説明

プリント配線板用触媒残渣除去剤

【課題】プリント配線板において、導電性パターン部にのみ良好なめっき皮膜を形成できる特性に優れた無電解ニッケルめっき皮膜の形成を可能にする、触媒残渣除去剤を提供する。
【解決手段】
下記一般式(I)


[式中、R、R、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子又は下記基:


(式中、Rは、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、mは1〜10の整数である)であり、nは2又は3である。]で表されるアルキレンジアミン化合物を含有することを特徴とするプリント配線板用触媒残渣除去剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板用触媒残渣除去剤、及びプリント配線板用触媒残渣除去剤を用いた無電解ニッケルめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品、特にプリント配線板やパッケージ基板のはんだ付けおよびボンディングを行う際の表面処理には、配線部や端子部に無電解ニッケル/金めっきを施されている。無電解ニッケルめっきには、次亜リン酸塩を還元剤とする無電解ニッケル‐リン合金めっき、ホウ素化合物を還元剤とする無電解ニッケル‐ホウ素合金めっき等が一般的に用いられている。この場合、通常、厚さ3〜5μm程度の無電解ニッケルめっき皮膜を形成した後、置換めっき法により、0.03〜0.5μm程度の金皮膜が形成されている。
【0003】
プリント配線板において、銅、銀等の導電性材料によって形成されるパッド部分、回路部分、端子部分等の導電部、即ち導電性パターン部に無電解ニッケルめっきを行う場合、通常、パラジウム触媒付与を行ってから無電解ニッケルめっきを行う。なお、近年では無電解ニッケルと金めっきの間に無電解パラジウムめっきを行う、無電解ニッケル/パラジウム/金めっき工法も提案されている。
【0004】
しかしながら、上記パターン部に対してパラジウム触媒付与を行った場合、パラジウム触媒が、プリント配線板の基材である樹脂(例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等)、セラミック、ガラス等にも吸着することがある。この基材に吸着されたパラジウム触媒は、水洗いをしても、僅かながら残渣として存在してしまう。そのため、無電解ニッケルめっきを行うと、プリント配線板の上記パターン部だけでなく、上記残渣部にも無電解ニッケルめっき反応が生じ、その結果、基材上に析出する無電解ニッケルめっきの異常析出や、導電性パターン部同士が無電解ニッケルめっきで繋がるブリッジ現象が発生してしまう。
【0005】
上記した異常析出、ブリッジ現象等の問題への対策として、例えば、特開2008−101257号公報に、硫酸水素塩および金属塩化物を含む液で処理後無電解ニッケルめっきを行う方法が提案されている。しかしながら、この処理液では上記した問題は僅かに改善されるものの充分ではなく、依然として工業的な課題が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−101257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、プリント配線板において導電性パターン部にのみ良好なめっき皮膜を形成できる特性、即ちファインパターン性に優れた無電解ニッケルめっき皮膜の形成を可能にする、触媒残渣除去剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、プリント配線板の導電性パターン部に無電解めっき用触媒を付与した後、特定の一般式で表されるアルキレンジアミン化合物を含有するプリント配線板用触媒残渣除去剤と接触させ、その後無電解ニッケルめっきを行うことによって、上記した目的を達成し得ることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、プリント配線板用触媒残渣除去剤、及びプリント配線板用触媒残渣除去剤を用いた無電解ニッケルめっき方法を提供するものである。
1. 下記一般式(I)
【0010】
【化1】

