説明

プレキャストコンクリート用型枠

【課題】効率的にプレキャストコンクリート部材を製作することが可能なプレキャストコンクリート用型枠を提供する。
【解決手段】鋼製の第1型枠1の内側に、断熱材2aを備えてなりコンクリートを打設するキャビティー3を形成する第2型枠2を有した二重構造で形成され、第2型枠2が第1型枠1と分離可能に設けられている。また、第1型枠1が分離可能な複数の部材で形成されている。そして、第1型枠1のみを脱型し、キャビティー3内に打設したコンクリート表面に残った第2型枠2を用いて養生を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート部材の製作に用いるプレキャストコンクリート用型枠に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばコンクリート梁やコンクリート柱などのプレキャストコンクリート部材の製作に用いる型枠には、平滑に仕上がり面を形成できることから鋼製型枠が使用されている(例えば、特許文献1参照)。また、例えば工場におけるプレキャストコンクリート部材(PC部材)の製作は、サイクル工程で計画され、一般に、夕方までに型枠内にコンクリートを打設し、翌朝に脱型を行なうようにしている。また、非特許文献1によれば、型枠の脱型は、打設したコンクリートが8〜12N/mm以上の圧縮強度を発現していることが必要とされている。このため、翌朝脱型を行なうために、寒冷期にはコンクリートの調合補正を行なったり、打設したコンクリートを保温養生、蒸気養生して強度発現を促進させている。また、脱型後の低強度状態のPC部材は、その後も湿潤養生が必要なため、例えばシートなどの養生材を巻き回して所定強度が発現するようにしている。
【特許文献1】特開昭63−249606号公報
【非特許文献1】建築工事標準仕様書・同解説 JASS10「プレキャストコンクリート工事 2003」(社団法人 日本建築学会)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、寒冷期での製作や低熱系の強度発現が遅いセメントを使用するような場合には、型枠が鋼製で熱伝導率が大きく断熱性に乏しいなどの理由から、翌朝脱型時のコンクリート強度が十分に発現されていないこともあり、計画通りに脱型を行なうことができない場合があった。
【0004】
また、脱型後のPC部材を湿潤養生するためにシートなどの養生材をPC部材に巻き付ける作業が必要であり、PC部材が大型であるほどに多大な労力を要するため、より効率的に脱型後のPC部材の養生を行なえる手法が強く望まれていた。さらに、低強度状態のPC部材にこのような養生材を巻き付ける際に、PC部材に欠けや破損が発生する場合もあった。
【0005】
本発明は、上記事情を鑑み、効率的にプレキャストコンクリート部材を製作することが可能なプレキャストコンクリート用型枠を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0007】
本発明のプレキャストコンクリート用型枠は、鋼製の第1型枠の内側に、断熱材を備えてなりコンクリートを打設するキャビティーを形成する第2型枠を有した二重構造で形成され、前記第2型枠が前記第1型枠と分離可能に設けられていることを特徴とする。
【0008】
この発明においては、断熱性を有する第2型枠のキャビティーにコンクリートを打設するため、コンクリートの低温化を防止して養生することができる。これにより、例えば寒冷期においても型枠内のコンクリートを確実に所望の時間で所望の強度に硬化させることができ、計画通りに脱型を行なうことが可能になる。
【0009】
また、第1型枠と第2型枠が分離可能とされているため、脱型時に第1型枠のみを取り除くことができ、第2型枠を低強度状態のプレストレストコンクリート部材(PC部材)の表面に残すことができる。これにより、第2型枠を脱型後のPC部材を湿潤養生するための養生材に転用することが可能になり、従来のように脱型後のPC部材にシート(養生材)を巻き付ける作業が不要になって、効率的にPC部材の製作を行なうことができるとともに低強度状態のPC部材に欠けや破損が生じることをなくすことができる。
【0010】
さらに、鋼製型枠に対し、第2型枠は、その加工が容易であり、厚さ寸法を容易に調整することが可能である。これにより、第2型枠によって大きさの異なるキャビティーを容易に形成することができるため、鋼製の第1型枠を使い回して寸法が異なる複数のPC部材を製作することが可能になる。
【0011】
また、本発明のプレキャストコンクリート用型枠においては、前記第1型枠が分離可能な複数の部材で形成されていることが望ましい。
【0012】
この発明においては、PC部材の表面に第2型枠を残した状態で、容易に第1型枠のみを脱型することが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のプレキャストコンクリート用型枠によれば、効率的にPC部材を製作でき、製作コストを低減することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図1から図4を参照し、本発明の一実施形態に係るプレキャストコンクリート用型枠について説明する。ここで、本実施形態においては、柱として使用されるプレキャストコンクリート部材の製作に用いるプレキャストコンクリート用型枠について説明を行なうが、本発明のプレキャストコンクリート用型枠は、柱の製作に限定する必要はなく、種々のプレキャストコンクリート部材の製作に適用可能である。
