説明

プルトルージョン成形方法

【課題】 シクロオレフィン樹脂成分の強化繊維への含浸性に優れ、しかも機械的強度と耐熱性に優れる成形品を与えるプルトルージョン成形方法を提供する。
【解決手段】 シクロオレフィンモノマー、ヘテロ環構造含有の配位子を有するルテニウム化合物である重合触媒、架橋剤、重合反応遅延剤及び架橋助剤を含んでなる硬化性組成物をアクリル系炭素繊維からなる連続炭素繊維に含浸させた後、硬化させるプルトルージョン成形方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロオレフィン樹脂のプルトルージョン成形方法に関し、さらに詳しくは、樹脂成分の強化繊維への含浸性に優れ、しかも機械的強度と耐熱性に優れた成形品を与えるプルトルージョン成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン等のポリオレフィンの強度を向上させるための手段として、ガラス繊維等の強化繊維を配合することが知られており、一般には、ポリオレフィンとチョップドストランド等の短繊維を混合して押し出すことにより繊維強化されたポリオレフィン樹脂の製造が行なわれている。かかる方法によれば、高い機械的強度を有する繊維強化ポリオレフィン樹脂が極めて容易に得られるという利点を有する。しかしながら、近年、樹脂に対してさらに高度の機械的強度が求められる傾向にあり、従来の繊維強化ポリオレフィン樹脂では押出機での混練中に繊維の折損が避けられない問題があり対応できなかった。
【0003】
これに対し、かかる問題点を改善し、繊維の折損を起こすことなく連続繊維で強化された樹脂組成物を製造する方法として、プルトルージョン成形法が注目されてきている。この方法は、基本的には連続した強化繊維を引きながら熱可塑性樹脂を含浸するもので、例えば、特許文献1には連続した繊維を引きながら熱可塑性樹脂のエマルジョンあるいは溶液の槽内を通した後、加熱することにより溶媒を除去すると共に樹脂を溶融して繊維に含浸させる方法、特許文献2には、連続した繊維をクロスヘッドダイを通して引きながら溶融樹脂で含浸する方法、特許文献3には分子量の小さいポリスチレンを用いて溶融物で含浸する方法、特許文献4には、連続した繊維を引きながら極めて低粘度の熱可塑性樹脂を含浸させる方法、特許文献5には、不飽和カルボン酸等で変性したポリオレフィンを用いて含浸する方法、特許文献6には、重金属不活性剤を含むポリオレフィン樹脂組成物を含浸する方法、特許文献7には、ポリエチレンナフタレート繊維を組み合わせるポリオレフィン樹脂組成物を含浸する方法、特許文献8には、全芳香族ポリエステルを組み合わせるポリオレフィン樹脂組成物を含浸する方法などが開示されている。しかしながら、これらの方法では、ポリオレフィン樹脂の連続繊維への均一分散が困難で、また、得られる成形品は機械的特性や耐熱性に劣る問題があった。
【0004】
一方、連続した繊維に熱硬化樹脂を含浸させる方法が検討されている。例えば、プルトルージョン成形法でパイプをつくる方法して、特許文献9には、ガラス、カーボン、セラミック、ボロンなどの強化材にジシクロペンタジエンなどのシクロオレフィンモノマー、ベンジリデンビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロライドなどのメタセシス開環重合触媒、トリフェニルホスフィン、及び難燃剤を含んでなる反応性混合物を含浸させた後、加熱したダイに導入し、賦形と硬化とを同時に行なう方法、または強化材をダイに導入し、そこで反応性混合物を導入して硬化させる方法などが開示されている。しかしながら、これらの方法では、成形品の耐熱性がある程度改善できるものの、熱硬化性樹脂の連続繊維への含浸性が充分でなく、また、硬化して得られる成形品の機械的強度や耐熱性が充分でなかった。
【0005】
【特許文献1】米国特許2877501号
【特許文献2】米国特許4439387号
【特許文献3】米国特許3022210号公報
【特許文献4】特開昭57−181852号公報
【特許文献5】特開平3−121146号公報
【特許文献6】特開2004−211051号公報
【特許文献7】特開2006−8995号公報
【特許文献8】特開2006−291171号公報
【特許文献9】米国特許6410110号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、シクロオレフィン樹脂成分の強化繊維への含浸性に優れ、しかも機械的強度と耐熱性に優れる成形品を与えるプルトルージョン成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討の結果、シクロオレフィンモノマー、メタセシス活性を有するような重合触媒、ジクミルパーオキシドのような架橋剤及び2官能架橋助剤や3官能架橋助剤などの架橋助剤などを配合した硬化性組成物を連続炭素繊維に含浸させると、連続炭素繊維への含浸性に優れ、しかも連続的に硬化させて得られる成形品の機械的強度と耐熱性に優れていることを見出した。また、連続炭素繊維としてアクリル系の連続炭素繊維を用いることにより、シクロオレフィンモノマーを含む硬化性組成物の連続炭素繊維への含浸性に極めて優れ、得られる成形品の機械的強度と耐熱性が高度にバランスされることを見出した。さらに、上記硬化性組成物に重合反応遅延剤を新たに加えることにより、また、重合触媒として特定構造の重合触媒を用いることにより、シクロオレフィンモノマーを含む硬化性組成物の連続炭素繊維への含浸性及び成形品の機械的強度、耐熱性がより改善されることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
