説明

プレス成形方法

【課題】同じプレス成形装置で異なる板厚または異なる材料強度の金属薄板をプレス成形する方法を提供する。
【解決手段】複数の異なる板厚の被加工材を、順次、ハット断面形状のプレス成形品にプレス成形する方法であって、パンチ14とダイ11の間のクリアランスを、最も板厚が厚い被加工材をプレス成形するときのクリアランスに設定し、最も板厚が厚い被加工材をプレス成形する場合は、パンチ底面14bに被加工材が接した状態でプレス成形し、板厚が薄い被加工材をプレス成形する場合には、下死点の直前までパンチ底面14b直下の被加工材をたるませながらパンチ14をダイ11に対して相対移動させ、更に下死点に至るまでの間にパンチ底面14b直下の被加工材のたるみを解消してプレス成形するプレス成形方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの各種輸送機の車体構造部品などに用いられるハット断面形状部品のプレス成形方法に関し、特に、プレス成形後の壁開き量を調整する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新型車の開発工期短縮や自動車製造コストを抑制するため、プラットフォームの統合が進んでいる。プラットフォームとはボディが載っていないメインフレームからなる車台のことである。プラットフォームを共通にすることで、種々のサスペンションやエンジン、トランスミッションのなかから必要なものを組合せ、多様な車をつくりわけることができる。その結果、プラットフォームを構成する膨大な数、部品やシステムを共有化することができ、部品点数の削減、それにともなう金型費や部品在庫の管理費用など製造コストを大幅に削減することができる。さらに、共通したプラットフォームを用いることで派生車を短期間に開発することができ、これにより開発費用の削減も可能になる。
【0003】
しかしながら、衝突安全性、剛性、耐久性など多岐に渡る要求性能を共通のプラットフォームからなる全ての開発車種に対してそれぞれ満足させることは容易ではない。金型を共通化するために同一の部品形状を前提とした車体設計においては、開発車ごとの要求性能に応じて部品ごとに最適な材料強度、板厚を選定する必要がある。そして、共通のプラットフォームでプレス金型を共有するには、同じプレス成形装置、同じプレス金型で異なる板厚または異なる強度の金属材料をプレス加工する必要がある。しかし、材料の強度や板厚が異なると、成形品を成形後に金型から取り出したときに生じるスプリングバックと呼ばれる形状凍結不良の大きさが変化し、部品の寸法精度の確保が困難となる。この形状凍結不良は、最終製品の外観品質を著しく損なうばかりでなく、成形後に行われる組立作業において溶接不良の原因にもなる。したがって、同じプレス成形装置、同じプレス金型で異なる板厚または異なる金属材料をプレス加工する場合に、材料の板厚や強度によらず同じ寸法精度の部品が得られるプレス加工技術の開発が必要である。
【0004】
〔従来技術〕
形状凍結不良は現象に応じて、角度変化、壁そり、ねじれ、稜線そり(面そり)、パンチ底の形状凍結不良に分類される。いずれの場合でも、成形品を成形後に金型から取り出す、あるいは、不要な部分をトリミングするなど、拘束を緩和することで残留応力が駆動力となり、新たなつりあいを満たすよう部品に弾性変形(スプリングバック)が生じる。例えば、壁開きは、板厚方向の応力分布が駆動力となり、剛性は主に板厚で決定される。あるいは、長手方向に高低差や湾曲したハット断面のビームをドロー成形すると、壁そりと稜線そり、ねじれが生じるが、湾曲の曲率が小さいと部品剛性が高まり、壁そりが小さくなること、および、伸びフランジ変形部と縮みフランジ変形部の応力の差がねじりモーメントを与えている可能性があることが知られている。
【0005】
従来の寸法精度不良の対策方法として、スプリングバック後に所定の寸法に収まるよう、変形を見込んで意図的に製品形状と異なる金型形状を用いる方法が広く使われている。しかし、金型形状の見込みで寸法精度を確保しようとする場合、材料強度、板厚ごとにスプリングバックを見込んだ金型が必要であり、プラットフォームの共通化により部品形状を同一のものとしても金型の数は減らせず、製造コスト削減効果は得られない。
一方、スプリングバックを低減する方法として、ハット断面部品の段絞りなどで縦壁張力を上げ、これにより壁開き量を低減する方法が検討されているが(例えば、特許文献1、 2)、破断の危険性を避けつつ板厚方向の応力分布を均一にすることは容易ではなく、また、壁開き量をコントロールして異なる板厚や強度の材料に対して所定の寸法精度を確保することは難しく実用的でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-344925号公報
