説明

プレストレストコンクリート橋梁構造

【課題】外ケーブルの張力状態を常に検出し、張力の増加を把握し、橋梁の耐荷力が低下した場合に、外ケーブルを再緊張して、耐荷力の回復を図ることのできるプレストレストコンクリート橋梁構造を提供する。
【解決手段】プレストレストコンクリート橋梁11の定着具16と支圧板が密着する程度の低い張力で緊張した外ケーブル13を配設したプレストレストコンクリート橋梁構造10であって、前記外ケーブルを緊張する緊張機構14と、前記外ケーブルの張力変動を検出する検出手段15とを設け、前記検出手段が前記外ケーブルの張力を定量的にモニターし、所定の張力の増加を検出した場合に前記緊張機構によって前記外ケーブルを再緊張して、橋梁の耐荷力の回復を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレストレストコンクリート橋梁(PC橋梁)の耐荷力低下を定量的に検出するために外ケーブルの物理的変化を検出し、耐荷力低下による橋梁崩壊の危険を事前に検知するとともに、外ケーブルを再緊張することで、低下した耐荷力を適度に回復させ、延命を図ることのできるプレストレストコンクリート橋梁構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、プレストレストコンクリート橋梁構造は、種々の要因で耐荷力が低下する。例えば、コンクリート中に塩化物イオンが侵入し腐食等によってPC鋼材が破断すると橋梁の耐荷力が低下する。
しかし、従来、その低下過程を定量的にモニターし、橋梁の耐荷力が低下したら直ちに低下した分を補強する方法或いは橋梁構造が存在しなかった。
また、橋梁等において交通量の変化等に起因する積載荷重の変化を予め適切に予想することは困難であり、予め設定した積載荷重よりも大きな荷重がかかった場合に橋梁の耐荷力の低下を招来する。
【0003】
また、PC鋼材の破断によって耐荷力の低下した橋梁を補強する工法として、外ケーブルによって付加プレストレスを与える工法が存在する。
【0004】
図6は、従来のプレストレストコンクリート橋梁構造の一例を模式的に示す説明図である。プレストレストコンクリート橋梁1には、コンクリート内部に配置されたPC鋼材2または、外ケーブルによって圧縮応力が付与されており、このような構造によって、一般のコンクリート橋梁に比べ、耐久性、安全性に優れると共に長スパン化、軽量化を図ることができる。
しかし、プレストレストコンクリート橋梁1の既設PC鋼材2が破断した場合に耐荷力の低下を招来し、図7に示すように橋梁下面にひび割れ3が発生する場合がある。図7は、従来のプレストレストコンクリート橋梁1において、耐荷力の低下に伴ってひび割れ3が発生した場合を示す説明図である。図8は、従来のプレストレストコンクリート橋梁構造において、耐荷力の低下が進行して落橋した場合を示す説明図である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の外ケーブルは、外ケーブルとして配置するPC鋼材の引っ張り強度の80%程度の引張強度で緊張し必要な性能の回復を図っていた。
また、従来のプレストレストコンクリート橋梁構造ではあらかじめ既設PC鋼材の破断等による耐荷力の低下量を定量的に把握し、その低下量に見合うプレストレスを与えることが必要であった。この工法では、既設PC鋼材の破断量を実際より多く見積もった場合、与えるプレストレスが過大となり橋梁の耐荷性に悪影響を及ぼす。逆に少なく見積もった場合には与えるプレストレス量が過小となり補強量が不足する。このように外ケーブル工法による補強を行うには既設PC鋼材の破断等による耐荷力の低下量を正確に把握することが不可欠である。しかし、既設PC鋼材はコンクリートの内部に隠れているため、現実には正確に耐荷力の低下量を把握できないという問題があった。
本発明は、上記実情に鑑み提案されたもので、想定期間内におけるPC鋼材の破断量を定め、その破断量に応じた外ケーブルを定着具と支圧板を密着させて設置し、外ケーブルを常にモニタリングし、且つ耐荷力の低下を定量的に把握すると同時に、耐荷力が低下した場合に、直ちに再緊張して耐荷力の回復を図ることのできるプレストレストコンクリート橋梁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は定着具と支圧板とが密着する程度の張力で緊張した外ケーブルを配設したプレストレストコンクリート橋梁構造であって、前記外ケーブルを緊張する緊張機構と、前記外ケーブルの張力変動を検出する検出手段とを設け、前記検出手段が所定の張力の増加を検出した場合に前記緊張機構によって外ケーブルを再緊張することを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
この発明は前記した構成からなるので、以下に説明するような効果を奏することができる。
【0008】
