プレス機械
【課題】 筒状ワークとダイとの摩擦を軽減するプレス機械を提供する。
【解決手段】 本発明のプレス機械は、筒状のワーク20の外周面28の少なくとも一部を加工する複数のローラー32と、ワーク20の内周面26と係合し、かつ、ローラー32に対し相対移動可能なパンチ10と、ローラー32と接触する断面が円弧状の支持面341を有するホルダ34と、ローラー32を挟んでホルダ34と対向するリテーナー36と、を含む。
【解決手段】 本発明のプレス機械は、筒状のワーク20の外周面28の少なくとも一部を加工する複数のローラー32と、ワーク20の内周面26と係合し、かつ、ローラー32に対し相対移動可能なパンチ10と、ローラー32と接触する断面が円弧状の支持面341を有するホルダ34と、ローラー32を挟んでホルダ34と対向するリテーナー36と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状のワークを加工するプレス機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パンチとダイを有するプレス機械において、例えばしごき加工などを行う際に、被加工材とダイとの間における摩擦によって被加工材のダイへの凝着やダイの焼付き等の加工不良が発生することがあった。このような加工不良を防止するために、被加工材とダイとが接触するプレス面に潤滑油を供給していた。
【0003】
この潤滑油の供給頻度を削減し、さらに作業現場における潤滑油の飛散を軽減するため、ダイのプレス面における所定領域に油溜まりとしての複数の凹部を形成することが提案された(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、高硬度の微粒子をダイに吹き付けることによってダイの表面に微細な凹部を無数に形成し、これを油溜まりとして機能させる共に、潤滑油として硫黄系極圧剤と有機亜鉛化合物とカルシウム系添加剤とエステル化合物とを配合したプレス加工用の潤滑剤を用いることも提案された(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、被加工材がダイに対して摺動する際の潤滑性を向上させるために、ダイの作業面に高い潤滑特性を有する硬質皮膜を被覆した金属塑性加工用工具が提案された(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−730号公報
【特許文献2】特開2008−55426号公報
【特許文献3】特開2009−91647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、筒状ワークとダイとの摩擦を軽減するプレス機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかるプレス機械は、ダイと、筒状のワークの内周面と係合し、かつ、前記ダイに対し相対移動可能なパンチと、を有するプレス機械であって、前記ダイは、前記ワークの外周面の少なくとも一部に対して転がり係合する転がり係合部を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明にかかるプレス機械によれば、ワークとダイとの摩擦を軽減することができる。また、ワークとダイとの摩擦を軽減することによって、ワークがダイへ凝着することやダイの焼付きを生じにくくすることができる。
【0010】
本発明にかかるプレス機械において、前記転がり係合部の外周面に対し滑り係合するホルダと、前記転がり係合部を挟んで該ホルダと対向するリテーナーと、をさらに備えることができる。
【0011】
本発明にかかるプレス機械によれば、ワークから受ける加工圧力を転がり係合部とホルダとの滑り係合に変換することができる。
【0012】
本発明にかかるプレス機械において、前記転がり係合部は、複数のローラーで構成され、前記ローラーが回転することによって、前記ワークと接触する前記ローラーの表面に潤滑油を供給可能に形成することができる。
【0013】
本発明にかかるプレス機械によれば、ワークとローラーとの接触界面に潤滑油を確実に供給することができ、人的作業工程を減らすことができる。
【0014】
本発明にかかるプレス機械において、前記転がり係合部は、複数のローラーで構成され、前記ワークは、断面が略多角形の外周形状を有し、前記略多角形の各辺のそれぞれに対応してローラーを配置することができる。
【0015】
本発明にかかるプレス機械によれば、略多角形のワークの辺とダイとの摩擦を軽減することができる。
【0016】
本発明にかかるプレス機械において、前記転がり係合部は、複数のローラーで構成され、略多角形の前記ワークの角部は、円弧状に形成され、前記各角部のそれぞれに対応してローラーを配置することができる。
【0017】
本発明にかかるプレス機械によれば、各角部とダイとの摩擦を軽減することができる。また、角部に対応するローラーと辺に対応するローラーとを別々に設けることで、ローラーの表面における速度差を減少することができる。
【0018】
本発明にかかるプレス機械において、前記ワークは、断面が円形の外周形状を有し、前記円形の外周をN等分したN個の円弧部に対応してN個のローラーを配置することができる。
【0019】
本発明にかかるプレス機械によれば、円形のワークの加工においてもワークとダイとの摩擦を軽減することができる。
【0020】
本発明にかかるプレス機械において、前記ローラーは、前記ローラーの回転軸に沿った断面において、前記ワークと接触する表面が円弧状であることができる。
【0021】
本発明にかかるプレス機械によれば、なめらかな円形の外周形状を有する製品に加工することができる。
【0022】
本発明にかかるプレス機械は、筒状のワークの外周面の少なくとも一部を加工する複数のローラーと、前記ワークの内周面と係合し、かつ、前記ローラーに対し相対移動可能なパンチと、前記ローラーと接触する断面が円弧状の支持面を有するホルダと、前記ローラーを挟んで前記ホルダと対向するリテーナーと、を含むことを特徴とする。
【0023】
本発明にかかるプレス機械によれば、ワークとダイとの摩擦を軽減することができる。また、ワークとダイとの摩擦を軽減することによって、ワークがダイへ凝着することやダイの焼付きを生じにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るプレス機械の金型及びワークを模式的に示す縦断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るプレス機械のダイを模式的に示す平面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るプレス機械の加工工程を模式的に示す縦断面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るプレス機械の加工工程を模式的に示す縦断面図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るプレス機械の加工工程を模式的に示す縦断面図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係るワークを模式的に示す斜視図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係るプレス機械の転がり係合部を模式的に示す平面図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態に係るプレス機械の転がり係合部を模式的に示す平面図である。
