説明

プレキャストコンクリート部材

【課題】簡易に太陽電池を取り付けることができ、かつ、輸送時や施工時の手間を省略することを可能とし、なおかつ、太陽電池の表面の汚れを抑制することを可能としたプレキャストコンクリート部材を提供する。
【解決手段】太陽電池2が配設される取付面11を有する壁部10と、取付面11の下端に沿って形成された排水路20と、排水路20の下側に形成された突出部30と、を備えるプレキャストコンクリート部材1であって、排水路20は当該排水路20に流れ込んだ水が側方に流れるように水勾配が付いていて、突出部30は取付面11よりも前方に突出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート部材に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電によれば、太陽からの放射エネルギーを、二酸化炭素を放出することなくエネルギーに変換して利用することができる。
【0003】
太陽光発電による発電量は、太陽電池の設置面積により決定されるため、発電量をより多く得るためには、太陽電池の設置面積を広くする必要がある。
太陽電池は、建物の屋上などに水平方向に敷き並べて設置するのが一般的であった。ところが、建物の屋上だけでは、太陽電池の設置スペースに限りがある。
【0004】
そのため、建物外壁等に沿って太陽電池を縦方向に並べることで、設置面積を確保する技術が開発されている。
例えば、特許文献1には、垂直な壁面に沿って太陽電池が埋め込まれたプレキャストコンクリート部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−120827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、プレキャストコンクリート部材の表層部に太陽電池が露出しているため、そのままでは平積みすることができず、プレキャストコンクリート部材の輸送時や保管時において、防護工(養生等)に手間を要していた。
【0007】
また、壁面に設置された太陽電池の清掃には手間がかかるため、太陽電池の表面に雨だれ等による汚れが付き難くするための装備を備えるのが望ましいが、その設置作業に手間を要していた。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、太陽電池を取り付けた状態でも平積みすることができ、かつ、太陽電池の表面の汚れを抑制することを可能としたプレキャストコンクリート部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明のプレキャストコンクリート部材は、太陽電池が配設される取付面を有する壁部と、前記取付面の下端に沿って形成された排水路と、前記排水路の下側に形成された突出部と、を備え、前記排水路は、当該排水路に流れ込んだ水が側方に流れるように水勾配が付いていて、前記突出部は、前記取付面よりも前方に突出していることを特徴としている。
なお、太陽電池が配設される取付面は、上下に2段以上設けてもよい。
【0010】
かかるプレキャストコンクリート部材によれば、突出部が平積み時の接触部分になり得るので、太陽電池を設置した状態でも平積みすることが可能となる。
また、水切りとして、排水路を有しているため、太陽電池の表面に雨だれ等による汚れが付き難い。
【0011】
前記取付面から壁部の背面に至る配線用の貫通孔が形成されており、前記壁部の背面に配線用の凹溝が形成されていれば、太陽電池の配線作業が容易となる。
【0012】
前記取付面の法線が、水平面に対して上向きに傾斜していれば発電効率が向上する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のプレキャストコンクリート部材によれば、太陽電池を取り付けた状態でも平積みすることができ、かつ、太陽電池の表面の汚れを抑制することを可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係るプレキャストコンクリート部材を示す斜視図である。
【図2】(a)は同プレキャストコンクリート部材の正面図、(b)は(a)の一部分を示す拡大図である。
【図3】(a)は同プレキャストコンクリート部材の断面図、(b)は(a)の一部分を示す拡大図である。
【図4】同プレキャストコンクリート部材の背面図である。
【図5】(a)および(b)は凹溝を示す拡大断面図である。
【図6】プレキャストコンクリート部材の搬送状況を示す図である。
【図7】プレキャストコンクリート部材の変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態に係るプレキャストコンクリート部材1は、図1に示すように、太陽電池2が配設される取付面11を有する壁部10と、取付面11の下端に沿って形成された排水路20と、排水路20の下側に形成された突出部30と、壁部10の下端に形成された脚部40と、を備えている。
【0016】
プレキャストコンクリート部材1は、バルコニーの先端に設置されて、転落防止用部材として機能する。プレキャストコンクリート部材1は、壁部10と脚部40とにより、断面視L字状に形成されている。
【0017】
壁部10は、バルコニーの先端(建物の外面)に沿って立設される版状部分であって下端に形成された脚部40と一体に形成されている。
【0018】
図2(a)に示すように、壁部10の表面には取付面11が、上下に2段形成されている。
また、図4に示すように、壁部10の背面には、配線用の凹溝12が形成されている。
【0019】
取付面11は、太陽電池2が固定される部分であって、平面に形成されている。なお、取付面11は、デザイン的な配慮から曲面としてもよい。
【0020】
