説明

プレスロール成形装置及びプレスロール成形方法

【課題】プレスロール成形装置及びプレスロール成形方法において、材料片を小型化して廃棄される材料を減少する。
【解決手段】金型2上に載置された材料片X上のいずれかの位置を加重開始点としてロール4を材料片に対して押し付ける押付機構9,10を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレスロール成形装置及びプレスロール成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、方形あるいは円形の金型上に載置された材料片に対してロールを押し付けて移動することによって、当該材料片を成形するプレスロール成形装置が広く用いられている。
例えば、ジェットエンジンの圧縮機に用いられる静翼の多くは、プレスロール成形装置の一種でありかつ成形と同時に鍛造を行うプレスロール鍛造装置によって製造されている(特許文献1及び2)。
【0003】
例えば、特許文献1及び2に開示されたプレスロール鍛造装置では、ロールと共に当該ロールに荷重をかける油圧装置等が一体として移動可能とされており、金型の手前側において把持されて支持される材料片をロールの移動に伴って金型に対して押し付けることによって材料片の成形を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4483168号明細書
【特許文献2】米国特許第5600995号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば、材料片を成形する際に把持する部位等は金型によって成形されないため、部品の一部として使用することはできない。つまり、単一の材料片において、製品として使用される部位は一部分である。
このため、従来においては、プレスロール鍛造装置で成形された材料片は、必要な部位のみを切り出される。そして、材料片の把持される部位を含むその他の部品に使用された部位は、必要な部位が切り出された後に廃棄されることとなる。
つまり、従来のプレスロール鍛造装置においては、材料片のうち部品に必要とされる部位が一部であり、その他の部位が廃棄されるため、材料の無駄が非常に多かった。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、プレスロール成形装置及びプレスロール成形方法において、材料片を小型化して廃棄される材料を減少することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0008】
第1の発明は、金型を備え、ロールによって材料片を当該金型に対して押し付けることで上記材料片の成形を行うプレスロール成形装置であって、上記金型上に載置された材料片上のいずれかの位置を加重開始点として上記ロールを上記材料片に対して押し付ける押付機構を備えるという構成を採用する。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記金型を上記ロールに対して回動する金型回動機構を備えるという構成を採用する。
【0010】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、単一の上記材料片に対して用いられる複数の上記金型を有し、上記金型の成形溝部の深さが、用いられる順番に浅くなるという構成を採用する。
【0011】
第4の発明は、上記第1〜第3いずれかの発明において、上記金型が、上記材料片を目的形状とするための主溝部と、該主溝部の外側に形成されて上記材料片を位置規制する位置規制部とを備えるという構成を採用する。
【0012】
第5の発明は、ロールによって材料片を金型に対して押し付けることで上記材料片の成形を行うプレスロール成形方法であって、上記材料片を上記金型上に載置し、上記金型上に載置された上記材料片上のいずれかの位置を加重開始点として上記ロールを上記材料片に対して押し付けるという構成を採用する。
【0013】
第6の発明は、上記第5の発明において、上記材料片に対して異なる複数方向から上記ロールを押し当てて移動するという構成を採用する。
【0014】
第7の発明は、上記第5または第6の発明において、成形溝部の深さが異なる複数の上記金型を用いて単一の上記材料片を成形し、上記成形溝部が深い順に上記金型を用いるという構成を採用する。
