説明

プレキャストコンクリート部材の製造装置

【課題】
プレキャストコンクリート部材を小さなスペースで成形するとともに、成形サイクル中の人手による作業を少なくして生産性を高める。
【解決手段】
PCaパネル1の成形作業を行なう定盤11と、定盤11上に略平行に設置される上下枠12と、上下枠12の長さ方向に間隔を置いて略平行に設置される一対の側枠13と、上下枠12間若しくは側枠13間の少なくとも一方に掛け渡される吊り上げバー14と、この吊り上げバー14と前記上下枠12間若しくは側枠13間に設けられて、これらを上下に相対移動可能に係合させる一対の連結手段15と、前記吊り上げバー14を介して前記上下枠12若しくは側枠13を昇降させる昇降手段16とを備え、前記各連結手段15に、前記吊り上げバー14の上下動に伴って、前記上下枠12若しくは側枠13を互いに接近離間する方向に移動させるカム機構17が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート建築物に用いられるコンクリート製の壁やスラブ、あるいは、柱や梁といった建築部材を、型枠を用いてプレキャストコンクリート部材化する技術に係わり、特に、このプレキャストコンクリート部材の成形に用いられる製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート建築物を構築する方法の一つとして、コンクリート製の壁やスラブあるいは柱や梁等を部材化し、これらの建築部材を、型枠を用いてプレキャストコンクリート部材化しておき、これらのプレキャストコンクリート部材を建築現場において組み上げる方法が提案されている。
【0003】
一方、前記プレキャストコンクリート部材を製造するには、たとえぱ定盤上に4個の型枠を矩形状に組み上げ、この枠内に、鉄筋等の補強部材を設置した後にコンクリートを打設し、この打設したコンクリートの固化後に型枠を脱型しプレキャストコンクリート部材を得る方法が一般的である。
【0004】
このような製造方法でプレキャストコンクリート部材を多数製造する場合には、前記型枠を多数用意しておき、これらの型枠を定盤上に並べて設置して、型枠個々にコンクリートを打設する方法が採られている。
しかしながら、このような製造方法であると広いスペースが必要であるといった不具合がある。
【0005】
このような不具合に対処可能な方法として、一つのプレキャストコンクリート部材を成形した後に、型枠を上方に移動させるとともに、先に成形したプレキャストコンクリート部材を支持体としてその上方に型枠を組み上げ、この型枠内にコンクリートを打設することにより、プレキャストコンクリート部材を順次積層するようにして成形する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
この技術においては、前記型枠を昇降可能にするために、成形されるプレキャストコンクリート部材を取り囲む四隅に案内柱を立設し、これらの案内柱に昇降部材を取り付けるとともに、前記型枠を昇降部材に連結する構成とし、また、脱型のために各型枠と昇降部材とをピン結合して水平方向に揺動可能な構成としている。
【0007】
この技術では、組み上げられた型枠によつて1層目のプレキャストコンクリート部材を成形し、ついで、前記型枠の連結を解除した後に、前記型枠を昇降部材との連結部であるピンを介して揺動させることによって脱型し、脱型した型枠を、案内柱をガイドとして前記昇降部材とともに所定位置まで上昇させて再度組み上げ、この後に2層目のプレキャストコンクリート部材を成形するという工程を繰り返すことによって、プレキャストコンクリート部材を多層状に積み上げながら成形するようになっている。
【0008】
【特許文献1】特開昭54−15929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願出願人は、前述した特許文献1に記載の技術において残されている次のような課題を解決せんとするものである。
前記の技術における成形サイクルは、打設コンクリートの硬化後に脱型を行ない、ついで、脱型した型枠を上方へ移動させて組み上げる作業によって構成されている。
ここで、脱型時においては、型枠を、成形されたプレキャストコンクリート部材から離間させる作業が必要であり、また、脱型後においては、脱型した型枠を上昇させるために、これらの型枠が取り付けられている複数の昇降部材を同時に昇降させる必要があり、さらに、型枠を再度組み上げる際には、上昇位置において、各型枠を内側へ揺動させて位置決めした状態で固定作業を行なう必要がある。
