説明

プレコート金属板の製造方法

【課題】 粘着性および接着性に優れたプレコート金属板の製造方法を提供する。
【解決手段】 金属板の少なくとも片方の表面に、化成処理皮膜、下塗り塗膜、上塗り塗膜を順次形成するプレコート金属板の製造方法において、前記下塗り塗膜の表面にオルガノシリケート及び/又は該オルガノシリケートの縮合物を含む上塗り塗料を塗布して焼付け処理を施すことにより前記上塗り塗膜を形成したのち、該上塗り塗膜の表面に80℃以上の水または水蒸気を1秒以上接触させることにより、前記上塗り塗膜の表面の水の接触角が65°以下であるプレコート金属板とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護フィルムの貼付け性に優れるとともに、加工・組み立て時に施す各種材料との粘着・接着施工の際に良好な粘着性および接着性を発現する、パネルやサイディングなどの建築内外装材、あるいは家電製品内外装材などの用途に好適なプレコート金属板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板の表面に、化成処理および下塗り塗膜を介して様々な塗膜を形成したプレコート金属板は、品質の安定性や需要家での塗装工程省略による合理化など多くのメリットがあることから、建材、家電、厨房その他の分野に広く使用されている。特に、亜鉛または亜鉛とアルミニウムの合金をめっきした鋼板(以下、亜鉛系めっき鋼板と称する)の表面に、化成処理および下塗り塗膜を介して焼付け型塗膜を表面に形成したプレコート鋼板は、屋根、シャッター、外壁、各種外装パネル、家電機器や事務機器の筐体、家具など既に広く使用されている。
【0003】
しかしながら、これらのプレコート金属板は、表面に形成されている塗膜が絶縁体であるため、一般の未塗装の金属板のように溶接接合することができない。そのため、プレコート金属板の接合方法としては、塗膜を部分的に除去して溶接を行いその後補修塗装する方法、あるいはカシメやリベットなどの機械的接合による方法が従来採用されているが、これらの方法ではコスト高となることが問題とされている。係る問題を解消するのが、接着接合によってプレコート金属板同士、あるいはプレコート金属板と他の各種材料とを接合する方法である。この方法では、接着剤を用いて接着接合を行うため、塗膜の削除やカシメ等の機械的加工を要せず、コスト面で極めて有利である。以上のような背景下、今日では、より良好な粘着性および接着性を有するプレコート金属板が望まれている。
【0004】
また、プレコート金属板にプレス成形等の加工を施す際、加工時の傷つきを防止する目的で、プレコート金属板の上塗り塗膜表面に保護フィルムを貼り付けることがある。或いは、プレコート金属板製造時、そのコイル巻き取り前の工程で上塗り塗膜表面に保護フィルムを貼り付けて最終製品とすることにより、製品搬送時や保管時に懸念される傷つきを防止することもある。その際、プレコート金属板の粘着性および接着性が不十分であると、保護フィルムの剥離や、部分的な浮きによるシワが発生してしまう。よって、保護フィルムの貼付け性の観点からも、より良好な粘着性および接着性を有するプレコート金属板が望まれる。
【0005】
接着接合に適したプレコート鋼板として、特許文献1には、上塗り塗膜として、分岐構造をもった高分子ポリエステル樹脂を使用することによって水酸基やカルボキシル基などの官能基を増やし、樹脂自体の接着性を向上した技術が提案されている。また、特許文献2には、上塗り塗膜中にキチンあるいはキトサンなどの接着性顔料を配合する技術が提案されている。さらに、特許文献3には、上塗り塗膜中に接着性を付与するための尿素系樹脂ビーズを配合させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58―120674号公報
【特許文献2】特開平8−267660号公報
【特許文献3】特開平10−128905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、プレコート鋼板の粘着性および接着性が不十分であるだけでなく、使用する樹脂が限定されてしまうため、適用用途が限られてしまうという問題があった。また、特許文献2の技術は、各種樹脂塗料に適用できる汎用性はあるが、塗料としての貯蔵安定性の低下や塗装仕上がり外観の安定性低下を招くなどの問題を有していた。さらに、特許文献3の技術は、塗装外観がつや消しに限定されてしまう、および保護フィルムの粘着性向上効果が小さい等の問題を有していた。
【0008】