【0015】
第8の発明は、上記第5〜第7いずれかの発明において、上記材料片を目的形状とするための主溝部と、該主溝部の外側に形成されて上記材料片を位置規制する位置規制部とを備える上記金型を用いるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0016】
従来においては、ロールが材料片に到達する以前から、ロールに対して荷重を掛けた状態として、この荷重が掛けられたロールを材料片に対して押し当てている。つまり、ロールに加重する開始点(加重開始点)が材料片の外側に設定されている。
ロールに対して加重が掛かるとロールと金型とが密着した状態となるため、材料片を把持して支持していない場合には、ロールと金型との間に入り込み難くなる。このため、従来においては、材料片を必ず把持する必要があった。
【0017】
これに対して、本発明によれば、材料片を金型上に載置し、金型上に載置された材料片上のいずれかの位置を加重開始点としてロールを材料片に対して押し付ける。
つまり、ロールを材料片上に移動するまでの間は、ロールに荷重が掛けられていないため、ロールは容易に材料片上まで移動することができる。
このため、本発明によれば、材料片を把持する必要がなくなる。よって、従来廃棄されていた把持する部位を材料片に対して設ける必要がなくなり、材料片に必要となる材料の量を減少させることができる。
したがって、本発明によれば、材料片を小型化して廃棄される材料を減少することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態におけるプレスロール鍛造装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるプレスロール鍛造装置が備える金型の上面図である。
【図3】本発明に関連する実験例1において用いた金型の形状を示す図である。
【図4】本発明に関連する実験例1で成形された材料片を示す模式図である。
【図5】本発明に関連する実験例1の実験結果を示すグラフである。
【図6】本発明に関連する実験例2の実験結果を示す表である。
【図7】本発明に関連する実験例3において用いた金型の断面図である。
【図8】本発明に関連する実験例3の実験結果を示すグラフである。
【図9】本発明に関連する実験例4の実験結果を示すグラフである。
【図10】本発明に関連する実験例6において用いた第1金型の外観図である。
【図11】本発明に関連する実験例6において用いた第2金型の外観図である。
【図12】本発明に関連する実験例6において用いた第3金型の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明に係るプレスロール成形装置及びプレスロール成形方法の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。また、以下の説明においては、本発明のプレスロール成形装置の一例としてプレスロール鍛造装置を挙げて説明し、本発明のプレスロール成形方法の一例としてプレスロール鍛造方法を挙げて説明する。
【0020】
図1は、本実施形態のプレスロール鍛造装置S1の概略構成図である。
本実施形態のプレスロール鍛造装置S1は、ロール(ボトムロール4)によって材料片Xを金型2に対して押し付けることで材料片Xの成形を行うものである。
そして、本実施形態のプレスロール鍛造装置S1は、図1に示すように、本実施形態のプレスロール鍛造装置S1は、ベース1と、金型2と、金型回動機構3と、ボトムロール4(ロール)と、トップロール5と、支持枠体6と、スライド機構7と、上部ブロック8と、油圧装置9と、制御装置10とを備えている。
【0021】
ベース1は、中央部に金型2、金型回動機構3を収容する窪み1aを備えている。この窪み1aは、上方から見て円形に形状設定されている。また、ベース1において、窪み1aを囲う上面1bは、ボトムロール4の受面として機能する。
【0022】
金型2は、上面2bがボトムロール4の受面とされてベース1の上面1bと面一となるように窪み1aに収容されている。
金型2は、材料片Xを目的形状に成形するための成形溝部2a(主溝部)を備えている。この成形溝部2aは、金型2の上面2bに露出して形成されている。