【特許文献2】特開2004-31413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、同じプレス成形装置で異なる板厚または異なる材料強度の金属薄板をプレス成形する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、同じプレス成形装置、同じプレス金型で異なる板厚または異なる強度の金属材料をハット断面形状のプレス成形品にプレス加工する際に、プレス成形後の壁開き量を制御する方法として、以下に示す発明の諸様態に想到した。
[1] パンチと、ダイと、前記パンチのパンチ底面と対向する位置にあって前記パンチと共に被加工材である金属薄板を押さえることが可能なパッドとを備えたプレス成形装置を用いて、複数の異なる板厚の被加工材を、順次、ハット断面形状のプレス成形品にプレス成形する方法であって、
前記パンチと前記ダイの間のクリアランスを、前記の複数の異なる板厚の被加工材のうち最も板厚が厚い被加工材をプレス成形するときのクリアランスに設定し、
最も板厚が厚い被加工材をプレス成形する場合は、前記パンチが成形開始後から下死点に至るまでの間で前記パンチ底面に前記被加工材が接した状態でプレス成形して前記プレス成形品とし、
最も板厚が厚い被加工材よりも板厚が薄い被加工材をプレス成形する場合には、成形開始後から下死点の直前に至るまでの間で前記パンチ底面直下の被加工材をたるませながら前記パンチを前記ダイに対して相対移動させる第1のステップと、前記パンチが前記第1のステップ以降から下死点に至るまでの間に前記パンチ底面直下の被加工材のたるみを解消する第2のステップと、によりプレス成形して前記プレス成形品とすることを特徴とするプレス成形方法。
[2] パンチと、ダイと、前記パンチのパンチ底面と対向する位置にあって前記パンチと共に被加工材である金属薄板を押さえることが可能なパッドとを備えたプレス成形装置を用いて、複数の異なる材料強度の被加工材を、順次、ハット断面形状のプレス成形品にプレス成形する方法であって、
前記の複数の異なる材料強度の被加工材をプレス成形する際の前記パンチと前記ダイとの間のクリアランスを一定とし、
最も材料強度が低い被加工材をプレス成形する場合は、前記パンチが成形開始後から下死点に至るまでの間で前記パンチ底面に前記被加工材が接した状態でプレス成形して前記プレス成形品とし、
最も材料強度が低い被加工材よりも材料強度が高い被加工材をプレス成形する場合には、成形開始後から下死点の直前に至るまでの間で前記パンチ底面直下の被加工材をたるませながら前記パンチを前記ダイに対して相対移動させる第1のステップと、前記パンチが前記第1のステップ以降から下死点に至るまでの間に前記パンチ底面直下のたるみを解消する第2のステップと、によりプレス成形して前記プレス成形品とすることを特徴とするプレス成形方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、プレス成形後の離型時に生じるプレス成形品の壁開き量をコントロールすることができ、これにより同一のプレス金型で、異なる板厚や異なる材料強度の金属薄板を所定の寸法精度でプレス成形することができる。これにより、製造コストを抑えつつ、軽量化と衝突性能を同時に満足した自動車用の共通プラットフォームを構成する部品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、断面視ハット形状のプレス成形品の外観を示す斜視図である。
【図2】従来のプレス成形方法を説明する工程図である。
【図3】本発明の実施形態であるプレス成形方法を説明する工程図である。
【図4】本発明の実施形態であるプレス成形方法を説明する工程図である。
【図5】実施例においてプレス成形されたプレス成形品を示す断面模式図である。
【図6】実施例においてプレス成形されたプレス成形品の壁開き量と板厚との関係を示すグラフである。
【図7】実施例においてプレス成形されたプレス成形品の壁開き量とプレス成形時のたるみ量との関係を示すグラフである。
【図8】実施例においてプレス成形されたプレス成形品の壁開き量とプレス成形時のパッド押し付け力との関係を示すグラフである。
【図9】実施例においてプレス成形されたプレス成形品の壁開き量と板の引張強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を適用したプレス成形装置およびプレス成形方法について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を模式的に示している場合があり、各部の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法などは一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0012】