本発明の目的は、上記した従来技術が抱える問題を有利に解決し、様々な用途に対応でき、各種樹脂塗膜への適用が可能で、安定的に製造できる粘着性および接着性に優れたプレコート金属板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上述した問題を解決すべく、プレコート金属板の粘着性および接着性に及ぼす各種要因について鋭意研究を重ねた。その結果、プレコート金属板の最外層に形成される塗膜の初期における水接触角を65°以下にすることにより、プレコート金属板の粘着性および接着性が飛躍的に向上することを知見した。ここで、「最外層に形成される塗膜の初期における水接触角」とは、プレコート金属板に成形・加工を施す前の状態における水接触角の値、或いは、プレコート製造ラインでガードフィルム(保護フィルム)を貼り付ける場合にはガードフィルム(保護フィルム)を貼り付ける前の状態における水接触角の値を意味する。そして、本発明者らは更に、上塗り塗膜を最外層とするプレコート金属板において、上塗り塗膜の初期における水接触角を65°以下にする手段について、検討を進めた。その結果、所定の組成を有する上塗り塗膜を形成するとともに、該上塗り塗膜に所定の処理を施すことにより、上記の如き水接触角を有する上塗り塗膜が得られることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 金属板の少なくとも片方の表面に、化成処理皮膜、下塗り塗膜、上塗り塗膜を順次形成するプレコート金属板の製造方法において、前記下塗り塗膜の表面にオルガノシリケート及び/又は該オルガノシリケートの縮合物を含む上塗り塗料を塗布して焼付け処理を施すことにより前記上塗り塗膜を形成したのち、該上塗り塗膜の表面に80℃以上の水または水蒸気を1秒以上接触させることにより、前記上塗り塗膜の表面の水の接触角を65°以下にすることを特徴とするプレコート金属板の製造方法。
【0011】
[2] 前記[1]において、前記上塗り塗膜に含まれる前記オルガノシリケート及び/又は該オルガノシリケートの縮合物の配合量が、固形分換算で1質量%以上20質量%以下であることを特徴とするプレコート金属板の製造方法。
【0012】
[3] 前記[1]または[2]において、前記上塗り塗膜が、メラミン硬化型ポリエステル系樹脂またはフッ化ビニリデン−アクリル系フッ素樹脂を主成分とすることを特徴とするプレコート金属板の製造方法。
【0013】
[4] 前記[1]ないし[3]の何れかにおいて、前記上塗り塗膜の表面に80℃以上の水または水蒸気を1秒以上接触させたのち、前記金属板を巻き取ることを特徴とするプレコート金属板の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によると、成形加工の前工程あるいは連続塗装ライン内で、保護フィルムを、剥離やシワが生じることなく貼り付けることが可能なプレコート金属板を提供することができる。また、本発明の製造方法によると、需要家での組み立て時の各種接着接合、建築現場における止水等のために塗布するシーリング剤を強固に密着することが可能なプレコート金属板を提供することができる。更に、本発明の製造方法によると、上記の如く粘着性および密着性に優れたプレコート金属板を、工業的に安定して生産することが可能となり、産業上格段の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の詳細とその限定理由を説明する。
本発明のプレコート金属板の製造方法は、金属板の少なくとも片方の表面に、化成処理皮膜、下塗り塗膜、上塗り塗膜を順次形成するプレコート金属板の製造方法において、前記下塗り塗膜の表面にオルガノシリケート及び/又は該オルガノシリケートの縮合物を含む上塗り塗料を塗布して焼付け処理を施すことにより前記上塗り塗膜を形成したのち、該上塗り塗膜の表面に80℃以上の水または水蒸気を1秒以上接触させることにより、前記上塗り塗膜の表面の水の接触角を65°以下にすることを特徴とする。
【0016】
下地となる金属板としては、冷延鋼板などの各種鋼板のほか、亜鉛めっき鋼板、亜鉛−5%アルミニウム合金めっき鋼板および55%アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板などの亜鉛系めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、各種ステンレス鋼板、あるいはアルミニウム板など、塗装板の原板に供される従前公知の金属板が何れも適用可能である。これらのなかでも、加工性、耐食性、塗装性などの性能のバランスのよい亜鉛系めっき鋼板が特に好ましい。
【0017】
金属板の表面に形成される化成処理皮膜は、下地となる金属板の金属面とその上層に形成される下塗り塗膜との密着性の向上化、およびプレコート金属板の耐食性の向上化に有効に作用する。
また、上記化成処理皮膜の上層に形成される下塗り塗膜は、下地となる金属板(化成処理皮膜付)と上層の塗膜との間の密着性、およびプレコート金属板の耐食性を付与するために形成される。
本発明において、化成処理皮膜および下塗り塗膜の種類は特に問わず、いずれも従前公知の方法により形成することができる。
【0018】
次に、上記下塗り塗膜の上に形成される最外層の塗膜、すなわち上塗り塗膜について説明する。
上塗り塗膜は、各種色調外観を得ること、および下塗り塗膜以下の層を保護する目的で形成される。