すなわち、成形サイクルの全ての工程において人手による操作が多く必要となり、操作が極めて煩雑なものとなっている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は前述した課題を解決せんとしてなされたもので、請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の製造装置は、プレキャストコンクリート部材の成形作業を行なう定盤と、この定盤上に略平行に設置される上下枠と、これらの上下枠の長さ方向に間隔を置いて略平行に設置される一対の側枠と、これらの上下枠間若しくは側枠間の少なくとも一方に掛け渡される吊り上げバーと、この吊り上げバーと前記上下枠間若しくは側枠間に設けられて、これらを上下に相対移動可能に係合させる一対の連結手段と、前記吊り上げバーを介して前記上下枠若しくは側枠を昇降させる昇降手段とを備え、前記各連結手段に、前記吊り上げバーの上下動に伴って、前記上下枠若しくは側枠を互いに接近離間する方向に移動させるカム機構が設けられていることを特徴とする。
本発明の請求項2に記載のプレキャストコンクリート部材の製造装置は、請求項1に記載の前記各カム機構が、前記上下枠若しくは側枠に取り付けられて、鉛直方向に対して傾斜したカム溝を備えたカムプレートと、前記吊り上げバーに取り付けられて前記カム溝に摺動可能に係合させられるガイドピンとによって構成されていることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載のプレキャストコンクリート部材の製造装置は、請求項1に記載の前記両カム機構に設けられたカム溝どうしが、下方に行くに従い漸次離間する方向に傾斜させられていることを特徴とする。
本発明の請求項4に記載のプレキャストコンクリート部材の製造装置は、請求項1に記載の前記両カム機構に設けられたカム溝どうしが、上方に行くに従い漸次離間する方向に傾斜させられていることを特徴とする。
本発明の請求項5に記載のプレキャストコンクリート部材の製造装置は、請求項1に記載の前記吊り上げバーが前記上下枠間および側枠間の両方に掛け渡されているとともに、前記吊り上げバーと前記上下枠間および側枠との間に、前記カム機構が設けられた連結手段が設けられていることを特徴とする。
本発明の請求項6に記載のプレキャストコンクリート部材の製造装置は、請求項1に記載の前記定盤には、前記吊り上げバーを上下動させる昇降機構が設置されていることを特徴とする。
本発明の請求項7に記載のプレキャストコンクリート部材の製造装置は、請求項6に記載の前記定盤には、前記昇降機構を水平方向に2次元的に移動させる走行機構が設けられていることを特徴とする。
本発明の請求項8に記載のプレキャストコンクリート部材の製造方法は、請求項1ないし請求項7の何れかに記載のプレキャストコンクリート部材の製造装置を用い、上下枠および側枠を枠組みし、これらの枠内にコンクリートを打設して第1のプレキャストコンクリート部材を成形し、ついで、前記上下枠および側枠の固定を解除した後にこれらの上下枠および側枠を上昇させつつ脱型し、ついで、前記第1のプレキャストコンクリート部材の上方に、この第1のプレキャストコンクリート部材を支持体として前記上下枠および側枠を枠組みし、ついで、これらの枠内にコンクリートを打設して第2のプレキャストコンクリート部材を成形し、これらの操作を繰り返し行なうことにより、プレキャストコンクリート部材を順次積層状態に成形することを特徴とする。
本発明の請求項9に記載のプレキャストコンクリート部材の製造方法は、請求項1ないし請求項7の何れかに記載のプレキャストコンクリート部材の製造装置を用い、上下枠および側枠を枠組みし、これらの枠内にコンクリートを打設して第1のプレキャストコンクリート部材を成形し、ついで、前記上下枠および側枠の固定を解除した後にこれらの上下枠および側枠を上昇させつつ脱型し、ついで、これらの枠を前記第1のプレキャストコンクリート部材の側部に移動させて定盤上で枠組みした後に、これらの枠内にコンクリートを打設して第2のプレキャストコンクリート部材を隣接して成形し、ついで、この第2のプレキャストコンクリート部材から前記枠を脱型して、既に成形されている前記第1のプレキャストコンクリート部材の上方に、この第1のプレキャストコンクリート部材を支持体として枠組みした後に、この枠内にコンクリートを打設して第3のプレキャストコンクリート部材を成形し、これらの操作を繰り返し行なうことにより、定盤上の隣接する複数箇所においてプレキャストコンクリート部材を順次積層状態で成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の製造装置によれぱ、複数の型枠を相互にルーズな状態で仮組みした後に、これらの型枠を吊り上げバーを介して吊り上げて定盤の所定位置の上方へ移動する。
【0012】
ついで、型枠を吊り上げバーとともに下降させてこれらの型枠を定盤上に降ろし、さらに吊り上げバーを前記型枠に接触するまで下降させる。
