説明

プレスボード

【課題】破断強度を有しつつ、層間の剥離強度に優れた、メタ型全芳香族ポリアミドパルプおよびメタ型芳香族ポリアミド短繊維を含むプレスボードを提供すること。
【解決手段】高温加工時または高温使用中における収縮が抑制されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維を用いてプレスボードを得る。具体的には、スキンコアを有さず緻密な凝固形態となるよう凝固浴の成分あるいは条件を適宜調節し、特定倍率の範囲内で可塑延伸を行い、さらに、その後の熱延伸を特定条件で実施してメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得て、得られたメタ型全芳香族ポリアミド繊維を用いてプレスボードを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタ型全芳香族ポリアミドパルプおよびメタ型芳香族ポリアミド短繊維を含むプレスボードに関する。さらに詳しくは、力学特性に優れ、層間の剥離強度に優れたメタ型全芳香族ポリアミドからなる新規なプレスボードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、使用最大電圧が66Kv級以上、あるいは容量的に10MVA級程度以上の乾式や樹脂モールド式の不燃性変圧器および電気機器においては、電気絶縁媒体や電気絶縁材料として、6フッ化イオウガス等の電気的負性ガス、不燃性のシリコン油等が、絶縁スペーサーと組み合わされて使用されている。
【0003】
そして、絶縁用スペーサーとしては、通常、汎用タイプの電気機器の場合には、木綿繊維、クラフトパルプ等の良質な植物繊維からなるプレスボードが使用されている。しかしながら、より高度な耐熱性、電気絶縁性が要求されるH種等の電気機器類においては、芳香族系重合体および無機繊維からなるスペーサー(特許文献1参照)、芳香族ポリアミドフィブリッドおよび高温抵抗性ブロックからなるスペーサー(特許文献2参照)、あるいは、芳香族ポリアミドからなるプレスボード(特許文献3参照)等が使用されている。
【0004】
この高度な電気絶縁用スペーサーに使用されるプレスボードの製造法としては、一般的に、まず、湿式抄造法によって湿紙を形成し、該湿紙の水分含有率を任意に調整した後に必要枚数を積層し、続いて、加熱加圧下で脱水乾燥して一体化する方法が採用されている(特許文献1および2参照)。
【0005】
しかしながら、従来のメタ型全芳香族ポリアミド短繊維は、繊維中に残存する溶媒量が多いため、高温、高圧下でプレス処理した際に収縮が生じ、プレスボード中におけるパルプと短繊維との接着に斑が生じていた。その結果、得られるプレスボードの引張強度および層間剥離強力の低下が生じ、耐久性が十分でないという問題が生じていた。
【0006】
ここで、特許文献4および特許文献5には、層状粘土鉱物を含むメタ型全芳香族ポリアミド繊維が記載されている。特許文献4および5に記載されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、層状粘土鉱物の配合により、残存溶媒量の低い繊維となる。しかしながら、これら層状粘土鉱物を含むメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、メタ型芳香族ポリアミドの特徴である絶縁性が低く、さらに、加工時に層状粘土鉱物が脱落して飛散する場合があった。
【0007】
さらに、特許文献6には、繊維中に残存する溶媒量が1.0重量%以下であって、300℃での乾熱収縮率が3%以下であり、かつ繊維の破断強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とする高温加工性に優れたメタ型全芳香族ポリアミド繊維が記載されている。しかしながら、特許文献6においては、破断強度が4.5cN/dtex以上の繊維は報告されておらず、高い破断強度および寸法安定性については、さらなる向上が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭54−41500号公報
【特許文献2】特開昭60−209100号公報
【特許文献3】特開平2−142015号公報
【特許文献4】特開2007−254915号公報
【特許文献5】特開2007−262589号公報
【特許文献6】国際公開第2007/089008号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、破断強度を有しつつ、層間の剥離強度に優れた、メタ型全芳香族ポリアミドパルプおよびメタ型芳香族ポリアミド短繊維を含むプレスボードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。すなわち、高温加工時または高温使用中における収縮が抑制されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維を用いることに着目し、その結果、スキンコアを有さず緻密な凝固形態となるよう凝固浴の成分あるいは条件を適宜調節し、特定倍率の範囲内で可塑延伸を行い、さらに、その後の熱延伸を特定条件で実施して得られるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を用いれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、メタ型全芳香族ポリアミドパルプ10〜90質量%およびメタ型芳香族ポリアミド短繊維90〜10質量%を含むプレスボードであって、前記メタ型全芳香族ポリアミド短繊維は、実質的に層状粘土鉱物を含まず、繊維中に残存する溶媒量が繊維全体に対して1.0質量%以下であり、かつ、繊維の破断強度が4.5〜6.0cN/dtexである絶縁用プレスボードである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプレスボードは、破断強度を有しつつも、層間の剥離強度に優れたプレスボードとなる。このため、公知のメタ型全芳香族ポリアミド繊維を用いたプレスボードと比べて、耐久性に優れたプレスボードとなる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<メタ型全芳香族ポリアミド短繊維>
