説明

プレス成形後の成形体のネッキング検出方法及び装置

【課題】プレス成形後の成形体にネッキングが発生しているか、否かを迅速にかつ確実に検出する方法及び装置を提供する。
【解決手段】成形体の一面側を均一に加熱し、加熱開始後、成形体の他面側を赤外線カメラにより異なる時点で撮像し、異なる時点で撮像して得た画像同士の差を取って成形体の各部分の温度上昇量を求め、該温度上昇量から一面側から他面側に熱が伝わる熱の到達時間を求め、成形体の各部分における熱の到達時間の差に基づいて異常部を検出する方法及び装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形後の成形体にネッキングが発生しているか、否かを迅速に、かつ確実に検出する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板からプレス成形により自動車部品などを製造するプレスラインにおいて、プレス成形終了後の成形体にネッキングと称される欠陥が発生する場合がある。ネッキングは、図7に示すように、金属材料の歪と引張応力の関係において、最大応力から破断に至る間の不安定な塑性変形を受けた部分である。従って、正常部に比べてネッキングにより生じた異常部は、プレス成形時その分だけ加工発熱量が多い部位である。このようなネッキングにより生じた異常部は微小な亀裂を含む局部的な薄肉部ではあるが、そのまま見逃すことができない不具合であり、従来からプレスラインでは、熟練の検査員が成形体の検査を行っている。
【0003】
しかし、プレスラインは生産性が高く、また上記した異常部は目視により検出するのが難しいことなどにより、塗装工程や実車テスト中に顕在化して見つかることがある。このようなことを防ぐには、多くの熟練した検査員をプレスラインに配置して検査を行う必要があるが、実現性が低い。
そこで、プレス成形終了後の成形体をプレス装置から一旦取り出し、加熱手段により成形体を加熱した後、成形体にネッキングが発生しているか、否かを検出する加熱方式の検出装置が提案されている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1のパネルの亀裂、肉厚変化部検出装置は、パネルのコーナ部に一側面から熱風を均一に吹付けて加熱する熱風発生装置と、コーナ部の他側面の温度分布を検出する赤外線温度検出器などの検出器と画像処理装置とを備え、コーナ部に亀裂やネッキング等の欠陥が生じている場合、板厚が減少した分、あるいはコーナ部が貫通している分だけ熱が伝達しやすくなるため、亀裂やネッキングが生じた部分の温度が他の板厚が減少していない部分に対して高くなることで欠陥部を検出している。
【特許文献1】特開平4−184248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の異常部検出装置では、熱風を吹付けて対象物を加熱し、ある時間経過した後にパネルの温度分布を検出するので、迅速にコーナ部に亀裂やネッキング等の欠陥が生じているのか、否かを検出することが困難であるという問題があった。
また、特許文献1の異常部検出装置では、加熱を開始した時点からどの時点でパネルの温度分布を検出するのか言及していないため、検出時点が遅くなった場合、熱伝導率が高い金属類では均一加熱され欠陥の検出が困難になるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、プレス成形終了後の成形体にネッキングが発生しているか、否かを、迅速にかつ確実に検出する方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、成形体のネッキング検出技術に関して鋭意検討し、撮像間隔の短い赤外線カメラを用い、肉厚が薄い異常部では正常部に比べて一面側から他面側に熱が短時間で伝わる現象を検知できることを知見して、本発明を成すに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
1.プレス成形後の成形体の加熱方式ネッキング検出方法であって、前記成形体の一面側を均一に加熱し、加熱開始後、成形体の他面側を赤外線カメラにより異なる時点で撮像し、異なる時点で撮像して得た画像同士の差を取って成形体の各部分の温度上昇量を求め、該温度上昇量から一面側から他面側に熱が伝わる熱の到達時間を求め、成形体の各部分における熱の到達時間の差に基づいて異常部を検出することを特徴とするプレス成形後のネッキング検出方法。
2.上記1.に記載のネッキング検出方法おいて、前記赤外線カメラの撮像間隔を1〜10msとすることを特徴とするプレス成形後のネッキング検出方法。
3.上記1.又は2.に記載のネッキング検出方法おいて、前記赤外線カメラからの画像信号に基づいて異常部の画像の周囲に等温度曲線を表示させ、異常部を検出することを特徴とするプレス成形後のネッキング検出方法。
4.プレス成形後の成形体の加熱方式ネッキング検出装置であって、前記成形体の一面側を均一に加熱する加熱源と、成形体の一面側を異なる時点で撮像可能な赤外線カメラと、該赤外線カメラからの画像信号を処理する画像処理装置と、画像処理装置で処理した結果を表示する画像表示装置とを具備し、前記画像処理装置は、異なる時点で撮像して得た画像同士の差を取って前記成形体の各部分の温度上昇量を求め、該温度上昇量から一面側から他面側に熱が伝わる熱の到達時間を求め、前記成形体の各部分における熱の到達時間の差に基づいて異常部を検出するように構成されていることを特徴とするプレス成形後のネッキング検出装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、プレス成形後の成形体にネッキングが発生しているか、否かを、迅速にかつ確実に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図を用いて説明する。
