説明

プレキャストコンクリート部材の接合構造

【課題】現場での溶接作業を不要とするとともに、使用するグラウト材の量を低減することにより施工コストを低減し、かつ接合部の幅を小さくすることにより外観を良好にする。
【解決手段】一方の分割プレキャスト筒状体2の接合端面に、上下方向に複数段で配置された各鉄筋4…に接合された定着用埋込部材5…を埋設し、定着用埋込部材5には開口を外部に臨ませたポケット状の切欠き溝6を形成するとともに、前記切欠き溝6の形状と同形状で上下方向に沿ってコンクリートに切欠き溝が形成されることによって上下方向に連続する縦溝7を形成し、他方の分割プレキャスト筒状体3の接合端面に、上下方向に複数段で配置された各鉄筋8…を外部まで突出して設けるとともに、この突出した鉄筋8…の先端部に前記ポケット状切欠き溝6に嵌合される定着部材9を固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート部材同士を接合するための接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、風力発電設備などの塔状構造物や、半地下道路トンネル、地下駐車場、駐輪場、共同溝、地下鉄、地下道などの地下構造物では、施工の効率性や施工期間の短縮などの点からコンクリート製のプレキャストコンクリート部材を相互に接合して構造物が構築されることがある。
【0003】
例えば、風力発電設備などの塔状構造物の構築においては、コンクリート製のプレキャスト筒状体を高さ方向に複数積み上げて、各プレキャスト筒状体をPC鋼材により緊結することによってタワー部が構築されることがある。
【0004】
この場合、前記プレキャスト筒状体として外径が4m以上の大口径のものが使用される場合には、陸上輸送(トラック等による運搬)における荷幅制限の規制などの都合上、前記プレキャスト筒状体を円周方向に2以上に分割した分割プレキャスト筒状体として現地に搬入し、現場にてこれら分割プレキャスト筒状体を接合して前記プレキャスト筒状体とする作業が行われていた。
【0005】
従来、このような分割プレキャスト筒状体50、50を現場で接合してプレキャスト筒状体51を構築するには、図12、図13に示されるように、以下の手順で行われていた。先ず、分割プレキャスト筒状体50として、接合端部の所定幅に亘って外周面側及び内周面側のそれぞれに切込み部52を形成し、この切込み部52において、一部がコンクリート内に埋め込まれ、一部が露出した鋼製の埋込プレート53、53…を、高さ方向に複数枚設けておく(図12(A))。
【0006】
次に、この分割プレキャスト筒状体50、50を現場に搬入し、現場にて、図12(B)に示されるように、分割プレキャスト筒状体50、50の接合端面同士を突合わせて配置するとともに、両分割プレキャスト筒状体50、50の各段の埋込プレート53、53間に跨って接合プレート54を配設し、前記埋込プレート53、53と接合プレート54とを溶接することによって分割プレキャスト筒状体50、50を連結する。
【0007】
その後、図12(C)及び図13に示されるように、両分割プレキャスト筒状体50、50の接合端部に連続的に形成された切込み部52、52の周囲を型枠で囲い、グラウト材55を充填してプレキャスト筒状体51の構築作業が完了する。
【0008】
このような接合方法は、例えば下記特許文献1にも、連結しようとする両方のコンクリート部材を対峙させて各々の鉄筋を溶接又は機械的方法によって接合した後、この接合部にコンクリートを打設して連結するプレキャストコンクリート部材の連結工法が開示されるように、プレキャストコンクリート部材を接合する方法として一般的に採用されていた。
【特許文献1】特開平5−340003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このような従来の接合方法では、埋込プレート53、53間に接合プレート54を固定する際に現場での溶接作業を伴うため、溶接熱によるコンクリートのひび割れを防止するなどの理由から慎重な溶接作業を行う必要があり、作業時間の長期化や、施工コスト増大の原因となっていた。
【0010】