このとき、前記型枠は定盤に接触した状態であるから、吊り上げバーをさらに下降させることにより、この吊り上げバーが型枠に対して相対移動させられるが、この相対移動に伴い、前記型枠と吊り上げバーとの相対移動な係合をなす連結手段に設けられたカム機構の作用により、前記吊り上げバーが掛け渡されているとともに連結手段を介して係合している上下枠どうし若しくは側枠どうしが相互に接近する方向に移動させられる。
【0013】
このようにして接近させられた上下枠若しくは側枠相互の間隔を微調整した後に、これらの上下枠および側枠を相互に固定して型枠を組み上げる。
このような型枠の組み上げ作業に際して、吊り上げバーと型枠の下降操作により、少なくとも一対の上下枠若しくは側枠の相対位置が、リンク機構により自動的に大まかに調整され、後の微調整により設定された位置関係に調整される。
したがって、型枠の組み上げ作業における人手による作業が大幅に軽減されて、作業の簡素化が図られる。
【0014】
型枠の組み上げ作業が完了すると、この組み上げられた型枠内に所定の配筋を行なった後に、この型枠内にコンクリートを打設する。
ついで、打設コンクリートに所定強度が発現した後に、前記型枠を取り外す脱型作業を行なって一層目のプレキャストコンクリート部材の成形を終了する。
【0015】
脱型作業は、上下枠と側枠との固定を緩めた後に、吊り上げバーを吊り上げることによって行なわれる。
すなわち、枠どうしの固定を緩めた状態で吊り上げバーを吊り上げると、各枠は打設されたコンクリートと密着して移動が拘束されていることから、これらの枠に対して前記吊り上げバーが上方へ相対移動させられる。
このような相対移動により、前記枠と吊り上げバーとの係合をなす連結手段に設けられているカム機構の作用により、前記上下枠若しくは側枠が相互に離間する方向に強制移動させられて、硬化したコンクリートから離間させられる。
【0016】
これより、前記吊り上げバーをさらに上昇させると、上下枠および側枠がほぼ一体となって上方へ移動させられるが、前記上下枠若しくは側枠の一方の枠が、前述したようにコンクリートから離間させられて、他方の枠への拘束カが開放されていることにより、この他方の枠も容易にコンクリートから離間させられる。
【0017】
したがって、吊り上げバーの上昇操作によって、全ての型枠をコンクリートから離間させて脱型することができるので、簡便な操作で脱型操作を行なうことができる。
【0018】
そして、脱型操作に伴う上昇操作を継続して行ない、全型枠を1層目のプレキャストコンクリート部材よりも上方まで移動させ、必要に応じて前記1層目のプレキャストコンクリート部材の上面に、このプレキャストコンクリート部材よりも若干広めのプレートを敷き、ついで、前記吊り上げバーを下降させて前記型枠を前記プレート上に降ろし、前記吊り上げバーをさらに下降させることにより、カム機構の作用により前記上下枠どうし若しくは側枠どうしを相互に接近する方向に移動させて、これらを大まかな相対位置に位置させる。
【0019】
これより、各型枠の位置を微調整して固定することにより、1層目のプレキャストコンクリート部材上に2層目のプレキャストコンクリート部材を成形するための型組を完了する。
以降、前述した作業を繰り返すことにより、複数のプレキャストコンクリート部材を順次積層状態で成形することができる。
【0020】
このように、本発明では、吊り上げバーの下降操作により型枠の大まかな位置決めを行ない、また、吊り上げバーの上昇操作により型枠の脱型を行なうことができるので、人手による作業を大幅に短縮することができる。
【0021】
そして、請求項2に記載のように、前記カム機構を上下枠若しくは側枠に取り付けられて、鉛直方向に対して傾斜したカム溝を備えたカムプレートと、前記吊り上げバーに取り付けられて前記カム溝に摺動可能に係合させられるガイドピンとによって構成する。
【0022】
このような構成とすることにより、吊り上げバーを上昇させることにより、この吊り上げバーに取り付けられているガイドピンが鉛直方向に沿って上昇させられるが、このガイドピンが係合させられるカム溝が鉛直方向に対して傾斜させられていることにより、前記ガイドピンの上昇に伴って、前記カムプレートが水平方向に移動させられるとともに、このカムプレートが取り付けられている前記上下枠若しくは側枠が相互に離間する方向に円滑に移動させられる。
【0023】
そして、カム機構が、カム溝を備えたカムプレートと前記カム溝に係合させられるガイドピンとの少ない部材で済み、簡素な構成で前述した作用を実現することができるとともに、作動が、ガイドピンとカム溝との摺動のみであるから、可動部分が少なく、したがって、安定した作動を長期にわたって維持することができる。
【0024】
請求項3に記載のように、前記カム溝どうしを上方に行くに従い漸次離間する方向に傾斜させることにより、前記上下枠若しくは側枠を、その上部とプレキャストコンクリート部材との当接部分を中心とし、下端部をプレキャストコンクリート部材から引き離すように回動させて脱型することができる。
