説明

プレコートフィン用アルミニウム材

【課題】 Cr等の有害重金属を含まない化成液処理液を用い、親水性塗膜との塗膜密着性、耐食性に優れた熱交換器用フィン材のアルミニウム下地処理材、および親水性に優れた塗膜を設けたプレコートフィン用アルミニム材の提供。
【解決手段】 表面に下地皮膜を設けたフィン用アルミニウム又はアルミニウム合金基材(薄板)において、下地皮膜が次の構成を有するフィン用アルミニウム材。「(a)ZrまたはTi,AlおよびCを主材とする、(b)ZrまたはTiの構成量は0.1〜100mg/m 、(c)下地皮膜表面においてAlは10wt%以下であり、下地皮膜/Al界面に向かって濃度が増加する、(d)皮膜表面から下地皮膜/Al界面に向かって樹脂に由来するC含有量は低下する。」及び該フィン用アルミニウム材の製造方法並びにそれを用いたプレコートアルミニウムフィン材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はルームエアコン等に用いる熱交換器用アルミニウム製フィン材に関し、特に、ノンクロム化成処理して親水性塗膜との密着性に優れた下地皮膜を有するプレコートフィン用アルミニウム材並びに該アルミニウム材に親水性塗膜を設けたプレコートフィン用アルミニウム材に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム材は軽量で比較的熱伝導性も高い上、適度な機械的特性を有し、かつ美感、成形加工性、耐食性等に優れた特徴を有しているため、熱交換器用フィン材として広く使われている。熱交換器用フィン材には冷房運転時の結露防止能が求められており,水滴形成防止のため親水性塗膜をアルミニウム材上に設けた,親水性フィン材が一般的に使われている。しかし多くの親水性塗膜はアルミニウム材表面との密着性に劣るため,アルミニウム材と親水性塗膜の間に中間層を設け,アルミニウム材と親水性塗膜の密着性を上げる処理が行われている。熱交換機用フィン材には親水性に加えて耐食性も求められるが,親水性塗膜は通常防食能が弱いかまたは無いため,耐食性向上のための処理も付加されるのが通例となっている。上記の2つの目的を満足するために,従来スプレーによるリン酸クロメート処理やロールコーター塗布・焼付による塗布型クロメート処理といったクロメート処理が施されてきた。すなわちアルミニウム材上にクロメート皮膜を設け,さらにその上に親水性塗膜を設けることにより,優れた耐食性,塗膜密着性,親水性を発揮するフィン材が作られてきた。
【0003】
しかし近年環境汚染に対する関心の高まり,リサイクル性の追求といったこれまでに無い要求が盛り上がり,クロムの使用を極力減らすか,廃止する必要性が生じてきた。その結果このような要求を満足するために,クロム等の有害な重金属類を含まない多くの下地処理剤および下地処理皮膜の提案がされている。
【0004】
例えば、
(1)ジルコニウム,チタン,ハフニウム,アルミニウム,ケイ素,ゲルマニウム,スズおよびホウ素の一種を含有するフルオロ金属酸またはフルオロ金属酸塩及び,不飽和結合を有する芳香族スルホン酸モノマーまたは不飽和結合を有する脂肪族スルホン酸モノマーのホモポリマーからなる少なくとも一種の高分子化合物とを含有するアルミニウム表面処理剤および,この薬剤で処理して得られる皮膜を設けたアルミニウム材(特許文献1参照)、
【0005】
(2)(A)HTiF,HZrF,HHfF,HAlF,HSiF,HGeF,HSnFまたはHBF,(B)2個以上のOH基(ただし,COOH基内のOH基を除く)含有水溶性有機カルボン酸または塩を含み,必要によりさらに(C)Ti,Zr,Hf,Al,Si,Ge,Sn,Bの元素,酸化物,水酸化物,または炭酸塩,あるいは(D)x−(N−R−N−R−アミノメチル)−4−ヒドロキシスチレン(x=2,4,5または6,R=Cアルキル基,R=H(CHOH)nCH−に相応する置換基,n=1〜7)などを含む処理液および該処理液により金属表面を処理し,耐食性皮膜を形成する方法(特許文献2参照)、
【0006】
(3)(A)HZrF,(B)水溶性または水分散性3−(N−メチル−N−2−ヒドロキシエチルアミノメチル)−4−ヒドロキシ−スチレンポリマー及び選択的に(C)分散性シリカ,好ましくは(D)1−プロポキシ−2−プロパノールを包含する酸性水溶液で処理し,リンス無しとすることにより有機皮膜を設ける方法(特許文献3参照)、