さらに、従来の接合方法では、埋込プレート53、53間に跨って接合プレート54を溶接したときの接合強度を確保するため、接合プレート54を設置する切込み部52の形成幅として、ある程度の長さを必要とする。その結果、切込み部52、52を充填するのに多量のグラウト材55が必要になるとともに、その充填のための作業時間も長期化し、施工コストが嵩む。また接合部に充填されるグラウト材55は、周囲のコンクリートとの色合いが異なるため、グラウト材55部分が周囲の色合いと異なることが外部からはっきりと視認でき、塔状構造物の外観が悪くなるなどの問題があった。
【0011】
そこで本発明の主たる課題は、現場での溶接作業を不要とするとともに、使用するグラウト材の量を低減することにより、作業時間の短縮化及び施工コストの削減を図り、かつ接合部の幅を小さくすることにより外観を良好にしたプレキャストコンクリート部材の接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、プレキャストコンクリート部材同士を接合するための接合構造であって、
一方のプレキャストコンクリート部材の接合端面には、上下方向に複数段で配置された各鉄筋に接合された定着用埋込部材が埋設され、前記定着用埋込部材には開口を外部に臨ませたポケット状の切欠き溝が形成されるとともに、前記切欠き溝の形状と同形状で上下方向に沿ってコンクリートに切欠き溝が形成されることによって上下方向に連続する縦溝が形成され、
他方のプレキャストコンクリート部材の接合端面には、上下方向に複数段で配置された各鉄筋が外部まで突出して設けられるとともに、この突出した鉄筋の先端部に前記ポケット状切欠き溝に嵌合される定着部材が固定され、
前記他方のプレキャストコンクリート部材の接合端面に突出して設けられた鉄筋の定着部材を、前記一方のプレキャストコンクリート部材の縦溝に沿って挿入してプレキャストコンクリート部材同士を連結するとともに、前記他方のプレキャストコンクリート部材の定着部材を、前記一方のプレキャストコンクリート部材の定着用埋込部材のポケット状切欠き溝部分に位置決めした状態で、隙間部分にグラウト材を充填したことを特徴とするプレキャストコンクリート部材の接合構造が提供される。
【0013】
上記請求項1記載の発明は、本発明に係るプレキャストコンクリート部材の接合構造の第1形態例であり、接合するプレキャストコンクリート部材の接合端面のうち、一方には、上下方向に複数段で配置された各鉄筋に接合された定着用埋込部材を埋設し、前記定着用埋込部材には開口を外部に臨ませたポケット状の切欠き溝を形成するとともに、前記切欠き溝の形状と同形状で上下方向に沿ってコンクリートに切欠き溝が形成されることによって上下方向に連続する縦溝を形成し、他方には、上下方向に複数段で配置された各鉄筋を外部まで突出して設けるとともに、この突出した鉄筋の先端部に前記ポケット状切欠き溝に嵌合される定着部材を固定した構造としたものである。
【0014】
かかる構造のプレキャストコンクリート部材同士を現場で接合するには、他方のプレキャストコンクリート部材の接合端面に突出して設けられた鉄筋の定着部材を、前記一方のプレキャストコンクリート部材の縦溝に沿って挿入してプレキャストコンクリート部材同士を連結するとともに、前記他方のプレキャストコンクリート部材の定着部材を、前記一方のプレキャストコンクリート部材の定着用埋込部材のポケット状切欠き溝部分に位置決めした状態で、隙間部分にグラウト材を充填することによって行われる。
【0015】
このように、本発明に係るプレキャストコンクリート部材の接合構造においては、現場での溶接作業が一切不要であるため、従来の接合構造のように、現場溶接による作業時間の長期化及び施工コストの増大という問題が解決される。
【0016】
また、プレキャストコンクリート部材同士を連結するには、他方のプレキャストコンクリート部材の接合端面に突出して設けられた鉄筋の定着部材を、前記一方のプレキャストコンクリート部材の縦溝に沿って挿入するだけでよく、従来の接合構造のように接合端部に溶接のための切欠きなどを設ける必要がないため、グラウト材を充填すべき隙間部分が大幅に低減し、グラウト材の使用量減少による施工コスト削減ともなる。さらに、接合部の幅はプレキャストコンクリート部材同士の目地程度のものであるため、周囲のコンクリートと色合いが異なるグラウト材であっても目立たずに、良好な外観とすることができるようになる。
【0017】
前記接合部における力の伝達機構は、引張方向の力が作用したとすると、他方のプレキャストコンクリート部材の定着部材からの力がグラウト材を介して、一方のプレキャストコンクリート部材の前記定着用埋込部材に伝達され、この定着用埋込部材に接合された鉄筋に円滑に伝達される。
