説明

プリント配線板用積層板

【課題】 高周波特性が要求されるプリント配線板用積層板の絶縁性基材の樹脂材料として有用なシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂を用い、十分な機械的強度を有し、生産効率がよく、補強材の界面に存在する残留気泡が極めて少ないプリント配線板用積層板等を提供する。
【解決手段】 補強材表面を、予め前記ポリスチレン系樹脂と相溶性を有する樹脂組成物で処理等を行う。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電気・電子分野に用いられるプリント配線板用積層板、特には高周波特性、耐熱性、機械的強度に優れ、長期環境信頼性の高いプリント配線板用積層板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、プリント配線板用積層板の絶縁性基材は、樹脂のみでは機械的強度が不十分であり、しかも配線用金属と熱膨張の整合がとれないことから、ガラスクロスやアラミド繊維等の補強材を樹脂に含浸させて複合化したものが利用されている。従来、上記樹脂としては、耐熱性や耐溶剤性の問題から熱硬化性樹脂が汎用されている。そして、この熱硬化性樹脂と補強材とを複合化させるには、未硬化状態の樹脂を有機溶剤で希釈した溶液を補強材に含浸させた後、乾燥処理を施して樹脂を半硬化させ、プリプレグとする方法が採用されている。この場合、上記溶液の粘度は数cp〜数百cpと低く、また、補強材はシランカップリング剤などにより表面処理を施してあるので補強材界面の濡れ性はよく、したがって、得られる絶縁性基材は、十分な強度と耐マイグレーション性などの長期環境信頼性を備えている。
【0003】しかしながら、熱硬化性樹脂と補強材を複合化した絶縁性基材は、耐熱性、強度、生産効率等の点では優れているものの、誘電率、誘電正接が高いことから、優れた高周波特性が要求されるプリント配線板用積層板の絶縁性基材としては適当ではない。そこで、誘電特性を改善するため、外側をガラスクロスと複合化した絶縁性基材とし、中心にガラスマット、ガラスペーパー、アラミド繊維等の補強材を用いたコンポジット型の絶縁性基材も提案されているが、十分な改善が図られていないのが現状である。また、熱硬化性樹脂の代わりに、熱可塑性樹脂を用いたコンポジット型の絶縁性基材も提案されているが、熱可塑性樹脂の融点が低いため、プリント配線板用積層板に使用できる範囲は極めて限定されている。
【0004】近年、絶縁性基材を構成する樹脂として、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂を主材料とする樹脂組成物(以下、前記ポリスチレン系樹脂に各種添加剤を添加したものをSPS樹脂組成物、添加していないものをSPS樹脂と称する。)が開発され、このものは誘電率、誘電正接が低く、また、従来のポリスチレンとは異なり、耐熱性、耐溶剤性に優れ、他の高周波用基板に使用される樹脂と比較して安価であることから、高周波特性が要求される高速演算処理用、衛星放送受信用、あるいは小型通信機器用等のプリント配線板用積層板の絶縁性基材を構成する樹脂材料として注目されている。このSPS樹脂組成物を用いたプリント配線板用積層板は、SPS樹脂組成物のみでは、一般に必要とされる機械的強度(具体的には、曲げ弾性率で10kgf/mm2 以上)が得られないため、ガラスクロスなどの補強材にSPS樹脂組成物を含浸させたプリプレグを1枚又は複数枚重ね合わせ、その片面又は両面に銅箔などの導電性金属層を積層することにより製造している。この場合、プリプレグを作製するには、補強材の表面処理に適した汎用溶剤がないため、SPS樹脂組成物をシート状に成形した後、適当なシランカップリング剤で表面処理した補強材と重ね合わせ、加熱加圧処理する方法が採られてきた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、溶融状態のSPS樹脂組成物の粘度は数千ポイズと高く、補強材が織布の場合、該樹脂組成物を含浸させるのは容易ではない。例えば、SPS樹脂組成物は、汎用織布であるガラスクロスの撚糸同士の間には比較的速やかに入り込むが、撚糸自体の繊維間には非常に入りにくい。したがって、SPS樹脂組成物を用いたプリント配線板用積層板を生産するには、加圧状態にして5分程度以上の時間を要し、非常に生産効率が悪かった。
【0006】その上、SPS樹脂組成物の織布への含浸性が低いと、織布との親和状態が不完全となりやすく、そのため十分な機械的強度が得られなかったり、プリント配線板製造の際における半田処理時に、SPS樹脂組成物と織布との間に存在していた残留気泡が膨れたりする問題が生じた。さらには、プリント配線板の使用時に、エレクトロマイグレーション現象により絶縁破壊が生じる危険性もあった。
【0007】一方、補強材として織布以外のものを使用した場合、織布ほど機械的強度が得られない。そのため、フィラーを配合することにより、機械的強度を得る方法があるが、単に配合しただけでは十分な機械的強度を得ることはできなかった。
【0008】また、SPS樹脂組成物を用いた従来のプリント配線板用積層板は、SPS樹脂組成物自体の誘電特性は優れているものの、汎用される織布の誘電率、誘電正接が高いことから、全体としては誘電特性が十分ではなかった。
【0009】プリント配線板用積層板の導電性金属層としては、主として電解銅箔が用いられている。この銅箔には、通常、絶縁性基材に接着させる面に、メッキ法により5〜20μm程度の大きさの金属粒子を析出させる粗面化処理が施される。そして、この析出した金属粒子を絶縁性基材に食い込ませることにより、銅箔の絶縁性基材に対する接着強度を高めている。しかしながら、従来の粗面化した電解銅箔を用いると、絶縁性基材の誘電特性を改善させても、電解銅箔での誘電損失が大きくなるため、絶縁性基材の性能を最大限に発揮させることができなかった。また、伝搬周波数が高くなるほど、電流は銅箔の表面付近にしか流れないようになるため、特に5GHz以上での高周波特性が要求される場合は、特開昭60−248344に記載されているように、表面に凹凸の少ない圧延銅箔を用い、接着剤を介して絶縁性基材に張り合せていた。しかしながら、SPS樹脂組成物で作製した絶縁性基材は、上記したように耐溶剤性に優れるものの、表面活性に乏しく、また、圧延銅箔を張り合せるための適当な接着剤もないため十分な密着性が得られなかった。
【0010】また、近年、電気・電子機器の小型化、軽量化の傾向に伴い、多層化させることにより高密度化した多層プリント配線板用積層板も利用されている。しかしながら、SPS樹脂組成物と補強材とからなる絶縁性基材に配線パターンを形成した内装基板を、SPS樹脂組成物と補強材とからなる接着層を介して多層化するには、SPS樹脂組成物の融点(270℃)以上の温度にする必要があり、そうした場合、内装基板に形成した配線パターンがずれたり、歪んだりするといった不具合を生じた。また、接着層を熱硬化性樹脂にすると、十分な接着力が得られず、層間剥離現象を招いた。
【0011】すなわち、本発明の目的は、プリント配線板用積層板の絶縁性基材の樹脂材料にSPS樹脂組成物を用いたものであって、SPS樹脂組成物と織布の界面に存在する残留気泡が極めて少ないプリント配線板用積層板、プリント配線板用積層板として十分な機械的強度を有し、生産効率がよいプリント配線板用積層板、十分な機械的強度と優れた誘電特性を有するプリント配線板用積層板、銅箔と絶縁性基材の密着性が良好なプリント配線板用積層板、実際の使用に耐え得る層間接着強度を有する多層化プリント配線板用積層板及びその製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】請求項1のプリント配線板用積層板は、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂を主材料とする樹脂組成物と織布とからなる絶縁性基材の両面又は片面の一部又は全面に導電性金属層を設けたプリント配線板用積層板において、織布表面が、予め前記ポリスチレン系樹脂と相溶性を有する樹脂組成物で処理されたものであることを特徴とする。