【0015】
本実施形態のプレキャストコンクリート用型枠Aは、図1及び図2に示すように、鋼製の第1型枠1と、第1型枠1の内側にこの第1型枠1と分離可能に設けられた第2型枠2からなる二重構造で形成されている。
【0016】
第1型枠1は、図示せぬ平板状の底板と、底板に繋がり垂直方向(底板に対して直交する方向)に立設した4つの略平板状の側壁板1aとを備えて形成されており、断面方形枠状に形成されている。また、底板及び4つの側壁板1aは、それぞれ、独立した部材であり、これら底板及び4つの側壁板1aが一体に連結されて形成されている。すなわち、本実施形態の第1型枠1は、分離可能な複数の部材で形成されている。また、4つの側壁板1aは、それぞれ、両側端側に外側に折れ曲って形成されたフランジ部1bを備えている。さらに、このフランジ部1bには、例えば垂直方向に所定の間隔をあけて複数のボルト孔1cが形成されている。そして、隣り合う側壁板1aのフランジ部1b同士を互いのボルト孔1cを連通させるように重ね合わせ、ボルト孔1cに挿通したボルト1dをナット1eで締結することにより隣り合う側壁板1a同士が連結され、第1型枠1が一体に形成される。
【0017】
一方、第2型枠2は、例えばポリスチレンフォーム、硬質ウレタンフォーム、フェノールフォームなどの発泡プラスチック系断熱材や、炭酸カルシウムなどを主原料とした無機系断熱材などの4つの平板状の断熱材2aで構成されている。また、各断熱材2aは、コンクリート表面の水分によりコンクリートに貼り付いた状態になるため、各断熱材2a同士を接合する必要はないが、隣り合う断熱材2aの端部同士を例えばボルトや釘などで連結して断面方形枠状に形成することも可能である。また、第2型枠2は、その外面(各断熱材2aの外面)を第1型枠1の内面(側壁板1aの内面)に当接させて配置されている。そして、このように配置された第2型枠2によって、断面方形状のキャビティー3が形成されている。
【0018】
ついで、上記構成からなるプレキャストコンクリート用型枠Aを用いてプレキャストコンクリート部材(PC部材)を製作する方法を説明するとともに、本実施形態のプレキャストコンクリート用型枠Aの作用及び効果について説明する。
【0019】
PC部材を製作する際には、はじめに、上記の様に断熱材2aの端部同士を連結して第2型枠2を形成する。このとき、断熱材2aは、発泡プラスチック系断熱材や無機系断熱材であるため、その加工が容易であり、厚さd1を任意の寸法で容易に形成することができる。このため、第2型枠2のキャビティー3が、その大きさ、すなわちキャビティー3の幅D1、D2寸法を、製作するPC部材の寸法と精度良く一致させて、容易に形成できる。
【0020】
ついで、第1型枠1の底板上の所定位置に第2型枠2を配置するとともに、前述のように第2型枠2の外面に各側壁板1aの内面を当接させるように4つの側壁板1aを配置して連結する。これにより、本実施形態のプレキャストコンクリート型枠Aが形成される。
【0021】
そして、図3に示すように、例えば夕方に、第2型枠2のキャビティー3内にコンクリートCを打設し、翌朝まで養生する。ここで、従来の鋼製のプレキャストコンクリート用型枠を用いた場合には、熱伝導率の高い鋼材がコンクリートCに接しているため、特に寒冷期において、コンクリートCが低温化しやすく、翌朝脱型時のコンクリート強度が十分に発現されていない場合があった。これに対し、本実施形態のプレキャストコンクリート用型枠Aにおいては、打設したコンクリートCと鋼製の第1型枠1の間に断熱材2aからなる第2型枠2が介装されているため、夕方から翌朝までの間、コンクリートCの低温化を防止することができ、翌朝脱型時のコンクリートCを確実に所定強度以上に硬化させることができる。これにより、PC部材(C’)の製作工程の計画通りに、翌朝、脱型を行なうことが可能になる。
【0022】
翌朝脱型時には、ボルト1dを取り外して第1型枠1を取り除く。このとき、第1型枠1が分離可能な底板及び4つの側壁板1aで構成されているため、容易に脱型を行なうことができる。また、第2型枠2(各断熱材2a)が第1型枠1に対して分離可能とされているため、図4に示すように、第1型枠1のみが脱型され、第2型枠2が低強度状態のPC部材C’の表面に残置される。このため、従来のように脱型後のPC部材C’にシート(養生材)を巻き付けることなく、PC部材C’を湿潤養生するための養生材として第2型枠2を転用することが可能になる。よって、従来のシートの巻き付け作業が不要になるため、効率的にPC部材C’の製作を行なうことができるとともに、低強度状態のPC部材C’にシートの巻き付けに伴う欠けや破損が生じることをなくすことができる。
【0023】
そして、第2型枠2で湿潤状態を保持してPC部材C’が所定強度に達した段階で、第2型枠2を取り除く。これにより、好適に所定強度に達したPC部材C’が製作される。ここで、工場では、現場へ搬入するまでの間、製作したPC部材C’を保管することになるが、所定強度に達した後も第2型枠2を取り付けておくことで、保管時にPC部材C’に欠けや破損が生じることをもなくすことができる。
【0024】
したがって、本実施形態のプレキャストコンクリート用型枠Aによれば、効率的にPC部材C’を製作でき、PC部材C’の製作コストを低減することが可能になる。
