説明

プリン受容体アゴニストによるドライアイ疾患の治療のための医薬組成物

【課題】ドライアイ疾患の治療のための医薬組成物及び滅菌調製物を提供する。
【解決手段】涙分泌を刺激またはドライアイを治療するための眼内投与に適合された医薬組成物であって、涙分泌を刺激する治療が必要な患者の涙液組織中のプリン受容体を活性化する化合物を含み、かつこの化合物が、ある特定式で示されたウリジン 5’−三リン酸、又特定の別式で示されたジヌクレオチド、並びにそれらの医薬として許容できる塩からなる群から選択される化合物である。さらに、眼への局所投与に適合させた滅菌調製物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のウリジン、アデニン又はシチジン三リン酸、並びに他のヌクレオシドリン酸化合物のような、プリン受容体(purinergic receptor)アゴニストを投与することによって、患者の眼内及び眼周囲の分泌を調節する方法に関する。
【0002】
本発明は更に、哺乳類の鼻涙管の粘液線毛性クリアランスを増強する薬剤を投与することによって、涙器の排液を増強する方法に関する。これらの薬剤は、特定のウリジン、アデニン及びシチジン三リン酸、更には他のヌクレオシドリン酸化合物を含んでいる。
【背景技術】
【0003】
眼によって産生された涙液の量を増やすための治療が望ましい多くの状況がある。ドライアイ疾患とは、涙産生の減少又は涙液膜蒸発の増加と共に、生じた眼球表面の疾患により特徴付けられた、前角膜涙液膜の異常によりもたらされた適応症に関する一般的用語である。およそ3800万人のアメリカ人が、ドライアイ疾患のいずれかの型に罹患している。一般的用語“ドライアイ疾患”と称される適応症には以下が含まれる:乾性角結膜炎(KCS) 、年齢に関係したドライアイ、スチーブン−ジョンソン症候群、シェーングレン症候群、眼の瘢痕性類天疱瘡、眼瞼炎、角膜損傷、感染症、ライリー・デイ症候群、先天性涙液分泌欠如、栄養不良又は欠乏症(ビタミンを含む)、薬理学的副作用、眼圧迫並びに腺及び組織の破壊、スモッグ、煙、過剰な乾燥大気、風媒粒子への環境暴露、自己免疫及び他の免疫不全疾患、並びに瞬目不能の昏睡患者である。本発明は、更に術中の意識のある個人において、もしくは昏睡患者又は神経筋遮断又は瞼喪失のため瞬目不能の患者を維持するための、洗浄液又は灌流液としても有用である。
【0004】
健康な前角膜涙液膜は、いくつかの重要な機能を有している:1)乾燥から角膜を保護すること:2)感染に対する免疫応答を補助すること:3)角膜への酸素透過性を増強すること:4)眼球及び眼瞼の滑走運動をできるようにすること:及び、5)浸透による眼圧の維持を助けることである。涙液膜−涙腺及び結膜(眼球の一部及び眼瞼の内側を囲んでいる粘膜)の特性の維持に寄与する2種類の構造がある。これらの構造は、水及び電解質の輸送の調節により、並びに杯細胞によるムチン放出により、涙液膜を維持している。
【0005】
ドライアイ疾患の進行は、4種の主要な“重要な段階”により特徴付けられる。第一の段階は、涙産生の減少である。ウサギモデルにおいて、この涙産生の減少は、涙の浸透圧モル濃度の上昇に相関することが示されている。第二の段階は、粘液を含有する結膜の杯細胞の喪失である。この杯細胞の密度の減少は、涙産生減少が始まってから数週間後に明白になる。ドライアイ疾患の進行における第三の段階は、角膜上皮の剥離が認められてから、約1年後に生じる。本疾患の第四かつ最後の段階は、角膜−涙の相互作用の不安定化である(J.Gilbardの論文、「CLAO Journal」22(2):141−45(1996))。
【0006】
現在、ドライアイ疾患の薬物療法は、眼を一次的に再水和するための人工涙液(生理食塩水)投与にほとんど限られている。しかしながら、緩和は、短期間の効果であり、かつ頻繁な投与が必要である。これに加えて、人工涙液は、しばしばソフトコンタクトレンズとは、禁忌かつ非適合性である(M.Lempの論文、「Cornea」9(1):548−550(1990))。涙分泌を刺激するためのホスホジエステラーゼ阻害薬、例えば3−イソブチル−1−メチルキサンチン(IBMX)の使用が、米国特許第4,753,945号に開示されている(出願人は本特許及び他の全ての特許を、本願明細書に参照として組み入れることを意図するものである)。これらのホスホジエステラーゼ阻害薬の効果は、現在研究中である(J.Gilbardらの論文、「Arch.Ophthal.」112:1614−16(1994) 及び109:672−76(1991);前述の筆者の論文、「Inv.Ophthal.Vis.Sci.」31:1381−88(1990))。メラノサイト刺激ホルモンの局所適用による涙分泌の刺激は、米国特許第4,868,154号に開示されている。
【0007】
涙器の排液を増強する治療が望ましい多くの状況がある。涙器は、2種の機能の構成要素を有している:涙を生産する、分泌部分、並びに涙を鼻に排液する、導涙部分である。涙液の排液システムが、適性に機能しない場合の結果は、過剰な涙(涙漏)、粘液膿性の排液、及び再発性涙嚢炎である(C.Shermataroらの論文、「JAOA」94:229(1994))。実際に涙は、患者に眼科医の診療所を受診させる際の最も一般的な愁訴である(S.T.Conway、「Ophthal Plas.Reconstr.Surg.」10:185(1994))。
【0008】
涙液排液システムの最も一般的な機能不全は、鼻涙管の閉塞であり、これは涙嚢中の涙のうっ滞を生じる。液体及び粘液の蓄積は、流涙及び粘液濃性物質の排除を生じ、朝起床時に瞼が“くっついて離れない状態”を引き起こす。涙液のクリアランスの不足は、更に涙嚢及び管の炎症及び慢性の感染症にもつながる(K.J.Hydeらの論文、「Ophthal.」95:1447(1988);J.A.Blickerらの論文、「Ophthal.Plas Reconstr.Surg.」9:43(1993);J.A.Mauriello Jr.らの論文、「Ophthal.Plast Reconstr.Surg.」8:13(1992))。
【0009】
鼻涙管の閉塞は、2種の病因型に分けることができる:粘膜上皮の過形成及び繊維化を特徴とする原発性に獲得される鼻涙管閉塞(PANDO)、並びに癌、炎症、感染症、外傷及び機械的問題によって生じる、続発性に獲得される鼻涙管閉塞(SANDO)である(G.B.Bartley、「Ophthal.Plast.Reconstr.Surg.」8:237(1992))。閉塞された鼻涙管は、中年女性及び乳児においてより一般的である。実際に、全乳児の20%までが、鼻涙管閉塞に罹患しているが、その殆どが1歳の誕生日まで無症状である(J.D.H.Youngらの論文、「Eye」、10:485(1996))。
【0010】
