説明

プリント配線板の製造方法

【課題】ポリイミドなどの基材上に、銅配線など金属微粒子焼結膜を形成し、基材と金属微粒子焼結膜の界面が平滑であり、かつ基材と金属微粒子焼結膜との密着性が高いプリント配線板を提供すること。
【解決手段】基材上に、金属又は金属酸化物微粒子を含む塗布液を印刷して印刷層を形成する工程、該印刷層を焼成処理して金属微粒子焼結膜を形成する工程、及びパターン状の金属微粒子焼結膜を得る工程を有するプリント配線板の製造方法であって、該焼成処理を、周波数が300MHz〜3000GHzの電磁波であるマイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマにより行うことで、基材と金属微粒子焼結膜の界面の平均粗さを30nm以下とすることを特徴とするプリント配線板の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、基材上に、金属又は金属酸化物微粒子を含む塗布液を印刷して印刷層を形成し、該印刷層を焼成処理して金属微粒子焼結膜を形成してなるプリント配線板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フレキシブルプリント配線板などとして、ポリイミド樹脂で形成される基材上に回路パターンが形成されたものが用いられている。このような回路パターンを形成する方法としては、金属箔を貼り合せた基材上にフォトレジスト等を塗布し、所望の回路パターンを露光し、ケミカルエッチングによりパターンを形成する方法が用いられてきた。
【0003】
ところで、ポリイミドなどの基材に、銅などによって直接回路を形成する場合には、密着させることが困難であり、従来は、基材と回路の界面に密着性を付与する層を形成したり、被着面を荒らして密着性を向上させる方法がとられてきた。しかしながら、密着層を形成すると、導電性や絶縁性が低下するという問題があり、被着面を荒らす方法では、被着界面の凹凸により、ノイズが増加するという問題があった。また、高周波用途で使用される配線においては、信号遅延などの問題もあった。
【0004】
これに対し、ポリイミド樹脂にアルカリ水溶液を塗布し、ポリイミド樹脂のイミド環を開裂してカルボキシル基を生成させ、これに金属イオン含有溶液を接触させて金属塩を生成させ、還元反応により金属薄膜を得る技術が提案されている(特許文献1、特許請求の範囲参照)。そして、金属はポリイミド樹脂の表層部内に埋包された状態となり、アンカーロッキング効果によって、密着性の高い薄膜を得ている(特許文献1、段落0049参照)。
しかしながら、この方法では、ポリイミドに銅がマイグレートしているため、配線が短絡したり、界面の凹凸が大きいために、電気信頼性が低下し、ノイズが発生するという問題がある。
【0005】
また、絶縁基板上に形成された絶縁樹脂層と、絶縁樹脂層に形成された金属薄膜層とからなる積層体で、絶縁樹脂層と金属薄膜層の接触界面に金属酸化物が存在する積層体が提案されている(特許文献2、特許請求の範囲参照)。特許文献2によれば、金属酸化物が絶縁樹脂層と金属薄膜層の接着強度を増大させるとされている(特許文献2、段落0020参照)。
しかしながら、特許文献2に開示される積層体では、金属酸化物層、特に酸化銅の層は強酸に弱く、電解銅メッキ法によって配線を厚膜化する際に、金属酸化物層が溶解し、密着性が低下することが予想される。
【0006】
さらに、COF(chip on film)テープを作製する場合は、プリント配線板にチップを実装する際に、チップの位置合わせのために、基材の透明性が要求され、基材の面を荒らすことなく、平滑に銅配線を密着させたプリント配線板が要求されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−45236号公報
