説明

プルマン型食パンの製造方法

【課題】特別な添加剤や特殊な装置など用いなくても、クラストが白色ないし淡色であり、その厚さが薄くて非常にソフトであり、クラムはくちゃつきが無く口溶けがよい食パンを容易に製造することができる方法を提供すること。
【解決手段】常法に従って得たパン生地を食パン型に詰めて最終発酵した後、蓋をして、95〜110℃の温度で蒸熱処理して、生地の内部温度を90℃以上で少なくとも3分間保持をしてプルマン型食パンを製造する。前記蒸熱処理は、パン生地を詰めて最終発酵した後、蓋をした食パン型を、蒸し器で蒸し処理するか、あるいは、温水または熱水が入った蓋付収納容器に収納し、前記食パン型が温水または熱水と直接接触しないように調整した後、前記収納容器の開口部を蓋で封した状態で、製パン用オーブンを用いて蒸し焼き処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラストが白色ないし淡色のプルマン型食パンの製造方法に関する。より詳細には、特定の条件下で蒸熱処理することにより、クラストに焼き色がつかず、クラストがクラムと同じ白色ないし極めて淡い色を呈するプルマン型食パンを製造しうる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パン類は、主に小麦粉を主体とする穀粉生地を発酵させた後、オーブン等を用いて200℃以上の温度で焼成して製造される。そして、この焼成工程により、パンのクラストには褐色の焼き色がつくだけでなく、好ましい香りや風味が付与され、パン類の嗜好性の要因ともなっている。
【0003】
その一方で、パン類のクラストの食感がソフトで、該クラストの着色が抑えられた外観が白いパン類も好まれる傾向がある。そこで、クラストの着色を抑えて、焼き色を淡くする方法が幾つか提案されている。例えば、パン生地に含有させる糖類の量を、最終発酵が終わるまでに資化されつくす程度とし、かつ、発酵によって資化されることのない糖アルコールを加えてなるパン生地を焼成したクラストの白い、クラムの保湿性の高いサンドイッチ用パン(例えば、特許文献1参照)や、糖類としてブドウ糖とトレハロースを用いて得られたパン生地を200℃で焼成することで、焼き色がつかない白いパン類を製造する方法(例えば、特許文献2参照)が提案されている。しかし、これらの方法でも十分とはいえず、また、糖類として、糖アルコール、トレハロース等を用いることから、コスト的にも高いものとなる。
【0004】
また、パン生地を収納した食パン型を特定の容器に収納し、食パン型への熱伝導を抑えることで、焼き色を抑える方法(例えば、特許文献3参照)が提案されている。しかし、この方法でも十分とはいえず、また、様々ある食パン型に合わせて、特定の収納容器が必要となる。
【0005】
一方、オーブン等の通常の焼成装置で蒸しパン類を製造する方法として、上方が開放した容器にパン生地を入れ、その容器の底部を水またはお湯に漬かるようにした状態で、容器の底部温度が急激に上昇しないように調整しながら蒸し焼きにする方法(例えば、特許文献4参照)が提案されている。しかし、この方法は、蒸しパンや中華まん、蒸し饅頭を製造する為の方法である。また、パン類や菓子類の生地を入れた容器を天板に載せ、容器と天板との間に水またはお湯を含ませたシートを介在させ、これをオーブンで焼成する湯煎焼き方法(例えば、特許文献5参照)が提案されている。しかし、この方法もまた、蒸しパンやスフレケーキなどを通常のオーブンで製造する為の方法である。そして、これらの方法ではクラストの部分の焼き色がつかないか、焼き色が極めて淡く、クラストとクラムの色相がほぼ同じである点を除いて、外見が通常のオーブンで焼成したのと同じパン類を得ることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−117340号公報
【特許文献2】特開2007−97554号公報
【特許文献3】特開2006−166772号公報
【特許文献4】特開2007−28906号公報
