説明

プレコートアルミニウム板

【課題】400℃の高温に耐え、安全性、加工性に優れたプレコートアルミニウム板を提供する。
【解決手段】アルミニウム板2の表面に、ケイ酸塩化合物と水性樹脂を含むシリカ系皮膜3が形成されたプレコートアルミニウム板1Aであって、前記シリカ系皮膜3は、大気雰囲気中、400℃で24時間加熱した後に下記式(1)で算出される皮膜残存率が10%以上80%以下であることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の排気系部材、家電製品の耐熱構造部材などの高温環境下で使用されるアルミニウム板およびアルミニウム合金板に係り、塗装によりアルミニウム板の表面に耐熱性を有するシリカ系皮膜を形成したプレコートアルミニウム板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排気系部材や家電製品の耐熱構造部材などの高温で使用されるアルミニウム板(アルミニウム合金板を含む。以下同じ。)の表面処理は、従来、アルミニウム板を製品形状に成形してから耐熱性の高い無機皮膜やシリコーン樹脂皮膜を形成するポストコート方式により行われていた。しかし、表面処理としては大量生産性、製造工程の簡略化、コスト低減の観点から、成形前のアルミニウム板の表面にあらかじめ皮膜を形成するプレコート方式により行うのが好ましい。プレコート方式により製造された耐熱性に優れるプレコート材として、次のようなものが挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、エーテル・エステル型ウレタン樹脂およびエポキシ樹脂にポリオレフィンワックスとシリカを含有してなる有機物塗膜を形成することで、プレス加工性と加工後耐熱性に優れた無塗油型有機被覆金属板が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、アルカリケイ酸系ガラス水溶液に粒子状充填材、四フッ化系フッ素樹脂を配合してなる複合皮膜が形成された塗装金属板が記載されている。
【0005】
特許文献3には、アルキルシリコーン樹脂にアルミナフレーク、マイカ粉、タルク粉、板状カオリンなどの鱗片状無機粉末を分散させてなるクリア皮膜が形成された耐熱クリアプレコート金属板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−192102号公報
【特許文献2】特開2000−319575号公報
【特許文献3】特許第4046322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車の排気系部材や耐熱構造部材などは、使用中の温度が400℃以上の高温となる場合がある。このような高温で特許文献1〜3を使用すると、次のような問題がある。
【0008】
特許文献1に記載のウレタン樹脂やエポキシ樹脂の耐熱温度は高くても200℃程度であり、それを超えると樹脂が分解し始めるという問題がある。
【0009】
また、特許文献2に記載の複合皮膜は、耐熱性は良いが、加工による剥離や皮膜割れが生じやすく、複雑な加工には対応できないという問題がある。しかも、高温でフッ素樹脂が分解した場合には、毒性の強いフッ素ガスを発生するおそれがある。
【0010】
特許文献3に記載のアルキルシリコーン樹脂を主成分とするクリア皮膜は、耐熱性や安全性に問題はなく、ポストコート方式では広く利用されている。しかし、加工性が悪く、曲げ加工や絞り加工などの複雑な加工をすると皮膜剥離や割れを生じる。そのため、プレコート板としては、加工の易しい部品や平板での使用を前提とした部材に用途が制限される。
【0011】
本発明は、前記状況を鑑みてなされたものであり、400℃の高温に耐え、安全性、加工性に優れたプレコートアルミニウム板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、アルミニウム板の表面に形成されたシリカ系皮膜が、400℃で加熱した後であっても、その皮膜残存率が特定の数値範囲内にあれば前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、アルミニウム板の表面に、ケイ酸塩化合物と水性樹脂を含むシリカ系皮膜が形成されたプレコートアルミニウム板であって、前記シリカ系皮膜は、大気雰囲気中、400℃で24時間加熱した後に下記式(1)で算出される皮膜残存率が10%以上80%以下であることを特徴としている。
