説明

プレコート式回転ドラムによる固液分離装置及び固液分離方法

【課題】回収した浮遊固形物を有効利用するため、助剤やプレコート剤を用いることなく固液分離ドラム2上にプレコート層PCを形成させて、効率よく固液分離を行う。
【解決手段】処理対象水が供給される処理槽1と、この処理槽1内に、処理対象水W1に一部浸漬された状態で水平軸心を中心として回転可能に配置され外周壁がメッシュ材21からなる固液分離ドラム2と、メッシュ材21の外周面に付着・堆積した浮遊固形物からなるプレコート層PCを剥離回収する回収手段3と、固液分離ドラム2内へ通過した濾水W2を排出する排水手段12とを備え、メッシュ材21の目開きが150μm以下とすることによって、初期の固液分離工程でメッシュ材21に予めプレコート剤を塗布しなくても、プレコート層PCを形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周面に固液分離処理対象水中の浮遊固形物(懸濁物)によるプレコート層を形成するドラム状フィルタを用いて前記浮遊固形物を分離回収する固液分離装置及び固液分離方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄物の減量や再利用による資源の循環、有効利用の重要性が高まっている。食品工場から大量に排出される低濃度の有機性廃水中に含まれる有機物や、近年、都市部において急速に普及してきているディスポーザおよび廃水処理システムから発生する生ゴミ破砕物は、有効利用されることなくそのまま処理されている。これらの有機物はそのままバイオマス資源として利用するには濃度が低すぎ、廃水処理を行うには負荷が高いという問題があるからである。
【0003】
ここで、廃水から浮遊固形物を分離回収する固液分離装置としては、下記の特許文献に開示されているようなプレコート式の回転ドラムによるものが知られており、製紙業界において、パルプの濃縮や白水処理に用いられている。
【0004】
従来のプレコート式回転ドラムによる固液分離装置は、処理対象水を貯留する処理槽と、この処理槽内に不図示の水平軸心を中心として回転可能に配置され、外周壁がワイヤクロスや濾布などのメッシュ材からなる固液分離ドラムと、前記メッシュ材の外周面に付着・堆積した浮遊固形物からなるプレコート層を剥離回収するスクレーパ又はカッタとを備える。
【0005】
すなわちこの種の固液分離装置は、処理槽内へ処理対象水を供給すると共に、回転する固液分離ドラムの内部空間から、この固液分離ドラム内へ濾過された水(濾水)を排水することによって、固液分離ドラムのメッシュ材の外周面に処理対象水中の浮遊固形物が付着・堆積したプレコート層を形成させ、このプレコート層自体の濾過機能を利用して、メッシュ材の目開きサイズより粒子の細かい浮遊固形物を分離回収可能としているものである。そして、固液分離ドラムの回転速度によって廃水処理量、プレコート層の厚さ、及び濾水の水質を調整することができる。
【0006】
なお、この種のプレコート式回転ドラムによる固液分離装置では、処理対象水の浮遊固形物の濃度が低いとプレコート層の形成が不均一になるため、濃度は0.5%以上であることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−213819号公報
【特許文献2】特開2000−254418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この種のプレコート式回転ドラムによる固液分離装置は、パルプの濃縮に用いられる場合は、浮遊固形物が繊維状で沈降性が低く、濃度が0.5%以上と高いものであるため、固液分離ドラムのメッシュ材の表面にプレコート層が形成されやすく、メッシュ材は目開き300μm程度でも浮遊固形物を効率よく回収できるが、食品工場の廃水や、生活廃水中の浮遊固形物は粒子が細かく、形状も不均一で低濃度に存在しているため、目開き300μm程度のメッシュ材ではこれらを効率よく回収することは困難である。
【0009】