請求項2のプリント配線板用積層板は、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂を主材料とする樹脂組成物と、一般式aAXY ・bB23 (a,bはそれぞれ1〜9の数、Aは1〜3価の金属元素、X,Yは、X=2、Y=1、X=Y=1又はX=2、Y=3)又は一般式pMVw ・qSiO2 ・rH2 O(p,q,rは、1≦p≦3、1≦q≦3、0≦r≦10の実数、Mは1〜3価の金属元素、V,Wは、V=2、W=1、V=W=1又はV=2、W=3)で示される補強材とからなる絶縁性基材の両面又は片面の一部又は全面に導電性金属層を設けたプリント配線板用積層板において、補強材の配合量が前記樹脂組成物に対して、5〜60%重量%の割合であり、補強材表面が、予め前記ポリスチレン系樹脂と相溶性を有する樹脂組成物で処理されたものであることを特徴とする。請求項3のプリント配線板用積層板は、請求項2記載のプリント配線板用積層板において、絶縁性基材が、SPS樹脂組成物に対して、10〜70重量%の割合のマイカを含むものであることを特徴とする。請求項4のプリント配線板用積層板は、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂を主材料とする樹脂組成物と織布とからなる絶縁性基材の両面又は片面の一部又は全面に導電性金属層を設けたプリント配線板用積層板において、前記絶縁性基材を構成する織布を含む層と含まない層の厚さの比が、1:0.25〜1:4の範囲にあり、かつ、上記両層が厚さ方向で実質的に対称に配列されていることを特徴とする。請求項5のプリント配線板用積層板は、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂を主材料とする樹脂組成物と補強材とからなる絶縁性基材の両面又は片面の一部又は全面に銅箔層を設けたプリント配線板用積層板において、銅箔層の絶縁性基材との接着面が、メッキ法により析出させた平均粒径1μm以下の金属粒子を有し、かつ、前記金属粒子を析出させる前の接着面の平均表面粗さ(JIS)が1μm以下であることを特徴とする。請求項6の多層プリント配線板用積層板は、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂を主材料とする樹脂組成物と補強材とからなる絶縁性基材の両面に配線パターンを形成した少なくとも1枚の内装基板の外面に接着層を介して導電性金属層を設けた多層プリント配線板用積層板であって、該接着層が250℃以下で硬化する熱硬化性樹脂と補強材とからなることを特徴とする。請求項7の多層プリント配線板用積層板の製造方法は、接着層を250℃以下で硬化させた後、270℃以上に昇温し、その後、冷却することを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明のプリント配線板用積層板の絶縁性基材は、上記した通り、SPS樹脂組成物と補強材とからなる。本発明で用いるSPS樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)、これらの水素化重合体及びこれらの混合物又はこれらを主成分とする共重合体が挙げられる。また、上記SPS樹脂は、シンジオタクチック構造、すなわち炭素−炭素結合から形成される主鎖に対して、側鎖であるフェニル基や置換フェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものでなければならない。具体的に、そのタクチシティーを、炭素13核磁気共鳴法(13C−NMR法)による分析で得られる、連続構成単位(例えば、2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッド)の存在割合で示すと、通常は、ラセミダイアッドで75%以上、好ましくは85%以上又はラセミペンタッドで30%以上、好ましくは50%以上である。
【0014】上記ポリ(アルキルスチレン)としては、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(イソプロピルスチレン)、ポリ(tーブチルスチレン)、ポリ(フェニルスチレン)、ポリ(ビニルナフタレン)、ポリ(ビニルスチレン)等、ポリ(ハロゲン化スチレン)としては、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)、ポリ(フルオロスチレン)等、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)としては、ポリ(クロロメチルスチレン)等、ポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メトキシスチレン)、ポリ(エトキシスチレン)等が例示される。また、これらの構造単位を含む共重合体のコモノマー成分としては、上記スチレン系重合体のモノマーのほか、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン等のオレフィンモノマー、ブタジエン、イソプロピレン等のジエンモノマー、環状オレフィンモノマー、環状ジエンモノマー、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、アクリロニトリル等の極性ビニルモノマーが例示される。これらのうち、特に好ましいSPS樹脂としては、ポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、水素化ポリスチレン及びこれらの構造単位を含む共重合体が挙げられる。
【0015】このようなSPS樹脂は、例えば、不活性炭化水素溶媒中又は溶媒の不存在下に、チタン化合物及びトリアルキルアルミニウムと水の縮合生成物を触媒として、スチレン系単量体(上記スチレン系重合体に対応する単量体)を重合することにより製造することができる(特開昭62−187708号公報)。また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)については、特開平1−46912号公報、これらの水素化重合体は、特開平1−178505号公報記載の方法等により得ることができる。SPS樹脂の分子量については、特に制限はないが、重量平均分子量が2,000以上、好ましくは10,000以上、とりわけ50,000以上のものが最適である。また、分子量分布についても制限はない。
【0016】SPS樹脂には必要に応じて、難燃剤、難燃助剤、軟化剤、加工助剤等の各種添加剤を添加することができるが、SPS樹脂の持つ誘電特性を損なわないように、SPS樹脂100重量部に対し15重量部以内とすることが望ましい。また、力学的物性、特に耐衝撃性を向上させるために、SPS樹脂と相溶性の熱可塑性樹脂、例えば、アタクチック構造のスチレン系重合体、アイソタクチック構造のスチレン系重合体、ポリフェニレンエーテル、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)等をSPS樹脂に添加してもよい。
【0017】SPS樹脂組成物のみからなる絶縁性基材では、機械的強度が不足したり、導電性金属との熱膨張の整合がとれず、温度変化により変形や剥離を生じる危険性があるため、補強材を複合化させて絶縁性基材とする。補強材としては、ガラス繊維、炭素繊維、ホウ素,シリカ,炭化ケイ素等のウィスカー、アルミナ繊維、セラミックス繊維(セッコウ繊維、チタン酸カリ繊維、硫酸マグネシウム繊維、酸化マグネシウム繊維等)、有機合成繊維(全芳香族ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、フッ素樹脂繊維等)が例示されるが、価格、機械的強度の点からはガラス繊維が好ましい。これらの繊維は単独でも、2種以上を組み合わせてもよい。補強材の形状については、チョップドストランド、チョップドファイバー、連続長繊維等の不織布、織物、スワール状に積層したもの、スワール状に積層したものをニードルパンチしたもの、パウダー、ミルドファイバー等が挙げられる。補強材を構成する繊維の織り方については、例えば、長繊維を何本かまとめた撚り糸を、平織、綾織、目抜平織等の適宜の方法で織ればよいが、表面平滑性が得られやすいという点では平織が好ましい。