そして、当該成形溝部2aに材料片Xが押し付けられて充填されることにより材料片Xが成形される。
【0023】
図2は、金型2の上面図である。この図に示すように、ベース1の窪み1aに合わせて平面視形状が円形とされている。そして、金型2は、成形溝部2aの外側であって、成形溝部2aを囲う四角形の頂点部分に相当する各々の位置に、位置規制溝部2c(位置規制部)を備えている。
これらの位置規制溝部2cは、材料片Xが金型2とボトムロール4と間で変形する際に、成形溝部2aの外側の材料片Xの一部を係止することによって材料片Xの移動を封じて位置規制するものである。
このような位置規制溝部2cを設けることにより、成形中の材料片Xの位置ズレを防止することが可能となる。
【0024】
なお、位置規制溝部2cは、必ずしも成形溝部2aを囲う四角形の頂点部分に相当する各々の位置に形成されている必要はなく、成形溝部2aの外側に適切な数だけ配置すれば良い。
また、金型2の成形溝部2aの周囲がボトムロール4の受面よりも下方に削られている場合には、当該受面よりも上方に突出しない高さで突出部を設け、当該突出部を位置規制溝部2cの代わりとすることも可能である。
【0025】
また、本実施形態のプレスロール鍛造装置S1においては、金型2は、複数のボルト11によって、金型回動機構3のターンテーブル3aに対して締結されており、ボルト11を取り外すことによって容易に脱離可能に構成されている。
なお、図1には、1つの金型2しか図示していないが、本実施形態のプレスロール鍛造装置S1は、同様に金型回動機構3のターンテーブル3aに対して締結可能とされた金型2を複数備えている。これらの複数の金型2は、成形溝部2aの形状が各々異なっている。そして、本実施形態のプレスロール鍛造装置S1は、各金型2において材料片Xを当該金型2の目的形状に成形し、単一の材料片Xに対して複数の金型2を用いて徐々に成形を進めることによって、材料片Xを最終的な目的形状まで成形する。
後に説明する実験結果からすると、これらの複数の金型2の成形溝部2aの深さは、単一の材料片Xに対して用いられる順番に浅くなることが好ましい。つまり、成形溝部2aの深さが異なる複数の金型2を用いて材料片Xを成形する場合には、成形溝部2aの深さが深い順に金型2を用いることが好ましい。
【0026】
金型回動機構3は、金型2をボトムロール4及びトップロール5に対して回動させるためのものであり、図1に示すように、金型2が締結されて固定されるターンテーブル3aと、このターンテーブル3aを回動するためのサーボモータ3bとを備えている。
そして、ターンテーブル3aの下面とベース1との間には、ターンテーブル3a及びベース1の少なくともいずれかに対して摺動可能とされた弾性体12が介挿されている。この弾性体12の弾性率は、ボトムロール4によって金型2が押圧された際に、金型2の上面2bがベース1の上面1bと面一となるように設定されている。
なお、サーボモータ3bは、クッション材等を介することによって、ベース1に対して上下動可能に支持されている。これによって、ボトムロール4によって金型2が押圧された際であっても、サーボモータ3bに荷重が掛かることを防止している。
【0027】
ボトムロール4は、ベース1あるいは金型2と当接し、ベース1の上面1bあるいは金型2の上面2bを受面として転がり可能に配置されている。そして、ボトムロール4は、材料片Xを金型2に対して押し付けることによって材料片Xの成形を行う。
トップロール5は、ボトムロール4の上方に当該ボトムロール4と当接して配置されている。このトップロール5は、ボトムロール4と同様の円柱形状を有しており、回動軸がボトムロール4の回動軸に対して平行かつ鉛直方向に離間して配置されている。そして、トップロール5は、上部が上部ブロック8の下面8aと当接しており、上部ブロック8とボトムロール4との間で回動することによって、ボトムロール4を回動移動可能としている。
【0028】
支持枠体6は、ボトムロール4及びトップロール5を一体的に軸支するものであり、スライド機構7と接続されている。
【0029】
スライド機構7は、支持枠体6を押し引きすることによって、ボトムロール4を回動移動させるものである。
例えば、図1の配置関係であれば、スライド機構7が支持枠体6を押すことによってボトムロール4が回動しながら紙面右側に向けて移動し、スライド機構7が支持枠体6を引くことによってボトムロール4が回動しながら紙面左側に向けて移動する。