【図9】本発明の第4の実施の形態に係るプレス機械の転がり係合部を模式的に示す平面図である。
【図10】本発明の第5の実施の形態に係るプレス機械の転がり係合部を模式的に示す平面図である。
【図11】比較例に係るプレス機械の金型及びワークを模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
本発明の一実施形態にかかるプレス機械は、ダイと、筒状のワークの内周面と係合し、かつ、前記ダイに対し相対移動可能なパンチと、を有するプレス機械であって、前記ダイは、前記ワークの外周面の少なくとも一部に対して転がり係合する転がり係合部を含むことを特徴とする。
【0027】
本発明の一実施形態にかかるプレス機械は、筒状のワークの外周面の少なくとも一部を加工する複数のローラーと、前記ワークの内周面と係合し、かつ、前記ローラーに対し相対移動可能なパンチと、前記ローラーと接触する断面が円弧状の支持面を有するホルダと、前記ローラーを挟んで前記ホルダと対向するリテーナーと、を含むことを特徴とする。
【0028】
(第1の実施の形態)
図1〜図6は、第1の実施の形態にかかるプレス機械を説明するための模式図である。図1は金型及びワークを示す縦断面図であり、図2はダイの平面図であり、図3〜図5はプレス機械の加工工程を示す縦断面図であり、図6はワークの斜視図を部分的に横断面で示した図である。なお、図1のダイは、図2のI−I’断面図である。
【0029】
図1に示すように、第1の実施の形態にかかるプレス機械は、ダイ30と、筒状のワーク20の内周面26と係合し、かつ、ダイ30に対し相対移動可能なパンチ10と、を含むプレス加工用の金型を有する。ダイ30は、ワーク20の外周面28の少なくとも一部に対して転がり係合する転がり係合部31を含む。転がり係合部31は、例えば単数もしくは複数のローラー32であることができる。なお、このプレス機械は、図1には示さないが、パンチ10とダイ30とを相対移動するための公知の駆動機構を有することができる。本実施の形態においては、パンチ10を図示しないスライドに固定し、ダイ30を図示しないボルスタに固定し、例えばサーボモータとクランク機構によってスライドを矢印Aの方向へ移動させてプレス加工することができる。ここでは、パンチ10をスライドに固定し、ダイ30をボルスタに固定する例について述べたが、プレス機械の駆動機構に合わせて、例えばダイ30をスライドに、パンチ10をボルスタに固定するなど適宜対応することができる。
【0030】
パンチ10は、被加工部材であるワーク20の内側の形状と同じ形状の外形を有することができ、ワーク20と共に、図示せぬ駆動機構によってダイ30に対し相対移動、例えば昇降移動可能である。より詳細には、パンチ10は、ワーク20の側壁22の内周面26と係合する外壁面12と、ワーク20の底部24の内面と係合する底面14と、を有している。
【0031】
ワーク20は、側壁22と底部24とを有する有底筒状であって、側壁22の横断面が略多角形の外周形状を有することができる。本実施の形態においては、図6に示すように、側壁22の横断面の外周形状が略四角形である。図6は、加工前のワーク20を説明するために、側壁22の高さ方向の中ほどを横断面で示している。側壁22は、横断面において、4つの直線状の辺221と、隣り合う辺221,221の間の4つの角部222と、を有する。角部222は、円弧状に形成することができる。側壁22の外周形状は、正方形であるが、これに限らず、長方形とすることができ、また、他の多角形とすることができる。ワーク20は、肉厚Sの側壁22を有する加工前の被加工部材である。
【0032】
ダイ30は、ワーク20の外周面28の少なくとも一部に対して転がり係合する転がり係合部31を含む。転がり係合部31は、ローラー32であることができる。ダイ30は、ローラー32と、ローラー32と接触するホルダ34と、ローラー32を挟んでホルダ34と対向するリテーナー36と、を含むことができる。ローラー32は、加工前のワーク20に対し転がり係合しながらワーク20の側壁22の肉厚Sを薄肉化して、加工後の製品の側壁の肉厚S’に加工することができる。加工後の製品の肉厚S’は、パンチ10の外壁面12とローラー32の外周面とのクリアランスであり、加工後の製品の外形はワーク20に比べて縮径される。
【0033】
ローラー32は、例えば複数設けられ、ワーク20の略多角形例えば四角形の側壁22に合わせて少なくとも各辺221のそれぞれに対応してローラー32を配置することができ、本実施の形態では4本配置されている。ローラー32は、回転軸Oに沿って延びる略円柱状であり、図2において実線及び点線で示されるように、ワーク20の側壁22の辺221に係合する辺形成部321と、角部222の半分に係合する角部形成部322と、を有することができる。角部形成部322は、ローラー32の両端部付近の外周面に形成され、ローラー32の端部に向かうに従って拡径する断面円弧状の円柱であり、側壁22の1つ角部222に対し隣り合う角部形成部322と共に転がり係合することができる。辺形成部321は、ローラー32の両端部の角部形成部322、322の間に形成された一定の外径を有する円柱であり、側壁22の直線状の辺221に対し転がり係合することができる。ローラー32の回転軸Oは同一水平面内に配置され、隣り合うローラー32の回転軸Oは互いに直交している。
【0034】
ホルダ34は、ローラー32と接触しかつ断面が円弧状の支持面341を有することができる。ホルダ34は、加工後のワークの外周面よりもわずかに大きな内形を有しかつ加工後のワークが非接触に通過することを許容する略四角形の開口部344及び内壁面343を有することができる。ホルダ34の支持面341は、ローラー32の外形に合わせて形成され、ローラー32を支持するとともに、ローラー32の回転によりローラー32の外周面に対し滑り係合することができる。ホルダ34の支持面341は、ワーク20の側壁22と接触するローラー32の領域と対向する領域に形成することができ、ワーク20を加工する加工圧力はローラー32を介して受けることができる。さらに、支持面341で受けた加工圧力は、ローラー32が回転することで滑り係合に変換され、摩擦熱となることができる。
【0035】