【0018】ただし、請求項1、4の発明においては、補強材として織布を使用する。また、請求項2、3の発明においては、補強材として、一般式aAXY ・bB23 (a,bはそれぞれ1〜9の数、Aは1〜3価の金属元素、X,Yは、X=2、Y=1、X=Y=1又はX=2、Y=3)又は一般式pMVw ・qSiO2 ・rH2 O(p,q,rは、1≦p≦3、1≦q≦3、0≦r≦10の実数、Mは1〜3価の金属元素、V,Wは、V=2、W=1、V=W=1又はV=2、W=3)で示される組成物を使用する。これらの組成物を使用することにより、プリント配線板用積層板の誘電率の上昇を抑えつつ機械的強度を向上させることができ、また、生産効率を高めることができる。上記Aとしては、Mg,Ca,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Al,Ga,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Pb,Ba,W,Li等を挙げることができる。中でも、AがAlであるホウ酸アルミニウムウィスカー、AがMgであるホウ酸マグネシウムウィスカー、AがNiであるホウ酸ニッケルウィスカーが好ましく、ホウ酸アルミニウムウィスカーとしては、さらに好ましいものとして、9Al23 ・2B23 、2Al23 ・B23 が例示される。
【0019】ホウ酸アルミニウムウィスカーは、白色針状結晶であり、例えば、アルミニウム水酸化物又はアルミニウム無機塩の中から選ばれる少なくとも1つのアルミニウム供給成分と、ホウ素の酸化物、酸素酸又はアルカリ金属塩の中から選ばれる少なくとも一つのホウ素供給成分とを、好ましくはアルカリ金属の硫酸塩、塩化物又は炭酸塩の中から選ばれる少なくとも1つの溶融剤の存在下にて、600〜1,200℃の範囲の焼成温度に加熱して反応、育成させることにより容易に製造することができる。9Al23 ・2B23 で示されるホウ酸アルミニウムウィスカーは、真比重2.93〜2.95、融点1,420〜1,460℃であり、焼成温度900〜1,200℃で製造したものが好ましい。また、2Al23 ・B23 で示されるホウ酸アルミニウムウィスカーは、真比重2.92〜2.94、融点1,030〜1,070℃であり、焼成温度600〜1,000℃で製造したものが好ましい。現在市販されているホウ酸アルミニウムウィスカーとしては、例えば、9Al23 ・2B23 で示される「アルボレックスG」(四国化成工業社製、商品名)がある。このものの平均繊維径は、0.5〜1μm、平均繊維長は10〜30μmである。また、必要に応じて上記9Al23 ・2B23 を酸化雰囲気又は還元雰囲気中にて、1,200〜1,400℃の温度で加熱することにより、ホウ酸成分の一部を脱離させた繊維も使用することができる。
【0020】ホウ酸マグネシウムウィスカーとしては、2Mg23 ・B23 で示されるものが例示される。このウィスカーは、白色針状結晶で、例えば、マグネシウムの酸化物、水酸化物及び無機酸塩の中から選ばれる少なくとも1つのマグネシウム供給成分と、ホウ素の酸化物、酸素酸及びアルカリ金属塩の中から選ばれる少なくとも1つのホウ素供給成分とを、好ましくはハロゲン化ナトリウム及びハロゲン化カリウムの中から選ばれる少なくとも1つの溶融剤の存在下にて、600〜1,000℃の範囲の焼成温度に加熱して反応、育成させることにより容易に製造することができる。なお、2Mg23 ・B23 で示されるホウ酸マグネシウムウィスカーは、真比重2.90〜2.92、融点1,320〜1,360℃のものが好ましい。
【0021】上記のホウ酸アルミニウムウィスカーやホウ酸マグネシウムウィスカーは、平均繊維径は0.05〜5μm、平均繊維長は2〜100μmのものが製造可能であり、いずれも使用可能であるが、製造の容易さから平均繊維径は0.1〜2μm、平均繊維長は10〜50μmのものが好ましい。
【0022】請求項2の発明で用いる、一般式pMVw ・qSiO2 ・rH2 O(p,q,rは、1≦p≦3、1≦q≦3、0≦r≦10の実数、Mは1〜3価の金属元素、V,Wは、V=2、W=1、V=W=1又はV=2、W=3)で示される補強材としては、例えば、CaO・SiO2 (ワラスナイト)、6CaO・6SiO2 ・H2 O(ゾノトライト)、3Al2 O3・2SiO2 (ムライト)、2ZnO・SiO2 (ケイ酸亜鉛)、2MgO3 ・SiO2 ・3.5H2 O(セピオライト)、3MgO・2SiO2 ・2H2 O(クリソタイル)を挙げることができる。その中でも特に好ましいものは、CaO・SiO2 (ワラスナイト)、6CaO・6SiO2 ・H2 O(ゾノトライト)である。ワラスナイトは天然に産出する白色針状結晶であり、形状としては繊維状や塊状等を問わず、そのまま又は粉砕、分級したものを使用することができ、また合成したものであってもよい。これらの補強材は、粉砕方法、産地によりアスペクト比に差を生じるが、一般にアスペクト比の大きなβ型のワラスナイトが補強性能の点から望ましい。機械的性質及び熱的特性の向上のためには、アスペクト比が6以上の成分を60重量%以上、好ましくは80重量%以上含有しており、かつ、繊維径5μm以下の成分を80重量%以上、好ましくは95重量%以上含有し、細かくて長い形状のワラスナイトを使用するのがよい。現在市販されているワラスナイトにも上記水準を満たすものがあり、このものの平均繊維径は2.0μm、平均繊維長は25μmであり、繊維径が5μm以下の成分が95重量%以上で、アスペクト比6以上の成分が90重量%以上であるため、補強性能や表面平滑性に優れている。一方、ゾノトライトは化学組成6CaO・6SiO2 ・H2 Oで示される繊維状ケイ酸カルシウムであり、平均繊維径0.5〜1μm、平均繊維長2〜5μm、アスペクト比2〜15のものが合成されている。
【0023】SPS樹脂組成物に対する補強材の配合割合は、SPS樹脂組成物100重量部に対し、補強材20〜400重量部、特には50〜100重量部とするのがよい。20重量部よりも少ないと十分な機械的強度が得られず、また、熱を加えた時の剛性が低下し、400重量部を超えると補強材をSPS樹脂組成物が十分に被覆することができないため空隙を生じ、その結果、機械的強度を損ない、曲げ強度が測定不可能なほど小さくなり、特にスルーホール加工性に著しく劣ることになるからである。ただし、請求項2、3の発明では、補強材の配合割合は、SPS樹脂組成物に対して5〜60重量%の範囲である。この範囲外であると機械的強度が不十分となるからである。
【0024】請求項3の発明では、上記絶縁性基材の構成材料として、さらにマイカを配合する。マイカは高周波帯域における誘電正接が極めて小さいことから、誘電正接の小さいSPS樹脂に配合しても誘電特性の低下が最小限で、SPS樹脂組成物に補強材を配合した場合に見られる反りと寸法安定性を大きく改善する。マイカの種類としては、特に制限されないが、天然白雲母、天然金雲母、合成金雲母、合成シリカ四ケイ素雲母等が好ましい。マイカの粒度、厚み、アスペクト比についても特に限定されないが、プリント配線板用積層板の寸法安定性を高めるためには、アスペクト比が10以上、より好ましくは15以上とするのがよい。マイカの配合量としては、SPS樹脂組成物中のマイカの含有率が10〜70重量%、特には15〜50重量%の範囲であることが望ましい。70重量%を超えると、プリント配線板用積層板を形成することが困難となり、10重量%未満では寸法安定性と反りの改善効果が不十分となる。
【0025】補強材及びマイカは、SPS樹脂組成物との濡れを良くするために、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等の各種カップリング剤で処理することが望ましい。なお、請求項1〜3の発明では、この処理は後述する第二の樹脂組成物による処理の前に行う。シラン系カップリング剤の具体例としては、トリエトキシシラン、ピニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(1,1−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピル−トリス(2−メトキシ−エトキシ)シラン、N−メチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ピニルベンジル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、トリアミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−(4,5−ジヒドロイミダゾール)プロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、N,O−(ビストリメチルシリル)アミド、N,N−ビス(トリメチルシリル)ウレア等が挙げられる。これらの中で好ましいのは、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のアミノシラン、エポキシシランである。
