説明

プレキャスト壁高欄同士の接合構造

【課題】道路橋の壁高欄の設置や補修補強を効率的にかつ容易に、しかも強固に行うことのできるプレキャスト壁高欄同士の接合構造を提供する。
【解決手段】接合される一方のプレキャスト壁高欄2の接合端面に設けられたアリ溝3と、接合される他方のプレキャスト壁高欄2の接合端面に設けられ、アリ溝3に挿入された継手板5と、アリ溝3内の継手板5の周囲に充填された無収縮性のモルタル7とから構成する。アリ溝3の内周に表面に凹凸を有する縞付き鋼板からなる鋼板4を取り付ける。継手板5のウエブ部5aは孔開き鋼板から形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレキャスト壁高欄同士の接合構造に関し、主に道路橋の床版部に設置されるプレキャスト壁高欄を橋軸方向に接合するのに適用され、新規の壁高欄の設置および既存の壁高欄の補修補強を効率的かつ容易に、しかも強固に行うことができる。
【背景技術】
【0002】
道路橋の橋梁の床版部の幅員最端部には、主として自動車の視線誘導のため、または自動車両が橋面外へ逸脱するのを防止する目的で壁高欄が設置されている。
【0003】
この種の壁高欄は、一般に現場打ちコンクリートによって構築され、その補修補強もこれまで現場打ちコンクリートによって行なわれていたが、最近では安定した品質、強度、耐久性の向上、省力化、工期短縮、施工環境改善(騒音の低下)等を考慮してJIS工場で製作されるプレキャスト製のプレキャスト壁高欄によっておこなわれている。
【0004】
施工に際しては、既存の壁高欄を撤去した後、床版部の上に新規の壁高欄として複数のプレキャスト壁高欄を床版部の橋軸方向に互いに隣接して設置し、床版部とプレキャスト壁高欄との接合は、床版部とプレキャスト壁高欄との間に無収縮性のモルタルを打設し、硬化後、両者を鉛直方向の結合ボルトによって結合する。
【0005】
また、橋軸方向に隣接するプレキャスト壁高欄どうしの接合は、各プレキャスト壁高欄に設けられた橋軸方向のダクトにPC鋼材を挿入し、緊張して一体的に結合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−88716号公報
【特許文献2】特開2010−121360号公報
【特許文献3】特開2007−148677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したプレキャスト壁高欄同士の接合構造では、PC鋼材によってプレストレスを導入する必要があるため、プレストレスを導入するための装置(ジャッキ)を必要とし、また各プレキャスト壁高欄にPC鋼材を通すためのダクトを設ける必要があり、さらにPC鋼材を緊張する作業などもあって多くの手間がかかり、経済的にもコストが嵩む等の課題があった。
【0008】
また、道路橋の壁高欄には、車両や列車が衝突した際の大きな衝突荷重によって大きな応力(主として曲げ引張応力)が発生するため、衝突時の荷重にも充分耐えられるような構造とすることが望まれていた。
【0009】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、新規の壁高欄の設置および既存の壁高欄の補修補強をきわめて効率的かつ容易に、しかも強固に行なえるようにしたプレキャスト壁高欄同士の接合構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載のプレキャスト壁高欄同士の接合構造は、橋梁の床版部に当該床版部の橋軸方向に互いに隣接して設置されるプレキャスト壁高欄同士の接合構造において、接合される一方のプレキャスト壁高欄の接合端面に設けられたアリ溝と、接合される他方のプレキャスト壁高欄の接合端面に設けられ、前記アリ溝に挿入された継手板と、前記アリ溝内の前記継手板の周囲に充填された無収縮性のモルタルとから構成されてなることを特徴とするものである。
【0011】