【特許文献2】特開2008−200875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況下になされたもので、ポリイミドなどの基材上に、銅配線など金属微粒子焼結膜を形成してなり、金属微粒子焼結膜と基材との密着性が高く、かつ基材と金属微粒子焼結膜との界面の平滑性が高いプリント配線板及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、基材に金属等の微粒子を印刷し、粒子どうしを焼結させて、薄膜を形成する技術を用いることで、基材に直接金属薄膜を形成し得ることが可能であることを見出した。しかしながら、この技術を用いた場合に、基材と印刷層との界面における空隙によって、密着性、信号ノイズの増加、高抵抗化、断線などの問題が生じることがわかった。また、空隙を減少させるために強いエネルギーで金属箔膜を形成すると、基材が変形したり、金属粒子が基材に埋め込まれた形状となって界面に凹凸が生じ、信号ノイズの増加、高抵抗化、信頼性の低下が生じることがわかった。そして、空隙を減少させるとともに、基材由来の凹凸を小さくすることで、基材と金属薄膜の界面が平滑であって、かつ、密着性の高いプリント配線板が得られることがわかった。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、基材上に、金属又は金属酸化物微粒子を含む塗布液を印刷して印刷層を形成する工程、該印刷層を焼成処理して金属微粒子焼結膜を形成する工程、及びパターン状の金属微粒子焼結膜を得る工程を有するプリント配線板の製造方法であって、該焼成処理を、周波数が300MHz〜3000GHzの電磁波であるマイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマにより行うことで、基材と金属微粒子焼結膜の界面の平均粗さを30nm以下とすることを特徴とするプリント配線板の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリイミドなどの基材上に、銅配線など金属微粒子焼結膜を形成してなり、金属微粒子焼結膜と基材との密着性が高く、かつ該界面での平滑性が高いプリント配線板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のプリント配線板は、基材上に、金属又は金属酸化物微粒子を含む塗布液を印刷して印刷層を形成し、該印刷層を焼成処理して金属微粒子焼結膜を形成してなる。
【0013】
(基材)
本発明において用いる基材としては、プリント配線板に用いられるものであれば特に制限されるものではないが、一般にはポリイミドなどの絶縁性の高分子フィルムが用いられる。本発明では後に詳述するように、金属又は金属酸化物微粒子が低温かつ短時間で焼結されてプリント配線板が形成されるため、基材に損傷を与えることが少なく、プラスチックなどの高分子材料も基材とすることができ、特にポリイミドなどの樹脂フィルムを用いることができる点で非常に有用である。
【0014】
基材として用い得る高分子材料としては、用途に応じて種々のものを挙げることができるが、融点200℃以上のものが好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、アラミド樹脂、エポキシ樹脂、ガラス−エポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、あるいはポリエステルアミド、ポリエステルなどの液晶ポリマーなどを使用することができる。これらのうち、耐熱性、機械強度、電気絶縁性、耐薬品性などの点から、ポリイミド樹脂が好ましい。
【0015】
基材の厚さについては特に制限はないが、基材がプラスチック基材の場合には、通常10〜300μmの範囲である。10μm以上であると、金属微粒子焼結膜を形成する際に基材の変形が抑制され、形成される金属微粒子焼結膜の形状安定性の点で好適である。また、300μm以下であると巻き取り加工を連続して行う場合に、柔軟性の点で好適である。
また、基材の平滑性としては、表面粗さが算術粗さ(JIS B0601に準拠して測定したRa値)で、100nm以下であることが好ましい。該算術粗さが100nm以下であると、後に詳述する、基材と金属微粒子焼結膜の界面の平均粗さが小さくなる傾向にある。以上の点から、基材の表面粗さは、30nm以下がさらに好ましく、10nm以下が特に好ましい。
【0016】
(金属又は金属酸化物微粒子)
金属の種類としては、導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムなどの貴金属;銅、ニッケル、スズ、鉄、クロム、アルミニウム、モリブデン、タングステン、亜鉛、チタン、鉛などの卑金属が挙げられる。
これらのうち、高い導電性を有し、かつ微粒子を容易に維持できる点から、金、銀、銅、及びニッケルが好ましく、導電性、経済性、耐マイグレーション性などを加味すると、銅が好ましい。
