説明

プリーツ状エアフィルター

【課題】本発明は、プリーツ加工性が良好で、通気性に優れたプリーツ状エアフィルターに関する。
【解決手段】少なくとも2層からなるプリーツ状フィルターにおいて、1層がメッシュ状の補強ネットを含む層であり、プリーツ山高さH(mm)とプリーツ巾W(mm)、筋付け式プリーツの筋の長さL(mm)および補強ネットの緯糸のTD方向に対する傾き角度θから得られるtanθとの関係が、L/W<tanθ<H/Wであるエアフィルター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリーツ加工性が良好で、通気性に優れたプリーツ状エアフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
エアフィルターの形状は用途によって様々だが、例えば自動車エアコン用フィルターにおいてはプリーツ状に成型していることが好ましい。比較的狭い容積に広い面積の濾材を収納することが出来るため、通気性能の向上、長寿命化が可能となるからである。
【0003】
プリーツ加工を施す場合、プリーツ時の変形、通風時のひだ密着による通気抵抗の上昇を防ぐため、例えば通気性の良いメッシュ状の補強ネットが用いられる。特許文献1はさらに、プリーツの山高さとピッチの関係を規制することで通気性に優れたエアフィルターを提供するものであるが、使用する補強ネットの緯糸のピッチとプリーツの山高さに関しては言及されていない。プリーツ状フィルターにおいて、補強ネットの緯糸の上に筋付けプリーツ加工機の筋が連続して入った場合、緯糸が潰れ、プリーツ頂点の形状が著しく変形し、外観不良や通気抵抗の増加、さらには粉塵負荷時の通気抵抗の上昇が早くなり、フィルターとしての寿命が短くなるという問題に関しても言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4047530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、プリーツ加工性が良好で、通気性に優れたプリーツ状エアフィルターを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。本発明は以下のとおりである。
(1)少なくとも2層からなるプリーツ状フィルターにおいて、1層がメッシュ状の補強ネットを含む層であり、プリーツ山高さH(mm)とプリーツ巾W(mm)、筋付け式プリーツの筋の長さL(mm)および補強ネットの緯糸のTD方向に対する傾き角度θから得られるtanθとの関係が、L/W<tanθ<H/Wであるエアフィルター。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、プリーツ加工性が良好で、通気性に優れたプリーツ状エアフィルターを提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の斜視図である。
【図2】本発明の真上図である。
【図3】本発明の真上図であり、緯糸のTD方向に対する傾き角度θを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のフィルターは除塵、脱臭、抗ウィルス、抗菌性などの機能性を有する層と通気性の優れた補強ネットを含む層からなり、各層間が一体化されている少なくとも2層以上からなるフィルターである。
【0010】
本発明の除塵、脱臭、抗ウィルス、抗菌性などの機能性を有する層(以下、「機能性層」という)は、不織布層であることが好ましい。不織布層は、ポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリウレタン系繊維等の繊維からなることが好ましい。製造方法は特に限定されず、メルトブローン法、スパンボンド法、エアレイド法、ニードルパンチ法、水流交絡法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法を単独あるいは組み合わせて利用できる。
【0011】
