説明

プレストレストコンクリートの製造方法およびプレグラウト鋼材端部のガス圧入・封止装置

【課題】コンクリートに埋設されたプレグラウト樹脂である酸化硬化性樹脂に常時安定した量で酸素が供給され、比較的短時間にプレグラウト樹脂を可及的速やかに硬化させ、プレグラウト鋼材をコンクリートと一体化させて所期したコンクリート曲げ耐力の向上や疲労強度の改善を充分に図ることである。
【解決手段】コンクリート成形体1の硬化後にプレグラウト鋼材2を緊張させる際、各鋼線間に形成されている間隙に酸化硬化性樹脂に対する酸化硬化性ガスを充填するため、コンクリート成形体1から突出するプレグラウト鋼材2の端部を覆うキャップのように取り付け可能な気密室3をコンクリート成形体1から突出させて設け、この気密室3の鉛直方向の最上部に酸化硬化性ガスの導入孔4を開閉可能に形成する。酸素などの酸化硬化性ガスを気密室3に圧入すると、各鋼線間の間隙に侵入した酸化硬化性ガスは、酸化硬化性樹脂に接してこれを酸化させ速やかに硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンクリートに予め圧縮応力を与えて耐荷重性を高めるためにプレグラウト鋼材を埋設したプレストレストコンクリートの製造方法およびこの方法に用いるプレグラウト鋼材端部のガス圧入・封止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プレストレストコンクリートは、コンクリートに埋め込んだ緊張材が縮もうとする力を利用してコンクリートに予め圧縮するストレスを与えておき、この圧縮応力でコンクリートが荷重を受けた際に受ける引張応力を打ち消して、耐荷重性を高めたコンクリート成形体であり、橋梁の床板などのように大荷重を受けるが軽量化することも必要な構造物に適用できるものである。
【0003】
このようなプレストレストコンクリート(以下、PCと略記することがある。)に埋設される緊張材は、鋼線、鋼撚線、硬鋼線、鋼棒などの鋼材から主としてなり、PC鋼材とも通称されているものである。
【0004】
また、予め鋼材の表面に油変性アルキド樹脂、脂肪酸変性エポキシ樹脂、油変性ウレタン樹脂などの酸化硬化性樹脂に金属触媒を混合した樹脂組成物を被覆しておき、これにより硬化時間を調整して、コンクリート打設30日以降にPC緊張材による緊張が発揮できるようにしたプレグラウト鋼材を用いたPCの製造方法が知られている(特許文献1)。
【0005】
また、プレストレストコンクリート緊張材用塗布材料として、ポリエステル変性油脂または油脂と金属触媒とを含み、タルクや炭酸カルシウムなどの充填剤を混合してコンクリート打設後30日以降にプレストレストコンクリート緊張材の緊張ができる硬化速度のものが知られている(特許文献2、3)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−99834
【特許文献2】特開2004−76358
【特許文献3】特開2004−76359
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記した従来のPCの製造方法では、鋼材の表面に被覆されたプレグラウト樹脂が硬化してコンクリートと一体化することによって、所期したコンクリートの曲げ耐力の向上や疲労強度の改善が充分に図れるまでに1〜2年という長時間を要するという問題点がある。
【0008】
このようなプレグラウト樹脂の硬化時間が長期化する問題は、以下のような作用機序によって起こると考えられる。
すなわち、プレグラウト鋼材に被覆されている酸化硬化性樹脂からなるプレグラウト樹脂をできるだけ速やかに硬化させるには、酸素の充分な供給が必要であるが、コンクリートの通気性は充分でなく、特に橋梁などに用いられる高強度コンクリートは、水/セメント比が低くて通気性が悪いものであった。
【0009】