【0007】
(4)アルカリ金属水酸化物でpHを11〜13に調整したリン酸イオン,アルミニウムキレート化剤および界面活性剤を含む水溶液で脱脂処理し,次いでpHを1.5〜4.0に調整したジルコニウムイオン,リン酸イオン,有効フッ素イオンを含有する処理剤または前記イオンに加えバナジウムイオンを加えた溶液で処理する方法(特許文献4参照)
【0008】
(5)SiO/MO比(ただしM=Li,Na,K等)が1以上のアルカリケイ酸塩で処理した後,200〜300℃の温度にて5秒〜1分焼付し,次いで硝酸水溶液により脱アルカリ処理を施す処理方法(特許文献5参照)等の提案がある。
しかしこれらの化成液処理方法では、処理に長時間を要し,生産性が悪かったり、耐食性が不十分であったり,加工中に皮膜が破壊される結果十分な塗膜密着性が確保されなかったり,下地処理後に塗布される親水性塗料との相性が悪く,塗装工程中にハジキを生じたりする不具合を有している。
【0009】
化成処理方法とは別に、
(6)冷間圧延後,中性または塩基性溶液で処理し,ベーマイト系皮膜を形成し,その後ケイ酸塩含有溶液で処理,あるいはさらにその後調質焼鈍する下地処理法(特許文献6参照)、の提案もあるが、この方法ではベーマイト皮膜を形成させるのに90℃で10数秒〜20秒程度を要することや下地処理としては工程が長く生産性が劣る。
また下地処理後に加熱焼鈍する方法では,表面が汚れやすく,親水性樹脂等を塗布する際にハジキ等の不具合が発生しやすい。
【0010】
また、
(7)ベーマイト処理とジルコニウム系化成処理とを複合する方法の提案(特許文献7参照)がなされているが、これらも一長一短があって不十分なものである。
【0011】
【特許文献1】特開平10−001783号公報
【特許文献2】特開平07−197273号公報
【特許文献3】特開平04−263083号公報
【特許文献4】特開平01−246370号公報
【特許文献5】特開平01−240674号公報
【特許文献6】特公平07−081194号公報
【特許文献7】特開平05−279866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、Cr等の有害重金属を含まない化成液処理液を用い、親水性塗膜との塗膜密着性、耐食性に優れた熱交換器用フィン材のアルミニウム下地処理材、および親水性に優れた塗膜を設けたプレコートフィン用アルミニム材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
[1] 表面に下地皮膜を設けたフィン用アルミニウム又はアルミニウム合金基材(薄板)において、下地皮膜が下記の構成
(a)ZrまたはTi,AlおよびCを主材とする。
(b)ZrまたはTiの構成量は0.1〜100mg/m
(c)下地皮膜表面においてAlは10wt%以下であり、下地皮膜/Al界面に向かって濃度が増加する。
(d)皮膜表面から下地皮膜/Al界面に向かって樹脂に由来するC含有量は低下する。
を有することを特徴とするフィン用アルミニウム材、
[2] ZrまたはTi含有量が最大濃度を示す深さでのAl量が、50wt%以下であり、ZrまたはTi含有量がC含有量より大となる層が下地皮膜中に存在する上記[1]に記載のフィン用アルミニウム材、
【0014】
[3] 脱脂、水洗、乾燥したフィン用アルミニウム又はアルミニウム合金基材(薄板)を、ノンクロム系樹脂含有ZrまたはTi塗布型化成処理剤を用いて、板材および処理材の温度40℃以下、乾燥開始までの時間が2秒以下で化成処理し、次いで風速5〜50m/sec、温度80〜300℃で3秒〜1分の条件で乾燥、焼き付け行うことを特徴とするフィン用アルミニウム材の製造方法、
[4] 熱硬化性樹脂を含むノンクロム系樹脂含有ZrまたはTi塗布型化成処理剤を用いて、化成処理し、温度150〜300℃で乾燥、焼き付け行う上記[3]に記載のフィン用アルミニウム材の製造方法、
[5] 熱可塑性樹脂を含むノンクロム系樹脂含有ZrまたはTi塗布型化成処理剤を用いて、化成処理し、温度80〜140℃で乾燥、焼き付け行う上記[3]に記載のフィン用アルミニウム材の製造方法および
[6] 上記[1]〜[2]に記載のプレコートフィン用アルミニウム材の下地皮膜上に親水性塗膜を設けたことを特徴とするプレコートアルミニウムフィン材、を開発することにより上記の課題を解決した