【0011】
[式中、R、R、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子又は下記基:
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、Rは、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、mは1〜10の整数である)であり、nは2又は3である。]で表されるアルキレンジアミン化合物を含有することを特徴とするプリント配線板用触媒残渣除去剤。
2. 一般式(I)で表されるアルキレンジアミン化合物において、R、R、R及びRで表される基の少なくとも一個が水素原子である上記項1に記載のプリント配線板用触媒残渣除去剤。
3. 一般式(I)で表されるアルキレンジアミン化合物において、R、R、R及びRで表される基の内で、1〜3個が水素原子である上記項1又は2に記載のプリント配線板用触媒残渣除去剤。
4. さらに、シアン化合物及びチオシアン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物を含む上記項1〜3のいずれかに記載のプリント配線板用触媒残渣除去剤。
5. 以下の(i)〜(iii)の工程を含む、無電解ニッケルめっき方法:
(i) プリント配線板に対して無電解めっき用触媒を付与する工程、
(ii) (i)で得られたプリント配線板を、上記項1〜4のいずれかに記載の触媒残渣除去剤に接触させる工程、
(iii) (ii)で得られたプリント配線板に対して無電解ニッケルめっきを行う工程。
【0014】

以下、本発明の触媒残渣除去剤について詳細に説明する。
プリント配線板用触媒残渣除去剤
本発明の触媒残渣除去剤は、下記一般式(I)
【0015】
【化3】

【0016】
[式中、R、R、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子又は下記基:
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、Rは、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、mは1〜10の整数である)であり、nは2又は3である。]で表されるアルキレンジアミン化合物を含有することを特徴とするものである。
【0019】
本発明の触媒残渣除去剤によれば、上記したアルキレンジアミン化合物を添加剤として用いることによって、従来の無電解ニッケルめっき方法で形成されるニッケルめっき皮膜と比較して、ファインパターン性に優れたニッケルめっき皮膜を形成することができる。
【0020】
上記一般式(I)において、Rは、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、具体例としては、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン等の直鎖メチレン;イソプロピレン、イソブチレン等の分岐鎖メチレン;等を挙げることができる。また、mは1〜10の整数である。m=1の場合の具体例としては、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル等の炭素数1〜3程度の直鎖状又は分枝鎖状のヒドロキシアルキル基を挙げることができる。以下、本願明細書では、mが2以上の場合も含めてヒドロキシアルキル基ということがある。
【0021】
上記したアルキレンジアミン化合物の内で、n=2であるエチレンジアミン骨格を有する化合物の具体例は以下の通りである。
(1)R、R、R及びRが全て水素原子である化合物:
エチレンジアミン
(2)R、R、R及びRの内の3個が水素原子である化合物:
N−ヒドロキシメチルエチレンジアミン
N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン
N−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン
N−ヒドロキシイソプロピルエチレンジアミン
N−ヒドロキシブチルエチレンジアミン
(3)R、R、R及びRの内の2個が水素原子である化合物:
N,N’−ジヒドロキシメチルエチレンジアミン
N,N’−ジヒドロキシエチルエチレンジアミン
N,N’−ジヒドロキシプロピルエチレンジアミン
N,N’−ジヒドロキシイソプロピルエチレンジアミン
N,N’−ジヒドロキシブチルエチレンジアミン
(4)R、R、R及びRの内の1個が水素原子である化合物:
N,N,N’−トリヒドロキシメチルエチレンジアミン
N,N,N’−トリヒドロキシエチルエチレンジアミン
N,N,N’−トリヒドロキシプロピルエチレンジアミン
N,N,N’−トリヒドロキシイソプロピルエチレンジアミン
N,N,N’−トリヒドロキシブチルエチレンジアミン
(5)R、R、R及びRの全てがヒドロキシアルキル基である化合物:
N,N,N’,N’−テトラヒドロキシメチルエチレンジアミン
N,N,N’,N’−テトラヒドロキシエチルエチレンジアミン
N,N,N’,N’−テトラヒドロキシプロピルエチレンジアミン
N,N,N’,N’−テトラヒドロキシイソプロピルエチレンジアミン
下記式で表されるN,N,N’,N’−テトラポリヒドロキシプロピレンエチレンジアミン(好ましくは分子量760〜770程度)
【0022】
【化5】