【0026】チタネート系カップリング剤の具体例としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(1,1−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミドエチル,アミノエチル)チタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ジイソステアロイルエチレンチタネート等が挙げられる。これらの中で好ましいのは、イソプロピルトリ(N−アミドエチル−アミノエチル)チタネートである。
【0027】上記カップリング剤で補強材の表面を処理するには、通常の方法に従って行えばよい。例えば、カップリング剤の有機溶媒溶液又は懸濁液をサイジング剤として塗布するサイジング処理等の方法が例示される。
【0028】請求項1〜3の発明では、上記補強材の表面を予め、SPS樹脂と相溶性を有する樹脂組成物(第二の樹脂組成物という)を溶剤で希釈した溶液で処理する。これによりSPS樹脂組成物との濡れがよくなり、その結果、絶縁性基板の残留気泡が極めて少なくなる。また、プリント配線板用積層板の機械的強度を向上させることができる。第二の樹脂組成物のSPS樹脂との相溶性の程度は、SPS樹脂と第二の樹脂組成物とを1:1で混合し、この混合物をL/dが20以上の同方向二軸押出機により、リップを0.5mmとしたTダイを介して押出し、厚さ0.2mmとなるようにして引き取った際、相溶しないことに起因する欠陥が生じることなくシーティングできる程度とする。第二の樹脂組成物としては、SPS樹脂、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、エポキシ樹脂及びこれらの変性物等が例示されるが、誘電特性、耐熱性に優れるSPS樹脂やPPEを主成分とするのが好ましい。これらは単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、架橋剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、補強材等の各種添加剤を添加してもよい。また、第二の樹脂組成物を希釈する溶剤は、トルエン、キシレン、MEK、MIBK、酢酸エチル、酢酸ブチル、n−ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、ナフサ等の汎用溶剤でよい。第二の樹脂組成物の溶液濃度は、補強材の表面処理が目的であることから、ごく薄いものでよい。具体的には、補強材の膜厚と補強材の溶液保持量及び比表面積から計算することができ、おおよそ0.5〜10%程度が適当である。例えば、線径10μm、目付210g/cm2 の補強材を用い、このものの溶液保持量が50g、表面処理すべき補強材の膜厚を0.05μmと設定した場合、1m2当たりの第二の樹脂組成物の必要量は1.7cm3 で、比重が1であれば、このときの濃度は1.7g/50gで3.4%となる。
【0029】第二の樹脂組成物で補強材の表面を処理するには、第二の樹脂組成物を溶剤で希釈して溶液化し、この溶液を通常の塗布装置・撹拌装置、浸漬装置を用いて、スプレー法、ディッピング法等により補強材に塗布して乾燥させればよい。第二の樹脂組成物の溶液粘度は特に限定されず、塗布装置・撹拌装置、浸漬装置に適した溶液粘度とすればよい。例えば、撹拌装置を用いて塗布する場合、10ポイズ以下からの選択が可能であり、均一に表面処理するためには、5ポイズ以下、好ましくは1ポイズ以下になるように調整するのがよい。
【0030】SPS樹脂組成物と補強材を複合化して絶縁性基材を形成するには、従来の形成方法で行えばよい。例えば、溶融したSPS樹脂組成物に補強材を混合して複合化する方法、SPS樹脂組成物をドライブレンドし、通常の方法でペレット化した後、押出成形法によりシートとし、得られたシートと補強材とを重ね合わせ、SPS樹脂の融点以上に加熱しながらプレス機で加圧し、その後、冷却して複合化する方法、SPS樹脂組成物を含む原料をTダイ押出法等により、シート状に押出しながら、ロールとロールあるいはダブルヘッドプレス、シングルプレスにより加熱、圧縮、冷却して複合化する方法が挙げられる。溶融したSPS樹脂組成物に補強材を混合して複合化する方法では、両者を混合するのに特に限定はなく、従来の方法を広く採用できる。例えば、加熱機能と混合機能を備えた混合ミキサーや一軸又は二軸のスクリュー押出機等、特には、二軸スクリュー押出機を用いて、メインホッパーよりSPS樹脂組成物を供給し、溶融混練中の該樹脂に補強材を投入し、さらに混練する方法が望ましい。上記混合物は、その製造後、直ちに任意の成形品に成形してもよいし、一旦ペレットとしてもよい。また、熱プレスすることにより両者を複合化する方法では、プレス機の温度はSPS樹脂の融点以上の温度、すなわち270℃以上に加熱されていることが必要であり、ワークの温度上昇に要する時間を考慮すると、280℃以上、さらに好ましくは290℃以上に加熱されているのがよい。しかしながら、温度が高すぎるとSPS樹脂が分解されやすくなるので、350℃以下にするのがよい。温度が融点以上に達してからの加圧時間は、補強材の種類、圧力によって異なるが、例えば、#7628タイプのガラスクロスを使用し、圧力を40kgf/cm2 程度とした場合、2〜3分程度で十分な含浸状態を得ることができる。
【0031】請求項4の発明においては、絶縁性基材の織布を含まない層は、上述したSPS樹脂組成物からなる層とすればよく、それに各種補強用充填剤を含めた組成物からなる層であってもよい。補強用充填剤の形状については、特に制限はなく、繊維状、粒状、粉状のいずれであってもよい。繊維状のものとしては、ガラス繊維、炭素繊維、有機合成繊維、ホウ酸アルミニウムウィスカー、ホウ酸ニッケルウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、セラミック繊維、金属繊維、天然植物繊維等が挙げられる。また、粒状、粉状のものとしては、タルク、カーボンブラック、グラファイト、二酸化チタン、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、オキシサルフェート、酸化スズ、アルミナ、カオリン、炭化ケイ素、金属粉末、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ガラスビーズ等が挙げられる。これらの中でも、特にガラスビーズ、ガラスファイバー、マイカ、ホウ酸アルミニウムウィスカーが好ましい。これらの補強用充填剤は、単独でも、2種以上を組み合わせても使用することができる。また、これらの補強用充填剤は、後述するカップリング剤や、SPS樹脂と相溶性を有する樹脂により、表面処理されたものであることが好ましい。SPS樹脂組成物と上記補強用充填剤との混合方法は特に限定されず、一般に知られた方法を用いればよいが、二軸押出機を用いてSPS樹脂組成物を溶融混練しながら、途中で所定量の充填剤を供給混練し、Tダイよりシートとする方法が最適である。
【0032】請求項4の発明においては、織布を含む層と含まない層の厚さの比を、1:0.25〜1:4、好ましくは1:3〜1:1/3の範囲にする。こうすることにより、十分な機械的強度と優れた誘電特性を有するプリント配線板用積層板を得ることができる。織布を含む層と含まない層は、厚さ方向で実質的に対称に配列される限り、その組み合わせは限定されない。例えば、機械的強度と誘電率を重視して織布を含まない層を中間層とし、その両面に織布を含む層を配してもよいし、絶縁性基材の表面平滑性を得るために、表面には織布を含まない層を配してもよい。織布を含む層の厚さに対して、織布を含まない層の厚さが、20%未満になると、SPS樹脂組成物が有する優れた誘電特性の効果が小さくなり、また、80%以上になると織布による補強効果が小さくなるため、プリント配線板用積層板として十分な機械的強度を得ることができない。また、織布を含む層と含まない層との積層方法は、特に制限を受けず、従来から知られた方法を任意に選ぶことができる。例えば、押出成形法によって織布を含む層と含まない層とを一対の金属ベルト間に数層挿入し、加熱溶融後、冷却して積層する方法や織布を含む層と含まない層とを重ね合わせて熱プレス成形する方法がある。