現在の鼻涙管閉塞の治療法は、殆どの場合、攻撃性が異なる侵襲的方法又は手術による方法である。介入は、細いカテーテルのついた管の探針の形で行うことができるが、これは、特別な訓練及び装置を必要とする、困難かつ繊細な方法である(J.Kassoffらの論文、「Arch.Ophthal.」113:1168(1995);J.D.Griffiths の米国特許第4,921,485号(1990年)及び第5,062,831号(1991年);B.B.Beckerらの米国特許第5,021,043号(1991年)及び第5,169,386号(1992 年) )。一部の場合、鼻涙管のシラスティック挿管法は、鼻涙管を通じての涙の排液を増す(R.K.Dortzbach らの論文、「Amer.J.Ophthal.」94:585(1982);H Al−Hussamらの論文、「Ophthal.Plas.Reconstr.Surg.」9:32(1993);J.S.Crawfordらの米国特許第4,380,239号(1983年);W.L.Ector.Jr.の米国特許第4,658,816号(1987年))。より攻撃的な方法は、涙嚢鼻腔切開術であり、これは、外科的に、閉塞の上に新たな排液路を形成し、涙嚢及び鼻腔の間を連続することができる(J.V.Linbergらの論文、「Ophthal.」93:1055(1986);K.J.Tarbertらの論文、「Ophthal.」102:1065(1995);F.E.O’Donnell,Jr.の米国特許第5,345,945号(1994年))。鼻涙管の外側からのマッサージも、鼻涙管を通っての涙の移動時間を増加することが示されている(J.A.Fosterらの論文、「Ophthal.Plas Reconstr.Surg.」12:32(1996))。
【0011】
従って、現在の治療法の無効性及び不便性の結果として、医学研究者は、ドライアイ疾患及び鼻涙管疾患の代わりの治療法を開発することを求めている。ウリジン−5’−三リン酸(UTP)及びアデニン5’−三リン酸(ATP)が、ヒトの気道上皮表面において発見されたP2Y2プリン受容体の強力なアゴニストであることが明らかにされている。これらのP2Y2プリン受容体の活性化は、塩化物及び水の分泌を誘発し、気道表面の分泌物の水和を補助する。肺粘膜の分泌物の保持によって特徴付けられた肺疾患の治療を目的としたUTP及びATPの使用が、米国特許第5,292,498号に開示されている。UTPの気道上皮の分泌物の水和を増す能力は明示されているので、出願人は、UTP並びに他のP2Y2及びP2Y4プリン受容体アゴニストが、同様に眼上皮の水和を刺激することができるかどうかを調べようとした。ラット及びマウスの涙腺房細胞中のP2型プリン受容体が、細胞内カルシウムの増加により、細胞外ATPに反応することが以前に報告されている(I.Sasakiらの論文、「Febs Lett.」264:130−34(1990);前述の筆者の論文、「J.Physiol.」447:103−18(1992);P.Vincentの論文、「J.Physiol.」449:313−31(1992);J.Gromadaらの論文、「Eur.J.Physiol.」429:578(1995);V.Leeらの論文、「Inv.Ophthal.Vis.Sci.」38(4)(1997)要約)。出願人は、涙の分泌が、気道上皮の水和のメカニズムに類似した、P2Y2及び/又はP2Y4プリン受容体−が媒介したメカニズムにより、副涙腺組織から刺激されることを発見した。出願人は更に、眼に局所適用するか又は鼻涙排液システムに注入した場合に、粘膜線毛性クリアランスの刺激が、鼻涙管を通っての涙の流れを増加し、その結果鼻涙管閉塞に関連した症状を緩和することを発見した。局所的又は全身的に投与されたUTP及び他のプリン受容体アゴニストは、ドライアイ疾患及び鼻涙管閉塞の治療の新規方法を提供するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】M.A.G.Silleroらの論文、「Eur.J.Biochem.」76:331(1977)
【非特許文献2】C.G.Vallejoらの論文、「Biochim.Biophys.Acta」483:304(1976)
【非特許文献3】H.Costeらの論文、「J.Biol.Chem.」262:12096(1987)
【非特許文献4】K.E.Ngらの論文、「Nucleic Acid Res.」15:3573(1987)
【非特許文献5】J.Stepinskiらの論文、「Nucleosides & Nucleotides」14:717(1995)
【非特許文献6】A.Zatorskiらの論文、「J.Med.Chem.」39:2422(1996)
【非特許文献7】P.Rotilanらの論文、「FEBS」280:371(1991)
【非特許文献8】P.C.Zamecnikらの論文、「Proc.Natl.Acad.Sci.」89:2370(1992)
【非特許文献9】J.Walkerらの論文、「Biochemistry」32:14009(1993)
【非特許文献10】R.H.Hindermanらの論文、「J.Biol.Chem.」266:6915(1991)
【非特許文献11】J.Luthjeらの論文、「Eur.J.Biochem.」173:241(1988)
【非特許文献12】R.H.Silvermanらの論文、「Microbiological Rev.」43:27(1979)
【非特許文献13】C.D.Lobatonらの論文、「Eur.J.Biochem.」50:495(1975)
【非特許文献14】G.Loweらの論文、「Nucleosides & Nucleotides」10:181(1991)
【非特許文献15】G.M.Blackburnらの論文、「Nucleosides & Nucleotides」10:549(1991)
【非特許文献16】J.C.Bakerらの論文、「Mutation Res.」208:87(1988)
【非特許文献17】G.Kleinらの論文、「Biochemistry」27:1897(1988)
【非特許文献18】E.Castroらの論文、「Br.J.Pharmacol.」100:360(1990)
【非特許文献19】D.R.Elmalehらの論文、「Proc.Natl.Acad.Sci.」81:918(1984)
【非特許文献20】R.Boneらの論文、「J.Biol.Chem.」261:16410(1986)
【非特許文献21】「Fed.Amer.Soc.Exper.Bio.Abstr.」Part I、no.1878(1991)
【非特許文献22】M.T.Miras−Portugalらの論文、「Ann.NY Acad.Sci.」603:523(1990)
【非特許文献23】A.Guranowskiらの論文、「Biochemistry」27:2959(1988)
【非特許文献24】F.Grummtらの論文、「Plant Mol.Biol.」2:41(1983)
【非特許文献25】A.G.McLennanらの論文、「Nucleic Acid Res.」12:1609(1984)
