説明

プリント配線板の製造方法、及びプリント配線板

【課題】簡易な手順で、基板表面上に設けられた導電層を確実にカバーコートにより被覆することができるプリント配線板、特にフレキシブルプリント配線板の製造方法、及び、この方法により製造されるプリント配線板を提供する。
【解決手段】絶縁性の基板1上に銀ペースト2により回路を形成する回路パターン形成工程、前記回路パターンの銀ペースト2を予備加熱する予備加熱工程、前記基板1の表面に紫外線を照射する照射工程、紫外線が照射された表面上にネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物溶液を塗布し、加熱、乾燥する塗布工程、前記塗布工程後、現像液に浸漬する現像工程、及び前記ネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物中のポリイミド前駆体をポリイミド化するポリイミド化工程、を有するプリント配線板の製造方法、並びに、この製造方法により製造されたプリント配線板、特にフレキシブルプリント配線板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器に使用されるプリント配線板の製造方法、及びその方法により製造されるプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器分野、特に小型化や回路の高密度化が求められる電子機器には、絶縁性の基材の表面に所定の配線パターンの導電層を設けたプリント配線板が用いられている。そして、導電層の酸化や腐食、別部材との接触によるショート等を防ぐため、導電層の表面を絶縁材からなるカバーコートにより被覆する方法が広く採用されている。
【0003】
カバーコートの形成は、一般的には、カバーレイと呼ばれるポリイミドフィルムの片面に接着剤層を設けたフィルムを金型などで孔開け加工(パターニング)を行い、基板と位置合わせをして貼り付ける方法により行われていた。しかしながら、最近の電子機器の小型化や回路の高密度化により、この方法ではパターニングと位置合わせを正確に行うことが困難になってきた。
【0004】
このため、感光性のカバーコートが用いられるようになってきている。すなわち、導電層の表面上に紫外線硬化性の感光性樹脂組成物をスクリーン印刷等により塗布して乾燥させた後、又は、紫外線硬化性の感光性樹脂組成物からなるフィルムを導電層の表面上に貼り合わせて積層した後、導電層の位置に対応したパターンのマスクを被せて紫外線を照射して露光、現像する方法が行われるようになってきた。
【0005】
しかし、この方法によると、カバーコートの形成時における基材や導電層の伸縮等により、紫外線照射により硬化されるべきカバーコートの部分(導電層を覆うべき部分)とマスクパターンの間に位置ずれが生じ、導電層の端部に、カバーコートにより覆われない部分が生じる場合があり、特にフレキシブル配線板で微細なパターンが要求される場合に、この問題が顕著であった。カバーコートにより覆われない導電層の端部には、酸化や腐食による断線や別部材との接触によるショートが生じやすい。
【0006】
この問題を解決するプリント配線板として、特許文献1では、基材と、前記基材の表面上に設けられた導電層と、前記導電層の表面上に設けられた導電性ペーストと、前記導電層の表面上及び前記導電性ペーストの表面上に設けられ、前記導電層及び前記導電性ペーストを被覆するカバーコートとを備え、前記導電性ペーストが、紫外線を反射する金属製の反射部材を含有し、前記カバーコートが、紫外線硬化性を有するネガ型の感光性樹脂組成物により形成されていることを特徴とするプリント配線板が開示されている(請求項1)。
【0007】
この構成によれば、マスクパターンの位置ずれが生じた場合であっても、導電性ペーストが含有する金属製の反射部材が紫外線を反射し散乱させるため、位置ずれにより直接紫外線が照射されない部分に対しても、散乱光により間接的に露光することができる。従って、カバーコートにより被覆されない導電層の部分の発生を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−33034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、この方法では、導電性ペーストが設けられる位置が導電層の端部から遠い場合には、導電層の端部付近の散乱光による照射は不十分となる。又、導電層の端部付近でも、設けられた導電性ペースト層の形状によっては照射が不十分となる場合がある。これらの場合、導電層の端部をカバーコートにより確実に被覆することはできない。
【0010】
又、この方法に限らずマスクを用いる方法では、所定のパターンを有するマスクを作製する必要がある。さらに、導電層をカバーコートにより確実に被覆するためには、マスクをカバーコートの表面上の所定の位置に正確に設置する必要があり、製造管理を困難にしている。そこで、より簡易な手順により導電層を確実に被覆することができるカバーコートの形成方法が望まれていた。
【0011】