図1は、本発明の方法を説明する特性図であり、図2は、本発明の方法の温度測定原理を説明するグラフである。また図3は、本発明を実施するのに好適な装置の概念図である。
図1中、t0,t1,t2,t3は、赤外線カメラでプレス成形終了後の成形体表面の加熱過程を撮像した時点をそれぞれ示す。aは、肉厚が局部的に薄い異常部における熱の到達時間を示し、bは肉厚が過薄になっていない正常部における熱の到達時間を示す。熱の到達時間は、均一加熱が可能な加熱源で物体の一面側を加熱開始した時点から熱が厚み方向に伝わり他面側に到達するまでの時間である。
【0010】
ここで、ネッキングの検出を行うプレス成形終了後の成形体は、例えば図3(a)、(b)に示すように、遠赤外線ランプ、キセノンランプなどの均一加熱が可能な加熱源4と赤外線カメラ1との間に、成形体Wの一面側を加熱源4と対向させ、かつ成形体Wの他面側を赤外線カメラ1と対向させて配置される。図3中、2は、画像を処理する画像処理装置、3は、画像処理装置2の結果を表示するCRTなどの画像表示装置を示す。また、W1は正常部、W2は、ネッキングにより肉厚が局部的に薄くなった異常部を示す。
【0011】
本願発明は、撮像間隔Δtの短い赤外線カメラを用い、図1に示したように、肉厚が薄い異常部では正常部に比べて一面側から他面側に熱が短時間で伝わることに基づいて異常部を検出するようにしている。
すなわち、本発明のネッキング検出方法は、成形体の一面側を均一に加熱し、加熱開始後、成形体の他面側を赤外線カメラにより異なる時点t0,t1,t2,t3で撮像し、得た画像同士の差を取って成形体の各部分の温度上昇量を求め、該温度上昇量から求めた成形体の各部分における熱の到達時間の差に基づいて異常部を検出することを特徴とする。
【0012】
ここで、図2に示すように、物体表面から放射される赤外線放射量と物体表面の温度との間には一対一の関係があるから、赤外線カメラによって成形体表面を撮像することによって成形体の各部分の温度を検知できる。また、異なる時点t0,t1,t2,t3で撮像して得た画像同士の差を取る画像処理は、画像処理装置で行う。
例えば、第1、第2の撮像時点t0,t1で撮像して得た画像同士の差を取る画像処理により、図1に模式的に示したように、肉厚が過薄になっていない正常部の他面側は、温度が上昇していないが、肉厚が局部的に薄い異常部の他面側は、温度が上昇していると検知される。また、第2、第3の撮像時点t1,t2で撮像して得た画像同士の差を取る画像処理により、肉厚が過薄になっていない正常部の他面側にまで熱が到達し、温度上昇していると検知される。
【0013】
なお、鋼板の成形体の場合、他面側における温度上昇量が加熱直前の成形体の温度に対し0.02〜0.05Kとなった場合に、一面側から他面側に熱が伝わった時間、すなわち熱の到達時間とする。
異なる時点t0,t1,t2,t3で撮像して得た画像同士の差を取る理由は、赤外線カメラで撮像して得た画像には、成形体のネッキング検出を行う場所の高温体や照明光などの温度外乱、油や表面性状などの放射率外乱などが含まれているため、画像同士の差を取ることによって、温度外乱や放射率外乱を除去し、成形体の各部分からの赤外線だけを検知して、成形体の各部分の温度上昇量を精度よく求めるためである。この場合には、異常部における熱の到達時間a=t1(=Δt)、正常部における熱の到達時間b=t2(=2・Δt)と検知される。
【0014】
ところで、プレス成形には金属板としてよく鋼板が用いられる。鋼板の熱伝導率は50W/m・Kであり、コンクリートやシリコンなどの熱伝導率の約50倍と大きい。このため、加熱開始した後、出来るだけ早い時点で成形体表面を赤外線カメラによって撮像することが重要である。
そこで、赤外線カメラの撮像間隔Δtを1〜10msとすることが好ましい。この理由は、金属板の熱伝導率は、コンクリートやシリコンなどに比べて大きいため、撮像間隔Δtを10msより大きくした場合には、撮像間隔Δtが過大となり、成形体の各部分の温度上昇量が同程度となってしまい、プレス成形後の成形体にネッキングが発生しているか、否かを、確実に検出できないことがある。一方、赤外線カメラの撮像間隔Δtを1msより小さくした場合には、撮像間隔Δtが過小となり、赤外線カメラの検出精度が低下し、プレス成形後の成形体にネッキングが発生しているか、否かを、正確に検出できなくなることがある。
【0015】
従って、赤外線カメラの撮像間隔Δtを1〜10msとすることが好ましい。例えば赤外線カメラとして撮像間隔Δtを短くできる高性能カメラ(例えばCEDIP社製赤外線カメラ)を使用した場合、撮像間隔Δtを10ms以下に設定して撮像することが可能となる。
以上のように、本発明のネッキング検出方法によれば、撮像間隔Δtを短くできる赤外線カメラを用い、撮像間隔Δtを適正に設定することで、迅速にかつ確実にプレス成形後の成形体にネッキングが発生しているか、否かを検出することができる。
【0016】
図3(a)に示したように本発明の実施の形態に係るネッキング検出装置は、成形体Wの一面側を均一に加熱する加熱源4と、成形体Wの一面側を異なる時点で撮像可能な赤外線カメラ1と、赤外線カメラ1からの画像を処理する画像処理装置2と、画像処理装置で処理した結果を表示する画像表示装置3とを具備している。