本発明では、定着具と支圧板とが密着する程度の張力で緊張した外ケーブルを配設したプレストレストコンクリート橋梁構造であって、前記外ケーブルを緊張する緊張機構と、前記外ケーブルの張力変動を検出する検出手段とを設け、前記検出手段が所定の張力の増加を検出した場合に前記緊張機構によって外ケーブルを再緊張するので、短期間で耐荷力を回復できるとともに、プレストレス量が過大になることもなく、また、過小になる虞れもない。したがって、橋梁の耐荷力量の低下に合致した適切な緊張力を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明に係るプレストレストコンクリート橋梁構造の一実施の形態を示す斜視図である。
【図2】図2は、同プレストレストコンクリート橋梁構造を模式的に示す説明図である。
【図3】図3は、同プレストレストコンクリート橋梁構造に使用されるセンサーの一つを示す説明図である。
【図4】図4は、同プレストレストコンクリート橋梁構造における、耐荷力の低下状態を示す説明図である。
【図5】図5は、同プレストレストコンクリート橋梁構造における、再緊張により耐荷力を回復した状態を示す説明図である。
【図6】図6は、従来のプレストレストコンクリート橋梁構造の一例を模式的に示す説明図である。
【図7】図7は、従来のプレストレストコンクリート橋梁構造において、耐荷力の低下に伴ってひび割れが発生した場合を示す説明図である。
【図8】図8は、従来のプレストレストコンクリート橋梁構造において、耐荷力の低下が進行して落橋した場合を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のプレストレストコンクリート橋梁構造は、定着具と支圧板が密着する程度に緊張された外ケーブルを配設するとともに、外ケーブルの物理的変動を検出する検出手段を設け、検出手段が所定の張力の増加を検出した場合に緊張機構によって外ケーブルを再緊張するので、正確に付与する緊張力を把握し短期間で耐荷力を回復できる。
したがって、橋梁の耐荷力の低下量に応じた緊張力を迅速に付与することができる。
【実施例1】
【0011】
以下、一実施の形態を示す図面に基づいて本発明を詳細に説明する。図1は本発明に係るプレストレストコンクリート橋梁構造の一実施の形態を示す斜視図、図2は本発明のプレストレストコンクリート橋梁構造を模式的に示す説明図である。ここで、本発明のプレストレストコンクリート橋梁構造10は、プレストレストコンクリート橋梁11の定着具16と支圧板が密着する程度に緊張された外ケーブル13を配設したものであって、前記外ケーブル13を緊張する緊張機構14と、前記外ケーブル13の物理的変動を検出する検出手段15とを設けている。
【0012】
外ケーブル13は、プレストレストコンクリート橋梁11の端部近傍に設置された定着部16間に張り渡されるとともに、定着部16の間に設けられた偏向部17によって、外ケーブル13に与えられたプレストレスの分力をコンクリート橋梁11に伝達する。ここで、定着部16は、金属或いはコンクリート等から成る定着具をコンクリート部材に固定し、挿通された外ケーブル13等を緊張することにより、コンクリート部材に圧縮応力を与える。また、偏向部17は、金属或いはコンクリート等から成る偏向具をコンクリート部材に固定し、外ケーブル13に与えられた張力の分力をコンクリート部材に与える。
【0013】
また、PC鋼材12の張力は、プレストレストコンクリート橋梁11に予め予想される耐荷力に応じた張力が与えられ、外ケーブル13には定着具16と支圧板を密着する程度の小さな張力で緊張される。つまり、外ケーブル13には、小さな張力で且つ検出手段15によって張力測定の可能な範囲の張力が付与される。当初から外ケーブル13に全く張力が付与されていない場合、外ケーブル13の張力の変化を測定することが難しいからである。また、曲げひび割れを生じた橋梁に外ケーブル13を緊張してプレストレスを与え、ひび割れが閉じた時、ひび割れ部周囲の応力がゼロになったと判断できる。
【0014】
また、検出手段15は、例えば、外ケーブル13の磁気歪みの変化を検出するEMセンサー18であってもよい。EMセンサー18は、図3に示すように金属製の筐体20にケーブルを挿通するための挿通孔21を有するとともに、前記筐体20内であって、且つ挿通孔21から同心円状に配置された二次コイル22、一次コイル23、温度センサー24等を備えており、磁歪を利用して外ケーブル13の軸応力(張力)を検出することができる。EMセンサー18は、外ケーブル13に接触する必要がない上に、現有実応力を直接測定できる。また、応力を直接測定するために、ケーブルの延びに関係なく応力の測定が可能であり、長期耐久性を有している。
【0015】
更に、検出手段15は、PC鋼材12或いは外ケーブル13の一部破壊に伴って発生する弾性波を検出するAEセンサー19であってもよい。
ここで、AEセンサー19は、ケーブルの亀裂の発生や進行などの破壊に伴って発生する弾性波(振動、音波)を検出し、複数のAEセンサーを設置することにより、破断箇所から到達する弾性波の時間差を利用して破断箇所を推定することができる。
更に、検出手段15は、ロードセルであってもよい。ロードセルは、可動部がなく、機械的変位量も少ないため、構造がシンプルで、応答性などに優れ、安価で寿命が長い。また、適切な使用や管理をすれば半永久に使用可能である。
【0016】