【0033】本発明のプリント配線板用積層板は、SPS樹脂組成物と補強材とからなる絶縁性基材の両面又は片面に、銅、ニッケル、アルミニウム、錫、金、銀又は亜鉛等の金属箔からなる導電性金属層を設ける。導電性金属層は絶縁性基材の全面に設けても、あるいは、必要な部分のみに設けてもよい。導電性金属層を絶縁性基材の表面に形成する方法としては、粗面化処理した金属箔を加熱プレスによって張り合せる方法、金属箔を予め金型に挿入しておき射出成形する方法、メッキによる方法、真空蒸着、スパッタリングによる方法が例示される。特に、金属箔を加熱プレスによって張り合せる方法の場合、補強材にSPS樹脂組成物を含浸、複合化させる工程と同時に行うことができ、しかも該工程でセパレーターを使用する必要がなくなり、一つの工程で含浸、張り合せが完了するので、生産効率が非常によくなる。例えば、加熱プレスを用いて金属箔を絶縁性基材に張り合せる方法では、絶縁性基材が溶融することにより接着性が発現するので、プレス機の温度はSPS樹脂組成物の融点以上の温度、すなわち270℃以上に加熱されていることが必要であるが、温度が高すぎると樹脂が流れすぎて所望の厚さにならないなどの不具合を生じるおそれがある。そのため、ワークの温度上昇に要する時間を考慮すると、プレス機の温度は280〜370℃以上、好ましくは290〜320℃に加熱されているのがよい。温度が融点以上に達してからの加圧時間は、従来のように補強材へ樹脂材料を含浸させる必要がないことから、従来と比較して短時間でよく、1分以内で最終的な金属箔の張り合せが完了する。加圧は5kgf/cm2 未満では接着不良となり、80kgf/cm2 より高くすると流動しすぎるので、5〜80kgf/cm2 の範囲とするのがよい。また、得られたものを冷却する際、急冷するとSPS樹脂の結晶性が乏しいものとなるので、より効率よくシンジオタクチック構造をとらせるために、一度130〜170℃で5秒以上保持した後に、室温で冷却することが望ましい。
【0034】請求項5の発明では、導電性金属層である銅箔層の絶縁性基材との接着面に、メッキ法により平均粒径が1μm以下の金属粒子を析出させる粗面化処理を施す。平均粒径が1μmを超えると、数GHz以上の高周波回路を形成した場合、伝送損失が急激に悪化する一方、平均粒径が小さすぎると、十分なアンカー効果が得られず、剥離強度が低くなるので、平均粒径は0.1μm以上とすることが好ましい。また、請求項5の発明では、粗面化処理を施す銅箔層の面の平均表面粗さ(JIS)は、1μm以下である必要がある。これは、平均表面粗さが1μmを超えると、メッキ法による粗面化処理時に、避雷針効果によって凸部に電流が集中し、1μm以下の金属粒子を形成することが困難となる上に、電送損失が大きくなるからである。このような銅箔層を構成する銅箔を製造するには、粗化面、すなわち、電解方式で銅箔を製造した際、電解液側の面に粗面化処理を施すのではなく、光沢面、すなわち、電極ロール側の面に粗面化処理を施せばよい。これは、通常の銅箔の場合、銅箔が生成される際に結晶が成長し、粗化面では5〜10μm間隔の突起が形成されるが、この粗化面にメッキ法による粗面化処理を施すと、メッキ時の避雷針効果によって突起の頂点に金属粒子が集中するのに対し、銅箔が生成される際の結晶が、まだ1〜2μm程度の小さい段階にある光沢面側に粗面化処理を施すと、金属粒子は処理面全体に均一に形成されるようになるからである。
【0035】請求項6の多層プリント配線板用積層板は、絶縁性基板の両面に上記導電性金属で所望する配線パターンを形成した少なくとも1枚の内装基板の外層に接着層を介して導電性金属層を設けたものである。この接着層は、250℃以下で硬化する熱硬化性樹脂と前記した補強材からなる。熱硬化性樹脂の硬化温度が250℃を超えると、内装基板を構成するSPS樹脂が軟化して、配線パターンにずれや歪みを生じる危険性があるためである。一方、あまり低い温度で硬化が始まるものだと、可使時間が短くなったり、作業中に硬化が開始するなどの不具合を生じる危険性があるため、100℃程度以上で硬化する熱硬化性樹脂を選択するのがよい。接着層としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、熱硬化変性ポリフェニレンエーテル、BTレジン等の未硬化物の溶液に、ガラスクロス等の補強材を浸漬、含浸させ、加熱炉を通して乾燥及びBステージ化したものが例示される。熱硬化性樹脂に対する補強材の割合は、20〜80vol%とする。
【0036】請求項6の多層プリント配線板用積層板は、1枚の内装基板又は接着層を介して積層した複数枚の内装基板の外面に接着層を塗布し、その上に導電性金属層を張り合わせることにより得ることができる。例えば、1枚の内装基板の外面に接着層を塗布し、その上に導電性金属層を張り合わせると4層の多層プリント配線板用積層板となり、さらに両方の外面に導電性金属層を張り合わせるか、内装基板2枚を接着層を介して積層し、さらに両方の外面に導電性金属層を張り合わせると6層の多層プリント配線板用積層板が得られる。同様にして、内装基板の積層数を増やすことにより配線パターンの層数を任意に設定することができる。請求項6の多層プリント配線板用積層板を製造する際、内装基板同士又は内装基板と導電性金属層を、接着層を介して張り合わせる場合、接着層を構成するSPS樹脂組成物の温度を、初め250℃以下にして該樹脂組成物を硬化させた後、270℃以上に昇温して該樹脂組成物を溶融させ、その後、冷却する。このようにすると、まず、250℃以下において、内装基板の配線パターンが絶縁性基板に固定された状態のまま接着層が硬化し、その後、270℃以上に昇温した場合でも、配線パターンは接着層に固定されているので、SPS樹脂組成物が溶融しても、配線パターンがずれたり、歪んだりすることなく層間接着強度の高い多層プリント配線板用積層板が得られる。
【0037】
【実施例】次に、本発明の実施例、比較例を挙げる。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】(実施例1)織布として、メルカプトシラン系カップリング剤「KBM803」(信越化学工業社製、商品名)で処理したガラスクロス「#7628」(旭シュエーベル社製、商品名)を用い、これをSPS樹脂組成物「XAREC S−100」(出光石油化学社製、商品名)の0.7%溶液(溶剤はキシレン:MIBK=9:1の混合溶剤を使用)に浸漬させた後、ピンチロールに通し、180℃の熱風乾燥炉を通して乾燥させ、さらにこの工程をもう一度繰り返し、樹脂量1g/m2 の処理済み織布を得た。そして、予めTダイ押出成形により、厚さ0.06mmにシーティングしておいた2枚のSPS樹脂組成物「XAREC S−100」(前出)シートの間に、上記処理済み織布を1枚を挟み、300℃、40kgf/cm2 の条件で、5分間プレスした後、冷却してプリプレグを得た。このプリプレグ3枚を重ね合わせ、その上下面に厚さ18μmの電界銅箔(ジャパンエナジー社製 タイプJTC)を、粗面化処理面が内側になるように重ね合わせ、290℃、30kgf/cm2 の条件で5分間(内部温度がSPS樹脂の融点である270℃に達してからは3分間)プレスした後、150℃、50kgf/cm2 で1分間結晶化処理を行い、総厚さ0.64mmである本発明のプリント配線板用積層板を得た。
【0039】(実施例2)織布として、アミノシラン系カップリング剤「KBM602」(信越化学工業社製、商品名)で処理したガラスクロス「#7628」(前出)を用い、これを熱硬化変性PPE樹脂(旭化成社製、密度1.08g/cm3 )の3%溶液(溶剤はキシレン:MIBK=9:1の混合溶剤を使用)に浸漬させた後、ピンチロールに通し、180℃の熱風乾燥炉を通して乾燥、半硬化させ、樹脂量2g/m2 の処理済み織布を得た。そして、予めTダイ押出成形により、厚さ0.06mmにシーティングしておいた2枚のSPS樹脂組成物「XAREC S−100」(前出)シートの間に、上記織布を1枚挟んだものを1スタックとし、これを3スタック重ね合わせ、その上下面に厚さ18μmの電界銅箔(前出)を、粗面化処理面が内側になるように重ね合わせ、300℃、40kgf/cm2 の条件で5分間プレスした後、150℃、50kgf/cm2 で1分間結晶化処理を行い、総厚さ0.64mmである本発明のプリント配線板用積層板を得た。