【非特許文献26】P.Zamccnikらの論文、「Analytical Biochem.」134:1(1983)
【非特許文献27】E.Rapaportらの論文、「Proc.Natl.Acad.Sci.」78:838(1981)
【非特許文献28】T.Kimuraらの論文、「Biol.Pharm.Bull.」18:1556(1995)
【非特許文献29】E.Schulzc−Lohoffらの論文、「Hypertension」26:899(1995)
【非特許文献30】B.K.Kimらの論文、「Proc.Natl.Acad.Sci.」89:11056(1992)
【非特許文献31】P.C.Zamccnikらの論文、「Proc.Natl.Acad.Sci.」89:2370(1992)
【非特許文献32】H.Moriiらの論文、「Eur.J.Biochem.」205:979(1992)
【非特許文献33】E.Castroらの論文、「Pflungers Arch.」426:524(1994)
【非特許文献34】H.Schluterらの論文、「Nature」367:186(1994)
【非特許文献35】E.Castroらの論文、「Br.J.Pharmacol.」206:83(1992)
【非特許文献36】T.Casillasの論文、「Biochemistry」32:14203(1993)
【非特許文献37】J.Pintorらの論文、「J.Neurochem.」64:670(1995)
【非特許文献38】E.Castroらの論文、「J.Biol.Chem.」270:5098(1995)
【非特許文献39】V.A.Panchenkoらの論文、「Neuroscience」70:252(1996)
【非特許文献40】E.Castroらの論文、「Br.J.Pharmacol.」100:360(1990)
【非特許文献41】J.Pintorらの論文、「Gen.Pharmac.」26:229(1995)
【非特許文献42】J.Pintorらの論文、「Br.J.Pharmacol.」115:895(1995)
【非特許文献43】A.Kanavariotiらの論文、「Tett.Lett.」32:6065(1991)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
涙分泌の治療が必要な患者においてそれを刺激する方法が、明らかにされている。本発明の方法は、ドライアイ疾患の治療を含むが、これに限定されることのない、何らかの理由により、涙の産生を増すために使用することができる。ドライアイ疾患は、以下を含むと定義される:乾性角結膜炎(KCS)、年齢に関連したドライアイ、スチーブン−ジョンソン症候群、シェーングレン症候群、眼の瘢痕性類天疱瘡、眼瞼炎、角膜損傷、感染症、ライリー・デイ症候群、先天性涙液分泌欠如、栄養不良又は欠乏症(ビタミンを含む)、薬理学的副作用、眼圧迫並びに腺及び組織の破壊、スモッグ、煙、過剰な乾燥大気、風媒粒子への環境暴露、自己免疫及び他の免疫不全疾患、並びに瞬目不能の昏睡患者である。本発明は、更に術中に意識のある個人において、もしくは昏睡患者又は神経筋遮断、筋又は神経の損傷、眼瞼の喪失のために瞬目不能の患者を維持するための、洗浄液又は灌流液としても有用である。この化合物ウリジン三リン酸(UTP)は、涙液組織の調製物中のP2Y2及びP2Y4プリン受容体の強力なアゴニストであることがわかっている。更に、本発明のin vivoの実施例は、ドライアイ疾患の動物(ウサギ)モデルにおいて実施された。
【0014】
涙器の排液の治療が必要な患者においてこれを増強する方法も、明らかにされている。本発明のこの態様の方法は、鼻涙管閉塞の治療を含むが、これに限定されることのない、何らかの理由のために、鼻涙管のクリアランスを増強するために使用することができる。鼻涙管閉塞は、原発性及び続発性に獲得された鼻涙管閉塞及び小児の鼻涙管閉塞の両方を含むと定義される。本発明は、更に意識のある個人もしくは鼻涙管の手術又は挿管時の、鼻涙管の洗浄液又は灌流液としても有用である。本願明細書に記された化合物は、更にDNAse、アセチルシステイン及びブロモヘキシンのような、粘液溶解薬と併用することができる。
【0015】
本発明の方法は、ウリジン三リン酸[UTP]及びその類似体、P14−ジ(ウリジン−5’)−四リン酸[U24]及びその類似体、シチジン−5’−三リン酸[CTP]及びその類似体、並びにアデノシン−5’−三リン酸[ATP]からなる群から選択されたP2Y2及び/又はP2Y4プリン受容体アゴニストの液体又はゲル懸濁液の局所投与を含み、ここで、UTP、U24、CTP又はATPの粒子は、涙分泌を刺激する、もしくは、鼻涙管のクリアランスを増強するのに有効な量投与される。
【0016】
本発明の第二の態様は、前述の処置の治療法を実行を目的とした薬剤を製造するための、式I〜IVの化合物の使用である。
【0017】
本発明の第三の態様は、式I、II、III又はIVの化合物を、医薬担体中に、涙分泌を刺激する、もしくは、鼻涙管のクリアランスを増強するような治療が必要な患者においてそれらに有効な量含有する医薬組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】5.0%U24を5回注入した後に記録された瞬目反射を誘発するために必要な機械的刺激の数を示す図である。
【図2】ウサギの眼における3種の濃度のU24の単回投与後の60分間にわたる涙分泌作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の方法は、ドライアイ疾患の治療を含むが、これに限定されることのない、何らかの理由により、涙産生を増すために使用することができる。ドライアイ疾患は、以下を含むと定義される:乾性角結膜炎(KCS)、年齢に関連したドライアイ、スチーブン−ジョンソン症候群、シェーングレン症候群、眼の瘢痕性類天疱瘡、眼瞼炎、角膜損傷、感染症、ライリー・デイ症候群、先天性涙液分泌欠如、栄養不良又は欠乏症(ビタミンを含む)、薬理学的副作用、眼圧迫並びに腺及び組織の破壊、スモッグ、煙、過剰な乾燥大気、風媒粒子への環境暴露、自己免疫及び他の免疫不全疾患、並びに瞬目不能な昏睡患者である。本発明は、更に術中に意識のあるヒト、もしくは昏睡患者又は神経筋遮断、筋又は神経の損傷、眼瞼の喪失のために瞬目不能の患者を維持するための、洗浄液又は灌流液としても有用である。
【0020】
涙器の排液の治療が必要な患者においてこれを増強する方法も、明らかにされている。本発明のこの態様の方法は、鼻涙管閉塞の治療を含むが、これに限定されることのない、何らかの理由のために、鼻涙管のクリアランスを増強するために使用することができる。鼻涙管閉塞は、原発性及び続発性に獲得された鼻涙管閉塞及び小児の鼻涙管閉塞の両方を含むと定義される。本発明は、更に意識のある個人もしくは鼻涙管の手術又は挿管時の、鼻涙管の洗浄液又は灌流液としても有用である。本願明細書に記された化合物は、更にDNアーゼ、アセチルシステイン及びブロモヘキシンのような、粘液溶解薬と併用することができる。
