説明

プレキャスト床版及びその架設方法

【課題】施工コストを安価にすることが可能なプレキャスト床版及びその架設方法を提供すること。
【解決手段】上部継ぎ手鉄筋と下部継ぎ手鉄筋とを備えたプレキャスト床版において、前記上部継ぎ手鉄筋5aにおける張り出し側の基端部における床版本体の橋軸方向端部の上部床版端面11が、下部継ぎ手鉄筋5bにおける張り出し側基端部における床版本体の橋軸方向端部の下部床版端面12よりも、橋軸方向の中央部寄りに変位するように設けられて、前記上部床版端面11と下部床版端面12との間に橋軸直角方向に連続する段部が設けられ、前記各多数の上部継ぎ手鉄筋5aの基端部と、プレキャスト床版2における橋軸方向の前記段部とにより、橋軸直角方向に連続する補強鉄筋用の仮置き収容溝15が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャスト床版及びその架設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図17(a)(b)に示すように、プレキャストコンクリート床版本体20からループ状鉄筋又はループ帯状鋼板21の両端部を突出するように予め埋め込み配置し、プレキャストコンクリート床版本体20の橋軸方向の両端部に、各端部から床版厚み方向へ円弧状に形成されたループ状継手5cを予め突設したループ状継手付きプレキャストコンクリート床版(以下、ループ状継手付きプレキャスト床版、又は単にプレキャスト床版或いは単に床版ともいう)2が知られている(例えば、特許文献1)。
前記のループ状継手付きプレキャスト床版2は、橋軸直角方向に横長の床版であり、このようなループ状継手付きプレキャスト床版2を橋軸方向に並行な隣り合う桁1(図10参照)上に亘って適宜モルタルを介在させて設置される。
【0003】
前記のような床版相互の連結構造としては、図15及び図16に示すように、橋軸直角方向から見て、橋軸方向に突出する互いのループ状継手5cを、間隔をおいて配置又は重ね合わせように配置して(いずれも橋軸直角方向に位置をずらしている)、各ループ状継手鉄筋の直角方向から、ループ状内に、補強鉄筋9を挿入配置し、床版間の間詰め部(連結部14)にコンクリートからなる硬化性材料4を打設し、間隔をおいて隣り合うプレキャストコンクリート床版2相互を一体に接続する構造である(例えば、前記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−83072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図15に示すように、橋軸方向に隣り合うループ状継手付きプレキャスト床版2を接続する場合に、橋軸直角方向の補強鉄筋9をループ状継手5c内に上から落とし込むことができないため、互いのループ状継手5cにより形成されるループ状空間内等に、橋軸直角方向の一端部側から橋軸直角方向の他端側に亘り補強鉄筋9を配置するようになる。この橋軸直角方向の補強鉄筋9を配置する形態として、図10〜図12に示す第1例の長尺鉄筋22を配置する形態と、図13〜図14に示すように短尺鉄筋23を配置する形態の2形態がある。
前記の各鉄筋に用いられる鋼材は、リブ(節)付鉄筋又は(異形)棒鋼である。
【0006】
図10〜図12に示す第1例の形態の場合には、床版2の路肩側端部又は、中央分離体側端部から、ほぼ橋軸直角方向の床版の長さと同じ長さの長い長尺鉄筋22を、クレーンや、高所作業車や長尺鉄筋の吊治具等を用いて、連結部14におけるループ状空間内に挿入している。