【0018】
請求項2に係る本発明として、前記一方のプレキャストコンクリート部材において、製作時に前記定着用埋込部材の設置間隔を保持するために、各定着用埋込部材が所定部位で接合された位置決め用固定部材が縦方向に沿って設けられている請求項1記載のプレキャストコンクリート部材の接合構造が提供される。
【0019】
上記請求項2記載の発明では、前記一方のプレキャストコンクリート部材において、製作時に前記定着用埋込部材の設置間隔を保持するために、各定着用埋込部材が所定部位で接合された位置決め用固定部材を縦方向に沿って設けることにより、型枠内に配設した鉄筋及びこれに接合した定着用埋込部材がコンクリートの打設によって位置ズレすることなく埋設されるようになる。これにより、プレキャストコンクリート部材同士の連結時に、前記定着部材を前記定着用埋込部材のポケット状切欠き溝部分に確実に位置決めできるようになる。また、前記位置決め用固定部材は、定着用埋込部材側の圧縮面積の拡大により、充填されたグラウト材の圧縮破壊の防止機能を兼ね備えるものである。
【0020】
請求項3に係る本発明として、プレキャストコンクリート部材同士を接合するための接合構造であって、
一方のプレキャストコンクリート部材の接合端面には、開口を外部に臨ませた溝型断面の形材が埋設されることにより、上下方向に連続する縦溝が形成されるとともに、上下方向に複数段で配置された各鉄筋が前記溝型断面の形材に連結され、
他方のプレキャストコンクリート部材の接合端面には、上下方向に複数段で配置された各鉄筋が外部まで突出して設けられるとともに、この突出した鉄筋の先端部に前記溝型断面の形材に嵌合される定着部材が固定され、
前記他方のプレキャストコンクリート部材の接合端面に突出して設けられた鉄筋の定着部材を、前記一方のプレキャストコンクリート部材の縦溝に沿って挿入してプレキャストコンクリート部材同士を連結した状態で、隙間部分にグラウト材を充填したことを特徴とするプレキャストコンクリート部材の接合構造が提供される。
【0021】
上記請求項3記載の発明は、本発明に係るプレキャストコンクリート部材の接合構造の第2形態例であり、上記第1形態例に係る定着用埋込部材に代えて、溝型断面の形材を埋設したものである。具体的には、一方のプレキャストコンクリート部材の接合端面には、開口を外部に臨ませた溝型断面の形材が埋設されることにより、上下方向に連続する縦溝を形成するとともに、上下方向に複数段で配置された各鉄筋が前記溝型断面の形材に連結する構造とした。
【0022】
このように、本発明に係るプレキャストコンクリート部材の接合構造においても、上記請求項1記載の発明と同様に、現場での溶接作業が一切不要であることによる作業時間の短縮化及び施工コストの低減化が図られるとともに、使用するグラウト材の量を低減できることによる施工コストの低減化が図られ、かつ接合部の幅を目地程度のものとすることにより良好な外観とすることができるようになる。
【0023】
請求項4に係る本発明として、前記定着部材を前記縦溝に挿入した状態で、前記定着部材とポケット状切欠き溝又は溝型断面形材の溝部形成部材との隙間を埋めるため、前記定着部材の基端側にスペーサーが配設されている請求項1〜3いずれかに記載のプレキャストコンクリート部材の接合構造が提供される。
【0024】
上記請求項4記載の発明は、前記定着部材を前記縦溝に挿入した状態で、前記定着部材とポケット状切欠き溝又は溝型断面形材の溝部形成部材との間に隙間(グラウト充填部)が存在すると、コンクリート部材間に引張力が加わった場合、グラウト材の破壊によって両者の位置ズレが生じ易くなることに鑑みてなされたものであり、前記隙間を埋めるため、前記定着部材の基端側にスペーサーを配設するようにしたものである。
【0025】
請求項5に係る本発明として、前記プレキャストコンクリート部材は、2分割された半円リング状プレキャスト部材とされる請求項1〜4いずれかに記載のプレキャストコンクリート部材の接合構造が提供される。
【発明の効果】
【0026】
以上詳説のとおり本発明によれば、現場での溶接作業を不要とするとともに、使用するグラウト材の量を低減することにより、作業時間の短縮及び施工コストの削減ができ、かつ接合部の幅を小さくすることにより良好な外観とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0028】