リテーナー36は、ローラー32を挟んでホルダ34と対向して配置され、ホルダ34の接合面342に対し複数個所でボルト361によって結合することができる。リテーナー36は、ローラー32の外周面に合わせて形成された断面が円弧状の支持面365を有し、リテーナー36の支持面365とホルダ34の支持面341とによってローラー32の外周面と滑り係合することができる。リテーナー36の支持面365とホルダ34の支持面341とによって形成された円弧状の支持面は、ワーク20と接触し加工するために露出しているローラー32の一部を除いて、ローラー32の外径の半分以上を覆うように形成することができる。したがって、ホルダ34とリテーナー36とは、ワーク20を加工する際に、ローラー32を確実に保持しながら、ローラー32とワーク20との転がり係合をローラー32との滑り係合に変換することができる。このように、ローラー32とワーク20とが転がり係合することによって、ローラー32とワーク20との接触界面における温度上昇を抑制することができ、ワーク20の凝着や金型の焼付きなどを防止することができる。
【0036】
また、リテーナー36には、潤滑油をローラー32の外周面へ供給するための給油口362と油路363が形成されている。油路363は、リテーナー36とホルダ34の接合面342との間に形成されている。油路363を挟んでローラー32と対向する側にシール部364が設けられ、リテーナー36とホルダ34との接合部分から外への潤滑油漏れを防いでいる。給油口362から供給された潤滑油は、ローラー32が回転することによって、ワーク20と接触するローラー32の表面に油路363から自動的に供給することができる。このように、ダイとしてローラー32を用いたことで、加工面への潤滑油の供給が確実に行われ、従来のようにダイの加工面付近における摩擦熱による焼付きを防止することができる。そのため、作業者が加工の度に潤滑油を金型に供給する人的作業工程を減らすことができる。なお、ローラー32とワーク20とは転がり係合によって摩擦が低減しているので、潤滑油の供給量も減らすことができ、さらには潤滑油を用いない加工も可能とすることができる。
【0037】
ダイ30は、例えばダイス鋼を用いることができる。ホルダ34及びリテーナー36は、ローラー32を介して高圧の加工圧力を受けることになるので、十分な強度が必要である。ワーク20と接触するローラー32の表面には、チタン系硬質膜例えば炭化チタン(TiC)系硬質膜などを形成することができる。ローラー32と滑り係合するホルダ34及びリテーナー36の支持面341、365には、ローラー32との摩擦係数を低減させて摩擦熱の発生を抑制するため、低摩擦係数の硬質膜例えばダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜などを形成することができる。
【0038】
次に、図3〜図5を用いて、第1の実施の形態にかかるプレス機械の加工工程について説明する。
【0039】
図3に示すように、パンチ10及びパンチ10に係合されたワーク20を矢印Aの方向へ相対移動させ、ダイ30のローラー32の外周面にワーク20の側壁22の外周面28を接触させる。ローラー32は、ワーク20との接触によって、ホルダ34の支持面341上で滑りながら矢印B方向へ回転軸Oを中心に回転を開始する。ローラー32の回転によって、給油口362から油路363へ供給された潤滑油は、ローラー32の外周面に付着してワーク20との接触界面へと自動的に供給される。ローラー32がワーク20から受けた加工圧力は、ローラー32を支持するホルダ34及びリテーナー36の支持面341、365が受けることになる。
【0040】
図4に示すように、パンチ10及びワーク20を矢印Aの方向へさらに相対移動させると、ワーク20の側壁22がローラー32の外周面とパンチ10の外壁面12とのクリアランスに減じられて肉厚S’にいわゆるしごき加工される。ここでしごき加工は、パンチ10とダイ30とのクリアランスをワーク20の肉厚Sよりも狭くして加工する方法である。しごき加工に用いられる一般的なダイは、ダイRと呼ばれるワークと接触する湾曲部分を有する。これに対し、本実施の形態にかかるしごき加工は、従来のしごき加工と異なり、従来のダイRに代わってローラー32を備えるので、ローラー32が回転することによってワーク20とローラー32とは転がり係合することになる。ワーク20とローラー32とが転がり係合することにより、これらの接触界面における摩擦が減少し、従来のダイRに発生していた摩擦熱を低減することができる。
【0041】
ローラー32は、ホルダ34の支持面341によって矢印A方向で支持されているため、支持面341上で回転し、支持面341と滑り係合することができる。ローラー32が矢印Bの方向へ回転することにより、油路363から潤滑油がローラー32の外表面へ供給され、ワーク20の外壁面12との接触界面へ自動的に供給される。このため、従来のダイRを用いたときのように、ワーク20におけるしごき方向すなわち矢印A方向の加工部の長さが長くなることによってダイR表面の潤滑膜切れが発生することを防止できる。
【0042】
図5に示すように、パンチ10及びワーク20を矢印Aの方向へさらに相対移動させると、ワーク20の全長にわたってしごき加工が行われることにより製品20aが得られる。製品20aは、パンチ10の外壁面12に側壁22aの内周面26aが密着し、側壁22aの外周面28aがホルダ34の内壁面343との間にわずかにクリアランスを保っている。製品20aは、側壁22aが矢印A方向に沿って全体に均一な肉厚S’に形成されている。
【0043】
製品20aが矢印A方向の全体で加工されると、パンチ10の相対移動が停止し、ローラー32の回転も停止する。その後、パンチ10を矢印Aとは反対方向へ相対移動させ、製品20aをダイ30内から取り出すことができる。このとき、ローラー32は、矢印Aとは反対方向へ力を受けるが、リテーナー36の支持面365によって支持されているため、支持面365上で矢印Bとは反対方向へ回転し、矢印Aとは反対方向への移動が規制される。
【0044】
このように、従来のしごき加工におけるダイのダイRとワークとの滑り係合による摩擦熱に比べ、本実施の形態におけるワーク20とローラー32との転がり係合による摩擦熱は減少する。これによって、従来の金型において凝着や焼付きなどの加工不良が生じやすかった加工において、金型への凝着や金型の焼付きなどを生じにくくすることができる。このような加工不良を生じやすかった従来の加工方法としては、例えば、ワーク20における矢印A方向すなわちしごき方向の加工部分の長さ(以下、しごき長という)を増加したり、比較的硬い材質のワークを加工したりするケースがある。これに対して、本実施の形態によれば、金型への凝着や焼付きが生じにくいため、例えば、加工可能な製品20aサイズを広げることができたり、加工圧力を増加することで比較的硬く加工が難しかった材質のワーク20にも対応したりことができる。さらに、本実施の形態によれば、例えば、自動的にローラー32とワーク20との接触界面へ潤滑油が供給されるため、潤滑膜切れが防止され、金型への凝着や焼付きが防止できる。また、ローラー32とワーク10との摩擦が少ないため、例えば、従来のしごき加工に比べ加工圧力を減少することができ、プレス加工における省エネルギー運転が可能となる。