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アルミニウム板材をクロメート処理やリン酸クロメート処理等の前処理を行うことなく、アルミニウム板材を脱脂した後ノンクロム系樹脂含有ZrまたはTi系塗布型化成処理剤を用いて得たフィン用アルミニウム材、このアルミニウム材に親水性塗膜を設けることにより得られる優れたプレコートアルミニウムフィン材を得ることが出来た。
以上のように、本発明によれば、Cr等の有害金属を含まず、塗膜密着性、耐食性、成形性に優れた熱交換器用アルミニウム製フィン材を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明者等は、優れた耐食性、塗膜密着性、親水性を発揮させるための塗膜の構成を検討した。検討に際しGDS,オージェといった解析機器を用い,下地皮膜の深さ方向の元素分布、いわゆるデプスプロファイルを詳細に調べた結果,下地皮膜の主要成分が深さ方向において均一な構造または幾つかの物質からなる層状構造をとらず、深さ方向で濃度が変わり,特定の深さで濃化しており,かつ必ずしも明確な層を形成しているわけでは無く,いわば傾斜構造を有して分布している場合において優れた効果を有することを見出した。
【0017】
この時,詳細なメカニズムは不明であるが,皮膜中に含まれるAlが塗膜密着性および耐食性に大きく影響していることを見出した,さらに単純なAl濃度の多少では無く,深さ方向における分布の仕方が重要であることを突き止めた。すなわち最表面のAl量が10wt%以下,そして深さ方向に次第にAl量が増加し,ZrまたはTiが最大濃度となる深さでのAl量が50wt%以下である時に塗膜密着性および耐食性が優れた性能を有する。
【0018】
下地皮膜を全て無機物で構成してもその機能としては十分であるが、より厳しい成形加工を行った場合、例えばドローレス成形その他の成形でも金型の状態が悪い場合には、無機物特有の脆さのために成形加工により下地皮膜にクラック等を生じやすくなる。結果的には親水塗膜が剥離しやすくなったり,耐食性の低下を招くことが稀にある。下地皮膜中に樹脂成分を包含するようにするとこのような欠点を無くすることができ,従来から無機物に加え樹脂分を皮膜に取り込ませると,皮膜に柔軟性が与えられ,加工時の塗膜密着性や耐食性が向上する等の利点がある
【0019】
本発明をを開発するに当たり,樹脂分の深さ方向での皮膜中の分布を測定したところ,これまたAl同様に,樹脂分は深さ方向に明確な層をなすものでは無く,深さ方向に濃度が徐々に変化する一種の傾斜構造を構成させることが必要である。さらに,表面付近に主要金属成分より樹脂成分に由来するC量が多く,皮膜/アルミニウム界面に向かって厚さ方向に次第にC量が減少し,主要金属成分量がC量より多くなる厚みが少なくとも皮膜/アルミニウム界面より表面側にある時,塗膜密着性および耐食性が向上することを見出した。
【0020】
言い換えると有機−無機複合皮膜でも,表面に樹脂分リッチな部分を設け,かつ皮膜/アル ミニウム界面に向かって徐々に樹脂分が減少し,かつ皮膜/アルミニウム界面直上に無機リッチな化成皮膜を設けることにより塗膜密着性および耐食性が向上する。
【0021】
FはZrまたはTi供給源であるHZrFやHTiFとして皮膜中に入ってくるもの,および化成処理する際のアルミニウム材表面に対するエッチング力アップのためにフッ化水素酸等の形で添加されても良い。Fは主に皮膜中でもZrまたはTiに配位しているようで,添加する場合は皮膜中のF/ZrまたはF/Tiの重量比が2.5以下であることが望ましい。2.5を越えるような場合はFが過剰で,ZrまたはTi以外の皮膜成分と結合したり,場合によっては親水性塗膜成分と反応するようになる。このような場合,水分等の作用により親水性塗膜表面に湧き出し、F成分溶出の元となるので好ましくない。
【0022】
Pはリン酸,縮合リン酸等の形態で処理液中に添加されても良く,リン酸Zrまたはリン酸Ti等として皮膜中に取り込まれ,耐食性アップ等に寄与する。Pも深さ方向の分布は一様では無く,表面付近に多く,次第に減少した傾斜分布を持っている。この時リン酸過剰であると表面付近のリン量が増加する。
試験的に親水性塗膜を設けずに下地処理皮膜を水中に浸漬したところ,PがZrまたはTi量を上回っているような皮膜部分が優先的に溶解した。このことは,P過剰な皮膜は耐水性が劣る可能性があることを示唆している。従ってPについても過剰な添加による皮膜中への大量混入は避けた方が良く,皮膜全体として,P/ZrまたはP/Tiの重量比が0.1〜1である皮膜を設けると良い。
