説明

プレコート金属板

【課題】特定の上塗り層の優れた防汚性を維持しつつ、耐曲げ性や耐食性を向上させたプレコート金属板を提供する。
【解決手段】1.2〜4.0μmの十点平均粗さRzを有する金属板と、当該金属板の少なくとも一方の表面に形成した化成皮膜と、当該化成皮膜の上に形成した樹脂皮膜とを備えるプレコート金属板において、前記樹脂皮膜が前記化成皮膜の上に形成した下塗り層と当該下塗り層の上に形成した上塗り層から成り、前記下塗り層が、ポリエステル系樹脂、メラミン系樹脂及びエポキシ系樹脂を含有し、かつ、20〜50MPaの引張強さを有し、前記上塗り層が、アクリル系樹脂と、0.1μm以下の平均粒径を有し乾燥した上塗り層の1〜10重量%のコロイダルシリカと、乾燥した上塗り層の0.1〜5.0重量%のアルコキシル基を有するシリコーン化合物とを含有することを特徴とするプレコート金属板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送機器の外板、天井パネル、看板等に用いられる防汚性のプレコート金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、輸送機器の外板、天井パネルや看板等にプレコート金属板が採用されている。その理由としては、従来主流であったポストコートや粘着フィルムと比較して、生産性が高いことや低コストであること等が挙げられる。
【0003】
プレコート金属板には、ユーザーからの要求に応じて、多種多様な機能を付与することが可能である。その一つに、美観性の維持があり、汚れが付き難く、洗浄し易い性能、すなわち防汚性がプレコート金属板に求められている。一般に、汚れ物質としては、埃、土砂、煤塵、排ガス中の粒子状物質などが挙げられ、従来のプレコート金属板では汚れ物質が付着し易かった。
【0004】
特に屋外の場合、このような汚れ物質は雨水によって流され難いので、筋状に流されて一部残留したものが、乾燥後に黒い筋となって美観性を損なうという問題があった。また、天井の場合には、施工後に汚れ物質が付着すると、汚れを除去するのに多くの時間と手間を必要とする問題があった。
【0005】
これらの問題を解決すべく、特許文献1には、シリカ含有アクリル系樹脂プレコート金属塗装板が開示されている。用いられる樹脂皮膜は硬質であるために汚れ物質が浸入し難く、更に樹脂皮膜表面が親水性を有しているために汚れ物質を容易に洗浄することができる。
【特許文献1】特開2004−082516号公報
【0006】
前記シリカ含有アクリル系樹脂プレコート金属塗装板に美観性を付与する場合、種々の顔料あるいは染料が添加される。添加量は適宜調整されるが、高級感を求めるユーザーの要求に応えるためには、その種類や添加量が多くなり易い。そのような場合、樹脂皮膜が脆くなるために曲げ部において樹脂皮膜割れが生じ、その外観が問題になることがあった。
【0007】
特許文献2には、耐汚染性に優れるとともに、樹脂皮膜の割れの発生を防止することができる塗装金属板が開示されている。この塗装金属板では、下塗り塗料にアルキルアミン鎖を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂と、アダクト型ブロックイソシアネート化合物を含有するものが用いられる。これにより、ウレタン架橋構造からなる樹脂皮膜が形成され、柔軟性を有し、かつ強靭な樹脂皮膜を得ることができる。また、上塗り塗料には、有機質樹脂及びテトラアルコキシシラン化合物を含有し、硬化樹脂皮膜のガラス転移温度が20〜80℃のものが用いられる。これにより、耐汚染性に優れ、かつ、樹脂皮膜の割れを効果的に防止することができる。
【0008】
しかしながら、焼付時間が20分と極めて長いため、プレコートにそのまま適用するには、乾燥炉の長さを極めて長くするか、或いは、製造速度を極度に低速にしなければならない。その結果、製造コストが増加する問題が残った。
【特許文献2】特開2004−243546号公報
【0009】
特許文献3には、曲げ加工性が良好な耐汚染性プレコートアルミニウム板が開示されている。数平均分子量が20000〜30000の範囲で、かつ、多分散度が2〜10の範囲にあるポリエステル系樹脂をベース樹脂として含む塗料を、焼付けることによって下塗り層が形成される。この下塗り層の厚さを3〜13μmの範囲にすることにより、硬化樹脂皮膜の凝集力が高くなる。その結果、曲げ加工によって脆い上塗り層が割れても上塗り層の変形に追随せずに、下塗り層が伸びて割れないために、曲げ部外観を良好にすることができる。