かくして本発明によれば、シクロオレフィンモノマー、重合触媒、架橋剤及び架橋助剤を含んでなる硬化性組成物を連続炭素繊維に含浸させた後、硬化させるプルトルージョン成形方法が提供される。
前記連続炭素繊維は、アクリル系炭素繊維であることが好ましい。
前記硬化性組成物は、重合反応遅延剤を含むことが好ましい。
前期重合触媒は、ヘテロ環構造含有の配位子を有するルテニウム化合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、機械的強度と耐熱性に優れるプルトルージョン成形品が容易に製造することができる。また、本発明で製造されるシクロオレフィン樹脂が均一に分散されたプルトルージョン成形品は、特に、機械的強度と耐熱性に優れるため、自動車や航空機などの乗物用部材、スポーツ用途、及び土木、建築などの一般産業分野において好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(シクロオレフィンモノマー)
本発明に使用されるシクロオレフィンモノマーは、炭素原子で形成される環構造を有し、該環中に炭素−炭素二重結合を有する化合物である。その例として、ノルボルネン系モノマーおよび単環シクロオレフィンなどが挙げられ、ノルボルネン系モノマーが好ましい。ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環を含むモノマーである。ノルボルネン系モノマーとしては、格別な限定はないが、例えば、2−ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセン、エチリデンテトラシクロドデセン、フニルテトラシクロドデセンなどの四環体、トリシクロペンタジエンなどの五環体、テトラシクロペンタジエンなどの七環体、及びこれらのアルキル置換体(メチル、エチル、プロピル、ブチル置換体など)、アルキリデン置換体(例えば、エチリデン置換体)、アリール置換体(例えば、フェニル、トリル置換体)、並びにエポキシ基、メタクリル基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、シアノ基、ハロゲン基、エーテル基、エステル結合含有基などの極性基を有する誘導体などが挙げられる。単環シクロオレフィンとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5−シクロオクタジエンなどの単環シクロオレフィン及び置換基を有するそれらの誘導体が挙げられる。
【0011】
これらのシクロオレフィンモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0012】
(重合触媒)
本発明に使用される重合触媒としては、シクロオレフィンモノマーを重合できるものであれば格別な限定はないが、通常はメタセシス重合触媒が用いられる。メタセシス重合触媒は、シクロオレフィンモノマーをメタセシス開環重合できるものであり、通常遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオン及び/又は化合物が結合してなる錯体が挙げられる。遷移金属原子としては、5族、6族及び8族(長周期型周期表、以下同じ)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、5族の原子としては例えばタンタルが挙げられ、6族の原子としては、例えばモリブデンやタングステンが挙げられ、8族の原子としては、例えばルテニウムやオスミウムが挙げられる。これらの中でも、8族のルテニウムやオスミウムの錯体をメタセシス重合触媒として用いることが好ましく、ルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。ルテニウムカルベン錯体は、塊状重合時の触媒活性が優れるため、得られる成形品の未反応のモノマーに由来する臭気が少なく生産性に優れる。また、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でも生産が可能である。
【0013】
本発明においては、ヘテロ環構造含有の配位子を有するルテニウム触媒を用いるのが、得られる成形品の外観、強度、靭性等の特性が高度にバランスされ好適である。ヘテロ環構造を構成するヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子等が挙げられ、好ましくは窒素原子である。また、ヘテロ環構造としては、イミダゾリンやイミダゾリジン構造が好ましく、かかるヘテロ環構造を有する化合物の具体例としては、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
【0014】
好ましいルテニウム触媒の例としては、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリドなどの、配位子としてヘテロ環構造を有する化合物と中性の電子供与性化合物が結合したルテニウム錯体化合物が挙げられる。