【0021】
出願人は、ウリジン−5’−三リン酸(UTP)が、涙腺及び結膜の調製物中に認められるプリン受容体の強力なアゴニストであることを発見した。本発明の方法は、現在最も一般的に使用されているドアイアイ疾患の治療法−人工涙液(すなわち生理食塩水)を改善するものであり、これは、UTPが、患者自身の涙の産生及び分泌を刺激し、このことが天然の保護的及び潤滑的特徴を維持することが理由である。更に、本発明の方法は、涙腺が機能不全又は存在しない状態であっても有用である。これに加え、本発明の方法は、閉塞された鼻涙管のクリアランスを増強することにおいて有用である。
【0022】
本発明は、主にヒト患者の治療を考慮しているが、獣医学の目的でイヌ及びネコなどの他の哺乳類患者の治療にも使用することができる。
【0023】
本願明細書において使用される用語“ウリジン三リン酸”は、それらの医薬として許容できる塩、例えば(しかし限定するものではない)ナトリウム又はカリウムのようなアルカリ金属塩、マグネシウム又はカルシウムのようなアルカリ土類金属塩;もしくは、アンモニウム又はテトラアルキルアンモニウム塩、すなわちNX4+(式中Xは、C14アルキルである。)を含んでいる。医薬として許容できる塩は、親化合物の望ましい生物学的活性を保持し、かつ望ましくない毒性作用を有さない塩である。
【0024】
本発明の方法は、一般式I、すなわちウリジン三リン酸[UTP]及びその類似体、一般式II、すなわちP14−ジ(ウリジン−5’)四リン酸[U24]及びその類似体、一般式III、すなわちシチジン−5’−三リン酸[CTP]及びその類似体、並びに一般式IV、すなわちアデノシン−5’−三リン酸[ATP]及びその類似体からなる群から選択された、P2Y2及び/又はP2Y4プリン受容体アゴニストの液体又はゲル懸濁液の局所投与を含み、ここで式I、II、III又はIVの粒子は、涙分泌を刺激する、もしくは、鼻涙管閉塞のクリアランスを増強するのに有効量投与される。
【0025】
前述のジヌクレオチドを、それらの対応する参照文献と共に、表1に列挙した。
【0026】
【表1】

【0027】
A=アデノシン、eA=エテノアデノシン、U ウリジン、m7G=7−メチルグアノシン、G=グアノシン、m2,7G=2,7−ジメチルグアノシン、T=チミジン、m2,2,7G=2,2,7−トリメチルグアノシン、X=キサントシン、NAD=ニコチンアミドリボシド、TAD=トリアゾフリン、C−NAD=C−ニコチンアミドリボシド、BAD=ベンズアミドリボシド、C−PAD=C−ピコリナミドリボシド、D=2,6−ジアミノプリン、N=ヌクレオシド
【0028】
発明の活性化合物
UTP及びその類似体は、一般式Iで示される:
【0029】
【化1】

【0030】
(式中、
1、X2及びX3は、各々独立して、O-又はS-のいずれかである。好ましくは、X2及びX3はO-である。
1は、O、イミド、メチレン又はジハロメチレン(例えば、ジクロロメチレン又はジフルオロメチレン)である。好ましくは、R1は酸素又はイミドである。
2は、H又はBrである。好ましくは、R2はHである。特に好ましい式Iの化合物は、ウリジン−5’−三リン酸(UTP)及びウリジン−5’−O−(3−チオ三リン酸)(UTP γS)である)。
【0031】
ジヌクレオチドは、一般式IIで示される:
【0032】
【化2】

【0033】
(式中、
Xは、酸素、イミド、メチレン又はジフルオロメチレンであり;
n=0又は1;
m=0又は1;
n+m=0、1又は2;及び
B及びB’は、それぞれ独立して、プリン成分であるか、もしくは、ピリミジン成分であり、各々、9−又は1−位で結合されている。)。B及びB’がウラシルの場合、リボシル成分にN−1位で連結し、ここでXが酸素の場合、m+nの合計は3又は4と等しくてもよい。このリボシル成分は、示されたように、D−立体配置であり、L−、又はD−及びL−であることができる。D−立体配置が好ましい。
【0034】
B及びB’は、それぞれ独立して、式IIaのようにプリン成分であるか、もしくは、式IIbのようにピリミジン成分であり、各々、9−又は1−位で結合されている。)。B及びB’がウラシルの場合、リボシル成分にN−1位で連結し、ここでXが酸素の場合、m+nの合計は3又は4と等しくてもよい。このリボシル成分は、示されたように、D−立体配置であり、L−、又はD−及びL−であることができる。D−立体配置が好ましい。
【0035】
【化3】

【0036】
アデニンの置換された誘導体は、アデニン−1−オキシド;1,N6−(4−又は5−置換されたエテノ)アデニン;6−置換されたアデニン;又は、8−置換されたアミノアデニンを含む(式中、6−又は8−HNR’基のR’は、以下から選択される:アリール成分が任意に下記のように官能化されたアリールアルキル(C1-6)基;アルキル及び官能基を伴うアルキル、例えば:([6−アミノヘキシル]カルバモイルメチル)−、ω−アシル化された−アミノ(ヒドロキシ、チオール及びカルボキシ)誘導体、ここでアシル基は、アセチル、トリフルオロアセチル、ベンゾイル、置換されたベンゾイルなどから選択されるが、これらに限定されるものではなく、又はカルボン酸成分は、そのエステル又はアミド誘導体、例えばエチル又はメチルエステル、もしくはそのメチル、エチル又はベンズアミド誘導体として存在する。)このω−アミノ(ヒドロキシ、チオール)成分は、C1-4アルキル基によりアルキル化することができる。
【0037】
同様に、B又はB’、もしくは両方が、1−位を介して結合した一般式IIbのピリミジンであることができる:
【0038】
【化4】

【0039】
(式中、
4は、ヒドロキシ、メルカプト、アミノ、シアノ、アラルコキシ、C1-6アルコキシ、C1-6アルキルアミノ及びジアルキルアミノであり、これらのアルキル基は、任意に結合してヘテロ環を形成している;
5は、水素、アシル、C1-4アルキル、アロイル、C1-6アルカノイル、ベンゾイル又はスルホネートであり;
6は、ヒドロキシ、アミノ、メルカプト、アルコキシ、アラルコキシ、C1-6− アルキルチオ、C1-5ジ置換アミノ、トリアゾリル、アルキルアミノ又はジアルキルアミノであり、ここでアルキル基は、任意に結合してヘテロ環を形成するか、もしくは、N3に結合して任意に置換された環を形成している;
7は、水素、ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、アルケニル成分が任意に酸素を介して連結しアルキル又はアリール基と共に酸素に隣接する炭素上に任意に置換された環を形成しているアルケニル、置換されたアルキニル、ハロゲン、アルキル、置換されたアルキル、ペルハロメチル(例えばCF3)、C2-6アルキル、C2-3アルケニル、又は置換されたエテニル(例えば、アリルアミノ、ブロモビニル及びエチルプロペノエート、又はプロピオン酸)、C2-3アルキニル又は置換されたアルキニル;もしくは、R6−R7は共に、N又はOを介してR6で結合した、5−又は6−員環の飽和又は不飽和の環を形成し、このような環は、それ自身官能基を有する置換基を含むことができるが;但し、R8はアミノ又は置換されたアミノであり、R7は水素である;並びに