これらの金属は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して、又は合金化して使用してもよい。また、金属酸化物としては、酸化銀、酸化第一銅、酸化第二銅又はこれらの混合物などが好適に挙げられる。これらのうち、特に銅の化合物が好ましく、とりわけ、銅の酸化物(酸化第一銅、酸化第二銅又はこれらの混合物)が好適である。
なお、ここで金属酸化物には、金属の表面が酸化された態様も含み、本発明においては、表面が酸化された銅が好ましい。
【0017】
上記金属微粒子及び金属酸化物微粒子の調製方法としては種々の方法があるが、メカノケミカル法などによる金属粉を粉砕して得る物理的な方法;CVD法や蒸着法、スパッタ法、熱プラズマ法、レーザー法のような化学的な乾式法;熱分解法、化学還元法、電気分解法、超音波法、レーザーアブレーション法、超臨界流体法、マイクロ波合成法等による化学的な湿式法と呼ばれる方法で作製できる。
得られた微粒子は、分散液とするために、微粒子にポリビニルピロリドンなどの水溶性高分子やグラフト共重合高分子のような保護剤、界面活性剤、金属と相互作用するようなチオール基やアミノ基、水酸基、カルボキシル基を有する化合物で被覆することが好ましい。また、合成法によっては、原料の熱分解物や金属酸化物が粒子表面を保護し、分散性に寄与する場合もある。熱分解法や化学還元法などの湿式法で作製した場合は、還元剤などがそのまま微粒子の保護剤として作用することがある。
また、分散液の分散安定性を高めるために、微粒子の表面処理を行ったり、高分子、イオン性化合物、界面活性剤等からなる分散剤を添加してもよい。
【0018】
上記微粒子の平均一次粒子径は1〜200nmの範囲であることが好ましい。平均一次粒子径が1nm以上であると分散液の分散安定性が良好であり、金属微粒子焼結膜を形成した際の導電性が良好となる。一方、平均一次粒子径が200nm以下であると融点が低く維持され、十分な焼結が可能であり、高い導電性が得られるとともに、基材と金属微粒子焼結膜との界面に空隙を生じにくく、平滑性を確保することができる。以上の観点から、微粒子の平均一次粒子径は1〜100nmの範囲が好ましく、1〜70nmの範囲がさらに好ましく、2〜50nmの範囲が特に好ましい。ここで、分散液中の微粒子の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡による観察像から測定される。
なお、これらの微粒子は、単結晶からなる微粒子であっても、より小さい結晶子が複数集まった多結晶微粒子であってもよい。
【0019】
微粒子の分散液(塗布液)を構成し、上記微粒子を分散させる分散媒としては、水及び/又は有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどのアルコール類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのエステル類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)などのエーテル類;ヘキサン、デカン、ドデカン、テトラデカン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素などが挙げられる。
【0020】
さらに、造膜性を高めること、印刷適性を付与すること、及び分散性を高めることを目的として、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、あるいはウレタン樹脂等を樹脂バインダーとして分散液に添加してもよい。また、必要に応じて、粘度調整剤、表面張力調整剤、あるいは安定剤等を添加してもよい。
【0021】
本発明における微粒子分散液は、固形分濃度が5〜60質量%の範囲が好ましい。固形分濃度が5質量%以上であると十分な導電性が得られ、60質量%以下であると、粘度が十分に低く、基材への微粒子分散液の印刷が容易である。以上の観点から、微粒子分散液中の固形分濃度は10〜50質量%の範囲がより好ましい。
【0022】
基材上に微粒子分散液を印刷する方法としては特に制限されず、グラビア印刷、スクリーン印刷、スプレーコート、スピンコート、コンマコート、バーコート、ナイフコート、オフセット印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、ディスペンサ印刷などの方法を用いることができる。これらのうち、微細なパターニングを行うことができるという観点から、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷が好ましい。