本発明の補強ネットを含む層(以下、「補強層」という)に用いられるメッシュ状の補強ネットは、フィルターに剛性を付与する役割があり、合成繊維、無機繊維、金属繊維の何れでも良い。また補強ネットの種類は織物、不織布、フィルムあるいは押出成型物が挙げられる。織物の場合、補強ネットの織り構造は、平織り、綾織り、ラッセル織り等が挙げられる。繊維径は0.04以上0.4mm以下が好ましく、目開きは1mm以上100mm未満が好ましく、9mm以上50mm未満がさらに好ましい。繊維径、目開きがこの範囲であれば補強効果は十分であり、また通気抵抗に対しても有利である。
【0012】
本発明の補強層に用いられるメッシュ状の補強ネットは、単一成分の樹脂でもよく、複数成分からなるものでもあってもよいが、低融点樹脂と高融点樹脂を含むサイドバイサイド構造やシースコア構造からなる複合繊維が好ましい。シースコア構造の組み合わせとしては、例えばシースをポリエチレンや低融点ポリプロピレン、コアをポリプロピレンやポリエチレンテレフタレートとする組み合わせ等が考えられる。かかる繊維の組み合わせであれば、経糸と緯糸の熱接着が可能であるため、交点の接着強度に優れた補強ネットを得ることが出来る。
【0013】
機能性層と補強層の積層方法は特に限定されず、ニードルパンチ法、水流交絡法などの物理的方法、サーマルボンド法、エンボスロールを用いた加熱圧着などの熱による接着方法等が挙げられる。機能性層と補強層の二層構造となる場合は、エンボスロールを用いた熱接着が好ましい。比較的繊維量が少なくても各層間が強く接着されるためである。三層以上となる場合は、補強層の両側に機能性層を配置するのが好ましい。両側から機能性層の繊維をニードルパンチ法で絡合出来るため、補強層をより強固に一体化できる。また、熱接着による繊維の溶融に伴う繊維有効表面積の減少も起こらないため、通気性に優れ、また粉塵供給量に対しても有利である。
【0014】
本発明のフィルターは、補強層に補強用ネットを含んでいるのでプリーツ加工が容易である。プリーツ加工により、同じ通風開口部でもろ過面積を大幅に増大することができ、フィルターの捕集効率の向上と、低圧損化が可能となる。そのため自動車エアコン用フィルターとして使用することが出来る。プリーツ加工されたフィルターは枠体にて保持される。枠体としては紙や段ボール、不織布あるいは金属が挙げられる。
【0015】
本発明に係わるプリーツ加工の方法としては、上下に1枚ずつ配置された刃が交互に運動することで濾材を挟みこんでいくレシプロ式や、濾材を高速で搬送させながら一定間隔の筋をつけていく筋付け式が挙げられる。筋付け式には一定間隔ごとに溝の入ったロールと同間隔で突起の付いたロールが上下で回転し、その間に濾材を挟み込みながら筋を付ける、いわゆる回転式プリーツ方式と濾材の進行方向に対して垂直に上下運動する鉄版によって筋を付ける、いわゆるストライピング方式が挙げられる。筋付け式と異なりレシプロ式の場合、プリーツの頂点は左右対称に湾曲しているだけであり、緯糸が潰れてプリーツ形状が変形することはないが、プリーツ癖の悪い濾材でもプリーツ化が可能であり、また高速化も容易である筋付け式の方が好ましい。
【0016】
本発明における筋付け式プリーツの筋の巾は100〜300mm、長さは0.5〜5mmが好ましい。かかる範囲であれば、濾材をプリーツ加工するのに十分な筋をつけることが可能だからである。
【0017】
本発明の補強層に用いられるメッシュ状の補強ネットの経糸とは、濾材の進行方向(以下、「MD方向」という)に対して平行であり、また筋付けプリーツ機の刃に対して直交するメッシュ状補強ネットの糸である。そのため補強ネットの経糸の濾材の進行方向に直行する方向(以下、「TD方向」という)に対する傾き角度θ1は常に90°である。90°であればMD方向へ十分な濾材強度が得られる。緯糸はL/W<tanθ<H/Wの関係式を満たす範囲内でTD方向に対して傾いている糸である。緯糸を傾かせる方法は特に限定されず、緯糸を斜めに織り込んだ後に緯糸と経糸を熱接着する方法や複数のノズルを用いて樹脂を押し出しながら製造する方法が挙げられる。tanθがL/W以下であれば緯糸が潰れてプリーツ形状が変形し、外観不良や通気抵抗が増大する。またtanθがH/W以上であれば緯糸に対するプリーツの筋付きによるダメージが大きくなるため濾材強度が低下し、同様に外観不良や通気抵抗が増大する。