8は、水素、アルコキシ、アリールアルコキシ、アルキルチオ、アリールアルキルチオ、カルボキシアミドメチル、カルボキシメチル、メトキシ、メチルチオ、フェノキシ、又はフェニルチオである。)。
【0040】
前述の式IIbの一般構造において、2−から6−位の点線は、それらの位置に単結合又は二重結合の存在を示すことが意図されていて;二重または単結合の相対的位置は、R4、R6及びR7置換基が、ケト−エノール互変異性ができるかどうかによって決定される。
【0041】
前述の式IIa及びIIbの一般構造において、アシル基は、有利にはアルカノイル又はアロイル基を含む。このアルキル基は、有利には1〜8個の炭素原子を含み、特に以下に示すような1 個又はそれ以上の適当な置換基により任意に置換された1〜4個の炭素原子を含む。アリールオキシのような基のアリール残基を含むアリール基は、好ましくは下記に示すような、1個又はそれ以上の適当な置換基により任意に置換されたフェニル基である。前述のアルケニル及びアルキニル基は、有利には2〜8個の炭素原子を含み、特に2〜6個の炭素原子を含み、例えば、エテニルまたはエチニルであり、任意に以下に示す1個又はそれ以上の適当な置換基により置換される。前述のアルキル、アルケニル、アルキニル及びアリール基の適当な置換基は、ハロゲン、ヒドロキシ、C1-4アルコキシ、C1-4アルキル、C7-12アリールアルコキシ、カルボキシ、シアノ、ニトロ、スルホンアミド、スルホネート、ホスフェート、スルホン、アミノ及び置換されたアミノから有利には選択され、ここでアミノは、C1-4アルキルにより単一又は二重に置換されていて、かつ二重置換の場合はアルキル基が任意に結合しヘテロ環を形成している。
【0042】
ATP及びその類似体は、一般式IIIにより示される:
【0043】
【化5】

【0044】
(式中、
1、X1、X2及びX3は、式Iに定義したものであり;
3及びR4は、R2が無く、かつN−1及びC−6の間に二重結合がある場合に、Hである(アデニン)か;もしくは
3及びR4は、R2がOであり、かつN−1及びC−6の間に二重結合がある場合に、Hであり(アデニン1−オキシド);又は
3、R4及びR2は一緒に、−CH=CH−であり、N−6及びC−6の間に二重結合を伴う、N−6からN−1への環を形成する(1,N6−エテノアデニン)。)。
【0045】
CTP及びその類似体は、式IVにより示される:
【0046】
【化6】

【0047】
(式中、
1、X1、X2及びX3は、式Iに定義したものであり;
5及びR6は、R7が無く、かつN−3及びC−4の間に二重結合がある場合に、Hである(シトシン)か;もしくは
5、R6及びR7は一緒に、−CH=CH−であり、N−4及びC−4の間に二重結合を伴う、N−3からN−4への環を形成し(3,N4−エテノシトシン)、任意にエテノ環の4−又は5−位で置換される。)。
【0048】
簡単に述べると、ここに記された式I、II、III及びIVは、天然にはD−立体配置で生じる活性化合物を説明しているが、本発明は、特に言及しない限りは、更にL−立体配置の化合物、並びにD−及びL−立体配置の化合物の混合物も包含している。天然に生じるD−立体配置が好ましい。
【0049】
本発明の活性化合物は、更にそれらの医薬として許容できる塩の形で存在することができ、例えばナトリウム又はカリウムのようなアルカリ金属塩;マンガン、マグネシウム又はカルシウムのようなアルカリ土類金属塩;もしくは、アンモニウム又はテトラアルキルアンモニウム塩、すなわちNX4+(式中Xは、C1-4である。)であるが、これらに限定されるものではない。医薬として許容できる塩は、親化合物の望ましい生物学的活性を保持し、かつ望ましくない毒性作用を有さない塩である。
【0050】
投与法
本明細書に記された活性化合物は、いずれか適当な手段により、患者の眼に投与することができるが、好ましくは、液滴、スプレー又はゲルの形状で、該活性化合物の液体又はゲル懸濁液を投与することによって投与される。あるいは、該活性化合物は、リポソームにより、眼に適用される。更に該活性化合物は、ポンプ−カテーテルシステムにより、涙液膜に注入することができる。本発明の別の態様は、例えばOcusert(登録商標)システム(Alza Corp.,Palo Alto,CA)において使用されたもののような膜であるが、これらに限定されない、連続又は選択的放出装置中に含まれた活性化合物に関連している。別の態様において、該活性化合物は、眼球の上に装着されるコンタクトレンズ内に含まれるか、運搬されるか、もしくは付着させることができる。別の本発明の態様は、眼の表面に適用することができる綿棒又はスポンジ内に含まれた該活性化合物に関連している。本発明の別の実施態様は、眼の表面に適用することができる液体スプレー中に含まれた該活性化合物に関連している。本発明の別の態様は、涙液組織内へ、又は眼表面上への直接の該活性化合物の注射に関連している。
【0051】
前述の局所用溶液中に含まれる活性化合物の量は、涙分泌を刺激するか、もしくは、鼻涙管のクリアランスを増強するために、患者の眼表面上において約10-7〜約10-1モル/リットルの、より好ましくは約10-6〜約10-1モル/リットルの該活性化合物の溶解濃度を達成するのに十分な量である。
【0052】
投与される活性化合物の特定の処方の溶解度に応じて、涙分泌を促進するか、もしくは、鼻涙管のクリアランスを増強するための一日量は、1回又は数回の単位用量の投与に分割することができる。UTP(例えば)の一日量の合計は、患者の年齢及び状態に応じて、濃度0.25mg/ml〜50mg/mlの範囲であることができる。現在好ましいUTPの単位用量は、1日2〜6回投与の治療法であるとして、約1〜100mgである。
【0053】
式I、III及びIVの化合物の一部は、当業者には周知の方法で製造することができ;一部は、例えばSigma Chemical Company(PO Box 14508,St.Louis,MO 63178)から市販されている。式IIの化合物は、P.Zamecnikらの論文、「Proc.Natl.Acad.Sci.USA」89:838−42(1941);及び、K Ng及びL.E.Orgelの論文、「Nucleic Acid Res.」15(8):3572−80(1977)に記載されているような、公知の方法又はそれらの変法に従って製造することができる。
【0054】