【0014】
【数1】

【0015】
このように、本発明に係るプレコートアルミニウム板は、ケイ酸塩化合物と水性樹脂を含むため、耐熱性、加工性、安全性に優れる。また、大気雰囲気中、400℃で24時間加熱した後でもシリカ系皮膜が10%以上80%以下残存しているので、耐熱性に優れている。
【0016】
本発明においては、前記シリカ系皮膜は、無機粒子コロイドをさらに含んでいてもよい。無機粒子コロイドをふくむことによって、より優れた加工性を得ることができる。
【0017】
本発明においては、前記シリカ系皮膜は、顔料をさらに含んでいてもよい。顔料を含むことによって、意匠性に優れたものとすることができる。
【0018】
本発明においては、前記アルミニウム板と前記シリカ系皮膜との間にアンダーコート皮膜を形成してもよい。アルミニウム板とシリカ系皮膜との間にアンダーコート皮膜を形成することによって、より優れた加工性を得ることができる。
【0019】
本発明においては、前記シリカ系皮膜上にトップコート皮膜を形成してもよい。シリカ系皮膜の上にトップコート皮膜を形成することによって、より優れた加工性を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、400℃の高温に耐え、安全性、加工性に優れたプレコートアルミニウム板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るプレコートアルミニウム板の第1実施形態を示す断面模式図である。
【図2】本発明に係るプレコートアルミニウム板の第2実施形態を示す断面模式図である。
【図3】本発明に係るプレコートアルミニウム板の第3実施形態を示す断面模式図である。
【図4】本発明に係るプレコートアルミニウム板の第4実施形態を示す断面模式図である。
【図5】本発明に係るプレコートアルミニウム板の第5実施形態を示す断面模式図である。
【図6】本発明に係るプレコートアルミニウム板の第6実施形態を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、適宜図面を参照して、本発明に係るプレコートアルミニウム板を実施するための形態について説明する。
【0023】
[第1実施形態]
まず、図1を参照して、本発明に係るプレコートアルミニウム板の第1実施形態について説明する。図1に示すように、第1実施形態に係るプレコートアルミニウム板1Aは、アルミニウム板2の表面にシリカ系皮膜3を形成したものである。
【0024】
アルミニウム板2は、純アルミニウム(Al)またはAl合金からなるものであればよく、例えば、JISに規定される1000系の工業用純Al、3000系のAl−Mn系合金、5000系のAl−Mg合金などが使用可能である。具体的には、絞り加工やしごき加工を行う場合にはJIS H4000に規定するA1050、A1100、A3003、A3004が推奨される。また、強度が望まれる用途にはA5052、A5182が推奨される。調質、板厚については特に制限はなく、目的に応じて種々の調質、板厚を選択することができる。
【0025】
シリカ系皮膜3は、ケイ酸塩化合物と水性樹脂を含んでおり、プレコートアルミニウム板1Aに耐熱性と加工性を付与するために設けられる。プレコートアルミニウム板1Aの表面に形成されたシリカ系皮膜3の膜厚は、0.2〜20μm程度あれば前記した効果を得ることができる。
ここで、プレコートアルミニウム板1Aは、図1に示すように、アルミニウム板2の片面のみをシリカ系皮膜3で被覆するものに限定されず、アルミニウム板2の両面を被覆するものであってもよい(図示省略)。目的に応じて被覆形態を選択することができる。
【0026】
かかるシリカ系皮膜3は、ケイ酸塩化合物と水性樹脂を含んだ塗料をアルミニウム板2の表面に塗布し、塗料を塗布したアルミニウム板2を焼き付け処理して塗料を硬化することにより形成することができる。かかる塗料のアルミニウム板2への塗布方法としては、例えば、刷毛塗り、ロールコーター、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、静電塗布機、ブレードコーター、ダイコーターなどいずれの方法で行ってもよいが、塗布量が均一になるとともに作業が簡便なロールコーターにより塗布するのが好ましい。なお、焼き付け処理は、例えば、アルミニウム板2の到達温度が250℃で30秒間の加熱により行うことができるが、これに限定されるものではなく、塗料に応じて適宜に設定することができる。