また、請求項4に記載のように、前記カム溝どうしを下方に行くに従い漸次離間する方向に傾斜させることにより、前記上下枠若しくは側枠を、その下部とプレキャストコンクリート部材との当接部分を中心とし、上端部をプレキャストコンクリート部材から引き離すように回動させて脱型することができる。
【0025】
したがって、これらを選択的に用いることにより、成形するプレキャストコンクリート部材の形状に合わせた脱型方法を選択することができる。
【0026】
請求項5に記載のように、前記吊り上げバーを上下枠および側枠との両方に掛け渡して、それぞれにカム機構を備えた連結手段を設けることにより、全ての型枠の仮組や脱型操作を吊り上げバーの昇降操作によって行なうことができ、省力化をさらに向上させることができる。
【0027】
請求項6に記載のように、前記定盤に前記吊り上げバーを上下動させる昇降機構を設けることによって、型枠の仮組や脱型操作をより簡便なものとすることができる。
【0028】
請求項7に記載のように、前記昇降機構を水平方向に2次元的に移動させる走行機構を設けることにより、定盤に対する枠組み位置を調整することができるとともに、広い定盤を用いた場合において、定盤上の隣接する2カ所間で型枠を移動させながら、それぞれの箇所でプレキャストコンクリート部材を積み重ねるように成形することができる。
これによつて、一つの型枠によつて2位置での成形を可能にして生産性を高めることができる。
【0029】
また、隣接する一方の領域で成形したプレキャストコンクリート部材に所定強度が発現した時点で、このプレキャストコンクリート部材から脱型した型枠を隣接する他方の領域に型枠を移動して枠組みすることにより、前記一方の領域で成形したプレキャストコンクリート部材の養生期間中に、他方の領域で配筋やコンクリート打設等を行ない、次のプレキャストコンクリート部材の成形作業を行なうことができるので、2つの領域での成形作業を重畳させて成形サイクルを短縮し生産性を高めることができる。
【0030】
さらに、請求項8および請求項9に記載のプレキャストコンクリート部材の製造方法によれぱ、請求項1ないし請求項7に記載のプレキャストコンクリート部材の製造装置を有効に稼働させて効率よい生産を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の第1の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明によって成形されるプレキャストコンクリート部材の一つであるプレキャストコンクリートパネル1(以下PCaパネルと略称する)と、このPCaパネル1の建て付け方法を示す概略図である。
【0032】
このPCaパネル1は、略平板状に形成されており、内部には図示しない鉄筋が埋め込まれ、上下方向には、上下のPCaパネル1どうしを接続するための接続鉄筋2が埋め込まれているとともに、この接続鉄筋2の上端部は、前記PCaパネル1の上端から上方へ突出させられている。
また、この接続鉄筋2の下端部には、前記PCaパネル1内に、その下端部において開口するように埋設された継ぎ手スリーブ3が装着されている。
【0033】
このPCaパネル1は、略同一鉛直面内において上下方向および横方向に設置されるとともに、上下方向においては、下方に位置するPCaパネル1の上端から突出する前記接続鉄筋2の上端部を、上方に配設されるPCaパネル1の継ぎ手スリーブ3内に挿入した後に、この継ぎ手スリーブ3内にモルタルを充填固化させることにより接続され、また、横方向においては、突き合わされる側面間にコッター溝が形成されるとともに、このコッター溝内に突出させられるコッター筋4どうしを溶接した後に、前記コッター溝内にコンクリートを打設・硬化させることによって相互に接続されるようになっている。
【0034】
以下に、前述したPCaパネル1の成形に適用した本発明の第1の実施形態について説明する。
【0035】
図2において、符号10は本実施形態に係わるプレキャストコンクリート部材(PCaパネル1)の製造装置(PCa製造装置と略称する)を示し、このPCa製造装置10は、PCaパネル1の成形作業を行なう定盤11と、この定盤11上に略平行に設置される上下枠12と、これらの上下枠12の長さ方向に間隔を置いて略平行に設置される一対の側枠13と、これらの上下枠12間若しくは側枠13間の少なくとも一方に掛け渡される吊り上げバー14と、この吊り上げバー14と前記上下枠12間若しくは側枠13間に設けられて、これらを上下に相対移動可能に係合させる一対の連結手段15と、前記吊り上げバー14を介して前記上下枠12若しくは側枠13を昇降させる昇降手段16とを備え、前記各連結手段15に、前記吊り上げバー14の上下動に伴つて、前記上下枠12若しくは側枠13を互いに接近離間する方向に移動させるカム機構17が設けられた概略構成となっている。