【0023】
この発明の製造方法で基材となるアルミニウム合金薄板は、要は従来から熱交換器用フィン材として使用されているものであれば良く、特に限定されるものではない。すなわち、JIS規格の1100合金、1050合金、1N30合金等の純アルミニウム系合金、あるいは2017合金、2024合金等のAl−Cu系合金、また3003合金、3004合金等のAl−Mn系合金、5052合金、5083合金等のAl−Mg系合金、さらには、6061合金等のAl−Mg−Si系合金などを用いることができる。またアルミニウム合金基材の形状は、要は薄板であれば良く、シートあるいはコイルのいずれでも良い。
【0024】
この発明の方法を実施するにあたっては、上述のようなアルミニウム合金基材(薄板)に対して、脱脂(エッチングを含む)、水洗、乾燥を行った後、ZrまたはTi及び樹脂として供給されたCを主成分とし、皮膜中にZrまたはTiを0.1〜100mg/m含有するとともにCを含有し、表面はZrまたはTiより樹脂に由来するC量が多く、皮膜/アルミニウム界面に向かって厚さ方向に次第にC量が減少し、主要金属成分量がC量より多くなる厚みが少なくとも皮膜/アルミニウム界面より表面側にあり、さらに最表面のAl量が10Wt%以下、ZrまたはTiが最大濃度を示す深さでのAl量が50Wt%以下、残部をO,H,場合によってはP,Fの一種以上、及びその他不可避不純物等からなる下地皮膜を設ける。また必要に応じ、脱脂、水洗工程の後に、酸洗浄、水洗(酸成分除去)工程を追加しても良い。
【0025】
ZrまたはTiを主要金属成分とし、樹脂を含む下地皮膜を得るためには、処理液に接触させて化学反応により皮膜を形成する「反応型」と、処理液を塗布して乾燥させることによる「塗布型」の両者が知られているが、本発明はそのどちらに対しても高い効果を発揮するものである。
【0026】
樹脂として供給されるCとしては、特に限定されるものではなく、目的に応じ熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂が使用できる。
【0027】
下地皮膜中のZrまたはTi量は、0.1〜100mg/mが良い。0.1mg/m未満では耐食性が劣り、100mg/mを超えると成形時の塗膜密着性が劣る。
塗膜の乾燥及び焼付け条件等は、塗料の特性および焼付け炉の特性、さらに製品の使用目的に合わせて適宜設定すれば良い。
【0028】
前記下地皮膜の上に親水性塗膜を設ける場合、この親水性塗膜は、親水性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば水ガラスまたはコロイダルシリカ等を主体とする無機系塗料でも良く、あるいは無機系塗料とアクリル、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の樹脂との混合塗料であっても良く、さらにはこれらにジルコニウム酸等の金属架橋剤が添加されていても良い。そのほか親水性を有する有機系塗料でも良く、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等のセルロース樹脂や、アクリルアミド、アクリル酸あるいはアクリルエステル等のアクリル樹脂、ポリエチレングリコール等 さらにはこれらの2種以上の混合物、共重合体であっても良い。またこれらの基材樹脂は、自己架橋型のものであっても良く、必要に応じてヘキサブチロールメラミン、ヘキサブトキシメラミン等のメラミン化合物や、エポキシ基を有する化合物、ブチロール基を付加させた尿素あるいはイソシアネート基を有する化合物などの硬化剤が添加されていても良い。
【0029】
該親水性塗膜としては、その用途に適合したものであれば特に制限されるものでは無いが、特開平11−223487号、特開平10−217394号、特許登録番号2975550号あるいは特許登録番号2025282号に記載されているような塗膜を用いると好適である。
【0030】
なおこれらの親水性塗膜の塗膜量および塗膜の焼付け条件等は、塗料の特性および焼付け炉の特性、さらに製品の使用目的に合わせて適宜設定すれば良い。