なお、本発明における印刷には、全面を塗布する、いわゆる全面ベタ印刷も包含される。全面ベタ印刷の場合には、該印刷層を焼成処理して得られる金属微粒子焼結膜に対して、エッチングによりパターンを形成することが可能である。
【0023】
エッチングによるパターン形成は、後に詳述する焼結によって得られる金属微粒子焼結膜又は該金属微粒子焼結膜上に金属めっきを施した金属膜に対し、フォトレジストを塗布するか又はドライフィルムレジストをラミネートしてフォトレジスト層を形成し、フォトマスクを用いたフォトリソグラフィ法により露光、現像してパターンを形成した後、塩化第二鉄、塩化第二銅などによるエッチングを行い、残ったレジストを剥離して、金属パターンを形成する。
本発明の基材は、クロムなどの難エッチング性材料を用いた密着層がないため、エッチング工程を2段階にしたり、特殊なエッチング液を用いる必要がない。また、界面が平滑であるので、微細なパターンをエッチングした場合でも、細線のエッジが乱れることがなく、信頼性の高い配線が得られる。
【0024】
一方、本発明では、基材上に微粒子分散液を所望のパターンに直接印刷することができるため、パターン状の印刷層を形成した後に、焼成処理をしてパターン状の金属微粒子焼結膜を得ることもできる。該方法は、上記フォトレジストを用いた方法に比較して、さらに生産性を向上させることができ、かつ界面が平滑であるので、細線のエッジが乱れることがなく、信頼性の高い配線が得られるため好ましい。
なお、形成された金属パターンは、めっきにより厚膜化を行うことができる。めっきとしては、電解めっき、無電解めっきなど、公知の方法を用いることができる。また、パターン状に金属微粒子焼結膜を形成した後、めっきを行ってもよいし、金属微粒子焼結膜全面にめっきを行い、その後エッチング等によりパターンを形成してもよい。
さらに、形成されたパターンの上には、ソルダーレジストを形成し、実装のための接続部をめっきなどにより形成することができる。
【0025】
基材上の微粒子分散液は印刷後、通常の方法で乾燥を行ってもよい。具体的には、例えば、通常のオーブン等を用いて、80〜140℃程度の温度で0.1〜20分程度加熱して乾燥させる。乾燥後の印刷部分の膜厚は用途等に応じ、適宜塗布量や微粒子の平均一次粒子径等を変化させて制御することができるが、通常、0.01〜100μmの範囲、好ましくは0.1〜50μmの範囲である。
【0026】
(焼成処理)
次に、本発明における焼成は、金属又は金属化合物微粒子が融着して、金属微粒子焼結膜を形成することができる方法であれば特に制限はなく、例えば、焼成炉で行ってもよいし、プラズマ、加熱触媒、紫外線、真空紫外線、電子線、赤外線ランプアニール、フラッシュランプアニール、レーザーなどを用いてもよい。これらの焼成は、不活性ガス雰囲気下又は還元性ガス雰囲気下で行うのが、金属微粒子焼結膜の導電性の観点から好ましい。
これらの焼成処理は、短時間に行われるのが好ましく、昇温速度は100℃/分以上、好ましくは200℃/分以上で行うのがよい。焼成反応にかかる時間は、5分以内、さらには2分以内とすることが好ましく、粒成長を抑制することができる。
【0027】
また、金属微粒子が卑金属又は酸化物を含む場合は、還元性を持つ活性種を発生させる方法が好ましい。さらに、基材が樹脂や低耐熱基材である場合には、基材の熱ダメージを防ぎ、基材の分解や変形などを生じさせないように、微粒子を塗布層の表層から、均一に加熱する方法を用いるのが好ましい。
上記のような焼成方法のうち、特に、マイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマ(以下「マイクロ波表面波プラズマ」と称することがある。)による焼成処理は、基材への熱ダメージが少なく、大面積の処理が可能で、短時間の焼成処理が可能である。
【0028】
本発明においては、マイクロ波表面波プラズマに晒すことにより焼成処理して、金属微粒子焼結膜を形成することが好ましい。
なお、表面波プラズマの処理の前に、金属又は金属酸化物微粒子を含む塗布液を印刷した印刷層に含まれる分散剤等の有機物を除去するために、大気下または酸素を含む雰囲気下、100〜400℃程度の温度で10分から2時間程度加熱することが好ましい。この加熱により、有機物が酸化分解除去される。