本発明のプレスボードに用いられるメタ型全芳香族ポリアミド短繊維は、以下の特定の物性を備える。本発明のプレスボードに用いられるメタ型全芳香族ポリアミド短繊維の物性、構成、および、製造方法等について以下に説明する。
【0014】
[メタ型全芳香族ポリアミド短繊維の物性]
本発明のプレスボードに用いられるメタ型全芳香族ポリアミド短繊維は、実質的に層状粘土鉱物を含まず、破断強度が一定の範囲にあり、かつ、繊維中に残存する溶媒の量が非常に少ないものである。具体的には、繊維中に残存する溶媒量が1.0質量%以下であって、かつ、繊維の破断強度が4.5〜6.0cN/dtexである。このため、本発明のプレスボードに用いられるメタ型全芳香族ポリアミド短繊維は、高温熱処理時における熱収縮を抑制することができ、プレスボードの強度を維持することができる。
【0015】
〔残存溶媒量〕
メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、通常、ポリマーをアミド系溶媒に溶解した紡糸原液から製造されるため、必然的に該繊維に溶媒が残存する。しかしながら、本発明のプレスボードに用いられるメタ型全芳香族ポリアミド短繊維は、繊維中に残存する溶媒の量が、繊維質量に対して1.0質量%以下である。1.0質量%以下であることが必須であり、0.5質量%以下であることがより好ましい。特に好ましくは、0.01〜0.1質量%である。
【0016】
繊維質量に対して1.0質量%を超えて溶媒が繊維中に残存している場合には、高温熱処理時に短繊維の収縮が抑制できず、このため、パルプとの接着力が低下し、結果として、得られるプレスボードの層間剥離強力および引張強度が低下するため好ましくない。
【0017】
本発明において、メタ型全芳香族ポリアミド繊維中の残存溶媒量を1.0質量%以下にするためには、特定倍率の範囲内で可塑延伸を行い、さらに、その後の熱延伸を特定条件で実施する。
なお、本発明における「繊維中に残存する溶媒量」とは、以下の方法で得られる値をいう。
【0018】
(残存溶媒量の測定方法)
洗浄工程の出側にて繊維をサンプリングし、該繊維を遠心分離機(回転数5,000rpm)に10分かけ、このときの繊維質量(M1)を測定する。この繊維を、質量M2gのメタノール中で4時間煮沸し、繊維中のアミド系溶媒および水を抽出する。抽出後の繊維を105℃雰囲気下で2時間乾燥し、乾燥後の繊維質量(P)を測定する。また、抽出液中に含まれるアミド系溶媒の質量濃度(C)を、ガスクロマトグラフにより求める。
繊維中に残存する溶媒量(アミド系溶媒質量)N(%)は、上記のM1、M2、P、およびCを用いて、下記式により算出する。
N=[C/100]×[(M1+M2−P)/P]×100
【0019】
〔破断強度〕
本発明のプレスボードに用いられるメタ型全芳香族ポリアミド短繊維は、破断強度が4.5〜6.0cN/dtexの範囲である。4.5〜6.0cN/dtexの範囲であることが必須であり、5.5〜6.0cN/dtexの範囲であることが好ましい。さらには、5.7〜6.0cN/dtex、5.8〜6.0cN/dtexの範囲であることが特に好ましい。破断強度が4.5cN/dtex未満である場合には、プレスボードの引張強度が得られ難くなり、好ましくない。また、6.0cN/dtexを超過する場合には、伸度が大幅に低下し、製品の耐久性を得ることができない。
【0020】
本発明のプレスボードに用いられるメタ型全芳香族ポリアミド短繊維において、「破断強度」を上記範囲内にするためには、スキンコアを有さず緻密な凝固形態となるよう凝固浴の成分あるいは条件を適宜調節し、特定倍率の範囲内で可塑延伸を行い、さらに、その後の熱延伸を特定条件で実施して、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を得る。
【0021】
なお、本発明における「破断強度」とは、JIS L 1015に基づき、測定機器としてインストロン社製、型番5565を用いて、以下の条件で測定して得られる値をいう。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
【0022】
〔破断伸度〕
本発明のプレスボードに用いられるメタ型全芳香族ポリアミド短繊維は、破断伸度が15%以上であることが好ましく、18%以上であることがさらに好ましく、20%以上であることが特に好ましい。破断伸度が15%未満である場合には、製品の耐久性を得ることができない。
【0023】
メタ型全芳香族ポリアミド短繊維の「破断伸度」は、後記する製造方法における凝固工程において、スキンコアを有さず緻密な凝固形態とすることにより制御することができる。15%以上とするためには、凝固液をNMP(N−メチル−2−ピロリドン)濃度45〜60質量%の水溶液とし、浴液の温度10〜50℃とすればよい。
なお、ここでいう「破断伸度」とは、JIS L 1015に基づき、上記した「破断強度」の測定条件で測定して得られる値をいう。
【0024】
〔300℃乾熱収縮率〕
