説明

プレキャストコンクリート成形用スペーサ、及びプレキャストコンクリート成形方法

【課題】コンクリート片の剥落防止用のメッシュ状繊維を内装したプレキャストコンクリートの成形において、コンクリートの被り厚さ確保のために型枠内に繊維シートを浮かせた状態にするスペーサを簡単にセットできて、コンクリートの打設による繊維シートの浮き上がりも抑制できるようにする。
【解決手段】プレキャストコンクリート成形用スペーサ3であって、メッシュ状の繊維シート1の上に載せる本体部31と、その本体部31の下部に設けられ、繊維シート1のメッシュを跨ぐ複数の足部32と、本体部31の上部にスライド可能に組み付けられ、鉄筋篭2の鉄筋21を把持する鉄筋把持部33と、を備える。そして、型枠内に敷かれたメッシュ状の繊維シート1のメッシュに足部32を跨がせて、繊維シート1の上に本体部31を載せるとともに、型枠内にセットされた鉄筋篭2の鉄筋21に鉄筋把持部33を把持させた状態で、型枠内にコンクリートを打設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート成形用のスペーサと、そのスペーサを用いて行うプレキャストコンクリート成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばシールドトンネルに用いられるコンクリートセグメント等のプレキャストコンクリート部材は、その製造から組立までに、温度ひび割れ、乾燥ひび割れやぶつかり・こじりによるひび割れ・欠けが発生することがある。また、供用後においては、中性化・塩害・アルカリ骨材反応等の劣化が進行する。この結果、ひび割れの増大やそれに起因する鉄筋の腐食膨張から、被りコンクリートの剥落が発生する恐れがある。
この被りコンクリートの剥落現象に対して、各種のひび割れ対策や、短繊維、シート状、メッシュ状の合成繊維によって浮きコンクリート片の剥落を防止する対策が採られている。
【0003】
合成繊維を用いた剥落防止対策としては、現在以下の三方法がある。
1)短繊維をコンクリートに混入させて、ひび割れの増大を防ぐ。
2)シート状の繊維を有機系樹脂によって貼り付け、被りコンクリート片の押し出し・落下を押さえる(例えば特許文献1参照)。
3)メッシュ状の繊維シートをセメント系材料で貼り付ける、または表面近くにコンクリートと一体に巻き込んで、被りコンクリート片の押し出し・落下を押さえる(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−273388号公報
【特許文献2】特開2009−138402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、いずれの方法も材料費の追加、製作工程の増加、剥落防止効果の信頼性等に関して課題が残されている。
【0006】
ところで、プレキャストコンクリート内に繊維シートを所定の被り厚さでセットする場合、被り厚さ確保のために型枠内に浮かせた状態で繊維シートをセットする必要がある。
そこで、例えば特許文献2のようなスペーサを使用することが考えられる。
しかし、そのスペーサは、繊維シートの下面に結束線を用いて結び付けて、必要箇所ではさらに上方の鉄筋篭に結束線を結び付けるものである。
従って、スペーサのセットと結束線の結び付け作業が面倒であるばかりか、一般に繊維シートはコンクリートより軽いため、コンクリートの打設により繊維シートが浮き上がってしまう心配がある。
【0007】
本発明の課題は、プレキャストコンクリート内に繊維シートを浮かせた状態にするスペーサを簡単にセットできて、コンクリートの打設による繊維シートの浮き上がりも抑制できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、メッシュ状の繊維シートの上に載せる本体部と、前記本体部の下部に設けられ、前記繊維シートのメッシュを跨ぐ複数の足部と、前記本体部の上部にスライド可能に組み付けられ、鉄筋篭の鉄筋を把持する鉄筋把持部と、を備えるプレキャストコンクリート成形用スペーサを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のプレキャストコンクリート成形用スペーサであって、前記鉄筋把持部は、前記本体部の上部に設けたレールに沿ってスライド可能に組み付けられることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、型枠内に敷かれたメッシュ状の繊維シートのメッシュに、請求項1または2に記載のプレキャストコンクリート成形用スペーサの前記足部を跨がせて、前記繊維シートの上に前記本体部を載せるとともに、前記型枠内にセットされた鉄筋篭の鉄筋に、前記鉄筋把持部を把持させた状態で、前記型枠内にコンクリートを打設するプレキャストコンクリート成形方法を特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のプレキャストコンクリート成形方法であって、前記鉄筋把持部をスライド移動させて前記鉄筋に対する前記スペーサの位置調整を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、繊維シートをコンクリート内で所定の量浮かせた状態にするスペーサを簡単にセットできて、コンクリートの打設による繊維シートの浮き上がりも抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のプレキャストコンクリート成形方法を適用する一実施形態の構成を示すもので、型枠内にセットする繊維シートと鉄筋篭及びスペーサを示した斜視図である。
【図2】図1のスペーサの拡大図である。
【図3】図1のスペーサ部分の底面図である。
【図4】図1の繊維シートの周辺部に形成する曲げ上げ形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
(実施形態)
図1は本発明のプレキャストコンクリート成形方法を適用する一実施形態の構成として型枠内にセットする繊維シート1と鉄筋篭2及びスペーサ3を示したものである。
【0015】