アルミニウム表面に先述した下地皮膜を設けた場合、その構造はアルミニウム素地と皮膜の界面にフッ化物、オキシ水酸化アルミニウム層が存在し、その上にZrまたはTiといった重金属のリン酸塩、水酸化物、酸化物を主体とする化成皮膜層が形成されているといったモデルで説明されていた。また、樹脂成分が加えられた皮膜の場合、樹脂成分はその最表面からアルミニウム素地まで一様に分布しているとされており、その分布状態に関する考察はほとんどなされてこなかった。発明者らは、GDS(グロー放電発光スペクトル)、オージェといった解析機器を用い、皮膜の深さ方向の元素分布、いわゆるデプスプロファイルを詳細に調べた。
【0031】
その結果、主要金属成分(ZrまたはTi)は皮膜全体に均一に存在するわけではなく、それぞれ最表面よりやや深い位置に濃度のピークを示すこと、またそれらは必ずしも明確な層を形成せず、いわば濃度勾配を有して分布していることを確認した。さらに、樹脂成分に由来するCは、皮膜最表面で最大値を示し、深くなるに従って減少することも確認した。
【0032】
脱脂、水洗、乾燥を行った後、下地皮膜を設けるが、必要に応じ脱脂、水洗工程の後に、酸洗浄、水洗(酸成分除去)工程を追加しても良い。
脱脂処理は圧延油除去及び圧延時に形成される酸化皮膜あるいは水酸化皮膜を除去するために行うものであり、このような皮膜除去が不完全であるとその後設けた化成皮膜中のアルミ濃度が高くなり目的の皮膜が得られない。
【0033】
このような目的にはエッチング性を有するpH=9〜13程度のアルカリ性脱脂剤が好適である。脱脂剤のエッチング力によりアルミ表面の酸化皮膜、水酸化皮膜を溶解除去できる。
【0034】
酸系脱脂剤によっても同様の効果が得られるが、エッチング速度が遅いため生産性が低下するので好ましくない。
【0035】
アルカリ脱脂剤としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸アルカリ金属や、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物、リン酸ナトリウムリン酸水素ナトリウム等のアルカリ金属リン酸塩、ケイ酸ナトリウム等のアルカリ金属ケイ酸塩等、あるいは これらの混合物をアルカリビルダーとして含み、さらにHLB=8〜11程度のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のポリオキシエチレン系界面活性剤や高級アルコール系界面活性剤等の界面活性剤およびEDTA・2Na塩やナフチルアミン等のキレート化剤を含む脱脂剤が適している。最近の排水規制や内分泌物攪乱物質、環境ホルモン物質の規制をはじめとする環境規制の高まりから、リンおよびノニルフェノール等を含有しない脱脂剤が特に好適である。
【0036】
脱脂処理法としては浸漬、スプレー、あるいは両者の併用等で処理すればよい。スプレー処理は浸漬処理に比べ効率がよく、短時間ですむのでライン長を短く出来るので好ましい。
【0037】
アルミ板状の酸化皮膜の厚みは、通常数10〜数100mg/mの範囲なので、エッチング量としては60〜300mg/m程度が好ましい。60mg/m未満では酸化皮膜除去が不十分で、また300mg/mを超えるようなエッチング量では酸化皮膜除去効果が向上しないばかりか、スラッジ生成が加速するので好ましくない。エッチング量の設定は試験板を用いライン上で実際に測定して決定するのが良いが、不可能な場合には別の試験設備を用いたラボ試験等から設定しても良い。脱脂剤の濃度、温度、脱脂時間等はラインの管理条件に合わせて適宜設定すればよいが、スプレー処理の場合、アルカリ性脱脂剤濃度は0.5〜5%、温度は30〜90℃、脱脂時間は1〜20秒程度でよい。濃度が0.5%未満ではpHが低くエッチングが不十分で好ましくない。また濃度が5%を超えるとエッチング量が過大になってスラッジ生成量が増加する等の不具合や、脱脂剤に含まれる界面活性剤が水中に溶けきらずに脱脂槽の浴面に浮き、それが再度アルミ板に付着する等の不良を生じるので好ましくない。温度も各脱脂剤の特性に合わせて設定すればよいが、
【0038】
30℃未満ではエッチング速度が遅く効率が悪いので好ましくない。90℃を超えると、浴が沸騰する危険を生じ、装置上不具合を生じやすいので好ましくない。脱脂時間は所定のエッチング量が得られるようにラインにあわせて設定すればよいが、1秒未満では酸化皮膜を除去しきれない場合が多く、20秒を超えると、コイル処理の場合、ライン長が長くなりすぎ十分な管理が行えなくなるので不適である。スプレー処理の場合はミストまたはシャワー状に脱脂剤を噴出させ、アルミ板に接触させればよいが、0.05MPa以上のスプレー圧で、複数のスプレーノズルを設け、さらに各スプレーノズルから噴出す脱脂剤が重なり合うように配置するとよい。