さらに、本発明のプレスボードに用いられるメタ型全芳香族ポリアミド短繊維は、300℃乾熱収縮率が5.0%以下であることが好ましく、1.0〜4.0%の範囲であることがさらに好ましい。300℃乾熱収縮率が大きい場合には、乾燥、熱処理時における寸法安定性を得ることができず、プレスボードの引張強度および層間剥離強力の低下が生じるため好ましくない。特に好ましくは0.1〜3.0%の範囲である。
【0025】
本発明のプレスボードに用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維において、上記300℃乾熱収縮率を5.0%以下にするには、後記する製造方法において、熱延伸工程における熱処理温度を、310〜335℃の範囲とすればよい。310℃未満では乾熱収縮率が大きくなり、335℃より高いとポリマーの熱劣化による強度低下と着色が生じる。
なお、本発明における「300℃乾熱収縮率」とは、以下の方法で得られる値をいう。
【0026】
(300℃乾熱収縮率の測定方法)
約3,300dtexのトウに98cN(100g)の荷重を吊るし、互いに30cm離れた箇所に印をつける。荷重を除去後、トウを300℃雰囲気下に15分間置いた後、印間の長さLを測定する。測定結果Lをもとに、下記式にて得られる値を300℃乾熱収縮率(%)とする。
300℃乾熱収縮率(%)=[(30−L)/30]×100
【0027】
〔初期弾性率〕
さらに、本発明のプレスボードに用いられるメタ型全芳香族ポリアミド短繊維は、初期弾性率が800〜1,500cN/mmであることが好ましく、900〜1,500cN/mmの範囲であることがさらに好ましい。初期弾性率が800〜1,500cN/mmの範囲にあれば、得られる製品の耐久性を満足させることができる。
【0028】
本発明のプレスボードに用いられるメタ型全芳香族ポリアミド短繊維において、上記初期弾性率を800〜1,500cN/mmにするには、後記する製造方法の可塑延伸工程において、3.0〜10.0倍の範囲で可塑延伸を実施すればよい。延伸倍率が3.0倍未満の場合には初期弾性率が未達となり、一方で、10.0倍より高倍率とした場合には糸切れが多発し、工程調子が悪化する。
なお、ここでいう「初期弾性率」とは、JIS L 1015に基づき、上記した「破断強度」の測定条件で測定して得られる値をいう。
【0029】
〔断面形状および単繊維の繊度〕
なお、本発明ノプレスボードに用いられるメタ型全芳香族ポリアミド短繊維の断面形状は、円形、楕円形、その他任意の形状であってよく、また、単繊維の繊度(単糸繊度)は、一般に0.5〜10.0dtexの範囲であることが好ましい。
【0030】
また、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド短繊維は、多数の紡糸孔を有する紡糸口金を用いた湿式紡糸で得られるメタ型全芳香族ポリアミド繊維から得られ、当該繊維は、例えば1口金あたり100〜30,000ホールで200〜70,000dtex、好ましくは1,000〜20,000ホールで2,000〜45,000dtexのトウとして得られる。
【0031】
〔カット長〕
本発明のプレスボードに用いられるメタ型全芳香族ポリアミド短繊維のカット長は、0.5〜15.0mmの範囲とすることが好ましい。
【0032】
<メタ型全芳香族ポリアミドパルプ>
本発明のプレスボードにおいて使用するメタ型全芳香族ポリアミドパルプとしては、特に限定されるものではない。例えば、パルプ状の粒子が挙げられるが、従来公知の通常の構造を有する微粒子であって、湿紙形成能を有するものであれば、特に限定されるものではない。メタ型全芳香族ポリアミドの溶液(ドープ)から直接形成されるパルプ、また、長繊維を形成した後に形成されるパルプのいずれも採用することができる。例えば、特公昭35−11851号公報、特公昭37−5732号公報等に記載されているメタ型全芳香族ポリアミドパルプ等が挙げられる。
【0033】
<メタ型全芳香族ポリアミド>
[メタ型全芳香族ポリアミドの構成]
本発明のプレスボードに含まれるメタ型全芳香族ポリアミド短繊維を構成するメタ型全芳香族ポリアミドは、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸成分とから構成されるものであり、本発明の目的を損なわない範囲内で、パラ型等の他の共重合成分が共重合されていてもよい。
【0034】
本発明において特に好ましく使用されるのは、力学特性、耐熱性、難燃性の観点から、メタフェニレンイソフタルアミド単位を主成分とするメタ型全芳香族ポリアミドである。
メタフェニレンイソフタルアミド単位から構成されるメタ型全芳香族ポリアミドとしては、メタフェニレンイソフタルアミド単位が、全繰り返し単位の90モル%以上であることが好ましく、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モルである。
【0035】
〔メタ型全芳香族ポリアミドの原料〕
(メタ型芳香族ジアミン成分)
メタ型全芳香族ポリアミドの原料となるメタ型芳香族ジアミン成分としては、メタフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン等、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルキル基等の置換基を有する誘導体、例えば、2,4−トルイレンジアミン、2,6−トルイレンジアミン、2,4−ジアミノクロロベンゼン、2,6−ジアミノクロロベンゼン等を例示することができる。なかでも、メタフェニレンジアミンのみ、または、メタフェニレンジアミンを85モル%以上、好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上含有する混合ジアミンであることが好ましい。