本発明は、従来のマスクを用いる方法より簡易な手順で、基板表面上に設けられた導電層(以下、所定の回路パターンを形成する導電性ペーストにより基板に設けられた回路パターンを「導電層」と言う。)を確実にカバーコートにより被覆することができるプリント配線板の製造方法、及び、この方法により製造されるプリント配線板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、銀ペーストにより、所定の回路パターンの導電層を絶縁性の基板上に形成し、その基板の全表面に紫外線を所定量照射し、照射後その全表面上にネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物からなる層を形成した後、パターニングのための露光をすることなしに、現像液に浸漬すると、導電層(銀ペースト)がある部分のみ前記樹脂組成物からなる層が残り、導電層以外の部分は前記樹脂組成物が除去され基板が露出することを見出した。そして、以下に示す構成により、導電層を確実に被覆することができるカバーコートを、従来よりも簡易な手順により形成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
請求項1に記載の発明は、
絶縁性の基板上に銀ペーストにより回路を形成する回路パターン形成工程、
前記回路パターンの銀ペーストを予備加熱する予備加熱工程、
回路パターンが形成された前記基板の表面に、紫外線を照射する照射工程、
紫外線が照射された表面上に、ネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物溶液を塗布し、120℃以下の温度で加熱、乾燥する塗布工程、
前記塗布工程後、現像液に浸漬する現像工程、及び
前記ネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物中のポリイミド前駆体をポリイミド化するために加熱するポリイミド化工程、
を有することを特徴とするプリント配線板の製造方法である。
【0014】
本発明のこの製造方法では、紫外線により照射された導電層(銀ペーストにより形成された回路)を覆う部分にあるネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物が、この樹脂組成物に紫外線を照射しなくても、溶媒の除去や乾燥等のために行われるその後の加熱により化学変化して現像液に対して不溶になる。一方、導電層を覆う部分にないネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物(すなわち、絶縁性の基板上に直接塗布された樹脂組成物)は、溶媒の除去や乾燥等のために行われるその後の加熱によっても化学変化せず、現像液に可溶な状態が保たれる。
【0015】
従って、現像液への浸漬により、導電層を覆う部分は溶解されずに残り、一方、絶縁性の基板上に直接塗布されている樹脂組成物は現像液により溶解されて除去され、導電層のみがポリイミド前駆体からなる樹脂組成物により覆われることになる。そして、その後のポリイミド化工程における加熱により、ポリイミド前駆体は閉環されてポリイミドとなり、導電層のみがポリイミドのカバーコートにより覆われたプリント配線板が得られる。
【0016】
この製造方法では、導電層を覆うカバーを形成する部分はパターニング露光をする必要がない。すなわち、パターニング露光をしなくても導電層を覆う部分のみにポリイミドのカバーコートが形成される。従って、パターニング露光のためのマスクを作製する必要はなく、又、マスクパターンを、導電層が形成されていない位置に対応するように正確に位置合せする工程も不要となる。従って、従来の方法よりも簡易な手順で、導電層を覆うカバーコートを有するプリント配線板を形成することができる。
【0017】
又、この製造方法では、パターニング露光によらずに、導電層を覆う部分にカバーコートが形成されるので、基板や導電層の伸縮が生じても、導電層にカバーコートにより覆われない部分が生じない。従って、導電層の露出による酸化や腐食、配線の断線やショートの発生を防ぐことができる。このようにこの製造方法によれば、導電層を覆う部分にカバーコートを正確に形成することができるので、多数の微細なシールドビアに対してカバーコートを形成する場合や、寸法変化や歪が生じる基板において的確にシールドビア配線上のみにカバーコートを形成する場合等に好適に適用することができる。
【0018】
プリント配線板の製造において、プリント配線板の一部に、通常のパターニング露光による方法を適用し、他の部分に本発明の製造方法を適用することも可能である。この場合は、前記照射工程を、基板の表面の一部領域には紫外線が照射しないように(例えば、当該領域を遮光マスクで覆いながら)行う。照射工程後、ネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物溶液を塗布して、予備的な加熱、乾燥を行った後、紫外線が照射されなかった領域にはパターニング用マスクを被せて紫外線照射(パターニング露光)を行い、さらに現像工程、ポリイミド化工程を行うことにより、前記のプリント配線板を製造することができる。
【0019】