【0036】
ついで、これらの詳細について説明すれぱ、本実施形態においては、前記吊り上げバー14が、前記上下枠12間に掛け渡され、かつ、前記上下枠12の長さ方向に間隔をおいて6カ所に設けられており、各吊り上げバー14の両端部と前記上下枠12との重畳部分に、図3に詳述するように、前記連結手段15が設けられている。
【0037】
前記各連結手段15に設けられる前記カム機構17は、図4および図5に示すように、前記上下枠12に取り付けられて、鉛直方向に対して傾斜したカム溝18を備えたカムプレート19と、前記吊り上げバー14に取り付けられて前記カム溝18に摺動可能に係合させられるガイドピン20とによって構成されている。
【0038】
本実施形態においては、前記カムプレート19が、前記上下枠12の長さ方向に間隔をおいて平行に一対設けられており、これらのカムプレート19のそれぞれに前記カム溝18が形成され、これらのカム溝18を貫通するようにして前記ガイドピン20が設けられている。
また、前記ガイドピン20の両端部には、前記カムプレート19の外面に当接させられて、これらのカムプレート19からの離脱を防止するための抜け止めリング21が着脱可能に設けられている。
【0039】
さらに、前記カム溝18は、前記吊り上げバー14の両端部に位置させられたカム溝18どうしが、図4に示すように、前記上下枠12の長さ方向から見て、上方に行くに従い漸次接近するように、鉛直方向に対して傾斜して形成されている。
【0040】
前記側枠13は、その両端部において前記上下枠12の上面に重畳させられており、これらの重畳部分において、図3に示すように、ボルトナット等の締結手段22によって連結されており、この締結手段22を緩めることにより、前記上下枠12と側枠13とが係合状態を維持しつつ所定範囲内で相対移動可能となされ、かつ、前記締結手段22を締め付けることによって、一体に固定されるようになっている。
【0041】
前記各上下枠12の長さ方向の両端部近傍には、図2および図3に示すように、前記定盤11に固定されたガイド柱23がそれぞれ立設されている。
【0042】
これらのガイド柱23は、本実施形態においてはH型鋼が用いられ、そのフランジ部23aに、前記上下枠12に取り付けられている係合片24が相対移動可能に係合させられており、これらの係合片24と前記ガイド柱23との相対移動可能な係合により、前記上下枠12が、その水平方向の移動距離が制限された状態で上下動させられるようになっている。
【0043】
また、本実施形態においては、前記各ガイド柱23のフランジ部23aには、前記上下枠12と交差する方向に沿った貫通口23bが、前記ガイド柱23の高さ方向に間隔をおいて複数形成されている。
これらの貫通口23bには、図示しない係止ピンが着脱可能に挿入されるようになっており、この貫通口23bに挿入された前記係止ピンに前記上下枠12が係合させられることにより、これらの上下枠12およびこの上下枠12に取り付けられる側枠13が所定高さに係止されるようになつている。
【0044】
したがって、前記貫通口23bの上下方向の間隔を、成形するPCaパネル1の厚みに対応させておくことにより、前記型枠12・13を前記PCaパネル1の厚みごとに仮止めできるようになっている。
【0045】
一方、前記一対の上下枠12の内の一つには、前記PCaパネル1の上端部から突出して位置させられる前記接続鉄筋2、あるいは、図2および図3に示すような吊り金具25等が前記上下枠12の外側へ向けて貫通させられる溝26が、前記上下枠12の長さ方向に間隔をおいて複数設けられており、これらの溝26は、PCaパネル1の成形後に前記上下枠12を上昇させる際に、この上下枠12の上昇を妨げないように、この上下枠12の下方へ向けて開放されている。
【0046】
ついで、このように構成された本実施形態に関わるPCa製造装置10を用いてPCaパネル1を製造する方法について説明する。
【0047】
まず、締結手段22を緩めて前記上下枠12と側枠13とを、若干の相対移動が可能な連結状態とし、これらを定盤11上に載置する。
このような型枠の載置操作の過程で、前記上下枠12および側枠13が定盤11に先行して接触した後に、前記吊り上げバー14が、前記上下枠12に接近するようにさらに下降させられるが、前記上下枠12に対する吊り上げバー14の下降に伴って、両者間に設けられているカム機構17の作用により、前記両上下枠12が相互に接近するように相対移動させられて、所定位置に対して大まかに位置決めされる。
【0048】
これより、前記定番11上で前記両上下枠12および側枠13の位置の微調整を行なった後に、これらを締結手段22によって固定して型枠を形成し、ついで、この型枠内に、図3および図4に示すように、所定の補強鉄筋27や接続鉄筋2、および、継ぎ手スリーブ3等を配設する。