【0036】
(メタ型芳香族ジカルボン酸成分)
メタ型全芳香族ポリアミドを構成するメタ型芳香族ジカルボン酸成分の原料としては、例えば、メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドを挙げることができる。メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイド等のイソフタル酸ハライド、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体、例えば3−クロロイソフタル酸クロライド等を例示することができる。なかでも、イソフタル酸クロライドそのもの、または、イソフタル酸クロライドを85モル%以上、好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上含有する混合カルボン酸ハライドであることが好ましい。
【0037】
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミ短繊維は、層状粘土鉱物を実質的に含まない。「実質的に含まない」とは、メタ型全芳香族ポリアミド、およびメタ型全芳香族ポリアミド繊維を製造する際、意図して層状粘土鉱物を添加しないことを意味する。濃度は特に規定されないが、例えば、0.01質量%以下であり、好ましくは0.001質量%以下、さらに好ましくは0.0001質量%以下である。
【0038】
〔メタ型全芳香族ポリアミドの製造方法〕
メタ型全芳香族ポリアミドの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸クロライド成分とを原料とした溶液重合や界面重合等により製造することができる。
【0039】
なお、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミドの分子量は、繊維を形成し得る程度であれば特に限定されるものではない。一般に、十分な物性の繊維を得るには、濃硫酸中、ポリマー濃度100mg/100mL硫酸で30℃において測定した固有粘度(I.V.)が、1.0〜3.0の範囲のポリマーが適当であり、1.2〜2.0の範囲のポリマーが特に好ましい。
【0040】
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法>
本発明のプレスボードに含まれるメタ型全芳香族ポリアミド短繊維は、上記の製造方法によって得られた芳香族ポリアミドを用いて、例えば、以下に説明する紡糸液調製工程、紡糸・凝固工程、可塑延伸浴延伸工程、洗浄工程、乾熱処理工程、熱延伸工程を経て製造されるメタ型全芳香族ポリアミド繊維から製造される。
【0041】
[紡糸液調製工程]
紡糸液調製工程においては、メタ型全芳香族ポリアミドをアミド系溶媒に溶解して、紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を調製する。紡糸液の調製にあたっては、通常、アミド系溶媒を用い、使用されるアミド系溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することができる。これらのなかでは溶解性と取扱い安全性の観点から、NMPまたはDMAcを用いることが好ましい。
【0042】
溶液濃度としては、次工程である紡糸・凝固工程での凝固速度および重合体の溶解性の観点から、適当な濃度を適宜選択すればよく、例えば、ポリマーがポリメタフェニレンイソフタルアミドなどのメタ型全芳香族ポリアミドで、溶媒がNMPなどのアミド系溶媒であるの場合には、通常は10〜30質量%の範囲とすることが好ましい。
【0043】
[紡糸・凝固工程]
紡糸・凝固工程においては、上記で得られた紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を凝固液中に紡出して凝固させる。
紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。また、安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態、孔形状等は特に制限する必要はなく、例えば、孔数が1,000〜30,000個、紡糸孔径が0.05〜0.2mmのスフ用の多ホール紡糸口金等を用いてもよい。
また、紡糸口金から紡出する際の紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)の温度は、20〜90℃の範囲が適当である。
【0044】
本発明のプレスボードに含まれる短繊維の材料となる長繊維を得るために用いる凝固浴としては、実質的に無機塩を含まないアミド系溶媒、好ましくはNMP濃度45〜60質量%の水溶液を、浴液の温度10〜50℃の範囲で用いる。アミド系溶媒(好ましくはNMP)の濃度が45質量%未満ではスキンが厚い構造となってしまい、洗浄工程における洗浄効率が低下し、繊維の残存溶媒量を低減させることが困難となる。一方、アミド系溶媒(好ましくはNMP)の濃度が60質量%を超える場合には、繊維内部に至るまで均一な凝固を行なうことができず、このためやはり、繊維の残存溶媒量を低減させることが困難となる。なお、凝固浴中への繊維の浸漬時間は、0.1〜30秒の範囲が適当である。
【0045】