予備加熱工程における予備加熱は、銀ペーストの回路パターンが形成された基板を加熱することにより行うことができる。この予備加熱により銀ペーストが硬化する。予備加熱は、通常150℃から200℃で行われ、好ましくは160℃から180℃の範囲である。又、予備加熱の時間は、温度が180℃の場合は、20分から1時間程度である。
【0020】
予備加熱の温度が高すぎる場合、又は予備加熱時間が長すぎる場合は、銀ペースト上に塗布されたネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物が、照射工程及び塗布工程で硬化せず、現像工程で溶解し、本発明の効果は得られない。前記のように、予備加熱時間の適当な範囲は、予備加熱の温度により変動するが、適当な予備加熱時間は、簡易な予備実験に基づいて選択することができる。予備加熱の温度が低すぎる、もしくは予備乾燥時間が短か過ぎる場合は、銀ペーストの硬化が不十分となり導電性不良になり、感光性ポリイミド前駆体組成物を塗工・露光・現像する際に銀ペースト回路が一部溶解するなどの問題を生じる。
【0021】
請求項2に記載の発明は、照射工程における紫外線の照射量が、2000mJ/cm以上であることを特徴とする請求項1に記載のプリント配線板の製造方法である。照射工程における紫外線の照射量が2000mJ/cm未満の場合は、銀ペースト上に塗布されたネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物が、塗布工程で硬化しにくくなる場合がある。従って、現像工程で溶解しやすくなり本発明の効果が得られない場合がある。
【0022】
請求項3に記載の発明は、塗布工程における加熱、乾燥が、窒素雰囲気下80℃〜120℃で行われることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプリント配線板の製造方法である。加熱温度が120℃を超える場合は、導電性ペースト周辺部以外の除去したい部分にも絶縁膜の残渣が残る場合がある。又、加熱温度が80℃以下の場合は、乾燥不足により溶媒が表面に残り、表面の荒れ、現像時における硬化されるべき部分の溶出等が生じる可能性がある。
【0023】
本発明は、上記のプリント配線板の製造方法に加えて、この製造方法により製造されるプリント配線板を提供する。すなわち、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のプリント配線板の製造方法により製造されたことを特徴とするプリント配線板である(請求項4)。本発明のプリント配線板は、導電層に、カバーコートにより覆われていない露出部分がないので、酸化や腐食による断線や別部材との接触によるショートが生じにくいものであり、電子機器分野、特に小型化が求められる電子機器や高密度の回路を有する電子機器において好適に使用される。
【0024】
請求項5に記載の発明は、フレキシブルプリント配線板である請求項4のプリント配線板である。本発明は、絶縁性の基板が硬いリジッドプリント配線板にも適用できる。しかし、製造時における前記の基板の寸法変化の問題は、絶縁性の基板が柔軟な樹脂フィルムからなるフレキシブルプリント配線板の製造の場合がより顕著である。従って、本発明は、プリント配線板がフレキシブルプリント配線板である場合により好適に適用される。
【発明の効果】
【0025】
本発明のプリント配線板の製造方法によれば、従来のマスクを用いる方法より簡易な手順で、基板表面上に設けられた導電層を確実にカバーコートにより被覆することができる。従って、この方法により製造される本発明のプリント配線板は、導電層に、カバーコートにより覆われていない部分がないので、酸化や腐食による断線や別部材との接触によるショートが生じにくく、電子機器分野において好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の製造方法の工程を示す模式断面図である。
【図2】本発明の製造方法の工程を示す模式断面図である。
【図3】実施例における導電層のパターンを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に使用される絶縁性の基板としては、従来のプリント配線板の製造に用いられている絶縁性の基板と同様なものを使用することができる。基板として、柔軟な樹脂フィルムを用いることにより、携帯電話、デジタルスティルカメラ、ハードディスク、ノートパソコン等の小型電子機器に広く用いられているフレキシブルプリント配線板とすることができる。
【0028】
柔軟な樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエステルフィルム等の、従来のプリント配線板用として汎用性のある樹脂のフィルムがいずれも使用可能である。又、柔軟性に加えて高い耐熱性を有しているのが好ましい。かかる樹脂フィルムとしては、ポリアミド系の樹脂フィルム、ポリイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド系の樹脂フィルムやポリエチレンナフタレート等を挙げることができる。
【0029】