【特許文献3】特開2006−247906号公報
【0010】
ところで、近年、プレコート金属板に高性能の耐食性が要求されている。例えば、輸送機器の外板の場合、鉄粉などが樹脂皮膜に突き刺さり、その部分を起点として腐食が発生し易い。このような要求に対して、樹脂皮膜を厚くする手法が考えられる。しかしながら、特許文献3に開示される耐汚染性プレコートアルミニウム板においては、下塗り層に用いる数平均分子量が20000〜30000のポリエステル系樹脂塗料は粘度が高く、厚塗りすると塗装外観が劣るという問題がある。そのために、薄塗層を多層に重ね塗りする方法が考えられるが、重ね塗りの度に焼付乾燥を行うことになり樹脂皮膜が劣化して層間密着性が劣るという問題が残った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、特定の上塗り層の優れた防汚性を維持しつつ、耐曲げ性や耐食性を向上させたプレコート金属板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は請求項1において、1.2〜4.0μmの十点平均粗さRzを有する金属板と、当該金属板の少なくとも一方の表面に形成した化成皮膜と、当該化成皮膜の上に形成した樹脂皮膜とを備えるプレコート金属板において、前記樹脂皮膜が前記化成皮膜上に形成した下塗り層と当該下塗り層の上に形成した上塗り層から成り、前記下塗り層が、ポリエステル系樹脂、メラミン系樹脂及びエポキシ系樹脂を含有し、かつ、20〜50MPaの引張強さを有し、前記上塗り層が、アクリル系樹脂と、0.1μm以下の平均粒径を有し乾燥した上塗り層の1〜10重量%のコロイダルシリカと、乾燥した上塗り層の0.1〜5.0重量%のアルコキシル基を有するシリコーン化合物とを含有することを特徴とするプレコート金属板とした。
【0013】
本発明は請求項2において、前記下塗り層が29〜50μmの厚さ(a)を有し、前記上塗り層が3〜13μmの厚さ(b)を有し、a/bが3〜10とした。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、金属板表面の十点平均粗さRzを特定の範囲とすることにより、アンカー効果により金属板と下塗り層との密着性が向上させることができる。また、下塗り層において、所定種類の樹脂を用いつつ引張強さを適正範囲とすることにより、下塗り層と化成皮膜との密着性、ならびに、下塗り層と上塗り層との密着性を向上できるので、樹脂皮膜の耐曲げ性と耐食性も向上する。
更に、上塗り層において、所定種類の樹脂とシリカ及びシリコーン化合物を含有させ、かつ、シリカ及びシリコーン化合物の含有量を所定範囲とすることにより、防汚性と耐曲げ性を向上できる。
また、下塗り層の厚さa及び上塗り層の厚さbをそれぞれ特定の範囲とし、かつ、a/bを特定の範囲とすることにより、樹脂皮膜が耐曲げ性を著しく低下させることなく優れた防汚性を維持しつつ、良好な層間密着性と耐食性を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
A.金属板
本発明において用いる金属板は特に限定されるものではないが、輸送機器の外板、天井パネルや看板等を形成するのに十分な強度を有し、かつ十分な成形加工性を有するものが好適に用いられる。例えば、アルミニウム板、溶融亜鉛めっき鋼板や溶融亜鉛−アルミニウム系合金鋼板等が挙げられるが、リサイクル性に優れ、かつ、耐食性に優れるアルミニウム板を用いることが好ましい。アルミニウム板としては、純アルミニウム、3000系又は5000系アルミニウム合金等が好適に用いられる。
【0016】
本発明において用いる金属板表面の十点平均粗さRzは1.2〜4.0μmの範囲である。1.2μm未満では、化成皮膜に対するアンカー効果が小さく曲げ加工後の密着性が劣る。一方、4.0μmを超えると、金属板表面が割れ易くなるため、曲げ部外観が劣る。金属板の表面粗さを調整するための具体的方法は特に限定されるものではないが、
(a)圧延ロール表面を適切な条件によって研磨、或いはショットブラスト、放電加工、レーザー加工等の手段によって処理して、圧延ロールの表面形状を適切に調整しておき、圧延時に圧延ロール表面の凹凸形状を金属板に転写する方法、