ここで、実質的に塩を含まない凝固液としては、実質的にアミド系溶媒と水だけで構成されることが好ましい。しかしながら、塩化カルシウム、水酸化カルシウム等の無機塩類がポリマー溶液中から抽出されてくるため、実際には、凝固液にはこれらの塩類が少量含まれる。工業的な実施における塩類の好適濃度は、凝固液全体に対して0.3質量%〜10%質量の範囲である。無機塩濃度を0.3質量%未満とするためには、凝固液の回収プロセスにおける精製のための回収コストが著しく高くなるため適切ではない。一方で、無機塩濃度が10質量%を超える場合には、凝固速度が遅くなることから、紡糸口金から吐出された直後の繊維に融着が発生しやすくなり、また、凝固時間が長時間となるため凝固設備を大型化せざるを得なくなり好ましくない。
【0046】
凝固浴の成分あるいは条件を上記の通りに設定することにより、繊維表面に形成されるスキンを薄くし、繊維内部まで均一な構造にすることができ、さらに、得られる繊維の破断伸度を向上させることができる。
かかる紡糸・凝固工程により、凝固浴中で多孔質のメタ型全芳香族ポリアミドの凝固糸からなる繊維(トウ)が形成され、その後、凝固浴から空気中へ引き出される。
【0047】
[可塑延伸浴延伸工程]
可塑延伸浴延伸工程においては、凝固浴にて凝固して得られた繊維が可塑状態にあるうちに、可塑延伸浴中にて繊維を延伸処理する。
可塑延伸浴液としては特に限定されるものではなく、従来公知のものを採用することができる。
【0048】
例えば、アミド系溶媒の水溶液からなり、塩類が実質的に含まれない水溶液を用いることができ、工業的には、上記凝固浴に用いたものと同じ種類の溶媒を用いることが特に好ましい。すなわち、重合体溶液、凝固浴および可塑延伸浴に用いるアミド系溶媒は同種であることが好ましく、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)の単独溶媒、または、NMPを含む2種以上からなる混合溶媒を用いることが特に好ましい。同種のアミド系溶媒を用いることによって、回収工程を統合・簡略化することができ、経済的に有益となる。
【0049】
可塑延伸浴の温度と組成とはそれぞれ密接な関係にあるが、アミド系溶媒の質量濃度が20〜70質量%、かつ、温度が20〜70℃の範囲であれば、好適に用いることができる。この範囲より低い領域では、多孔質繊維状物の可塑化が十分に進まず、可塑延伸において十分な延伸倍率をとることが困難となる。一方で、これの範囲より高い領域では、多孔質繊維の表面が溶解して融着するため、良好な製糸が困難となる。
【0050】
本発明のプレスボードに含まれる短繊維を得るためには、可塑延伸浴中の延伸倍率を、3.5〜10.0倍の範囲とする必要があり、さらに好ましくは4.0〜6.5倍の範囲とする。本発明においては、可塑延伸浴中の延伸を当該倍率の範囲で行い、延伸による分子鎖配向を上げることにより、最終的に得られる繊維の強度を確保することができる。
【0051】
可塑延伸浴中での延伸倍率が3.5倍未満である場合には、5.0cN/dtex以上の破断強度を有する繊維を得ることが困難となる。一方で、延伸倍率が10.0倍を超える場合には、単糸切れが発生するため、生産安定性が悪くなる。
可塑延伸浴の温度は、20〜90℃の範囲が好ましい。温度が20〜90℃の範囲にある場合には、工程調子が良いため好ましい。さらに好ましくは20〜60℃である。
【0052】
[洗浄工程]
洗浄工程においては、可塑延伸浴にて延伸された繊維を、十分に洗浄する。洗浄は、得られる繊維の品質面に影響を及ぼすことから、多段で行なうことが好ましい。特に、洗浄工程における洗浄浴の温度および洗浄浴液中のアミド系溶媒の濃度は、繊維からのアミド系溶媒の抽出状態および洗浄浴からの水の繊維中への浸入状態に影響を与える。このため、これらを最適な状態とする目的においても、洗浄工程を多段とし、温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件を制御することが好ましい。
【0053】
温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件については、最終的に得られる繊維の品質を満足できるものであれば特に限定されるものではないが、最初の洗浄浴を60℃以上の高温とすると、水の繊維中への浸入が一気に起こるため、繊維中に巨大なボイドが生成し、品質の劣化を招く。このため、最初の洗浄浴は、30℃以下の低温とすることが好ましい。
繊維中に溶媒が残っている場合には、物性低下や収縮が生じる。このため、本発明のプレスボードに用いられる短繊維に含まれる溶媒量は、1.0質量%以下とする必要があり、0.5質量%以下とすることがより好ましい。
【0054】
[乾熱処理工程]
本発明のプレスボードに含まれる短繊維の材料となる長繊維を得るためには、上記洗浄工程を経た繊維に対して、好ましくは、乾熱処理工程を実施する。乾熱処理工程においては、上記洗浄工程により洗浄が実施された繊維を、好ましくは100〜250℃、さらに好ましくは100〜200℃の範囲で、乾燥熱処理する。
洗浄工程の後、乾燥熱処理を引き続いて施すと、ポリマーの流動性を適度に向上させ、配向が進む一方で結晶化を抑制し、繊維の緻密化を促進することができる。なお、上記の乾熱処理の温度は、熱板、加熱ローラーの等繊維加熱手段の設定温度をいう。
【0055】
[熱延伸工程]
続いて、上記乾熱処理工程を経た繊維に対して、熱延伸工程を施す。熱延伸工程においては、310〜335℃で熱処理を加えながら、1.1〜1.8倍の延伸を実施する。熱延伸工程における熱処理温度が310℃を超える高温の場合には、糸が着色し、また、激しく劣化して、場合によっては断糸することがある。一方、335℃を下回る温度では、繊維の十分な結晶化を達成することができず、所望の繊維物性すなわち破断強度等の力学的特性および熱的特性を発現することが困難となる。
【0056】