【0030】
上部ブロック8は、トップロール5の上方に配置されており、下面8aがベース1の上面1b及び金型2の上面2bと平行とされている。そして、当該上部ブロック8には、上面側から油圧装置9が接続されている。
【0031】
油圧装置9は、上方から上部ブロック8を押圧することによって、上部ブロック8及びトップロール5を介してボトムロール4に対して荷重を掛ける(すなわちボトムロール4を加重する)ものである。
【0032】
制御装置10は、本実施形態のプレスロール鍛造装置S1の動作全体を制御するものであり、金型回動機構3、スライド機構7及び油圧装置9、さらには必要に応じて外部機器に対して電気的に接続されている。
そして、本実施形態のプレスロール鍛造装置S1において、制御装置10は、油圧装置9を制御することによって、金型2上に載置された材料片X上のいずれかの位置を加重開始点となるようにボトムロール4に対して荷重を掛ける。
つまり、本実施形態のプレスロール鍛造装置S1においては、本発明の押付機構が、油圧装置9及び制御装置10によって構成されている。
【0033】
次に、このように構成された本実施形態のプレスロール鍛造装置S1の動作(プレスロール鍛造方法)について説明する。
【0034】
金型2上に材料片Xが載置されると、制御装置10は、ボトムロール4に対して油圧装置9からの荷重を掛けない状態で、スライド機構7を用いてボトムロール4を材料片X上まで移動する。
なお、制御装置10は、操作者からの指令や、必要に応じて配置されるセンサによって、材料片Xの有無や、ボトムロール4の位置を検出する。
【0035】
そして、制御装置10は、ボトムロール4を材料片X上まで移動した後に、油圧装置9によってボトムロール4に荷重を掛ける。つまり、制御装置10は、材料片X上を加重開始点としてボトムロール4を材料片Xに対して押し付ける。
続いて、制御装置10は、スライド機構7を用いてボトムロール4を移動し、材料片Xの全体を金型2に対して押し付ける。
その後、制御装置10は、油圧装置9を制御することによってボトムロール4に掛けられた荷重を抜き、さらにスライド機構7を制御することによってボトムロール4を金型2の上面2bからベース1の上面1bまで退避する。
【0036】
このようなボトムロール4がベース1の上面1bまで退避すると、制御装置10は、金型回動機構3を用いて金型2を水平面内において所定角度(例えば90°)回動し、再びボトムロール4を材料片X上に移動して荷重を掛けて材料片Xを金型2に対して押し付けて移動する。
【0037】
そして、制御装置10は、金型2の回動と材料片Xの金型2への押し付けを必要回数繰り返すことによって、材料片Xに対してボトムロール4を押し当てて移動する動作を、材料片Xに対して異なる複数の方向から行う。
このように、材料片Xに対してボトムロール4を押し当てて移動する動作を、材料片Xに対して異なる複数の方向から行うことによって、材料片Xを金型2の成形溝部2aに対して確実に充填し、材料片Xの成形精度を向上することができる
【0038】
なお、材料片Xを複数の金型2を用いて成形する場合には、制御装置10は、ボトムロール4を金型2の上面2bからベース1の上面1bまで退避させ、作業者による金型2の取替え作業の完了を待った後、再び、上記動作を繰り返す。
【0039】
上述のように、従来においては、ボトムロール4に相当するロールが材料片に到達する以前から、ロールに対して荷重を掛けた状態として、この荷重が掛けられたロールを材料片に対して押し当てていため、材料片を把持する必要があった。
これに対して、このような本実施形態のプレスロール鍛造装置S1及びプレスロール鍛造方法によれば、材料片Xを金型2上に載置し、金型2上に載置された材料片X上のいずれかの位置を加重開始点としてボトムロール4を材料片Xに対して押し付ける。
つまり、ボトムロール4を材料片X上に移動するまでの間は、ボトムロール4に荷重が掛けられていないため、ボトムロール4は容易に材料片X上まで移動することができる。
このため、本実施形態のプレスロール鍛造装置S1及びプレスロール鍛造方法によれば、材料片Xを把持する必要がなくなる。よって、従来廃棄されていた把持する部位を材料片Xに対して設ける必要がなくなり、材料片Xに必要となる材料の量を減少させることができる。