【0040】(比較例1)予めTダイ押出成形により、厚さ0.06mmにシーティングしておいた2枚のSPS樹脂組成物「XAREC S−100」(前出)シートの間に、アミノシラン系カップリング剤「KBM602」(前出)で処理したガラスクロス「#7628」(前出)を1枚挟み、300℃、40kgf/cm2 の条件で、5分間プレスした後、冷却してプリプレグを得た。このプリプレグ3枚を重ね合わせ、その上下面に厚さ18μmの電界銅箔(前出)を、粗面化処理面が内側になるように重ね合わせ、290℃、30kgf/cm2 の条件で5分間(内部温度がSPS樹脂の融点である270℃に達してからは3分間)プレスした後、150℃、50kgf/cm2 で1分間結晶化処理を行い、総厚さ0.64mmであるプリント配線板用積層板を得た。
【0041】(比較例2)予めTダイ押出成形により、厚さ0.06mmにシーティングしておいた2枚のSPS樹脂組成物「XAREC S−100」(前出)シートの間に、アミノシラン系カップリング剤「KBM602」(前出)で処理したガラスクロス「#7628」(前出)を1枚挟んだものを1スタックとし、これを3スタック重ね合わせ、その上下面に厚さ18μmの電界銅箔(前出)を、粗面化処理面が内側になるように重ね合わせ、300℃、40kgf/cm2 、の条件で5分間プレスした後、150℃、50kgf/cm2 で1分間結晶化処理を行い、総厚さ0.64mmであるプリント配線板用積層板を得た。
【0042】(比較例3)比較例2において、プレス条件を5分間から10分間に変更した以外は同様の条件、方法で、総厚さ0.64mmであるプリント配線板用積層板を得た。
【0043】(評価)実施例、比較例で作製したプリント配線板用積層板について、銅箔除去後の引張破断強度測定及び耐マイグレーションテスト(電極間距離3mm、印加電圧DC50V、雰囲気40℃、90%RH、240時間)を行った。試験結果を表1に示した。
【0044】
【表1】


【0045】(実施例3)補強材として、アミノシラン系カップリング剤「KBM602」(前出)で処理したホウ酸アルミニウムウィスカー「アルボレックス」(大塚化学社製、商品名)を用い、これにSEBS「タフテックM1913」(旭化成工業社製、商品名)の20%溶液(溶剤はキシレン:MIBK=9:1の混合溶剤を使用)をスプレーして塗布し、万能撹拌機で撹拌し、室温乾燥させ、次いで180℃の熱風乾燥炉を通して乾燥させ、処理済み補強材を得た。マイカとして、アミノシラン系カップリング剤「KBM602」(前出)で処理した金雲母「S−325」(レプコ社製、商品名)を用い、これにSEBS「タフテックM1913」(旭化成工業社製、商品名)の2%溶液(溶剤はキシレン:MIBK=9:1の混合溶剤を使用)をスプレーして塗布し、万能撹拌機で撹拌し、室温乾燥させ、次いで180℃の熱風乾燥炉を通して乾燥させ、表面処理マイカを得た。ペレット状SPS樹脂組成物「XAREC S−100」(前出)を二軸混練押出機のメインホッパーより投入し、前記処理済み補強材を該樹脂組成物に対して30重量%、表面処理マイカを20重量%となるように、押出機のベント口よりサイドフィーダーを用いて投入し押出して、Tダイより厚さ0.6mmのシートを得た。このシート1枚の両面に35μmの電界銅箔(前出)を各1枚ずつ配し、これを圧縮成形用金型に仕込み、300℃、20kgf/cm2 の条件で1分間プレスした後、150℃、20kgf/cm2 で1分間結晶化処理を行うことにより、本発明のプリント配線板用積層板を得た。このものの銅箔をエッチング処理で取り除き、比誘電率を測定したところ、2.7(1GHz)であった。また、曲げ弾性率は17.2kgf/mm2 、反りは0.17%であった。
【0046】(実施例4)実施例3と同様に、ペレット状SPS樹脂組成物「XAREC S−100」(前出)を二軸混練押出機のメインホッパーより投入し、前記処理済み補強材を該樹脂組成物に対し40重量%、表面処理した白雲母「M−325」(レプコ社製、商品名)を用いて同様に作製した表面処理マイカを15重量%となるように、押出機のベント口よりサイドフィーダーを用いて投入し押出して、Tダイより厚さ0.6mmのシートを得た。このシート1枚の両面に18μmの電界銅箔(前出)を各1枚ずつ配し、これを圧縮成形用金型に仕込み、300℃、20kgf/cm2 の条件で1分間プレスした後、150℃、20kgf/cm2 で1分間結晶化処理を行い、本発明のプリント配線板用積層板を得た。このものの銅箔をエッチング処理により取り除き、比誘電率を測定したところ、2.9(1GHz)であった。また、曲げ弾性率は18.0kgf/mm2 、反りは0.19%であった。
【0047】(実施例5)補強材として、アミノシラン系カップリング剤「KBM602」(前出)で処理した、形状が針状であるワラスナイト「FPW−400」(キンセイマテック社製、商品名)を用い、これにSEBS「タフテックM1913」(前出)の2%溶液(溶剤はキシレン:MIBK=9:1の混合溶剤を使用)をスプレーして塗布し、万能撹拌機で撹拌し、室温乾燥させ、次いで180℃の熱風乾燥炉を通して乾燥させ、処理済み補強材を得た。実施例3と同様に、ペレット状SPS樹脂組成物「XAREC S−100」(前出)を二軸混練押出機のメインホッパーより投入し、該樹脂組成物に対して処理済み補強材を40重量%、実施例4で使用した表面処理マイカを15重量%となるように押出機のベント口よりサイドフィーダーを用いて投入し押出して、Tダイより厚さ0.6mmのシートを得た。このシート1枚の両面に18μmの電界銅箔(前出)を各1枚ずつ配し、これを圧縮成形用金型に仕込み、300℃、20kgf/cm2 の条件で1分間プレスした後、150℃、20kgf/cm2 で1分間結晶化処理を行うことにより、本発明のプリント配線板用積層板を得た。このものの銅箔をエッチング処理により取り除き、比誘電率を測定したところ、2.9(1GHz)であった。また、曲げ弾性率は16.2kgf/mm2 、反りは0.19%であった。
【0048】(比較例4)SPS樹脂組成物「XAREC S−100」(前出)を二軸押出機からTダイを経て、厚さ0.07mmのシートを成形した。このシート2枚の間にガラスクロス「#7628」(前出)1枚を挟み、290℃、30kgf/cm2 の条件で5分間プレスした後、室温で10分間冷却して、厚さ0.2のプリプレグを得た。このプリプレグ4枚を重ね合わせ、その上下面に厚さ18μmの電界銅箔(前出)を重ね合わせ、290℃、30kgf/cm2 の条件で5分間プレスした後、加圧状態で、140℃で30分間冷却し、さらに室温で10分間冷却することにより、プリント配線板用積層板を得た。このものの銅箔をエッチング処理により取り除き、比誘電率を測定したところ、3.4(1GHz)であった。また、曲げ弾性率は25.4kgf/mm2 、反りは0.17%であった。
【0049】(比較例5)補強材として、アミノシラン系カップリング剤「KBM602」(前出)で処理したガラス繊維(線径9μm、長さ5mm、Eガラス製)を用い、これにSEBS「タフテックM1913」(前出)の2%溶液(溶剤はキシレン:MIBK=9:1の混合溶剤を使用)をスプレーして塗布し、万能撹拌機で撹拌し、室温乾燥させ、次いで180℃の熱風乾燥炉を通して乾燥させ、処理済み補強材を得た。実施例3と同様に、ペレット状SPS樹脂組成物「XAREC S−100」(前出)を用い、これを二軸混練押出機のメインホッパーより投入し、該樹脂組成物に対して処理済み補強材を40重量%、実施例4で使用した表面処理マイカを15重量%となるように押出機のベント口よりサイドフィーダーを用いて投入し押出して、Tダイより厚さ0.6mmのシートを得た。このシート1枚の両面に18μmの電界銅箔(前出)を各1枚ずつ配し、これを圧縮成形用金型に仕込み、300℃、20kgf/cm2 の条件で1分間プレスした後、150℃、20kgf/cm2 で1分間結晶化処理を行うことにより、プリント配線板用積層板を得た。このものの銅箔をエッチング処理により取り除き、比誘電率を測定したところ、3.2(1GHz)であった。また、曲げ弾性率は17.4kgf/mm2 、反りは0.41%であった。