導電層を形成する銀ペーストとは、銀粉末等の銀フィラー及び/又は銀がコートされた導電性フィラー(以下、これらの全てを含む意味で「銀フィラー」と言う)をバインダー樹脂に分散してなる導電性ペーストである。銀がコートされた導電性フィラーとしては、銀コート銅粉末等を挙げることができる。銀コート銅粉末とは、表面に銀層を形成した銅粉末である。
【0030】
銀フィラーの形状は特に限定されず、球状、平板状等種々の形状の銀粉末を使用できる。導電性を考慮すると平板状粒子を使用することが好ましい。本発明において、銀フィラー、銀粉末等の銀という場合には、導電性を著しく損なわない範囲で銀合金を含む。
【0031】
これらの銀フィラーの99%累積粒度径は20μm以下とすることが好ましい。99%累積粒度径を20μm以下とすることで、スクリーン印刷等により微細な配線を形成することが可能となる。又銀ペースト中の銀フィラーの充填密度を向上でき、導電性の高い銀ペーストが得られる。99%累積粒度径のより好ましい範囲は5μm〜12μmである。ここで、99%累積粒度径とは、粒度分布測定において累積値が99重量%となる粒子径であり、レーザードップラー法を応用した粒度分布測定装置〔日機装社製のナノトラック(登録商標)粒度分布測定装置UPA−EX150〕等により測定できる。又平板状粒子の場合は、粒子の平面方向の最大径が粒子径として測定される。
【0032】
さらに、銀フィラーの平均粒径は、0.5〜6μmが好ましい。平均粒径をこの範囲にすることで、更に導電性の高い導電性ペーストを得ることができる。平均粒径は、99%累積粒度径と同様に粒度分布測定で求めることができ、累積値が50%となる粒子径を平均粒径とする。又平均粒径の異なる粉末を組み合わせて使用することも可能であり、平板状粉末と球状粉末を組み合わせても良い。
【0033】
上記銀フィラーとバインダー樹脂の配合割合(重量比)は、銀フィラー:バインダー樹脂=85:15〜96:4の範囲が好ましい。この範囲よりも銀フィラーの量が少なくなると導電性が劣り、この範囲よりも銀フィラーの量が多くなると基材との接着性が低下する。
【0034】
銀ペーストを構成するバインダー樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等を使用することができる。導電性ペーストの耐熱性を考慮すると熱硬化性樹脂を使用することが好ましく、特にエポキシ樹脂を使用することが好ましい。エポキシ樹脂の種類は特に限定されないが、ビスフェノールA、F、S、AD等を骨格とするビスフェノール型エポキシ樹脂等の他、ナフタレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が例示される。又高分子量エポキシ樹脂であるフェノキシ樹脂を用いることもできる。
【0035】
バインダー樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合、硬化剤を添加することが好ましい。この硬化剤としては、イミダゾール系、ヒドラジド系、三フッ化ホウ素−アミン錯体、アミンイミド、ポリアミン系、第3級アミン、アルキル尿素系等のアミン系、ジシアンジアミド等、及びこれらの変性物が例示されるが、保存安定性の面から潜在性硬化剤が好ましい。
【0036】
銀ペーストには、本発明の趣旨を損なわない範囲で、前記の成分に加えて、硬化促進剤、シランカップリング剤、難燃化剤、増粘剤等の添加剤を含有しても良い。又バインダー樹脂を溶解するための溶剤として、エステル系、エーテル系、ケトン系、エーテルエステル系、アルコール系、炭化水素系、アミン系等の有機溶剤が使用できる。
【0037】
銀ペーストを基板上に塗布し所定の回路パターンを形成する方法としては、スクリーン印刷等を挙げることができる。スクリーン印刷による場合、印刷性に優れた高沸点溶剤の使用が好ましく、具体的にはカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等が特に好ましい。又これらの溶剤を数種類組み合わせて使用することも可能である。銀ペーストにより所定の回路パターンが形成された後、予備加熱が行われ銀ペーストが硬化する。
【0038】
照射工程で使用される紫外線は、ネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物に照射することにより該樹脂組成物を硬化させることができる紫外線である。紫外線の照射は、従来のプリント配線板の製造におけるカバーコートの形成の場合と同様の装置を使用して同様に行うことができる。
【0039】
ネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物溶液の塗布は、スクリーン印刷やスピンコート、ドクターナイフ塗工等、従来のプリント配線板の製造において一般的に行われている方法を用いて行うことができる。塗布工程におけるネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物溶液の塗布は、紫外線の照射から24時間以内に行うことが好ましく、より好ましくは5時間以内である。
【0040】
ネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物溶液は、ポリアミック酸等のポリイミド前駆体と光重合性モノマー、重合開始剤を混合し、溶媒に溶解することで得ることができる。