【0029】
<表面波プラズマの発生方法>
前記表面波プラズマの発生方法に特に制限はなく、例えば減圧状態の焼成処理室の照射窓からマイクロ波エネルギーを供給し、該焼成処理室内に照射窓に沿う表面波プラズマを発生させる無電極プラズマ発生手段を用いることができる。
【0030】
前記プラズマ発生手段としては、例えば焼成処理室の照射窓から周波数2450MHzのマイクロ波エネルギーを供給し、該処理室内に、電子温度が約1eV以下、電子密度が約1×1011〜1×1013cm-3のマイクロ波表面波プラズマを発生させることができる。
なお、マイクロ波エネルギーは、一般に周波数が300MHz〜3000GHzの電磁波であるが、例えば、2450MHzの電磁波が用いられる。この際、マイクロ波発振装置であるマグネトロンの精度誤差などのために2450MHz/±50MHzの周波数範囲を持っている。
このようなマイクロ波表面波プラズマは、プラズマ密度が高く、電子温度が低い特性を有し、前記印刷層を低温かつ短時間で焼成処理することが可能であり、ち密かつ平滑な金属微粒子焼結膜を形成することができる。表面波プラズマは、処理面に対して、面内で均一の密度のプラズマが照射される。その結果、他の焼成方式と比べて、面内で部分的に粒子の焼結が進行するなど、不均一な膜が形成されることが少なく、また粒成長を防ぐことができるため、非常にち密で、平滑な膜が得られる。また、面内処理室内に電極を設ける必要がないので、電極由来の不純物のコンタミネーションを防ぐことができ、また処理材料に対して異常な放電によるダメージを防ぐことができる。さらに、電子温度が低くエッチング性が小さいために、プラスチック基材を用いる場合には、該基材のダメージが少ない。そのため、金属微粒子が基材に埋め込まれたり、マイグレーションを起こすような構造になり難いという利点がある。
【0031】
本発明においては、マイクロ波表面波プラズマを、還元性気体の雰囲気、好ましくは水素ガス雰囲気下で発生させる。これにより、金属微粒子表面に存在する絶縁性の酸化物が還元除去され、導電性能の良好な金属微粒子焼結膜が形成される。
このように、還元性気体の雰囲気下で、マイクロ波表面波プラズマを発生させ、前記印刷層を焼成処理することにより、金属微粒子表面に存在する酸化物が還元除去されるので、本発明においては、金属微粒子として、表面が酸化されている粒子や、内部まで酸化されている粒子を用いることができる。
なお、還元性雰囲気を形成する還元性気体としては、水素、一酸化炭素、アンモニアなどのガス、あるいはこれらの混合ガスが挙げられるが、特に、副生成物が少ない点で水素ガスが好ましい。
また、還元性気体には、窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、クリプトン、キセノンなどの不活性ガスを混合して用いれば、プラズマが発生し易くなるなどの効果がある。
【0032】
このように、マイクロ波表面波プラズマにより、焼成処理されて形成された金属微粒子焼結膜は、厚みが10nm〜50μm程度、好ましくは50nm〜5μm程度、さらに好ましくは100〜2000nmである。
【0033】
本発明のプリント配線板は、基材と金属微粒子焼結膜の界面の平均粗さが、長さ2μmの界面の凹凸ラインを抽出した場合に、30nm以下であることが特徴である。このように界面が平滑であることによって、電気信頼性が高く、ノイズが抑制されたプリント配線板が期待される。以上の観点から、基材と金属微粒子焼結膜の界面の平均粗さは、20nm以下が好ましく、10nm以下がさらに好ましい。
なお、平均粗さの測定は以下の方法による。
【0034】
(基材と金属微粒子焼結膜の界面における平均粗さの測定方法)
プリント配線板の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で測定し、5万倍の断面観察像を得る。基板と金属微粒子焼結膜の界面の凹凸ライン(長さ2μm)を抽出し、該凹凸ラインから、最大高さ(Rz、最も山の部分と最も谷の部分の差、JIS B0601(2001)の定義に従う)を求める。凹凸ラインは面内の任意の10箇所から抽出し、それぞれの最大高さの平均値を、平均粗さとする。
凹凸ラインは、SEM観察で得られた画像を白黒に変換し、白色の部分を金属微粒子焼結膜側として、金属微粒子焼結膜側に沿ったラインを抽出する。異物や、フィルム中に含有されるフィラーなど、明らかな凹凸異常がある部分は使用しない。