(b)圧延速度や圧延用潤滑油の粘度の調整によって、圧延時に金属板表面に形成されるオイルピット等の形状や分布状態を調整する方法、
などが挙げられる。実際上は、確実かつ安定して表面状態を満たすように(a)又は(b)の方法を適宜選択すればよい。
【0017】
十点平均粗さRzは、例えば、レーザーテック(株)製コンフォーカル顕微鏡HD100を用いて測定される。対物レンズ50倍で金属板表面の3次元像を測定し、任意に選択した322μm角の面積の中で十点平均粗さRzを測定する。この際にメディアンフィルターのフィルターサイズは5*5に設定する。5回測定してRzの算術平均値を算出する。なお、他の測定方法によってRzを求めてもよい。
【0018】
B.化成皮膜
金属板と下塗り層との間に設けられる化成皮膜は、両者の密着性を高めるものであれば特に限定されるものでない。例えば、金属板としてアルミニウム板を用いる場合には、安価で浴液管理が容易なリン酸クロメート処理液で形成される化成皮膜や、処理液成分の変化が無く水洗を必要としない塗布型ジルコニウム処理で形成される化成皮膜を用いることができる。このような化成処理は、アルミニウム板に所定の化成処理液をスプレーしたり、アルミニウム板を処理液中に所定の温度で所定時間浸漬したりすることによって施される。溶融亜鉛めっき鋼板や溶融亜鉛−アルミニウム系合金鋼板には、クロメート処理の他にリン酸塩処理液で形成される化成皮膜も用いることができる。
【0019】
なお、化成処理を行う前に、金属板表面の汚れを除去したり表面性状を調整したりするために、金属板を硫酸、硝酸、リン酸等の酸処理、或いは、カセイソーダ、リン酸ソーダ、ケイ酸ソーダ等のアルカリ処理することが望ましい。このような表面処理も、金属板に所定の表面処理液をスプレーしたり、金属板を処理液中に所定温度で所定時間浸漬したりすることによって施される。
【0020】
C.樹脂皮膜
化成皮膜上に樹脂皮膜が形成される。樹脂皮膜は化成皮膜上に形成される下塗り層とその上に形成される上塗り層から構成される。
【0021】
C−1.下塗り層
下塗り層は、ポリエステル系樹脂に、メラミン系樹脂とエポキシ系樹脂を必須成分として特定の割合で配合し、適当な溶剤にこれらを溶解又は分散した塗料を塗装して形成される。
【0022】
C−1−1.ポリエステル系樹脂
本発明では、下塗り層のベース樹脂としてポリエステル系樹脂を用いる。ポリエステル系樹脂としては、アルキド樹脂、変性アルキド樹脂、オイルフリーポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が用いられる。アルキド樹脂は、無水フタル酸などの多塩基酸とグリセリンなどの多価アルコールとの縮合物を骨格とし、これをきり油などの油脂で変性したものである。油変性をすることにより樹脂に柔軟性を付与し、樹脂の表面張力を低下させることで化成皮膜に対する濡れを向上させることができる。用いる油脂の種類と量によって、超短油、短油、中油、長油、超長油に区分される。変性アルキド樹脂には、アルキド樹脂合成の後期にフェノール樹脂を添加し反応させたフェノール変性アルキド樹脂やヒドロキシシラン或いはアルコキシシラン中間体などを用いて変性したシリコーン変性アルキド樹脂等を用いることができる。オイルフリーポリエステル樹脂は、油変性しないポリエステル樹脂を意味し、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の多塩基酸とプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の多価アルコールを縮合させたものを用いることができる。不飽和ポリエステル樹脂は、主鎖に不飽和基をもつポリエステル樹脂であり、無水マレイン酸、フマル酸等の多塩基酸とプロピレングリコール等の多価アルコールを縮合させたものを用いることができる。
【0023】
ポリエステル系樹脂の数平均分子量は1000〜20000の範囲にあることが好ましい。更に好ましくは、1000〜9000の範囲である。数平均分子量が1000未満では、分子同士の絡み合いが少なくなり、曲げ加工時に樹脂の破断が発生し易い。数平均分子量が大きくなると、塗料粘度が上昇するため塗装性が劣る傾向にある。ポリエステル系樹脂の数平均分子量が20000を超えると、プレコート金属板の耐食性を向上させるために多層塗りが必要となるが、多層間における層間密着性が劣る結果を招く。数平均分子量はGPC(ゲル排除クロマトグラフィー)にて測定する。
【0024】
