
25℃での粘度:
試料を0.2ml採取し、コーンプレート型粘度計(東機産業(株)製TV−33)を用いて、25℃、回転数5rpmの30秒値を粘度とした。
【0036】
【表3】

【0037】
TMA(熱機械分析):
前記実施例1〜6及び比較例1、2の各穴埋め用熱硬化性樹脂組成物を、GTS−MP箔(古河サーキットフォイル社製)の光沢面側(銅箔)上にアプリケーターにより塗布し、熱風循環式乾燥炉にて150℃で60分間、硬化させた。その後、硬化物を銅箔より剥離した後、測定サイズにサンプルを切り出し、TMA測定に供した。
TMA測定は、サンプルを10℃/分の昇温速度で室温より300℃まで昇温して実施し、ガラス転移点Tg、及びTg以下の領域における熱膨張率CTE(α1)とTg以上の領域における熱膨張率CTE(α2)を測定した。
その結果を表4に示す。
【0038】
【表4】

表4に示す結果から明らかなように、2官能の液状エポキシ樹脂のみを含有する液状熱硬化性樹脂組成物を用いた比較例1、2の場合、硬化物のガラス転移点Tgが実施例1〜6の場合に比べて低く、また、ヒートサイクルにより熱膨張率の変化率も大きかった。
【0039】
信頼性試験:
前記実施例1〜7及び比較例1〜5の各穴埋め用熱硬化性樹脂組成物を用いて、下記の方法で穴埋め+プリプレグ試験用基板及び穴埋め+ソルダーマスク形成基板を作製し、下記の試験方法で、図2に示すデラミXの発生や内部クラックYの発生の有無を調査した。
その結果を表5に示す。
【0040】
穴埋め+プリプレグ試験用基板の作製:
厚さ1.6mm、めっきスルーホール径0.25mm、スルーホール・ピッチ1mmの両面基板(パターン形成なし、スルーホール数25個)を前処理として酸洗した後、半自動印刷機(セリア社製)により熱硬化性樹脂組成物を穴埋め印刷した。次いで、熱風循環式乾燥炉にて150℃で60分間、硬化させた。その後、ハイカットバフ#320(住友3M社製)を用いたバフ研磨機((株)石井表記製)により、硬化物の基板表面からはみ出している部分を研磨した。
次いで、前処理としてMEC社製のCZ−8100(1μmエッチング)+CL−8300処理を行った後、基板両面に厚さ0.1mmのプリプレグ(松下電工(株)製R−1661 FR−4相当)及び銅箔(古河サーキットフォイル社製GTS−MP−18)をプレス機(北川精機(株)製KVHC−PRESS)によりプレス成型した。
【0041】
穴埋め+プリプレグ試験用基板の試験・評価方法:
上記のようにプレス成型した試験用基板を、288℃のはんだ液中に10秒間、5回浸漬した後、室温まで放冷した。得られた試験用基板を断面観察用に研磨した後、光学顕微鏡で観察し、デラミ及び穴埋め硬化物の内部クラックの発生の有無を評価した。デラミについては、観察した穴数に対するデラミが発生したNG穴の割合で評価し、NG穴がない場合を○とした。内部クラックについては、クラックの発生がない場合を○、クラック発生ありの場合を×とした。
【0042】
穴埋め+ソルダーマスク試験用基板の作製:
厚さ1.6mm、めっきスルーホール径0.25mm、スルーホール・ピッチ1mmの両面基板(パターン形成なし、スルーホール数25個)を前処理として酸洗した後、半自動印刷機(セリア社製)により熱硬化性樹脂組成物を穴埋め印刷した。次いで、熱風循環式乾燥炉にて150℃で60分間、硬化させた。その後、ハイカットバフ#320(住友3M社製)を用いたバフ研磨機((株)石井表記製)により、硬化物の基板表面からはみ出している部分を研磨した。
次いで、前処理としてハイカットバフ#800(住友3M社製)を用いたバフ研磨機((株)石井表記製)により研磨処理を行った後、基板両面に太陽インキ製造(株)製のソルダーレジスト(PSR−4000SP08)をスプレーコートし、熱風循環式乾燥炉にて80℃で30分乾燥(仮硬化)させた後、ORC社製露光機(HMW−680)により露光量300mJ/cmで露光し、熱風循環式乾燥炉にて150℃で60分間本硬化を行った。
【0043】
穴埋め+ソルダーマスク試験用基板の試験・評価方法:
上記のように作製した試験用基板を、260℃のはんだ液中に10秒間、5回浸漬した後、室温まで放冷した。得られた試験用基板を目視及び光学顕微鏡で観察し、剥離の程度を確認した。
【0044】
【表5】

表5に示す結果から明らかなように、本発明の実施例1〜7の液状熱硬化性樹脂組成物を用いて穴埋め硬化物層を形成した場合、その上にプリプレグ及びソルダーマスクのいずれの外層絶縁層を形成した場合にも、デラミや内部クラックは発生しなかった。これに対し、2官能の液状エポキシ樹脂のみを含有する液状熱硬化性樹脂組成物を用いて穴埋め硬化物層を形成した比較例1、2の場合、デラミや内部クラックが発生した。また、3官能以上のエポキシ樹脂のみを含有する液状熱硬化性樹脂組成物を用いて穴埋め硬化物層を形成した比較例3〜5の場合、内部クラックが発生した。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】プリント配線板の穴部絶縁層及び外層絶縁層の形成工程を示す概略断面図である。
【図2】プリント配線板の穴部絶縁層周辺部と外層絶縁層のデラミの状態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 コア基板
2 基板
3 めっきスルーホール
4 導体回路層
5 穴部絶縁層(熱硬化性樹脂組成物の硬化物)
6 外層絶縁層
X デラミ
Y 内部クラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)エポキシ樹脂硬化剤、及び(C)無機フィラーを含有し、プリント配線板の穴部に充填される熱硬化性樹脂組成物であって、上記エポキシ樹脂(A)が2官能のエポキシ樹脂(A−1)と3官能以上のエポキシ樹脂(A−2)を含み、上記無機フィラー(C)が周期律表のIIa族の元素の塩からなることを特徴とする穴埋め用熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂(A)は、3官能以上のエポキシ樹脂(A−2)を液状の2官能エポキシ樹脂(A−1)に溶解した混合物であり、その溶解後の粘度が25℃で5〜100dPa・sであることを特徴とする請求項1に記載の穴埋め用熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
プリント配線板の穴部が、前記請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物で充填されていることを特徴とするプリント配線板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−269994(P2009−269994A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121456(P2008−121456)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(591021305)太陽インキ製造株式会社 (327)
【Fターム(参考)】