次に、以上のように構成された本願発明のプレストレストコンクリート橋梁構造10の動作について説明する。先ず、プレストレストコンクリート橋梁構造10を施工した後、検出手段15によって外ケーブル13の物理的変動を常時検出する。外ケーブル13は、施工当初、定着具16と支圧板が密着する程度の小さい張力で緊張されており、張力に余裕を持っている。
具体的には、既設橋梁の建設時のプレストレス導入後に、クリープ、レラクセーション等によって失われるプレストレス相当分とする。クリープ、レラクセーション等によって失われるプレストレスの減少量は、計算によって比較的精度よく求めることができる。したがって、既設橋梁のPC鋼材破断量が正確に把握できない場合でも、オーバープレストレッシングによる問題を生じることがない。
【0017】
また、外ケーブル13の物理的変動を常時検出しているので、外ケーブル13に導入する再緊張力が過大であったり、過小になることがない。導入するプレストレス力が過大である場合、コンクリートの許容圧縮応力を超えて、ひび割れが発生し、プレストレストコンクリート橋梁の耐荷力を著しく低下させる。更に、導入するプレストレス力が過小である場合、耐荷力の増加量が不充分で破壊の危険が除去できない。
【0018】
次に、本願発明のプレストレストコンクリート橋梁構造10において、検出手段15にAEセンサー19を使用した場合について説明する。
AEセンサー19は、ケーブルの亀裂や破壊に伴って発生する弾性波を検出し、複数のAEセンサーを設置することにより、破断箇所から到達する弾性波の時間差を利用して破断箇所を推定することができる。外ケーブル13の亀裂や破壊を検出した場合には、外ケーブル13を補強するとともに、緊張機構14によって外ケーブル13を再緊張して耐荷力を回復する。
【0019】
以上のように本発明のプレストレストコンクリート橋梁構造によれば、施工後、何らかの原因によって既設橋梁のPC鋼材が破断すると、緊張力によって短縮していたコンクリートのひずみが解放され伸びを生じ、伸びによって、外ケーブル両端の定着間の間隔が広がる。これによって外ケーブルが伸ばされ張力が増加する。あらかじめ配置した検出手段によって、この張力の変化を測定すれば、既設橋梁のPC鋼材が破断したことを知ることができる。
また、外ケーブルの張力の増加は、外ケーブルが既設PC鋼材の破断により失われた耐荷性を補償したことを示す。つまり、外ケーブルは既設橋梁の耐荷力低下のモニタリングと共に耐力低下に相当する補強を行ったことになる。
【0020】
将来、さらに既設橋梁のPC鋼材の破断量が多くなると、橋梁には曲げひび割れが発生する。原理的に曲げひび割れが発生すると、外ケーブルの張力増加量が増大する。常に張力をモニタリングしておけば、曲げひび割れの発生を検知できる。また、曲げひび割れを生じた橋梁に外ケーブルでプレストレスを与え、ひび割れが閉じたとき、ひび割れ部周囲の応力はゼロである。つまり、このプレストレス量を知ることで、既設橋梁のPC鋼材破断量を正確に知ることができる。既設橋梁に残存しているプレストレス量が正確に把握できれば、正確な補強設計が可能になる。
【0021】
なお、上記説明は、箱桁橋梁の例について説明したが、これに限ることなく、他のT桁橋梁等についても同様に適応することができる。また、本発明による外ケーブルや検出手段の設置は、橋梁の建設時だけでなく、建設後に追加することにより適応することができる。
【符号の説明】
【0022】
10 プレストレストコンクリート橋梁構造
11 プレストレストコンクリート橋梁
12 PC鋼材
13 外ケーブル
14 緊張機構
15 検出手段
16 定着部(定着具)
17 偏向部
18 EMセンサー
19 AEセンサー
20 筐体
21 挿通孔
22 二次コイル
23 一次コイル
24 温度センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレストレストコンクリート橋梁の定着具と支圧板が密着する程度の低い張力で緊張した外ケーブルを配設したプレストレストコンクリート橋梁構造であって、前記外ケーブルを緊張する緊張機構と、前記外ケーブルの張力変動を検出する検出手段とを設け、前記検出手段により前記外ケーブルの張力変動を計測することにより、前記プレストレストコンクリート橋梁の耐荷力をモニタリングすることを特徴とするプレストレストコンクリート橋梁構造。
【請求項2】
前記検出手段が所定の張力の増加を検出した場合に前記緊張機構によって外ケーブルを再緊張することを特徴とする請求項1に記載のプレストレストコンクリート橋梁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−127053(P2012−127053A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276856(P2010−276856)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(505398941)東日本高速道路株式会社 (66)
【出願人】(505398952)中日本高速道路株式会社 (94)
【出願人】(505398963)西日本高速道路株式会社 (105)
【出願人】(507194017)株式会社高速道路総合技術研究所 (33)
【出願人】(000237134)株式会社富士ピー・エス (20)
【Fターム(参考)】