そして、本発明は、上塗り塗膜を、オルガノシリケート及び/又は該オルガノシリケートの縮合物を含む塗料を用いて形成することを必須とする。
【0019】
本発明では、上記のように最外層に形成された上塗り塗膜の初期の表面を、水接触角で65°以下の親水性の状態にする必要がある。水接触角が65°より大きいと、プレコート金属板の粘着性および接着性、すなわち保護フィルム、各種接着剤、あるいはシーリング剤などとの粘着性および接着性を十分に確保することができない。
そこで、本発明では、一般式(1)で示されるオルガノシリケートおよび/またはその縮合物を含む塗料を用いて上塗り塗膜を形成し、さらに上塗り塗膜に後述する所定の処理を施すことにより、上塗り塗膜の初期の表面の水接触角を65°以下とする。
【0020】
[化1]
−Si−(OR4−a ・・・ (1)
【0021】
一般式(1)において、R,Rはアルキル基またはアリール基、aは0または1である。
一般式(1)で示されるオルガノシリケートの好ましい具体例としては、テトラヒドロキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、などのテトラアルコキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0022】
また、オルガノシリケートの縮合物(部分縮合物も含む)は、上記オルガノシリケートに水および触媒を加えて加水分解させて縮合させることによって得られる。オルガノシリケートの縮合物の市販品としては、「メチルシリケート51」、「エチルシリケート40」、「エチルシリケート48」(以上コルコート株式会社製)、「MKCシリケートMS51」、「MKCシリケートES40」(以上三菱化学株式会社製)などがあり、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0023】
なお、オルガノシリケートおよび/またはその縮合物はエタノールアミンやβジケトンなどのキレートによる誘導体として用いても構わない。また、オルガノシリケートおよび/またはその縮合物と合わせて、オルト蟻酸トリアルキル化合物やオルト酢酸トリアルキル化合物などの脱水剤を上塗り塗膜用の塗料に添加して、プレコート金属板用塗料としての貯蔵安定性を高めることも可能である。
【0024】
以上のような上塗り塗膜用塗料を用いることにより、オルガノシリケート及び/又は該オルガノシリケートの縮合物を含有する上塗り塗膜が形成されるが、上塗り塗膜に含まれる前記オルガノシリケート及び/又は該オルガノシリケートの縮合物の配合量(含有量)は、上塗り塗膜全質量に対して固形分換算で1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。また、1質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。上記配合量(含有量)が1質量%未満では、上塗り塗膜の初期の表面の水接触角を65°以下にすることが困難となる。一方、上記配合量(含有量)が20質量%を超えると、上塗り塗膜自体の性能、特に耐候性や耐食性の低下を招くおそれがある。
【0025】
本発明において、上塗り塗膜を構成する成分のうち上記オルガノシリケートおよび/またはその縮合物以外の成分については特に問わないが、様々な成形・加工に適応でき、安定的な品質を得るためには、有機樹脂を主成分とし、連続塗装ラインで成膜可能なものが好ましい。
上塗り塗膜の主成分に好適な上記有機樹脂としては、具体的には、プレコート金属板として広く使用されているポリエステル系樹脂やアクリル系樹脂、あるいはフッ素系樹脂等が例示され、これらの樹脂を単独で用いても複数種を組み合わせて用いてもよい。また、上塗り塗膜の主成分としてポリエステル系樹脂やアクリル系樹脂を用いる場合は、主剤樹脂とそれを架橋する硬化剤により構成される。
なお、主成分とは、塗膜中の50質量%以上を意味する。
【0026】
すなわち、上塗り塗膜の主成分となる有機樹脂として好適なポリエステル系樹脂は、主剤樹脂であるポリエステル樹脂と、該ポリエステル樹脂を架橋する硬化剤により構成される。
上塗り塗膜の主剤樹脂に好適なポリエステル樹脂としては、例えば、数平均分子量が1000〜30000、好ましくは3000〜20000のものが望ましい。数平均分子量が1000未満では、塗膜の伸びが低くなり、十分な加工性が得られず、所望の塗膜性能が得られない場合がある。一方、数平均分子量が30000を超えると、樹脂が高粘度となるため、過剰の希釈溶剤が必要となり、塗料中に占める樹脂比率が低下し、適正な塗膜が得られないおそれがある。なお、上記数平均分子量および後述の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算分子量である。
【0027】