【0050】(実施例6)予めTダイ押出成形により、厚さ0.06mmにシーティングしておいた2枚のSPS樹脂組成物「XAREC P−86」(出光石油化学社製、商品名)のシートの間に、メルカプトシラン系カップリング剤「KBM803」(信越化学工業社製、商品名)で処理したガラスクロス「#7628」(前出)を1枚を挟み、300℃、40kgf/cm2 の条件で、5分間プレスした後、冷却してプリプレグを得た。このプリプレグ2枚の間に、厚さ0.20mmのSPS樹脂組成物「XAREC P−86」(前出)のシートを1枚挟み、その上下面に厚さ18μmの電界銅箔(前出)を、粗面化処理面が内側になるように重ね合わせ、290℃、30kgf/cm2 の条件で5分間(内部温度がSPS樹脂の融点である270℃に達してからは3分間)プレスした後、150℃、50kgf/cm2 で1分間結晶化処理を行い、総厚さ0.64mm、織布を含む層と含まない層の厚さの比が1:0.5である本発明のプリント配線板用積層板を得た。このものの銅箔をエッチング処理により取り除き、比誘電率を測定したところ、2.7(1GHz)であった。また、曲げ弾性率は21.7kgf/mm2 であった。
【0051】(実施例7)予めTダイ押出成形により、厚さ0.06mmにシーティングしておいたSPS樹脂組成物「XAREC P−86」(前出)の2枚のシートの間に、アミノシラン系カップリング剤「KBM602」(前出)で処理したガラスクロス「#7628」(前出)を1枚を挟み、300℃、40kgf/cm2 の条件で、5分間プレスした後、冷却してプリプレグを得た。繊維状充填材として、アミノシラン系カップリング剤「KBM602」(前出)で処理したホウ酸アルミニウムウィスカー「アルボレックス」(前出)を用い、これにSEBS「タフテックM1913」(前出)の20%溶液(溶剤はキシレン:MIBK=9:1の混合溶剤)をスプレーして塗布し、万能攪拌機で高速攪拌し、室温乾燥させ、次いで180℃の熱風乾燥炉を通して乾燥させ、表面処理繊維状充填材を得た。予め押出成形によりペレット状にしておいたSPS樹脂組成物「XARECS−100」(前出)を用い、これを二軸混練押出機の樹脂投入ホッパーより投入し、前記表面処理繊維状充填材の割合が40重量%となるように押出機のベント口よりサイドフィーダーを用いて投入し、Tダイを経て厚さ0.20mmの充填材入りシートを得た。前記プリプレグ2枚の間に、この充填材入りシートを1枚挟み、その上下面に厚さ18μmの片面粗面化した電界銅箔(前出)を、粗面化処理面が内側になるように重ね合わせ、290℃、30kgf/cm2 の条件で5分間(内部温度がSPS樹脂の融点である270℃に達してからは3分間)プレスした後、150℃、50kgf/cm2 で1分間結晶化処理を行い、総厚さ0.64mm、織布を含む層と含まない層の厚さの比が1:0.5である本発明のプリント配線板用積層板を得た。このものの銅箔をエッチング処理により取り除き、比誘電率を測定したところ、2.9(1GHz)であった。また、曲げ弾性率は25.6kgf/mm2 であった。
【0052】(実施例8)実施例7と同様にして得たプリプレグと充填材入りシートを用いて、プリプレグ1枚の両面に、厚さ0.20mmの充填材入りシートを1枚ずつ重ね合わせ、さらに、この上下面に前記プリプレグを1枚ずつ重ね合わせた後、その上下面に厚さ18μmの片面粗面化した電界銅箔(前出)を、粗面化処理面が内側になるように重ね合わせ、290℃、30kgf/cm2 の条件で5分間(内部温度がSPS樹脂の融点である270℃に達してからは3分間)プレスした後、150℃、50kgf/cm2 で1分間結晶化処理を行い、総厚さ1.04mm、織布を含む層と含まない層の厚さの比が1:2/3である本発明のプリント配線板用積層板を得た。このものの銅箔をエッチング処理により取り除き、比誘電率を測定したところ、3.1(1GHz)であった。また、曲げ弾性率は25.1kgf/mm2 であった。
【0053】(実施例9)実施例7と同様の方法、材料により、厚さ0.1mmと0.05mmの充填材入りシートを作製した。厚さ0.1mmの充填材入りシート1枚の両面に、実施例7と同様のプリプレグ1枚ずつを重ね合わせ、その上下面に0.05mmの充填材入りシートを重ね合わせた後、その上下面に厚さ18μmの片面粗面化した電界銅箔(前出)を、粗面化処理面が内側になるように重ね合わせ、290℃、30kgf/cm2 の条件で5分間(内部温度がSPS樹脂の融点である270℃に達してからは3分間)プレスした後、150℃、50kgf/cm2 で1分間結晶化処理を行い、総厚さ0.64mm、織布を含む層と含まない層の厚さの比が1:0.5である本発明のプリント配線板用積層板を得た。このものの銅箔をエッチング処理により取り除き、比誘電率を測定したところ、2.9(1GHz)であった。また、曲げ弾性率は23.2kgf/mm2 であった。
【0054】(比較例6)SPS樹脂組成物「XAREC P−86」(前出)を二軸押出機に投入し、Tダイを経て、厚さ0.07mmのシートを成形した。このシート2枚でガラスクロス「#7628」(前出)を1枚を挟み、290℃、30kgf/cm2 の条件で、5分間プレスした後、室温で10分間冷却して、厚さ0.2mmのプリプレグを得た。このプリプレグ4枚を重ね合わせ、その上下面に厚さ18μmの電界銅箔(前出)を、粗面化処理面が内側になるように重ね合わせ、290℃、30kgf/cm2 の条件で5分間(内部温度がSPS樹脂の融点である270℃に達してからは3分間)プレスした後、140℃で30分間冷却し、さらに室温で10分間冷却してプリント配線板用積層板を得た。このものの銅箔をエッチング処理により取り除き、比誘電率を測定したところ、3.4(1GHz)であった。また、曲げ弾性率は25.4kgf/mm2 であった。
【0055】(比較例7)厚さ0.20mmのSPS樹脂組成物「XAREC P−86」(前出)のシートを3枚重ね合わせ、その上下面に厚さ18μmの電界銅箔(前出)を、粗面化処理面が内側になるように重ね合わせ、290℃、30kgf/cm2 の条件で5分間(内部温度がSPS樹脂の融点である270℃に達してからは3分間)プレスした後、加圧状態で、140℃で30分間冷却し、さらに室温で10分間冷却してプリント配線板用積層板を得た。このものの銅箔をエッチング処理により取り除き、比誘電率を測定したところ、2.6(1GHz)であった。また、曲げ弾性率は5.0kgf/mm2 であった。
【0056】(実施例10)予めTダイ押出成形により、厚さ0.06mmにシーティングしておいた2枚のSPS樹脂組成物「XAREC S−100」(前出)のシートの間に、メルカプトシラン系カップリング剤「KBM803」(前出)で処理したガラスクロス「#7628」(前出)を1枚を挟み、300℃、40kgf/cm2 の条件で、5分間プレスした後、冷却してプリプレグを得た。このプリプレグを3枚重ね合わせ、その上下面に、平均表面粗さが0.5μmであって、光沢面側にメッキ法により平均粒径0.7μmの銅粒子を析出させる粗面化処理を施した厚さ18μmの電界銅箔(前出)を、粗面化処理面が内側になるように重ね合わせ、290℃、30kgf/cm2 の条件で5分間(内部温度がSPS樹脂の融点である270℃に達してからは3分間)プレスした後、150℃、50kgf/cm2 で1分間結晶化処理を行い、総厚さ0.64mmの本発明のプリント配線板用積層板を得た。このものの銅箔剥離強度を測定したところ、1.17kgf/cmであった。また、10GHzにおける厚さ方向の誘電正接を、円盤共振器を用いたTM0m0モードによる方法で測定したところ、0.0038であった。
【0057】(比較例8)上記した実施例10における銅箔を、平均表面粗さが8μmの粗化面側に、平均粒径が12μmの銅粒子を析出させる粗面化処理を施したものとした以外は、実施例10と同様にしてプリント配線板用積層板を作製した。このものの銅箔剥離強度を測定したところ、0.96kgf/cmであった。また、10GHzにおける厚さ方向の誘電正接を、円盤共振器を用いたTM0m0モードによる方法で測定したところ、0.0088であった。