【0023】
また、上記したアルキレンジアミン化合物の内で、n=3であるプロパンジアミン骨格を有する化合物の具体例は以下の通りである。
(1)R、R、R及びRが全て水素原子である化合物:
プロパンジアミン
(2)R、R、R及びRの内の3個が水素原子である化合物:
N−ヒドロキシメチルプロパンジアミン
N−ヒドロキシエチルプロパンジアミン
N−ヒドロキシプロピルプロパンジアミン
N−ヒドロキシイソプロピルプロパンジアミン
N−ヒドロキシブチルプロパンジアミン
(3)R、R、R及びRの内の2個が水素原子である化合物:
N,N’−ジヒドロキシメチルプロパンジアミン
N,N’−ジヒドロキシエチルプロパンジアミン
N,N’−ジヒドロキシプロピルプロパンジアミン
N,N’−ジヒドロキシイソプロピルプロパンジアミン
N,N’−ジヒドロキシブチルプロパンジアミン
(4)R、R、R及びRの内で1個が水素原子である化合物:
N,N,N’−トリヒドロキシメチルプロパンジアミン
N,N,N’−トリヒドロキシエチルプロパンジアミン
N,N,N’−トリヒドロキシプロピルプロパンジアミン
N,N,N’−トリヒドロキシイソプロピルプロパンジアミン
N,N,N’−トリヒドロキシブチルプロパンジアミン
(5)R、R、R及びRの全てがヒドロキシアルキル基である化合物:
N,N,N’,N’−テトラヒドロキシメチルプロパンジアミン
N,N,N’,N’−テトラヒドロキシエチルプロパンジアミン
N,N,N’,N’−テトラヒドロキシプロピルプロパンジアミン
N,N,N’,N’−テトラヒドロキシイソプロピルプロパンジアミン
下記式で表されるN,N,N’,N’−テトラポリヒドロキシプロピレンプロパンジアミン
【0024】
【化6】