【0045】
(第2の実施の形態)
図7は、第2の実施の形態に係るプレス機械の転がり係合部を模式的に示す平面図である。図7では、図2における第1の実施の形態と共通するリテーナー36、ホルダ34などは省略し、ワーク20の1つの角部222付近における第1、第2のローラー323,324の構造と配置を示している。なお、図7は、加工途中のワーク20の側壁22を点線で示している。本実施の形態においては、複数の第1、第2のローラー323,324は、ワーク20の外周面28の少なくとも一部に対して転がり係合して加工する転がり係合部31として機能することができる。
【0046】
第1、第2のローラー323,324は、ワーク20の略多角形例えば四角形の側壁22に合わせて配置され、本実施の形態では例えば8本配置されている。第1のローラー323はワーク20の側壁22の辺221に係合するローラーであり、第2のローラー324は角部222に係合するローラーであることができる。第1のローラー323は、辺221に合わせて形成された一定の外径を有する円柱であり、直線状の辺221に対し転がり係合することができ、辺221における摩擦を低減できる。第2のローラー324は、側壁22の1つ角部222に合わせて形成された中心部から両端部に向かうに従って拡径する断面円弧状の外周面を有する円柱であり、1つ角部222に対し転がり係合することができ、角部222における摩擦を低減できる。第2のローラー324は、回転軸Oに沿った断面において、ワーク20と接触する表面が円弧状であることができる。
【0047】
第1のローラー323は各辺221のそれぞれに対応して4本配置されることができ、第2のローラー324は各角部222のそれぞれに対応して4本配置されることができる。第1、第2のローラー323,324の回転軸Oは同一水平面内に配置され、第1のローラー323と第2のローラー324の回転軸Oは45度で交差している。このように配置された第1のローラー323と第2のローラー324の内周形状が、加工後の製品20aの外周面28aとなる。
【0048】
(第3の実施の形態)
図8は、第3の実施の形態に係るプレス機械の転がり係合部を模式的に示す平面図である。図8では、図7と同様に、図2における第1の実施の形態と共通するリテーナー36、ホルダ34などは省略し、ワーク20の転がり係合部31、特に1つの角部222付近における第1、第2のローラー323,324a,324bの構造と配置を示している。本実施の形態は、1つの角部222を加工するために2本の第2のローラー324a,324bが配置されている点で第2の実施の形態と異なる。したがって、本実施の形態においては、第1のローラー323が各辺221に1本ずつで合計4本配置され、第2のローラー324a,324bが各角部222に2本ずつで合計8本配置されることになる。このように配置された第1のローラー323と第2のローラー324a,324bの内周形状が、加工後の製品20aの外周面28aとなる。
【0049】
第2のローラー324aと第2のローラー324bとは、同じ外形を有している。第2のローラー324aと第2のローラー324bとは、1つの角部222の半分に対してそれぞれ係合することができる。第2のローラー324a,324bは、中心部から両端部に向かうに従って拡径する断面円弧状の外周面を有する円柱である。第2のローラー324a,324bは、回転軸Oに沿った断面において、ワーク20と接触する表面が円弧状であることができる。第2の実施の形態における第2のローラー324と比べると、角部222が同一形状であるとき、第3の実施の形態における第2のローラー324a,324bの方が中心部の外径と両端部付近の外径との差が小さい。本実施の形態においては、1つの角部222に対して2本の第2のローラー324a,324bを配置した例について説明したが、これに限らず、1つの角部222に対して3本以上の複数のローラーを配置することができる。このように、1つの角部222に対し複数本のローラーを配置することで、角部222の円弧の長さが比較的長い場合にローラーの外径が大きくならないので省スペースな金型とすることができる。
【0050】
第2の実施の形態及び第3の実施の形態は、第1の実施の形態の効果に加え、さらに以下のような効果を有することができる。辺221に対応する第1のローラー323と、角部222に対応する第2のローラー324,324a,324bと、を別々に設けることで、加工時において、第1のローラー323の表面の速度と、第2のローラー324,324a,324bの表面の速度と、の速度差を軽減することができる。このように表面の速度差が軽減することで、ローラーとワークとの滑り摩擦量の差が減少する。滑り摩擦量の差の減少は、摩擦熱を抑制し、また滑り摩擦している部分の潤滑油切れを抑制することになり、1つの角部222に対し複数のローラーを用いることがさらに有利である。また、第1〜第3の実施の形態におけるワーク20もしくは製品20aは、その横断面略多角形の角部222が円弧状であったが、これに限らず角部222に傾斜面を含んでもよく、円弧と傾斜面との組み合わせによって構成されていてもよい。その場合には、角部222を加工するローラーの外表面もその形状に合わせて形成することができる。
【0051】
(第4の実施の形態)
図9は、本発明の第4の実施の形態に係るプレス機械の転がり係合部を模式的に示す平面図である。図9では、図7と同様に、図2における第1の実施の形態と共通するリテーナー36、ホルダ34などは省略し、ワーク200における転がり係合部31、特に第3のローラー325の構造と配置を示している。ワーク200は、第1〜第3の実施の形態と同様に側壁220と図示しない底部とを有する有底筒状であって、第1〜第3の実施の形態と異なり側壁220の横断面が円形の外周形状を有する有底円筒体である。ワーク200の円形の側壁220の外周をN等分したN個の円弧部に対応してN個のローラーを配置することができ、側壁220における摩擦を軽減することができる。本実施の形態においては、N=4であり、4個の第3のローラー325を配置することができる。このように配置された第3のローラー325の内周形状が、加工後の製品の外周面280aとなる。第3のローラー325は、回転軸Oに沿った断面において、ワーク200と接触する表面が円弧状であることができる。このような第3のローラー325を用いることで、なめらかな円形の外周形状を有する製品に加工することができる。
【0052】
(第5の実施の形態)