したがって、本実施形態のプレスロール鍛造装置S1及びプレスロール鍛造方法によれば、材料片を小型化して廃棄される材料を減少することができる。
【0040】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0041】
また、上記実施形態においては、金型を用いる構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、金属以外の材料からなる型を金型の換わりに用いても良い。
【0042】
また、上記実施形態においては、金型回動機構3を用いて金型2を回動する構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、金型2を固定してボトムロール4及びトップロール5を回動させるようにしても良い。
【0043】
また、上記実施形態においては、板状の金型2を用いる構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、ロール形状の金型を用いることも可能である。
【0044】
以下に上記実施形態のプレスロール鍛造装置S1及びプレスロール鍛造方法に関連する実験例について説明する。なお、以下の説明においては、材料片Xをロールにて押圧することを圧延と称する場合がある。
【0045】
(実験例1)
本実験では、材料片Xを板状とし、その板厚の変化による影響について調べた。
表1に、本実験例における実験条件を示す。
【0046】
【表1】

【0047】
また、図3に本実験例において用いた金型を示す。なお、(a)が斜視図、(b)が断面図である。この図に示すように、本実験例では、平面視形状が矩形で、成形溝部が一直線に金型の端から端まで形成された金型を用いた。
【0048】
そして、図4に示す成形後の材料片の各箇所の値を測定した。なお、(a)が成形後の材料片の平面図、(b)が(a)の左右方向から見た成形後の材料片の側面図である。また、充填率(%)を、下式により求めた。
充填率(%)=充填深さ(mm)/形状深さ(mm)×100
【0049】
また、表2に示す測定パラメータも求めた。
【0050】
【表2】

【0051】
図5(a)は、本実験例から得られた板厚とひけ幅との関係、及び、板厚と充填率との関係をプロットしたグラフである。
また、図5(b)は、本実験例から得られた板厚と伸び率(中央伸び率及びエッジ部伸び率)との関係をプロットしたグラフである。
【0052】
図5から分かるように、本実験例においては、板厚が増加するに伴い、ひけ幅が減少し、同時に充填率が高くなることが確認された。
ここで、本実験例では、板厚の変化に関わらずパススケジュールが同じであるため、板厚の増加に伴って初期圧下量が増加して変形量が多くなっている。
つまり、変形量が多いほど、ひけが発生しにくいと考えられる。
【0053】
また、長さの伸び率も、板厚が厚いほど高い結果となっている。これは、板厚が厚い程、初期圧下により変形する量が多くなるため、その分圧延させる量が増し、圧延方向に伸び長くなったためと言える。
また、中央部とエッジ部との伸び率の違いは、各々のリダクションの違いからであると考えられる。
【0054】
(実験例2)
実験例1から初期板厚が大きい方が、充填率が高いという結果が得られたが、本実験例では、さらに板幅も変化させて行った。
表3に本実験例における実験条件を示す。「○」で示された条件が実験を行ったものである。
【0055】
【表3】

【0056】
また、各実験条件における歩留まりを表4に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
なお、本実験例におけるパススケジュール(最終目的形状に到達するまでの圧延工程)は、1パス目(第1回目の圧延工程)で板厚を1.3mmとし、2パス目(第2回目の圧延工程)、3パス目(第3回目の圧延工程)で板厚をそれぞれ0.6mm,0.3mmとした。ただし、板厚が3.6mm、板幅30mmの実験条件のものについては、一度の圧延で板厚を1.3mmにすることができなかったため、圧延を2回に分けて行った。また、1パス後及び2パス後において圧延荷重を減らすために、バリ部(図4参照)をファインカッターで切落した。
【0059】