【0015】
これらの重合触媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。重合触媒の使用量は、(触媒中の金属原子:シクロオレフィンモノマー)のモル比で、通常1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
【0016】
重合触媒は必要に応じて、少量の不活性溶剤に溶解又は懸濁して使用することができる。かかる溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、流動パラフィン、ミネラルスピリットなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;インデン、テトラヒドロナフタレンなどの脂環と芳香環とを有する炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素;などが挙げられる。これらの中では芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、および脂環と芳香環とを有する炭化水素の使用が好ましい。
【0017】
(架橋剤)
本発明で使用される架橋剤としては、シクロオレフィンポリマーを架橋できるものであれば格別な制限はないが、通常、ラジカル発生剤が用いられる。ラジカル発生剤としては、有機過酸化物、ジアゾ化合物および非極性ラジカル発生剤などが挙げられ、好ましくは有機過酸化物や非極性ラジカル発生剤である。
【0018】
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナート類;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキシド類;などが挙げられる。中でも、重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシドおよびペルオキシケタール類が好ましい。
【0019】
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノンなどが挙げられる。
【0020】
非極性ラジカル発生剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。
【0021】
架橋剤がラジカル発生剤の場合の1分半減期温度は、硬化の条件により適宜選択されるが、通常100〜300℃、好ましくは150〜250℃、より好ましくは160〜230℃の範囲である。ここで1分間半減期温度は、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。例えば、ジ−t−ブチルペルオキシドでは186℃、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシンでは194℃である。
【0022】
これらの架橋剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。架橋剤の使用量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。
【0023】
(架橋助剤)
本発明に用いられる硬化性組成物は、架橋助剤を必須成分として含む。硬化性組成物に架橋助剤を配合することで、硬化性組成物の連続炭素繊維への含浸性、及び硬化して得られる成形品の機械的強度と耐熱性の特性を高度に向上させることができ好適である。
【0024】
本発明で使用される架橋助剤としては、一般的に用いられるものを格別な限定なく使用でき、例えば、炭素−炭素不飽和結合を2つ有する2官能性架橋助剤、炭素−炭素不飽和結合を3つ以上有する多官能架橋助剤などを挙げることができる。
【0025】
本発明に使用される架橋助剤の構造は、格別な限定はないが、対称性の高い構造を有する化合物であるときにシクロオレフィンモノマーを含む硬化性組成物の連続炭素繊維への含浸性を高度に改善でき好適である。特に、架橋助剤が、炭化水素で、対称性の高い構造を有するものであるときに硬化性組成物の連続炭素繊維への含浸性、及び硬化して得られる成形品の機械的強度、強靭性及び耐熱性を高度に改善させ好適である。
【0026】
かかる架橋助剤の具体例としては、p−ジイソプロペニルベンゼン、m−ジイソプロペニルベンゼン、o−ジイソプロペニルベンゼンなどの2官能架橋助剤、トリイソプロペニルベンゼン、トリメタアリルイソシアネートなどの3官能架橋助剤等が挙げられる。中でも、トリイソプロペニルベンゼン、p−ジイソプロペニルベンゼン、m−ジイソプロペニルベンゼン、o−ジイソプロペニルベンゼンが好ましく、m−ジイソプロペニルベンゼンがより好ましい。
【0027】
これらの架橋助剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。架橋助剤の使用量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロオレフィンモノマー100重量部に対し、通常0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜30重量部、さらに好ましくは1〜20重量部、最も好ましくは5〜15重量部である。架橋助剤が過度に少ない場合は、硬化性組成物の連続炭素繊維への含浸性に劣り、逆に、過度に多い場合は、成形品の機械的強度、強靭性及び耐熱性等の特性が低下する場合がある。