C−1−2.メラミン系樹脂
本発明では、ポリエステル系樹脂の硬化剤としてメラミン系樹脂を用いる。メラミン系樹脂としては、完全アルキル化メラミン樹脂、イミノ基やメチロール基を分子内に有する部分アルキル化メラミン樹脂を用いることができる。アルキル基の種類としては、主にメチル基やブチル基が用いられ、塗料化した際の粘度が低く、濡れやレベリング性等に優れるブチル基を用いるのが好ましい。メラミン系樹脂をポリエステル系樹脂の硬化剤として用いる場合、基本的に硬化反応はメラミン系樹脂の自己縮合反応と競争する傾向にあり、メラミン系樹脂の構造等を適宜選択することが好ましい。
【0025】
C−1−3.エポキシ系樹脂
本発明では、下塗り層の密着性を向上させるためにエポキシ系樹脂を用いる。下塗り層にポリエステル系樹脂とメラミン系樹脂を配合させただけでは上塗り層との密着性が劣ることが判明した。本発明者らは鋭意検討を行い、更にエポキシ系樹脂を後述する通りに適正に配合することにより、下塗り層において上塗り層や化成皮膜との密着性が向上することを見出した。エポキシ系樹脂としては、ビスフェノールA型やビスフェノールB型などのグリシジルエーテル型、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステルなどのグリシジルエステル型、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンなどのグリシジルアミン型、3,4−エポキシシクロヘキサシルメチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどの環状オキシラン型が用いられる。
【0026】
C−1−4.ポリエステル系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂の配合割合
本発明では、ポリエステル系樹脂とメラミン系樹脂の合計重量を100部とした場合に、ポリエステル系樹脂とメラミン系樹脂の配合割合はポリエステル系樹脂:メラミン系樹脂として65部:35部〜90部:10部の割合で配合される。この関係において、ポリエステル系樹脂が65部未満(メラミン系樹脂が35部を超える)であると、メラミン系樹脂の自己縮合体が多くなり、曲げ加工時に樹脂皮膜が破断し易くなって耐曲げ性が劣る。一方、ポリエステル系樹脂が90部を超える(メラミン系樹脂が10部未満)と、架橋点が少なくなり、曲げ加工時に樹脂皮膜が破断し易くなって耐曲げ性が劣る。
【0027】
前述した通りエポキシ系樹脂を全く配合しないと、硬質なメラミン系樹脂の自己縮合体が下塗り層表面に存在するために、下塗り層において上塗り層との密着性が劣る。そこで、本発明では、ポリエステル系樹脂とメラミン系樹脂の合計重量100部に対して、エポキシ系樹脂を4〜18部の割合で配合する。これにより、下塗り層において化成皮膜や上塗り層との密着性が向上するので樹脂皮膜の耐食性が向上する。さらに、曲げ加工時の上塗り層の変形を緩和させることができ、割れを低減させることもできる。ポリエステル系樹脂とメラミン系樹脂の合計重量100部に対してエポキシ系樹脂の配合割合が4部未満であると、化成皮膜や上塗り層との密着性に寄与する下塗り層の官能基が不足し、樹脂皮膜の密着性が劣ることになる。一方、18部を超えると、樹脂皮膜の絡み合いが多くなり過ぎて、樹脂皮膜が伸び難くなり耐曲げ性が劣ることになる。
【0028】
C−1−5.添加剤
本発明で用いる下塗り層用塗料には、塗装性及びプレコート材としての一般性能を確保するために通常の塗料において用いられる、レベリング剤、ワキ防止剤、安定化剤、沈降防止剤等を適宜添加してもよい。更に、樹脂皮膜を着色するために、顔料や染料を適宜添加してもよい。
【0029】
C−1−6.下塗り層の形成
ポリエステル系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂を必須成分とし、適当な溶剤にこれらを溶解又は分散した塗料を、ロールコーターによって化成皮膜上に塗布し、所定温度のオーブン中で所定時間処理して焼付け乾燥する。溶剤としては、シクロヘキサン、イソホロン、イソブチルアルコール、キシレン、エチルベンゼン、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノブチルエーテルなどが用いられる。なお、ロールコーターに代えてエアスプレーやバーコーター等によって塗料を塗布してもよい。焼付け条件としては、通常、PMT(最高到達板温度)160〜300℃で10〜120秒である。