したがって、製紙に用いられているメッシュサイズの粗い固液分離ドラムによって、製紙白水やセメント廃水のように、浮遊固形物の粒子がより細かい廃水を処理するには、凝集沈殿剤等の助剤を添加することによってプレコート層の形成を促す手法や、予めメッシュ材にプレコート剤をコーティングし、固液分離工程においてメッシュ材に形成された浮遊固形物によるプレコート層を、前記プレコート剤と共に剥離し回収する手法が採られている。しかしながらこの場合は、凝集沈殿剤やプレコート剤を用いることによるコストアップが懸念され、しかも回収物に助剤やプレコート剤が混入してしまうことになるため、回収物を有効利用するには不都合である。
【0010】
また、プレコート式回転ドラムによる固液分離機の選定に際しては、廃水の性状を確認する必要があるが、メッシュ材のメッシュサイズは既存のサイズからの選定となるため、種々の廃水に対し適正なサイズを選定することができない場合がある。また、廃水量が少ない場合、投入される水中の浮遊固形物の量も少ないため、メッシュサイズやドラムの大きさによってはプレコート層を均一に形成することが困難となり、濾過精度が不安定となる問題がある。
【0011】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題とするところは、回収した浮遊固形物を有効利用するため、助剤やプレコート剤を用いることなく浮遊固形物にて固液分離ドラム上にプレコート層を形成させて、効率よく固液分離を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係るプレコート式回転ドラムによる固液分離装置は、処理対象水が供給される処理槽と、この処理槽内に前記処理対象水に一部浸漬された状態で水平軸心を中心として回転可能に配置され外周壁がメッシュ材からなる固液分離ドラムと、前記メッシュ材の外周面に付着・堆積した浮遊固形物からなるプレコート層を剥離回収する回収手段と、前記固液分離ドラム内へ通過した濾水を排出する排水手段とを備え、前記固液分離ドラムのメッシュ材の目開きが150μm以下であることを特徴とするものである。
【0013】
上記構成を備えるプレコート式回転ドラムによる固液分離装置によれば、処理槽内の処理対象水が、固液分離ドラムの内部空間内の濾水との水頭差によって、固液分離ドラムの外周壁のメッシュ材及びその外周面に浮遊固形物の付着・堆積により形成されたプレコート層を介して濾過され、清澄な濾水となって固液分離ドラムの内部空間へ流入し、この濾水が排水手段により排出され、プレコート層は回収手段によって順次剥離回収される。
【0014】
そして本発明の発明者の研究によれば、固液分離ドラムのメッシュ材の目開きサイズが150μmより大きい場合は、初期の固液分離工程でメッシュ材に予めプレコート剤を塗布しないと、メッシュ材の外周面に浮遊固形物の付着・堆積が起こりにくく、すなわちプレコート層が形成されないが、目開きサイズが150μm以下とすれば、初期の固液分離工程でメッシュ材に予めプレコート剤を塗布しなくても、プレコート層が形成されることがわかった。したがって、本発明では固液分離ドラムのメッシュ材の目開きを150μm以下としたものである。
【0015】
また、請求項2の発明に係るプレコート式回転ドラムによる固液分離装置は、請求項1に記載の構成において、処理槽内の処理対象水の浮遊固形物濃度が、固液分離ドラムの外周がその回転に伴って回収手段によりプレコート層が剥離されてから水面下へ没入する側が相対的に低濃度で、前記固液分離ドラムの外周がその回転に伴って水面上へ浮上する側が相対的に高濃度となるように、処理槽へ供給される処理対象水を前記固液分離ドラムの外周が水面上へ浮上する側に偏在する位置へ導くことを特徴とするものである。
【0016】
また、請求項3の発明に係るプレコート式回転ドラムによる固液分離装置は、請求項1又は2に記載の構成において、固液分離ドラムの軸方向一側が開放されていて、この開放された側の外径部が処理槽の一方の側壁の内側面に摺動可能に密接され、前記一方の側壁の外側に、前記固液分離ドラムの内部空間と連通する濾水還流槽が設けられ、この濾水還流槽から処理槽へポンプを介して濾水を還流可能としたことを特徴とするものである。