先ず、プレグラウト鋼材をコンクリートに埋設した当初には、コンクリートに固定した端部を防錆処理するため、キャップを被せて、樹脂、セメントまたはペースト等を注入するが、その際に埋設後の鋼材の端部は外気から遮断されている。
【0010】
通常、コンクリートを通じて外気中の酸素が侵入する際には、プレグラウト樹脂の最外側のプラスチックシースと呼ばれるポリエチレン樹脂層を透過する必要があるが、一般的なプラスチックは高温状態での気体の透過性は高く、低温になると気体透過性が低下する。
【0011】
一方、コンクリート打設後の温度履歴をみると、通常、打設直後の水和発熱時に40〜95℃程度という最高温度に達し、その後はコンクリートが曝される気温などの常温程度に低下する。その場合、コンクリート打設直後にはシースやプレグラウト樹脂への酸素の供給が多いと期待されるが、コンクリート打設直後はプラスチックシースの周囲を水が覆っており、シースまで酸素が殆ど達しない。
【0012】
また、コンクリートの水和反応による発熱がほぼ終了して、温度がほぼ常温になるころには、プラスチックシースの周囲に水分がなくなり、このときのコンクリートには酸素を比較的多く含んだ気体が覆うが、プラスチックシースの温度も下がって酸素透過性は極めて低くなっているから、プレグラウト樹脂には充分な酸素が供給されなかった。
【0013】
そこで、この発明の課題は、コンクリートに埋設されたプレグラウト樹脂(酸化硬化性樹脂)への酸素の供給不足が起こらないようにし、プレグラウト樹脂に常時安定した量で酸素が供給され、これによって比較的短時間にプレグラウト樹脂を硬化させ、これによりコンクリートとプレグラウト鋼材の一体化を進めて所期したコンクリート曲げ耐力の向上や疲労強度の改善を短時間で充分に図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、この発明においては、複数の鋼線を集合させた鋼材に酸化硬化性樹脂を被覆してなるプレグラウト鋼材をコンクリート成形体に埋設し、このコンクリート成形体の硬化後に前記プレグラウト鋼材を緊張させ、次いで各鋼線間に形成された間隙に前記酸化硬化性樹脂に対する酸化硬化性ガスを充填することからなるプレストレストコンクリートの製造方法としたのである。
【0015】
上記した工程からなるこの発明に係るプレストレストコンクリートの製造方法では、
コンクリート成形体の硬化前に酸化硬化性樹脂に対して酸素を積極的に供給しないので、コンクリート成形体の硬化後、しばらくの間、酸化硬化性樹脂が柔らかい状態を保ち、その状態ではプレグラウト鋼材を充分に緊張させることができる。
【0016】
次いで、各鋼線間に形成された間隙に前記酸化硬化性樹脂に対する酸化硬化性ガスを充填すると、各鋼線間の間隙に侵入した酸化硬化性ガスは、鋼材を覆う酸化硬化性樹脂に接してこれを酸化させ速やかに硬化させる。
【0017】
そのため、プレグラウト鋼材を緊張させた後に、酸化硬化性樹脂が周囲から酸素供給不足になり硬化速度が遅いという従来技術における問題点が解決され、酸化硬化性樹脂を短時間で硬化し得てコンクリートと一体化でき、速やかに所期したコンクリートの曲げ耐力の向上や疲労強度の改善が達成できる。
【0018】
また、この発明の課題を解決する他のプレストレストコンクリートの製造方法としては、上述の方法を採用する際、コンクリート成形体から突出するプレグラウト鋼材の端部を覆う気密室を設け、この気密室内に酸化硬化性樹脂の酸化硬化性ガスを圧入する手段を採用することにより、酸化硬化性ガスの圧入処理を簡便にかつ確実に行ない、またこの処理を必要に応じて複数回繰り返して行なえるようになる。
【0019】
また、上記の手段を用いてプレストレストコンクリートを製造するには、コンクリート成形体にプレグラウト鋼材の両端部を突出させて固定し、このプレグラウト鋼材の両端部をそれぞれ覆う気密室を設け、一方の気密室を開放すると共に、他方の気密室に酸化硬化性樹脂の酸化硬化性ガスを圧入し、この酸化硬化性ガスを両気密室およびこれらを連絡する各鋼線間の間隙に充填した後、両気密室を密閉して酸化硬化性ガスを封入することが好ましい。