【0025】
また、本実施形態のプレキャストコンクリート用型枠Aにおいては、第2型枠2の加工が容易で、その厚さd1寸法を容易に調整することができるため、鋼製の第1型枠1を大きく形成しておき、第2型枠2の厚さd1寸法を、PC部材C’の大きさに合わせて調整することで、キャビティー3の大きさを自在に調整することができる。このため、寸法が異なる複数のPC部材C’の製作に鋼製の第1型枠1を使い回すことが可能になり、この点からもPC部材C’の製作コストを低減することが可能になる。
【0026】
さらに、第2型枠2に高強度の断熱材2aを用い、断熱材2a同士を強固に連結した場合には、打設したコンクリートCが自立する程度に強度発現した段階で、すなわち早期に、第1型枠1の脱型を行なうことができる。また、第1型枠1を脱型して低強度状態のPC部材C’表面に第2型枠2が残った状態で、PC部材C’の強度に係らず第2型枠2を吊り下げ、PC部材C’を移動することが可能になる。このような場合には、例えば工場の所望の位置に低強度状態のPC部材C’を順次移動することで製作の効率化を図ることができ、製作工程を短縮することが可能になる。
【0027】
以上、本発明に係るプレキャストコンクリート用型枠の実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、第2型枠2が断熱材2aからなり、この断熱材2aを加工することで容易にキャビティー3の大きさを調整できるとして説明を行なったが、予め厚さd1寸法の異なる断熱材2aを用意しておき、製作するPC部材C’の寸法に応じた大きさのキャビティー3を形成できる断熱材2aを選択して用いることで対応するようにしてもよい。また、例えば、図5に示すように、第2型枠2を断熱材2aと例えば合板などの厚さ調整部材2bとで構成し、厚さ調整部材2bで第2型枠2の厚さd1寸法を調整して、キャビティー3の大きさを調整するようにしてもよい。このようにすることで、断熱材2aを加工することなくキャビティー3の大きさを調整することができ、これにより、本実施形態と同様、鋼製の第1型枠1を使い回して、寸法が異なる複数のPC部材C’の製作に対応することが可能になる。
【0028】
また、本実施形態では、第1型枠1が底板と4つの側壁板1aをそれぞれ分離可能に連結して形成されているものとしたが、第1型枠1は、必ずしも底板と側壁板1aがそれぞれ独立した部材として形成されていなくてもよい。さらに、本実施形態のように独立した部材で構成した場合においても、フランジ部1bを備えて形成したり、ボルト1dを用いて連結する必要はなく、他の連結手段で連結してもよい。
【0029】
また、本実施形態では、第2型枠2を構成する複数の断熱材2aが端部同士をボルトや釘を用いて連結されているものとしたが、例えば第1型枠1を取り外した際に、低強度状態のPC部材C’の表面に第2型枠2(断熱材2a)が付着して保持される場合には、各断熱材2aを連結して第2型枠2を形成する必要はない。さらに、例えば第1型枠1の脱型後に、付着して保持された断熱材2a(第2型枠2)のずれ防止などの目的で、養生テープを外周に巻いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係るプレキャストコンクリート用型枠を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るプレキャストコンクリート用型枠の第1型枠と第2型枠を分離した状態を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るプレキャストコンクリート用型枠にコンクリートを打設した状態を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るプレキャストコンクリート用型枠にコンクリートを打設した後に第1型枠を脱型した状態を示す断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るプレキャストコンクリート用型枠の変形例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 第1型枠
1a 側壁板
1b フランジ部
1c ボルト孔
1d ボルト
1e ナット
2 第2型枠
2a 断熱材
2b 厚さ調整部材
3 キャビティー
A プレキャストコンクリート用型枠
C コンクリート
C’ プレキャストコンクリート部材(PC部材)
d1 第2型枠の厚さ
D1 キャビティーの幅
D2 キャビティーの幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製の第1型枠の内側に、断熱材を備えてなりコンクリートを打設するキャビティーを形成する第2型枠を有した二重構造で形成され、前記第2型枠が前記第1型枠と分離可能に設けられていることを特徴とするプレキャストコンクリート用型枠。
【請求項2】
請求項1記載のプレキャストコンクリート用型枠において、
前記第1型枠が分離可能な複数の部材で形成されていることを特徴とするプレキャストコンクリート用型枠。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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