【0017】
また、請求項4の発明に係る固液分離方法は、請求項1〜3のいずれかに記載のプレコート式回転ドラムによる固液分離装置の処理槽に処理対象水を供給し、この処理対象水が固液分離ドラムの内側へ通過する過程で前記固液分離ドラムの外周面に前記処理対象水に含まれる浮遊固形物を付着・堆積させてプレコート層を形成し、前記処理槽内の処理対象水と、前記固液分離ドラムの内部空間へ流入した濾水との水頭差によって、前記処理対象水を前記固液分離ドラムの内部空間へ向けて、前記プレコート層により濾過することを特徴とするものである。
【0018】
また、請求項5の発明に係る固液分離方法は、請求項4に記載の方法において、処理槽に供給される処理対象水が、沈降性の良い物質を前処理として除去した上澄み水であることを特徴とするものである。
【0019】
また、請求項6の発明に係る固液分離方法は、請求項4に記載の方法において、処理槽に供給される処理対象水が、予め水中の浮遊固形物を粉砕してスラリー化した懸濁水であることを特徴とするものである。
【0020】
また、請求項7の発明に係る固液分離方法は、請求項4〜6のいずれかに記載の方法において、固液分離工程の初期に、固液分離ドラムの内部空間へ流入した濾水を処理槽へ還流させて循環させることにより、固液分離ドラムのメッシュ材の外周面にプレコート層を形成させ、固液分離ドラムの内部空間の濾水と、処理槽内の処理対象水との水頭差が所定値に達した時点で、前記濾水を排水することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明に係るプレコート式回転ドラムによる固液分離装置によれば、水頭差によって濾過するものであるため、固液分離ドラム内を負圧にする必要がなく、また、固液分離ドラムのメッシュ材の目開きを150μm以下としたことにより、初期の濾過工程でメッシュ材に予めプレコート剤を塗布する必要がないため、コストを低減することができる。
【0022】
請求項2の発明に係るプレコート式回転ドラムによる固液分離装置によれば、処理槽へ供給される処理対象水を固液分離ドラムの外周が水面上へ浮上する側に偏在する位置に導くことによって、請求項1による効果に加え、処理対象水の浮遊固形物濃度が、固液分離ドラムの外周がその回転に伴って回収手段によりプレコート層が剥離されてから水面下へ没入する側が相対的に低濃度となり、前記固液分離ドラムの外周がその回転に伴って水面上へ浮上する側が相対的に高濃度となるため、処理槽へ供給される処理対象水に含まれる比較的粒径の大きい浮遊固形物が、ある程度の層厚に成長したプレコート層に付着することになり、回収手段によってプレコート層が剥離・回収されてから固液分離ドラムの外周が水面へ没入される側では、プレコート層未形成のメッシュ材に比較的粒径の大きい浮遊固形物が付着しにくいので、均一なプレコート層を形成することができ、しかもこの位置では、処理対象水の浮遊固形物濃度が低いことから、濾液の水質を維持することができる。
【0023】
請求項3の発明に係るプレコート式回転ドラムによる固液分離装置によれば、請求項1又は2による効果に加え、固液分離工程の初期に、固液分離ドラムの内部空間へ流入した濾水を処理槽へ還流させて循環させることにより、固液分離ドラムのメッシュ材の外周面に所要の層厚のプレコート層が形成されるまで濾水を後段へ排出しないようにして、後段の処理工程への負荷の増大を防止することができる。
【0024】
請求項4の発明に係る固液分離方法によれば、処理対象水からの浮遊固形物の分離回収を低コストで効率よく行うことができる。
【0025】
請求項5の発明に係る固液分離方法によれば、請求項4による効果に加え、予め処理対象水から沈降性の良い物質が除去されるため、処理槽内の処理対象水を撹拌機などによって撹拌する必要がなく、固液分離ドラムのメッシュ材の外周面に均一なプレコート層を形成することができる。
【0026】
請求項6の発明に係る固液分離方法によれば、請求項4による効果に加え、処理対象水が、予め水中の浮遊固形物を粉砕してスラリー化した懸濁水であるため、処理槽内の処理対象水を撹拌機などによって撹拌する必要がなく、固液分離ドラムのメッシュ材の外周面に均一なプレコート層を形成することができる。