上記ポリエステル樹脂は、多塩基酸成分と多価アルコールを周知の方法で加熱反応させて得られる重合体である。多塩基酸成分としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、マレイン酸、アジピン酸、フマル酸などを、単独でまたは複数種を組み合わせて用いることができる。また、多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどを、単独でまたは複数種を組み合わせて用いることができる。
【0028】
上塗り塗膜の主成分となる有機樹脂として好適なアクリル系樹脂は、主剤樹脂であるアクリル樹脂と、該アクリル樹脂を架橋する硬化剤により構成される。
上塗り塗膜の主剤樹脂として好適なアクリル樹脂は、水酸基を持つアクリル単量体またはメタクリル単量体と、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルなどを、周知の方法で加熱反応させて得られる共重合体である。上記した水酸基を持つアクリル単量体またはメタクリル単量体としては、例えば、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシプロピルなどを用いることができ、これらを単独で用いても複数種を組み合わせて用いてもよい。また、上記したアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸-n-ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸-n-ブチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシルなどを用いることができ、これらを単独で用いても複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
上記アクリル樹脂は、1分子中に少なくとも2個の水酸基を有し、且つ数平均分子量が1500〜20000の化合物であることが好ましい。また、上記数平均分子量は1700〜15000であることがより好ましい。アクリル樹脂の分子中にある水酸基はアクリル樹脂主鎖に無秩序に配列されており、上記数平均分子量が1500未満である場合、上塗り塗膜の加工性が著しく低下する傾向にある。一方、上記数平均分子量が20000を超えると、上塗り塗膜用塗料が高粘度になることから塗装時に過剰の稀釈溶剤が必要となり、塗料中に占める樹脂の割合が減少するため適切な塗膜が得られなくなるおそれがある。さらに、他の配合成分との相溶性が著しく低下することも懸念される。
【0030】
上塗り塗膜の主剤樹脂である上記ポリエステル樹脂及び/またはアクリル樹脂を架橋するための硬化剤としては、アミノ樹脂を用いることができる。
上塗り塗膜の硬化剤に用いる上記アミノ樹脂としては、尿素、ベンゾグアナミン、メラミンなどとホルムアルデヒドとの反応で得られる樹脂、及びこれらをメタノール、ブタノールなどのアルコールによりアルキルエーテル化したものが使用できる。具体的には、メチル化尿素樹脂、n-ブチル化ベンゾグアナミン樹脂、メチル化メラミン樹脂、n-ブチル化メラミン樹脂、iso-ブチル化メラミン樹脂などを挙げることができ、これらを単独で用いても複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
上塗り塗膜の主剤樹脂と、該主剤樹脂の硬化剤であるアミノ樹脂との配合比(固形分の質量比)は、[アミノ樹脂]/[主剤樹脂]=5/95〜35/65とすることが好ましく、10/90〜25/75とすることがより好ましい。上記配合比が5/95未満であると、アミノ酸樹脂の配合量が少なくなり、塗膜硬度が不十分となる。一方、上記配合比が35/65を超えると、アミノ酸樹脂の配合量が過剰となり、塗膜硬度が高くなりすぎて加工性が不十分となる。
【0032】
上塗り塗膜の主成分となる有機樹脂として好適なフッ素系樹脂としては、(ポリ)フッ化ビニリデン樹脂とアクリル樹脂のブレンドからなるいわゆるフッ化ビニリデン−アクリル系フッ素樹脂であることが好ましい。ポリフッ化ビニリデン樹脂とアクリル樹脂を混合するのは、結晶性樹脂であるポリフッ化ビニリデン樹脂の結晶化を抑制することにより上塗り塗膜の耐久性や加工性を向上させ、さらには上塗り塗膜と下塗り塗膜との密着性を向上させるためである。また、上記フッ化ビニリデン−アクリル系フッ素樹脂は、ポリフッ化ビニリデン樹脂とアクリル樹脂が質量比でポリフッ化ビニリデン樹脂:アクリル樹脂=85:15〜50:50であるオルガノゾル系焼付け型フッ素樹脂が好ましい。
【0033】
上記フッ化ビニリデン−アクリル系フッ素樹脂で使用するアクリル樹脂としては、熱可塑性のものおよび熱硬化性のものを単独または複合して使用できる。上記熱可塑性アクリル樹脂としては、ポリフッ化ビニリデンとの相溶性の観点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸アミルなどの1種または2種以上のモノマーの重合体、あるいはこれらのモノマーとアクリル酸やスチレンなどとの共重合体を用いることができる。
【0034】