【特許文献5】特開2008−263801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、特別な添加剤や特殊な装置などを用いなくても、クラストが白色ないし淡色のプルマン型食パンを容易に製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決する為に鋭意検討を行った結果、パン生地を食パン型に詰めて最終発酵した後、蓋をして、特定の条件下で蒸熱処理することにより、クラストに焼き色がつかず、クラストがクラムと同じ白色ないし極めて淡い色を呈するプルマン型食パンが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、(1)常法に従って得たパン生地を食パン型に詰めて最終発酵した後、蓋をして、95〜110℃の温度で蒸熱処理して、生地の内部温度を90℃以上で少なくとも3分間保持をすることを特徴とするプルマン型食パンの製造方法や、(2)前記蒸熱処理が、パン生地を詰めて最終発酵した後、蓋をした食パン型を、蒸し器を用いて蒸し処理する上記(1)の製造方法や、(3)前記蒸熱処理が、パン生地を詰めて最終発酵した後、蓋をした食パン型を、温水または熱水が入った蓋付収納容器に収納し、前記食パン型が温水または熱水と直接接触しないように調整した後、前記収納容器の開口部を蓋で封した状態で、製パン用オーブンを用いて蒸し焼きする上記(1)の製造方法に関する。
【0010】
また本発明は、(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法により製造される、クラストの部分が白色ないし淡色を呈するプルマン型食パン、特に外観において、クラストは焼き色がほとんどつかず白く、クラムは膜がやや薄く、均一なすだち、ボリュームがあり、食感においても、クラストは薄くソフトで、クラムはもっちりとした食感で口溶けがよいプルマン型食パンに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のパン類の製造方法によると、通常ベーカリー製品の製造に用いられている製パン用オーブンや蒸し器を用いながら、クラストに焼き色がつかず、クラストがクラムと同じ白色ないし極めて淡い色を呈するプルマン型食パン(以下、単に「食パン」ということがある。)を簡便且つ容易に製造することができる。しかも、得られる食パンは、クラストは白いまたは淡色であるだけでなく、その厚さが薄くて非常にソフトであり、またクラムはくちゃつきが無く口溶けがよい、従来の食パンにはない良好かつ独特の食感を有している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】側面図:図1は、本発明の一実施形態を示す模式図であり、パン生地を食パン型に詰めて最終発酵した後、蓋をした食パン型を収納した収納容器を含む蒸熱処理装置の側面図を示す。1は、収納容器を、2は、前記収納容器の蓋を示し、3は、パン生地を食パン型に詰めて最終発酵した後、蓋をした食パン型を示し、4は、食パン型の蓋を示す。5は、食パン型を載置する台座を示し、6は、台座の下部に備えた脚を示し、7は、湯水または熱水を示す。脚6は、湯または熱水7に食パン型が直接接触しないようにするためのものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のプルマン型食パンの製造方法としては、常法に従って得たパン生地を食パン型に詰めて最終発酵した後、蓋をして、95〜110℃の温度で蒸熱処理して、生地の内部温度を90℃以上で少なくとも3分間保持をする方法であれば特に制限されない。
【0014】
本発明の食パンの製造に用いる穀粉としては、通常、食パンの製造に用いる小麦粉、例えば強力粉、準強力粉、デュラム小麦粉の他に、中力粉、薄力粉またはこれらの混合物を挙げることができ、所望の食感等により適宜調節することができる。例えば、ソフトでもっちりとした食感を所望する場合には強力粉、準強力粉を用いればよく、デュラム小麦に由来する独特の風味およびほのかに黄色みのある色合いを所望する場合にはデュラム小麦粉を用いればよい。さらに、本発明の効果を妨げない範囲において、風味や食感の改質の目的で、ライ麦粉、ライ小麦粉、オーツ粉、コーンフラワー、米粉、各種澱粉類、それらの混合粉などを配合してもよい。
【0015】
さらに、副原料として、通常、食パンの製造に用いられるもの、例えばサワー種、ルバン種等の各種発酵種やイースト(生イースト、ドライイースト等);イーストフード;砂糖、ブドウ糖、果糖、転化糖、水あめ、麦芽糖、乳糖等の糖類;卵または卵粉;脱脂粉乳、全脂粉乳、チーズ粉末、ヨーグルト粉末、ホエー粉末などの乳製品;ショートニングやバター、マーガリンやその他の動植物油等の油脂類;乳化剤;膨張剤;増粘剤;アスコルビン酸;食塩等の無機塩類;グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、ヘミセルラーゼ等の酵素類;食物繊維を適宜使用することができる。
【0016】