そして、図6(a)は、材料片が成形溝部のエッジ部に達しているかに基づいて充填の評価を行った結果を示す表であり、図6(b)は、ひけによる板厚の減少が最大0.05mm以下のものを「○」、0.1mmまでのものを「△」、それ以上のものを「×」として評価を行った結果を示す表である。
【0060】
図6(b)において、2.8mm×30mm、3.2mm×30mm、3.4mm×30mmにおいてエッジ部まで材料が広がらなかったのは、材料の置き方に問題があったためだと考えられる。より小さな板幅でエッジ部まで材料が広がるようにするには、材料の曲がりを考慮した置き方をする、あるいは、ガイドを設ける等の対策が考えられる。
3.6mm×30mmにおいては、エッジ部における成形性が悪かったが、これは材料の伸びによって、エッジ部に材料が充填されなかったためと考えられる。
【0061】
板厚3.4mm,3.6mmに関しては、1パスで完全に充填していたが、3パス目ではひけが発生してしまった。これは、1パス目の圧下量が板厚3.4mmでは2.1mm,板厚3.6mmでは2.3mmであり、一方で成形溝部の最も深い箇所の深さが2.1であることによると考えられる。また、それ以下の板厚においても合計の圧下量は2.1mmを超えているが、圧延を複数回に分けることによりひけが発生してしまったと考えられる。また、1パス目や2パス目で充填していても、圧下量の小さい3パス目ではひけてしまう。以上のことから、充填により大きな影響を与える因子は初期板厚よりも圧下量であると考えられる。
したがって、最後のパスで完全に充填しているようにする方法としては、以下のことが考えられる。
(1)材料片の全てが最初から成形溝部の中に入り込むようにし、実質的な圧下量を大きくする。
(2)圧下量の小さい最終パスにおいてはむしろ厚肉部の板厚は減少する。そのため、2パス目で最終形状よりも深く充填しているようにする。
【0062】
本実験例において、全ての材料片で1パス目ではそりが発生した。また、最終パス後の材料片でも、バリ部のないものはそりが大きい。そもそも、材料片が反ってくるのは、材料片における上下の伸びの差によるものだと考えられる。一方、バリ部はボトムロール面側にしか発生しないため、そりを抑制する作用があると考えられる。そのため、初期材料片は最終パスである程度のバリ部が発生するだけの板幅が必要であると考えられる。
【0063】
(実験例3)
本実験例では、肩部(成形溝部を囲う領域)が、図7(a)に示すようなフラットである金型(フラット金型)と、図7(b)に示すような傾斜を有する金型(傾斜金型)とで、成形時の荷重がどのように違うかの検証を行った。
また、同時にこれらの金型が「ひけ」や板厚分布等、材料片にどのような影響を及ぼすのか比較を行った。なお、金型の形状が複雑である場合には、材料片に対する影響が顕著とならない可能性があるため、金型の幅方向断面形状は常に一定とした。
本実験例における実験条件について表5に示す。
【0064】
【表5】

【0065】
また、フラット金型と傾斜金型を用いて、各々板幅26,28,30でFEM解析を行い、金型の荷重の比較を行った。表6に解析条件を示す。
【0066】
【表6】

【0067】
図8は、本実験例によって得られた結果を示すグラフであり、材料片の板幅と荷重との関係を示すグラフである。
これらの結果から、傾斜金型はフラット金型と比べ荷重が半分程度になっているのか確認できる。しかし、解析値ではわずかに傾斜金型の方が低い荷重であったが、あまり荷重の違いは見られなかった。
フラット金型に関して、実験値と解析値がほぼ一致しているのが確認できるが、板幅が増しバリ部が多く発生する板幅であると実験値の荷重が解析値を1t近く上回ってしまった。一方、傾斜金型に関しては、ほとんど一致しなかった。
【0068】
(実験例4)
実験例1及び実験例2においては、材料片の板幅及び板厚による充填への影響を調査したが、本実験例では板幅による幅広がりの影響を調査する。なお、本実験例では、圧延を行った際の板幅変化を初期の板幅ごとに計測した。
本実験例において用いた材料片は、板厚が2.8mmであり、板長が40mmであり、初期板幅が22mm,24mm,26mm,28mm,30mm,32mmのものである。また、本実験例におけるパススケジュールは、1パス、1.3mmとした。
【0069】