また、上記熱硬化性アクリル樹脂としては、水酸基、カルボキシル基、グリシジル基、イソシアネート基などの架橋性官能基を有するアクリル樹脂とアルキル化メラミン、ポリオール、ポリアミドなどの硬化剤とから構成されたものを用いることができる。
【0035】
上記フッ化ビニリデン−アクリル系フッ素樹脂中に含まれるポリフッ化ビニリデン樹脂の比率(固形分の質量比)が85%を超えると、プレコート金属板としての塗装性低下、および上塗り塗膜の結晶性が高くなりすぎて加工性の低下が懸念されるため好ましくない。一方、上記比率が50%未満になると、ポリフッ化ビニリデンのもつ耐久性、特に耐候性の大幅な低下を招来するおそれがあり好ましくない。よって、上記比率は50〜85%とすることが好ましい。また、70〜85%とすることがより好ましい。
【0036】
なお、上塗り塗膜は、上記したオルガノシリケート及び/又は該オルガノシリケートの縮合物、主成分となる有機樹脂の他、目的や用途に応じて酸化チタン、弁柄、マイカ、カーボンブラックおよびその他の各種着色顔料や、アルミニウム粉やマイカなどのメタリック顔料、炭酸塩や硫酸塩などからなる体質顔料、あるいはシリカ微粒子、ナイロン樹脂ビーズ、アクリル樹脂ビーズなど各種微粒子、p-トルエンスルホン酸、オクトエ酸錫、ジブチル錫ジラウレート等の硬化触媒、ワックスその他の添加剤を適量配合することができる。
【0037】
上塗り塗膜の厚さは、5〜30μmとすることが好ましい。上塗り塗膜の厚さが5μm未満では、色調外観を安定させることが困難となる。一方、上塗り塗膜の厚さが30μmを超えると、上塗り塗膜の加工性の低下を招くおそれがあり好ましくない。
【0038】
上塗り塗膜用の塗料は、上記したオルガノシリケート及び/又は該オルガノシリケートの縮合物、更には主成分となる有機樹脂、あるいは更に顔料等を、各樹脂が溶解・分解可能な有機溶剤で希釈することにより得られる。
【0039】
そして、本発明における上塗り塗膜は、上塗り塗膜用の塗料をロールコーター塗装、カーテンフロー塗装等、従前公知の設備によって前記下塗り塗膜表面に連続的に塗布し、その後焼付けることにより形成される。上記において、焼付ける手段としては、熱風加熱、赤外線加熱、誘導加熱などの手段を用い、180〜250℃程度の到達板温で塗膜を焼付けることが好ましい。
【0040】
以上のようにして形成された上塗り塗膜は、通常、焼付け硬化した後、コイル状態に巻き取られるが、そのままではその表面の初期の水接触角が65°を上回る。そこで、本発明では、上塗り塗膜が形成されたプレコート金属板をコイル状態に巻き取る前に、80℃以上の水または水蒸気を焼付け後の上塗り塗膜の表面に1秒以上接触させる処理を施す。この処理により、上塗り塗膜の表面の初期の水接触角を65°以下にすることが可能となり、プレコート金属板の粘着性および接着性が飛躍的に向上する。なお、コイル巻き取り前に保護フィルムを貼り付けて保護フィルム付きのプレコート金属板とする場合は、保護フィルムを貼り付ける前に上記処理を施し、上塗り塗膜の表面の初期の水接触角を65°以下にする。
【0041】
なお、最外層となる塗膜の表面を初期の水接触角で65°以下にする方法としては、最外層となる塗膜の表面に無機質系親水性皮膜を形成する方法や、最外層となる塗膜の表面をコロナ放電処理する方法などがある。しかしながら、これらの方法では、プレコート金属板の粘着性・接着性以外の特性が低下する問題や、汎用性に乏しいという問題が見られる。
【0042】
上記処理を施すに際し、上塗り塗膜の表面に接触させる水が80℃未満であると、水接触角を下げる効果が小さく、上塗り塗膜の表面の初期の水接触角を65°以下まで低減することが困難となる。また、上塗り塗膜の表面に接触させる水が80℃未満であると、接触させた水が上塗り塗膜の表面に残存することがあり、好ましくない。よって、上塗り塗膜の表面に接触させる水または水蒸気の温度を80℃以上とする。好ましくは90℃以上である。一方、上塗り塗膜の表面に接触させる水または水蒸気の温度が過剰に高くなると、塗膜の熱劣化という問題が懸念されるため、上塗り塗膜の表面に接触させる水または水蒸気の温度は250℃以下とすることが好ましく、200℃以下とすることがより好ましい。
【0043】
また、上記処理を施すに際し、上塗り塗膜の表面に水または水蒸気を接触させる時間が1秒未満であると、水接触角を下げる効果が小さく、上塗り塗膜の表面の初期の水接触角を65°以下まで低減することが困難となる。よって、上塗り塗膜の表面に水または水蒸気を接触させる時間は1秒以上とする。一方、上塗り塗膜の表面に水または水蒸気を接触させる時間が過剰に長くなると、処理設備を長大化しなければ連続塗装ライン内で処理できなくなるという問題が懸念されるため、上塗り塗膜の表面に水または水蒸気を接触させる時間は30秒以下とすることが好ましく、10秒以下とすることがより好ましい。
【0044】