本発明の食パンの製造方法は、最終発酵(ホイロ)後に、特定条件で蒸熱処理する点を除いて、常法、例えばストレート法、中種法、速成法、液種法等により行うことができる。上記製パン原料に加水してミキシングし、次いで発酵、ミキシング、発酵、パンチ、分割工程を経て、成型して食パン型に詰めた後、最終発酵(ホイロ)を行う。最終発酵後、蓋をして蒸熱処理に供する。
【0017】
蒸熱処理は、最終発酵後のパン生地が詰められて蓋をした食パン型の周囲温度が95〜110℃の範囲、好ましくは98〜105℃の範囲で蒸熱処理して、パン生地の内部温度を90℃以上で少なくとも3分間以上、好ましくは5分間以上、例えば5〜20分間保持することにより行う。その際、生地の最高温度が、92〜95℃になるように調整することが好ましい。また、蒸熱処理の時間は、パン生地の容量や食パン型の大きさ、蒸熱処理手段やこれに用いる装置等により変わってくるが、通常は40分間以上、好ましくは45分間以上、例えば45〜80分間の範囲である。食パン型の周囲温度が95℃未満であると、パン生地の内部温度が十分に上昇せず、その結果、得られる食パンに十分なボリュームがでず、またくちゃつく食感となってしまう可能性があり、また110℃を超えると、食パンのクラストにうっすらと焼き色がつきはじめるので好ましくない。
【0018】
また、パン生地の内部温度が90℃未満であるか、あるいは90℃以上であっても保持時間が3分間未満であると、得られる食パンのボリュームが十分ではなく、またくちゃつく食感となる可能性がある。
蒸熱処理装置としては、上記の蒸熱処理を行えるものであれば特に限定されないが、蒸しパンや中華まん等を製造する際に用いる蒸し器を用いて行うことができる。このような蒸し器としては、バッチ式、連続式のいずれでもよい。
【0019】
また、蒸熱処理は次のような方法および器具を用いて蒸し焼きすることにより行うことができる。具体的には、食パン型を収納することができ、容器の開口部を蓋で封することができる容器の底部に温水または熱水を入れる。この収納容器に、パン生地を詰めて収納して最終発酵(ホイロ)を終えた後、蓋をした食パン型を、該食パン型が温水または熱水と接触しないように収納する。該食パン型が温水または熱水に接触しないようにするには、たとえば、足の付いた穴あきの台座に食パン型を載置する等の方法がある。次いで、この収納容器の開口部を蓋で封した後、製パン用オーブンに入れて蒸し焼きする。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例示に限定されるものではない。
【0021】
[実施例1〜2および比較例1〜3] ストレート法
下記の配合および製パン工程(ストレート法)により、食パン型に詰めて最終発酵を行ったパン生地を得た。次いで、表1に示す条件で蒸熱加熱処理または焼成加熱処理を行って食パンを製造した。
<配合>
パン用小麦粉 100(質量部)
生イースト 2.5
食塩 2
砂糖 6
脱脂粉乳 2
油脂(マーガリン) 6
水 71
【0022】
<製パン工程>
ミキシング 低速4分 中速4分 高速2分 ↓マーガリン 低速1分 中速3分 高速2分
捏上温度 27℃
発酵時間 80分(温度27℃/湿度75%)
分割重量 250g×2個 (型比容積:4.5)
ベンチタイム 25分
成形 モルダー使用、食パン型に詰める
ホイロ 45分(温度38℃/湿度85%)
【0023】
上記の製パン工程に従って、パン生地を食パン型に詰めて最終発酵(ホイロ)を行った。次いで、該食パン型に蓋をした後、実施例1〜2および比較例1〜2では、図1に示す蓋付き金属製収納容器の底部に熱水を張り、台座を置いて、食パン型を熱水に接触しないように収納し、当該収納容器を蓋で封した後、製パン用オーブン(オーブン温度:200℃)を用いて蒸熱処理した。なお、比較例3では、当該容器に熱水を入れない以外は、実施例1と同様にして加熱処理(分間)を行った。
これら製造した食パンのクラストとクラムの外観および食感を下記の表2に示す評価基準に従って、10名のパネラーによって評価した。得られた結果の平均を表1に示す。なお、加熱処理として、定法に従って、温度220℃のオーブンで35分焼成したものを対照例1とした。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