図10は、本発明の第5の実施の形態に係るプレス機械の転がり係合部を模式的に示す平面図である。図10では、図7と同様に、図2における第1の実施の形態と共通するリテーナー36、ホルダ34などは省略し、ワーク200における転がり係合部31、特に第3のローラー325aの構造と配置を示している。図10は、加工途中のワーク200を点線で示している。ワーク200は、第4の実施の形態と同様の有底円筒体であり、本実施の形態においてはN=8であり、円形の側壁220の外周を8等分した8個の円弧部に対応して8個の第3のローラー325aが配置されている。このように配置された第3のローラー325aの内周形状が、加工後の製品の外周面280aとなる。第3のローラー325aは、回転軸Oに沿った断面において、ワーク200と接触する表面が円弧状であることができる。
【0053】
なお、上記のように本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。本発明の実施の形態においては、プレス加工におけるしごき加工について述べたが、ワークとダイとが通常は滑り係合するような例えば絞り加工、しごき絞り加工などにも応用することができる。また、本発明の実施の形態において1つのローラーで説明した例えば第2の実施の形態の第1のローラー323を、複数例えば2つのローラーを回転軸Oに沿って並べて1つの辺221を加工するように構成することもできる。さらに、本発明の実施の形態においては凹凸の少ない外周面を加工するために円柱状のローラーを用いたが、製品の仕様によっては例えば球体をローラーとして用いることもできる。また、ワークの全周に渡ってローラーを配置した例について説明したが、これに限らずワークの外周の一部に係合するようにローラーを配置することができる。例えば、凝着や焼付きし易いワークの外周の一部や、他の外周よりもしごき率の高い部分などに対してローラーを配置することができる。したがって、このような変形例はすべて、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0054】
(比較例1)
図11は、転がり係合部を有しない比較例に係るプレス機械の金型及びワークを模式的に示す縦断面図である。比較例1は、図11において、パンチ10及びワーク20については、第1の実施の形態と同様であるので説明を省略する。ダイ300は、従来のプレス加工用の金型と同様であり、ワーク20と係合し、しごき加工するダイR310が形成されている。材質がフェライト系ステンレス鋼(SUS430)のワークを、しごき率10%、矢印A方向のしごき長100mmの条件でしごき加工を行った。なお、加工前のワーク20の側壁22の肉厚をS,加工後の製品20aの側壁22aの肉厚をS’としたとき、しごき率は、100・(S−S’)/S(%)で計算した。しごき率の計算は、以下の比較例及び実施例においても同様に計算した。比較例1のダイ300は、1回のしごき加工で焼付きが発生した。
【0055】
(比較例2)
比較例2は、図11に示す金型を用いて、材質がアルミニウム(A1050)のワーク20を、しごき率20%、しごき長100mmの条件でしごき加工を行った。比較例2のダイ300は、1回のしごき加工で凝着が発生した。
【0056】
(比較例3)
比較例3は、図11に示す金型を有底円筒状のワークを加工する形状に変更して、材質がフェライト系ステンレス鋼(SUS430)のワークを、しごき率25%、しごき長200mmの条件でしごき加工を行った。比較例3のダイ300は、1回のしごき加工で焼付きが発生した。なお、比較例1〜3において、ダイRには加工前にあらかじめ潤滑油を塗布した。
【実施例1】
【0057】
実施例1は、図1,図2に示す第1の実施の形態のプレス機械の金型を用いて、材質がSUS430のワーク10を、しごき率10%、しごき長100mmの条件でしごき加工を行った。ダイ30、特にローラー32に焼付きは発生せず、問題なく加工できた。また、比較例1における焼付きが発生する前の加工圧力に比べて、実施例1では加工圧力が約10%減少した。
【実施例2】
【0058】
実施例2は、図1,図2に示す第1の実施の形態のプレス機械の金型を用いて、材質がアルミニウム(A1050)のワークを、しごき率20%、しごき長100mmの条件でしごき加工を行った。ダイ30、特にローラー32に凝着は発生せず、問題なく加工できた。また、比較例2における凝着が発生する前の加工圧力に比べて、実施例2では加工圧力が約10%減少した。
【実施例3】
【0059】
実施例3は、図9に示す第4の実施の形態のプレス機械の金型を用いて、材質がフェライト系ステンレス鋼(SUS430)のワークを、しごき率25%、しごき長200mmの条件でしごき加工を行った。第3のローラー325に焼付きは発生せず、問題なく加工できた。また、比較例3における焼付きが発生する前の加工圧力に比べて、実施例3では加工圧力が約10%減少した。なお、実施例1〜3において、ローラー32,325には潤滑油を供給しなかった。
【符号の説明】
【0060】
10 パンチ
12 外壁面
14 底面
20 ワーク
22 側壁
24 底部
30 ダイ
31 転がり係合部
32 ローラー
34 ホルダ
36 リテーナー
A 矢印
S 加工前のワークの肉厚
S’ 加工後のワークの肉厚
B 矢印
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状のワークを加工するプレス機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パンチとダイを有するプレス機械において、例えばしごき加工などを行う際に、被加工材とダイとの間における摩擦によって被加工材のダイへの凝着やダイの焼付き等の加工不良が発生することがあった。このような加工不良を防止するために、被加工材とダイとが接触するプレス面に潤滑油を供給していた。
【0003】
この潤滑油の供給頻度を削減し、さらに作業現場における潤滑油の飛散を軽減するため、ダイのプレス面における所定領域に油溜まりとしての複数の凹部を形成することが提案された(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、高硬度の微粒子をダイに吹き付けることによってダイの表面に微細な凹部を無数に形成し、これを油溜まりとして機能させる共に、潤滑油として硫黄系極圧剤と有機亜鉛化合物とカルシウム系添加剤とエステル化合物とを配合したプレス加工用の潤滑剤を用いることも提案された(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、被加工材がダイに対して摺動する際の潤滑性を向上させるために、ダイの作業面に高い潤滑特性を有する硬質皮膜を被覆した金属塑性加工用工具が提案された(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−730号公報
【特許文献2】特開2008−55426号公報