【0027】
シリカ系皮膜3に含まれるケイ酸塩化合物としては、例えば、シリカゲル、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムなどのアルカリ珪酸塩溶融物またはこれらの混合物、ネソケイ酸塩化合物、ソロケイ酸塩化合物、シクロケイ酸塩化合物、イノケイ酸塩化合物、フィロケイ酸塩化合物、テクトケイ酸塩化合物などが挙げられる。
【0028】
そして、シリカ系皮膜3に含まれる水性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、PVA(ポリビニルアルコール)、PEO(ポリエチレンオキシド)、CMC(カルボキシメチルセルロース)などが挙げられる。本発明においては、これらの中から選択される1種類を用いることができるが、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0029】
前述したシリカ系皮膜3は、大気雰囲気中、400℃で24時間加熱した後の皮膜残存率が10%以上80%以下であることを要する。当該加熱後のシリカ系皮膜3の皮膜残存率がこの範囲内にあれば、耐熱性、加工性を良好に保つことができる。一方、当該加熱後のシリカ系皮膜3の皮膜残存率が10%以下である場合、皮膜として不十分であり、耐熱性が得られない。他方、当該加熱後のシリカ系皮膜3の皮膜残存率が80%を超える場合、シリカ系皮膜3が割れたり、粗面化したりする可能性が高くなる。そのため、耐熱性とともに加工性も得ることができない。なお、かかる皮膜残存率は、より好ましくは20%以上42%以下である。皮膜残存率は、下記式(1)で算出することができる。
【0030】
【数2】

【0031】
ここで、シリカ系皮膜3の膜厚は、グロー放電発光分光分析(GD−OES)法にて測定することができる。GD−OES法でシリカ系皮膜3を測定する場合、シリカ系皮膜3の表面からアルミニウム板2に達する深さまで原子濃度(at%)を測定し、Alの原子濃度が50at%となる深さまでを膜厚と規定することができる。よって、GD−OES法によるシリカ系皮膜3の膜厚の測定を前述した大気雰囲気中、400℃、24時間という条件での加熱の前後に行うことで、前記式(1)で用いる膜厚を知ることができる。
【0032】
シリカ系皮膜3は、ケイ酸塩化合物100質量部に対して水性樹脂が80〜700質量部となるように塗料を調製して形成されることにより、前述した条件で加熱した後の皮膜残存率を10%以上80%以下とすることができる。例えば、ケイ酸リチウムおよびエチレン樹脂を用いた場合、ケイ酸リチウム100質量部に対してエチレン樹脂が280質量部となるように塗料を調製すればよい。
【0033】
なお、シリカ系皮膜3には目的に応じた添加剤を含有させることができる。例えば、潤滑性を向上させるためにカルナウバワックス、ポリエチレンワックスなどを添加でき、耐指紋性を高めるために光学調整微粒子を含有させてもよく、意匠性を高めるために顔料を添加することもできる。これらは使用目的に応じて選択することができ、その種類は特に制限されるものではない。
【0034】
[第2実施形態]
次に、図2を参照して、本発明に係るプレコートアルミニウム板の第2実施形態について説明する。図2に示すように、第2実施形態に係るプレコートアルミニウム板1Bは、アルミニウム板2の表面に、無機粒子コロイド4をさらに含むシリカ系皮膜3Bを形成したものである。
【0035】
なお、第2実施形態に係るプレコートアルミニウム板1Bは、シリカ系皮膜3Bが無機粒子コロイド4を含む点で、第1実施形態に係るプレコートアルミニウム板1Aと相違する。そのため、第1実施形態と第2実施形態とにおいて共通する構成については同一の符号を付して表すとともに重複する説明は省略し、以下ではこれらの間で相違する構成について説明する。
【0036】
無機粒子コロイド4としては、例えば、コロイダルシリカ、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾルなどが挙げられる。本発明においては、これらの中から選択される1種類を用いることができるが、2種類以上を混合して用いることもできる。無機粒子コロイド4を含ませることで、より優れた加工性を得ることができる。
【0037】
シリカ系皮膜3Bは、ケイ酸塩化合物100質量部に対して水性樹脂が100〜10000質量部、かつ、ケイ酸塩化合物100質量部に対して無機粒子コロイド4が100〜10000質量部となるように塗料を調製して形成されることにより、前述した条件で加熱した後の皮膜残存率を10%以上80%以下とすることができる。なお、無機粒子コロイド4の好ましい粒径は1〜100nmである。