この場合に、図10及び図11に示すように、床版2の側方に、桁1に取り付けられた支持部材24に立設又は保持された支柱25に亘って防音壁等の障害物26が設置されている場合には、これらの障害物26が挿入作業の邪魔になるために、同図に点線で示すように一時的に、防音壁等の障害物26を撤去した状態で、同図に矢印で示すように、クレーン等から繰り出された吊金具等により支持した状態で吊り上げると共に矢印で示すように橋軸直角方向に搬送し、プレキャスト床版上の作業員がさらに橋軸直角方向に送るように配設することで、前記の長尺鉄筋22の配設作業を行っていた。
また、図示を省略するが、前記の支柱25の外側に安全ネットが設けられている場合には、長尺鉄筋の挿入作業の障害物となるために、作業員が、挿入作業の障害となる部分の安全ネットを部分的にめくり上げて、挿入作業空間を床版側方に確保した状態で、別の作業員が、前記長尺鉄筋22の挿入作業を行っていた。
【0007】
また、前記のように、防音壁等の障害物26を撤去できない場合には、図13及び図14に示すように、床版2の中間部に、ループ状鉄筋21の断面径を小さくしたループ状鉄筋21を橋軸直角方向に間隔をおいて複数本(図示の場合には、7本)埋め込み配置することで、これらに間隔をおいて隣接する太径のループ状鉄筋21との間で、太径のループ状鉄筋によるループ状継手5cの内径上端レベルと、小径のループ状鉄筋によるループ状継手5cの外径上端レベルとの間で、レベル差を設けることで、挿入空間を確保し、かつ床版2の橋軸直角方向の長さ寸法よりも短い寸法の2本又は複数本の短尺鉄筋23をそれぞれ右方向(図示の場合)と、左方向(図示を省略)とにそれぞれ配置している(適宜2本複数本の短尺鉄筋23を橋軸方向に接近移動して、橋軸直角方向に直列に隣り合う短尺鉄筋23の端部を接近させて配置している)。
前記の場合、挿入する短尺鉄筋23が曲げられて短尺鉄筋23のリブがループ状継手5に当たって抵抗し、人力での挿入作業が困難となる可能性があり、この場合には、図13及び図14に矢印で示すように、挿入する短尺鉄筋23を大ハンマーなどで打撃しながらの挿入作業となり、短尺鉄筋23の破損や、打撃による騒音が発生するという問題がある。
【0008】
また、従来、図18(a)(b)に示すように、プレキャスト床版2から橋軸方向に張り出す上部継ぎ手鉄筋5aと下部継ぎ手鉄筋5bとを上下に間隔をおいて配置すると共に橋軸直角方向に間隔をおいて多数備えたプレキャスト床版2において、プレキャスト床版における橋軸方向の端面であって、前記上部継ぎ手鉄筋5aの張り出し基端側の床版端面6と、下部継ぎ手鉄筋5bの張り出し基端部の床版端面6とが同じ傾斜面の端面とされている形態のプレキャスト床版2とした技術がある(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
図18に示す形態のプレキャスト床版では、上部継ぎ手鉄筋5a及び下部継ぎ手鉄筋5bは、継ぎ手鉄筋の先端部に、圧着グリップ(エンドバンド)3が設けられた圧着グリップ付き継ぎ手鉄筋(又はエンドバンド付き継ぎ手鉄筋)5とされ、上部継ぎ手鉄筋5aと、下部継ぎ手鉄筋5bとの間は、橋軸方向側端部Kが開放されている形態であるので、橋軸方向から橋軸直角方向に延長する補強鉄筋9を配置することができる利点があるものの、従来の場合は、プレキャスト床版を架設したのち、前記のような補強鉄筋の配置方法を採用していたので、プレキャスト床版の架設施工工期が長くなると共に施工コストが高くなるという問題があった。
また、前記の場合には、上部継ぎ手鉄筋5aと下部継ぎ手鉄筋5bの基端側の橋軸方向の端面が、同じ傾斜面であるので、上部継ぎ手鉄筋5aの下側であって下部継ぎ手鉄筋5bの上側との間に、橋軸直角方向の複数の補強鉄筋9を仮保持させるように配置した場合、橋軸方向に隣り合うプレキャスト床版を順次配置すると、後行して架設するプレキャスト床版2における下部継ぎ手鉄筋5bの先端部が、先行して架設されたプレキャスト床版2に配置した補強鉄筋9に干渉するため、プレキャスト床版2を、橋軸直角方向に間隔をおいて隣り合う桁間に渡って橋軸方向に架設することが困難になるという問題がある。