なお、基材と金属微粒子焼結膜の界面における平均粗さの測定方法として上述の方法を用いる理由は、基材と金属微粒子の焼結膜の界面の平均粗さは、該焼結膜を剥離して、JIS B0601に準拠して測定することが困難なためである。したがって、前述の基材の表面粗さの測定方法とは異なる方法を用いるものである。
【0035】
また、本発明のプリント配線板においては、金属微粒子焼結膜の断面の空隙率が1%以下であることが好ましい。該空隙率が1%以下であると、上記のように平滑性を維持しつつ、金属微粒子焼結膜と基材との密着性を高くすることができる。以上の点から、該空隙率は0.5%以下であることが好ましい。
この空隙率は、走査型電子顕微鏡を用いて金属微粒子焼結膜の断面観察を行い、空隙部の面積比から算出することができる。
【0036】
また、金属微粒子焼結膜内部の、X線光電子分光法により測定した炭素含有量が5%未満であることが好ましい。該炭素量が5%未満であると、焼結膜の緻密性、及び導電性の点で有利である。以上の観点から、該炭素量は1%未満であることがさらに好ましい。
該炭素量の測定は、X線光電子分光装置を用い、金属微粒子焼結膜をエッチングしながら、炭素の元素分析を行うものである。金属微粒子焼結膜と基材の界面までエッチングを行い、得られる全元素量中の炭素の相対量(%)で表す。
【0037】
本発明のプリント配線板は、基材上に密着性よく設けられたパターン状の金属微粒子焼結膜を有し、信頼性及び導電性が良好である。すなわち、該金属微粒子焼結膜を構成する金属微粒子焼結膜は基材上に直接、密着しており、基材との間に異種金属層又は金属酸化物層を有さないため、導電性や絶縁性が低下することがない。また、基材と金属微粒子焼結膜との界面に凹凸がなく、平滑である。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
(評価方法)
この例で得られたプリント配線板について、以下の方法によって評価した。
1.導電性(体積抵抗率)
表面抵抗計((株)ダイアインスツルメンツ製「ロレスタGP」)を用いて、4探針法にて表面抵抗を測定し、膜厚から体積抵抗率を算出した。
2.走査型電子顕微鏡観察
(株)日立ハイテクノロジー製の走査型電子顕微鏡(SEM)「S−4800」を用い、加速電圧1kV、電流10μAで観察を行った。ミクロトームを用いて試料を切断し、任意の5箇所について、断面観察を5万倍の倍率で行い、金属微粒子焼結膜の膜厚を測定した。
また、画像処理によって、金属膜に占める空隙部の面積比を算出し、5箇所の平均値を空隙率とした。また、SEM写真から、基材の損傷の有無を観察した。
3.基材と金属微粒子焼結膜の界面における平均粗さ
明細書本文に記載の方法により、平均粗さを算出した。
4.めっき後の密着性
各実施例及び比較例で得られたプリント配線板について、さらに電解銅めっきを行った。電解銅めっきは、硫酸銅めっき浴(硫酸銅:70g/L、硫酸:200g/L、添加剤(トップルチナSF−M:奥野製薬工業社製):5mL、塩酸:0.125mL/L)を用い、温度:25℃、陰極電流密度:3Adm2、陽極電流密度:1.5Adm2の条件で、金属微粒子焼結膜上に、電解銅めっき処理を施し、膜厚8μmの電解銅めっき膜を形成した。
銅めっきにより得られた配線パターン表面に、粘着性テープ(ニチバン(株)製「セロテープ(登録商標)」、幅24mm)をよく密着させ、その後剥がした。配線パターンの被試験部の両端にテスターをあて、テープ剥離試験前後で導通が変化しないものを○、導通が低下するものを△とした。また、めっき後のパターン剥がれなどにより、テープ剥離試験の実施前から導通がないものを×とした。
【0039】
実施例1
平均1次粒子径が5nmの銅ナノ粒子トルエン分散液(アルバックマテリアル(株)製固形分30質量%)を、厚さ75μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製「カプトン200H」)に、インクジェット印刷(FUJIFILM Dimatix社製「DMP−2831」)により、幅1mmのパターン状に薄膜形成した後、自然乾燥させた。その後、銅微粒子を塗布した基板を、有機成分を除去するために大気下で、あらかじめ300℃で30分間加熱した。
続いて、マイクロ波表面波プラズマ処理装置(MSP−1500、ミクロ電子(株)製)により処理を行った。プラズマ処理は、水素ガスを用い、水素導入圧力10Pa、水素流量100sccmとし、マイクロ波出力1000Wで、30秒間プラズマ処理を行った。得られた銅ナノ粒子焼結膜について、上記方法により評価した結果を第1表に示す。