【0038】
[第3実施形態]
次に、図3を参照して、本発明に係るプレコートアルミニウム板の第3実施形態について説明する。図3に示すように、第3実施形態に係るプレコートアルミニウム板1Cは、アルミニウム板2の表面に顔料5を含むシリカ系皮膜3Cを形成したものである。
【0039】
なお、第3実施形態に係るプレコートアルミニウム板1Cは、シリカ系皮膜3Cが顔料5を含んでいる点で、第1実施形態と相違する。そのため、第1実施形態から第3実施形態で共通する構成については同一の符号を付して表すとともに重複する説明は省略し、以下ではこれらの間で相違する構成について説明する。
【0040】
顔料5は、400℃以上の高温でも分解、変色を生じない耐熱性の高い無機顔料が好ましい。このような顔料5としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、亜鉛華、ゲーサイト、べんがら、コバルトグリーン、コバルトクロムブルー、マンガングリーン、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンブルー、チタンブラック、銅・クロムブラック、コバルトブラック、マンガン・鉄ブラック、銅・マンガン・鉄ブラック、マンガン・ビスマスブラックなどが挙げられる。本発明においては、これらの中から選択される1種類を用いることができるが、2種類以上を混合して用いることもできる。シリカ系皮膜3Cに顔料5を含ませることで、任意の色に着色できる。つまり、意匠性に優れたものとすることができる。
【0041】
シリカ系皮膜3Cは、ケイ酸塩化合物100質量部に対して水性樹脂が80〜700質量部、かつ、ケイ酸塩化合物100質量部に対して顔料5が0.4〜4500質量部となるように塗料を調製して形成されることにより、前述した条件で加熱した後の皮膜残存率を10%以上80%以下とすることができる。
【0042】
[第4実施形態]
次に、図4を参照して、本発明に係るプレコートアルミニウム板の第4実施形態について説明する。図4に示すように、第4実施形態に係るプレコートアルミニウム板1Dは、アルミニウム板2とシリカ系皮膜3との間にアンダーコート皮膜6を形成したものである。
【0043】
なお、第4実施形態に係るプレコートアルミニウム板1Dは、アルミニウム板2とシリカ系皮膜3との間にアンダーコート皮膜6を形成している点で、第1実施形態に係るプレコートアルミニウム板1Aと相違する。そのため、第1実施形態から第4実施形態において共通する構成については同一の符号を付して表すとともに重複する説明は省略し、以下ではこれらの間で相違する構成について説明する。
【0044】
アルミニウム板2とシリカ系皮膜3との間に形成されるアンダーコート皮膜6としては、シリカ系樹脂、アクリル樹脂、エチレン樹脂、エポキシ樹脂、ジルコン皮膜、リン酸ジルコン皮膜、チタンジルコン皮膜などを塗布して形成したものが好ましい。アンダーコート皮膜6を形成することで、加工性、密着性を向上させることができる。アンダーコート皮膜6の膜厚は、0.01〜5μm程度あれば当該効果を得ることができる。アンダーコート皮膜6の形成は、アルミニウム板2の上に塗料を塗布し、焼き付け硬化させるか、あるいはアルミニウム板2の上に薬液を塗布して化学反応により皮膜形成することで行うことができる。
【0045】
[第5実施形態]
次に、図5を参照して、本発明に係るプレコートアルミニウム板の第5実施形態について説明する。図5に示すように、第5実施形態に係るプレコートアルミニウム板1Eは、シリカ系皮膜3の上にトップコート皮膜7を形成したものである。
【0046】
なお、第5実施形態に係るプレコートアルミニウム板1Eは、シリカ系皮膜3の上にトップコート皮膜7を形成している点で、第1実施形態に係るプレコートアルミニウム板1Aと相違する。そのため、第1実施形態から第5実施形態において共通する構成については同一の符号を付して表すとともに重複する説明は省略し、以下ではこれらの間で相違する構成について説明する。
【0047】
シリカ系皮膜3の上に形成されるトップコート皮膜7としては、アクリル樹脂、エチレン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などを塗布して形成したものが好ましい。トップコート皮膜7を形成することで加工性を向上することができる。トップコート皮膜7の膜厚は、0.2〜5μm程度あれば当該効果を得ることができる。トップコート皮膜7の形成は、シリカ系皮膜3の表面に塗料を塗布し、焼き付け処理して塗料を硬化することで行うことができる。