【0010】
また、図17に示す形態のプレキャスト床版の場合には、図8及び図9に示すように、ループ状継ぎ手5cが間詰め部コンクリートを支承するための張り出し支承部7に衝突して、張り出し支承部7が損傷する場合があるという問題があると共に、プレキャスト製床版2を橋軸方向にスライド移動させる場合に、桁1上に設置したソールスポンジからなる緩衝層8がよれて損傷する恐れがあるという問題があった。
本発明は、前記従来の課題を解消することができ、防音壁等の障害物を撤去したり、安全ネットを持ち上げたりすることなく、プレキャスト床版の架設の施工工期を短くすることができ、施工コストを安価にすることが可能なプレキャスト床版及びその架設方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を有利に解決するために、第1発明の橋軸直角方向の補強鉄筋仮置き収容溝付きのプレキャスト床版においては、プレキャスト床版本体から橋軸方向に張り出す上部継ぎ手鉄筋と下部継ぎ手鉄筋とを上下に間隔をおいて配置すると共に橋軸直角方向に間隔をおいて多数備えたプレキャスト床版において、前記上部継ぎ手鉄筋における張り出し側の基端部における床版本体の橋軸方向端部の上部床版端面が、下部継ぎ手鉄筋における張り出し側基端部における床版本体の橋軸方向端部の下部床版端面よりも、橋軸方向の中央部寄りに変位するように設けられて、前記上部床版端面と下部床版端面との間に橋軸直角方向に連続する段部が設けられ、前記各多数の上部継ぎ手鉄筋の基端部と、プレキャスト床版における橋軸方向の前記段部とにより、橋軸直角方向に連続する補強鉄筋用の仮置き収容溝が形成されていること特徴とする。
第2発明では、第1発明の橋軸直角方向の補強鉄筋仮置き収容溝付きのプレキャスト床版において、前記段部は、前記の上部継ぎ手鉄筋の基端側下面に間隔をおいて対向するように、傾斜した上面又は平坦な上面を備えた段部とされ、前記の傾斜した上面又は平坦な上面における一端側が、前記の下部床版端面に接続し、前記の傾斜した上面又は平坦な上面における他端側が、前記の上部床版端面に接続していることを特徴とする。
第3発明の橋軸直角方向の補強鉄筋を仮保持したプレキャスト床版においては、第1発明又は第2発明の橋軸直角方向の補強鉄筋仮置き収容溝付きのプレキャスト床版における仮置き収容溝に、橋軸直角方向の1本又は複数本の補強鉄筋が配置されて、前記の上部継ぎ手鉄筋に設けられた仮吊具により仮保持されていることを特徴とする。
第4発明のプレキャスト床版の架設方法では、第3発明の橋軸直角方向の補強鉄筋を仮保持したプレキャスト床版を、橋軸直角方向に間隔をおいた桁間に渡って配置すると共に、橋軸方向に隣り合う一方の前記プレキャスト床版に仮保持した橋軸直角方向の1本又は複数本の補強鉄筋を、上部継ぎ手鉄筋側又は下部継ぎ手鉄筋側の何れか一方の側に展開して補強鉄筋と継ぎ手鉄筋を結束し、他方の前記プレキャスト床版に仮保持した橋軸直角方向の1本又は複数本の補強鉄筋を、上部継ぎ手鉄筋側又は下部継ぎ手鉄筋側の何れか他方の側に展開して補強鉄筋と継ぎ手鉄筋を結束することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によると、第1発明の橋軸直角方向の補強鉄筋仮置き収容溝付きのプレキャスト床版においては、プレキャスト床版本体から橋軸方向に張り出す上部継ぎ手鉄筋と下部継ぎ手鉄筋とを上下に間隔をおいて配置すると共に橋