【0027】
請求項7の発明に係る固液分離方法によれば、プレコート層による濾過機能が発現された後で濾水を排出することになるため、メッシュ材の目開きサイズに相当する粒径の浮遊固形物を含んだ濾水による後段の処理工程での負荷増大を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るプレコート式回転ドラムによる固液分離装置の第一の形態を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明に係るプレコート式回転ドラムによる固液分離装置の第二の形態を概略的に示す断面図である。
【図3】図1におけるIII−III断面図である。
【図4】本発明に係るプレコート式回転ドラムによる固液分離装置の第三の形態を概略的に示す断面図である。
【図5】図4におけるV−V断面図である。
【図6】本発明に係るプレコート式回転ドラムによる固液分離装置の第四の形態を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係るプレコート式回転ドラムによる固液分離装置及び固液分離方法の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0030】
まず図1は、本発明に係るプレコート式回転ドラムによる固液分離装置の第一の形態、図2は同じく第二の形態を示すもので、いずれの形態も、処理対象水W1を貯留する処理槽1と、この処理槽1内に配置された固液分離ドラム2と、この固液分離ドラム2の外周面に処理対象水W1中の浮遊固形物により形成されたプレコート層PCを剥離回収する回収手段3とを備える。
【0031】
処理槽1には、図3に示される一方の側壁11における固液分離ドラム2との対向面の下部に位置して排水口12が開設されている。
【0032】
固液分離ドラム2は、処理槽1内の処理対象水W1に浸漬された状態で、水平な仮想軸心を中心として低速回転されるものであって、図3に示されるように、軸方向一側が開放された形状となっている。そして円筒状の外周壁がワイヤクロスなどのメッシュ材21からなり、開放された側の外径部が、処理槽1の一方の側壁(排水口12が開設された側壁)11の内側面に摺動可能に密接されることによって、この側壁11との間に濾水貯留室Sが画成されている。なお、参照符号22は、固液分離ドラム2の開放された外径部に周設されたシール部材である。
【0033】
固液分離ドラム2は直径50cm以上のものが採用され、この固液分離ドラム2のメッシュ材21の目開きは、メッシュ材21の外周面にプレコート剤を塗布することなくプレコート層PCを形成することが可能な150μm以下のものが採用される。メッシュ材の材質としては、ステンレス、亜鉛、真鍮、アルミ等の金属、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の合成樹脂、障子紙などのパルプ繊維、ガラス繊維、炭素繊維を使用することが可能である。
【0034】
図1又は図2において、固液分離ドラム2が時計方向へ回転するものとした場合、この固液分離ドラム2の外周部(プレコート層PC)は、参照符号1aで示される側(以下、ドラム浮上側1aという)で処理対象水W1の水面から浮上し、参照符号1bで示される側(以下、ドラム没入側1bという)で処理対象水W1の水面下へ没入する。そして処理槽1の上部には、ドラム没入側1bに位置して給水管13が開口しており、処理槽1内には、この給水管13により処理槽1内へ供給される処理対象水W1を、固液分離ドラム2の外周がその回転に伴って水面下へ没入する位置よりも回転方向前方、好ましくは固液分離ドラム2の最下部(軸心を通る鉛直線との交点位置)よりも回転方向前方で初めて固液分離ドラムの外周に接するように、かつ回転方向(時計方向)へ供給されるように導く導流部材14が設けられている。言い換えれば、この導流部材14は、処理槽1へ供給される処理対象水W1をドラム浮上側1aに偏在する位置へ導くものである。