【0020】
この方法によれば、確実に酸化硬化性ガスを両気密室およびこれらを連絡する各鋼線間の間隙に充填することができる。上記のようにすると、プレグラウト鋼材の表面に被覆された樹脂を短時間でコンクリートと一体化させることができる。
【0021】
また、プレグラウト鋼材の防錆処理を、酸化硬化性ガスを両気密室およびこれらを連絡する各鋼線間の間隙に充填し、その後、酸化硬化性ガスと気化性防錆剤もしくはN2、Ar等の不活性ガスとを置換させた後、気密室内に防錆剤を充填する工程を追加してプレストレストコンクリートを製造することが好ましい。またその場合に、防錆剤が硬化性防錆剤であれば、防錆効果が確実に長期持続するものになる。
【0022】
また、上述のプレストレストコンクリートの製造方法を採用するには、コンクリート成形体から突出するプレグラウト鋼材の端部を覆う気密室を設け、この気密室に圧入するガスの導入孔を開閉可能に形成してなるプレグラウト鋼材端部のガス圧入・封止装置を採用することが好ましい。
【0023】
気密室に圧入するガスの導入孔を開閉可能に形成すると、酸化硬化性ガスを充填した後に封入でき、また必要に応じて導入孔を開いて他の気密室からプレグラウト鋼材を介して酸化硬化性ガスを導入したり、同様にして防錆剤やグラウトペーストなどを充填することもできる。
【0024】
気密室の最上部にガス導入孔またはガス・防錆剤兼用の導入孔を形成すると、酸化硬化性ガスを充填した後に、必要に応じて防錆剤やグラウトペーストなどを充填する際に、気密室内からエア抜きを確実に行なえる。
【0025】
同様の目的でコンクリート成形体から突出するプレグラウト鋼材の端部を覆う気密室を設け、この気密室の最上部にガス抜き兼用のガス導入孔を開閉可能に形成すると共に、前記気密室の最上部を除く1箇所以上にガス・防錆剤兼用の導入孔を開閉可能に形成してなるプレグラウト鋼材端部のガス圧入・封止装置とすることもできる。この装置を用いると、上述のようにプレグラウト鋼材に被覆された酸化硬化性樹脂に酸化硬化性ガスを接触させて短時間でコンクリートと一体化させた後、さらに防錆剤を充填する際、気密室内からエア抜きすることによりプレグラウト鋼材の防錆を確実に行なうことができる。
【発明の効果】
【0026】
この発明は、硬化したコンクリート成形体内でプレグラウト鋼材を緊張させた後、各鋼線間に形成されている間隙に酸化硬化性ガスを充填するので、硬化後に外気温近くまで冷却されたコンクリート内で酸化硬化性樹脂の硬化のために必要な量の酸素が安定供給されるようになり、これによってプレグラウト鋼材を覆っている酸化硬化性樹脂(プレグラウト樹脂)を短時間にコンクリートと一体化させることができ、所期した程度にコンクリートの曲げ耐力の向上や疲労強度の改善を図るために要する時間を短縮することができ、プレストレストコンクリートの製造効率が向上するという利点がある。
【0027】
また、この発明のプレグラウト鋼材端部のガス圧入・封止装置は、プレグラウト鋼材の端部を覆うキャップ型の気密室を設け、この気密室の所定位置にガス抜き兼用のガス導入孔を開閉可能に形成したので、プレグラウト鋼材の表面に被覆された樹脂を短時間でコンクリートと一体化させた後に鋼材の防錆処理を簡単に行なえる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
この発明の実施形態を以下に、添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように、プレグラウト鋼材端部のガス圧入・封止装置は、コンクリート成形体1の硬化後にプレグラウト鋼材2を緊張させる際、各鋼線間に形成されている間隙に酸化硬化性樹脂に対する酸化硬化性ガスを充填するため、コンクリート成形体1から突出するプレグラウト鋼材2の端部を覆うキャップのように取り付け可能な気密室3をコンクリート成形体1から突出させて設け、この気密室3の鉛直方向の最上部に酸化硬化性ガスの導入孔4を開閉可能に形成したものである。