図示しない型枠内には、図示のように、メッシュ状の繊維シート1が敷かれて、その上方に間隔を開けて鉄筋篭2が設けられ、これら繊維シート1と鉄筋篭2の間にスペーサ3が設けられている。スペーサ3は、繊維シート1の上に載せられて、鉄筋篭2の下部の鉄筋21を把持している。
【0016】
ここで、繊維シート1に使用する繊維としては、コンクリート内で浮上するよう比重が1.30程度と小さく、耐アルカリ性とセメント系との接着性が良好な例えばビニロン樹脂等を選定する。
繊維シート1のメッシュのサイズは、繊維シート1前面へのコンクリートの回り込みを確保し、かつ、コンクリート剥落片のサイズを小さくする観点から、10×10〜20×20mm程度のものとする。
繊維の線材には少し剛性を持たせ、しわや弛みの発生を防ぐ。
なお、図示例では、2軸メッシュを用いている。
【0017】
以上において、繊維シート1を所定の被り(試験より3〜10mmが適正)に納めるため、型枠と鉄筋篭との間にスペーサ3を適切な密度で設置する。
【0018】
図2はスペーサ3を拡大して示したもので、31は本体部、32は足部、33は鉄筋把持部、34はレールである。
【0019】
スペーサ3は使用実績の多いモルタル成形物であり、図示のように、円柱状の本体部31の下面に四個の足部32が円周方向等間隔に一体に形成されて、本体部31の上面に金属製の鉄筋把持部33がスライド可能に組み付けられている。すなわち、本体部31の上面に固定した金属製の一対のレール34の下面に沿って、鉄筋を把持する二股状の鉄筋把持部33がスライド可能に組み付けられている。
【0020】
図3は図1のスペーサ3部分を底面から示したもので、図示のように、型枠内に敷かれた繊維シート1のメッシュに、スペーサ3の四個の足部32を跨がせて、繊維シート1の上に本体部31を載せる。
【0021】
また、図2に示すように、型枠内にセットされた鉄筋篭2の下部の鉄筋21に、本体部31上の二股状の鉄筋把持部33を把持させた状態にする。これにより、繊維シート1が型枠内に打設するコンクリートの液圧で浮き上がるのを、スペーサ3を介して鉄筋篭2の重量で押さえ込む。
【0022】
なお、本体部31上のレール34に沿って鉄筋把持部33をスライド移動させることで、鉄筋21に対するスペーサ3の位置調整を行って、繊維シート1のメッシュと鉄筋篭2の鉄筋21との位置ズレを吸収する。
【0023】
図4は図1の繊維シート1の周辺部に形成する曲げ上げ部11の形状を示すものである。
【0024】
すなわち、コンクリートの剥落現象の大半は部材端部で発生していることより、図示のように、繊維シート1の周辺部は、型枠に沿って内側に曲げ上げた曲げ上げ部11として形成しておく。
【0025】
コンクリートセグメントの成形に際しては、型枠内に先ず繊維シート1を敷き込む。
次に、繊維シート1のメッシュを跨いで適切数のスペーサ3を置く。
次に、鉄筋篭2を納める。
そして、鉄筋篭2の下部の鉄筋21に、スペーサ3上の二股状の鉄筋把持部33を把持させる。その際、スペーサ3上部のレール34に沿った鉄筋把持部33のスライド移動により繊維シート1のメッシュと鉄筋篭2の鉄筋21との位置ズレを吸収させる。
その後、コンクリートを打設する。
【0026】
以上、実施形態のコンクリートセグメント成形によれば、コンクリートの被り厚さ確保のためのスペーサ3をメッシュに跨がせて繊維シート1に載せて、鉄筋篭2の鉄筋21に鉄筋把持部33を把持させることで、スペーサ3を簡単にセットすることができる。
そして、スペーサ3を介して鉄筋篭2の重量で押さえ込んで、コンクリートの打設による繊維シート1の浮き上がりも抑制することができる。
従って、メッシュ状の繊維シート1を表面近くにコンクリートと一体に巻き込んで、被りコンクリート片の剥落を防止することができる。
【0027】
(変形例)
以上の実施形態においては、コンクリートセグメントとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、コンクリート梁等、コンクリート片の剥落が懸念される他のプレキャストコンクリートであってもよい。
また、実施形態では、2軸メッシュとしたが、1軸、3軸メッシュでもよい。
さらに、繊維の種類、スペーサ(本体部、足部及び鉄筋把持部)の材質や形状、足部の個数、鉄筋把持部のスライド構造等も任意であり、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0028】
1 繊維シート
11 曲げ上げ部
2 鉄筋篭
21 鉄筋
3 スペーサ
31 本体部
32 足部
33 鉄筋把持部
34 レール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッシュ状の繊維シートの上に載せる本体部と、
前記本体部の下部に設けられ、前記繊維シートのメッシュを跨ぐ複数の足部と、
前記本体部の上部にスライド可能に組み付けられ、鉄筋篭の鉄筋を把持する鉄筋把持部と、を備えることを特徴とするプレキャストコンクリート成形用スペーサ。
【請求項2】
前記鉄筋把持部は、前記本体部の上部に設けたレールに沿ってスライド可能に組み付けられることを特徴とする請求項1に記載のプレキャストコンクリート成形用スペーサ。
【請求項3】
型枠内に敷かれたメッシュ状の繊維シートのメッシュに、請求項1または2に記載のプレキャストコンクリート成形用スペーサの前記足部を跨がせて、前記繊維シートの上に前記本体部を載せるとともに、
前記型枠内にセットされた鉄筋篭の鉄筋に、前記鉄筋把持部を把持させた状態で、
前記型枠内にコンクリートを打設することを特徴とするプレキャストコンクリート成形方法。
【請求項4】
前記鉄筋把持部をスライド移動させて前記鉄筋に対する前記スペーサの位置調整を行うことを特徴とする請求項3に記載のプレキャストコンクリート成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−237118(P2012−237118A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105770(P2011−105770)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000112749)フジミ工研株式会社 (24)
【Fターム(参考)】