【0028】
(硬化性組成物)
本発明に使用される硬化性組成物は、上記シクロオレフィンモノマー、重合触媒、架橋剤及び架橋助剤を必須成分として、必要に応じて、重合反応遅延剤、連鎖移動剤、老化防止剤、エラストマー材料、充填剤及びその他の添加剤を添加することができる。
【0029】
本発明に用いる硬化性組成物は、重合反応遅延剤を含有していると、連続炭素繊維への含浸がより容易にできるので好ましい。重合反応遅延剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィン、ビニルジフェニルホスフィン、アリルジフェニルホスフィン、トリアリルホスフィン、スチリルジフェニルホスフィンなどのホスフィン化合物;アニリン、ピリジンなどのルイス塩基;等を用いることができる。これら重合反応遅延剤の中でも、室温以下での重合反応の進行を抑制する効果が大きいので、ホスフィン化合物が好ましく、トリフェニルホスフィン、トリエチルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィンおよびビニルジフェニルホスフィンがより好ましい。
【0030】
これらの重合反応遅延剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合反応遅延剤の使用量は、[重合触媒の金属原子(例えばルテニウム金属):重合反応遅延剤]のモル比で、通常1:0.01〜1:100、好ましくは1:0.1〜1:10、より好ましくは1:0.1〜1:5の範囲である。
【0031】
連鎖移動剤としては、例えば、置換基を有していてもよい鎖状のオレフィン類を用いることができる。その具体例としては、例えば、1−ヘキセン、ジビニルベンゼン、エチルビニルエーテル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸3−ブテン−2−イル、メタクリル酸スチリル、アクリル酸アリル、アクリル酸3−ブテン−1−イル、アクリル酸3−ブテン−2−イル、アクリル酸スチリル、エチレングリコールジアクリレート、アリルジメチルビニルシラン、アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、2−(ジエチルアミノ)エチルアクリレートなどが挙げられる。
【0032】
これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができ、その配合量は、シクロオレフィンモノマー全体に対して、通常0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%である。連鎖移動剤の配合量がこの範囲であるときに、得られる成形品の機械的強度と強靭性との特性を高度にバランスさせることができ好適である。
【0033】
本発明に使用される硬化性組成物は、エラストマー材料を加えることにより格段と強靭性を向上させることができ好適である。エラストマー材料としては、例えば、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、クロロプレン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びこれらの水素添加物が挙げられる。これらのエラストマー材料は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。その使用量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常0.1〜100重量部、好ましくは1〜50重量部、より好ましくは3〜30重量部の範囲である。
【0034】
本発明に使用される硬化性組成物は、老化防止剤として、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、リン系老化防止剤及びイオウ系老化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の老化防止剤を添加することにより、重合反応を阻害しないで、得られる成形品の機械的強度と耐熱性を高度に向上させることができ好適である。これらの中でも、フェノール系老化防止剤とアミン系老化防止剤が好ましく、フェノール系老化防止剤が特に好ましい。これらの老化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。老化防止剤の使用量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して大して、通常0.0001〜10重量部、好ましくは0.001〜5重量部、より好ましくは0.01〜3重量部の範囲である。
【0035】
本発明においては、硬化性組成物に充填剤を加えることにより、耐熱性を格段に向上させることができ好適である。充填剤としては、工業的に一般に使用されるものであれば格別な限定はなく、無機系充填剤や有機系充填剤のいずれも用いることができが、好適には無機系充填剤である。これらの充填剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常1〜1,000重量部、好ましくは10〜500重量部、より好ましくは50〜350重量部の範囲である。