【0041】
ネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物を構成するポリイミド前駆体(ポリアミック酸)は、芳香族テトラカルボン酸二無水物を含むカルボン酸無水物成分と芳香族ジアミンを含むジアミン成分との縮合重合によって得られる。この縮合重合反応は、従来のポリイミド前駆体の合成における条件と同様な条件で行うことができる。
【0042】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ(2,2,2)−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボンキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物等を挙げることができる。
【0043】
芳香族ジアミンとしては、2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)4,4’−ジアミノビフェニル(TFMB)、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン(Bis−A−AF)パラフェニレンジアミン(PPD)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、3,3’−ジヒドロキシ4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジヒドロキシ3,3’−アミノビフェニル等を挙げることができる。
【0044】
ポリイミド前駆体のGPC測定による重量平均分子量は20000〜400000の範囲が好ましい。又、ポリイミド前駆体としては、エステル結合タイプのものを使用することもできる。
【0045】
ネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物を構成する光重合性モノマーは、紫外線を照射(露光)することで架橋する光反応性官能基を持つモノマーである。光重合性モノマーとしては、同一分子内に不飽和二重結合等の光反応性官能基とグリシジル基を有する化合物、光反応性官能基とアミノ基とを有する化合物等を挙げることができる。
【0046】
光反応性官能基とグリシジル基を有する化合物としてはグリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート等のグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0047】
光反応性官能基とアミノ基とを有する化合物としては、メタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル、アクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル、メタクリル酸N,N−ジメチルアミノメチル、メタクリル酸N,N−ジメチルアミノプロピル、アクリル酸N,N−ジメチルアミノメチル、アクリル酸N,N−ジメチルアミノプロピル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ブチルメタクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、N−シクロヘキシルメタクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−メチロ−ルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、メタクリロイルモルホリン、アクリロイルピペリジン、メタクリロイルピペリジン、クロトンアミド、N−メチルクロトンアミド、N−イソプロピルクロトンアミド、N−ブチルクロトンアミド、酢酸アリルアミド、プロピオン酸アリルアミド等を挙げることができる。光重合性モノマーはポリイミド前駆体のカルボキシル基に対して0.8〜1.5当量の範囲で配合することが好ましい。
【0048】
ネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物溶液の溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、γ―ブチロラクトン等の極性溶媒を用いることが好ましい。
【0049】
図1及び図2は、本発明のプリント配線板の製造方法の各工程を示す模式断面図である。次に図1及び図2に基づき、本発明の製造方法を説明する。
【0050】
図1(a)において、1は基板を表わし、2は基板1上に塗布された銀ペーストを表わす。銀ペースト2は所定の回路パターンを形成している。銀ペースト2の塗布は、スクリーン印刷等により行われ、塗布後、所定の条件で予備加熱されて、銀ペースト2は硬化する。
【0051】