【0035】
図1に示される第一の形態では、プレコート層PCを剥離して固形物Cとして回収する回収手段3は、固液分離ドラム2のメッシュ材21の外周面に形成されたプレコート層PCの表面に、処理槽1における処理対象水W1の水面レベルL1より上方で接触しながら、固液分離ドラム2と逆方向へ回転されることによって、前記固液分離ドラム2のメッシュ材21からプレコート層PCを転写・付着させるローラ31と、このローラ31に転写・付着された固形物Cを掻き取るスクレーパ32からなる。なお、ローラ31の表面材としては、例えばゴム、フェルト、スポンジ等、平滑度や弾力性、耐久性を重視した素材が用いられる。
【0036】
また図2に示される第二の形態では、プレコート層PCを剥離・回収する回収手段3は、固液分離ドラム2のメッシュ材21の外周面に形成されたプレコート層PCを掻き取るスクレーパ33からなる。
【0037】
次に、以上のように構成された固液分離装置を用いて、例えば有機系廃水(生活廃水、食品工場廃水、メタン発酵消化液、有機汚泥など)や、無機系廃水(無機汚泥、セメント廃水、研磨・切削加工廃水、シリコン加工廃水など)から浮遊固形物を分離回収する方法について説明する。
【0038】
ここで、一般家庭から排出される台所廃水や食品工場から排出される有機系廃水にはディスポーザ破砕物や食品くずが含まれており、製品加工工場から排出される無機系廃水には切削、研磨等の加工により生じた鉄、銅等の金属やシリコン等の粒子が含まれている。したがって、これらの廃水は、前処理として沈降性の良い物質を不図示の沈殿槽などで沈殿させることにより除去した上澄み水として供給されるか、あるいは予めミキサーなどで水中の浮遊固形物を粉砕してスラリー化した懸濁水として供給される。
【0039】
図1又は図2に示されるように、上述の廃水(処理対象水W1)は、給水管13を通じて処理槽1内に供給される。処理槽1に供給された処理対象水W1は、この処理対象水W1に浸漬された固液分離ドラム2の濾水貯留室S内の濾水W2との水頭差HDによって、固液分離ドラム2の外周壁のメッシュ材21及びその外周面に浮遊固形物が付着・堆積して形成されたプレコート層PCにより濾過され、固液分離ドラム2と側壁11との間の濾水貯留室Sへ濾水W2となって流入し、さらに、処理槽1に開設された排水口12から排出される。
【0040】
そして、固液分離ドラム2が図1又は図2における時計方向へ回転する場合、この固液分離ドラム2のメッシュ材21は、処理対象水W1の水面よりも上側で回収手段3によってプレコート層PCが除去された状態で、ドラム没入側1bで処理対象水W1の水面下へ没入し、この位置から、処理対象水W1に含まれる浮遊固形物の付着・堆積によるプレコート層PCの形成が開始され、処理対象水W1中を時計方向へ回転移動して行くのに伴って、プレコート層PCの層厚が増大して行き、ドラム浮上側1aで水面から浮上して、このプレコート層PCが回収手段3によって剥離・回収される、といった動作が1回転毎に繰り返される。
【0041】
しかしながら、固液分離工程の初期は、固液分離ドラム2のメッシュ材21の外周面にプレコート層PCが全く形成されていないので、粒径がメッシュサイズ以下のすべての浮遊固形物が濾過されずに固液分離ドラム2と側壁11との間の濾水貯留室Sへ通過してしまうことになる。したがって、固液分離工程の初期においては、まず固液分離ドラム2が半分以上水没するまで処理槽1へ処理対象水W1を供給し、固液分離ドラム2の回転を停止したままで、固液分離ドラム2の濾水貯留室Sの濾水W2を排出せずに排水口12から不図示のポンプで回収し、再び処理槽1へ供給して循環させる。そしてこのようにすることによって、メッシュ材21の目開きサイズに相当する粒径の浮遊固形物を含んだ濾水W2による後段の処理工程での負荷増大を防止することができる。
【0042】