本発明は、主に道路橋の既設床版部に設置される壁高欄の設置や補修補強をきわめて効率的かつ容易に行えるようにしたものであり、これまで、この種の壁高欄同士の接合は、主として加工や配筋の必要な鉄筋、プレストレスを導入するための装置等を必要とするPC鋼材などを利用して行われていたが、本発明によれば鉄筋の加工、配筋、PC鋼材によるプレストレスの導入の必要がなく、またプレストレスを導入するための装置も必要とせず、さらにPC鋼材を挿通するためのダクトを設ける必要もPC鋼材を緊張する作業もないので、施工が大幅に簡略化でき、プレキャスト壁高欄の設置や既存の壁高欄の補修補強をきわめて効率的かつ容易に、しかも強固に行うことができる。
【0012】
また特に、接合されるプレキャスト壁高欄の一方の端面に平面視台形状のアリ溝が継手として形成されているため、アリ溝のくさび効果により引抜きに対する抵抗力が大きく、このため車両の衝突時の衝撃に対して接合部が離脱するようなことはなく、壁高欄同士を強固に接合することができる。
【0013】
この場合のプレキャスト壁高欄の大きさは、現場施工時の運搬や架設性能性等を考慮し、さらに構造的平面線形を考慮して3mと5m程度のものが望ましい。
【0014】
また、プレキャスト壁高欄およびプレキャスト壁高欄どうしの接合部に打設されるコンクリートやモルタルは、ひび割れ抑制型で塩害に強く、環境負荷低減にも貢献できる高炉セメント系を基本とした高耐久性コンクリートまたはモルタルがよい。
【0015】
請求項2記載のプレキャスト壁高欄同士の接合構造は、請求項1記載のプレキャスト壁高欄同士の接合構造において、アリ溝の内周に表面に凹凸を有する鋼板が取り付けられていることを特徴とするものである。
【0016】
本発明は、無収縮性のモルタルの付着力を高めて接合部の一体化を図るようにしたものである。この場合の鋼板には縞付き鋼板の他にエンボス鋼板なども利用することができる。
【0017】
請求項3記載のプレキャスト壁高欄同士の接合構造は、請求項1または2記載のプレキャスト壁高欄同士の接合構造において、継手板は孔明き鋼板から形成されていることを特徴とするものである。
【0018】
本発明は、壁高欄同士を特にパーフォボンドリブ(PBL)(孔明き鋼板)接合によって接合することにより、継手板の引抜きに対する抵抗力をさらに高めて接合部の一体化と耐力向上を図るようにしたものである。
【0019】
図2に示すように、継手板がPBL(孔明き鋼板)から形成されていることで、無収縮性モルタルの付着力と引抜力が著しく高められ、これにより継手部の耐力を著しく向上させることができる。
【0020】
また、継手板を挿入する凹溝を平面視台形状のアリ溝とすることにより、継手部の耐力向上と継手部の最少化が可能になり、これにより壁高欄同士の接合を壁高欄の断面寸法内でコンパクトに行うことができる。なお、継手板は二重にしてもよい(Twin-PBL)。
【0021】
請求項4記載の橋梁壁高欄の接合工法は、請求項1〜3のいずれかひとつに記載された橋梁壁高欄の接合工法において、プレキャスト壁高欄の下端面が斜めに形成されていることを特徴とするものである。
【0022】
本発明は、継手部にモルタルやコンクリートを打設する際に、継手部に空気やブリージング水、レイタンス等がこもるのを回避して、モルタルやコンクリートの打設不良による継手部の強度低下を回避するようにしたものである。
【0023】
本発明によれば、プレキャスト壁高欄の下端面が斜めに形成してあることにより、継手部の空気やブリージング水、レイタンスは、モルタルやコンクリートを打設すると同時に傾斜面(テーパ)に沿って継手部の外に排出されることにより継手部に空気やブリージング水等が溜まることはないため、継手部全体にモルタルやコンクリートを隙間無く緻密に打設することができる。
【0024】
なお、この場合の傾斜面(テーパ)は、橋軸直角方向の床版部側に上り勾配に形成してあれば、モルタルやコンクリートの打設は床版部の上で行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、PC鋼材によるプレストレスを導入する必要がないので、プレストレスを導入するための装置を必要とせず、またプレキャスト壁高欄にPC鋼材を挿通するためのダクトを設ける必要も、PC鋼材を緊張する作業もないので、壁高欄の設置や補修補強をきわめて効率的かつ容易に行うことができて作業性がよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】プレキャスト壁高欄からなる橋梁壁高欄の一部斜視図である。