軸直角方向に間隔をおいて多数備えたプレキャスト床版において、前記上部継ぎ手鉄筋における張り出し側の基端部における床版本体の橋軸方向端部の上部床版端面が、下部継ぎ手鉄筋における張り出し側基端部における床版本体の橋軸方向端部の下部床版端面よりも、橋軸方向の中央部寄りに変位するように設けられて、前記上部床版端面と下部床版端面との間に橋軸直角方向に連続する段部が設けられ、前記各多数の上部継ぎ手鉄筋の基端部と、プレキャスト床版における橋軸方向の前記段部とにより、橋軸直角方向に連続する補強鉄筋用の仮置き収容溝が形成されているので、補強鉄筋用の仮置き収容溝に補強鉄筋を配置して仮保持した状態で、プレキャスト床版を架設するべき桁間に渡って順次、橋軸方向に架設しても、先行した架設されたプレキャスト床版の補強鉄筋に、後行して架設されるプレキャスト床版における継ぎ手鉄筋先端部が、橋軸直角方向の補強鉄筋に干渉することがないので、プレキャスト床版の架設を補強鉄筋と共に搬送することができ、プレキャスト床版の搬送と共にこれに付属させて補強鉄筋の搬送が同時に可能になり、また、補強鉄筋をプレキャスト床版に付属させているため、補強鉄筋の搬送時の取り扱い性が向上し、補強鉄筋を含めたプレキャスト床版を容易に短工期で架設することができ、施工コストを格段に安価にすることができる等の効果が得られる。
第2発明では、第1発明の橋軸直角方向の補強鉄筋仮置き収容溝付きのプレキャスト床版において、前記段部は、前記の上部継ぎ手鉄筋の基端側下面に間隔をおいて対向するように、傾斜した上面又は平坦な上面を備えた段部とされ、前記の傾斜した上面又は平坦な上面における一端側が、前記の下部床版端面に接続し、前記の傾斜した上面又は平坦な上面における他端側が、前記の上部床版端面に接続しているので、第2発明によると、上部継ぎ手鉄筋の下側における床版端部上に、傾斜した上面又は平坦な上面に補強鉄筋を配置して、下部継ぎ手鉄筋基端側の床版端部から、補強鉄筋を突出させないようにして、プレキャスト床版に配置して搬送設置することができる等の効果が得られる。
第3発明の橋軸直角方向の補強鉄筋を仮保持したプレキャスト床版においては、第1発明又は第2発明の橋軸直角方向の補強鉄筋仮置き収容溝付きのプレキャスト床版における仮置き収容溝に、橋軸直角方向の1本又は複数の補強鉄筋が配置されて、前記の上部継ぎ手鉄筋に設けられた仮吊具により仮保持されているので、補強鉄筋を多数の上部継ぎ手鉄筋により容易に支持させることができる等の効果が得られる。
第4発明のプレキャスト床版の架設方法では、第3発明の橋軸直角方向の補強鉄筋を仮保持したプレキャスト床版を、橋軸直角方向に間隔をおいた桁間に渡って架設すると共に橋軸方向に間隔をおいて干渉することなく容易に架設することができ、また、橋軸方向に隣り合う一方の前記プレキャスト床版に仮保持した橋軸直角方向の1本又は複数の補強鉄筋を、上部継ぎ手鉄筋側又は下部継ぎ手鉄筋側の何れか一方の側に展開して継ぎ手鉄筋相互を結束し、他方の前記プレキャスト床版に仮保持した橋軸直角方向の1本又は複数本の継ぎ手鉄筋を、上部継ぎ手鉄筋側又は下部継ぎ手鉄筋側の何れか他方の側に展開して継ぎ手鉄筋相互を結束するので、橋軸方向に隣り合う一方及び他方のプレキャスト床版からそれぞれ、補強鉄筋を上部継ぎ手鉄筋側及び下部継ぎ手鉄筋側に容易に配置して、橋軸方向に隣り合うプレキャスト床版の継ぎ手鉄筋と補強鉄筋を容易に結束することができ、プレキャスト床版の架設が容易で短工期に施工することができ、施工コストの安価なプレキャスト床版の架設方法とすることができる等の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態の橋軸直角方向の継ぎ手鉄筋仮置き収容溝付のプレキャスト床版を示すものであって、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図2】図1(a)のa−a線断面図である。
【図3】(a)は、橋軸直角方向の継ぎ手鉄筋を仮保持したプレキャスト床版を示す平面図、(b)は(a)の正面図である。
【図4】図3(b)の一部を拡大して示す正面図である。
【図5】(a)は橋軸直角方向の継ぎ手鉄筋を仮保持したプレキャスト床版を、橋軸直角方向に隣り合う桁間に渡って配置すると共に橋軸方向に継ぎ手鉄筋が重なり代を有するように配置した状態を示す正面図、(b)は(a)の状態から複数の橋軸直角方向の補強鉄筋を橋軸方向に間隔をおいて、上部継ぎ手鉄筋側と下部継ぎ手鉄筋側に、それぞれ展開して配置した状態を示す正面図である。
【図6】図5(b)の平面図で、隣り合うプレキャスト床版の継ぎ手に渡って橋軸直角方向に延長するように補強鉄筋を配筋した状態を示す平面図である。
【図7】図6に示す状態から、橋軸方向に隣り合う床版の目地部にコンクリート又は無収縮モルタルを充填した状態を示す平面図である。
【図8】従来のループ状継手付きプレキャストコンクリート床版を橋軸方向に直列に並べて設置する場合の説明図である。
【図9】図8に示す場合に、一方のループ状継手付きプレキャストコンクリート床版におけるループ継手が、他方のループ状継手付きプレキャストコンクリート床版における張り出し支承部に干渉して、前記の張り出し支承部を損傷している状態を示す縦断正面図である。
【図10】橋軸方向に隣り合う床版間に橋軸直角方向の継ぎ手鉄筋を配置する場合の第1例を説明するための橋軸方向から見た一部縦断正面図である。
【図11】図10の一部を拡大して示す図である。
【図12】橋軸方向に隣り合う床版間に橋軸直角方向の継ぎ手鉄筋を配置する場合の第1例を説明するための平面図である。
【図13】従来のループ状継手を有する隣り合うPCa床版相互の連結方法の第2例を説明するための橋軸方向から見た一部縦断正面図である。
【図14】図13に示す第2例の一部を拡大し、かつ正面から見た図である。
【図15】床版相互の連結部に橋軸直角方向の鉄筋を配置した従来の床版相互の連結構造を示す橋軸直角方向から見た縦断側面図である。
【図16】図15示す従来の床版相互の連結部にコンクリートを充填した常態を示す縦断側面図である。
【図17】プレキャスト床版の一例を示すものであって、(a)は平面図、(b)は縦断正面図である。
【図18】プレキャスト床版の他の例を示すものであって、(a)は平面図、(b)は(a)のb―b断面図である。
【図19】本発明のプレキャスト床版の連結構造とした場合と、従来のプレキャスト床版の連結構造とした場合の目地間隔の相違を示すための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0015】
図1及び図2には、本発明の一実施形態の橋軸直角方向の継ぎ手鉄筋仮置き収容溝付のプレキャスト床版2が示され、図1(a)は平面図、図1(b)は正面図、図2は、図1(a)のa−a線断面図である。
【0016】
所定の長さ寸法の鉄筋の両端部に鋼製筒状体3が嵌合されると共に、鉄筋に押し潰し変形されて圧着固定された圧着グリップ(エンドバンド)10が形成され、圧着グリップ付き継手鉄筋(エンドバンド付き継ぎ手鉄筋)からなる上部継ぎ手鉄筋5a及び下部継ぎ手鉄筋5bが構成されている。
【0017】
前記の圧着グリップ付き継手鉄筋からなる上部継ぎ手鉄筋5a及び下部継ぎ手鉄筋5bは、鉄筋に加熱成形等の熱間加工を必要としないので、市販の安価な鉄筋を使用でき、また、鋼製筒状体3も市販の安価な部材を使用することができ、鋼製筒状体3の長さの自由度もある。また、鉄筋の端部を徐々に拡大する拡径端部を有する特注の鉄筋を使用する場合に比べて、本発明において使用する圧着グリップ付き継手鉄筋からなる上部継ぎ手鉄筋5a及び下部継ぎ手鉄筋5bは、市販の各種の鉄筋および鋼製筒状体を利用でき、製造の自由度が格段に高く、製造も容易である。
前記のような圧着グリップ付き継手鉄筋からなる上部継ぎ手鉄筋5a及び下部継ぎ手鉄筋5bが、床版鉄筋の一部として上部および下部の所定の位置に、かつ圧着グリップ10が橋軸方向の両端部に位置するように配置され、前記鉄筋の中間部を埋め込むようにコンクリートが打設硬化されて、圧着グリップ式継手付きプレキャストコンクリート床版2が構成されている。
【0018】
そして、本発明の圧着グリップ式継手付きプレキャストコンクリート床版2では、前記の圧着グリップ付き継手鉄筋からなる上部継ぎ手鉄筋5a及び下部継ぎ手鉄筋5bを、プレキャスト鉄筋コンクリート製床版又はこれにプレストレスが導入されているプレキャスト鉄筋コンクリート製の床版の継ぎ手鉄筋に適用している。
そして、前記上部継ぎ手鉄筋5aにおける張り出し側の基端側における縦側面からなる橋軸方向端部の上部床版端面11が、下部継ぎ手鉄筋5bにおける張り出し側基端部における床版本体の橋軸方向端部の縦側面からなる下部床版端面12よりも、橋軸方向の中央部寄りに変位するように設けられて、前記上部継ぎ手鉄筋5aにおける基端側であって、前記上部床版端面11と下部床版端面12との間に橋軸直角方向に連続する傾斜面又は平坦面6を備えた段部13が設けられ、前記各多数の上部継ぎ手鉄筋5aによる上部継ぎ手鉄筋郡の基端部と、プレキャスト床版2における橋軸方向の前記傾斜面又は平坦面6を含む段部13とにより、橋軸直角方向の継ぎ手鉄筋用の仮置き収容溝15が、橋軸直角方向に連続して延長するように形成されたプレキャスト床版2とされている。
【0019】
そして、本発明のプレキャスト床版2においては、図3に示すように、橋軸方向の各上部継ぎ手鉄筋5aの下側における前記の仮置き収容溝15に、図3に示すように、補強鉄筋9が橋軸直角方向に延長するように1本又は複数本配置されて、鋼線或は番線等の仮保持具16により、上部継ぎ手鉄筋5aの基端側に吊り下げるように仮保持されて配置されている。
図示形態では、鋼線からなる仮保持具16が各補強鉄筋9全体の下側の前後から抱き込むように配置されて、上部継ぎ手鉄筋5a上で、鋼線の両端部が互いに巻回するようにねじることで、上部継ぎ手鉄筋5aに、各補強鉄筋9が確実に固定されている。
【0020】
前記のように、補強鉄筋9が仮保持された状態で、プレキャスト鉄筋コンクリート製床版2が、適宜搬送されて、桁間に渡って配置されると共に、橋軸方向に直列に設置され、橋軸方向に隣り合うプレキャスト床版2の端部に所定の間詰め部14の間隙を保って、設置される。
その後、橋軸方向に隣り合うプレキャスト床版2間に渡って、型枠(図示を省略)を配設して、前記仮保持具16を撤去すると共に、図5(b)及び図6に示すように、橋軸方向一方及び他方の各補強鉄筋9を、上部継ぎ手鉄筋5aの下側又は下部継ぎ手鉄筋5bの上側にそれぞれ配置して、補強鉄筋9と上部継ぎ手鉄筋5a又は下部継ぎ手鉄筋5bに、番線等により固定する。
【0021】
そして、図7に示すように、間詰め部14に、コンクリート(又は無収縮モルタル等の硬化性材料4を充填すると共に、適宜、桁1に固定されたスタッドジベルを埋め込むように各プレキャスト床版2の凹部に硬化性材料が充填されることで、橋軸方向に隣り合うプレキャスト床版2相互の一体化、及び桁1との一体化が行われる。
【0022】
前記上部床版端面と下部床版端面との間は、橋軸直角方向に連続する傾斜面でも、平坦面でもよく、上部継ぎ手鉄筋5aの基端部とプレキャスト床版2の橋軸方向の端部に、橋軸直角方向に連続した仮置き収容溝15が設けられていればよく、概略断面形態としては、ほぼ矩形状等の仮置き収容溝15が形成されている。