ここで、固液分離ドラム2のメッシュ材21には目開き150μm以下のものが採用されているため、プレコート剤を塗布しなくても、メッシュ材21の表面には前記浮遊固形物の付着・堆積によるプレコート層PCが経時的に形成される。プレコート層PCが形成されると、このプレコート層PC自体が濾過機能を持つようになるので、プレコート層PCの堆積厚さの増大に伴い、粒径がメッシュ材21の目開きより粒径の小さい浮遊固形物も有効に分離されるようになる。このため、固液分離ドラム2の回転を停止したままで、濾水貯留室Sから濾水W2を処理槽1へ還流させて循環させることによって、処理槽1から固液分離ドラム2内への通水速度が徐々に減少すると共に、濾水W2の浮遊固形物の濃度が低下し、処理槽1の水位L1が上昇して、固液分離ドラム2内の濾水W2と処理槽1内の処理対象水W1との水頭差HDが大きくなって行く。
【0043】
このため、固液分離ドラム2のメッシュ材21の外周面に形成されるプレコート層PC
が十分な層厚となって、前記水頭差HDが所定値に達した時点で、処理槽1への濾水W2の循環を終了し、固液分離ドラム2の回転及び後段の処理工程への濾水W2の排水を開始すれば良い。なお、固液分離ドラム2の回転及び後段の処理工程への濾水W2の排水を開始するための指標としては、水頭差HDが20cm以上とするのが好ましい。
【0044】
また、ドラム没入側1bの水面近傍では固液分離ドラム2のメッシュ材21の外周面にはプレコート層PCが形成されていないため、固液分離ドラム2の回転速度が速いほどプレコート層PCの形成されていない部分が円周方向へ長くなって、処理対象水W1が固液分離ドラム2内へ通過しやすくなる。すなわち、固液分離ドラム2の回転速度が速いほど、処理槽1内の水位L1が低くなると共に固液分離ドラム2内の水位L2が高くなるので、水頭差HDが小さくなる。
【0045】
したがって、水位L1が上昇し、あるいは水位L2が低下したら回転速度を速くし、逆に水位L1が低下し、あるいは水位L2が上昇したら回転速度を遅くするといった制御を行うことによって、水頭差HDを例えば常にほぼ20cmを保つようにして、濃度の安定した濾水W2を得るようにすることができる。
【0046】
なお、回転によって固液分離ドラム2が水中へ没入する位置は、プレコート層PCの形成が開始される部分であるため、給水管13からの処理対象水W1がこの位置へ供給される場合は、処理対象水W1に含まれる比較的粒径の大きい浮遊固形物が付着して、プレコート層2が不均一かつ粗な状態に形成されてしまいやすく、このため濾水W2の水質が不安定になりやすい。
【0047】
これに対し、本発明によれば、給水管13を通じて処理槽1に供給される処理対象水W1は、この処理槽1内に設けられた導流部材14によって、固液分離ドラム2の最下部よりも回転方向前方、すなわちドラム浮上側1aに偏在する位置で初めて固液分離ドラムの外周に接するように導かれており、固液分離ドラム2の回転方向及び処理対象水W1の供給方向が同じであるため、処理対象水W1に含まれる比較的粒径の大きい浮遊固形物は、処理槽1内のうちドラム浮上側1a(固液分離ドラム2の最下部よりも回転方向前方)に分布し、ドラム没入側1b(固液分離ドラム2の最下部よりも回転方向後方)には、相対的に粒径が小さい浮遊固形物が分布するようになる。
【0048】
すなわち、処理槽1内の処理対象水W1には、ドラム没入側1bで相対的に低く、ドラム浮上側1aで相対的に高くなるような浮遊固形物濃度勾配が発生する。
【0049】
したがって、処理対象水W1に含まれる比較的粒径の大きい浮遊固形物は、プレコート層PCの形成が開始されてから時計方向へ移動するのに伴い、プレコート層PCがある程度の層厚になる固液分離ドラム2の最下部位置以降でプレコート層PCに付着することになり、ドラム没入側1bには、相対的に粒径が小さい浮遊固形物が分布することになる。したがって、プレコート層PCが未形成の部分が没入する位置(ドラム没入側1b)では処理対象水W1の浮遊固形物濃度が低いことから、この部分で濾過された濾液W2も水質が良好に維持される。
【0050】
なお、処理対象水W1が有機系廃水である場合、回収手段3によって回収された有機系固形物は、バイオマス資源として活用することができ、例えばメタン、水素、エタノール等のバイオマスエネルギーや、堆肥として用いることが可能である。また、洗剤等が混入しにくい食品工場廃水の場合は、回収したバイオマスを飼料として活用することも可能である。