【0030】
C−1−7.下塗り層の厚さa
下塗り層の厚さaは、8〜50μmの範囲とするのが好ましい。8μm未満では、耐食性が劣ることになる。一方、50μmを超えると、曲げ加工に伴い、硬質な上塗り層の割れに追随して下塗り層が割れ易くなり耐曲げ性が劣ることになる。高性能の耐食性がプレコート金属板に要求される場合には、下塗り層の厚さを29〜50μmとするのが好ましい。厚さ大きくする程に耐食性は向上する傾向にあるが、耐曲げ性は劣る傾向にある。29μm未満では高性能の耐食性が得られず、50μmを超えると耐曲げ性が劣ることになる。
【0031】
C−1−8.下塗り層の引張強さ
下塗り層の引張強さは20〜50MPaである。20MPa未満では、下塗り層に含まれる樹脂の絡み合いや架橋点が少な過ぎて、曲げ加工時に樹脂皮膜が破断し易くなって耐曲げ性が劣ることになる。一方、50MPaを超えると、樹脂の絡み合いや架橋点が多過ぎて、金属板表面の凹凸に追随できずに耐曲げ性が劣ることになる。
【0032】
下塗り層の引張強さは、フリーフィルムを用いて引張試験を行いて測定する。フリーフィルムはテフロン(登録商標)シートの上に下塗り層を形成させた後、テフロン(登録商標)シートから剥離したもので、幅20mm、長さ120mmの短冊状にしたものを試験片とする。なお、下塗り層厚さは14μmとする。引張試験は25℃でチャック間距離50mmとし、引張速度20mm/分で引張り、引張強さを測定する。下塗り層の引張強さは樹脂の種類と配合割合等により適宜調整することができる。
【0033】
C−2.上塗り層
前記下塗り層上に上塗り層が形成される。上塗り層はアクリル系樹脂と、コロイダルシリカと、アルコキシル基を含有するシリコーン化合物を必須成分として含有させ、適当な溶剤にこれらを溶解又は分散した塗料を焼付け塗装して形成される。
【0034】
C−2−1.アクリル系樹脂
本発明では、上塗り層のベース樹脂としてアクリル系樹脂を用いる。アクリル系樹脂は総合的に塗膜性能が良好で比較的に安価なことから一般的に塗料に多く使用されており、特に塗膜表面の光沢を比較的高くすることができ、また比較的硬質な塗膜を形成させることができる。
【0035】
アクリル系樹脂は、アクリル酸、及びメタクリル酸等とそれらのエステルの共重合物であるが、このようなアクリル系樹脂に、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フッ素系樹脂、ウレタン系樹脂等が少量配合されていてもよい。
【0036】
C−2−2.コロイダルシリカ
コロイダルシリカを添加した塗料を塗布した直後は、コロイダルシリカは塗膜内に均等に分散しているが、焼付乾燥時に塗膜表面におけるコロイダルシリカ濃度が上昇する。この状態で、暴露されると、空気中の水分や雨水と反応し、表面に親水性の高いシラノール基が生成され、樹脂皮膜表面である上塗り層における水接触角を低下することができる。その結果、樹脂皮膜表面に降りかかった雨水等が円滑に流れて溜まり難くなり、付着した汚れを落し易くできる。また、コロイダルシリカの添加により、上塗り層が硬質となり、土砂、埃、煤塵、排ガス中の粒子状物質等が樹脂皮膜中に埋没し難くなる。
【0037】
コロイダルシリカの平均粒径は、0.1μm以下である。コロイダルシルカの粒径を0.1μm以下とすることにより、上塗り層表面に存在するシラノール基の間隔を狭くして存在密度を大きくすることができる。その結果、樹脂皮膜表面における水濡れを良好にすることができる。コロイダルシリカの平均粒径が0.1μmを超えると、曲げ加工において樹脂皮膜の割れの起点となって皮膜割れが発生し易くなる。
【0038】
コロイダルシリカの含有量は、乾燥した上塗り層の全重量に対して1〜10重量%の範囲である。1重量%未満では親水性の効果が十分に得られず、付着した雨水等が溜まり易くなり、汚れを流し落とし難くなる。10重量%を超えると、上塗り層が硬質となり、樹脂皮膜割れの起点が多くなって、曲げ加工時に割れが発生し易くなる。
【0039】
C−2−3.アルコキシル基を含有するシリコーン化合物
上塗り層用塗料の塗装直後における親水性を向上させるために、アルコキシル基を含有するシリコーン化合物を添加することが好ましい。アルコキシル基を含有するシリコーン化合物の含有量は、乾燥した上塗り層の全重量に対して0.1〜5.0重量%の範囲である。0.1重量%未満では、親水性向上の効果が十分に得られず防汚性が劣る。5.0重量%を超えると、親水性向上の効果が飽和して不経済となる。