【0048】
なお、トップコート皮膜7には目的に応じた添加剤を含有させることができる。例えば、潤滑性を向上させるためにカルナウバワックス、ポリエチレンワックスなどを添加でき、耐指紋性を高めるために光学調整微粒子を含有させてもよく、意匠性を高めるために顔料を添加することもできる。これらは使用目的に応じて選択することができ、その種類は特に制限されるものではない。なお、トップコート皮膜7に添加する顔料は、既に説明した顔料5と同じものを用いるのが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0049】
本発明の内容は以上に限定されるものではない。例えば、アルミニウム板2とシリカ系皮膜3の密着性を向上させるとともに、耐食性を向上させるため、アルミニウム板2の表面を化成処理し、下地処理層8を形成することもできる。下地処理層8は、具体的には、アルミニウム板2とシリカ系皮膜3の間、または、アンダーコート皮膜6を設ける場合にあっては、アルミニウム板2とアンダーコート皮膜6の間に下地処理層8(後述する図6参照)を形成することができる。
【0050】
下地処理層8としては、従来公知のCr,Zr,Tiの中から選択される1種類以上を含有する皮膜が適用できる。例えば、リン酸クロメート皮膜、クロム酸クロメート皮膜、リン酸ジルコニウム皮膜、酸化ジルコニウム皮膜、リン酸チタン皮膜、塗布型クロメート皮膜、塗布型ジルコニウム皮膜などを適宜使用することができる。また、必要に応じて、これらの皮膜に有機成分を含有させてもよい。近年の環境への配慮の観点から、六価クロムを含まないリン酸クロメート皮膜やリン酸ジルコニウム皮膜、酸化ジルコニウム皮膜、リン酸チタン皮膜、塗布型ジルコニウム皮膜を使用することが好ましい。下地処理層8の厚さは、目安として、アルミニウム板2へのCr,Zr,Tiの付着量(Cr,Zr,Ti換算値)で10〜50mg/m2程度が好ましい。付着量が10mg/m2未満ではアルミニウム板2の全面を均一に被覆することができずに十分な効果が得られない。一方、付着量が50mg/m2を超えると、下地処理層8自体に割れが生じやすくなる。Cr,Zr,Ti換算値は、例えば、蛍光X線法により比較的簡便かつ定量的に測定することができる。そのため、生産性を阻害することなくプレコートアルミニウム板の品質管理を行うことができる。
【0051】
また、シリカ系皮膜3を形成する塗料をアルミニウム板2に塗布する前に、アルミニウム板2の表面を脱脂してもよい。アルミニウム板2の表面の脱脂は、例えば、アルミニウム板2の表面にアルカリ水溶液をスプレーした後に水洗することで行うことができる。アルカリ水溶液の他にも、酸水溶液、有機溶剤、界面活性剤などで脱脂を行っても良い。
【0052】
[第6実施形態]
本発明においては、以上に説明した各実施形態および各構成を適宜に組み合わせることができる。例えば、図6に示す構成の第6実施形態に係るプレコートアルミニウム板1Fとすることもできる。図6に示すプレコートアルミニウム板1Fは、アルミニウム板2の表面に下地処理層8を形成し、その上にアンダーコート皮膜6を形成し、その上に無機粒子コロイド4、顔料5、ケイ酸塩化合物および水性樹脂を含むシリカ系皮膜3Fを形成し、その上にトップコート皮膜7を形成したものである。このようにすると、加工性に特に優れるとともに耐熱性に優れ、さらに意匠性の高いプレコートアルミニウム板を提供することができる。
【0053】
本発明においては、その他にも、前記プレコートアルミニウム板1Fの構成からアンダーコート皮膜6を除いた形態や、トップコート皮膜7を除いた形態とすることができる(いずれも図示せず)。また、図4から図6に図示した第4実施形態から第6実施形態のシリカ系皮膜3またはシリカ系皮膜3Fに替えて、図2に図示した第2実施形態のシリカ系皮膜3Bまたは図3に図示した第3実施形態のシリカ系皮膜3Cを用いることもできる。
【0054】
以上、図1から図6を参照して、第1実施形態から第6実施形態に係るプレコートアルミニウム板1A〜1Fについて説明した。いずれのプレコートアルミニウム板1A〜1Fも、アルミニウム板2の表面に、ケイ酸塩化合物と水性樹脂を含むシリカ系皮膜3(3B、3C、3F)が形成されている。当該シリカ系皮膜3は、大気雰囲気中、400℃で24時間加熱した後に前記式(1)で算出される皮膜残存率が特定の数値範囲内とすることができる。そのため、シリカ系皮膜3は、その効果を十分に発揮することができ、400℃での耐熱性と安全性と加工性とに優れている。