【0036】
その他の添加剤としては、例えば、難燃剤、着色剤、光安定剤、顔料、発泡剤、高分子改質剤などが挙げられる。難燃剤としては、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられる。着色剤としては、染料、顔料などが用いられる。染料の種類は多様であり、公知のものを適宜選択して使用すればよい。これらのその他の添加剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択される。
【0037】
本発明に使用される硬化性組成物は、上記成分を混合して得ることができる。混合方法としては、常法に従えばよく、例えば、重合触媒を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた液(触媒液)をシクロオレフィンモノマーに必要に応じてその他の添加剤を配合した液(モノマー液)に添加し、攪拌することによって調製することができる。
【0038】
(連続炭素繊維)
本発明に使用される連続炭素繊維の種類としては、格別な限定はなく、例えば、アクリル系、ピッチ系、レーヨン系等の各種の従来公知の方法で製造される炭素繊維が使用でき、中でも、アクリル系炭素繊維(PAN系炭素繊維)が、シクロオレフィンモノマーを含む硬化性組成物の含浸性に優れ、重合阻害を起こさず、しかも得られる成形品の機械的強度と耐熱性を高度に高められ好適である。ここで、アクリル系炭素繊維は、アクリル繊維(ポリアクリロニトリル繊維)を原料として製造される炭素繊維である。
【0039】
本発明に使用される連続炭素繊維の強度特性は、格別な限定はなく使用目的に応じて適宜選択される。引張強度としては、JIS R7601に従って測定されるストランド引張強度で、通常0.5〜、50GPa、好ましくは1〜10GPa、より好ましくは2〜8GPaの範囲である。引張弾性率としては、JIS R7601に従って測定されるストランド引張弾性率で、通常100〜1,000GPa、好ましくは200〜800GPa、より好ましくは300〜700GPaの範囲である。伸びとしては、JIS R7601に従って測定されるストランド引張伸びで、通常0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%、より好ましくは1〜3%の範囲である。連続炭素繊維の強度特性がこれらの範囲にあるときに、機械強度と強靭性が高度にバランスされ好適である。
【0040】
これらの連続炭素繊維は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、得られる成形品中の炭素繊維含有量が、通常10〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%の範囲になるように選択される。連続炭素繊維含有量がこの範囲にあるときに機械強度、靭性の特性が高度にバランスされ好適である。
【0041】
(プルトルージョン成形)
プルトルージョン成形法は、基本的には連続した炭素繊維を引きながら硬化性組成物を含浸し、次いで必要に応じて賦形し、硬化させて連続的に成形を行なうものである。
【0042】
硬化性組成物の連続炭素繊維への含浸方法としては、常法に従えばよく、例えば、硬化性組成物を入れた含浸浴の中を連続炭素繊維を通し含浸する方法、硬化性組成物を連続的に炭素繊維に吹きかける方法、クロスヘッドダイの中を炭素繊維を通しながらクロスヘッドダイに硬化性組成物を流入させ含浸させる方法などを行なうことができる。本発明に使用される硬化性組成物は、従来のマトリックス樹脂として使用されるエポキシ樹脂やポリオレフィン樹脂等と比較して、低粘度であり、また、特に炭素繊維等の強化繊維との相溶性に優れることから強化繊維(束)に均一に含浸させることができる。
【0043】
硬化性組成物の含浸後の硬化反応は、重合反応と架橋反応の二つの反応から成り立ち、重合反応と架橋反応を同時に行なってもよいし、あるいは、重合反応、架橋反応の順で行なってもよい。重合反応と架橋反応を同時に行なう場合には、硬化温度は、通常50〜300℃、好ましくは100〜250℃、より好ましくは120〜250℃の範囲であり、硬化時間は、0.1〜180分、好ましくは1〜120分、より好ましくは2〜20分の範囲である。
【0044】
重合反応と架橋反応を別々に行なう場合には別々に条件設定をおこなう。重合温度としては、通常50〜250℃、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜170℃の範囲であり、また、前記架橋剤がラジカル発生剤を用いる場合は、通常ラジカル発生剤の1分半減期温度以下、好ましくは10℃以下、より好ましくは20℃以下である。ここで1分間半減期温度は、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。重合時間は適宜選択すればよいが、通常、10秒間から20分間、好ましくは5分間以内である。
【0045】