前述の活性化合物を含有している局所用溶液は、更に、眼科に関する当業者が通常の基準を用いて選択することができるような、生理的に適合性のある賦形剤を含むことができる。これらの賦形剤は、公知の眼科用溶剤から選択することができ、これは生理食塩水、ポリエチレングリコールのような水ポリエーテル(water polyether)類、ポリビニルアルコール及びポビドンのようなポリビニル類、メチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースのようなセルロース誘導体類、鉱油及びホワイトペトロラタムのような石油系誘導体類、ラノリンのような動物油脂類、カルボキシポリメチレンゲルのようなアクリル酸ポリマー類、ピーナッツ油のような植物油脂類、及びデキストランのような多糖類、及びヒアルロン酸ナトリウムのようなグリコサミノグリカン類、及び塩化ナトリウム及び塩化カリウムのような塩類を含むが、これらに限定されるものではない。
【0055】
前述の局所的投与法に加えて、本発明の活性化合物を全身投与する様々な方法がある。このような手段のひとつは、患者が吸入する、該活性化合物から構成された吸引可能な粒子のエアゾール懸濁液である。この活性化合物は、肺から血流へと吸収されるか、もしくは、鼻涙管を介して涙液組織と接触し、その後医薬として有効量が、涙腺と接触する。この吸引可能な粒子は、液体又は固形であることができ、粒度は、吸引時に口及び喉頭を通過するのに十分な程小さく;一般に、約1〜10μmの範囲、より好ましくは1〜5μmの粒子が、吸引可能と考えられる寸法である。
【0056】
前記活性化合物の患者の眼への全身投与の別の手段は、液体処方の点眼液又は目の洗浄液又は点鼻液の剤形で、もしくは、患者が吸入する吸引可能な粒子の鼻腔内スプレー剤での液体/懸濁液の投与に関連している。鼻腔内スプレー剤もしくは、点鼻剤又は点眼剤を製造するための該活性化合物の液体医薬組成物は、当業者には公知の技術によって、該活性化合物を、滅菌パイロジェン非含有水、又は滅菌生理食塩水のような、適当な溶剤と組合せることによって調製することができる。
【0057】
前記活性化合物の全身投与の別の手段は、経口投与に関するものであり、ここにおいて、式I、II、III又はIVの化合物を含有する医薬組成物は、錠剤、トローチ剤、水性又は油性の懸濁剤、分散性散剤又は顆粒剤、乳剤、硬又は軟カプセル剤、もしくはシロップ剤又はエリキシルの剤形である。経口の使用が意図された組成物は、医薬組成物の製造業者には公知のいずれかの方法に従って調製することができ、かつこのような組成物は、医薬として優れていてかつ口に合う製剤を提供するために、甘味剤、香味剤、着色剤及び保存剤からなる群から選択された、1種又はそれ以上の添加剤を含有することができる。錠剤は、錠剤の製造に適した、無毒の医薬として許容できる補形剤と混合された、有効成分を含んでいる。これらの補形剤は、例えば炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、乳糖、リン酸カルシウム又はリン酸ナトリウムのような不活性希釈剤;例えばコーンスターチ、又はアルギン酸のような顆粒化剤及び崩壊剤;例えばデンプン、ゼラチン又はアラビアゴムのような結合剤;並びに例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸又はタルクのような潤滑剤であることができる。錠剤は素錠であることができ、もしくは、これらは、胃腸管における崩壊及び吸収を遅延し、これによって長期間の持続性作用を提供するために、公知の技術により被覆することができる。例えば、グリセリルモノステアレート又はグリセリルジステアレートのような時間遅延材料を、使用することができる。経口使用のための処方は、更に該有効成分を、不活性固形希釈剤、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウム又はカオリンと混合されている、硬ゼラチンカプセル剤、もしくは、該有効成分が、水又は、例えばピーナッツ油、液体パラフィン又はオリーブ油のような油性基剤と混合されている、軟ゼラチンカプセル剤として提供され得る。
【0058】
患者の眼への該活性化合物の全身投与の別の手段は、活性化合物の坐剤に関し、その結果該化合物の治療に有効な量が、全身の吸収及び循環を介して、眼に到達する。
【0059】
前記活性化合物の全身投与の更に別の手段は、治療に有効量の該活性化合物のゲル、クリーム又は懸濁液の剤形を直接術中に注入することに関する。
【0060】
以下の実施例において実証されるように、本発明によって包含された化合物を製造するために、当業者は、出発材料を変更することができ、かつ使用される工程を追加することができることを認めるであろう。いくつかの場合、特定の反応性官能基を保護することが、前述の転換のいくつかを達成するためには必要である。一般に、このような保護基が必要であること、更にはこのような基の結合及び除去のために必要な条件は、有機合成に関る当業者には明らかであろう。
【0061】
本発明は、本発明の範囲及び精神を実施例に記された具体的な方法に限定するものとしては構成されていない下記実施例により、更に詳細に説明される。本発明のin vivoの実施例は、ドライアイのウサギにおいて実施した。ドライアイ疾患は、主要な涙腺から涙液膜へと液体を運搬する管を外科的に閉鎖することによって、及び瞬目(nictitans)腺及びハーダー腺を外科的に除去することにより生じた。当業者には、前述のウサギモデルにおいて実施した眼科試験は、ドライアイ疾患に罹患したヒトと密に相関し、従ってこの結果は、ヒトにおける治療効果の正確な予測を提供することが認められる。
【0062】
実施例1
ラットの結膜調製物におけるムチン放出の刺激
雄の12週齢のスプラーグ−ダルウェイ系ラット(Charles River Laboratories,Wilmington,MA)を、ペントバアルビタールナトリウム(1300mg/kg)を腹腔内に注入し、屠殺し、かつ涙緩衝液(106.5mM NaCl、26.1mM NaHCO3、18.7mM KCl、1.0mM MgCl2、0.5mM NaH2PO4、1.1mM CaCl2、及び10mM HEPES、pH7.45)で希釈した1%リドカイン20μL 滴を、眼球表面に10分間放置した。各眼から、眼瞼から角膜に伸びている下結膜、及び内側から外側への眼角を摘出し、ろ紙の上に置いた。各結膜を、縦方向に半分に切断し、4個の得られた小片を、強度が半分のカーノブスキー液(カコジル酸緩衝液中に2.5%グルタールアルデヒド及び2%パラホルムアルデヒド、pH7.4)を溶媒として、アゴニストを伴う又は伴わないケラチノサイト増殖培地(Clonetics Corp.,San Diego,CA)の中で、4℃で1時間インキュベーションし、メタクリレート中に包埋し、かつ3μm切片に切断した。各組織小片から得た6切片を、アルシアン・ブルー(Alcian Blue)(pH5.0)及び過ヨウ素酸シッフ試薬(AB−PAS)で染色した。各切片中のムチン含有杯細胞の数を、光学顕微鏡を用いて、マスクした形で、倍率×160で計測した(正方形の指標とされた眼小片の細網構造(a square indexed eye piece reticule)を伴う標準の顕微鏡)。刺激しない結膜組織培養物において、杯細胞は、明確な境界を有し、かつ各杯細胞の先端部分のムチン含有の分泌顆粒のために、濃く染色された。刺激時には、このムチン顆粒は、培地へと放出された。単位面積(0.16mm2)当たりの不活発なムチン含有杯細胞数を計測し、平均を算出した。単位面積当たりのムチン含有杯細胞数の減少は、未分泌細胞が染色されるので、ムチン分泌が増加したことを示している。データは、対照(未処理)組織に対する測定値の平均百分率で表わした。本実施例の方法は、本願明細書に参照として組み入れられている、D.Darttらの論文、「Exp.Eye Res.」63:27(1996)から採用した。