【0025】
上記したアルキレンジアミン化合物の内で、(1)R、R、R及びRが全て水素原子である化合物、(2)R、R、R及びRの内の3個が水素原子である化合物、又は(3)R、R、R及びRの内の2個が水素原子である化合物を用いる場合には、添加量が少なくても、導電性パターン部にのみ良好なめっき皮膜を形成できる特性、即ち、ファインパターン性が良好であるため好ましい。上記したアルキレンジアミン化合物の中でも、エチレンジアミン、N−ヒドロキシメチルエチレンジアミン、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、N,N’−ジヒドロキシメチルエチレンジアミン、N,N’−ジヒドロキシエチルエチレンジアミン、プロパンジアミン、N−ヒドロキシメチルプロパンジアミン、N−ヒドロキシエチルプロパンジアミン、N,N’−ジヒドロキシメチルプロパンジアミン及びN,N’−ジヒドロキシエチルプロパンジアミンからなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物であることがより好ましく、エチレンジアミン、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、N,N’−ジヒドロキシエチルエチレンジアミン、プロパンジアミン及びN,N’−ジヒドロキシエチルプロパンジアミンからなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物であることがさらに好ましい。
【0026】
上記したアルキレンジアミン化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0027】
本発明の触媒残渣除去剤は、通常、一般式(I)で表されるアルキレンジアミン化合物の濃度が1〜500g/L程度、好ましくは5〜300g/L程度、さらに好ましくは10〜150g/L程度の水溶液として使用される。
【0028】
本発明の触媒残渣除去剤において、シアン化合物及びチオシアン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物を添加する場合には、さらにファインパターン性が向上する。シアン化合物の具体例としては、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム、シアン化アンモニウム、シアン化カルシウム等が挙げられる。チオシアン酸塩の具体例としては、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸アンモニウム等が挙げられる。上記したシアン化合物及びチオシアン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物の中でも、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム、チオシアン酸カリウム及びチオシアン酸ナトリウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物であることが好ましく、シアン化ナトリウム及びチオシアン酸カリウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物であることがさらに好ましい。
【0029】
上記したシアン化合物及びチオシアン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0030】
シアン化合物及びチオシアン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物の配合量としては、0.001〜100g/L程度とすることが好ましく、0.005〜50g/Lとすることがより好ましく、1〜20g/Lとすることがさらに好ましい。
【0031】
また、本発明の触媒残渣除去剤には、界面活性剤を配合することができる。界面活性剤としてアニオン性、ノニオン性、カチオン性、両性等の各種界面活性剤を一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0032】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸の炭素数12〜18のカルボン酸の塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、炭素数12〜18のN-アシルアミノ酸、N-アシルアミノ酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、炭素数12〜18のアシル化ペプチド等のカルボン酸塩;アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン重縮合物、スルホコハク酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、N-アシルスルホン酸塩等のスルホン酸塩;硫酸化油、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル硫酸塩、アルキルアミド硫酸塩等の硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩、アルキルリン酸塩等のリン酸エステル塩等を用いることができる。
【0033】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルアリルホルムアルデヒド縮合ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピルアルキルエーテル等のエーテル型界面活性剤;ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アルカノールアミド硫酸塩等のエーテルエステル型界面活性剤;ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等のエステル型界面活性剤;脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン等の含窒素型界面活性剤などを用いることができる。
【0034】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、脂肪酸アミドアミン塩、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム、ジココイルエチルヒドロキシエチルアンモニウムサルフェート等を用いることができる。
【0035】
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン型界面活性剤、アミドプロピルベタイン型界面活性剤、イミダゾリニウムベタイン型界面活性剤、スルホベタイン型界面活性剤、ホスホベタイン型界面活性剤等を用いることができる。