【特許文献3】特開2009−91647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、筒状ワークとダイとの摩擦を軽減するプレス機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかるプレス機械は、ダイと、筒状のワークの内周面と係合し、かつ、前記ダイに対し相対移動可能なパンチと、を有するプレス機械であって、前記ダイは、前記ワークの外周面の少なくとも一部に対して転がり係合する転がり係合部を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明にかかるプレス機械によれば、ワークとダイとの摩擦を軽減することができる。また、ワークとダイとの摩擦を軽減することによって、ワークがダイへ凝着することやダイの焼付きを生じにくくすることができる。
【0010】
本発明にかかるプレス機械において、前記転がり係合部の外周面に対し滑り係合するホルダと、前記転がり係合部を挟んで該ホルダと対向するリテーナーと、をさらに備えることができる。
【0011】
本発明にかかるプレス機械によれば、ワークから受ける加工圧力を転がり係合部とホルダとの滑り係合に変換することができる。
【0012】
本発明にかかるプレス機械において、前記転がり係合部は、複数のローラーで構成され、前記ローラーが回転することによって、前記ワークと接触する前記ローラーの表面に潤滑油を供給可能に形成することができる。
【0013】
本発明にかかるプレス機械によれば、ワークとローラーとの接触界面に潤滑油を確実に供給することができ、人的作業工程を減らすことができる。
【0014】
本発明にかかるプレス機械において、前記転がり係合部は、複数のローラーで構成され、前記ワークは、断面が略多角形の外周形状を有し、前記略多角形の各辺のそれぞれに対応してローラーを配置することができる。
【0015】
本発明にかかるプレス機械によれば、略多角形のワークの辺とダイとの摩擦を軽減することができる。
【0016】
本発明にかかるプレス機械において、前記転がり係合部は、複数のローラーで構成され、略多角形の前記ワークの角部は、円弧状に形成され、前記各角部のそれぞれに対応してローラーを配置することができる。
【0017】
本発明にかかるプレス機械によれば、各角部とダイとの摩擦を軽減することができる。また、角部に対応するローラーと辺に対応するローラーとを別々に設けることで、ローラーの表面における速度差を減少することができる。
【0018】
本発明にかかるプレス機械において、前記ワークは、断面が円形の外周形状を有し、前記円形の外周をN等分したN個の円弧部に対応してN個のローラーを配置することができる。
【0019】
本発明にかかるプレス機械によれば、円形のワークの加工においてもワークとダイとの摩擦を軽減することができる。
【0020】
本発明にかかるプレス機械において、前記ローラーは、前記ローラーの回転軸に沿った断面において、前記ワークと接触する表面が円弧状であることができる。
【0021】
本発明にかかるプレス機械によれば、なめらかな円形の外周形状を有する製品に加工することができる。
【0022】
本発明にかかるプレス機械は、筒状のワークの外周面の少なくとも一部を加工する複数のローラーと、前記ワークの内周面と係合し、かつ、前記ローラーに対し相対移動可能なパンチと、前記ローラーと接触する断面が円弧状の支持面を有するホルダと、前記ローラーを挟んで前記ホルダと対向するリテーナーと、を含むことを特徴とする。
【0023】
本発明にかかるプレス機械によれば、ワークとダイとの摩擦を軽減することができる。また、ワークとダイとの摩擦を軽減することによって、ワークがダイへ凝着することやダイの焼付きを生じにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るプレス機械の金型及びワークを模式的に示す縦断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るプレス機械のダイを模式的に示す平面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るプレス機械の加工工程を模式的に示す縦断面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るプレス機械の加工工程を模式的に示す縦断面図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るプレス機械の加工工程を模式的に示す縦断面図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係るワークを模式的に示す斜視図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係るプレス機械の転がり係合部を模式的に示す平面図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態に係るプレス機械の転がり係合部を模式的に示す平面図である。
【図9】本発明の第4の実施の形態に係るプレス機械の転がり係合部を模式的に示す平面図である。
【図10】本発明の第5の実施の形態に係るプレス機械の転がり係合部を模式的に示す平面図である。
【図11】比較例に係るプレス機械の金型及びワークを模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
本発明の一実施形態にかかるプレス機械は、ダイと、筒状のワークの内周面と係合し、かつ、前記ダイに対し相対移動可能なパンチと、を有するプレス機械であって、前記ダイは、前記ワークの外周面の少なくとも一部に対して転がり係合する転がり係合部を含むことを特徴とする。
【0027】
本発明の一実施形態にかかるプレス機械は、筒状のワークの外周面の少なくとも一部を加工する複数のローラーと、前記ワークの内周面と係合し、かつ、前記ローラーに対し相対移動可能なパンチと、前記ローラーと接触する断面が円弧状の支持面を有するホルダと、前記ローラーを挟んで前記ホルダと対向するリテーナーと、を含むことを特徴とする。
【0028】
(第1の実施の形態)
図1〜図6は、第1の実施の形態にかかるプレス機械を説明するための模式図である。図1は金型及びワークを示す縦断面図であり、図2はダイの平面図であり、図3〜図5はプレス機械の加工工程を示す縦断面図であり、図6はワークの斜視図を部分的に横断面で示した図である。なお、図1のダイは、図2のI−I’断面図である。
【0029】
図1に示すように、第1の実施の形態にかかるプレス機械は、ダイ30と、筒状のワーク20の内周面26と係合し、かつ、ダイ30に対し相対移動可能なパンチ10と、を含むプレス加工用の金型を有する。ダイ30は、ワーク20の外周面28の少なくとも一部に対して転がり係合する転がり係合部31を含む。転がり係合部31は、例えば単数もしくは複数のローラー32であることができる。なお、このプレス機械は、図1には示さないが、パンチ10とダイ30とを相対移動するための公知の駆動機構を有することができる。本実施の形態においては、パンチ10を図示しないスライドに固定し、ダイ30を図示しないボルスタに固定し、例えばサーボモータとクランク機構によってスライドを矢印Aの方向へ移動させてプレス加工することができる。ここでは、パンチ10をスライドに固定し、ダイ30をボルスタに固定する例について述べたが、プレス機械の駆動機構に合わせて、例えばダイ30をスライドに、パンチ10をボルスタに固定するなど適宜対応することができる。