各材料片について、長手方向中央部をファインカッターで切断し、断面積を測定した。また、本実験例では、幅広がりが全くなかった場合との断面積の差を用いて幅広がりの評価を行った。
初期板幅ごとに断面積の変化をとったグラフを図9(a)に示し、初期板幅ごとに幅広がりをとったグラフを図9(b)に示す。
【0070】
図9(b)に示すように、初期板幅が大きいほうが幅広がりが大きいことがわかる。
この原因について考える。通常、圧延において幅方向に伸びることはなく、圧下した分は全て材料の伸びになる。しかし、プレスロールにおいては、場所によってリダクションが異なるため、伸び率も場所によって異なる。さらに、材料自体による拘束があるため、場所によっては本来の伸び率ほど伸びることができない。そのため、伸びられなかった分が幅方向に広がると考えられる。
また、初期板幅が小さいときは、金型の中央部に乗るためリダクションが場所によってあまり変わらないが、初期板幅が大きいときは材料が成形溝部のエッジ部にまでのるため、リダクションの差が大きい。これによって板幅が小さいときは幅方向に広がらず、板幅が大きいとき幅方向に大きく広がるのだと考えられる。
【0071】
(実験例5)
既存の通常圧延では、歩留まり50%の実現は困難である。そこで、更なる歩留まり向上のため、クロスローリング(異なる方向から複数回圧延する方法)を採用することが考えられる。しかしながら、この方法には、リダクションの大きな部分を一度に圧延するため荷重が大きくなりすぎるという欠点がある。
そこで、クロスローリングの際の荷重を低減するため、通常圧延によってエッジ部をあらかじめ薄くしておくという工程を考えると、1パス目(通常圧延)→2パス目(クロス圧延)→3パス目(通常圧延)となる。
なお、通常圧延とは成形溝部の延在方向に沿って圧延することを意味し、クロス圧延とは通常圧延と直交する方向に圧延することを意味している。
表7に本実験例のパススケジュールを示す。また、本実験例における材料片の寸法は、板厚2.8mm、板幅22mm、板長35mmとした。また、本実験例における歩留まりは74.5%であった。
【0072】
【表7】

【0073】
実験の結果、表7に示す条件1及び条件2において、充填について極めて良好な結果が得られた。さらに条件1及び条件2のいては、極端に多くのバリ部も発生しておらず、条件2についてはエッジ部まで材料がいきわたっていることが確認できた。
また、過去の実験ではクロス圧延で60%のリダクションをかける際には荷重が大きすぎて複数回圧延しなければならなかった。これに対して、本実験例では荷重を測定することはできていないものの、2パス目のクロス圧延を一度に行うことができた。よって、この工程を用いることでクロス圧延時の荷重を減らせることがわかった。
【0074】
なお、表8に示すパススケジュールによる実験も行ったが、充填について良好な結果は得られなかった。
【0075】
【表8】

【0076】
(実験例6)
次に、図10〜12に示す3種の金型を用いて圧延を行った実験結果について説明する。
【0077】
図10に示す金型(以下、第1金型)は、1パス目においてできるだけ深くまで充填させることを目的として、金型の成形溝部の深さを深くした。具体的には、第1金型の成形溝部の形状は、材料片の最終目的形状を厚さ方向に1.2倍し、その上部を0.3mm切り取った形状とした。さらに、2パス目以降でくびれ部分がより充填するように、1パス目の金型ではくびれ部分を設けず、ふたつの一様断面部分の断面をなめらかにつないだ形状とした。また、成形溝部は金型の端まで延長している。
また、第1金型の肩部は、20°の傾斜を設けた。さらに両側に平坦部を設けた。この平坦部は第1金型の平坦部に挟まれた領域の最も高い部分と同じ高さになっており、実験の際にボトムロールと金型のギャップを測るのに利用した。
【0078】
図11に示す金型(以下、第2金型)の成形溝部の形状は、最終目的形状を厚さ方向に1.1倍し、その上部を0.3mm切り取った形状とした。また、第1金型と同様に、肩部に20°の傾斜を設け、両側に平坦部を設けた。
また、第2金型では、最終的な製品として用いられることとなる領域を形作る領域を避ける形で成形溝部の底部に突起を設けた。この突起の幅は5mmとし、径5mmのオーバル型とし、0.5mmのフィレット取った。突起の高さは、平坦部に挟まれた領域の最も高い部分から1mm厚さ方向に下げた高さとした。また、突起は、最終的な製品として用いられることとなる領域を形作る領域に対して1mm離して形成している。