気密室3の最上部を除く1箇所以上にはガス・防錆剤兼用の導入孔を開閉可能に形成してもよい。
【0029】
プレグラウト鋼材2の端部は、埋設されたコンクリート成形体1の端面から気密室3内に把持できる所要長さだけ突出しており、これをグリップ5のテーパー穴6にウェッジ(外形が円錐台状で内側が円穴の筒体を軸周りに分割した楔)7を介して把持し、プレグラウト鋼材2を引っ張った際に、その緊張力でプレグラウト鋼材2が引き戻されないように抜け止めされている。
【0030】
気密室3は、コンクリート成形体1の端面と同一平面を形成するように埋設された鋼製板などのアンカープレート8と、その上にゴム製のOリング9を介して気密に密着させた鋼製のキャップ10とからなり、このキャップ10は、アンカープレート8上にボルト11で固定されている。
【0031】
導入孔4は、酸素などの酸化硬化性ガスや液状の防錆剤を適宜に圧入できる耐圧性のホース等の管状部品12と螺子面同士を合わせるなどして連結可能であり、また螺子止め式などの気密性蓋(図示せず。)などを設けて開閉可能である。
【0032】
図2に示すように、プレグラウト鋼材2は、複数の鋼線13を集合させた撚線などからなる鋼材に、酸化硬化性樹脂14を塗布等により被覆したものであり、その表面にはシース15と呼ばれる高密度ポリエチレン樹脂等の樹脂層を押し出して複合成形により被覆している。
【0033】
この発明に用いる鋼材の種類は特に限定されるものではないが、鋼線、鋼撚線、硬鋼線、鋼棒などの鋼材その他の引っ張り力に強い高強度の鉄系金属、クロムやニッケルを含む鉄系合金その他の金属からなり、主としてPC鋼材とも呼ばれている鋼材を含む周知の緊張材を採用できる。例えばコンクリートに所期した耐荷重性が得られるように、高強度鋼、高張力鋼なども使用することができる。
【0034】
この発明に用いる酸化硬化性樹脂としては、油変性アルキド樹脂、脂肪酸変性エポキシ樹脂、油変性ウレタン樹脂などの酸化硬化性樹脂を用いることができ、通常は金属触媒や硬化促進剤を混合して硬化時間をより短くするようにして用いる。
【0035】
例えば、エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0036】
アルキド樹脂は、多価アルコールと多塩基酸の重縮合反応により得られる樹脂である。ここでいう多価アルコール成分としては、グリセリン、ペンタエリトリット、エチレングリコールなどが挙げられ、多塩基酸成分としては、無水フタル酸、無水マレイン酸などが挙げられる。
【0037】
樹脂を酸化硬化性(油変性、脂肪酸変性)にするためのエステル化反応に用いる不飽和脂肪酸としては、植物油成分の不飽和脂肪酸を水酸化ナトリウムでケン化して得られるものが挙げられる。例えば、亜麻仁油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、大豆油脂肪酸、綿実油脂肪酸、ひまし油脂肪酸などである。
【0038】
前述のエポキシ樹脂を、上記のような不飽和脂肪酸と反応させて、未硬化状態の酸化硬化型のエポキシ樹脂とするには、エポキシ樹脂と前記した脂肪酸とを配合し、必要に応じて硬化促進剤(第3級アミン化合物など)と混合し、不活性雰囲気の加熱条件(例えば、100℃で45時間)で変性反応を充分に進行させ、酸化硬化型樹脂を得る。
【0039】
また、金属触媒としては、ナフテン酸塩(ナフテン酸コバルト、ナフテン酸鉛、ナフテン酸マンガンなど)、オクチル酸塩(オクチル酸コバルト、オクチル酸マンガン、オクチル酸銅など)が挙げられる。
【0040】
酸化硬化性ガスの種類は、前記した酸化硬化性樹脂の種類に応じて、これを効率よく硬化させられるように適宜に調整されたものであってよく、純粋な酸素ガスを用いることができる他、酸素と他のガス(不活性なガスなど)の混合ガス、酸素富化空気などを採用することができる。
【0041】
上記説明した構造の装置を用いてプレストレストコンクリートを製造するには、先ず、図1に示したように、プレグラウト鋼材2をコンクリート成形体1の両端から端部が突出するように埋設する。