本書では、図1に示されるように、例えば風力発電設備などの塔状構造物に使用される円形のプレキャスト筒状体1を例に挙げ、このプレキャスト筒状体1を円周方向に2分割した半円リング状プレキャスト部材(以下、分割プレキャスト筒状体2、3ともいう)の接合構造について詳述する。なお、本発明は、このような筒状体以外の一般的なプレキャストコンクリート部材の接合構造にも同様に適用できる。
【0029】
〔第1形態例〕
図1はプレキャスト筒状体1の斜視図、図2は分割プレキャスト筒状体2、3の接合要領を示す斜視図、図3は接合状態の接合端部近傍の断面図である。
【0030】
図2及び図3に示されるように、一方の分割プレキャスト筒状体2の接合端面には、上下方向に複数段で配置された各鉄筋4、4…に溶接などによって接合された定着用埋込部材5、5…が埋設され、この定着用埋込部材5には左右それぞれに開口を外部に臨ませたポケット状の切欠き溝6、6が形成されるとともに、この切欠き溝6の形状と同形状で上下方向に沿ってコンクリートに切欠き溝を形成することによって上下方向に連続する縦溝7、7が左右それぞれに形成されている。
【0031】
また、他方の分割プレキャスト筒状体3の接合端面には、上下方向に複数段で配置された各鉄筋8、8…が左右それぞれに外部まで突出して設けられるとともに、この突出した鉄筋8の先端に前記ポケット状切欠き溝6に嵌合される定着部材9が固定されている。
【0032】
前記定着用埋込部材5は、図4に示されるように、略方形状の鋼板からなり、後方側の左右それぞれに鉄筋4、4が溶接などによって接合されている。また、前記鉄筋4、4の接合部分に対応した前方側には、左右それぞれに、開口から内側で拡大したポケット状の切欠き溝6、6が形成されている。このポケット状切欠き溝6は、前記開口から同幅で形成された溝部6aと、その内側に連続して幅広に拡大したポケット部6bとから構成されている。前記溝部6aは、他方のプレキャスト筒状体3の接合端面から突出した鉄筋8,8…が挿通可能な幅で形成され、前記ポケット部6bは、前記定着部材9が挿通可能な幅で形成されている。
【0033】
前記縦溝7は、前記定着用埋込部材5に形成されたポケット状切欠き溝6、6の形状と同形状で上下方向に沿ってコンクリートに切欠き溝が形成されることにより、分割プレキャスト筒状体2の上面から下面に亘って連続して、接合端面の左右にそれぞれ形成されている。
【0034】
前記定着部材9は、図4に示されるように、プレートナットなど端部にナット部9bより大径のツバ9aが設けられた形状のナットが好適に用いられる。この場合、前記鉄筋8の先端部にはネジ加工が施され、前記定着部材9を鉄筋8に螺合固定する。また、前記定着部材9は、鉄筋8の先端部に溶接などによって固定するようにしてもよいし、前記プレートナットに代えて、通常のナット部材を用いるようにしてもよい。
【0035】
そして、前記分割プレキャスト筒状体2、3を接合するには、他方の分割プレキャスト筒状体3の接合端面に突出して設けられた鉄筋8、8…の定着部材9、9…を、一方の分割プレキャスト筒状体2の縦溝7、7に沿って挿入して分割プレキャスト筒状体2、3を連結するとともに、分割プレキャスト筒状体3の各定着部材9、9…を、一方の分割プレキャスト筒状体2の各定着用埋込部材5、5…のポケット状切欠き溝6部分に位置決めした状態で、隙間部分にグラウト材Gを充填する。
【0036】
すなわち、前記分割プレキャスト筒状体2、3を接合した状態では、一方の分割プレキャスト筒状体2に配置される鉄筋4、4…と他方の分割プレキャスト筒状体3に配置される鉄筋8、8…とが、定着用埋込部材5と定着部材9とを介して接続されるようになり、一体的に成型したプレキャスト筒状体とほぼ同等の強度が確保できるようになっている。
【0037】
ところで、分割プレキャスト筒状体2には、図5に示されるように、製作時に前記定着用埋込部材5、5…の設置間隔を保持するため、各定着用埋込部材5、5…が所定部位で接合された位置決め用固定部材10を縦方向に沿って設けることが好ましい。この位置決め用固定部材10は、図6及び図7に示されるように、前記定着用埋込部材5、5…に接合される棒状部10aが形成されたものであり、必要に応じて少なくとも最上段及び最下段の定着用埋込部材5、5に係止する突起状のツメ10bが設けられている。前記位置決め用固定部材10は、定着用埋込部材5のポケット状切欠き溝6内、好ましくは図7に示されるように、溝部6aとポケット部6bとの境界の段差部分にそれぞれ溶接などによって接合して設けられるようにする。また、位置決め用固定部材10は、各定着用埋込部材5、5…の設置間隔を明示しておくことにより、ゲージとして利用することもできる。