熱延伸工程における処理温度と得られる繊維の密度とには、密接な関係がある。特に良好な繊維密度の製品を得るためには、熱延伸工程における熱処理温度を、310〜335℃の範囲とすることが好ましい。また、熱延伸工程における熱処理温度を310〜335℃の範囲とすることにより、300℃乾熱収縮率が5.0%以下の繊維を得ることができる。なお、熱処理は、乾熱処理とすることが特に好ましく、熱延伸工程における熱処理温度は、熱板、加熱ローラー等の繊維加熱手段の設定温度をいう。
【0057】
また、熱延伸工程における延伸倍率は、得られる繊維の強度および弾性率の発現に密接な関係がある。本発明のプレスボードに含まれる短繊維の材料となる長繊維を得るためには、通常、1.1〜1.8倍、好ましくは1.1〜1.5倍の範囲に設定する必要があり、当該範囲とすることで、良好な熱延伸性を保持しつつ、必要となる強度および弾性率を発現させることができる。
【0058】
<メタ型全芳香族ポリアミド短繊維の製造方法>
[メタ型全芳香族ポリアミド繊維のカット方法]
メタ型全芳香族ポリアミドのカット方法は、特に限定されるものではなく、一般的に用いられる連続切断装置を用いてカットすることができる。連続切断装置としては、例えば、ギロチンカッター、ロータリーディスクカッター等が挙げられる。
【0059】
<プレスボード>
[プレスボードの材料]
本発明のプレスボードは、メタ型全芳香族ポリアミドパルプおよび上記したメタ型全芳香族ポリアミド短繊維を含む。更に必要に応じて、無機質粒子や無機質短繊維が混合されていてもよい。
【0060】
(無機質粒子)
無機質微粒子としては、例えば、雲母微粒子、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム等の無機粉体を挙げることができる。これらをプレスボードに含ませると、シリコン油等の吸油性、樹脂類の含浸性、耐熱性、難燃性等を向上させることができる。
【0061】
(無機質短繊維)
無機質短繊維としては、例えば、ガラス繊維、セラミック繊維、アルミナ繊維、ロックウール繊維等が挙げられる。特に、コスト等の点から、ガラス繊維が好ましい。
【0062】
[材料の組成]
本発明のプレスボードに含まれるメタ型全芳香族ポリアミドパルプの含有量は、プレスボードを構成する全材料に対して10〜90質量%である。更に良好な特性を有するプレスボードを得るためには、メタ型全芳香族ポリアミドパルプの含有量を30〜75質量%の範囲内にすることが望ましい。メタ型全芳香族ポリアミドパルプの含有量が10質量%より少ない場合には、層間剥離強力が低下し、圧縮に対する抵抗力も低くなり、プレスボードとしての必要な性能を発現できなくなる。一方、メタ型全芳香族ポリアミドパルプの含有量が90質量%よりも多くなると、プレスボードの引張強度が低下するばかりでなく、電気的負性気体やシリコン油、エポキシ樹脂等の含浸性が低下して、変圧器や電気機器で使用した場合に十分な電気絶縁耐力や不燃性を発揮できなくなる。
【0063】
[プレスボードの製造方法]
本発明のプレスボードは、メタ型全芳香族ポリアミドパルプおよびメタ型全芳香族ポリアミド短繊維を含む水性スラリーから、従来公知の湿式抄造法、例えば、長網式、丸網式等の抄紙機を用いて湿紙を形成し、得られた湿紙を必要枚数積層したものを用いて、2〜30分間程度の時間、例えば240℃〜330℃、好ましくは280℃〜310℃の温度で、例えば10〜300kg/cm、好ましくは15〜250kg/cmの圧力で加熱、加圧することにより製造できる。
あるいは、抄紙機を用いて湿紙を成形し、得られた湿紙を乾燥後に必要枚数積層し、前記と同様の条件で加熱、加圧して得ることもできる。
【0064】
また別の方法として、メタ型全芳香族ポリアミドパルプおよびメタ型全芳香族ポリアミド短繊維を含む混合水性スラリー中から、特定部分がメッシュからなる吸引治具を用いて所定時間吸引することにより湿紙を成形し、該湿紙を必要枚数積層した後に、または該湿紙を乾燥した後に必要枚数積層したものを、前記と同様の条件で加熱、加圧する方法を挙げることができる。
【0065】
成形時の加熱温度を240℃よりも低く設定すると、得られるプレスボードの層間剥離強力が低下し、使用時の加圧力に抗しきれず変形し、元の形状を維持できなくなる。一方で、330℃よりも高い温度で加熱すると、プレスボードの一部が焼けて炭化しはじめ、変色して外観品位損なうばかりでなく、強度が低下する。
【0066】
成形時の加圧が10kg/cm未満の場合には、プレスボードの層間剥離強力の最低値が低下するばかりでなく、圧力不足からプレスボード内部に多数の空洞や気泡が存在するようになり、電気絶縁不良を生じる。一方で300kg/cmを超える圧力で成形した場合には、嵩密度が高くなりすぎて、電気的負性気体やシリコン油、エポキシ樹脂等の含浸性が低下する。
【0067】
[プレスボードの厚み]
変圧器の絶縁材として使用される場合には、最低0.5mmの厚さが必要である。一方で、50mmを超える場合には、熱圧プレスするときの熱伝達が悪くなるため、均一な品質のボードを得ることができない。このため、本発明のプレスボードは、0.5mm〜50mmの範囲とすることが好ましい。
【実施例】
【0068】
以下、実施例等をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例等によって何等限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に断らない限り「質量」に基づくものであり、「量比」は、特に断らない限り「質量比」を示す。さらに、紡糸に用いる重合体溶液(紡糸原液)における重合体濃度(PN濃度)は、「全質量部」に対する「重合体の質量%」、すなわち、[重合体/(重合体+溶媒+その他)]×100(%)である。
【0069】
<測定方法>
実施例および比較例における各物性値は、下記の方法で測定した。