【0042】
そして、コンクリートが硬化した後に、コンクリート成形体1の両端面の所定位置にプレグラウト鋼材2が貫通できる穴を形成したアンカープレート8を取り付け、貫通穴から突出したプレグラウト鋼材2の末端には、ウェッジ7を介したグリップ5で抜け止めする。
【0043】
次いで、プレグラウト鋼材2の末端を緊張機(グリップ5を持ち上げ可能なジャッキなど)で引っ張って充分に緊張させた後、アンカープレート8の上に、Oリング9を介して気密に密着させたステンレス鋼製のキャップ10を被せてボルト11でコンクリート成形体1の端面の嵌め合い用凹所に固定し、気密室3を形成する。
【0044】
このようにしてコンクリート成形体1の両端面に形成された気密室3の鉛直方向の最上部には、ガス抜き兼用のガスの導入孔4を開閉可能に形成し、ここから酸化硬化性ガスを充填する。
【0045】
充填は、酸素ボンベ等のガスタンクから加圧された酸素等の酸化硬化性ガスを圧入することにより行えるが、導入孔4とガスタンクは耐圧ホース等の管路で確実に気密状態に接続する。
【0046】
酸化硬化性ガスの充填は、プレグラウト鋼材2の両端のうち、一方の気密室3の導入孔4から行ない、他端の気密室の導入孔(図示せず。)は開放して、プレグラウト鋼材2の内部の鋼線13間に形成されている間隙16に隅々まで酸化硬化性ガスを流通させて行なう。このようにして、プレグラウト鋼材2の内部に存在していた空気を完全に酸化硬化性ガスと置換した後、両方の導入孔4を螺子蓋(図示せず。)などで密閉する。必要であれば一定期間はガスタンクから酸化硬化性ガスを流通させておくこともできる。
【0047】
この状態で酸化硬化性樹脂は速やかに硬化していくが、その硬化時間は、上記のような酸化硬化性ガスの充填を行なわない場合の1/8〜1/2以下に短縮化され、例えば従来は1〜2年を要した硬化時間が3〜6ヶ月程度に短縮できる。
【0048】
なお、充填する酸化硬化性ガスは、乾燥したガスであることが好ましい。それは結露による錆の発生を防止するためである。
【0049】
また、気密室の最上部にガス抜き孔を形成し、気密室の最上部を除く任意箇所にガス導入孔もしくは防錆剤導入孔またはガス・防錆剤兼用の導入孔を形成している場合に、導入孔から必要に応じて防錆剤などを充填し、気密室内からガス抜きをしてもよい。
【0050】
プレグラウト鋼材の表面に被覆された樹脂を短時間でコンクリートと一体化させた後、気密室内に防錆剤を充填することによりプレグラウト鋼材の防錆を確実に行なうことができる。例えばエポキシ樹脂やウレタン樹脂等の樹脂と混合した防錆剤からなる硬化性の防錆剤を採用すると、防錆効果がより確実になる。
【実施例1】
【0051】
変性アルキド樹脂に金属触媒を添加した酸化硬化性樹脂(プレグラウト樹脂)を直径28.6mmのPC鋼材に最大厚み3mm塗布し、その外面に高密度ポリエチレンを押出被覆してプレグラウト鋼材を作製した。このプレグラウト鋼材を長さ3m、幅30cm、厚さ30cmのコンクリート中に埋設し、打設時の最高温度が50℃になる条件で硬化させた。
【0052】
コンクリートが硬化した後、コンクリート成形体から突出するプレグラウト鋼材の両端部に図1に示した形状のキャップ10を被せて気密室3をそれぞれ形成し、一方のキャップ10の導入孔4から乾燥した酸素(100%)を酸素ボンベから0.5〜1.0リットル/分の流量で導入すると共に、他方のキャップの導入孔4は開放しておき、この状態を10分間継続した。その後、両方の導入孔4を蓋で封止し、その状態で3ヶ月経過した後にプレグラウト鋼材の緊張伝達率を評価した。
【0053】
緊張伝達率の評価試験は、キャップ10を外して露出させたプレグラウト鋼材2の一端をグリップ5ごとジャッキで持ち上げて緊張力を導入し、この時の圧力Pに対する同プレグラウト鋼材の他端に同様に取り付けたジャッキに伝達された圧力Qを測定し、Q/P%を評価値とした。
【0054】