架橋温度は、前記架橋剤の架橋の起こる温度であり、ラジカル発生剤を用いた場合は、1分半減期温度以上、好ましくは1分半減期温度より5℃以上高い温度、より好ましくは1分半減期温度より10℃以上高い温度であり、通常100〜300℃、好ましくは150〜250℃の範囲である。また、架橋時間は、0.1〜180分、好ましくは1〜120分、より好ましくは2〜20分の範囲である。
【0046】
本発明のプルトルージョン成形方法によって得られる成形品は、特に、機械的強度と耐熱性に優れるので、例えば、パイプ、チューブ、タンク、ロータ、フライホールローターなどの管状体、車軸などの複合管状体、圧力容器、OAやAV機器、自動車や鉄道などの車両用構造体材、航空機内装部品などをはじめとして、ゴルフシャフトや釣竿等のスポーツ用途、その他一般産業用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断りのない限り重量基準である。
【0048】
実施例および比較例における各特性は、下記の方法に従い測定、評価した。
(1) 硬化性組成物の含浸性:硬化性組成物の含浸性を含浸後の性状を観察し、下記基準で判断した。
◎:均一に含浸され、気泡の発生がない
○:均一に含浸されているが、僅かに気泡の発生が見られる
×:均一に含浸されていない
【0049】
(2)機械的強度:JIS K−7073に規定する試験方法に従い、標点間距離を150mmとし、クロスヘッド速度2.0mm/分で成形品の引張強度を測定し、比較例1で作製した成形品の引張強度を100として、下記基準で判断した。
◎:150以上
○:110以上、150未満
△:90以上、110未満
×:90未満
【0050】
(3)耐熱性:成形品を220℃のオーブンに静置し、50時間後に取り出して外観を観察し、下記基準で判断した。
◎:形状の変化、変色いずれも認められない
△:形状の変化は認められないが、変色している
×:形状が変化している
【0051】
実施例1
ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド51部と、トリフェニルホスフィン79部とを、トルエン952部に溶解させて触媒液を調製した。これとは別に、ポリエチレン製の瓶にシクロオレフィンモノマーとして、ジシクロペンタジエン(DCP)を100部入れ、ここに架橋助剤としてm−ジイソプロペニルベンゼン20部、フェノール系老化防止剤として3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール1.0部、連鎖移動剤としてアリルメタクリレート0.74部、架橋剤としてジ−t−ブチルペルオキシド(1分間半減期温度186℃)1.2部を加えた後、上記触媒液をシクロオレフィンモノマー100gあたり0.12mlの割合で加えて撹拌し、硬化性組成物(マトリックス樹脂)を調製し樹脂浴に移した。
【0052】
次いで、ピッチ系の炭素繊維束をクリールから400g/stの張力で引き出した後、前記樹脂浴で10秒間硬化性組成物を含浸させ、150℃の温度に温度管理された金型の中に炭素繊維束を70秒間滞留するように通過させ、FRPを成形した。その後、200℃の温度で300秒間硬化しワインダーで巻き取ることにより、幅50mm、成形厚さ1.5mmのFRP(連続繊維強化複合材料)成形品を加工した。得られた成形品の各特性を評価し、表1に示した。
【0053】
実施例2
炭素繊維としてアクリル系の炭素連続繊維を用いる以外は実施例1と同様に行い成形品を得(炭素繊維含有量50%)、各特性を評価して、その結果を表1に示した。
【0054】
比較例1
ジシクロペンタジエン100部、ベンジリデンビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロライド0.083部、トリフェニスホスフィン0.0938部からなる硬化性組成物を用いる以外は実施例1と同様に行い成形品(炭素繊維含有量52%)を得、各特性を評価して、その結果を表1に示した。
【0055】
【表1】

【0056】
表1の結果から、本発明の成形方法は、樹脂成分が連続炭素繊維に均一に含浸され、しかも得られる成形品の機械的強度と耐熱性の特性に優れることがわかる(実施例1,2)。また、連続炭素繊維として、アクリル系の連続炭素繊維を用いると、シクロオレフィンモノマーを含む硬化性組成物の含浸性に極めて優れ、しかも得られる成形品の機械的強度と耐熱性が高度にバランスされていることがわかる(実施例2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロオレフィンモノマー、重合触媒、架橋剤及び架橋助剤を含んでなる硬化性組成物を連続炭素繊維に含浸させた後、硬化させるプルトルージョン成形方法。
【請求項2】
連続炭素繊維が、アクリル系炭素繊維である請求項1記載の成形方法。
【請求項3】
硬化性組成物が、重合反応遅延剤を含む請求項1または2記載の成形方法。
【請求項4】
重合触媒が、ヘテロ環構造含有の配位子を有するルテニウム化合物である請求項1乃至3のいずれかに記載の成形方法。

【公開番号】特開2009−143158(P2009−143158A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324061(P2007−324061)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】