【0038】
〔第2形態例〕
第2形態例に係る本発明は、図8及び図9に示されるように、前記分割プレキャスト筒状体2の接合端面に、上記第1形態例に係る定着用埋込部材5に代えて溝型断面の形材20を埋設するようにしたものである。具体的には、分割プレキャスト筒状体2の接合端面には、開口を外部に臨ませた溝型断面の形材20、20を左右それぞれに埋設することにより、上下方向に連続する縦溝7、7が左右それぞれに形成されるとともに、上下方向に複数段で配置された各鉄筋4、4…が前記溝型断面の形材20に連結されている。他方の分割プレキャスト筒状体3は、上記第1形態例と同様の構造である。
【0039】
そして、これら分割プレキャスト筒状体2、3を接合するには、他方の分割プレキャスト筒状体3の接合端面に突出して設けられた鉄筋8、8…の定着部材9、9…を、一方の分割プレキャスト筒状体2の縦溝7、7に沿って挿入して分割プレキャスト筒状体2、3同士を連結した状態で、隙間部分にグラウト材Gを充填する。
【0040】
前記溝型断面形材20は、図9に示されるように、前面の長手方向に沿って内部空間20bに連通する縦長の溝部20aが設けられたものである。また、溝型断面形材20は、分割プレキャスト筒状体2の上面から下面に亘って連続的に配設されるとともに、その背面には上下方向に複数段で配置された各鉄筋4,4…に連結させるための開孔が設けられている。該溝型断面形材20を鉄筋4,4…に連結するには、各鉄筋4,4…を前記開孔に挿通させ、前後面からナット21、21で締結されている。
【0041】
ここで、図8(A)に示されるように、分割プレキャスト筒状体2、3を接合した状態で、定着部材9の基端側と溝型断面形材20の溝部20aの内側との間に隙間が存在すると、分割プレキャスト筒状体2、3間に引張力が加わった場合、この隙間部分に充填されたグラウト材Gに圧縮力が加わり、グラウト材Gの強度不足によって分割プレキャスト筒状体2、3間に位置ズレが生じるおそれがある。そこで、図10に示されるように、この隙間部分を埋めるため、定着部材9の基端側にスペーサー22を備えるようにすることが好ましい。前記スペーサー22により、グラウト材の破壊時に抜け出し量の低減を図るとともに、定着部材9と溝型断面形材20間の圧縮面積の拡大により、充填されたグラウト材の圧縮破壊を防止する。
【0042】
前記スペーサー22は、図11に示されるように、分割プレキャスト筒状体3の接合端面に突出して設けられた鉄筋8、8…の定着部材9、9…を上下方向に連結する細長の板状体からなり、その平面部には鉄筋8、8…を挿通するための開孔22a、22a…が設けられている。なお、スペーサー22は、各鉄筋8に個別的に設けられる座金状のものであってもよい。また、このスペーサー22は、上記第1形態例に係る分割プレキャスト筒状体3においても同様に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、塔状構造物におけるプレキャストコンクリート部材の接合構造に対して好適とされるが、半地下道路トンネル、地下駐車場、駐輪場、共同溝、地下鉄、地下道などの地下構造物などの一般的な構造物におけるプレキャストコンクリート部材の接合構造に対しても適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】プレキャスト筒状体1の斜視図である。
【図2】分割プレキャスト筒状体2、3の接合要領を示す斜視図である。
【図3】分割プレキャスト筒状体2、3の接合端部近傍を示す(A)は横断面図、(B)は縦断面図である。
【図4】その接合端面の要部拡大斜視図である。
【図5】位置決め用固定部材10を配設した分割プレキャスト筒状体2、3の接合端部近傍を示す(A)は横断面図、(B)は縦断面図である。
【図6】位置決め用固定部材10を示す(A)は側面図、(B)は正面図である。
【図7】位置決め用固定部材10によって連結された状態を示す定着用埋込部材4の斜視図である。