【図2】床版部の橋軸方向に隣接するプレキャスト壁高欄どうしの接合部を示し、(a)はその一部分解斜視図、(b)は図1におけるA部横断面図、(c)は図1におけるA部一部縦断面図である。
【図3】プレキャスト壁高欄の一部斜視図である。
【図4】床版部の一部斜視図である。
【図5】床版部に突設された鉄筋およびその鉄筋に接合して配筋されたL型あるいはCチャンネル型鉄筋を示し、(a)はその一部正面図、(b)は図5(a)におけるイ−イ線断面図である。
【図6】床版部にプレキャスト壁高欄の設置方法示す一部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1〜図6は、本発明の一実施形態を示し、図において、主に道路橋のPC構造またはRC構造の床版部1の幅員両端部に複数のプレキャスト壁高欄2が床版部1の橋軸方向に互いに隣接して設置されている。そして、各プレキャスト壁高欄2は床版部1の上に接合され、かつ床版部1の橋軸方向に互いに接合されている。
【0028】
床版部1の橋軸方向に隣接する各プレキャスト壁高欄2,2間の接合部Aにおいては、接合される一方のプレキャスト壁高欄2の接合端面に、アリ溝3がプレキャスト壁高欄2の上下方向に連続して形成され、当該アリ溝3の内周面に縞付き鋼板からなる鋼板4が取り付けられている。
【0029】
一方、接合される他方のプレキャスト壁高欄2の接合端面には継手5がプレキャスト壁高欄2の上下方向に連続して突設されている。継手5は孔明き鋼板から断面略T字形状に形成され、かつ溶接鉄筋などからなるアンカー鋼材6によって壁高欄2の端部コンクリート内に強固に固定されている。
【0030】
そして、アリ溝3内に継手5のウェブ部5aが挿入され、かつアリ溝3内の継手5のウェブ部5aの周囲に無収縮性モルタル7が充填されている。こうして、床版部1の橋軸方向に隣接する各プレキャスト壁高欄2どうしは、一体的に接合されている(図2参照)。
【0031】
一方、床版部1と各プレキャスト壁高欄2との接合部Bにおいては、床版部1の上に鉛直に突出する複数の鉄筋8が床版部1の橋軸方向および橋軸直角方向に一定間隔おきに配筋されている。また、各鉄筋8に接続されて複数のL型あるいはCチャンネル型鉄筋9が配筋されている(図4参照)。
【0032】
L型あるいはCチャンネル型鉄筋9は、鉄筋8の端部に楕円形の鋼製スリーブ10を介して接合され、かつ床版部1の上で床版部1の橋軸直角方向の鉛直面内で擬似的な閉合継手を形成するように配筋されている。
【0033】
なお、この場合の鉄筋8とL型あるいはCチャンネル型鉄筋9の端部は、鋼製スリーブ10に上下からそれぞれ挿入され、かつ当該鋼製スリーブ10に設けられたくさび孔から鉄筋8とL型あるいはCチャンネル型鉄筋9とのラップ部分にクサビ11を圧入することにより一体的に接合されている(図5参照)。
【0034】
一方、プレキャスト壁高欄2の下端部には、床版部1の橋軸直角方向の鉛直面内で矩形を形成する複数の閉合鉄筋12が床版部1の橋軸方向に一定間隔おきに配筋され(図3参照)、また、当該閉合鉄筋12とL型あるいはCチャンネル型鉄筋9は床版部1の橋軸方向に交互に位置するように配筋されている。
【0035】
そして、L型あるいはCチャンネル型鉄筋9と矩形状の閉合鉄筋12内に通して複数の縦補強筋13が床版部1の橋軸方向に連続して配筋されている。また、床版部1と各プレキャスト壁高欄2との接合部Bにその全体にわたって無収縮モルタル14が打設されている。
【0036】
なお、矩形状の閉合鉄筋12は、図1,3に図示するように、下端部分が橋軸直角方向に水平をなしてほぼ矩形状に配筋されている。
【0037】
矩形状の閉合鉄筋12がこのような形状に配筋されていることにより、接合部Bの隙間を小さくすることができ、これにより接合部Bをコンパクトに施工することができる。
【0038】
プレキャスト壁高欄2の下端部には、無収縮性のモルタルを打設する際の打設性向上と背面の施工性を考慮して、橋軸直角方向の床版部側に登り勾配となるテーパ2aが形成されている。
【0039】