このとき、成形すべきPCaパネル1の上面から突出させなけれぱならない鉄筋等、たとえぱ、前記接続鉄筋2は、図4に示すように、前記上下枠12に形成されている溝26を貫通させて前記上下枠12の外部へ突出させておく。
【0049】
ついで、図6に示すように、前記型枠内にコンクリートCを打設して、このコンクリートCに所定強度が発現するまで養生を行なって、つぎの脱型操作に移行する。
【0050】
脱型操作を行なうには、まず、前記上下枠12と側枠13とを固定している各締結手段22を緩め、これらの締結状態を解除する。
ここで、前記締結手段22は前記上下枠12と側枠13との固定を解除する程度に緩められるもので、緩めた状態でこれらの係合状態が維持されるようにする。
【0051】
これより、前記吊り上げバー14を吊り上げて脱型操作を行なうが、本実施形態においては、この操作に先立って、まず、前記上下枠12との固定が解除された両側枠13を外方へ向けてたたいて、これらを内部のコンクリートCから剥離させた後に、前記吊り上げバー14の吊り上げ操作を開始する。
【0052】
このような吊り上げバー14の吊り上げ操作の初期段階において、これらの吊り上げバー14に連結手段15を介して連結されている両上下枠12は、前記コンクリートCの付着力およびその白重により前記定盤11上に止まろうとするが、さらに前記吊り上げバー14が上昇させられることにより、この吊り上げバー14と前記上下枠12との間に上下方向への相対移動が生じる。
【0053】
このような上下方向の相対移動が生じると、前記吊り上げバー14に取り付けられているガイドピン20が鉛直方向上方へ向けて移動させられるが、このガイドピン20が挿入されているカムプレート19のカム溝18が、その上端部が鉛直方向に対して型枠の内側となるように傾斜させられていることから、前述したガイドピン20の移動に伴って、前記カムプレート19が型枠の外側へ向けて(すなわち、コンクリートCから離れる方向に向けて)押圧される。
これに伴い、前記カムプレート19が取り付けられている前記両上下枠12が、図7に示すように、その下端部を中心にして、上端部が相互に離間するように強制的に回動させられるとともに、これらの上下枠12がコンクリートCから離間させられる。
【0054】
これよりさらに前記吊り上げバー14を上昇させると、前記型枠を構成する両上下枠12および両側枠13が既にコンクリートCと縁切りされており、また、前記接続鉄筋2や吊り金具25の、前記上下枠12の貫通部分である溝26が下方へ向けて開放されていることから、前記吊り上げバー14の上昇にとともに、前記上下枠12および両側枠13がコンクリートCから切り離されるとともに、前記接続鉄筋2や吊り金具25が上下枠12の下方に抜ける。
これによって、図8に示すように、前記上下枠12および両側枠13が前記コンクリートCの上方へ移動させられて脱型操作が完了し、前記定盤11上に1層目のPCaパネル1が成形される。
【0055】
このように、本実施形態においては、前記吊り上げバー14の上昇操作によつて前記上下枠12とコンクリートCとの縁切りを行なうとともに、この縁切り操作に連続して、この上下枠12とこの上下枠12に連結された側枠13とを上昇させることができるので、脱型操作を容易に行なうことができる。
【0056】
ついで、本実施形態においては、図8に示すように、前述したようにして成形された1層目のPCaパネル1の上面に、このPCaパネル1の上面よりもやや広めである程度の硬度を備えたプレート28を載せ、図9に示すように、前記プレート28上に前記上下枠12および両側枠13を載置するとともに、前記吊り上げバー14を最下降位置まで下降させる。
【0057】
これより、前記上下枠12の位置を微調整するとともに側枠13の位置決めを行なった後に、前記締結手段22によってこれらの上下枠12および側枠13の固定を行なう。
【0058】
さらに、図10に示すように、固定された前記両上下枠12および両側枠13の内側に接続鉄筋2や補強鉄筋27等の配筋を行ない、ついで、図11に示すように、固定された前記両上下枠12および両側枠13の内側にコンクリートCを打設し、このコンクリートCの硬化後に、前記吊り上げバー14を上昇させて前記両上下枠12および両側枠13の脱型を行ない、2層目のPCaパネル1を成形する。
【0059】
以上の操作を繰り返し行なうことにより、PCaパネル1を積層状態で順次成形することができる。
そして、このような成形操作に際して、前記吊り上げバー14の下降操作や上昇操作によって、型枠を構成する上下枠12および両側枠13の大まかな位置決めや脱型を行なうことができ、人手による操作を、前記上下枠12の位置の微調整作業や、締結手段22によるこれらの上下枠12と両側枠13との固定作業といった簡素な作業に集約することができるので、成形操作全体を簡便なものとすることができる。
【0060】