【0040】
実施例2
マイクロ波出力を800Wとしたこと以外は実施例1と同様とした。得られた銅ナノ粒子焼結膜について、上記方法により評価した結果を第1表に示す。
【0041】
実施例3
マイクロ波出力を600Wとし、処理時間を60秒としたこと以外は実施例1と同様とした。得られた銅ナノ粒子焼結膜について、上記方法により評価した結果を第1表に示す。
【0042】
実施例4
マイクロ波出力を500Wとし、処理時間を60秒としたこと以外は実施例1と同様とした。得られた銅ナノ粒子焼結膜について、上記方法により評価した結果を第1表に示す。
【0043】
比較例1
実施例1において、マイクロ波表面波プラズマによる焼成処理に代えて、電気炉(ネムス(株)製)を用いて焼成したこと以外は実施例1と同様にして銅ナノ粒子焼結膜を得た。焼成の具体的方法としては、水素4%、アルゴン96%の還元雰囲気下、10℃/minで350℃まで昇温後60分保持し、その後自然冷却した。
得られた銅ナノ粒子焼結膜について、実施例1と同様に評価した。評価結果を第1表に示す。
【0044】
比較例2
実施例1において、マイクロ波表面波プラズマによる焼成処理に代えて、高周波電源を利用したプラズマ装置(キヤノンアネルバエンジニアリング製、「ED-350特型」)を用い、水素導入圧力10Pa、水素ガス流量100sccm、出力300Wで10分間処理を行った。得られた銅ナノ粒子焼結膜について、上記方法より評価した結果を第1表に示す。
【0045】
比較例3
比較例2において、高周波電源を利用したプラズマ装置の出力を500Wとし、30分間処理を行ったこと以外は、比較例2と同様にして、銅ナノ粒子焼結膜を得た。得られた銅ナノ粒子焼結膜について、上記方法より評価した結果を第1表に示す。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のプリント配線板は、基材とパターン状の金属微粒子焼結膜との界面が平滑であり、かつ密着性が高く、導電性や絶縁性が低下することがない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、金属又は金属酸化物微粒子を含む塗布液を印刷して印刷層を形成する工程、該印刷層を焼成処理して金属微粒子焼結膜を形成する工程、及びパターン状の金属微粒子焼結膜を得る工程を有するプリント配線板の製造方法であって、該焼成処理を、周波数が300MHz〜3000GHzの電磁波であるマイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマにより行うことで、基材と金属微粒子焼結膜の界面の平均粗さを30nm以下とすることを特徴とするプリント配線板の製造方法。
【請求項2】
前記金属又は金属酸化物が、銀、ニッケル、銅、酸化銅、及び表面が酸化された銅から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項3】
前記基材が、ポリイミド樹脂である請求項1又は2に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項4】
前記焼成が、不活性ガス雰囲気下又は還元性ガス雰囲気下で行われる請求項1〜3のいずれかに記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項5】
前記パターン状の金属微粒子焼結膜を得る工程が、金属又は金属酸化物微粒子を含む塗布液をパターン状に印刷することにより行われる、もしくは前記パターン状の金属微粒子焼結膜を得る工程が、金属微粒子焼結膜をケミカルエッチング処理することにより行われる請求項1〜4のいずれかに記載のプリント配線板の製造方法。

【公開番号】特開2013−93634(P2013−93634A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−32394(P2013−32394)
【出願日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【分割の表示】特願2009−60311(P2009−60311)の分割
【原出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】