【0051】
また、処理対象水W1が製品加工工場から排出される無機系廃水である場合、このような廃水には切削、研磨等の加工により生じた鉄、銅等の金属、あるいはシリコン等が含まれているため、回収手段3によって回収された無機系固形物は純度が高いリサイクル資源として利用することができる。
【0052】
次に図4は、本発明に係るプレコート式回転ドラムによる固液分離装置の第三の形態を示す概略的な断面図、図5は、図4におけるV−V断面図である。この第三の形態の形態において、上述した第一又は第二の形態と異なるところは、固液分離ドラム2の開放された側の外径部が摺動可能に接触される処理槽1の一方の側壁11の外側に、排水口12を介して固液分離ドラム2の内周の濾水貯留室Sと連通する濾水還流槽15が設けられ、排水口12を通じて濾水貯留室Sから濾水還流槽15へ流れ込んだ濾水W2を、ポンプ16及びバルブ17,18によって、後段の処理工程又は給水管13へ選択的に送ることができるようになっている。
【0053】
したがって先に説明したように、固液分離工程の初期において固液分離ドラム2の濾水貯留室Sの濾水W2を処理槽1へ還流させて循環させることにより固液分離ドラム2のメッシュ材21の外周面にプレコート層PCを形成させたり、その後、十分に濃度が低下した濾水W2を後段の処理工程へ送るといった切り替えを容易に行うことができる。
【0054】
処理槽1内の処理対象水W1の浮遊固形物濃度が、ドラム没入側1bで相対的に低濃度、ドラム浮上側1aで相対的に高濃度となるように、処理槽1へ供給される処理対象水W1をドラム浮上側1aに偏在する位置へ導く手段としては、上述した導流部材14のほか、例えば処理対象水W1を、ドラム浮上側1aに供給することによっても実現することができる。
【0055】
図6はその一例として、本発明に係るプレコート式回転ドラムによる固液分離装置の第四の形態を示す概略的な断面図である。すなわちこの第四の形態の特徴は、給水管13をドラム浮上側1aの水面近傍に開口させ、処理槽1の底部と固液分離ドラム2との間の隙間Gを可及的に狭くしたことにある。その他の部分は、基本的には先に説明した図1、図2、図3、図4あるいは図5と同様に構成することができる。
【0056】
この第四の形態によれば、給水管13からの処理対象水W1は、処理槽1のうちドラム浮上側1aに供給され、しかも処理槽1の底部と固液分離ドラム2との間の隙間Gが狭いことによって、この隙間Gには、水自体の流通は許容するが水中の浮遊固形物が回転方向と反対側(ドラム没入側1b)へ通過するのを抑制するように作用する動圧が発生する。このため、先に説明した各形態と同様、処理槽1内の処理対象水W1の浮遊固形物濃度勾配は、ドラム没入側1bで相対的に低く、ドラム浮上側1aで相対的に高くなる。またこのため、給水管13からドラム浮上側1aに供給された処理対象水W1に含まれる比較的粒径の大きい浮遊固形物は、処理槽1内のうちドラム浮上側1aに分布し、ドラム没入側1bには、相対的に粒径が小さい浮遊固形物が分布するようになる。
【0057】
したがって、処理対象水W1に含まれる比較的粒径の大きい浮遊固形物は、プレコート層PCの形成が開始されてから時計方向へ移動するのに伴い、プレコート層PCがある程度の層厚になるドラム浮上側1aでプレコート層PCに付着することになり、ドラム没入側1bには、相対的に粒径が小さい浮遊固形物が分布することになる。このため、プレコート層PCが未形成の部分が没入するドラム没入側1bでは処理対象水W1の浮遊固形物濃度が低いことから、この部分で濾過された濾液W2も水質が良好に維持される。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、有機系廃水(生活廃水、食品工場廃水、メタン発酵消化液、有機汚泥など)や、無機系廃水(無機汚泥、セメント廃水、研磨・切削加工廃水、シリコン加工廃水など)から、薬剤を添加することなく浮遊固形物を分離回収することができるので、特に、廃水処理の初段に設置し、廃水中の浮遊固形物を除去して後段の処理負荷を低減させる手段として有効に利用することができる。また、回収された固形分のうち、有機物はバイオマス資源として、無機物は適正処理により再利用することが可能であり、廃棄、処理費用のコストダウンが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 処理槽