【0030】
パンチ10は、被加工部材であるワーク20の内側の形状と同じ形状の外形を有することができ、ワーク20と共に、図示せぬ駆動機構によってダイ30に対し相対移動、例えば昇降移動可能である。より詳細には、パンチ10は、ワーク20の側壁22の内周面26と係合する外壁面12と、ワーク20の底部24の内面と係合する底面14と、を有している。
【0031】
ワーク20は、側壁22と底部24とを有する有底筒状であって、側壁22の横断面が略多角形の外周形状を有することができる。本実施の形態においては、図6に示すように、側壁22の横断面の外周形状が略四角形である。図6は、加工前のワーク20を説明するために、側壁22の高さ方向の中ほどを横断面で示している。側壁22は、横断面において、4つの直線状の辺221と、隣り合う辺221,221の間の4つの角部222と、を有する。角部222は、円弧状に形成することができる。側壁22の外周形状は、正方形であるが、これに限らず、長方形とすることができ、また、他の多角形とすることができる。ワーク20は、肉厚Sの側壁22を有する加工前の被加工部材である。
【0032】
ダイ30は、ワーク20の外周面28の少なくとも一部に対して転がり係合する転がり係合部31を含む。転がり係合部31は、ローラー32であることができる。ダイ30は、ローラー32と、ローラー32と接触するホルダ34と、ローラー32を挟んでホルダ34と対向するリテーナー36と、を含むことができる。ローラー32は、加工前のワーク20に対し転がり係合しながらワーク20の側壁22の肉厚Sを薄肉化して、加工後の製品の側壁の肉厚S’に加工することができる。加工後の製品の肉厚S’は、パンチ10の外壁面12とローラー32の外周面とのクリアランスであり、加工後の製品の外形はワーク20に比べて縮径される。
【0033】
ローラー32は、例えば複数設けられ、ワーク20の略多角形例えば四角形の側壁22に合わせて少なくとも各辺221のそれぞれに対応してローラー32を配置することができ、本実施の形態では4本配置されている。ローラー32は、回転軸Oに沿って延びる略円柱状であり、図2において実線及び点線で示されるように、ワーク20の側壁22の辺221に係合する辺形成部321と、角部222の半分に係合する角部形成部322と、を有することができる。角部形成部322は、ローラー32の両端部付近の外周面に形成され、ローラー32の端部に向かうに従って拡径する断面円弧状の円柱であり、側壁22の1つ角部222に対し隣り合う角部形成部322と共に転がり係合することができる。辺形成部321は、ローラー32の両端部の角部形成部322、322の間に形成された一定の外径を有する円柱であり、側壁22の直線状の辺221に対し転がり係合することができる。ローラー32の回転軸Oは同一水平面内に配置され、隣り合うローラー32の回転軸Oは互いに直交している。
【0034】
ホルダ34は、ローラー32と接触しかつ断面が円弧状の支持面341を有することができる。ホルダ34は、加工後のワークの外周面よりもわずかに大きな内形を有しかつ加工後のワークが非接触に通過することを許容する略四角形の開口部344及び内壁面343を有することができる。ホルダ34の支持面341は、ローラー32の外形に合わせて形成され、ローラー32を支持するとともに、ローラー32の回転によりローラー32の外周面に対し滑り係合することができる。ホルダ34の支持面341は、ワーク20の側壁22と接触するローラー32の領域と対向する領域に形成することができ、ワーク20を加工する加工圧力はローラー32を介して受けることができる。さらに、支持面341で受けた加工圧力は、ローラー32が回転することで滑り係合に変換され、摩擦熱となることができる。
【0035】
リテーナー36は、ローラー32を挟んでホルダ34と対向して配置され、ホルダ34の接合面342に対し複数個所でボルト361によって結合することができる。リテーナー36は、ローラー32の外周面に合わせて形成された断面が円弧状の支持面365を有し、リテーナー36の支持面365とホルダ34の支持面341とによってローラー32の外周面と滑り係合することができる。リテーナー36の支持面365とホルダ34の支持面341とによって形成された円弧状の支持面は、ワーク20と接触し加工するために露出しているローラー32の一部を除いて、ローラー32の外径の半分以上を覆うように形成することができる。したがって、ホルダ34とリテーナー36とは、ワーク20を加工する際に、ローラー32を確実に保持しながら、ローラー32とワーク20との転がり係合をローラー32との滑り係合に変換することができる。このように、ローラー32とワーク20とが転がり係合することによって、ローラー32とワーク20との接触界面における温度上昇を抑制することができ、ワーク20の凝着や金型の焼付きなどを防止することができる。
【0036】
また、リテーナー36には、潤滑油をローラー32の外周面へ供給するための給油口362と油路363が形成されている。油路363は、リテーナー36とホルダ34の接合面342との間に形成されている。油路363を挟んでローラー32と対向する側にシール部364が設けられ、リテーナー36とホルダ34との接合部分から外への潤滑油漏れを防いでいる。給油口362から供給された潤滑油は、ローラー32が回転することによって、ワーク20と接触するローラー32の表面に油路363から自動的に供給することができる。このように、ダイとしてローラー32を用いたことで、加工面への潤滑油の供給が確実に行われ、従来のようにダイの加工面付近における摩擦熱による焼付きを防止することができる。そのため、作業者が加工の度に潤滑油を金型に供給する人的作業工程を減らすことができる。なお、ローラー32とワーク20とは転がり係合によって摩擦が低減しているので、潤滑油の供給量も減らすことができ、さらには潤滑油を用いない加工も可能とすることができる。
【0037】
ダイ30は、例えばダイス鋼を用いることができる。ホルダ34及びリテーナー36は、ローラー32を介して高圧の加工圧力を受けることになるので、十分な強度が必要である。ワーク20と接触するローラー32の表面には、チタン系硬質膜例えば炭化チタン(TiC)系硬質膜などを形成することができる。ローラー32と滑り係合するホルダ34及びリテーナー36の支持面341、365には、ローラー32との摩擦係数を低減させて摩擦熱の発生を抑制するため、低摩擦係数の硬質膜例えばダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜などを形成することができる。
【0038】
次に、図3〜図5を用いて、第1の実施の形態にかかるプレス機械の加工工程について説明する。
【0039】