【0040】
アルコキシル基を含有するシリコーン化合物としては、平均重合度が3〜50のものを用いることが好ましい。平均重合度が3未満では、加水分解され難いため親水性を向上させる効果が得られず、平均重合度が50を超えるとゲル化し易くなり、塗装性に問題が生じる。
【0041】
C−2−4.顔料もしくは染料
上塗り層が所望の色を呈するために、顔料もしくは染料の1種又は2種以上を上塗り層に含有させることが好ましい。顔料としては、例えば、酸化チタンやカーボンブラックが好ましく、染料としては、例えば、フタロシアニンブルーが好ましい。それらの含有量は、要求される色に応じて適宜調整される。
【0042】
C−2−5.上塗り層の形成
アクリル系樹脂と、コロイダルシリカと、アルコキシ基を含有するシリコーン化合物を必須成分とし、これらを溶解又は分散した塗料を、ロールコーターによって下塗り層上に塗布し、所定温度のオーブン中で所定時間処理して焼付け乾燥する。溶剤としては、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、イソホロン、シクロヘキサノンなどが用いられる。なお、ロールコーターに代えてエアスプレーやバーコーター等によって塗料を塗布してもよい。焼付け条件としては、PMT(最高到達板温度)160〜300℃で10〜120秒である。
【0043】
C−2−6.上塗り層の厚さb
上塗り層の厚さbは3〜13μmの範囲とするのが好ましい。3μm未満であると実環境において、上塗り層が劣化して防汚性が劣る。一方、13μmを超えても性能が飽和して不経済となる。
【0044】
C−3.下塗り層厚さa/上塗り層厚さbの比
下塗り層の厚さaと上塗り層の厚さbの比(a/b)は、下塗り層の厚さaを29〜50μmとし、かつ、上塗り層の厚さbを3〜13μmとして、3〜10の範囲とするのが好ましい。この比が3未満であると、下塗り層を厚くすることができないので高性能の耐食性が得られない。この比が10を超えると、下塗り層が上塗り層に対して厚くなり過ぎるために、樹脂皮膜が割れ易くなり耐曲げ性が劣る。
【実施例】
【0045】
以下に本発明を実施例により詳細に説明する。なお、本発明は請求項の範囲を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
実施例1〜12及び比較例1〜9
金属板として、A5052P−H34のアルミニウム板(実施例1〜10、13〜14、比較例1〜12)、溶融亜鉛めっき鋼板(実施例11)、溶融亜鉛−アルミニウム系合金鋼板(実施例12)を用いた。いずれの金属板も板厚は0.6mmであった。これら金属板を市販のアルカリ系脱脂剤でスプレー法により脱脂処理を行ない、次いで水洗処理した。更に、化成処理を行い、水洗後に乾燥した。化成処理は、リン酸クロメート処理(実施例1〜6、9、10、13、14、比較例1〜12)、クロメート処理(実施例11、12)、塗布型ジルコニウム処理を施した(実施例7、8)。化成皮膜は蛍光X線分析装置で測定した。
【0047】
次いで、化成皮膜上に下塗り層を形成した。ポリエステル系樹脂(オイル−フリーポリエステル樹脂、数平均分子量4000)、メラミン系樹脂(ブチル化メラミン樹脂)及びエポキシ系樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)を溶媒であるシクロヘキサノンに分散した塗料(塗料中の全樹脂量は50重量%)を下塗り層用塗料として調製した。この下塗り層用塗料を化成皮膜上にバーコーターで塗布し、PMT(最高到達板温度)210℃、焼付時間50秒にて焼付けて下塗り層を形成した。
【0048】
更に下塗り層上に上塗り層を形成した。アクリル系樹脂、コロイダルシリカ及びアルコキシル基含有シリコーン化合物(平均重合度10)を溶媒である酢酸ブチルに分散した塗料(塗料中のアクリル系樹脂量が50重量%)を上塗り層用塗料として調製した。この上塗り層用塗料を下塗り層上にバーコーターで塗布し、PMT241℃、焼付時間50秒にて焼付けて上塗り層を形成し、プレコート金属板を作成した。
【0049】