【実施例】
【0055】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明に係るプレコートアルミニウム板について具体的に説明する。
【0056】
まず、アルミニウム板(JIS 1100−H24,板厚0.3mm)に対し、下地処理としてアルカリ水溶液で脱脂した後、リン酸クロメート処理を施し、Cr換算で20mg/m2のリン酸クロメート皮膜を両面に形成した。
【0057】
次いで、後記表1に示す種類のケイ酸塩化合物および水性樹脂を、大気雰囲気中、400℃で24時間加熱した後のシリカ系皮膜の皮膜残存率が表1に示す割合となるように各塗料を調製した。皮膜残存率は、ケイ酸塩化合物と水性樹脂の配合比率を変えることで調整した。調製した塗料を、ロールコーターを用いてアルミニウム板に塗布し、アルミニウム板の到達温度250℃で30秒間加熱して焼き付け処理を行い、供試材No.1〜23を作製した。なお、供試材No.9、17の塗料には、200質量部のコロイダルシリカ(粒径6nm)を添加した。また、供試材No.10〜13の塗料には、ケイ酸塩化合物100質量部に対して0.4質量部の顔料を添加した。顔料はマンガン・鉄ブラックを用いた。また、供試材No.14は、アルミニウム板を脱脂した後、前記したリン酸クロメート処理を施さないで表1に示す皮膜を形成して作製した。なお、供試材No.11、23のアンダーコートの膜厚は1μm、供試材No.12、22のトップコートの膜厚は1μm、供試材No.13のアンダーコートの膜厚は0.01μm、トップコートの膜厚は1μmとした。
【0058】
前記のようにして作製した供試材No.1〜23に係るプレコートアルミニウム板のシリカ系皮膜の膜厚、耐熱性および加工性を次のようにして測定または評価した。
【0059】
<シリカ系皮膜の膜厚の測定>
シリカ系皮膜の膜厚の測定は、作製したプレコートアルミニウム板を大気雰囲気中、400℃で24時間加熱を行い、加熱前後の膜厚をグロー放電発光分光分析(GD−OES)法にて測定した。具体的には、GD−OES法によってシリカ系皮膜の表面からアルミニウム板に達する深さまで原子濃度(at%)を測定し、Alの原子濃度が50at%となる深さまでを膜厚と規定した。
そして、測定した加熱前後の膜厚を用いて、下記式(1)で皮膜残存率を求めた。
【0060】
【数3】

【0061】
<耐熱性の評価>
耐熱性の評価は、作製したプレコートアルミニウム板を大気雰囲気中、400℃で24時間加熱を行い、加熱前後の色差ΔE*abが12以上を不良(×)、12未満8以上を良好(○)、8未満を優良(◎)とした。色差ΔE*abは、色彩計を用いて測定した加熱前後の明度L*と色度a*、b*から下記式(2)により算出した。
【0062】
【数4】

【0063】
ここで、式(2)において、L*は、加熱後のL*を示し、L*は、加熱前のL*を示し、a*は、加熱後のa*を示し、a*は、加熱前のa*を示し、b*は、加熱後のb*を示し、b*は、加熱前のb*を示す。
【0064】
<加工性の評価>
加工性の評価は、JIS K5400に規定される5Tおよび3T180度曲げ加工を行い、5T180度曲げ加工部の皮膜がセロハンテープで剥離したものを不良(×)、5T180度曲げ加工部の皮膜がセロハンテープで剥離しないものを良好(○)、3T180度曲げ加工部の皮膜がセロハンテープで剥離しないものを優良(◎)とした。
【0065】
供試材No.1〜23に係るプレコートアルミニウム板の耐熱性、加工性の評価結果を、皮膜の形成条件とともに表1に示す。なお、供試材No.18〜23については、シリカ系皮膜に替えて形成した皮膜の形成条件を示している。表1中の下線は、本発明の要件を満たさないことを示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示すように、供試材No.1〜14は、本発明の要件を満たしていたので耐熱性および加工性が良好であった。また、耐熱性を評価する際にフッ素ガスなどの毒性の強いガスを発生することもなく、安全性に優れていた。中でも、供試材No.9は、シリカ系皮膜にコロイダルシリカを含有しており、供試材No.11は、アンダーコート皮膜を形成しており、供試材No.12は、トップコート皮膜を形成しており、供試材No.13は、アンダーコート皮膜およびトップコート皮膜を形成していたため、いずれも加工性の評価結果が特に優れていた。