1a ドラム浮上側
1b ドラム没入側
12 排水口
13 給水管
14 導流部材
15 濾水還流槽
2 固液分離ドラム
21 メッシュ材
3 回収手段
31 ローラ
32,33 スクレーパ
PC プレコート層
S 濾水貯留室
W1 処理対象水
W2 濾水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象水が供給される処理槽と、この処理槽内に前記処理対象水に一部浸漬された状態で水平軸心を中心として回転可能に配置され外周壁がメッシュ材からなる固液分離ドラムと、前記メッシュ材の外周面に付着・堆積した浮遊固形物からなるプレコート層を剥離回収する回収手段と、前記固液分離ドラム内へ通過した濾水を排出する排水手段とを備え、前記固液分離ドラムのメッシュ材の目開きが150μm以下であることを特徴とするプレコート式回転ドラムによる固液分離装置。
【請求項2】
処理槽内の処理対象水の浮遊固形物濃度が、固液分離ドラムの外周がその回転に伴って回収手段によりプレコート層が剥離されてから水面下へ没入する側が相対的に低濃度で、前記固液分離ドラムの外周がその回転に伴って水面上へ浮上する側が相対的に高濃度となるように、処理槽へ供給される処理対象水を前記固液分離ドラムの外周が水面上へ浮上する側に偏在する位置へ導くことを特徴とする請求項1に記載のプレコート式回転ドラムによる固液分離装置。
【請求項3】
固液分離ドラムの軸方向一側が開放されていて、この開放された側の外径部が処理槽の一方の側壁の内側面に摺動可能に密接され、前記一方の側壁の外側に、前記固液分離ドラムの内部空間と連通する濾水還流槽が設けられ、この濾水還流槽から処理槽へポンプを介して濾水を還流可能としたことを特徴とする請求項1又は2に記載のプレコート式回転ドラムによる固液分離装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のプレコート式回転ドラムによる固液分離装置の処理槽に処理対象水を供給し、この処理対象水が固液分離ドラムの内側へ通過する過程で前記固液分離ドラムの外周面に前記処理対象水に含まれる浮遊固形物を付着・堆積させてプレコート層を形成し、前記処理槽内の処理対象水と、前記固液分離ドラムの内部空間へ流入した濾水との水頭差によって、前記処理対象水を前記固液分離ドラムの内部空間へ向けて、前記プレコート層により濾過することを特徴とする固液分離方法。
【請求項5】
処理槽に供給される処理対象水が、沈降性の良い物質を前処理として除去した上澄み水であることを特徴とする請求項4に記載の固液分離方法。
【請求項6】
処理槽に供給される処理対象水が、予め水中の浮遊固形物を粉砕してスラリー化した懸濁水であることを特徴とする請求項4に記載の固液分離方法。
【請求項7】
固液分離工程の初期に、固液分離ドラムの内部空間へ流入した濾水を処理槽へ還流させて循環させることにより、固液分離ドラムのメッシュ材の外周面にプレコート層を形成させ、固液分離ドラムの内部空間の濾水と、処理槽内の処理対象水との水頭差が所定値に達した時点で、前記濾水を排水することを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の固液分離方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−41923(P2011−41923A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192952(P2009−192952)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【出願人】(591032208)株式会社サトミ製作所 (5)
【Fターム(参考)】