【0070】
[固有粘度(IV)]
重合体溶液から芳香族ポリアミドポリマーを単離して乾燥した後、濃硫酸中、ポリマー濃度100mg/100mL硫酸で30℃において測定した。
【0071】
[繊度]
JIS L 1013に準じ、正量繊度のA法に準拠した測定を実施し、見掛け繊度にて表記した。
【0072】
[破断強度、破断伸度、初期弾性率]
引張試験機(インストロン社製、型式:5565)を用いて、JIS L 1015に基づき、以下の条件で測定した。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
【0073】
[繊維中に残存する溶媒量(残存溶媒量)]
洗浄工程の出側にて繊維をサンプリングし、該繊維を遠心分離機(回転数5,000rpm)に10分かけ、このときの繊維質量(M1)を測定した。この繊維を、質量M2gのメタノール中で4時間煮沸し、繊維中のアミド系溶媒および水を抽出した。抽出後の繊維を105℃雰囲気下で2乾燥し、乾燥後の繊維質量(P)を測定した。また、抽出液中に含まれるアミド系溶媒の質量濃度(C)を、ガスクロマトグラフにより求めた。
繊維中に残存する溶媒量(アミド系溶媒質量)N(%)は、上記のM1、M2、P、およびCを用いて、下記式により算出した。
N=[C/100]×[(M1+M2−P)/P]×100
【0074】
[300℃乾熱収縮率(繊維)]
約3,300dtexのトウに98cN(100g)の荷重を吊るし、互いに30cm離れた箇所に印をつける。荷重を除去後、トウを300℃雰囲気下に15分間置いた後、印間の長さLを測定した。測定結果Lをもとに、下記式にて得られる値を300℃乾熱収縮率(%)とした。
300℃乾熱収縮率(%)=[(30−L)/30]×100
【0075】
[プレスボード秤量]
JIS P8124に準じて、以下の条件で測定した。
(測定条件)
試験片平均面積 :625cm
試験回数 :20回
【0076】
[プレスボード厚み]
マイクロメーターを用いて、JIS C2111の5.2により測定した。
【0077】
[プレスボード引張強伸度]
定速伸長型引張試験機(インストロン社製、型式:5565型)を用いて、JIS C2111の8.1に基づき、以下の条件で測定した。
(測定条件)
つかみ間隔 :180mm
引張速度 :200mm/分
【0078】
[プレスボード層間剥離強力の最低値]
定速伸長型引張試験機(インストロン社製、型式:5565型)を用いて、25mm幅の試料の中層部近辺を波形状またはヒダ状もしくは、それらの形状に類似する形の屈曲節に垂直な方向から、積層された界面をT字状に引き剥がす場合における強力を測定し、チャート紙上に記録された変動している剥離強力値の中から、1試料につき、低い方の値から順に10ヶ所の値を読み取り、その平均値を、その1試料の層間剥離強力の最低値とした。5点の試料について同様に測定し、得られたそれぞれの層間剥離強力の最低値を、再度平均化した値を求めた。
【0079】
<実施例1>
[紡糸原液(紡糸用ドープ)調製工程]
特公昭47−10863号公報記載の方法に準じた界面重合法により製造した、固有粘度(IV)が1.9のポリメタフェニレンイソフタルアミド粉末20.0部を、−10℃に冷却したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)80.0部中に懸濁させ、スラリー状にした。引き続き、懸濁液を60℃まで昇温して溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。
【0080】
[紡糸工程]
得られたポリマー溶液を紡糸原液として、孔径0.07mm、孔数1,500の紡糸口金から、浴温度40℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水/NMP(量比)=45/55であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出して紡糸した。
【0081】
[可塑延伸工程]
引き続き、温度40℃の水/NMP(量比)=40/60の組成の可塑延伸浴中にて、5.0倍の延伸倍率で延伸を行った。
【0082】
[洗浄工程]
延伸後、20℃の水/NMP(量比)=70/30の浴(浸漬長1.8m)、続いて20℃の水浴(浸漬長3.6m)、60℃の温水浴(浸漬長5.4m)、さらに、80℃の温水浴(浸漬長3.6m)に、順次通して、十分に洗浄を行った。
【0083】
[乾燥熱処理工程]
洗浄後の繊維について、引き続き、表面温度150℃の熱ローラーにて乾燥熱処理を実施した。
【0084】
[熱延伸工程]
引き続き、表面温度330℃の熱ローラーにて熱処理を加えながら、1.3倍に延伸する熱延伸工程を実施し、最終的にポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。
【0085】
[原繊維の評価]
得られた短繊維に対し、各種の測定評価を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0086】
[パルプスラリー製造工程]
特公昭47−10863号公報記載の方法に準じた界面重合法により製造した、固有粘度(IV)が1.9のポリメタフェニレンイソフタルアミド粉末を、ポリマー濃度12.5%となるようにNMPに溶解し、沈殿用のポリマー溶液を作成した。一方、沈殿剤として、NMPの濃度が30%となるように水を加えてNMP水溶液を作成した。
得られたのポリマー溶液および沈殿剤を用いて、特開52−15162号公報に記載された沈殿装置により、同公報に記載されている方法を用いてパルプを製造した。引き続き、パルパー、高速離解機、ディスクリファイナーを用いて、スラリー濃度0.3%でカナディアン標準濾水度110mLの水性パルプスラリーを得た。