図1(b)は、銀ペースト2が塗布され硬化された後の基板1の全表面が、紫外線(UV)により照射される様子を示す。紫外線の照射がされた後、基板1の全表面に、ネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物溶液が塗布される。この塗布後、120℃以下の温度での加熱がされ、溶媒が乾燥、除去される。図1(c)は、ネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物溶液が塗布され、加熱、乾燥された様子(塗布工程後の様子)を示す、図中、3は感光性ポリイミド前駆体層を表わす。
【0052】
ここで乾燥とは溶媒の90%以上が除去されることを言う。すなわち、加熱時間や温度は、溶媒の90%以上が除去されるように設定される。この加熱、乾燥は、従来のプリント配線板の製造において行われている一般的なプリベーク、ポストベークと同様な方法、条件により行うことができるが、前記のように、通常は、80〜120℃の加熱温度で行われる。
【0053】
塗布・乾燥工程の後、図2(d)に示すように、基板1等を現像液に浸漬して現像工程を行う。この前にパターニング露光は行わない。現像液としては、従来のネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物の現像に用いられている有機系現像液と同様なものを使用することができる。現像時間や温度は、基板1上の銀ペースト2が存在しない部分にある感光性ポリイミド前駆体層3が溶解され基板1が露出する条件に設定される。
【0054】
図2(e)は、現像工程後の様子を示す。図に示されているように、基板1上の銀ペースト2が存在しない部分は、感光性ポリイミド前駆体層3が全て溶解され、基板1が露出している。
【0055】
現像工程後、基板1(銀ペースト2を覆う部分のみ感光性ポリイミド前駆体層3が存在する)は、水洗等を行った後、350℃程度まで加熱される。この加熱によりポリイミド前駆体(ポリアミック酸)はポリイミドとなり、銀ペースト2がポリイミド層(カバーコート層)4で覆われたプリント配線板が得られる。図2(f)は、このようにして得られたプリント配線板を表わす。
【0056】
なお、図2(f)のプリント配線板は、基材の片面に導体配線を有する片面プリント配線板であるが、本発明のプリント配線板には、基材の両面に導体配線を有する両面プリント配線板も含まれる。さらに両面の導体配線が基板内に形成された貫通孔内に充填された導電材により導通されているプリント配線板も、本発明のプリント配線板に含まれる。
【実施例】
【0057】
次に、本発明を実施例により説明するが、この実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0058】
(ネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物溶液の調整)
2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)35.5g(120mmol)、p−フェニレンジアミン(PPD)19.4g(180mmol)をNメチルピロリドン700gに溶解した後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)44.2g(150mmol)とピロメリット酸二無水物(PMDA)32.7g(150mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。その後60℃で20時間撹拌し反応させて、ポリアミック酸(ポリイミド前駆体)のワニスを作製した。ワニスの固形分は16.5重量%であった。このワニスに、光重合性モノマーであるメタクリル酸ジメチルアミノメチルをポリアミック酸のカルボン酸に対して1.2当量、グリシジルメタクリレートをワニスの固形分全体に対して2重量%、又重合開始剤として2−ベンジル−2−(ジメチルアミノ)−1−[4−(4−モルフォリニル)フェニル]−1−ブタノン(波長365nmのモル吸光係数1500)をワニスの固形分全体に対して4重量%混合し、ネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物溶液を調整した。
【0059】
(銀ペーストの作製)
分子量55000のビスフェノールA型樹脂[ジャパンエポキシレジン社製、エピコート(登録商標)1256]50重量部を、ブチルカルビトールアセテート75重量部に溶解し、平板状の銀粉末(99%累積粒度径:18μm、平均粒径:4μm)と、表面に銀と銅の合金層を有し銀含有量が20%である平板状の銀コート銅粉末(99%累積粒度径:7μm、平均粒径:2μm)と、を重量比で95:5として、ペーストの固形分中の導電性フィラーの割合が60体積%(93重量%)となるように加えた。更に溶剤としてブチルカルビトールアセテートを添加し、3本ロールで混合した。その後、イミダゾール系の潜在性硬化剤[旭化成エポキシ社製、ノバキュア(登録商標)HX−3941HP]を2重量部混合して銀ペーストを作製した。
【0060】
(プリント配線板の作製)
ポリアミド系の樹脂フィルム(商品名:カプトンEN、東レデュポン社製、厚み25μm)に、上記で作製した銀ペーストを、スクリーン印刷により、図3に示すパターンで、(最大)厚さ20μmで塗布した(回路パターン形成工程)。その後、表1の「硬化条件」の欄に示す条件で加熱(予備加熱)して銀ペーストを硬化し、導電層を形成した(予備加熱工程)。