【0063】
実施例2
細胞内カルシウムの測定
ビトロゲン(vitrogen)で被覆したカバーガラス上で培養したラットの結膜細胞に、最終濃度3μMフラ−2/AMを、37℃で、30分間負荷した。その後これらの細胞をNaClリンガー液で洗浄し、かつ蛍光測定用チャンバーに設置した。フラ−2の細胞から細胞外空間への漏出速度を低下し、かつプローブの時間に依存した区画形成を避けるために、[Ca2+iの全ての測定を、25℃で行った。この温度では、プローブの区画形成性の指標である小胞性の明るい点は認められなかった。
【0064】
1匹のラットの結膜上皮細胞内の[Ca2+iの測定値は、Zeiss Axiovert IM 35顕微鏡に装着された、モジュラー式顕微蛍光測定装置(SPEX Industries.Inc.,Edison,NJ)により得た。このシステムには、キセノンランプ、ビーム分割器、2個のモノクロメーター、及び340及び380nmの交互の波長により細胞の蛍光の励起を可能にする(発光>450nm)、回転式光束断続ミラーが具備された。隣接する細胞からのシグナルを排除するピンホール(スポットの直径は 〜5μm)を装着した光度計により、1個の細胞からの蛍光シグナルを測定した。
【0065】
アゴニストを添加した後、1.5×10-4Mジギトニン及び10-3M MnCl2を含有するNaClリンガー液により蛍光シグナルを消光した。フラ−2/AM負荷した細胞のデータから、負荷しない細胞のバックグラウンド蛍光と等しい各励起波長において残存するシグナルを減じた後、比(340/380nm)を算出した。この340nm/380nm比を、外部標準検量線及びG.Grynkicwiczらの式(「J.Biol.Chem.」260:3440−3450(1985))を用いて、2波長測定値を用い、実際の[Ca2+i測定値に換算した:[Ca2+i=K[(RX−R0)/(−RS−Rx]の測定(ここでR0とRSは、各々、ゼロ時のCa2+、及び飽和時のCa2+を表わしている。RXは、実験比を表わしている。Kは、Kd/(F0/FS)であり、フラ−2の有効解離定数として、25℃で、Kd=1.57×10-7Mであり、かつF0及びFSは、各々、ゼロ時及び飽和時のCa2+の380nmでの蛍光強度を表わしている。)。本実施例の方法は、本願明細書に参照として組み入れられている、R.Boucherらの米国特許第5,292,498号に開示されているものを採用した。
【0066】
実施例3
KCSのウサギモデルにおけるドライアイ疾患発症の逆行
8匹のニュージーランド白ウサギの右眼に、涙腺の排出管を外科的に閉塞し、瞬膜、瞬目腺及びハーダー腺を除去することによって、乾性角結膜炎(KCS)を生じた。全てのウサギは、8週間未処置のまま放置し、かつKCSは、先に示されたように(J.Gilbardらの論文、「Ophthalmol」96:677(1978))、涙検体を0.1〜0.4μl採取し、上昇した涙液膜の浸透圧モル濃度を測定することによって確認した。UTP又は類似体の3.0mmol溶液を、保存用等張緩衝液を溶媒として調製した。ウサギ4匹を、UTP又は類似体の溶液1滴(10μl)で、1日4回、週末を除いて処置した。残りの4匹の未処置のウサギは、対照として用いた。処置開始後、全てのウサギから、涙検体0.1〜0.4μlを浸透圧モル濃度の測定のために、月曜朝の初回投与前に採取した。20週目に、動物を屠殺し、杯細胞密度を、アルシアン・ブルー及び過ヨウ素酸シッフ試薬で染色することにより測定した(D.Darttらの論文、「Exp.Eye.Res.」67:27(1996))。
【0067】
本試験は、UTP及び類似体が、上昇した涙液膜の浸透圧モル濃度を低下し、かつ結膜杯細胞の密度を増加することを実証し、従ってKCSのウサギモデルにおける眼の表面の疾患の発症を逆行することを示した。本実施例の方法は、本願明細書に参照として組み入れられている、J.P.Gilbartの論文、「Arch.Ophthalmol.」112:1614(1994)を採用した。
【0068】
実施例4
ウサギにおける急性眼耐性
24の急性の眼安全性の広範な適応を示すために、U24(P1,P4−ジ(ウリジン四リン酸)四ナトリウム塩)を、等張水溶液として調製し、かつ一連の実験において、アルビノウサギの眼に局所投与した。これらの実験は、GLPガイドラインに準拠して実施した。変更されたDraize試験を用いて、U24の眼への投与に忍容性があるかどうかを判定した。
【0069】
健康な雄の成長したアルビノ・ニュージーランドウサギ(2〜2.5kgの範囲)を、これらの試験に用いた。ウサギは、Elevage Scientifique des Dombes(Chantillon sur Charlaronne,France)から入手した。動物は、毎日疾患(ill health)の徴候に関して観察し、眼の異常を伴わない健康なウサギのみを実験に用いた。動物は、管理された環境条件下で、標準的なケージ中に個飼いにした。動物には、試験期間を通じて、自由に摂食及び摂水させた。全ての試験の被験物質は、毎日水及びNaCl中に調製し、等張溶液を作製した。
【0070】
本実験は、3匹のウサギの右眼結膜嚢に、5.0%濃度のU24が、50μlの反復注入(20分間に5回)により送達された、オープン試験であった。動物は、最後の注入後0、1、2及び3時間で、変更したDraizeスケールに従い、結膜、角膜及び虹彩について、臨床の眼の安全性グレードに割り付けた。左眼は、生理食塩水を注入し、対照として用いた。
【0071】
5.0%濃度のU24に関する眼安全性は、わずかな結膜の赤化(重症度が増加する0〜4のスケールでグレード1)が1匹のみのウサギ(両眼)について見られた。赤化、結膜水腫及び膨水(watering)に関する結膜、角膜及び虹彩の他の全てのグレードは、ゼロであった(添付された報告書の表2を参照のこと)。プラセボ投与に関する結果も、全ての場合においてゼロであった。従って、U24は、眼への投与に関して安全であると考えられた。
【0072】
実施例5
ウサギにおける角膜麻酔作用
24の急性の眼安全性の広範な適応を示すために、U24(P1,P4−ジ(ウリジン四リン酸)四ナトリウム塩)を、等張水溶液として調製し、かつアルビノウサギの眼に局所投与した。これらの実験は、GLPガイドラインに準拠して実施した。
【0073】