【0036】
界面活性剤が、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも一種である場合、ニッケルめっき反応に対して速度低下等の悪影響が少なく好適である。
【0037】
界面活性剤の配合量としては、0.001〜50g/L程度とすることが好ましく、0.005〜20g/L程度とすることがより好ましい。
【0038】
本発明の触媒残渣除去剤のpHは特に限定的ではないが、通常、1〜13程度とすればよく、3〜11程度とすることが好ましい。pH調整には、硫酸、リン酸等の無機酸および水酸化ナトリウム、アンモニア水等を使用することができる。ただし、シアン化合物を配合する場合は、シアンガスを発生してしまうため、pHは5以上であることが望ましい。同様に、チオシアン酸塩を用いる場合にも、チオシアン酸の自己分解が生じてしまうため、pHは5以上であることが好ましい。ソルダーレジスト等の耐アルカリ性に弱い材料の場合、pHは11以下の弱アルカリ性が好ましい。pHが13以上の強アルカリ性である場合には、ソルダーレジストの密着性を損なう可能性が高い。
無電解めっき方法
本発明の無電解ニッケルめっき方法は、以下の(i)〜(iii)の工程:
(i) プリント配線板に対して無電解めっき用触媒を付与する工程、
(ii) (i)で得られたプリント配線板を、本発明の触媒残渣除去剤に接触させる工程、
(iii) (ii)で得られたプリント配線板に対して無電解ニッケルめっきを行う工程
を含む。
【0039】
以下、本発明の無電解ニッケルめっき方法について具体的に説明する。
【0040】
(i) 無電解めっき用触媒を付与する工程
(i)の工程では、プリント配線板に対して無電解めっき用触媒を付与する。
【0041】
被めっき物であるプリント配線板としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂;ガラス;セラミックス等を基材として、該基材に銅、銀、タングステン、モリブデンなどによる導電性パターン部が形成されている基板等を使用することができる。
【0042】
無電解めっき用触媒の付与方法については、特に限定はなく、パラジウム、銀、白金、ルテニウム等の無電解めっき用触媒を公知の方法に従って付与すればよい。例えば、パラジウム触媒を付与する場合には、パラジウム化合物と特定のハロゲン化物、硫酸塩、塩酸、及び硫酸から選ばれた少なくとも一種の化合物とを組み合わせて配合した選択型無電解めっき用触媒液に接触させる方法;キャタリスト−アクセレーター法;センシタイザー−アクチベーティング法;アルカリキャタリスト法などの公知の方法を採用することができる。中でも、前記選択型無電解めっき用触媒液に接触させる方法は、プリント配線板の導電性パターン部のみをより選択的に触媒を付与できるため、好ましい。
【0043】
(選択型無電解めっき用触媒液)
選択型無電解めっき用触媒液で用いるパラジウム化合物としては特に限定はなく、水溶性のパラジウム化合物の他、酸などに溶解することによって水溶液とし得るパラジウム化合物も用いることができる。本発明での使用に適するパラジウム化合物の具体例としては、(NH[PdCl]、(NH[PdCl]、[PdCl(NH]、[PdI(NH]、[Pd(NO(NH]、K[PdCl]、K[PdCl]、K[Pd(NO]、Na[PdCl]、Na[Pd(NO]、PdBr、PdCl、PdI、Pd(NO・2HO、PdO、PdSO、PdS、[Pd(NH]Cl、[Pd(NH](NO、Pd(C、Pd(NO、[Pd(NH](OH)等を挙げることができる。パラジウム化合物の添加量は、0.0001〜0.5モル/l程度、好ましくは0.0005〜0.1モル/l程度とすればよい。
【0044】
選択型無電解めっき用触媒液では、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ金属の硫酸塩、アルカリ土類金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属の硫酸塩、ハロゲン化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩酸及び硫酸から選ばれた少なくとも一種の化合物を、パラジウム化合物と組み合わせて用いる。
【0045】
選択型無電解めっき用触媒液での使用に適するアルカリ金属としては、カリウム、ナトリウム等を例示でき、アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウム等を例示でき、ハロゲンとしては塩素、ヨウ素、臭素等を例示できる。パラジウム化合物と組み合わせて使用する化合物の好ましい具体例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム、ヨウ化カリウム、臭化カリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、塩酸、硫酸等を例示できる。これらの化合物は、単独または適宜組み合わせて使用でき、その使用量は、0.1〜10モル/l程度、好ましくは0.5〜5モル/lとすればよい。
【0046】
選択型無電解めっき用触媒液のpHは特に限定されるものではないが、pH調整を行う場合には、必要に応じて、HCl、HSO等の酸やNaOH等のアルカリ化合物を用いればよい。
【0047】
選択型無電解めっき用触媒液中には、必要に応じて、キレート化合物を添加することができ、これにより、触媒液をより安定に保つことができる。キレート化合物の具体例としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩(EDTA・2Na)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、エチレンジアミンテトラプロピオン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ニトリロ三酢酸(NTA)、イミノジ酢酸(IDA)、イミノジプロピオン酸 (IDP)、アミノトリメチレンホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸五ナトリウム塩、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、ベンジルアミン、2−ナフチルアミン、イソブチルアミン、イソアミルアミン、メチレンジアミン、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、シンナミルアミン、p−メトキシシンナミルアミン、アンモニア、1−ヒドロキシエチリデン−1、1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1、1−ジホスホン酸三ナトリウム塩、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、マロン酸、グリシン、アラニン、N−メチルグリシン、グリコシアミン、ジメチルグリシン、ヒダントイン酸、アミノ吉草酸、β−アラニン、バリン、ノルバリン、ロイシン、ノルロイシン、イソロイシン、セリン、システイン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、オルニチン、リジン、アルギニン、グルタミン、ジアミノプロピオン酸、シトルリン、ヒドロキシ−L−リジン、ジアミノ酪酸、アミノアジピン酸、カナリン、キヌレニン、ジアミノピメリン酸、ホモシステイン、ヒスチジン、メチオニン、アスパルチル−ヒスチジン、アラニル−アラニン、アラニル−β−アラニン、β−アラニル−β−アラニン、グリシル−リジン、アラニル−オルニチン、リジル−リジン、オルニチル−オルニチン、グリシル−オルニチン、β−アラニル−リジル−リジン、オルニチル−リジル−リジン、グリシルーオルニチルーオルニチン、イミダゾリン、2,4,5−トリフェニル−2−イミダゾリン、2,2´−ビス(2−イミダゾリン)、ピリジン、モルホリン、ビピリジル、ピラゾール、トリアジン等を挙げることができる。
【0048】
また、該触媒液中には、非イオン性、カチオン性、アニオン性、両性等の界面活性剤を添加することもできる。更に、チオ尿素類を添加して、パラジウムとの置換を促進させることもできる。チオ尿素類としては、チオ尿素、ジメチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、アリルチオ尿素、アセチルチオ尿素、エチレンチオ尿素、フェニルチオ尿素等を例示できる。また、pH緩衝剤として、塩酸−塩化カリウム、フタル酸水素カリウム−塩酸、フタル酸水素カリウム−水酸化ナトリウム、リン酸二水素カリウム−水酸化ナトリウム、ホウ酸−水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム−水酸化ナトリウム、リン酸水素ニナトリウム−水酸化ナトリウム、水酸化ナトリウム−塩化カリウム、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸、酢酸ナトリウム−酢酸等を添加することもできる。界面活性剤、チオ尿素類及びpH緩衝剤は、必要に応じて単独又は適宜混合して用いることができる。キレート化合物、界面活性剤、チオ尿素類及びpH緩衝剤は、いずれも本発明の触媒液において必須の成分ではないが、添加による効果を有効に発揮するためには、キレート化合物の添加量は、0.0001〜2モル/l程度とすることが好ましく、界面活性剤の添加量は、0.01〜10g/l程度とすることが好ましく、チオ尿素類の添加量は、0.01〜3モル/l程度とすることが好ましく、pH緩衝剤の添加量は、0.01〜1モル/l程度とすることが好ましい。
【0049】
本発明の触媒液による処理法は、通常の触媒液による処理と同様でよく、液温10〜90℃程度、好ましくは25〜70℃程度の触媒液中に、被処理物を10秒〜10分程度浸漬すればよい。
【0050】
尚、プリント配線板の導電性パターン部に無電解めっき用触媒を付与する前に、プリント配線板に対して脱脂処理、酸洗、エッチング等の前処理を行うことができる。
【0051】
(ii) 触媒残渣除去剤に接触させる工程
(ii)の工程では、(i)の工程で得られたプリント配線板を、本発明の触媒残渣除去剤に接触させる。
【0052】
プリント配線板を触媒残渣除去剤に接触させる方法については、特に限定はなく、公知の方法に従って行えばよい。例えば、プリント配線板を触媒残渣除去剤中に浸漬させることによって、特に効率良く、基材上に残渣として存在する無電解めっき用触媒のみを選択的に除去することができる。上記した処理は、触媒残渣除去剤の攪拌又は未攪拌下で行うことができる。
【0053】
プリント配線板を触媒残渣除去剤に浸漬させて接触させる場合、本発明の触媒残渣除去剤の温度は20℃〜90℃程度が好ましく、25〜70℃程度がより好ましい。処理時間は、10秒〜10分程度が好ましく、30秒〜5分程度がより好ましい。
【0054】
(iii) 無電解ニッケルめっきを行う工程
(iii)の工程では、(ii)で得られたプリント配線板に対して無電解ニッケルめっきを行う。
【0055】
無電解ニッケルめっき液としては、特に限定的ではなく、水溶性ニッケル化合物、還元剤、及び錯化剤を含有する水溶液からなる公知の無電解ニッケルめっき液を用いることができる。例えば、次亜リン酸塩を還元剤とする無電解ニッケル‐リン合金用めっき液、ホウ素化合物を還元剤とする無電解ニッケル‐ホウ素合金用めっき液のいずれにおいても使用することができる。尚、無電解ニッケルめっき液の濃度、温度等ついては、公知の条件に従って行えばよい。
【0056】
形成されるニッケルめっき皮膜の膜厚については、通常、1〜10μm程度とすればよいが、導電性パターン部の間隔が狭い(例えば上記間隔が10μm程度である)場合は、1〜3μm程度が好ましい。
【0057】
尚、(i)〜(iii)の各工程の間では、水洗処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0058】
本発明の触媒残渣除去剤は、プリント配線板の基材上に残渣として存在する無電解めっき用触媒のみを選択的に除去することができる。そのため、プリント配線板において、ファインパターン性に優れた無電解ニッケルめっき皮膜の形成を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
実施例
被めっき物としては、大きさ5×5cmのエポキシ樹脂(厚さ1mm)上に線幅10μm、スリット幅10μm、長さ3cmの銅パターン(銅厚18μm)を40本と、線幅20μm、スリット幅20μmの銅パターン(銅厚18μm)を40本形成したものを用いた。
【0060】
該被めっき物について、脱脂処理を行った後、過硫酸Na溶液で0.5μm程度のエッチングを行い、塩化パラジウム及び塩酸を含有する触媒付与液(ICPアクセラ、奥野製薬工業(株)製)200ml/Lを用いて、室温で1分間触媒付与を行った後、下記表1に記載された各処理液(実施例1〜実施例9)に2分間浸漬し、その後無電解ニッケル‐リン合金めっき(ICPニコロンGM:奥野製薬工業(株)社製)を3μm形成させた。なお、各工程間の水洗は流水で1分間行った。
比較例
尚、上記実施例において、被めっき物を処理液に浸漬せず、水洗のみ行った場合を比較例1とし、処理液として硫酸水素ナトリウム及び塩化ナトリウムを含む液を用いた場合を比較例2とした。上記比較例1及び比較例2についても併せて試験を行った。
【0061】