【図8】第2形態例に係る分割プレキャスト筒状体2、3の接合端部近傍を示す(A)は横断面図、(B)は縦断面図である。
【図9】その接合端面の要部拡大斜視図である。
【図10】スペーサー22を配設した分割プレキャスト筒状体2、3の接合端部近傍を示す(A)は横断面図、(B)は縦断面図である。
【図11】スペーサー22を示す(A)は縦断面図、(B)は正面図である。
【図12】従来の分割プレキャスト筒状体50、50の接合要領を示す斜視図である。
【図13】従来の分割プレキャスト筒状体50、50の接合端部近傍を示す(A)は横断面図、(B)は縦断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1…プレキャスト筒状体、2・3…分割プレキャスト筒状体、4・8…鉄筋、5…定着用埋込部材、6…切欠き溝、7…縦溝、9…定着部材、10…位置決め用固定部材、G…グラウト材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリート部材同士を接合するための接合構造であって、
一方のプレキャストコンクリート部材の接合端面には、上下方向に複数段で配置された各鉄筋に接合された定着用埋込部材が埋設され、前記定着用埋込部材には開口を外部に臨ませたポケット状の切欠き溝が形成されるとともに、前記切欠き溝の形状と同形状で上下方向に沿ってコンクリートに切欠き溝が形成されることによって上下方向に連続する縦溝が形成され、
他方のプレキャストコンクリート部材の接合端面には、上下方向に複数段で配置された各鉄筋が外部まで突出して設けられるとともに、この突出した鉄筋の先端部に前記ポケット状切欠き溝に嵌合される定着部材が固定され、
前記他方のプレキャストコンクリート部材の接合端面に突出して設けられた鉄筋の定着部材を、前記一方のプレキャストコンクリート部材の縦溝に沿って挿入してプレキャストコンクリート部材同士を連結するとともに、前記他方のプレキャストコンクリート部材の定着部材を、前記一方のプレキャストコンクリート部材の定着用埋込部材のポケット状切欠き溝部分に位置決めした状態で、隙間部分にグラウト材を充填したことを特徴とするプレキャストコンクリート部材の接合構造。
【請求項2】
前記一方のプレキャストコンクリート部材において、製作時に前記定着用埋込部材の設置間隔を保持するために、各定着用埋込部材が所定部位で接合された位置決め用固定部材が縦方向に沿って設けられている請求項1記載のプレキャストコンクリート部材の接合構造。
【請求項3】
プレキャストコンクリート部材同士を接合するための接合構造であって、
一方のプレキャストコンクリート部材の接合端面には、開口を外部に臨ませた溝型断面の形材が埋設されることにより、上下方向に連続する縦溝が形成されるとともに、上下方向に複数段で配置された各鉄筋が前記溝型断面の形材に連結され、
他方のプレキャストコンクリート部材の接合端面には、上下方向に複数段で配置された各鉄筋が外部まで突出して設けられるとともに、この突出した鉄筋の先端部に前記溝型断面の形材に嵌合される定着部材が固定され、
前記他方のプレキャストコンクリート部材の接合端面に突出して設けられた鉄筋の定着部材を、前記一方のプレキャストコンクリート部材の縦溝に沿って挿入してプレキャストコンクリート部材同士を連結した状態で、隙間部分にグラウト材を充填したことを特徴とするプレキャストコンクリート部材の接合構造。
【請求項4】
前記定着部材を前記縦溝に挿入した状態で、前記定着部材とポケット状切欠き溝又は溝型断面形材の溝部形成部材との隙間を埋めるため、前記定着部材の基端側にスペーサーが配設されている請求項1〜3いずれかに記載のプレキャストコンクリート部材の接合構造。
【請求項5】
前記プレキャストコンクリート部材は、2分割された半円リング状プレキャスト部材とされる請求項1〜4いずれかに記載のプレキャストコンクリート部材の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−235850(P2009−235850A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85771(P2008−85771)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【出願人】(000229667)日本ヒューム株式会社 (70)
【Fターム(参考)】