【0039】
このような脱脂処理に続き、直ちにリンス処理することが好ましい。脱脂からリンスまでの時間が長いとリンス水がかかるまでの間にアルミ板が乾燥し、アルミ板状のスラッジ成分が固着したり、脱脂剤成分が乾燥して付着するために、皮膜形成処理を施す上で障害となる。リンスまでの時間はライン適正に合わせて設定すればよいが、2秒未満であることが好ましい。2秒以上では乾燥による前記不具合が発生しやすい。またリンスの際は水量確保、特に脱脂槽から出た直後のリンス水を大量にかけることが重要である。脱脂剤のpHは9以上あるためアルミ酸化物あるいはアルミ水酸化物は水中に溶解しているため障害とはならないが、リンス水がかかるとpH7〜9の弱アルカリ領域になる。このようなpHでのアルミの溶解度は極めて低く、水中に溶け込んでいたアルミがアルミ水酸化物とて析出し、アルミ板上に新たな水酸化物層を形成する。このような水酸化物層も化成皮膜中のアルミ濃度を高めるので皮膜を劣化させる。従って、リンスの際は極力pH7〜9の領域を通過する時間が短くなるようにすることが好ましい。
【0040】
このためには大量のリンス水をアルミ板上に与えるのが良い。具体的には、装置の形状、ラインの速度などにより若干の相違があるが、リンス水量として3〜20リットル/mの割合となるようにアルミ板上に供給すればよい。
3リットル/m未満ではアルミ板上のpH低下速度が遅く、新たな水酸化皮膜が形成されてしまうので好ましくない。一方、20リットル/mを越えても効果は変わらず、大量の水を消費することになるので生産性の上で好ましくない。
【0041】
リンス水の温度は10〜80℃程度、好ましくは30〜50℃の範囲で選択すればよい。
10℃未満では、脱脂剤の溶解速度が遅く効率が悪い。80℃を超えるとアルミ板上で擬ベーマイト等の新たな水酸化皮膜の形成が促進されるので好ましくない。リンス水としては蒸留水や純水(脱イオン水)が好ましいが、軟水や電気伝導度が20mS/m以下の工業用水であってもかまわない。ただし、MgやCaといった多価金属イオンを含む工業用水等はこれら成分がアルミ板上に蓄積するので好ましくない。
【0042】
下地皮膜を形成するための処理液としては、ZrまたはTiからなる無機物及び樹脂、あるいは有機物と反応させたZrまたはTi化合物を含む水溶液が好適に用いられる。
【0043】
ZrまたはTiの無機化合物としては、リン酸Zr、リン酸Ti等のリン酸塩、水酸化Zr等の水酸化物、オキシ炭酸ジルコニウムのアンモニア塩等や 酸化Zrや酸化Tiをリン酸、硝酸等に溶解させたもの、フッ化Zrをフッ酸に溶解させたジルコンフッ酸等が挙げられる。
【0044】
樹脂としては、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸等のアクリル酸やそのエステルあるいはNa等との塩や、アクリルアミド、水溶性フェノール樹脂、水溶性ウレタン樹脂等が挙げられる。
【0045】
ZrまたはTiと樹脂の配合比率は、用いるZr樹脂またはTi樹脂の酸価、分子量等で変化するが、ZrまたはTiの重量と樹脂の重量比[(ZrまたはTi)/樹脂]で0.5〜3とするのが良い。比率が0.5未満では樹脂量が少なすぎて添加効果が得られず、3を超えて添加しても表面に樹脂層が厚く形成されてしまうだけで特性が変わらない上にコスト的に不利なので不適である。
【0046】
このようなZrまたはTiを含む処理液を、酸化アルミまたは水酸化アルミ量をコントロールしたアルミ板表面にスプレーで吹きつけるか、ロールコーター等で塗布すればよい。スプレー処理の場合は処理後に処理液を洗い落とすリンス工程が必要で設備投資額が大きくなることや無機物と有機物を含むリンス廃液を大量に処理しなければならない。そのためリンス工程を必要としないロールコーターによる塗布型処理の方が好適である。
【0047】
塗布型ノンクロム処理液を塗工して化成皮膜を設ける場合は、処理液を塗工する際の板温度および処理液温度を制御することが必要である。塗布型処理液はアルミ板表面を溶解させる作用があるので皮膜中へのアルミイオン混入の原因となり、制御が不十分であると目的とする皮膜が得られなくなる。