また、本実施形態においては、前記上下枠12の上昇および下降を、この上下枠12に取り付けられている係合片24とガイド柱23のフランジ部23aとの係合によって案内するようになっていることから、上昇による脱型操作時あるいは下降による枠組み操作時において、前記両上下枠12および両側枠13の水平方向への位置ずれを最小限度に抑えることができ、この点からも、成形操作を容易にする。
【0061】
一方、前述した吊り上げバー14の上昇下降を行なうための昇降手段16として、クレーンを用いることがあげられるが、その他の手段として、図12に示すように、前記定盤11に立設されている前記ガイド柱23を利用して、2次元的に移動する走行装置29を設置しておき、この走行装置29に昇降機構30を取り付け、この昇降機構30によって前記吊り上げバー14を上下動させるようにすることも可能である。
【0062】
さらに、成形領域を確保することができる場合にあっては、この成形領域を隣接して複数確保しておき、図13に示すように、一つの成形領域Aにおいて第1のPCaパネル1を成形し、ついで、前記上下枠12および側枠13の固定を解除した後にこれらの上下枠12および側枠13を上昇させつつ脱型した後に、PCa製造装置10を隣接する他の成形領域Bへ移動させて枠組みするとともに、これらの型枠内にコンクリートを打設して第2のPCaパネルを隣接して成形し、さらに、この第2のPCaパネルから前記型枠を脱型するとともに、PCa製造装置10を既に成形された前記第1のPCaパネルの上方に戻して、この第1のPCaパネル1を支持体として枠組みした後に、この枠内にコンクリートを打設して第3のPCaパネルを成形し、これらの操作を繰り返し行なうことにより、定盤11上の隣接する複数箇所においてPCaパネルを交互に順次積層状態で成形することもできる。
【0063】
これによつて、一組の型枠によつて2位置での成形を可能にして生産性を高めることができる。
また、隣接する一方の領域Aで成形したPCaパネルに所定強度が発現した時点で、このPCaパネルから脱型した型枠を隣接する他方の領域Bに移動して枠組みすることにより、前記一方の領域Aで成形したPCaパネルの養生期間中に、他方の領域Bで配筋やコンクリート打設等を行なってつぎのPCaパネルの成形作業を行なうことができるので、2つの領域での成形作業を重畳させて生産性を高めることができる。
【0064】
なお、前述した実施形態において示した各構成部材の形状等は一例であって、設計要求等に基づき、種々変更可能である。
たとえぱ、前記両カム機構17に設けられるカム溝18どうしを、上方に行くに従い漸次離間する方向に傾斜させた構成としたり、また、前記吊り上げバー14を前記上下枠12間および側枠13間の両方に掛け渡すように設け、前記吊り上げバー14と前記上下枠12間および側枠13との間に、前記カム機構17が設けられた連結手段15を設けることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1の実施形態によって成形されるプレキャストコンクリート部材であるPCaパネルの形状および施工方法を示す正面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態を示す外観斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態を示す要部の拡大平面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態を示す要部の拡大縦断面側面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態を示すもので、連結手段の外観斜視図である。
【図6】本発明の第1の実施形態を示す要部の拡大縦断面側面図である。
【図7】本発明の第1の実施形態を示す要部の拡大縦断面側面図である。
【図8】本発明の第1の実施形態を示す要部の拡大縦断面側面図である。
【図9】本発明の第1の実施形態を示す要部の拡大縦断面側面図である。
【図10】本発明の第1の実施形態を示す要部の拡大縦断面側面図である。
【図11】本発明の第1の実施形態を示す要部の拡大縦断面側面図である。
【図12】本発明の他の実施形態を示す側面図である。
【図13】本発明の他の実施形態を示す正面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 PCaパネル(プレキャストコンクリートパネル)
2 接続鉄筋
3 継ぎ手スリーブ
4 コッター筋
10 プレキャストコンクリートパネルの製造装置(PCa製造装置)
11 定盤
12 上下枠
13 側枠
14 吊り上げバー
15 連結手段
16 昇降手段
17 カム機構
18 カム溝
19 カムプレート
20 ガイドピン
21 抜け止めリング
22 締結手段
23 ガイド柱