健康な雄の成長したアルビノ・ニュージーランドウサギ(2〜2.5kgの範囲)を、これらの試験に用いた。ウサギは、Elevage Scientifique des Dombes(Chantillon sur Charlaronne,France)から入手した。動物は、毎日疾患の徴候に関して観察し、眼の異常を伴わない健康なウサギのみを実験に用いた。動物は、管理された環境条件下で、標準的なケージ中に個飼いにした。動物には、試験期間を通じて、自由に摂食及び摂水させた。全ての試験の被験物質は、毎日水及びNaCl中に調製し、等張溶液を作製した。
【0074】
3匹のウサギの右眼結膜嚢に、5.0%濃度のU24を、50μlの反復注入(20分間に5回)により送達し、かつ角膜の麻酔作用をコシエ(Cochet)の触覚計により、最後の注入後5、10、20、30、40、50及び60分に評価した。角膜の麻酔は、瞬目反射を誘発するために必要な角膜の機械的刺激の数によって評価した。左眼は、生理食塩水を注入し、対照として用いた。
【0075】
更にU24の5.0%溶液をアルビノウサギの右眼に投与した際に、これが角膜麻酔作用を示さなかったので、これは安全であることが証明された(図1参照)。
【0076】
図1.5.0%U24を5回注入した後に記録された瞬目反射を誘発するために必要な機械的刺激の数を、図1に示した。生理食塩水(左眼)と比較した場合、U24は角膜麻酔作用を示さなかった。
【0077】
実施例6
ウサギにおける涙分泌
24(P14−ジ(ウリジン四リン酸)四ナトリウム塩)は、等張水溶液として調製し、かつアルビノウサギの眼に局所投与し、正常なウサギにおける効果を測定し、涙分泌実験を行った。
【0078】
健康な雄の成長したアルビノ・ニュージーランドウサギ(2〜2.5kgの範囲)を、これらの試験に用いた。ウサギは、Elevage Scientifique des Dombes(Chantillon sur Charlaronne,France)から入手した。動物は、毎日疾患の徴候に関して観察し、眼の異常を伴わない健康なウサギのみを実験に用いた。動物は、管理された環境条件下で、標準的なケージ中に個飼いにした。動物には、試験期間を通じて、自由に摂食及び摂水させた。全ての試験の被験物質は、毎日水及びNaCl中に調製し、等張溶液を作製した。
【0079】
個別の群のウサギ8匹の右眼結膜嚢に、0.5%、5.0%及び8.5%の濃度のU24(50μL)を1日5回、14日間注入した。涙分泌を、Schirmer試験片を用いて、1、7及び14日目に、1日の最初及び最後の注入後0、5、15、30及び60分に測定した。結果を、別の生理食塩水及び未処置の対照群と比較した。
【0080】
24の3種の濃度は全て、ウサギの眼において、生理食塩水対照と比べて、60分間にわたって、涙の分泌を増加した(図2参照)。
【0081】
図2.ウサギの眼における3種の濃度のU24の単回投与後の60分間にわたる涙分泌作用を、図2に示した。3種のU24濃度全てが、生理食塩水対照と比べて、涙の分泌を増加した。このデータは、8匹の動物の平均を示した。
【0082】
本発明並びにこれを製造しかつ使用する手段及び方法は、ここに、関連する当業者が同じモノを製造しかつ使用することができるように、十分に、明快、簡潔かつ正確な用語で記載した。前述のものは、本発明の好ましい実施態様を記載していること、及び請求の範囲において述べられた本発明の精神又は範囲から逸脱することなく変更することができることが理解されるべきである。本発明に関する内容を特に指摘しかつ明瞭に請求するために、下記の請求の範囲を、本願明細書の結論とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼への局所投与に適合させた滅菌調製物であって、下記:
涙液組織中のプリン受容体を活性化する有効量の化合物であって、式I:
【化1】

(式中、
1、X2及びX3は、各々独立して、O-又はS-のいずれかであり;
1は、O、イミド、メチレン又はジハロメチレンであり;
2は、H又はBrである)
で示されたウリジン−5’−三リン酸、式II:
【化2】

(式中、
Xは、酸素、イミド、メチレン又はジフルオロメチレンであり;
n=0又は1;
m=0又は1;
n+m=0、1又は2;及び
B及びB’は、ウラシルである)
で示されたジヌクレオチド、並びにそれらの医薬として許容できる塩
からなる群から選択された化合物;
電解質水溶液、ポリエーテル、ポリビニル類、アクリル酸のポリマー、ラノリン、及びグルコサミノグリカンからなる群から選択された、生理的に適合性のある賦形剤
を含み、これにより、前記調製物は、涙分泌促進の治療の必要な患者の涙液組織からの涙の分泌を促進する前記調製物。
【請求項2】
前記B及びB’が、リボシル部分にN−1位で連結したウラシルであり、ここで、Xが酸素の場合、ホスフェートの数の合計が3又は4と等しくてもよい、請求項1に記載の滅菌調製物。
【請求項3】
前記リボシル部分が、D−立体配置である、請求項1に記載の滅菌調製物。
【請求項4】
前記リボシル部分が、L−立体配置である、請求項1に記載の滅菌調製物。
【請求項5】
前記リボシル部分が、D−及びL−立体配置である、請求項1に記載の滅菌調製物。
【請求項6】
前記ジヌクレオチドが、P1,P4−ジ(ウリジン 5’−P2,P3−メチレン四リン酸)である、請求項1に記載の滅菌調製物。
【請求項7】
前記ジヌクレオチドが、P1,P4−ジ(ウリジン 5’−P2,P3−ジフルオロメチレン四リン酸)である、請求項1に記載の滅菌調製物。
【請求項8】
前記ジヌクレオチドが、P1,P4−ジ(ウリジン 5’−P2,P3−イミド四リン酸)である、請求項1に記載の滅菌調製物。
【請求項9】
前記ジヌクレオチドが、P1,P4−ジ(4−チオウリジン 5’−四リン酸)である、請求項1に記載の滅菌調製物。
【請求項10】
涙分泌を刺激する治療が必要な患者の涙液組織中のプリン受容体を活性化する化合物を含み、かつこの化合物が、式Iで示されたウリジン 5’−三リン酸、式IIで示されたジヌクレオチド、並びにそれらの医薬として許容できる塩からなる群から選択される医薬組成物。
【請求項11】
前記医薬組成物が、液滴、液体洗浄液、ゲル、軟膏、スプレー及びリポソームからなる群から選択された担体賦形剤をさらに含む、請求項10に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−111676(P2010−111676A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281951(P2009−281951)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【分割の表示】特願2004−265998(P2004−265998)の分割
【原出願日】平成10年2月6日(1998.2.6)
【出願人】(500297524)インスパイアー ファーマシューティカルズ,インコーポレイティド (17)
【Fターム(参考)】