【0061】
続いて、導電層が形成された樹脂フィルム(基板)の表面全体に、表1の「UV照射量」の欄に示す照射量で、紫外線(UV)を照射した(照射工程)。紫外線の照射の30分後、樹脂フィルム(基板)の表面全体に、上記で作製したネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物溶液(表1の「塗工」の欄に「感光性PI」と示す。)を、(溶液としての)厚さが100μmとなるように、ナイフコーターにより塗布した。
【0062】
なお、実験5では、上記で作製したネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物溶液の代わりに、前記の「ネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物溶液の調整」の際に作成したポリアミック酸(ポリイミド前駆体)のワニスを用いた(他の条件は同じである。なお、表1の「塗工」の欄に「PIワニス」と示す。)。塗布後、90℃×30分でプリベークして溶媒を除去し、さらに110℃×12分で加熱した(塗布工程)。
【0063】
続いて、30℃の現像液(N−メチルピロリドンとメタノールおよび界面活性剤からなる有機現像液)に、11分間浸漬して現像し(現像工程)、パターン形成の様子を目視で観察した。観察結果は、導電層を覆うパターンが形成された場合を○、ポリイミド前駆体が現像により大部分溶解しパターンが形成されない場合を×、全溶解した場合を××として表1の「現像後」の欄に示した。
【0064】
現像工程後、水洗、乾燥を行い、その後350℃まで加熱した(ポリイミド化工程)。その結果、パターンが形成された場合は、ポリイミド前駆体がポリイミドとなり、導電層上にポリイミドのカバーコートが形成されたプリント配線板が得られた。ポリイミド化工程後、導電層上のポリイミドのカバーコートの厚さを、断面顕微鏡観察により測定した。その結果を表1の「カバーコート厚み」の欄に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1に示されるように、銀ペーストを180℃×30分で硬化し、2000〜8000mJ/cmの紫外線照射を行った実験2〜4では、銀ペーストのみを覆うカバーコートが形成された。一方、紫外線照射を行わなかった実験1、ネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物溶液の代わりに、ポリイミド前駆体ワニス(PIワニス)を用いた実験2では、現像によりポリイミド前駆体組成物が溶解し、銀ペーストを覆うカバーコートは形成されなかった。又、銀ペーストの硬化(予備加熱)を180℃×2時間で行った実験6でも、4000mJの紫外線照射を行ったにも係らず、現像によりネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物が溶解し、銀ペーストを覆うカバーコートは形成されなかった。銀ペーストの硬化の程度が、180℃×2時間を超えて進み過ぎると本発明の効果が得られないことが示されている。
【符号の説明】
【0067】
1 基板
2 銀ペースト
3 感光性ポリイミド前駆体層
4 ポリイミド層(カバーコート層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の基板上に銀ペーストにより回路を形成する回路パターン形成工程、
前記回路パターンの銀ペーストを予備加熱する予備加熱工程、
回路パターンが形成された前記基板の表面に、紫外線を照射する照射工程、
紫外線が照射された表面上に、ネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物溶液を塗布し、120℃以下の温度で加熱、乾燥する塗布工程、
前記塗布工程後、現像液に浸漬する現像工程、及び
前記ネガ型感光性ポリイミド前駆体組成物中のポリイミド前駆体をポリイミド化するために加熱するポリイミド化工程、
を有することを特徴とするプリント配線板の製造方法。
【請求項2】
照射工程における紫外線の照射量が、2000mJ/cm以上であることを特徴とする請求項1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項3】
塗布工程における加熱、乾燥が、窒素雰囲気下80℃〜120℃で行われることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のプリント配線板の製造方法により製造されたことを特徴とするプリント配線板。
【請求項5】
フレキシブルプリント配線板である請求項4のプリント配線板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−8810(P2013−8810A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140116(P2011−140116)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(500400216)住友電工プリントサーキット株式会社 (197)
【Fターム(参考)】