23a フランジ部
23b 貫通口
24 係合片
25 吊り金具
26 溝
27 補強鉄筋
28 プレート
29 走行装置
30 昇降機構
C コンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリート部材の成形作業を行なう定盤と、この定盤上に略平行に設置される上下枠と、これらの上下枠の長さ方向に間隔を置いて略平行に設置される一対の側枠と、これらの上下枠間若しくは側枠間の少なくとも一方に掛け渡される吊り上げバーと、この吊り上げバーと前記上下枠間若しくは側枠間に設けられて、これらを上下に相対移動可能に係合させる一対の連結手段と、前記吊り上げバーを介して前記上下枠若しくは側枠を昇降させる昇降手段とを備え、前記各連結手段に、前記吊り上げバーの上下動に伴って、前記上下枠若しくは側枠を互いに接近離間する方向に移動させるカム機構が設けられていることを特徴とするプレキャストコンクリート部材の製造装置。
【請求項2】
前記各カム機構が、前記上下枠若しくは側枠に取り付けられて、鉛直方向に対して傾斜したカム溝を備えたカムプレートと、前記吊り上げバーに取り付けられて前記カム溝に摺動可能に係合させられるガイドピンとによって構成されていることを特徴とする請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の製造装置。
【請求項3】
前記両カム機構に設けられたカム溝同士が、下方に行くに従い漸次離間する方向に傾斜させられていることを特徴とする請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の製造装置。
【請求項4】
前記両カム機構に設けられたカム溝同士が、上方に行くに従い漸次離間する方向に傾斜させられていることを特徴とする請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の製造装置。
【請求項5】
前記吊り上げバーが前記上下枠間および側枠間の両方に掛け渡されているとともに、前記吊り上げバーと前記上下枠間および側枠との間に、前記カム機構が設けられた連結手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の製造装置。
【請求項6】
前記定盤には、前記吊り上げバーを上下動させる昇降機構が設置されていることを特徴とする請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の製造装置。
【請求項7】
前記定盤には、前記昇降機構を水平方向に2次元的に移動させる走行機構が設けられていることを特徴とする請求項6に記載のプレキャストコンクリート部材の製造装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7の何れかに記載のプレキャストコンクリート部材の製造装置を用い、上下枠および側枠を枠組みし、これらの枠内にコンクリートを打設して第1のプレキャストコンクリート部材を成形し、ついで、前記上下枠および側枠の固定を解除した後にこれらの上下枠および側枠を上昇させつつ脱型し、ついで、前記第1のプレキャストコンクリート部材の上方に、この第1のプレキャストコンクリート部材を支持体として前記上下枠および側枠を枠組みし、ついで、これらの枠内にコンクリートを打設して第2のプレキャストコンクリート部材を成形し、これらの操作を繰り返し行なうことにより、プレキャストコンクリート部材を順次積層状態に成形することを特徴とするプレキャストコンクリート部材の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7の何れかに記載のプレキャストコンクリート部材の製造装置を用い、上下枠および側枠を枠組みし、これらの枠内にコンクリートを打設して第1のプレキャストコンクリート部材を成形し、ついで、前記上下枠および側枠の固定を解除した後にこれらの上下枠および側枠を上昇させつつ脱型し、ついで、これらの枠を前記第1のプレキャストコンクリート部材の側部に移動させて定盤上で枠組みした後に、これらの枠内にコンクリートを打設して第2のプレキャストコンクリート部材を隣接して成形し、ついで、この第2のプレキャストコンクリート部材から前記枠を脱型して、既に成形されている前記第1のプレキャストコンクリート部材の上方に、この第1のプレキャストコンクリート部材を支持体として枠組みした後に、この枠内にコンクリートを打設して第3のプレキャストコンクリート部材を成形し、これらの操作を繰り返し行なうことにより、定盤上の隣接する複数箇所において交互にプレキャストコンクリート部材を順次積層状態で成形することを特徴とするプレキャストコンクリート部材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate