説明

プレコートアルミニウム板

【課題】400℃以上の高温に耐え、大量生産性が良好かつ安価で、加工性に優れたプレコートアルミニウム板を提供する。
【解決手段】本発明に係るプレコートアルミニウム板1は、アルミニウム板2の表面に耐熱性皮膜3が形成されたプレコートアルミニウム板であって、前記耐熱性皮膜3は、水性樹脂およびケイ酸塩化合物を含み、水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率が0.8以上7以下であり、膜厚が0.2μm以上20μm以下であることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の排気系部材、家電製品の耐熱構造部材などの高温環境下で使用されるアルミニウム板およびアルミニウム合金板に係り、塗装によりアルミニウム板の表面に耐熱性皮膜を設けたプレコートアルミニウム板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排気系部材や家電製品の耐熱構造部材などの高温で使用されるアルミニウム板(アルミニウム合金板を含む。以下同じ。)の表面処理は、従来、アルミニウム板を製品形状に成形してから耐熱性の高い無機皮膜やシリコーン樹脂皮膜を形成するポストコート方式により行われていた。しかし、表面処理としては、大量生産性、製造工程の簡略化、コスト低減の観点から、成形前のアルミニウム板の表面に予め樹脂皮膜を形成するプレコート方式により行うのが望ましい。
プレコート方式により製造された、耐熱性に優れるプレコート材として、次のようなものが挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、エーテル・エステル型ウレタン樹脂およびエポキシ樹脂にポリオレフィンワックスとシリカを含有することで、プレス加工性と加工後耐熱性に優れた無塗油型有機被覆金属板が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、シリコーン樹脂に低融点フリットおよびアルミニウム粉末、グラファイト粉末、ニッケル粉末を分散させることにより、加工性が良く耐熱性に優れるプレコート鋼板が記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニルスルフィド樹脂、ポリアミドイミド樹脂から選ばれた耐熱樹脂をベースとするプライマ塗膜に、フッ素樹脂を表面濃化させたトップ塗膜を積層することにより耐熱非粘着性を発現できるプレコート鋼板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−192102号公報
【特許文献2】特開2002−361794号公報
【特許文献2】特開2005−262465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車の排気系部材や家電製品の耐熱構造部材などは、実機使用中の温度が400℃以上となる場合がある。
しかしながら、特許文献1に記載のウレタン樹脂やエポキシ樹脂の耐熱温度は高くても200℃程度であり、それ以上の高温環境では樹脂が分解し始める。
【0008】
また、特許文献2に記載のシリコーン樹脂を主成分としたプレコート材は耐熱性が高く、使用温度が200℃を超えても使用することはできるが、シリコーン樹脂は、ウレタン樹脂やエポキシ樹脂といった一般的な樹脂よりも高温で長時間の焼付けを行う必要があり、300℃以上の温度で最低でも1分間の焼付け時間を要する。焼付けが不十分な場合には所定の耐熱性と加工性が確保されないばかりか、コイル状に板を巻いた際にブロッキングが発生するなどの不具合が生じるため、プレコート方式で利用する場合には生産性が低下する。
【0009】
そして、特許文献3に記載のプライマ塗膜として用いられるポリエーテルスルホン樹脂やポリフェニルスルフィド樹脂はエンジニアリングプラスチックとして知られているが、塗料化は容易ではなく、実現できたとしてもコストが割高になる可能性がある。さらに、トップ塗膜に使用されるフッ素樹脂も高価であるため、プレコート鋼板のコストが高くなり好ましくない。
【0010】
本発明は前記状況に鑑みてなされたものであり、400℃以上の高温に耐え、大量生産性が良好かつ安価で、加工性に優れたプレコートアルミニウム板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、水性樹脂およびケイ酸塩化合物の添加比率(質量比率)と膜厚を特定の範囲とすることにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、請求項1に係る発明のプレコートアルミニウム板は、アルミニウム板またはアルミニウム合金板の表面に耐熱性皮膜が形成されたプレコートアルミニウム板であって、前記耐熱性皮膜は、水性樹脂およびケイ酸塩化合物を含み、水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率が0.8以上7以下であり、膜厚が0.2μm以上20μm以下であることを特徴とする。
【0013】
耐熱性皮膜に水性樹脂およびケイ酸塩化合物を含むことによって、400℃以上の高温環境でも耐えることが可能である。耐熱性皮膜中の水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率を0.8以上7以下とすることで、耐熱性皮膜の外観を良好に保つことができる。さらに、耐熱性皮膜の厚さを0.2μm以上20μm以下とすることによって、コイル状となったアルミニウム板に、ロールコーターを使用して連続的に耐熱性皮膜を形成することができるため、大量生産性に優れ、コスト的にも望ましい。また、このプレコートアルミニウム板の耐熱性皮膜は、水性樹脂およびケイ酸塩化合物を含む樹脂皮膜であるので、最高到達温度が300℃未満であって、加熱時間が50秒未満の焼付けを行った場合であっても、耐熱性、加工性の低下がなく、大量生産性の面でも優れる。耐熱性皮膜に含まれる水性樹脂およびケイ酸塩化合物はいずれも安価で入手可能であり、塗布液の調整には何ら特殊な方法を必要としないため、コスト的にも優れる。
【0014】
また、請求項2に係る発明のプレコートアルミニウム板は、アルミニウム板またはアルミニウム合金板の表面に耐熱性皮膜が形成されたプレコートアルミニウム板であって、前記耐熱性皮膜は、水性樹脂およびケイ酸塩化合物を含み、水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率が2.0以上5以下であり、さらに無機顔料を20質量%以上含み、膜厚が2μm以上20μm以下であることを特徴とする。
【0015】
無機顔料の添加によって耐熱性皮膜を着色することができる。無機顔料の添加量を20質量%以上、水性樹脂/ケイ酸塩化合物の重量比率を2.0以上5以下とすることによって、加工性が良好でありながら400℃以上の高温環境に晒されても着色した耐熱性皮膜が変色しないため、加工性および耐熱変色性に優れる。さらに、膜厚を2μm以上20μm以下とすることで、アルミニウム板を十分に被覆することができ、意匠面でも優れる。
【0016】
請求項3に係る発明のプレコートアルミニウム板は、前記耐熱性皮膜上にトップコート皮膜が形成されていることを特徴とする。
【0017】
耐熱性皮膜の上にトップコート皮膜を形成することにより、高い耐熱性を保ちながら、加工性、潤滑性、耐指紋性、耐ブロッキング性等の機能を付与することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るプレコートアルミニウム板は、水性樹脂およびケイ酸塩化合物の添加比率(質量比率)と膜厚を特定の範囲とした耐熱性皮膜を形成しているため、400℃以上の高温に耐え、大量生産性が良好かつ安価で、加工性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1実施形態に係るプレコートアルミニウム板の断面模式図である。
【図2】第1実施形態における第1変形例に係るプレコートアルミニウム板の断面模式図である。
【図3】第1実施形態における第2変形例に係るプレコートアルミニウム板の断面模式図である。
【図4】第1実施形態における第3変形例に係るプレコートアルミニウム板の断面模式図である。
【図5】第2実施形態に係るプレコートアルミニウム板の断面模式図である。
【図6】第2実施形態における第1変形例に係るプレコートアルミニウム板の断面模式図である。
【図7】第2実施形態における第2変形例に係るプレコートアルミニウム板の断面模式図である。
【図8】第2実施形態における第3変形例に係るプレコートアルミニウム板の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面を参照して本発明に係るプレコートアルミニウム板について詳細に説明する。
まず、図1を参照して本発明の第1実施形態に係るプレコートアルミニウム板について説明する。
【0021】
[第1実施形態]
図1に示すように、第1実施形態に係るプレコートアルミニウム板1は、アルミニウム板2の表面に耐熱性皮膜3を形成したものである。
【0022】
[アルミニウム板]
本発明で用いられるアルミニウム板2は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるものである。例えば、JISに規定される1000系の工業用純アルミニウム、3000系のAl−Mn系合金、5000系のAl−Mg系合金などが使用可能である。特に、絞り加工やしごきを行う場合にはJIS H4000に規定するA1050、A1100、A3003、A3004が推奨される。また、強度が望まれる用途に使用する場合には、A5052やA5182が推奨される。調質、板厚については特に制限はなく、目的に応じて種々の調質、板厚を選択することができる。
【0023】
[耐熱性皮膜]
本発明のプレコートアルミニウム板1において、耐熱性皮膜3は耐熱性とともに加工性を付与するために設けられるものである。この耐熱性皮膜3は、生産性やコストを考慮すると、ロールコーターにて連続塗装が可能であり、焼付け炉にて20〜50秒程度の短時間焼付けを行うことができるものが好ましい。
【0024】
第1実施形態に係るプレコートアルミニウム板1の耐熱性皮膜3を形成するためには、水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率が0.8以上7以下であることが必須である。水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率をこの範囲にすることで、耐熱性皮膜の外観を良好に保つことができる。
【0025】
水性樹脂としては、アクリル樹脂、エチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、PVA(ポリビニルアルコール)、PEO(ポリエチレンオキサイド)、CMC(カルボキシメチルセルロース)、またはこれらの混合物等を用いることができる。
【0026】
ケイ酸塩化合物としては、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、またはこれらの混合物等を用いることができる。
【0027】
水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率が0.8未満であると、塗装焼付け直後に皮膜割れが発生するため健全な皮膜を形成することができない。一方、質量比率が7を超えると、耐熱性が低下するため現実的でない。また、増粘により塗装が困難となる。
水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率は、0.9以上とするのが好ましく、2.8以上とするのがより好ましく、3.7以上とするのがさらに好ましい。また、水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率は、6.8以下とするのが好ましい。
水性樹脂とケイ酸塩化合物を合計した含有量は耐熱性皮膜の(固形分として)25質量%以上となるようにするのが好ましい。25質量%以上とすることによって加工性が良好となり、優れた耐熱性を得ることができる。
【0028】
また、耐熱性皮膜3の膜厚は、0.2μm以上20μm以下とすることが必須である。耐熱性皮膜3の膜厚をこの範囲にすることで、コイル状となったアルミニウム板2に対して、ロールコーターを使用して連続的に耐熱性皮膜3を形成できるため大量生産性に優れ、コスト的にも好ましい。
【0029】
耐熱性皮膜3の膜厚が0.2μm未満であると、膜厚制御が難しく、均一に塗装することが困難となり、未塗装部分ができる結果、外観が均一にならず、外観不良となる。また、ピックアップロールとアプリケーターロールの間の圧力を高くする必要があり、ロールが磨耗し易くなる。一方、耐熱性皮膜3の膜厚が20μmを超えると、塗装後の焼付けでフクレやハジキが発生し、外観が悪化する。また、ロールコーターのピックアップロールによる塗料の持ち上げ性が不十分となるため、得られる耐熱性皮膜3は膜厚のバラツキが著しく大きくなる。
耐熱性皮膜3の膜厚は、2μm以上とするのが好ましく、7μm以上とするのがより好ましい。
【0030】
[第1実施形態における第1変形例]
第1実施形態に係るプレコートアルミニウム板1は、図2に示す第1変形例のように、耐熱性皮膜3上にトップコート皮膜4を形成することができる。このようにすれば、高い耐熱性を保ちながら、加工性、潤滑性、耐指紋性、耐ブロッキング性等の機能を付与することができる。
【0031】
[トップコート皮膜]
トップコート皮膜4としては、アクリル樹脂、エチレン樹脂、エポキシ樹脂などの水性樹脂を塗布して形成したものが好ましい。また、トップコート皮膜4には、目的に応じた添加剤を含有させることができる。例えば、潤滑性を向上するためにカルナウバワックス、ポリエチレンワックスなどを含有させることができ、耐指紋性を高めるために光学調整微粒子を含有させることができ、耐ブロッキング性を向上するためにブロッキング防止剤を含有させることができる。これらは使用目的に応じて選択することができ、その種類は特に制限されるものではない。トップコート皮膜4は、前記した各効果を確実に奏するため、膜厚を0.2〜5μmとするのが好ましい。
【0032】
[第1実施形態における第2変形例]
第1実施形態に係るプレコートアルミニウム板1は、図3に示す第2変形例のように、アルミニウム板2と耐熱性皮膜3の間に下地処理皮膜5を形成することができる。このようにすれば、アルミニウム板2に対する耐熱性皮膜3の耐食性および接着性を向上させることができる。
【0033】
[下地処理皮膜]
下地処理皮膜5を形成すると、下地処理皮膜5を形成しない場合よりも耐食性と、アルミニウム板2と耐熱性皮膜3の密着性とを向上させることができる。
下地処理皮膜5としては、Cr、ZrまたはTiを含有する従来公知の皮膜を用いることができる。例えば、リン酸クロメート皮膜、クロム酸クロメート皮膜、リン酸ジルコニウム皮膜、酸化ジルコニウム皮膜、リン酸チタン皮膜、塗布型クロメート皮膜、塗布型ジルコニウム皮膜等を適宜形成することができる。また、必要に応じてこれらに有機成分を含有させてもよい。なお、近年の環境への配慮の観点から六価クロムを含まないリン酸クロメート皮膜や、リン酸ジルコニウム皮膜、酸化ジルコニウム皮膜、リン酸チタン皮膜、塗布型ジルコニウム皮膜などを形成するのが望ましい。
【0034】
この下地処理皮膜5によるCr、ZrまたはTiのアルミニウム板2への付着量(Cr、ZrまたはTi換算値)は、例えば、従来公知の蛍光X線法を用いて比較的簡便かつ定量的に測定することができる。そのため、生産性を阻害することなくアルミニウム板2の品質管理を行うことができる。下地処理皮膜5の付着量は、Cr、ZrまたはTi換算値で10〜50mg/m2程度が望ましい。付着量が10mg/m2未満であると、下地処理皮膜5を形成しない場合と比較して耐食性および密着性の向上効果を期待することができない。なお、下地処理皮膜5の付着量が50mg/m2を超えると、下地処理皮膜5に割れが生じやすくなるので好ましくない。
【0035】
[第1実施形態における第3変形例]
第1実施形態に係るプレコートアルミニウム板1は、図4に示す第3変形例のように、アルミニウム板2と耐熱性皮膜3の間に下地処理皮膜5を形成し、耐熱性皮膜3上にトップコート皮膜4を形成することができる。このようにすれば、耐熱性皮膜3によって高い耐熱性を保ちながら、トップコート皮膜4によって加工性、潤滑性、耐指紋性、耐ブロッキング性等の機能を付与することができ、さらに、下地処理皮膜5によってアルミニウム板2に対する耐熱性皮膜3の接着性を向上させることができる。
なお、トップコート皮膜4は、前記第1変形例で説明したものと同様であり、下地処理皮膜5は、前記第2変形例で説明したものと同様であるので詳細な説明は省略する。
【0036】
[第2実施形態]
次に、図5を参照して本発明の第2実施形態に係るプレコートアルミニウム板について説明する。
図5に示すように、第2実施形態に係るプレコートアルミニウム板1は、アルミニウム板2の表面に、無機顔料6を含む耐熱性皮膜3を形成したものである。耐熱性皮膜3に無機顔料4を含有させることで、耐熱性皮膜3を着色することができる。
なお、アルミニウム板2、耐食性皮膜3のケイ酸塩化合物および水性樹脂については、第1実施形態と同様であるので詳細な説明を省略する。
【0037】
[無機顔料]
無機顔料6は、400℃の高温雰囲気でも分解および変色しない耐熱性を有する顔料を用いるのが好ましく、このような無機顔料4としては酸化チタン、カーボンブラック、黒色焼成顔料(コバルトブラック、マンガン・ビスマスブラック、銅・クロムブラック、銅・マンガン・鉄ブラック等)などの着色顔料や、炭酸カルシウム、バライト粉、タルク、カオリンなどの体質顔料を用いることができる。無機顔料6は、これらの中から選択されるいずれか一種を用いることができるほか、二種類以上を混合して用いることができる。
【0038】
また、無機顔料6としては、亜酸化鉛、亜鉛末、りん酸塩などの防錆顔料、アルミニウム顔料、ニッケル粉、亜鉛末などの金属粉顔料、またはAu、Ag、Pt,Cu、Niなどの導電性顔料を用いることができる。
【0039】
無機顔料6の添加量は、良好な外観を得るため20質量%以上とするのが好ましく、40質量%以上とするのがより好ましい。無機顔料6の添加量が20質量%未満であると、顔料の分散不良により色むらが発生しやすくなる。
なお、無機顔料6の添加量は、耐熱性を確実に得るため62質量%未満とするのが好ましく、58質量%以下とするのがより好ましく、55質量%以下とするのがさらに好ましい。
【0040】
なお、無機顔料6を添加する第2実施形態に係るプレコートアルミニウム板1においては、良好な外観を得るため、膜厚を2μm以上20μm以下とする必要がある。
【0041】
第2実施形態における耐熱性皮膜3の膜厚が2μm未満であると、アルミニウム板1の被覆が不十分のため色むらが生じる。一方、第2実施形態における耐熱性皮膜3の膜厚が20μmを超えると、塗装後の焼付けでフクレやハジキが発生し、外観が悪化する。また、ロールコーターのピックアップロールによる塗料の持ち上げ性が不十分となるため、得られる耐熱性皮膜3は膜厚のバラツキが著しく大きくなる。
第2実施形態における耐熱性皮膜3の膜厚は、7μm以上とするのが好ましく、18μm以下とするのが好ましい。
【0042】
また、第2実施形態における耐熱性皮膜3は、優れた加工性と耐熱変色性を得るため、水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率を2.0以上5以下とする必要がある。このようにすれば、無機顔料を添加しても問題なく加工することができ、さらに、耐熱性皮膜3を大気雰囲気で400℃に熱した後の耐熱性皮膜3の表面に孔径200nm以下の微細孔が形成されず、皮膜が緻密であるため、優れた耐熱変色性を得ることができる。
【0043】
第2実施形態における水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率が2.0未満であると、耐熱性皮膜3を大気雰囲気で400℃に熱した後の耐熱性皮膜3の表面には孔径200nm以下の微細孔が形成されるため、耐熱性皮膜3の表面が粗面化して白化および光沢低下を引き起こし、耐熱変色性に劣る。また、水性樹脂の比率が小さいため、加工性も劣る。一方、第2実施形態における水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率が5を超えると、無機顔料6の添加量が多いため塗料の粘度が高くなり、塗装が困難となる。また、塗料寿命が低下するため好ましくない。
第2実施形態における水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率は、2.3以上とするのが好ましく、2.8以上とするのがより好ましい。また、第2実施形態における水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率は、4.6以下とするのが好ましい。
【0044】
[第2実施形態における第1変形例から第3変形例]
第2実施形態に係るプレコートアルミニウム板1についても、第1実施形態と同様の変形例にて実施可能である。
例えば、図6に示すように、第1変形例として、無機顔料6が添加された耐熱性皮膜3上にトップコート皮膜4を形成したプレコートアルミニウム板1とすることができる。
また、例えば、図7に示すように、第2変形例として、アルミニウム板2と無機顔料6が添加された耐熱性皮膜3の間に、下地処理皮膜5を形成したプレコートアルミニウム板1とすることができる。
さらに、例えば、図8に示すように、第3変形例として、アルミニウム板2と無機顔料6が添加された耐熱性皮膜3の間に下地処理皮膜5を形成し、この耐熱性皮膜3上にトップコート皮膜4を形成したプレコートアルミニウム板1とすることができる。
【0045】
なお、第2実施形態における第1変形例から第3変形例に係るプレコートアルミニウム板1の耐熱性皮膜3以外の構成要素は、第1実施形態およびその第1変形例から第3変形例と同様であるので詳細な説明を省略する。
【0046】
以上、第1実施形態および第2実施形態とこれらの変形例を示して本発明に係るプレコートアルミニウム板1について説明したが、本発明に係るプレコートアルミニウム板1は、本発明の所望の効果を阻害しない範囲で、かつ必要に応じて他の成分を含有させることもできる。
例えば、プレス成形性をより高めるために、パーム油、カルナウバワックス、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの潤滑剤を一種または二種以上を耐熱性皮膜3中に含有させることができる。また、耐熱性皮膜3は、塗料の塗装性およびプレコート金属板としての一般的な性能を確保するため、通常用いられる顔料、顔料分散剤、流動性調節剤、レベリング剤、ワキ防止剤、防腐剤、安定化剤、耐ブロッキング防止剤などを含有させることができる。
【0047】
さらに、耐熱性皮膜3とアルミニウム板2の間の密着性を高めるために、耐熱性皮膜3と、金属板および/または下地処理皮膜5との間に、下塗り層を設けてもよい。これにより、プレコートアルミニウム板1の成形性をより向上させることができる。
下塗り層としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、シリカ系皮膜などを挙げることができる。
【0048】
以上に説明した本発明に係るプレコートアルミニウム板1は、所定の形状に成形してマフラーなどの自動車の排気系部材や、ガスコンロ、電子レンジ、オーブンなどの家電製品の耐熱構造部材として使用することができる。
【実施例】
【0049】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して本発明に係るプレコートアルミニウム板についてより具体的に説明する。
【0050】
[第1実施例]
はじめに、無機顔料を添加しない耐熱性皮膜を形成したプレコートアルミニウム板について具体的に説明する。
【0051】
まず、アルミニウム板(JIS 1100H26材、板厚0.3mm)に対し、下地処理としてリン酸クロメート処理を施し、Cr換算で20mg/m2のリン酸クロメート皮膜を両面に形成した。
【0052】
次いで、下記表1に示すケイ酸塩化合物および水性樹脂を表1に示す質量比率で混合して、各塗料を調製した。調製した塗料を、ロールコーターを用いてアルミニウム板に塗布し、焼付温度200℃、加熱時間30秒間の条件で焼付処理して表1に示す膜厚を有する耐熱性皮膜を形成し、実施例1〜6および比較例1〜7のプレコートアルミニウム板を作製した。渦電流式膜厚計を用いて各プレコートアルミニウム板の耐熱性皮膜の膜厚を測定した。下記表1に併せて示す。
なお、実施例4には、表1に示す樹脂を用いて耐熱性皮膜の上にトップコート皮膜を形成した。トップコート皮膜は耐熱性皮膜と同様にロールコーターを用いて、200℃、30秒間や焼付け処理して形成した。トップコート皮膜の膜厚は2μmであった。
また、実施例6には、水性樹脂およびケイ酸塩化合物のほかにポリエチレンワックスを添加して、水性樹脂とケイ酸塩化合物の合計含有量が25%となるように調製した塗料を用いて耐熱性皮膜を形成した。
【0053】
なお、塗料を塗布したアルミニウム板の加熱方式は、塗料を塗布したアルミニウム板がオーブンの入口から出口へ移動する連続焼付け方式とし、アルミニウム板がオーブン内を通過する時間を加熱時間とし、これを30秒に調整した。また、アルミニウム板に貼り付けたヒートラベルで確認されるアルミニウム板の最高到達温度を焼付温度とし、これが200℃となるように調整した。
【0054】
作製したプレコートアルミニウム板の耐熱性皮膜の外観、耐熱性および加工性を次のようにして評価した。
【0055】
<外観の評価>
耐熱性皮膜を形成した直後のプレコートアルミニウム板の外観評価を目視で行い、フクレ、ハジキ、未塗装部のいずれかがあれば不良(×)とし、いずれもなければ良好(○)とした。
【0056】
<耐熱性の評価>
耐熱性の評価は、作製したプレコートアルミニウム板を大気雰囲気中にて400℃、24時間加熱を行い、加熱前と比較して耐熱性皮膜が消失したものを不良(×)とし、耐熱性皮膜が変色するが残存したものを良好(○)とし、耐熱性皮膜が変色しないものを優良(◎)とした。
【0057】
<加工性の評価>
加工性の評価は、JIS K5400に規定される0T180度曲げ加工および3T180度曲げ加工を行い、3T180度曲げ加工部の耐熱性皮膜がセロハンテープにて剥離したものを不良(×)とし、剥離しないものを良好(○)とし、0T180度曲げ加工部の耐熱性皮膜がセロハンテープにて剥離しないものを優良(◎)とした。
【0058】
<耐食性の評価>
耐食性の評価は、JIS Z2371に規定される中性塩水噴霧試験を100時間行い、平坦部およびクロスカット部に腐食が見られたものを不良(×)とし、クロスカット部にのみ腐食が見られたものを良好(○)、平坦部およびクロスカット部のいずれも腐食しなかったものを優良(◎)とした。
【0059】
表1に、ケイ酸塩化合物の種類、水性樹脂の種類、水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率、膜厚[μm]、およびトップコート皮膜の有無と、外観、耐熱性および加工性の各評価結果とを示す。なお、表1中の下線は、本発明の要件を満たさないことを示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示すとおり、実施例1〜6は、本発明の要件を満たしていたので、外観、耐熱性、加工性の各評価結果はいずれも良好または優良であった。中でも実施例4は、トップコート皮膜を形成したので、実施例1〜3、5、6と比較して加工性がより優れていた。
これに対し、比較例1〜7は、本発明の要件のいずれかを満たしていなかったので、外観、耐熱性、加工性のうちのいずれかが不良となった。
【0062】
具体的には、比較例1は、水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率が下限未満であったので、耐熱性皮膜が成膜しなかった。
比較例2は、水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率が上限を超えていたので、塗装することができなかった。
比較例3は、膜厚が下限未満であったので、外観が不良となった。
比較例4は、膜厚が上限を超えていたので、外観が不良となった。
比較例5は、エポキシ樹脂で耐熱性皮膜を形成したので、耐熱性が不良となった。
比較例6は、アクリル樹脂で耐熱性皮膜を形成したので、耐熱性が不良となった。
比較例7は、シリコーン樹脂で耐熱性皮膜を形成したので、加工性が不良となった。
【0063】
[第2実施例]
次に、無機顔料を添加した耐熱性皮膜を形成したプレコートアルミニウム板について具体的に説明する。
【0064】
まず、前記した第1実施例と同じ条件でアルミニウム板の両面にリン酸クロメート皮膜を形成した。
そして、下記表2に示すケイ酸塩化合物および水性樹脂を表2に示す質量比率で混合し、さらに表2に示す含有量[質量%]で無機顔料(銅・クロムブラック)を添加し、各塗料を調製した。
【0065】
調製した塗料を第1実施例と同様、ロールコーターを用いてアルミニウム板に塗布し、連続焼付け方式のオーブンにて焼付温度200℃、加熱時間30秒間の条件で焼付処理して表2に示す膜厚を有する耐熱性皮膜を形成し、実施例5〜10および比較例8〜12のプレコートアルミニウム板を作製した。渦電流式膜厚計を用いて各プレコートアルミニウム板の耐熱性皮膜の膜厚を測定した。下記表2に併せて示す。
なお、実施例10には、表2に示す樹脂を用いてトップコート皮膜を形成した。トップコート皮膜はロールコーターを用いて、200℃、30秒間焼付け処理して形成した。トップコート皮膜の膜厚は2μmであった。
また、実施例13には、水性樹脂およびケイ酸塩化合物のほかにポリエチレンワックスを添加して、水性樹脂とケイ酸塩化合物の合計含有量が25%となるように調製した塗料を用いて耐熱性皮膜を形成した。
【0066】
そして、作製したプレコートアルミニウム板の耐熱性皮膜の外観、耐熱性および加工性を第1実施例と同様にして評価した。なお、外観の評価については、フクレ、ハジキ、色むらのいずれかがあれば不良(×)とし、いずれもなければ良好(○)とした。
表2に、ケイ酸塩化合物の種類、水性樹脂の種類、水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率、膜厚[μm]およびトップコート皮膜の有無と、外観、耐熱性および加工性の各評価結果とを示す。なお、表2中の下線は、本発明の要件を満たさないことを示す。
【0067】
【表2】

【0068】
表2に示すとおり、実施例7〜14は、本発明の要件を満たしていたので、外観、耐熱性、加工性の各評価結果はいずれも良好または優良であった。中でも実施例12は、トップコート皮膜を形成したので、実施例7〜11、13、14と比較して加工性がより優れていた。
これに対し、比較例8〜12は、本発明の要件のいずれかを満たしていなかったので、外観、耐熱性、加工性のうちのいずれかが不良となった。
【0069】
具体的には、比較例8は、水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率が上限を超えていたので、塗装することができなかった。
比較例9は、水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率が下限未満であったので、加工性が不良となった。
比較例10は、無機顔料の含有量が下限未満であったので、外観が不良となった。
比較例11は、膜厚が下限未満であったので、外観が不良となった。
比較例12は、膜厚が上限を超えていたので、外観が不良となった。
【0070】
以上、本発明に係るプレコートアルミニウム板について、発明を実施するための形態および実施例により詳細に説明したが、本発明の趣旨はこれらの説明に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。
【符号の説明】
【0071】
1 プレコートアルミニウム板
2 アルミニウム板
3 耐熱性皮膜
4 トップコート皮膜
5 下地処理皮膜
6 無機顔料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板またはアルミニウム合金板の表面に耐熱性皮膜が形成されたプレコートアルミニウム板であって、
前記耐熱性皮膜は、水性樹脂およびケイ酸塩化合物を含み、水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率が0.8以上7以下であり、膜厚が0.2μm以上20μm以下である
ことを特徴とするプレコートアルミニウム板。
【請求項2】
アルミニウム板またはアルミニウム合金板の表面に耐熱性皮膜が形成されたプレコートアルミニウム板であって、
前記耐熱性皮膜は、水性樹脂およびケイ酸塩化合物を含み、水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率が2.0以上5以下であり、さらに無機顔料を20質量%以上含み、膜厚が2μm以上20μm以下である
ことを特徴とするプレコートアルミニウム板。
【請求項3】
前記耐熱性皮膜上にトップコート皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプレコートアルミニウム板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−189705(P2011−189705A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59892(P2010−59892)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】