ファインパターン性の評価方法
めっき後の各試料について線幅10μmまたは20μmの配線パターン部を顕微鏡観察(1000倍)により銅パターン外へのめっき拡がりの有無を調べた。めっき拡がりが全くない場合を◎印、ごく僅かにめっき拡がりが認められた場合を○印、めっき拡がりが多数生じた場合を△印で示す。
【0062】
また、合計80本の配線のうち未析出箇所の発生数についても評価した。
【0063】
本発明の実施例及び比較例における評価結果を下記表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
以上の結果から明らかなように、アルキレンジアミン化合物を添加剤として含む実施例1〜9の触媒残渣除去剤を用いて無電解ニッケルめっきを行った場合、ファインパターン性が特に良好であり、これらの内でシアン化合物及びチオシアン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物と併用する場合にはファインパターン性はさらに良好であった。また、必要部への析出性についても、未析出の発生は認められず、良好な結果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

[式中、R、R、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子又は下記基:
【化2】

(式中、Rは、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、mは1〜10の整数である)であり、nは2又は3である。]で表されるアルキレンジアミン化合物を含有することを特徴とするプリント配線板用触媒残渣除去剤。
【請求項2】
一般式(I)で表されるアルキレンジアミン化合物において、R、R、R及びRで表される基の少なくとも一個が水素原子である請求項1に記載のプリント配線板用触媒残渣除去剤。
【請求項3】
一般式(I)で表されるアルキレンジアミン化合物において、R、R、R及びRで表される基の内で、1〜3個が水素原子である請求項1又は2に記載のプリント配線板用触媒残渣除去剤。
【請求項4】
さらに、シアン化合物及びチオシアン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物を含む請求項1〜3のいずれかに記載のプリント配線板用触媒残渣除去剤。
【請求項5】
以下の(i)〜(iii)の工程を含む、無電解ニッケルめっき方法:
(i) プリント配線板に対して無電解めっき用触媒を付与する工程、
(ii) (i)で得られたプリント配線板を、請求項1〜4のいずれかに記載の触媒残渣除去剤に接触させる工程、
(iii) (ii)で得られたプリント配線板に対して無電解ニッケルめっきを行う工程。

【公開番号】特開2011−42836(P2011−42836A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192141(P2009−192141)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】