取付面11は、図3(a)に示すように、取付面11の法線11aが水平面hに対して上向きに0°より大きく30°以下の角度により傾斜するように形成されている。つまり、取付面11の下端が上端よりも前方に突出しており、上方から照射される太陽光を受光しやすくなるように形成されている。なお、取付面11の傾斜角度は限定されるものではなく、30°を超えてもよいし、0°でもよい。
【0021】
壁部10には、取付面11から壁部10の背面に至る配線用の貫通孔13が形成されている。
貫通孔13は、取付面11の左右両端部に形成されており、太陽電池2の電気ケーブル等を挿通し、壁部10の背面側に配線することを可能としている。
【0022】
貫通孔13の形成方法は限定されるものではないが、例えば、金属パイプや樹脂製パイプを埋設することにより形成すればよい。
【0023】
貫通孔13は、表面側(取付面11)が背面側よりも低くなるように形成されている。これにより、壁部10の表面から背面への雨水等の浸入が防止される。
【0024】
なお、貫通孔13は、その表面側が、箱抜きにより拡幅されていて、端子ボックス13aが設置されている。太陽電池2から延出する配線ケーブルは、端子ボックス13aに接続される。端子ボックス13aからは、太陽電池2用の電気ケーブルが延設されている。電気ケーブルは、貫通孔13を挿通して、壁部10の背面に配線される。なお、端子ボックス13aは、必要に応じて設置すればよく、省略してもよい。
【0025】
貫通孔13には、太陽電池2用の電気ケーブルを挿通した後、耐火シール等を充填する。また、貫通孔13の表面側は、止水シールにより遮蔽する。
【0026】
凹溝12は、図4に示すように、電気ケーブルの配線を行うために壁部10の背面に形成されている。なお、凹溝12に代えて、壁部10の背面に沿って金属パイプや樹脂製パイプを配置することにより電気ケーブルの配線を可能に構成してもよい。また、凹溝12や端子ボックス13aを省略して、電気ケーブルを壁部10の表面に直接配線してもよい。
【0027】
本実施形態では、凹溝12を、左右の貫通孔13を連結するように形成された上下二段の横溝12a,12bと、上下の横溝12a,12bを連結する縦溝12c,12cと、により形成している。
なお、凹溝12の形状は限定されるものではなく、適宜形成すればよい。また、凹溝12を形成せずに、適宜電線管や電気ボックスを打込んで電線を通線してもよい。
【0028】
上側の貫通孔13を挿通した電気ケーブルは、上側の横溝12aに配線された後、縦溝12cを介して下側の横溝12bに配線される。
下側の横溝12bは、隣接する他のプレキャストコンクリート部材1の横溝12bと接続可能に形成されている。電気ケーブルは、横溝12bに集約された状態で配線されている。
【0029】
凹溝12は、図5(a)に示すように、電気ケーブルの配線後、溝蓋12dにより遮蔽する。これにより、電気ケーブルが露出することがなく、保護される。
なお、凹溝12内への水分の浸入を防止する場合には、図5(b)に示すように、溝蓋12dと壁部10の背面との間に、パッキン12e等を介設する。
【0030】
また、図5(b)に示すように、凹溝12に沿って溝蓋12dを収容する凹部を形成してもよい。
【0031】
壁部10には、図1および図3に示すように、取付面11の上端に沿って治具2aを設置するための取付溝14が形成されている。
なお、取付溝14は必要に応じて形成すればよく、省略してもよい。
【0032】
排水路20は、図1および図2に示すように、太陽電池2に滴下した雨水等を側方に排水するように形成された部分であって、各取付面11の下面に沿ってそれぞれ形成されている。
【0033】
図2(b)に示すように、排水路20には、当該排水路20に流れ込んだ水が側方に流れるように中央から左右に向かって低くなる水勾配iが付いている。
なお、水勾配iは、左右のいずれか一方から他方に流れるように形成されていてもよい。
【0034】
本実施形態では、取付面11の下端に沿って、形成した溝を排水路20としているが、排水路20は必ずしも溝状に形成されている必要はない。例えば、溝を形成せずに、取付面11よりも突出している突出部30の上面を排水路20として使用してもよい。
【0035】
排水路20を流下した水(雨水等)は、プレキャストコンクリート部材1の両端の縦目地に沿って下方へ流下する。
【0036】
壁部10は、上下2段の突出部30,30を備えている。
上側の突出部30は、上側の排水路20と下側の取付面11との間に形成されている。
下側の突出部30は、下側の排水路20と下側に沿って形成されている。
【0037】
突出部30は、上下2段の排水路20の下側に沿ってそれぞれ形成されている。
突出部30は、先端面が取付面11(取付面11に取り付けられた太陽電池2)よりも前方に位置するように形成されている。突出部30の突出長は限定されるものではないが、太陽電池2の表面よりも5mm以上(本実施形態では約15mm)突出するように構成している。
【0038】
突出部30の先端面は帯状であり、図3(a)に示すように、平面を呈している。また、上下の突出部30,30の先端面は、同一平面状に位置している。すなわち、上下に配設された突出部30,30は、互いの先端面から延びる延長線同士が一致するように形成されている。
また、上側の突出部30の先端面から下側の取付面11(取付溝14)との間には、傾斜面が形成されている。
【0039】
太陽電池2は、シート状に形成されたいわゆるフィルム型太陽電池であって、取付面11に貼り付けられている。なお、太陽電池2は、フィルム型太陽電池に限定されるものではない。また、太陽電池2の固定方法も限定されるものではなく、太陽電池2の構成に応じて適宜設定すればよい。
【0040】
太陽電池2は、図3(b)に示すように、その上辺及び下辺(図面では上片のみ示す)が治具2aを介して係止されることで、取付面11からの剥がれが防止されている。
【0041】
治具2aは、断面L字状に形成された部材であって、アンカー2bを介して取付面11の上端および下端に固定されている。
治具2aは、一方の片が取付面11の表面において、太陽電池2の縁部に沿って配設され、他方の片が取付溝14内に挿入される。