本実施形態では、プレス成形品の一例として、図1に示すサイドメンバを模したハット断面形状を有するプレス成形品100を対象に、本発明による具体的な形状凍結不良の対策例について説明する。
図1に示すプレス成形品100には、天壁部100aと、天壁部100aの幅方向両端に曲げ部100bを介してつながる一対の縦壁部100c、100cと、縦壁部100c、100cの幅方向一端側につながるフランジ部100d、100dとを備えている。
【0013】
まず、従来のフォーム成形(曲げ成形)により、図1のハット断面形状のプレス成形品100をプレス成形する事例について図2を用いて説明する。図2(a)〜図2(c)はプレス成形時のパンチ4、ダイ1及びパッド3の位置関係を示す模式図である。
図2に示すプレス成形装置は、上ホルダに取付けられたパンチ4と、下ホルダに支持されたダイ1と、下ホルダに支持されるとともにガスシリンダ3aに接続されたパッド3から主に構成されている。パンチ4にはガスシリンダ4aが接続されており、パンチ4の上昇及び下降が可能とされている。
【0014】
上記構造のプレス成形装置において、まず、図2(a)に示すようにダイ1及びパッド3の上に金属薄板2を配置し、パンチ4を下降させてパンチ4のパンチ底面4bとパッド3との間に金属薄板2を挟持させる。
続いて、図2(b)に示すように、パッド3とパンチ4で金属薄板2を挟持したままパッド3とパンチ4とを連動させながら下死点まで下降させることで、図2(c)に示すようにハット断面形状のプレス成形品100に成形される。
【0015】
その後、プレス成形品100を金型から取り出すと、図5に示すように、曲げ部100bの板厚方向応力分布が駆動力となって壁開きが生じる。この壁開きは、板厚方向の応力分布が曲げモーメントとしてはたらき、金属薄板の板厚、部品形状で決まる剛性に応じて弾性変形した結果により生じる。したがって、同じプレス成形装置と同じ金型を用いて異なる板厚の金属薄板をプレス成形して得られるプレス成形品においては、板厚が薄い金属薄板からなるプレス成形品は部品剛性が低いため壁開き量ΔWが大きくなる。
また、異なる材料強度の金属薄板をプレス成形して得られるプレス成形品においては、金属薄板の強度が高いほどスプリングバックの駆動力である曲げモーメントが高まり、壁開き量ΔWが大きくなる。なお、壁開き量ΔWは、金型によって加工された直後の縦壁部100c同士の最大幅Wと、金型から取り出された後の縦壁部100c同士の最大幅W’との差である。
【0016】
そこで発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、同じプレス成形装置で異なる板厚または異なる材料強度の金属薄板をプレス成形する方法、特に、プレス成形後の壁開き量を調整する方法を見出して、本発明を完成した。以下に、金属薄板をハット断面形状にプレス成形する本発明のプレス成形方法について、図3を用いて説明する。
【0017】
まず、複数の異なる板厚の金属薄板(被加工材)をプレス成形するプレス成形方法について説明する。このプレス成形方法においては、図3(a)に示すように、パンチ14と、ダイ11と、パンチ14のパンチ底面14bと対向する位置にあってパンチ14と共に被加工材である金属薄板を押さえることが可能なパッド13とを備えたプレス成形装置を用いる。パンチ14は上ホルダに取付けられ、ダイ11は下ホルダに支持され、また、下ホルダにはガスシリンダ13aを介してパッド13が支持されている。パンチ14にはガスシリンダ14aが接続されており、パンチ14の上昇及び下降が可能とされている。
【0018】
次に、パンチ14が下死点にあるときのパンチ14とダイ11との間のクリアランスを、複数の異なる板厚の被加工材のうち最も板厚が厚い被加工材をプレス成形するときのクリアランスに設定する。具体的には、クリアランスを最も板厚が厚い被加工材の板厚とする。
【0019】
そして、最も板厚が厚い被加工材をプレス成形する場合は、図3(a)に示すようにダイ11及びパッド13の上に金属薄板2を配置し、パンチ14を下降させてパンチ14のパンチ底面14bとパッド13との間に金属薄板2を挟持させる。
続いて、図3(b)に示すように、パッド13とパンチ14で金属薄板2を挟持したまま、言い換えると、パンチ底面14bに金属薄板2を接触させたまま、パッド13とパンチ14とを連動させつつ下死点まで下降させて、図3(c)に示すようにハット断面形状のプレス成形品100に成形する。パンチ底面14bに金属薄板2を接触させたまま、パッド13とパンチ14を下死点まで下降させるには、例えば、加工中の金属薄板をパッド13によって常にパンチ底面14bに押し付けるように、パッド13による金属薄板の押圧量をガスシリンダ13aで制御すればよい。