【0079】
図12に示す金型(以下、第3金型)の成形溝部の形状は、最終目的形状を厚さを変えることなく、その上部を0.3mm切り取った形状とした。また、第1金型及び第2金型と同様に、肩部に20°の傾斜を設けた。また、枠状の平坦部を設け、材料片に形成されるバリ部の厚さが0.3mmとなるように、当該平坦部の高さは、平坦部に囲われた領域の最も高い部分よりも0.3mm高く設定されている。また、第2金型と同様の突起を形成している。
【0080】
そして、表9で示す条件で圧延を行った。なお、本実験例における材料片の寸法は、板厚2.8mm、板幅22mm、板長35mmとした。
【0081】
【表9】

【0082】
実験1では、成形後の材料片の中央部にひけが発生し、また通常圧延のため材料片が幅方向にあまり伸びないので板幅を短くすることができず、歩留りが55.2%となってしまった。
クロス圧延を取り入れた実験2,3,4では歩留りが大きく向上し、バリ部厚の変形量や板幅を変えることにより充填良好となった。さらに、工程数を2パスに省略した実験5,6では成形後の材料片の上部がフラットではないが、充填良好かつ高い歩留りの高い結果を得た。
【符号の説明】
【0083】
S1……プレスロール鍛造装置(プレスロール成形装置)、1……ベース、1a……窪み、1b……上面、2……金型、2a……成形溝部(主溝部)、2b……上面、2c……位置規制溝部(位置規制部)、3……金型回動機構、3a……ターンテーブル、3b……サーボモータ、4……ボトムロール(ロール)、5……トップロール、6……支持枠体、7……スライド機構、8……上部ブロック、8a……下面、9……油圧装置、10……制御装置、11……ボトル、12……弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型を備え、ロールによって材料片を当該金型に対して押し付けることで前記材料片の成形を行うプレスロール成形装置であって、
前記金型上に載置された材料片上のいずれかの位置を加重開始点として前記ロールを前記材料片に対して押し付ける押付機構を備えることを特徴とするプレスロール成形装置。
【請求項2】
前記金型を前記ロールに対して回動する金型回動機構を備えることを特徴とする請求項1記載のプレスロール成形装置。
【請求項3】
単一の前記材料片に対して用いられる複数の前記金型を有し、前記金型の成形溝部の深さが、用いられる順番に浅くなることを特徴とする請求項1または2記載のプレスロール成形装置。
【請求項4】
前記金型は、前記材料片を目的形状とするための主溝部と、該主溝部の外側に形成されて前記材料片を位置規制する位置規制部とを備えることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のプレスロール成形装置。
【請求項5】
ロールによって材料片を金型に対して押し付けることで前記材料片の成形を行うプレスロール成形方法であって、
前記材料片を前記金型上に載置し、前記金型上に載置された前記材料片上のいずれかの位置を加重開始点として前記ロールを前記材料片に対して押し付けることを特徴とするプレスロール成形方法。
【請求項6】
前記材料片に対して異なる複数方向から前記ロールを押し当てて移動することを特徴とする請求項5記載のプレスロール成形方法。
【請求項7】
成形溝部の深さが異なる複数の前記金型を用いて単一の前記材料片を成形し、前記成形溝部が深い順に前記金型を用いることを特徴とする請求項5または6記載のプレスロール成形方法。
【請求項8】
前記材料片を目的形状とするための主溝部と、該主溝部の外側に形成されて前記材料片を位置規制する位置規制部とを備える前記金型を用いることを特徴とする請求項5〜7いずれかに記載のプレスロール成形方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−189387(P2011−189387A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57947(P2010−57947)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)