具体的には、板温度および処理液温度を40℃以下とし、さらに塗工から化成皮膜の乾燥,焼付工程に入るまでの時間あるいは塗布型化成処理液中の溶媒が揮発するまでの時間を2秒以下にするのが良い。40℃を超えた板温度あるいは処理液温度ではアルミ板との反応が激しいので皮膜中のアルミ濃度が高くなる。乾燥,焼付までの時間が2秒を超えると、液体としてアルミ板上に存在する時間が長いため、その間にアルミ板と反応し、皮膜中のアルミ濃度を高めるため不具合が生じる。また塗布型化成処理剤が溶液としてアルミ板上に存在する時間が短くなるように乾燥,焼付のヒートパターンを設定することが好ましい。
【0048】
溶媒が存在している間の処理液の温度はその溶媒の沸点を大きく超えることはないので、炉温度を高くとっても大して意味が無いので風量を制御することが必要となる。具体的には5〜50m/秒程度の風速で乾燥した気体をアルミ板に供給すればよい。5m/秒未満では処理液から揮発した溶媒が飽和した気体層がアルミ板上に形成されるため、溶媒の揮発が遅くなりそれだけアルミ板と処理液が反応する時間が長くなる。50m/秒を超えるような風速としても、それ以上乾燥効率が上がらないばかりか、処理液の粘度が低い場合は風紋やムラを生じるので好ましくない。
【0049】
処理液を塗布した後はアルミ板を加熱乾燥する。乾燥温度や時間は処理液の特性にあわせて適宜選択すればよいが、80〜300℃で数秒〜数十秒加熱乾燥すればよい。80℃未満では乾燥に時間がかかり生産性が悪い。300℃を超えると樹脂によっては揮発または燃えてしまうので好ましくない。一般的に熱硬化型樹脂を用いる場合は150℃〜300℃程度がよく、非架橋型の樹脂を用いる場合には80〜140℃程度が好ましい。また、乾燥時間が1秒以下では乾燥が不十分であり、数十秒を超えると炉が長くなり、設備費用がかかるので不適である。
【実施例】
【0050】
以下、実験例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。アルミニウム基材は全てJIS3003相当のアルミニウム合金薄板(板厚0.100mm)を用いた。
【0051】
[実施例1]
pH=12の水酸化ナトリウムを主成分とするアルカリ脱脂剤(濃度=1.5%、温度=65℃時間=6秒)にて脱脂した後、約1秒後に水洗し(水量=6リットル/m、温度=20℃)、乾燥を行った。その後、塗布型Zr処理(フッ素−Zr−アクリル樹脂タイプ、板温度=20℃,処理液温度=20℃,塗工から乾燥までの時間=1秒,乾燥は風速=15m/秒、温度=180℃、 時間=10秒)を行った。その後ポリビニルアルコールを主成分とする親水性塗料を塗布,焼付(塗膜量=0.5g/m,焼付=220℃にて10秒)を行い、ポリビニルアルコールを主成分とする親水性塗料を塗布、焼付(塗膜量0.5g/m、焼付温度220℃にて10秒)を行った。
【0052】
[測定方法]
・密着性評価:バウデン試験機にて3/16φ鋼球を使用し、荷重=100gfにて、無潤滑状態にて摺動させた。1〜5往復でカジリを生じたものを×、6〜10往復でカジリを△15往復まで異常無しを○,とした。
・親水性評価:出光興産製プレス油AF2Cに浸漬後、160℃にて10分乾燥し、その後塗膜面の水接触角を測定した。
・耐食性評価:JISZ2371による塩水噴霧試験を実施、試験時間=500hr後 貫通孔のない物を○とした。
・成形性評価:フィンプレスにてDOF成形を実施、10万ショット/ポンチ成形後のカラー内面の塗膜状態を観察。異常無しを○、クラック発生を△、剥離を×とした。
【0053】
【表1】

【0054】
[実施例2]
実施例1と同様なアルカリ脱脂、水洗した後、50℃の1%硫酸に5秒間浸漬し、水洗、乾燥を行った。その後、 塗布型Ti処理(フッ素−Ti−アクリル樹脂タイプ、板温度=20℃,処理液温度=20℃,塗工から乾燥までの時間=1秒,乾燥は風速=15m/秒、温度=180℃、 時間=10秒)を行った。その後、ポリビニルアルコールを主成分とする親水性塗料を塗布,焼付(塗膜量=0.5g/m,焼付=220℃にて10秒)を行った。
【0055】
【表2】

【0056】
[実施例3]
実施例1と同じ方法にてアルカリ脱脂、水洗、乾燥を行った。その後、塗布型Zr処理(フッ素−Zr−アクリル樹脂タイプ、板温度=20℃,処理液温度=20℃,塗工から乾燥までの時間=1秒,乾燥は風速=15m/秒、温度=180℃、 時間=10秒)を行った。