上記表1に示す結果から明らかなように、本発明の実施例1および2により得られた食パンは比較例1〜3および対照例1により得られた食パンに比較して、外観および食感において、クラストおよびクラムはともに優れたものであった。特に、実施例1の本発明品の外観は、クラストでは焼き色がほとんどつかず白く、また、クラストの厚さが薄く、クラムでは膜がやや薄く、均一なすだち、ボリュームがあり、食感も、クラストではソフトで、クラムではもっちりとした食感で口溶けがよいものであった。比較例1のパン生地内の温度が90℃に達しないものや、比較例2のパン生地内部の温度は90℃に達しているが、保持時間が3分に達していないものは、得られた食パンのクラストは外観および食感とも本発明品と近いものの、食パンのクラムは外観および食感とも本発明に比して劣っていた。比較例3により得られた食パンは、蒸熱処理における食パン型の周囲温度やパン生地内部の温度が高く、保持時間も長いことから、クラストの外観は、うっすらと焼き色がついていた。
【0027】
[実施例3〜5および比較例4〜6] 中種法
下記の配合および製パン工程(中種法)により、食パン型に詰めて最終発酵を行ったパン生地を得た。次いで、表3に示す条件で蒸熱加熱処理または焼成加熱処理を行って食パンを製造した。
<配合>
中種 本捏
パン用小麦粉 70(質量部) 30(質量部)
生イースト 2.5 −
イーストフード 0.1 −
食塩 − 2
砂糖 − 6
脱脂粉乳 − 2
油脂(ショートニング)− 6
水 40 28
【0028】
<製パン工程>
〔中種〕
ミキシング 低速2分 中速4分
捏上温度 24℃
発酵時間 4時間(温度27℃/湿度75%)
〔本捏〕
ミキシング 低速3分 中速5分 ↓ショートニング 低速1分 中速5分 高速1分
捏上温度 27℃
発酵時間 20分(温度27℃/湿度75%)
分割重量 215g×6個 (型比容積:4.5)
ベンチタイム 20分
成形 モルダー使用、食パン型に詰める
ホイロ 45分(温度38℃/湿度85%)
【0029】
上記の製パン工程に従って、パン生地を食パン型に詰めて最終発酵(ホイロ)を行った。次いで、該食パン型に蓋をした後、角型蒸し器(せいろ)を用いて下記表3に示す条件にて蒸熱処理を行って食パンを製造した。
これら製造した食パンのクラストとクラムの外観および食感を表2に示す評価基準に従って、10名のパネラーによって評価した。得られた結果の平均を表3に示す。なお、加熱処理として、定法に従って、温度220℃のオーブンで35分焼成したものを対照例2とした。
【0030】
【表3】

【0031】
上記表3の結果から明らかなように、本発明の実施例3〜5により得られた食パンは比較例4〜6により得られた食パンに比較して、特にクラムにおいて外観および食感ともに優れたものであった。特に、実施例3および4の本発明品の外観は、クラストでは焼き色がほとんどつかず白く、また、クラストの厚さが薄く、食感も、クラストではソフトであり、クラムではもっちりとした食感で、口溶けがよいものであった。比較例4のパン生地内の温度が90℃に達しないものや、比較例5のパン生地内部の温度は90℃であるが、保持時間1分で得られた食パンは、クラストは本発明品と近いものの、クラムは外観や食感において本発明品に比して劣っていた。比較例6により得られた食パンは、蒸熱処理における食パン型の周囲温度やパン生地内部の温度が高く、保持時間も長いことから、クラストの外観は、うっすらと焼き色がついていた。
【符号の説明】
【0032】
1:収納容器
2:(収納容器)蓋
3:食パン型
4:(食パン型)蓋
5:台座
6:脚
7:湯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常法に従って得たパン生地を食パン型に詰めて最終発酵した後、蓋をして、95〜110℃の温度で蒸熱処理して、生地の内部温度を90℃以上で少なくとも3分間保持をすることを特徴とするプルマン型食パンの製造方法。
【請求項2】
蒸熱処理が、パン生地を詰めて最終発酵した後、蓋をした食パン型を蒸し器を用いて蒸し処理する、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
蒸熱処理が、パン生地を詰めて最終発酵した後、蓋をした食パン型を、温水または熱水が入った蓋付収納容器に収納し、前記食パン型が温水または熱水と直接接触しないように調整した後、前記収納容器の開口部を蓋で封した状態で、製パン用オーブンを用いて蒸し焼きする、請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により製造される、クラストの部分が白色ないし淡色を呈するプルマン型食パン。

【図1】
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