【0020】
一方、最も板厚が厚い被加工材よりも板厚が薄い被加工材をプレス成形する場合には、図3(a)と同様にして金属薄板2をプレス成形装置にセットしてから、第1のステップとして、図4(a)に示すように成形開始後から下死点の直前に至るまでの間でパンチ底面14bの直下の被加工材をたるませながらパンチ14をダイ11に対して相対移動させる。すなわち、ガスシリンダ13aの押し付け力を調整することで、パッド13とパンチ底面14bとのクリアランスを、被加工材の板厚より大きくした状態で、パンチ14をダイ11に対して相対移動させる。また、金属薄板のたるみ量は、パッド13とパンチ底面14bとのクリアランスにより調整できる。
【0021】
次に、図4(b)に示すように、第2のステップとして、パンチ14が第1のステップ以降から成形下死点に至るまでの間で、パンチ底面14bの直下の金属薄板2のたるみを解消する。具体的には例えば、パッド13によってパンチ底面14bの直下の金属薄板2をパンチ底面14bに押し付ける。このように、第1、第2のステップを順次行うことにより、プレス成形されたプレス成形品100を得る。
パンチ底面14bの直下の金属薄板2をたるませたり、パンチ底面14bの直下の金属薄板2をパンチ底面14bに押し付けたりするには、金属薄板2に対する押圧量をガスシリンダ13aによって制御すればよい。
【0022】
第2のステップにおいて、パッド13とパンチ14の間に発生した金属薄板2のたるみを下死点直前に縦壁部100cへ供給することで曲げ領域が拡大し、プレス成形される被加工材のスプリングバックとスプリングゴーとをバランスさせて縦壁部100cの壁開き量ΔWを調整することができる。これにより、同じプレス成形装置で異なる板厚の金属薄板を、順次プレス成形する際に、プレス成形後の壁開き量ΔWを調整することができ、異なる板厚の金属薄板2をプレス成形したときに同等の壁開き量を確保することができる。
【0023】
また、本発明のプレス成形方法の別の例として、同一のプレス成形装置を用いて、複数の異なる材料強度の被加工材を、順次、ハット断面形状のプレス成形品にプレス成形することで、プレス成形後の壁開き量ΔWを調整することが可能である。ここでの材料強度とは、例えば、金属薄板の引張強度を例示できる。
【0024】
この場合は、パンチ14が下死点にあるときのパンチ14とダイ11の間のクリアランスを、複数の異なる材料強度の被加工材によらず一定とする。具体的には、クリアランスを被加工材の板厚と同じ寸法に設定する。
そして、最も材料強度が低い金属薄板からなる被加工材をプレス成形する場合は、図3の場合と同様に、パンチ14が成形開始後から下死点に至るまでの間でパンチ底面14bに金属薄板が接した状態でプレス成形してプレス成形品100とする。
【0025】
また、最も材料強度が低い被加工材よりも材料強度が高い被加工材をプレス成形する場合は、図4の場合と同様に、成形開始後から下死点の直前に至るまでの間でパンチ底面14bの直下の金属薄板をたるませながらパンチ14をダイ11に対して相対移動させる第1のステップと、パンチ14が第1のステップ以降から成形下死点に至るまでの間にパンチ底面14b直下のたるみを解消する第2のステップと、によりプレス成形してプレス成形品100とする。
【0026】
第2のステップにおいて、パッド13とパンチ14の間に発生した金属薄板2のたるみを下死点直前に縦壁部100cへ供給することで曲げ領域が拡大し、プレス成形される被加工材のスプリングバックとスプリングゴーとをバランスさせて縦壁部100cの壁開き量ΔWを調整できる。これにより、同じプレス成形装置で異なる材料強度の金属薄板を、順次、プレス成形する際に、プレス成形後の壁開き量ΔWを調整することができ、異なる材料強度の金属薄板をプレス成形したときに同等の壁開き量を確保することができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
金属薄板として板厚が1.2mm、1.4mm、1.6mmで引張強度が590MPa級の高強度鋼板を用意した。まず、図2に示す従来のフォーム成形によって、図5に示すようなハット断面形状のプレス成形品を製作した。なお、パンチとダイのクリアランスは最も厚い材料を基準に1.6mmとした。図6に図5で定義したスプリングバック前後での壁開き量ΔWの結果を示すが、板厚の減少にともない壁開き量ΔWが増加していることがわかる。このことからもわかるように、同一の金型で異なる板厚の金属薄板をプレス成形した場合、スプリングバックにより壁開き量ΔWが大きく変化し、同一の寸法精度を確保することが容易でないことがわかる。