この結果、プレグラウト鋼材を覆っている酸化硬化性樹脂とコンクリートがよく一体化していることが判明した。
【実施例2】
【0055】
実施例1において、第1回目の乾燥した酸素(100%)を10分間導入した後、1ヶ月後に再度、同じ操作で第2回目の乾燥した酸素(100%)を10分間導入した後、封入し、第1回目の導入日から3ヶ月経過後に上記同様に緊張伝達率の評価試験を行なった。
【0056】
その結果、プレグラウト鋼材を覆っている酸化硬化性樹脂とコンクリートが、実施例1よりもよく一体化していることが判明した。
【0057】
[比較例]
実施例1において、プレグラウト樹脂として、酸化硬化性樹脂に代えて常温硬化型のエポキシパテを用い、気密室3は取り付けた当初から密閉して外気の流入を遮断し、そのまま3ヶ月経過した時に上記同様に緊張伝達率の評価試験を行なった。
【0058】
その結果、プレグラウト鋼材を覆っているエポキシパテが未硬化であり、プレグラウト鋼材とコンクリートとの一体化が不充分であることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】プレグラウト鋼材端部のガス圧入・封止装置の使用状態の断面図
【図2】プレグラウト鋼材端部の断面図
【符号の説明】
【0060】
1 コンクリート成形体
2 プレグラウト鋼材
3 気密室
4 導入孔
5 グリップ
6 テーパー穴
7 ウェッジ
8 アンカープレート
9 Oリング
10 キャップ
11 ボルト
12 管状部品
13 鋼線
14 酸化硬化性樹脂
15 シース
16 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鋼線を集合させた鋼材に酸化硬化性樹脂を被覆してなるプレグラウト鋼材をコンクリート成形体に埋設し、このコンクリート成形体の硬化後に前記プレグラウト鋼材を緊張させ、次いで各鋼線間に形成されている間隙に前記酸化硬化性樹脂に対する酸化硬化性ガスを充填することからなるプレストレストコンクリートの製造方法。
【請求項2】
コンクリート成形体から突出するプレグラウト鋼材の端部を覆う気密室を設け、この気密室内に酸化硬化性樹脂の酸化硬化性ガスを圧入する請求項1に記載のプレストレストコンクリートの製造方法。
【請求項3】
コンクリート成形体にプレグラウト鋼材の両端部を突出させて固定し、このプレグラウト鋼材の両端部をそれぞれ覆う気密室を設け、一方の気密室を開放すると共に、他方の気密室に酸化硬化性樹脂の酸化硬化性ガスを圧入し、この酸化硬化性ガスを両気密室およびこれらを連絡する各鋼線間の間隙に充填した後、両気密室を密閉して酸化硬化性ガスを封入する請求項1に記載のプレストレストコンクリートの製造方法。
【請求項4】
酸化硬化性ガスを両気密室およびこれらを連絡する各鋼線間の間隙に充填した後、前記酸化硬化性ガスと防錆剤を置換させて充填する請求項3に記載のプレストレストコンクリートの製造方法。
【請求項5】
防錆剤が、硬化性防錆剤である請求項4に記載のプレストレストコンクリートの製造方法。
【請求項6】
コンクリート成形体から突出するプレグラウト鋼材の端部を覆う気密室を設け、この気密室に圧入するガスの導入孔を開閉可能に形成してなるプレグラウト鋼材端部のガス圧入・封止装置。
【請求項7】
コンクリート成形体から突出するプレグラウト鋼材の端部を覆う気密室を設け、この気密室の最上部にガス抜き兼用のガス導入孔を開閉可能に形成すると共に、前記気密室の最上部を除く1箇所以上にガス・防錆剤兼用の導入孔を開閉可能に形成してなるプレグラウト鋼材端部のガス圧入・封止装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−233559(P2006−233559A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−49123(P2005−49123)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】