【0023】
図示の実施形態では、前記の傾斜した上面又は平坦な上面における下部レベル側の一端側が、前記の下部床版端面12に接続し、前記の傾斜した上面又は平坦な上面における上部レベル側の他端側が、前記の上部床版端面に接続していることで、橋軸方向端部のプレキャスト床版の端面の形態が簡単な断面形状とすることができ、また、プレキャスト床版における下部継ぎ手鉄筋5b下側の厚み寸法も厚くすることができ、剛性を向上させることができる。
【0024】
前記実施形態では、橋軸直角方向の継ぎ手鉄筋仮置き収容溝付きのプレキャスト床版2における仮置き収容溝15に、複数の橋軸直角方向の補強鉄筋9が配置されて、前記の上部継ぎ手鉄筋5aに設けられた鋼線からなる仮保持16により上部継ぎ手鉄筋5aに吊り下げるように仮保持する形態を示したが、本発明を実施する場合、床版側の傾斜面又は平坦面6と、上部継ぎ手鉄筋5aと、仮保持16とが共同して、補強鉄筋9を仮保持するようにしてもよい。
【0025】
次に、本発明のプレキャスト床版の架設方法について説明すると、図3に示すような橋軸直角方向の継ぎ手鉄筋を仮保持したプレキャスト床版2を、適宜、クレーン等により吊り上げるか、既に連結された既設のプレキャスト床版2上を走行する簡易クレーンにより吊り上げて、橋軸直角方向に間隔をおいて並行する複数の桁1間に渡って架設配置すると共に、橋軸方向に隣り合う一方の前記プレキャスト床版2に仮保持した橋軸直角方向の複数の補強鉄筋9を、橋軸方向に所定の間隔をおくように、上部継ぎ手鉄筋5a側又は下部継ぎ手鉄筋5b側の何れか一方の側に展開して継ぎ手鉄筋と補強鉄筋9を結束し、他方の前記プレキャスト床版2に仮保持した橋軸直角方向の複数の補強鉄筋9を、橋軸方向に所定の間隔をおくように、上部継ぎ手鉄筋5a側又は下部継ぎ手鉄筋5b側の何れか他方の側に展開して上部継ぎ手鉄筋5a又は下部継ぎ手鉄筋5bと補強鉄筋9相互を番線等により結束又は溶接等により固定するようにして、橋軸方向に直列に、プレキャスト床版2を順次架設し、橋軸方向に隣り合う床版間に渡って適宜型枠を配設して、間詰め部14にコンクリート(又は無収縮モルタル)からなる硬化性材料4を充填・固化して、橋軸方向に隣り合うプレキャスト床版2の連結一体化を図る。
【0026】
なお、図19の上下に示すように、本発明に用いるエンドバンド付きの継ぎ手鉄筋5(5a,5b)を備えたプレキャスト床版2の場合は、これを製作する場合のプレキャスト床版の巾を、工場生産ラインの幅+接合幅(≦輸送可能幅)とすることができ、この床版幅Lで割り付けが行えるため、ループ継ぎ手5を有するプレキャスト床版2の床版幅L2の場合より、床版枚数を低減することができ、床版架設の所要工程を短縮することができる。
【0027】
本発明を実施する場合、プレキャスト床版2としては、橋軸方向の一端側の板厚方向の上下部に、継ぎ手を備えている形態の床版でもよい。
また、本発明を実施する場合に、複数の補強鉄筋9を同時に取り扱つかって上部継ぎ手鉄筋5a又は下部継ぎ手鉄筋5bに支持させる場合に、複数の補強鉄筋9を鋼線等により仮結束した状態で、仮保持具16により上部継ぎ手鉄筋5a又は下部継ぎ手鉄筋5bに支持させるようにしてもよい。この場合には、鋼線等による仮結束と仮保持具16を撤去したのち、補強鉄筋9を橋軸方向に展開するようにすればよい。
仮置き収容溝15に配置する補強鉄筋9の本数としては、1本又は、2本又は4本等の複数本であってもよく、また、一方の仮置き収容溝15に配置する補強鉄筋9の本数と、他方の仮置き収容溝15に配置する補強鉄筋9の本数とが、異なる本数であってもよい。