なお、本発明において、オルガノシリケート及び/又は該オルガノシリケートの縮合物を含む上塗り塗膜の表面に、80℃以上の水または水蒸気を1秒以上接触させることにより、上塗り塗膜の表面の初期の水接触角が65°以下に低下する理由については定かではないが、以下のように推測される。
オルガノシリケート及び/又は該オルガノシリケートの縮合物を含む上塗り塗膜の表面に、80℃以上の水または水蒸気を1秒以上接触させると、オルガノシリケート及び/又は該オルガノシリケートの縮合物に含まれるアルコキシ基が加水分解して水酸基となる。そして、このようにして発生した水酸基により、上塗り塗膜の表面の新水性が飛躍的に向上し、水接触角の低減効果が得られるものと推測される。
【0045】
本発明のプレコート金属板は、通常のプレコート金属板を製造するいわゆる連続塗装ラインに、上塗り塗膜の表面に水または水蒸気を接触させる手段(スプレー、シャワー、ディップ槽等)を設けることにより製造することができる。すなわち、化成処理、下塗り、および上塗りの塗膜を形成するに際しては、塗料組成物をロールコーター塗装、カーテンフロー塗装などの方法で塗布し、その後、熱風加熱、赤外線加熱、誘導加熱などの加熱手段によりそれぞれ焼き付け乾燥し、各塗膜層とする。その後さらに、スプレー法、シャワー法あるいはディピング法などによって80℃以上の水あるいは水蒸気を焼付け後の上塗り塗膜の表面に1秒以上接触させた後、必要に応じて保護フィルムを貼り付け、コイル状に巻き取ることにより製造される。
【0046】
以上のように、本発明では、プレコート金属板を製造するに際し、オルガノシリケート及び/又は該オルガノシリケートの縮合物を含む上塗り塗膜の表面に、80℃以上の水または水蒸気を1秒以上接触させる。これにより、最外層となる上塗り塗膜の表面の初期の水接触角が65°以下に低下し、プレコート金属板の粘着性および接着性が飛躍的に向上する。そのため、組み立てや現地施工で、各種接着剤やシーリング剤を用いてプレコート金属板同士またはプレコート金属板と他の各種材料とを接合する場合において、本発明に従い製造されたプレコート金属板を用いることにより、良好な密着性を得ることができる。
【0047】
また、本発明に従い製造されたプレコート金属板は、粘着性および接着性に優れるため、保護フィルム貼付け性が極めて良好である。そのため、保護フィルム付きのプレコート金属板を製造する場合、あるいは需要家が加工前のプレコート金属板に保護フィルムを貼り付ける場合において、本発明に従い製造されたプレコート金属板を用いることにより、良好なフィルム密着性を得ることができる。
【0048】
更に、本発明の方法によると、以下の実施例に示すとおり、プレコート金属板の他の特性(曲げ加工性)の低下を招くことなく粘着性および接着性を向上させることができる。また、本発明では、上塗り塗膜にオルガノシリケート及び/又は該オルガノシリケートの縮合物を含有させ、上塗り塗膜の表面に80℃以上の水または水蒸気を1秒以上接触させる簡便な方法によって、最外層となる上塗り塗膜の表面の初期の水接触角を65°以下にすることができる。そのため、種々の塗膜からなるプレコート金属板に適用可能であり汎用性が高い。
【0049】
なお、先述のとおり、本発明における化成処理皮膜の種類は特に限定されないが、例えばクロメート処理やリン酸塩処理を施すことにより形成される化成処理皮膜、シリカを主成分とする化成処理皮膜、有機樹脂皮膜等、従前公知の化成処理皮膜を用いることができる。
【0050】
また、先述のとおり、本発明における下塗り塗膜の種類も特に限定されないが、主剤樹脂と該主剤樹脂を架橋させる硬化剤とで構成される有機樹脂を主成分とすることが好ましい。
また、上記主剤樹脂および硬化剤の種類は特に限定されないが、主剤樹脂としてエポキシ系樹脂及び/またはポリエステル系樹脂を用い、主剤樹脂をアミノ樹脂やポリイソシアネート化合物で架橋硬化させるものが望ましい。
【0051】
下塗り塗膜の主剤樹脂に好適な上記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD等のビスフェノール類とエピハロヒドリンあるいはβメチルエピハロヒドリンとからなるエポキシ化合物、またはこれらの共重合物などが挙げられ、これらを単独で用いても複数種を組み合わせて用いてもよい。更に、これらのエポキシ化合物のモノカルボン酸変性物あるいはジカルボン酸変性物、モノ、ジもしくはポリアルコール変性物(モノアルコール変性物、ジアルコール変性物もしくはポリアルコール変性物)、モノもしくはジアミン変性物(モノアミン変性物もしくはジアミン変性物)、モノ、ジもしくはポリフェノール変性物(モノフェノール変性物、ジフェノール変性物もしくはポリフェノール変性物)も、上記エポキシ樹脂として使用でき、これらを単独で用いても複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