なお、金属板表面の十点平均粗さRzについては、レーザーテック(株)製コンフォーカル顕微鏡HD100を用いて測定した。対物レンズ50倍で金属板表面の3次元像を測定し、322μm角の面積部分を任意に5箇所選んだ。各322μm角部分において粗さを十点測定し、その算術平均をもってその部分の十点平均粗さRzとした。更に、5箇所の十点平均粗さRzについても算術平均値を算出し、金属板試料の十点平均粗さRzとした。
【0050】
金属板の材質とRz、化成皮膜の種類と皮膜量(リン酸クロメート処理とクロメート処理ではCr量として、塗布型ジルコニウム処理でがZr量として)、下塗り層の各成分の配合量(ポリエステル系樹脂とメラミン系樹脂の合計重量を100部とした際のポリエステル系樹脂とメラミン系樹脂の各部数、エポキシ系樹脂については、ポリエステル系樹脂とメラミン系樹脂の合計重量100部に対する部数)と層厚さ、上塗り層の各成分の含有量(乾燥した上塗り層の全重量に対する重量%)、コロイダルシリカの平均粒径及び層厚さ、下塗り層の厚さaと上塗り層の厚さbの比(a/b)を、表1に示す。
なお、比較例9では、下塗り層にエポキシ系樹脂が含有されておらず、比較例7では、上塗り層にコロイダルシリカが含有されておらず、比較例8では、上塗り層にアルコキシル基含有シリコーン化合物が含有されていない。
【0051】
【表1】

【0052】
次に、下塗り層の引張強さを測定した。テフロン(登録商標)シートの上に表1に示す配合割合の下塗り層用塗料を塗布し、各実施例及び比較例と同様の条件で下塗り層を形成した。なお、各下塗り層厚さが14μmとなるように塗布量を調整した。次いで、テフロン(登録商標)シートから下塗り層を剥離し、幅20mm、長さ120mm、厚さ14μmの短冊状の下塗り層を試験片とした。引張試験は25℃でチャック間距離50mmとし、引張速度20mm/分で引張り、引張強さを測定した。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
実施例1〜14及び比較例1〜12で作製したプレコート金属板を用いて、以下の性能評価を行なった。評価は○、○△、△を合格(使用可)とし、△×と×を不合格(使用不可)とした。
【0055】
(1)防汚性
(a)耐カーボン汚染性
樹脂皮膜表面に、カーボンブラック5重量%を懸濁させた水溶液をスプレー塗布した後に60℃の恒温槽で1時間乾燥した。ついで、流水中で樹脂皮膜表面に付着しているカーボンブラックをガーゼで拭き取り乾燥した後のΔL値を測定した。ΔL値とは、試験後のL値から試験前のL値を引いたものとして定義される。
○:ΔL≧−7
×:ΔL<−7
【0056】
(b)耐赤マジックインク除去性
市販のサクラネーム(登録商標)赤マジックインクで3cm×5cmの部分全体に線を描き24時間放置した後、エタノールを浸したキムワイプで20回擦った後の樹脂皮膜表面に残存した赤マジックを目視によって評価した。
○:完全に除去できる。
×:跡残りあり。
【0057】
(2)密着性
プレコート金属板を沸騰水中に2時間浸漬後、1mm角碁盤目を100個描き、テープ剥離試験を行い、樹脂皮膜の剥離状態を目視観察した。
〇:樹脂皮膜の金属板又は化成皮膜から剥離、ならびに、樹脂皮膜における各層間の剥
離なし。
×:樹脂皮膜の金属板又は化成皮膜から剥離、ならびに、樹脂皮膜における各層間の剥
離の少なくともいずれかの剥離あり。
【0058】
(3)耐曲げ性
(a)曲げ部外観
屈曲半径を金属板の厚みの5倍とした5Tにて、180度曲げを施して曲げ部の樹脂皮膜の割れ状況を目視観察した。
○ :樹脂皮膜割れが殆ど認められない。
○△:樹脂皮膜割れが認められるが、僅かである。
△ :樹脂皮膜割れがはっきりと認められるが、曲げ部の1/4程度である。
△×:樹脂皮膜割れがはっきりと認められるが、曲げ部の半分程度である。
× :樹脂皮膜割れが全面に認められる。
【0059】
(b)曲げ部密着性
テープ剥離試験を行い、樹脂皮膜の剥離状態を観察した。
○ :剥離なし。
○△:10%未満の面積において剥離あり。
△ :10以上で50%未満の面積において剥離あり。
△×:50%以上の面積において剥離あり。
× :全面剥離あり。
【0060】
(4)耐食性
CASS試験48時間又は120時間をJIS Z 2371に準じて行い、腐食の状態を目視観察した。
○ :腐食面積率が0.1%未満。
○△:腐食面積率が0.1%以上1%未満。
△ :腐食面積率が1%以上2%未満。
△×:腐食面積率が2%以上5%未満。
× :腐食面積率が5%以上。
【0061】