処理液の塗布に際して、塗布後のZr量を一定とし、種々の皮膜を得るため、下表のような条件を変更した。その後ポリビニルアルコールを主成分とする親水性塗料を塗布,焼付(塗膜量=0.5g/m,焼付=220℃にて10秒)を行った。結果を表3及び4に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
[実施例4]
実施例1と同様のアルカリ脱脂、水洗した後、50℃の1%硫酸に5秒間浸漬し、水洗、乾燥を行った。その後、 塗布型Ti処理(フッ素−Ti−アクリル樹脂タイプ、板温度=20℃,処理液温度=20℃,塗工から乾燥までの時間=1秒,乾燥は風速=15m/秒、温度=180℃、 時間=10秒)を行った。
処理液の塗布に際して、塗布後のTi量を一定とし、種々の皮膜を得るため、実施例3と同様の処理を実施した。その後、ポリビニルアルコールを主成分とする親水性塗料を塗布,焼付(塗膜量=0.5g/m,焼付=220℃にて10秒)を行った。結果を表5に示す。
【0060】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明により開発されたフィン用アルミニウム材、プレコートアルミニウムフィン材は、皮膜の密着性、耐食性、成形性、親水性に優れたものであり、また製造に際してCrなどの有害な重金属を含まない化成処理液を使用して製造できるため、環境の汚染がなく優れた材料を安価に提供出来るものであり、ルームエアコン、自動車等の熱交換器用フィン材として極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】アルミニウム下地処理剤表面における主要ZrまたはTi金属成分濃度および炭素濃度の変化状態を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に下地皮膜を設けたフィン用アルミニウム又はアルミニウム合金基材(薄板)において、下地皮膜が下記の構成
(a)ZrまたはTi,AlおよびCを主材とする。
(b)ZrまたはTiの構成量は0.1〜100mg/m
(c)下地皮膜表面においてAlは10wt%以下であり、下地皮膜/Al界面に向かって濃度が増加する。
(d)皮膜表面から下地皮膜/Al界面に向かって樹脂に由来するC含有量は低下する。
を有することを特徴とするフィン用アルミニウム材。
【請求項2】
ZrまたはTi含有量が最大濃度を示す深さでのAl量が、50wt%以下であり、ZrまたはTi含有量がC含有量より大となる層が下地皮膜中に存在する請求項1に記載のフィン用アルミニウム材。
【請求項3】
脱脂、水洗、乾燥したフィン用アルミニウム又はアルミニウム合金基材(薄板)を、ノンクロム系樹脂含有ZrまたはTi塗布型化成処理剤を用いて、板材および処理材の温度40℃以下、乾燥開始までの時間が2秒以下で化成処理し、次いで風速5〜50m/sec、温度80〜300℃で3秒〜1分の条件で乾燥、焼き付け行うことを特徴とするフィン用アルミニウム材の製造方法。
【請求項4】
熱硬化性樹脂を含むノンクロム系樹脂含有ZrまたはTi塗布型化成処理剤を用いて、化成処理し、温度150〜300℃で乾燥、焼き付け行う請求項3に記載のフィン用アルミニウム材の製造方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂を含むノンクロム系樹脂含有ZrまたはTi塗布型化成処理剤を用いて、化成処理し、温度80〜140℃で乾燥、焼き付け行う請求項3に記載のフィン用アルミニウム材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜2に記載のプレコートフィン用アルミニウム材の下地皮膜上に親水性塗膜を設けたことを特徴とするプレコートアルミニウムフィン材。

【図1】
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【公開番号】特開2006−326863(P2006−326863A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−149455(P2005−149455)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】