【0087】
[短繊維製造工程]
上記で得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を、ギロチンカッターを用いて、6.0mmにカットすることにより、メタ型全芳香族ポリアミド短繊維を得た。
【0088】
[プレスボード製造工程]
上記で得られたメタ型全芳香族ポリアミド短繊維を、パルパーにより1%濃度で水中に離解分散させ、メタ型全芳香族ポリアミド短繊維分散液を得た。引き続き、上記で得られた水性パルプスラリーとメタ型全芳香族ポリアミド短繊維分散液とを、パルプ対繊維の質量比率が60%対40%になるように混合、攪拌し、均一な抄紙用スラリーを作成した。
得られた抄紙用スラリーを用いて、タッピー式角型手抄き機によって抄紙し、質量が約500g/mの水分を多量に含んだ湿紙を得た。得られた湿紙を110℃で6時間乾燥することにより、秤量が約83g/mの乾燥紙を得た。
続いて、得られた乾燥紙17枚を重ね合わせて、280℃で5分間、50kg/cmの面圧でホットプレスによる熱圧加工を実施し、プレスボードを作成した。
【0089】
[プレスボードの評価]
得られたプレスボードに対して、各種の測定評価を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0090】
<実施例2>
[紡糸原液(紡糸用ドープ)調製工程]
乾燥窒素雰囲気下の反応容器に、水分率が100ppm以下のNMP721.5部を秤量し、このNMP中にメタフェニレンジアミン97.2部(50.18モル%)を溶解させ、0℃に冷却した。この冷却したNMP溶液に、さらにイソフタル酸クロライド(以下IPCと略す)181.3部(49.82モル%)を徐々に撹拌しながら添加し、重合反応を行った。なお、粘度変化が止まった後、40分攪拌を継続し、重合反応を完了させた。
次に、平均粒径が10μm以下の水酸化カルシウム粉末を66.6部秤量し、重合反応が完了したポリマー溶液に対してゆっくり加えて、中和反応を実施した。水酸化カルシウムの投入が完了した後、さらに40分間撹拌し、透明なポリマー溶液を得た。
得られたポリマー溶液からポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離してIVを測定したところ、1.25であった。また、ポリマー溶液中のポリマー濃度は、20%であった。
【0091】
[紡糸工程・可塑延伸工程・多段洗浄工程・乾燥熱処理工程・熱延伸工程]
得られたポリマー溶液を紡糸原液として、紡糸工程における糸速を5m/分とし、可塑延伸工程における可塑延伸浴中の延伸倍率を6.5倍とした以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
【0092】
[プレスボード製造工程]
続いて、得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を用いて、実施例1と同様にしてプレスボードを得た。得られたプレスボードについての各種測定結果を、表1に示す。
【0093】
<比較例1>
凝固工程において、凝固液の組成を、水/NMP(量比)=70/30へ変更した以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を製造した。引き続き、得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を用いて、実施例1と同様にしてプレスボードを得た。得られた繊維およびプレスボードについての各種測定結果を、表1に示す。
【0094】
<比較例2>
熱延伸工程における延伸倍率を1.0倍に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。引き続き、得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を用いて、実施例1と同様にしてプレスボードを得た。得られた繊維およびプレスボードについての各種測定結果を、表1に示す。
【0095】
<比較例3>
短繊維として、帝人テクノプロダクツ(株)製のメタ型芳香族ポリアミド繊維(商品名「コーネックス」)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、プレスボードを作成した。各種測定結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明のプレスボードは、メタ型全芳香族ポリアミドパルプおよびメタ型全芳香族ポリアミド短繊維からなるプレスボードであって、引張強度および層間剥離強度に優れたものとなる。このため、鉱物油等の油入変圧器、6フッ化イオウガス等のガス絶縁変圧器、エポキシ樹脂等のモールド変圧器、その他電気機器等に用いられる電気絶縁用プレスボードとして、好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタ型全芳香族ポリアミドパルプ10〜90質量%およびメタ型芳香族ポリアミド短繊維90〜10質量%を含むプレスボードであって、
前記メタ型全芳香族ポリアミド短繊維は、実質的に層状粘土鉱物を含まず、繊維中に残存する溶媒量が繊維全体に対して1.0質量%以下であり、かつ、繊維の破断強度が4.5〜6.0cN/dtexであるプレスボード。
【請求項2】
前記メタ型全芳香族ポリアミド短繊維は、300℃乾熱収縮率が5.0%以下である請求項1記載のプレスボード。
【請求項3】
前記メタ型全芳香族ポリアミド短繊維は、初期弾性率が800〜1,500cN/mmである請求項1または請求項2記載のプレスボード。