【0018】
本発明における補強ネットのプリーツ山高さHとは、プリーツ状の濾材の山から谷までの高さであり、またプリーツ巾Wは濾材の端部からもう一方の端部までの距離である。
【0019】
本発明のプリーツ状フィルターとは、メッシュ状の補強ネットを含む少なくとも2層の濾材からなるプリーツ状フィルターにおいて、プリーツ山高さH(mm)とプリーツ巾W(mm)、筋付け式プリーツの筋の長さL(mm)および補強ネットの緯糸のTD方向に対する傾き角度θから得られるtanθとの関係がL/W<tanθ<H/Wであることを特徴とするエアフィルターである。かかる範囲であれば緯糸が潰れてプリーツ形状が変形、またはTD方向の濾材強度が低下し、外観不良や通気抵抗の増大およびフィルターとしての寿命が低下することは無い。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。実施例中に示した特性は以下の方法で測定した。
(通気抵抗)
フィルターをダクト内に設置し、空気濾過速度が3.9m/秒になるよう大気を通気させ、エアフィルターの通気抵抗(Pa)を測定した。
(粉塵供給量)
濾材をダクト内に設置し、空気濾過速度が3.9/秒になるように大気を通気させ、濾材上流側からJIS15種粉塵を0.5g/mの濃度にて負荷し、通気抵抗が初期から150Pa上昇するまで粉塵を負荷した。この時の試験時間中に投入した粉塵供給量を計測し、粉塵供給量(g/個)とした。
(ひだ密着)
濾材をダクト内に設置し、空気濾過速度が3.9/秒になるように大気を通気させ、濾材上流側からJIS15種粉塵を0.5g/mの濃度にて負荷し、通気抵抗が初期から150Pa上昇するまで粉塵を負荷した。粉塵負荷後のフィルターを目視観察し、プリーツの山と山が密着しているものを、ひだ密着有りと判断した。
(補強ネットの緯糸のTD方向に対する傾き角度)
濾材のプリーツ巾Wと緯糸のTD方向に対する傾き距離Aを測定し、補強ネットの緯糸のTD方向に対する傾き角度θを算出した。測定は任意の位置10点にて実施し、その平均値を用いた。
【0021】
[実施例1]
円形断面ポリプロピレン繊維(宇部日東化成株式会社製、2.2dtex、51mm)と、リンを含有する難燃性の円形断面ポリエステル繊維(東洋紡績株式会社製、1.7dtex、44mm)を1:1の重量比で混綿、カーディングして目付35g/mの混繊ウェブを作製し、これに15g/mのポリプロピレンスパンボンド不織布A(PK−103、三井化学株式会社製)を積層後3MPaの高圧水を連続的に噴霧して交絡、乾燥し積層体Cを作成した。前記積層体Cのスパンボンド不織布Aの反対側に、補強ネットの緯糸のTD方向に対する傾き角度θが3°のポリプロピレン/ポリプロピレン製芯鞘ネット(1300デニール、60g/m)とポリプロピレンスパンボンド不織布Aをポリプロピレンスパンボンド不織布Bが最外層に来るように積層し、針密度31本/cmにてニードルパンチ処理を行い、全目付125g/mの濾材を得た。
【0022】
この濾材をプリーツ筋の長さ3mmに設定した筋付け式プリーツ機を用いて、加工速度100山/分で山高さ26mm、ピッチ4mmのプリーツ状に加工し、外形200mm×200mmのフィルターを作製した。得られたフィルターの外観を目視確認したところ、プリーツ形状の変形は見られなかった。また本フィルターの補強ネットの緯糸のTD方向に対する傾き角度θは3°であった。このフィルターの評価結果を表1に示す。
【0023】
以下の実施例は、実施例1と芯鞘ネットの緯糸のTD方向に対する傾き角度θおよび経糸のTD方向に対する傾き角度θ1とプリーツの山高さが異なるのみで作製条件は同様である。
【0024】
[実施例2]
芯鞘ネットの緯糸のTD方向に対する傾き角度θを3°、プリーツの山高さを27mmとして実施例1と同様の製法で外形200mm×200mmのフィルターを作製した。このフィルターの評価結果を表1に示す。