下塗り塗膜の主剤樹脂に好適な上記ポリエステル樹脂は、多塩基酸成分と多価アルコールを周知の方法で加熱反応させて得られる重合体である。上記多塩基酸成分としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、マレイン酸、アジピン酸、フマル酸などを用いることができ、これらを単独で用いても複数種を組み合わせて用いてもよい。また、上記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどを用いることができ、これらを単独で用いても複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
上記ポリエステル樹脂は、その数平均分子量が1000未満であると、下塗り塗膜の伸びが低くなり十分な加工性が得られず、望ましい塗膜性能が得られない。一方、数平均分子量が30000を越えると、樹脂が高粘度となるため塗装時に過剰の希釈溶剤が必要となり、塗料中に占める樹脂比率が低下して適正な塗膜が得られなくなる。よって、上記ポリエステル樹脂の数平均分子量は、1000〜30000とすることが好ましく、3000〜20000とすることがより好ましい。
【0054】
下塗り塗膜の主剤樹脂、例えば上記エポキシ樹脂及び/またはポリエステル樹脂を架橋させる硬化剤としては、アミノ樹脂及び/またはポリイソシアネート化合物を用いることができる。
下塗り塗膜の硬化剤に用いる上記アミノ樹脂としては、尿素、ベンゾグアナミン、メラミンなどとホルムアルデヒドとの反応で得られる樹脂、及びこれらをメタノール、ブタノールなどのアルコールによりアルキルエーテル化したものが使用できる。具体的には、メチル化尿素樹脂、n-ブチル化ベンゾグアナミン樹脂、メチル化メラミン樹脂、n-ブチル化メラミン樹脂、iso-ブチル化メラミン樹脂などを挙げることができ、これらを単独で用いても複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
下塗り塗膜の硬化剤に用いる上記ポリイソシアネート化合物としては、一般的製法で得られるヘキサメチレンジイソシアネート及びその誘導体、トリレンジイソシアネート及びその誘導体、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート及びその化合物、キシリレンジイソシアネート及びその誘導体、イソホロンジイソシアネート及びその誘導体、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート及びその誘導体、水添トリレンジイソシアネート及びその誘導体、水添4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート及びその誘導体、水添キシリレンジイソシアネート及びその誘導体などの化合物を用いることができ、これらを単独で用いても複数種を組み合わせて用いてもよい。特に一液型塗料としての使用が可能であるポリイソシアネート化合物、例えば、フェノール、クレゾール、芳香族第二アミン、第三級アルコール、ラクタム、オキシム等のブロック剤でブロック化されたポリイソシアネート化合物が好ましい。このブロック化ポリイソシアネート化合物を用いることにより、下塗り塗膜を形成する際に用いる塗料を一液で保存することが可能となり、プレコート金属板用塗料としての使用が容易となる。
【0056】
下塗り塗膜に含まれる硬化剤の配合比(固形分の質量比)は、樹脂固形分中での割合で、(下塗り塗膜全質量に対して固形分換算で)9〜50質量%とすることが好ましい。上記配合比(固形分の質量比)が9質量%未満では、塗膜硬度が不十分となる傾向があり、50質量%を超えると塗膜の加工性が低下するおそれがある。
【0057】
なお、下塗り塗膜は、上記した主成分となる有機樹脂(主剤樹脂と該主剤樹脂を架橋させる硬化剤とで構成される有機樹脂)の他、目的や用途に応じてp-トルエンスルホン酸、オクトエ酸錫、ジブチル錫ジラウレート等の硬化触媒を含有することができる。また、炭酸カルシウム、カオリン、クレーなどの体質顔料、酸化チタン、弁柄、マイカ、カーボンブラック、アルミニウム粉などの着色顔料を含有することができ、防錆性付与の為にクロム酸塩、シリカ系顔料、リン酸塩系顔料、亜リン酸塩系顔料などの防錆顔料を含有することもできる。さらに、消泡剤、レベリング剤等の各種添加剤を含有させてもよい。
【0058】
下塗り塗膜の厚さは2〜20μmが好ましく、2〜10μmとすることがより好ましい。下塗り塗膜の厚さが2μm未満になると、充分な防錆性が得られないおそれがある。また、下塗り塗膜の厚さが20μmを超えると、最終的に得られるプレコート金属板の加工性や耐傷つき性の低下が懸念されるとともに、製造コストも上昇するので好ましくない。
【0059】
下塗り塗膜は、前述した上塗り塗膜と同様に、従前公知の設備によって前記化成処理皮膜表面に連続的に塗布し、その後焼付けることにより形成される。
【実施例】
【0060】
本発明を実施例に基づきさらに説明する。