【0058】(比較例9)上記した実施例10における銅箔を、片面にエポキシ樹脂系接着剤を塗布した圧延銅箔とした以外は、実施例10と同様にしてプリント配線板用積層板を作製した。このものの銅箔剥離強度を測定したところ、0.12kgf/cmであった。また、10GHzにおける厚さ方向の誘電正接を、円盤共振器を用いたTM0m0モードによる方法で測定したところ、0.0035であった。
【0059】(実施例11)メルカプトシラン系カップリング剤「KBM803」(前出)で処理したガラスクロス「#7628」(前出)1枚を、予めTダイ押出成形により、厚さ0.06mmにシーティングしておいた2枚のSPS樹脂組成物「XAREC S−100」(前出)シートの間に挟み、その上下面に厚さ18μmの両面粗面化した電界銅箔(前出)を重ね合わせ、300℃、40kgf/cm2 の条件で、5分間プレスした後、冷却した。そして、エッチングにより銅箔の不要部分を除去し、両面に線幅0.1mm、ピッチ0.2mmのテストパターンを、反対側の面と90°の角度で交差するように形成して内装基板を得た。この内装基板の両面に、接着層として熱硬化性PPE−ガラスプリプレグ「TLP−596 DK」(東芝ケミカル社製、商品名)を配し、その上下面に、厚さ18μmの片面粗面化した電界銅箔(前出)を、粗面化処理面が内側になるように重ね合わせ、熱板設定温度180℃、圧力7kgf/cm2 で10分間、その後、圧力を20kgf/cm2 に上昇させて2時間プレスし、その後、280℃、20kgf/cm2 で2分間プレスした後、冷却して、本発明の多層(4層)プリント配線板用積層板を得た。最も外側の面の銅箔をエッチングによりすべて除去し、X線により内装パターンの観察を行ったところ、パターンにずれ、歪み等の不具合は観察されなかった。
【0060】(比較例10)実施例11と同様の内装基板を用い、接着層として、熱硬化性PPE−ガラスプリプレグ「TLP−596 DK」(前出)を配し、その上下面に、厚さ18μmの片面粗面化した電界銅箔(前出)を、粗面化処理面が内側になるように重ね合わせ、熱板設定温度180℃、圧力7kgf/cm2 で10分間、その後、圧力を20kgf/cm2 に上昇させて2時間プレスした後、冷却して、多層(4層)プリント配線板を得た。最も外側の面の銅箔をエッチングによりすべて除去し、X線により内装パターンの観察を行ったところ、パターンにずれ、歪み等の不具合は観察されなかった。しかし、接着層−内装基板間の剥離強度を測定したところ、300g/cmで、使用に耐えられるものではなかった。
【0061】(比較例11)実施例11と同様の内装基板を用い、接着層として、熱硬化性PPE−ガラスプリプレグ「TLP−596 DK」(前出)を配し、その上下面に、厚さ18μmの片面粗面化した電界銅箔(前出)を、粗面化処理面が内側になるように重ね合わせ、熱板設定温度280℃、圧力20kgf/cm2 で2分間プレスした後、冷却して、多層(4層)プリント配線板用積層板を得た。最も外側の面の銅箔をエッチングによりすべて除去し、X線により内装パターンの観察を行ったところ、ほぼ全面でパターンにずれ、歪みが生じ、両面に断線が観察された。また、接着層−内装基板間の剥離強度を測定しようとしたところ、接着が強固で接着層の母材破壊が生じ、正確な測定はできなかった。
【0062】
【発明の効果】請求項1の発明によれば、織布をSPS樹脂組成物と相溶性がある樹脂で表面処理することにより、両者の親和性が向上し、その結果、織布を構成する繊維間へのSPS樹脂組成物の含浸が速やかに進行するため製造時間が短縮して製造コストの低減を図ることができ、SPS樹脂組成物と織布の界面に存在する残留気泡が極めて少なく、機械的強度に優れ、耐マイグレーション性に代表される長期環境信頼性の高いプリント配線板用積層板が得られる。請求項2の発明によれば、ホウ酸アルミニウムウィスカーに例示される補強材を用い、これを処理することで、誘電率の上昇を抑えつつ機械的強度を向上させることができ、また、生産効率を高めることができる。請求項3の発明によれば、請求項2の発明の効果に加えて、プリント配線板用積層板に生じる反りを低減することができ、寸法安定性を高めることができる。請求項4の発明によれば、十分な機械的強度と優れた誘電特性、高周波特性を備えたプリント配線板用積層板が得られる。請求項5の発明によれば、SPS樹脂の性能を損なうことなく、絶縁性基材と銅箔とが十分な接着強度を有するプリント配線板用積層板が得られる。請求項6の発明によれば、十分な層間接着力を備えた多層プリント配線板用積層板が得られるので、機器の小型化、軽量化に寄与することができる。請求項7の発明によれば、配線パターンがはずれたり、歪んだりすることなく、請求項6記載の多層プリント配線板用積層板を製造することができる。また、請求項1〜6のいずれの発明においても、樹脂材料としてSPS樹脂組成物を用いているので、耐熱性、誘電特性に優れており、高速演算、小型通信機等の高度の高周波特性が要求される用途に使用した場合であっても、発熱や雑音を少なくすることができる。また、従来のPTFEやBTレジン基板に比べ、低価格であるので、製品コストを低くすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂を主材料とする樹脂組成物と織布とからなる絶縁性基材の両面又は片面の一部又は全面に導電性金属層を設けたプリント配線板用積層板において、織布表面が、予め前記ポリスチレン系樹脂と相溶性を有する樹脂組成物で処理されたものであることを特徴とするプリント配線板用積層板。
【請求項2】 主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂を主材料とする樹脂組成物と、一般式aAXY ・bB23 (a,bはそれぞれ1〜9の数、Aは1〜3価の金属元素、X,Yは、X=2、Y=1、X=Y=1又はX=2、Y=3)又は一般式pMVw ・qSiO2 ・rH2 O(p,q,rは、1≦p≦3、1≦q≦3、0≦r≦10の実数、Mは1〜3価の金属元素、V,Wは、V=2、W=1、V=W=1又はV=2、W=3)で示される補強材とからなる絶縁性基材の両面又は片面の一部又は全面に導電性金属層を設けたプリント配線板用積層板において、補強材の配合量が前記樹脂組成物に対して、5〜60%重量%の割合であり、補強材表面が、予め前記ポリスチレン系樹脂と相溶性を有する樹脂組成物で処理されたものであることを特徴とする請求項1記載のプリント配線板用積層板。
【請求項3】 絶縁性基材が、前記樹脂組成物に対して、10〜70重量%のマイカを含むことを特徴とする請求項2記載のプリント配線板用積層板。
【請求項4】 主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂を主材料とする樹脂組成物と織布とからなる絶縁性基材の両面又は片面の一部又は全面に導電性金属層を設けたプリント配線板用積層板において、前記絶縁性基材を構成する織布を含む層と含まない層の厚さの比が、1:0.25〜1:4の範囲にあり、かつ、上記両層が厚さ方向で実質的に対称に配列されていることを特徴とするプリント配線板用積層板。
【請求項5】 主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂を主材料とする樹脂組成物と補強材とからなる絶縁性基材の両面又は片面の一部又は全面に銅箔層を設けたプリント配線板用積層板において、銅箔層の絶縁性基材との接着面が、メッキ法により析出させた平均粒径1μm以下の金属粒子を有し、かつ、前記金属粒子を析出させる前の接着面の平均表面粗さが1μm以下であることを特徴とするプリント配線板用積層板。
【請求項6】 主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂を主材料とする樹脂組成物と補強材とからなる絶縁性基材の両面に配線パターンを形成した少なくとも1枚の内装基板の外面に接着層を介して導電性金属層を設けた多層プリント配線板用積層板であって、該接着層が250℃以下で硬化する熱硬化性樹脂と補強材とからなることを特徴とする多層プリント配線板用積層板。
【請求項7】 接着層を250℃以下で硬化させた後、270℃以上に昇温し、その後、冷却することを特徴とする請求項6記載の多層プリント配線板用積層板の製造方法。