得られたフィルターの外観を目視確認したところ、プリーツ形状の変形は見られなかった。また本フィルターの補強ネットの緯糸のTD方向に対する傾き角度θは3°であった。
【0025】
[実施例3]
芯鞘ネットの緯糸のTD方向に対する傾き角度θを6°、プリーツの山高さを27mmとして実施例1と同様の製法で外形200mm×200mmのフィルターを作製した。このフィルターの評価結果を表1に示す。
得られたフィルターの外観を目視確認したところ、プリーツ形状の変形は見られなかった。また本フィルターの補強ネットの緯糸のTD方向に対する傾き角度θは6°であった。
【0026】
[比較例1]
芯鞘ネットの緯糸のTD方向に対する傾き角度θを0°、プリーツの山高さを27mmとして実施例1と同様の製法で外形200mm×200mmのフィルターを作製した。このフィルターの評価結果を表1に示す。
得られたフィルターの外観を目視確認したところ、プリーツ形状の変形は見られた。また本フィルターの補強ネットの緯糸のTD方向に対する傾き角度θは0°であった。
【0027】
[比較例2]
芯鞘ネットの緯糸のTD方向に対する傾き角度θを1°、プリーツの山高さを27mmとして実施例1と同様の製法で外形200mm×200mmのフィルターを作製した。このフィルターの評価結果を表1に示す。
得られたフィルターの外観を目視確認したところ、プリーツ形状の変形は見られた。また本フィルターの補強ネットの緯糸のTD方向に対する傾き角度θは1°であった。
【0028】
[比較例3]
芯鞘ネットの緯糸のTD方向に対する傾き角度θを30°、プリーツの山高さを27mmとして実施例1と同様の製法で外形200mm×200mmのフィルターを作製した。このフィルターの評価結果を表1に示す。
得られたフィルターの外観を目視確認したところ、プリーツ形状の変形は見られた。また本フィルターの補強ネットの緯糸のTD方向に対する傾き角度θは30°であった。
【0029】
[比較例4]
芯鞘ネットの緯糸のTD方向に対する傾き角度θを30°、縦糸のTD方向に対する傾き角度θ1を100°、プリーツの山高さを26mmとして実施例1と同様の製法で外形200mm×200mmのフィルターを作製した。このフィルターの評価結果を表1に示す。
得られたフィルターの外観を目視確認したところ、プリーツ形状の変形は見られた。また本フィルターの補強ネットの緯糸のTD方向に対する傾き角度θは30°であった。
【0030】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のエアフィルターは、プリーツ加工性が良好であり、また低通気抵抗であるため長時間使用可能であり、産業界に寄与すること大である。
【符号の説明】
【0032】
1:プリーツ山高さH(mm)
2:プリーツ巾W(mm)
3:緯糸
4:経糸
5:筋付け式プリーツの筋
6:筋付け式プリーツの筋の長さL(mm)
7:緯糸のTD方向に対する傾き角度θ(°)
8:緯糸のTD方向に対する傾き距離A(mm)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2層からなるプリーツ状フィルターにおいて、1層がメッシュ状の補強ネットを含む層であり、プリーツ山高さH(mm)とプリーツ巾W(mm)、筋付け式プリーツの筋の長さL(mm)および補強ネットの緯糸のTD方向に対する傾き角度θから得られるtanθとの関係が、L/W<tanθ<H/Wであるエアフィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−240011(P2012−240011A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114502(P2011−114502)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000003160)東洋紡株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】