プレキャスト壁高欄2の下端部にテーパ2aが形成されていることで、接合部(継手部)Aの空気は、無収縮モルタルを充填すると同時にテーパ2aに沿って接合部Aの外に排出され、またブリージングやレイタンス等の悪影響も回避できるため、接合部Aの全体に無収縮モルタルを隙間無く緻密に充填することができる。
【0040】
また、床版部1の上にプレキャスト壁高欄2を設置して床版部1に固定するに際しては、床版部1の上にプレキャスト壁高欄2を設置した後、L型あるいはCチャンネル型鉄筋9と矩形状の閉合鉄筋12内に複数の縦補強筋13を床版部1の橋軸方向に連続して配筋し、接合部の両側に型枠15をそれぞれ設置する。そして、床版部1とプレキャスト壁高欄2との接合部に無収縮性モルタル14を打設する。型枠15はモルタル14が硬化次第撤去する(図6参照)。
【0041】
以上の構成により床版部1の幅員端部の上に各プレキャスト壁高欄2が一体的に接合されていることにより、これまでのボルト等による接合では、床版部(既設橋)にボルト締結用のボルト孔を設ける必要があり、また壁高欄の高さ調整も困難であったが、本発明によれば、プレキャスト壁高欄の下端部に配筋されたループ筋と床版部に配筋された既存の補強筋を有効に利用してプレキャスト壁高欄を床版部に接合することにより、床版部にボルト孔を設ける必要がなくなり、また壁高欄の高さ調整も容易に行うことができる。
【0042】
また、床版部1の橋軸方向に隣接するプレキャスト壁高欄2どうしが上記したアリ溝3と継手5と無収縮性モルタル7とからなる接合構造によって一体的に接合され、特に接合されるプレキャスト壁高欄2の一方の接合端面にアリ溝3が継手として形成されているため、そのくさび効果により引抜きに対する抵抗力が大きく、このため車両の衝突時の衝撃に対して接合部が離脱するようなことはなく、強固に抵抗することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、新規の壁高欄の設置と既存の壁高欄の補修補強をきわめて効率的かつ容易に、しかも強固に行うことができる。
【符号の説明】
【0044】
1 床版部
2 プレキャスト壁高欄
2a テーパ
3 アリ溝
4 鋼板
5 継手
5a ウェブ部
6 アンカー鋼材
7 無収縮性モルタル
8 鉄筋
9 L型あるいはCチャンネル型鉄筋
10 鋼製スリーブ
11 クサビ
12 矩形状の閉合鉄筋
13 縦補強筋
14 無収縮性モルタル
15 型枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の床版部に当該床版部の橋軸方向に互いに隣接して設置されるプレキャスト製の壁高欄同士の接合構造において、接合される一方のプレキャスト壁高欄の接合端面に設けられたアリ溝と、接合される他方のプレキャスト壁高欄の接合端面に設けられ、前記アリ溝に挿入された継手板と、前記アリ溝内の前記継手板の周囲に充填された無収縮性のモルタルとから構成されてなることを特徴とするプレキャスト壁高欄同士の接合構造。
【請求項2】
請求項1記載のプレキャスト壁高欄同士の接合構造において、アリ溝の内周に表面に凹凸を有する鋼板が取り付けられていることを特徴とするプレキャスト壁高欄同士の接合構造。
【請求項3】
請求項1または2記載のプレキャスト壁高欄同士の接合構造において、継手板は孔開き鋼板から形成されていることを特徴とするプレキャスト壁高欄同士の接合構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかひとつに記載されたプレキャスト壁高欄同士の接合構造において、プレキャスト壁高欄の下端面が斜めに形成されていることを特徴とするプレキャスト壁高欄同士の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−36206(P2013−36206A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172220(P2011−172220)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(592037907)株式会社デイ・シイ (36)
【出願人】(511192388)開発虎ノ門コンサルタント株式会社 (2)
【出願人】(511192399)株式会社ティ・ケイ・エム・パブリックワークス (2)
【Fターム(参考)】