【0028】
次に、上記と同じ金属薄板を用いて、図3及び図4に示す本発明方法によりプレス成形した。なお、ここではガスシリンダ13aの調整によりパッド13の押し付け力を2、5、15、20、30kNと変化させ、パンチ14とパッド13間のクリアランスとスプリングバック後のプレス成形品の壁開き量ΔWを実測した。
【0029】
このときのパンチ14とパッド13間のクリアランスから板厚を減じたたるみ量c[mm]と壁開き量ΔW[mm]の関係を図7に、パッド押し付け力f[kN]と壁開き量ΔW[mm]の関係を図8に示す。図7に示すように、たるみ量cと壁開き量ΔWとの間には相関が認められ、板厚によらず、たるみ量cが増すと壁開き量ΔWは減少することがわかる。さらに、このたるみ量cの調整で、従来工法でプレス成形したとき(図7中でたるみ量が0の実測値)の被加工材の壁開き量ΔWと同等の寸法精度が確保できることがわかる。
また、図8からパッド13の押し付け力を制御することでたるみ量cが変化すること、最適な押し付け力に設定することで従来工法でプレス成形したとき(図8中でパット押し付け力が高い30kNの実測値)の被加工材の壁開き量ΔWと同等の寸法精度が確保できることがわかる。
【0030】
さらに、図9に板厚が1.2mmで引張強度が590MPa級の高強度鋼板と、板厚が1.2mmで引張強度が780MPa級の高強度鋼板に対しても従来のフォーム成形(パッド13とパンチ14間のクリアランスが板厚となるパッド押し付け力30kN)と、パッド13の押し付け力を5kNに調整してパッド13とパンチ14間にたるみを確保してプレス成形をしたときの結果を示す。図9に示すように、異なる強度の材料に対しても本発明により同等の寸法精度が確保できていることがわかる。
【符号の説明】
【0031】
2…金属薄板(被加工材)、11…ダイ、13…パッド、14…パンチ、14a…パンチ底面、100…プレス成形品。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンチと、ダイと、前記パンチのパンチ底面と対向する位置にあって前記パンチと共に被加工材である金属薄板を押さえることが可能なパッドとを備えたプレス成形装置を用いて、複数の異なる板厚の被加工材を、順次、ハット断面形状のプレス成形品にプレス成形する方法であって、
前記パンチと前記ダイの間のクリアランスを、前記の複数の異なる板厚の被加工材のうち最も板厚が厚い被加工材をプレス成形するときのクリアランスに設定し、
最も板厚が厚い被加工材をプレス成形する場合は、前記パンチが成形開始後から下死点に至るまでの間で前記パンチ底面に前記被加工材が接した状態でプレス成形して前記プレス成形品とし、
最も板厚が厚い被加工材よりも板厚が薄い被加工材をプレス成形する場合には、成形開始後から下死点の直前に至るまでの間で前記パンチ底面直下の被加工材をたるませながら前記パンチを前記ダイに対して相対移動させる第1のステップと、前記パンチが前記第1のステップ以降から下死点に至るまでの間に前記パンチ底面直下の被加工材のたるみを解消する第2のステップと、によりプレス成形して前記プレス成形品とすることを特徴とするプレス成形方法。
【請求項2】
パンチと、ダイと、前記パンチのパンチ底面と対向する位置にあって前記パンチと共に被加工材である金属薄板を押さえることが可能なパッドとを備えたプレス成形装置を用いて、複数の異なる材料強度の被加工材を、順次、ハット断面形状のプレス成形品にプレス成形する方法であって、
前記の複数の異なる材料強度の被加工材をプレス成形する際の前記パンチと前記ダイとの間のクリアランスを一定とし、
最も材料強度が低い被加工材をプレス成形する場合は、前記パンチが成形開始後から下死点に至るまでの間で前記パンチ底面に前記被加工材が接した状態でプレス成形して前記プレス成形品とし、
最も材料強度が低い被加工材よりも材料強度が高い被加工材をプレス成形する場合には、成形開始後から下死点の直前に至るまでの間で前記パンチ底面直下の被加工材をたるませながら前記パンチを前記ダイに対して相対移動させる第1のステップと、前記パンチが前記第1のステップ以降から下死点に至るまでの間に前記パンチ底面直下のたるみを解消する第2のステップと、によりプレス成形して前記プレス成形品とすることを特徴とするプレス成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−94803(P2013−94803A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238765(P2011−238765)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)