板厚0.35mmの亜鉛めっき鋼板(JIS G3302(2010)に規定のめっき付着量:Z18)を原板とし、この原板に、ロールコーターによって塗布型クロメート系化成処理液を金属クロム換算で付着量(乾燥状態)が40mg /m2になるように塗布した後、熱風乾燥炉を用いて到達板温80℃で乾燥して化成処理皮膜を形成した。次いで、下塗り塗料として、メラミン硬化型ポリエステル樹脂系塗料(日本ファインコーティングス社製、商品名:PXプライマー)を焼付け後の膜厚が5μmになるようにロールコーターによって塗布し、220 ℃で35秒間焼き付け、下塗り塗膜を形成した。さらに、下塗り塗膜の上層に表1に示す各種上塗り塗料組成物をロールコーターによって塗布し、表1に示す温度で40 秒で焼き付けて表1に示す乾燥膜厚の上塗り塗膜を形成し、冷却後、表1に示す各条件にて水あるいは水蒸気を上塗り塗膜の表面に接触させ、コイル状に巻き取ることによって本発明例および比較例の各種プレコート金属板を得た。
【0061】
以上により得られた各種プレコート金属板について、以下に示す評価方法により、上塗り塗膜の表面の初期の水接触角、粘着性、接着性、曲げ加工性を評価した。その結果を、各種プレコート金属板の製造条件とともに表1に示す。
【0062】
(1)水接触角
協和界面科学株式会社製の自動接触角計(商品名:DM-500)を使用し、純水滴下後10秒後の値を測定した。
【0063】
(2)粘着性
保護フィルムとして、アクリル系粘着剤をポリエチレン系フィルムに塗布したもの(三井化学東セロ株式会社製、商品名:三井マスキングテープ、PE系、T5010A)を、ラミネーターによって貼り付け、24時間後の密着状態を目視により観察し、下記基準に従い評価した。
○:全面に保護フィルムが、シワ等の発生なく、きれいに貼り付けられている
△:部分的に保護フィルムの浮きやシワが発生している
×:ほぼ全面にわたって保護フィルムの浮きが認められる
【0064】
(3)接着性
各種プレコート金属板から25mm×100mmの試験片を2枚切り出し、塗装面同士を1成分形変性シリコーン系シーリング材(サンスター技研株式会社製、商品名:2550HM)にて接着し、24時間後に剥離した。その剥離状態を目視により観察し、シーリング材の凝集破壊の面積、塗膜とシーリング材の界面剥離の面積を算出し、下記基準に従い評価した。
○:シーリング材の凝集破壊の面積が剥離面の80%以上
△:シーリング材の凝集破壊の面積が剥離面の30%以上80%未満
×:シーリング材の凝集破壊の面積が剥離面の30%未満
【0065】
(4)加工性
各種プレコート金属板から40mm×150 mmの試験片を切り出し、T曲げ法により0T曲げを行った後、上塗り塗膜の剥離状態を目視で観察し、下記基準に従い評価した。
なお、0T曲げ部の塗膜強制剥離用テープとして、ニチバン株式会社製のセロテープ(商品名)を使用した。
○:曲げ加工部の塗膜剥離なし
×:曲げ加工部の塗膜剥離が発生
【0066】
【表1】

【0067】
表1から明らかなように、比較例であるNo.7〜11においては、最外層である上塗り塗膜の表面の初期の水接触角が65°を超え、粘着性あるいは接着性が不十分であった。一方、本発明例No.1〜6においては、最外層である上塗り塗膜の表面の初期の水接触角が65°以下となり、粘着性および接着性が良好で、かつ加工性も良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の少なくとも片方の表面に、化成処理皮膜、下塗り塗膜、上塗り塗膜を順次形成するプレコート金属板の製造方法において、前記下塗り塗膜の表面にオルガノシリケート及び/又は該オルガノシリケートの縮合物を含む上塗り塗料を塗布して焼付け処理を施すことにより前記上塗り塗膜を形成したのち、該上塗り塗膜の表面に80℃以上の水または水蒸気を1秒以上接触させることにより、前記上塗り塗膜の表面の水の接触角を65°以下にすることを特徴とするプレコート金属板の製造方法。
【請求項2】
前記上塗り塗膜に含まれる前記オルガノシリケート及び/又は該オルガノシリケートの縮合物の配合量が、固形分換算で1質量%以上20質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のプレコート金属板の製造方法。
【請求項3】
前記上塗り塗膜が、メラミン硬化型ポリエステル系樹脂またはフッ化ビニリデン−アクリル系フッ素樹脂を主成分とすることを特徴とする請求項1または2に記載のプレコート金属板の製造方法。
【請求項4】
前記上塗り塗膜の表面に80℃以上の水または水蒸気を1秒以上接触させたのち、前記金属板を巻き取ることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のプレコート金属板の製造方法。

【公開番号】特開2012−143668(P2012−143668A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1734(P2011−1734)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000200323)JFE鋼板株式会社 (77)
【Fターム(参考)】