なお、治具2aの構成は限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。
また、治具2aおよびアンカー2bの周辺には、止水、隙間埋めおよび太陽電池2の固定のために、適宜シーリングを施工してもよい。
【0042】
脚部40は、壁部10の下端に一体に形成されており、プレキャストコンクリート部材1をバルコニーに設置する際の接続部として機能する。
脚部40の上面には、排水溝が形成されており、バルコニー上面の排水が可能に構成されている。
【0043】
なお、脚部40は、プレキャストコンクリート部材1の使用目的や設置箇所等に応じて形成すればよく、省略してもよい。
【0044】
本実施形態のプレキャストコンクリート部材1によれば、排水路20の水勾配iにより雨水等を縦目地方向に排水することが可能に構成されているため、太陽電池2の表面に雨だれによる汚れが付着することを低減させることができる。
そのため、太陽電池2の表面の清掃に要する手間を省略することが可能となる。
【0045】
また、取付面11の上端に沿って取付溝14が形成されているため、壁部10の表面に沿って上方から流下した雨水等は、取付溝14に沿って左右に流れて、太陽電池2の表面を流れる雨だれの量を最小限に抑えることができる。
【0046】
また、突出部30は、取付面11よりも前方に突出しているため、図6に示すように、当該突出部30が、プレキャストコンクリート部材1を平積みする際の接触面となる。
そのため、太陽電池2を取り付けた状態でプレキャストコンクリート部材1を平積みして搬送することができる。
【0047】
突出部30が太陽電池2の表面よりも突出しているため、プレキャストコンクリート部材1の製造、ストック、運搬、取り付け等における太陽電池2が何かに接触する確率が低減されている。
予め太陽電池2が設置されたプレキャストコンクリート部材1を搬入し、施工することで、現場での作業を少なくし、工期短縮化を図ることができる。
【0048】
凹溝12および貫通孔13内に太陽電池2の電気ケーブルを配線することで、電気ケーブルを保護するとともに、意匠的にも優れている。
【0049】
電気ケーブルは凹溝12に収容した状態で密閉可能なため、工場等においてプレキャストコンクリート部材1への太陽電池2の設置および配線を完了させた状態で、現場に搬入することができる。また、漏水のおそれも少ない。そのため、簡易に高品質施工を実現することができる。
【0050】
太陽電池2は、取付面11に貼り付けることにより設置されているため、経年劣化により太陽電池2を交換する必要が生じた際に、簡易に交換作業を行うことができる。
【0051】
取付面11が上向きに傾斜していることで太陽光を効率的に受光することができる。
【0052】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の各実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【0053】
例えば、プレキャストコンクリート部材の使用目的は限定されるものではない。
また、プレキャストコンクリート部材1の形状寸法は、その使用目的に応じて適宜決定すればよい。例えば、プレキャストコンクリート部材1を建物の外壁として使用する場合には、図7に示すように、版状に形成すればよい。
【0054】
また、前記実施形態では、プレキャストコンクリート部材1に取付面11、排水路20および突出部30を2段ずつ形成するものとしたが、取付面11、排水路20および突出部30の段数は限定されるものではなく、1段でもよいし、図7に示すように3段以上形成してもよい。
【0055】
また、壁部10の背面に形成される凹溝12の形状は限定されるものではなく適宜設定すればよい。
【符号の説明】
【0056】
1 プレキャストコンクリート部材
2 太陽電池
10 壁部
12 凹溝
13 貫通孔
11 取付面
11a 取付面の法線
20 排水路
30 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池が配設される取付面を有する壁部と、
前記取付面の下端に沿って形成された排水路と、
前記排水路の下側に形成された突出部と、を備えるプレキャストコンクリート部材であって、
前記排水路は、当該排水路に流れ込んだ水が側方に流れるように水勾配が付いていて、
前記突出部は、前記取付面よりも前方に突出していることを特徴とする、プレキャストコンクリート部材。
【請求項2】
太陽電池が配設される取付面を上下に2段以上有する壁部と、
前記各取付面の下端に沿って形成された排水路と、
前記各排水路の下側に形成された突出部と、を備えるプレキャストコンクリート部材であって、
前記排水路は、当該排水路に流れ込んだ水が側方に流れるように水勾配が付いていて、
前記突出部は、前記取付面よりも前方に突出していることを特徴とする、プレキャストコンクリート部材。
【請求項3】
前記取付面から壁部の背面に至る配線用の貫通孔が形成されており、
前記壁部の背面には、配線用の凹溝が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプレキャストコンクリート部材。
【請求項4】
前記取付面の法線が、水平面に対して上向きに傾斜していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のプレキャストコンクリート部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−36621(P2012−36621A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176876(P2010−176876)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】