結果を表3に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
実施例1〜14では、十点平均粗さRzが1.2μm〜4.0μmの範囲にある金属板の少なくとも一方の表面に化成皮膜を形成し、その上に樹脂皮膜を形成するプレコート金属板において、樹脂皮膜は下塗り層と上塗り層からなる。そして、下塗り層は、ポリエステル系樹脂、メラミン系樹脂及びエポキシ系樹脂からなり、引張強さが20〜50MPaの範囲にある。上塗り層はアクリル系樹脂に、0.1μm以下の平均粒径のコロイダルシリカを乾燥重量の1%〜10%、アルコキシル基を有するシリコーン化合物を乾燥重量の0.1%〜5.0%含有する。このような実施例1〜14では、防汚性、密着性、耐曲げ性、耐食性は良好であった。
【0064】
特に、実施例5〜8は下塗り層の皮膜厚さaが29μm〜50μmの範囲にあり、上塗り層の皮膜厚さbが3〜13μmの範囲にあり、a/bが3〜10の範囲であるので、他の発明例と比較して、耐食性が向上した。
【0065】
比較例1では、金属板の十点平均粗さRzが1.2μm未満であるため、耐曲げ性が劣った。
比較例2では、金属板の十点平均粗さRzが4.0μmを超えるため、耐曲げ性が劣った。
比較例3、4では、下塗り層の引張強さが20MPa未満であるため、耐曲げ性が劣った。
比較例5では、下塗り層の引張強さが50MPaを超えるため、耐曲げ性が劣った。
比較例6では、上塗り層のコロイダルシリカの平均粒径が0.1μmを超えるため、耐曲げ性が劣った。
比較例7では、上塗り層にコロイダルシリカが含有されていないので防汚性が劣った。
比較例8では、上塗り層にアルコキシル基を有するシリコーン化合物が含有されていないので防汚性が劣った。
比較例9では、下塗り層にエポキシ樹脂が配合されていないため密着性が劣り、耐曲げ性と耐食性が劣った。
比較例10では、上塗り層のコロイダルシリカの添加量が1重量%未満であるために防汚性が劣った。
比較例11では、上塗り層のコロイダルシリカの添加量が10重量%を超えているために耐曲げ性が劣った。
比較例12では、上塗り層のアルコキシル基を有するシリコーン化合物の添加量が0.1重量%未満であるために防汚性が劣った。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明では、特定の範囲の十点平均粗さRzを有する表面の金属板を用いて、金属板表面のアンカー効果により下塗り層の密着性を向上できる。また、所定種類の樹脂と所定範囲の引張強さを有する下塗り層を用いて、下塗り層と化成皮膜及び上塗り層との密着性を向上できる。その結果、樹脂皮膜の耐曲げ性と耐食性も向上する。更に、所定種類の樹脂とシリカ及びシリコーン化合物、ならびに、所定範囲のシリカ及びシリコーン化合物の含有量を有する上塗り層を用いて、防汚性と耐曲げ性を向上できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.2〜4.0μmの十点平均粗さRzを有する金属板と、当該金属板の少なくとも一方の表面に形成した化成皮膜と、当該化成皮膜の上に形成した樹脂皮膜とを備えるプレコート金属板において、
前記樹脂皮膜が前記化成皮膜上に形成した下塗り層と当該下塗り層の上に形成した上塗り層から成り、前記下塗り層が、ポリエステル系樹脂、メラミン系樹脂及びエポキシ系樹脂を含有し、かつ、20〜50MPaの引張強さを有し、前記上塗り層が、アクリル系樹脂と、0.1μm以下の平均粒径を有し乾燥した上塗り層の1〜10重量%のコロイダルシリカと、乾燥した上塗り層の0.1〜5.0重量%のアルコキシル基を有するシリコーン化合物とを含有することを特徴とするプレコート金属板。
【請求項2】
前記下塗り層が29〜50μmの厚さ(a)を有し、前記上塗り層が3〜13μmの厚さ(b)を有し、a/bが3〜10である、請求項1に記載のプレコート金属板。

【公開番号】特開2009−51117(P2009−51117A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220909(P2007−220909)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(502310911)大宝化学工業株式会社 (3)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】