【0068】
これに対し、供試材No.15〜23は、本発明の要件のいずれかを満たしていないので、耐熱性、加工性のうち少なくとも一つが不良となった。
【0069】
具体的には、供試材No.15は、シリカ系皮膜を大気雰囲気中、400℃で24時間加熱した後の皮膜残存率が10%未満であったため、耐熱性が不良となった。
供試材No.16は、シリカ系皮膜を大気雰囲気中、400℃で24時間加熱した後の皮膜残存率が80%を超えたため耐熱性と加工性が不良であった。
供試材No.17は、コロイダルシリカを含有したシリカ系皮膜であるが、シリカ系皮膜を大気雰囲気中、400℃で24時間加熱した後の皮膜残存率が80%を超えたため耐熱性と加工性が不良であった。
【0070】
供試材No.18〜23は、本発明とは異なる組成の皮膜を形成したものである。
供試材No.18は、ウレタン樹脂の皮膜を形成したため、大気雰囲気中、400℃で24時間加熱したところ、有機成分が全て分解し、耐熱性が不良となった。
供試材No.19は、特許文献1に相当するものであり、シリカを含有したエポキシ樹脂の皮膜を形成した。そのため、大気雰囲気中、400℃で24時間加熱したところ、シリカは残留するものの、エポキシ樹脂が分解するため耐熱性が不良となった。
供試材No.20は、特許文献2に相当するものであり、粒子状充填材であるガラス粉末粒子と四フッ化系フッ素樹脂を含有した水ガラスの皮膜を形成した。そのため、耐熱性は良好であったが、加工性が不良となった。さらに、皮膜にフッ素樹脂を含んでいたので、大気雰囲気中、400℃で24時間加熱したところ、毒性の強いフッ素ガスが発生した。よって、安全性に劣っていた。
供試材No.21は、特許文献3に相当するものであり、アルミナフレークを含有したシリコーン樹脂の皮膜を形成した。そのため、耐熱性は良好であったが、加工性が不良となった。
供試材No.22は、シリコーン樹脂の皮膜の上にトップコート皮膜を形成したが、このような場合であっても加工性は不良であった。
供試材No.23は、シリコーン樹脂の皮膜の下にシリカ系のアンダーコート皮膜を形成したが、このような場合であっても加工性は不良であった。
【0071】
以上、発明に係るプレコートアルミニウム板について、発明を実施するための形態および実施例により詳細に説明したが、本発明の趣旨はこれらの説明に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。
【符号の説明】
【0072】
1A〜1F プレコートアルミニウム板
2 アルミニウム板
3、3B、3C、3F シリカ系皮膜
4 無機粒子コロイド
5 顔料
6 アンダーコート皮膜
7 トップコート皮膜
8 下地処理層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板の表面に、ケイ酸塩化合物と水性樹脂を含むシリカ系皮膜が形成されたプレコートアルミニウム板であって、
前記シリカ系皮膜は、大気雰囲気中、400℃で24時間加熱した後に下記式(1)で算出される皮膜残存率が10%以上80%以下であることを特徴とするプレコートアルミニウム板。
【数1】

【請求項2】
前記シリカ系皮膜が、無機粒子コロイドをさらに含むこと特徴とする請求項1に記載のプレコートアルミニウム板。
【請求項3】
前記シリカ系皮膜が、顔料をさらに含むこと特徴とする請求項1または請求項2に記載のプレコートアルミニウム板。
【請求項4】
前記アルミニウム板と前記シリカ系皮膜との間にアンダーコート皮膜を形成したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプレコートアルミニウム板。
【請求項5】
前記シリカ系皮膜上にトップコート皮膜を形成したことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のプレコートアルミニウム板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−192582(P2012−192582A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57536(P2011−57536)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】