なお、図中、符号18は、床版2の下側に桁に対応する位置に設けられる凸部である。
【符号の説明】
【0028】
1 桁
2 プレキャスト床版(プレキャストコンクリート床版)
3 鋼製筒状体
4 硬化性材料(コンクリート)
5a 上部継ぎ手鉄筋
5b 下部継ぎ手鉄筋
5c ループ状継手
6 端面(傾斜面、又は平坦面)
7 張り出し支承部
8 緩衝層
9 補強鉄筋
10 圧着グリップ(エンドバンド)
11 上部床版端面
12 下部床版端面
13 段部
14 床版間の間詰め部(連結部)
15 仮置き収容溝
16 仮保持具
18 凸部
20 プレキャストコンクリート床版本体
21 ループ状鉄筋又はループ帯状鋼板
22 長尺鉄筋
23 短尺鉄筋
24 支持部材
25 支柱
26 障害物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャスト床版本体から橋軸方向に張り出す上部継ぎ手鉄筋と下部継ぎ手鉄筋とを上下に間隔をおいて配置すると共に橋軸直角方向に間隔をおいて多数備えたプレキャスト床版において、前記上部継ぎ手鉄筋における張り出し側の基端部における床版本体の橋軸方向端部の上部床版端面が、下部継ぎ手鉄筋における張り出し側基端部における床版本体の橋軸方向端部の下部床版端面よりも、橋軸方向の中央部寄りに変位するように設けられて、前記上部床版端面と下部床版端面との間に橋軸直角方向に連続する段部が設けられ、前記各多数の上部継ぎ手鉄筋の基端部と、プレキャスト床版における橋軸方向の前記段部とにより、橋軸直角方向に連続する補強鉄筋用の仮置き収容溝が形成されていることを特徴とする橋軸直角方向の補強鉄筋仮置き収容溝付きのプレキャスト床版。
【請求項2】
前記段部は、前記の上部継ぎ手鉄筋の基端側下面に間隔をおいて対向するように、傾斜した上面又は平坦な上面を備えた段部とされ、前記の傾斜した上面又は平坦な上面における一端側が、前記の下部床版端面に接続し、前記の傾斜した上面又は平坦な上面における他端側が、前記の上部床版端面に接続していることを特徴とする請求項1に記載の橋軸直角方向の補強鉄筋仮置き収容溝付きのプレキャスト床版。
【請求項3】
請求項1又は請求項2の橋軸直角方向の補強鉄筋仮置き収容溝付きのプレキャスト床版における仮置き収容溝に、橋軸直角方向の1本又は複数の補強鉄筋が配置されて、前記の上部継ぎ手鉄筋に設けられた仮吊具により仮保持されていることを特徴とする橋軸直角方向の補強鉄筋を仮保持したプレキャスト床版。
【請求項4】
請求項3の橋軸直角方向の補強鉄筋を仮保持したプレキャスト床版を、橋軸直角方向に間隔をおいた桁間に渡って配置すると共に、橋軸方向に隣り合う一方の前記プレキャスト床版に仮保持した橋軸直角方向の1本又は複数の補強鉄筋を、上部継ぎ手鉄筋側又は下部継ぎ手鉄筋側の何れか一方の側に展開して補強鉄筋と継ぎ手鉄筋を結束し、他方の前記プレキャスト床版に仮保持した橋軸直角方向の1本又は複数の補強鉄筋を、上部継ぎ手鉄筋側又は下部継ぎ手鉄筋側の何れか他方の側に展開して補強鉄筋と継ぎ手鉄筋を結束することを特徴とするプレキャスト床版の架設方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−62664(P2012−62664A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206776(P2010−206776)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000103769)オリエンタル白石株式会社 (136)
【出願人】(396016504)株式会社富士ボルト製作所 (21)
【Fターム(参考)】