加熱源4としては、遠赤外線ランプ、キセノンランプなどを用い、プレス成形後の成形体の一面側を加熱するのが平面的に広がっている成形体表面を均一にかつ迅速に加熱できるので好適である。
【0017】
また、画像処理装置2は、異なる時点で撮像して得た画像同士の差を取って成形体Wの各部分の温度上昇量を求め、温度上昇量から一面側から他面側に熱が伝わる熱の到達時間を求め、成形体Wの各部分における熱の到達時間の差に基づいて異常部W2を検出するように構成されている。例えば画像処理装置2は、図4に示すように、赤外線カメラ1からの画像信号を画像入力部4で受け、一旦第1の画像保持部に保持する。次の画像信号が受信されたときに第1の画像保持部の画像を第2の画像保持部に移すと同時に、次の画像を第1の画像保持部に保持する。続いて画像差演算部では、第2の画像保持部内の画像と第1の画像保持部内の画像との画像差を演算し、画像差データを異常部抽出・特定部に送る。異常部抽出・特定部では、画像差データに基づいて異常部を抽出・特定し、その結果を画像信号にしてCRTなどの画像表示装置3に送る。
【0018】
そこで赤外線カメラ1により成形体Wの表面を異なる時点で撮像し、得た画像同士の差を取って成形体Wの各部分の温度上昇量を求めることができる。例えば温度上昇量が、0.02〜0.05Kとなった場合に、一面側から他面側に熱が伝わった時間、すなわち熱の到達時間とする。9は画像データ記憶部を示す。
このような構成のネッキング検出装置によれば、図5、6に示すような画像を画像表示装置3の画面上に迅速かつ確実に表示させることができる。図5中、12は、正常部の画像を示し、13は異常部の画像を示す。また図6中、14は等温度曲線を示す。
【0019】
本発明では、赤外線カメラ1により撮像した画像信号に基づいて、図5に示すように、異常部の画像13の周囲に等温度曲線14を表示させて、異常部13を検出するのが好ましい。この理由は、画面上に異常部13だけではなく、異常部13の周囲に波紋のように等温度曲線14を表示させることにより、プレス成形後の成形体Wにネッキングが発生しているか、否かを確実に検査員に知らせることができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の方法を説明する特性図である。
【図2】本発明の方法による温度測定の原理を説明するグラフである。
【図3】本発明を実施するのに好適な装置の概念図である。
【図4】本発明を実施するのに好適な演算処理装置の概念図である。
【図5】本発明によって表示される画像の概念図である。
【図6】本発明によって表示される画像の他の概念図である。
【図7】ネッキングの発生メカニズムを説明する特性図である。
【符号の説明】
【0021】
t0,t1,t2,t3 第1〜第4の撮像時点
Δt 撮像間隔
1 赤外線カメラ
2 画像処理装置
3 画像表示装置
4 加熱源
5 放射光
W 成形体
W1 正常部
W2 異常部
12 正常部の画像
13 異常部の画像
14 等温度曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス成形後の成形体の加熱方式ネッキング検出方法であって、前記成形体の一面側を均一に加熱し、加熱開始後、成形体の他面側を赤外線カメラにより異なる時点で撮像し、異なる時点で撮像して得た画像同士の差を取って成形体の各部分の温度上昇量を求め、該温度上昇量から一面側から他面側に熱が伝わる熱の到達時間を求め、成形体の各部分における熱の到達時間の差に基づいて異常部を検出することを特徴とするプレス成形後のネッキング検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載のネッキング検出方法おいて、前記赤外線カメラの撮像間隔を1〜10msとすることを特徴とするプレス成形後のネッキング検出方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のネッキング検出方法おいて、前記赤外線カメラからの画像信号に基づいて異常部の画像の周囲に等温度曲線を表示させ、異常部を検出することを特徴とするプレス成形後のネッキング検出方法。
【請求項4】
プレス成形後の成形体の加熱方式ネッキング検出装置であって、前記成形体の一面側を均一に加熱する加熱源と、成形体の一面側を異なる時点で撮像可能な赤外線カメラと、該赤外線カメラからの画像信号を処理する画像処理装置と、画像処理装置で処理した結果を表示する画像表示装置とを具備し、前記画像処理装置は、異なる時点で撮像して得た画像同士の差を取って前記成形体の各部分の温度上昇量を求め、該温度上昇量から一面側から他面側に熱が伝わる熱の到達時間を求め、前記成形体の各部分における熱の到達時間の差に基づいて異常部を検出するように構成されていることを特徴とするプレス成形後のネッキング検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−250712(P2006−250712A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67719(P2005−67719)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(591006298)JFEテクノリサーチ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】