図3に示すように、パンチ10及びパンチ10に係合されたワーク20を矢印Aの方向へ相対移動させ、ダイ30のローラー32の外周面にワーク20の側壁22の外周面28を接触させる。ローラー32は、ワーク20との接触によって、ホルダ34の支持面341上で滑りながら矢印B方向へ回転軸Oを中心に回転を開始する。ローラー32の回転によって、給油口362から油路363へ供給された潤滑油は、ローラー32の外周面に付着してワーク20との接触界面へと自動的に供給される。ローラー32がワーク20から受けた加工圧力は、ローラー32を支持するホルダ34及びリテーナー36の支持面341、365が受けることになる。
【0040】
図4に示すように、パンチ10及びワーク20を矢印Aの方向へさらに相対移動させると、ワーク20の側壁22がローラー32の外周面とパンチ10の外壁面12とのクリアランスに減じられて肉厚S’にいわゆるしごき加工される。ここでしごき加工は、パンチ10とダイ30とのクリアランスをワーク20の肉厚Sよりも狭くして加工する方法である。しごき加工に用いられる一般的なダイは、ダイRと呼ばれるワークと接触する湾曲部分を有する。これに対し、本実施の形態にかかるしごき加工は、従来のしごき加工と異なり、従来のダイRに代わってローラー32を備えるので、ローラー32が回転することによってワーク20とローラー32とは転がり係合することになる。ワーク20とローラー32とが転がり係合することにより、これらの接触界面における摩擦が減少し、従来のダイRに発生していた摩擦熱を低減することができる。
【0041】
ローラー32は、ホルダ34の支持面341によって矢印A方向で支持されているため、支持面341上で回転し、支持面341と滑り係合することができる。ローラー32が矢印Bの方向へ回転することにより、油路363から潤滑油がローラー32の外表面へ供給され、ワーク20の外壁面12との接触界面へ自動的に供給される。このため、従来のダイRを用いたときのように、ワーク20におけるしごき方向すなわち矢印A方向の加工部の長さが長くなることによってダイR表面の潤滑膜切れが発生することを防止できる。
【0042】
図5に示すように、パンチ10及びワーク20を矢印Aの方向へさらに相対移動させると、ワーク20の全長にわたってしごき加工が行われることにより製品20aが得られる。製品20aは、パンチ10の外壁面12に側壁22aの内周面26aが密着し、側壁22aの外周面28aがホルダ34の内壁面343との間にわずかにクリアランスを保っている。製品20aは、側壁22aが矢印A方向に沿って全体に均一な肉厚S’に形成されている。
【0043】
製品20aが矢印A方向の全体で加工されると、パンチ10の相対移動が停止し、ローラー32の回転も停止する。その後、パンチ10を矢印Aとは反対方向へ相対移動させ、製品20aをダイ30内から取り出すことができる。このとき、ローラー32は、矢印Aとは反対方向へ力を受けるが、リテーナー36の支持面365によって支持されているため、支持面365上で矢印Bとは反対方向へ回転し、矢印Aとは反対方向への移動が規制される。
【0044】
このように、従来のしごき加工におけるダイのダイRとワークとの滑り係合による摩擦熱に比べ、本実施の形態におけるワーク20とローラー32との転がり係合による摩擦熱は減少する。これによって、従来の金型において凝着や焼付きなどの加工不良が生じやすかった加工において、金型への凝着や金型の焼付きなどを生じにくくすることができる。このような加工不良を生じやすかった従来の加工方法としては、例えば、ワーク20における矢印A方向すなわちしごき方向の加工部分の長さ(以下、しごき長という)を増加したり、比較的硬い材質のワークを加工したりするケースがある。これに対して、本実施の形態によれば、金型への凝着や焼付きが生じにくいため、例えば、加工可能な製品20aサイズを広げることができたり、加工圧力を増加することで比較的硬く加工が難しかった材質のワーク20にも対応したりことができる。さらに、本実施の形態によれば、例えば、自動的にローラー32とワーク20との接触界面へ潤滑油が供給されるため、潤滑膜切れが防止され、金型への凝着や焼付きが防止できる。また、ローラー32とワーク10との摩擦が少ないため、例えば、従来のしごき加工に比べ加工圧力を減少することができ、プレス加工における省エネルギー運転が可能となる。
【0045】
(第2の実施の形態)
図7は、第2の実施の形態に係るプレス機械の転がり係合部を模式的に示す平面図である。図7では、図2における第1の実施の形態と共通するリテーナー36、ホルダ34などは省略し、ワーク20の1つの角部222付近における第1、第2のローラー323,324の構造と配置を示している。なお、図7は、加工途中のワーク20の側壁22を点線で示している。本実施の形態においては、複数の第1、第2のローラー323,324は、ワーク20の外周面28の少なくとも一部に対して転がり係合して加工する転がり係合部31として機能することができる。
【0046】
第1、第2のローラー323,324は、ワーク20の略多角形例えば四角形の側壁22に合わせて配置され、本実施の形態では例えば8本配置されている。第1のローラー323はワーク20の側壁22の辺221に係合するローラーであり、第2のローラー324は角部222に係合するローラーであることができる。第1のローラー323は、辺221に合わせて形成された一定の外径を有する円柱であり、直線状の辺221に対し転がり係合することができ、辺221における摩擦を低減できる。第2のローラー324は、側壁22の1つ角部222に合わせて形成された中心部から両端部に向かうに従って拡径する断面円弧状の外周面を有する円柱であり、1つ角部222に対し転がり係合することができ、角部222における摩擦を低減できる。第2のローラー324は、回転軸Oに沿った断面において、ワーク20と接触する表面が円弧状であることができる。
【0047】
第1のローラー323は各辺221のそれぞれに対応して4本配置されることができ、第2のローラー324は各角部222のそれぞれに対応して4本配置されることができる。第1、第2のローラー323,324の回転軸Oは同一水平面内に配置され、第1のローラー323と第2のローラー324の回転軸Oは45度で交差している。このように配置された第1のローラー323と第2のローラー324の内周形状が、加工後の製品20aの外周面28aとなる。
【0048】
(第3の実施の形態)
図8は、第3の実施の形態に係るプレス機械の転がり係合部を模式的に示す平面図である。図8では、図7と同様に、図2における第1の実施の形態と共通するリテーナー36、ホルダ34などは省略し、ワーク20の転がり係合部31、特に1つの角部222付近における第1、第2のローラー323,324a,324bの構造と配置を示している。本実施の形態は、1つの角部222を加工するために2本の第2のローラー324a,324bが配置されている点で第2の実施の形態と異なる。したがって、本実施の形態においては、第1のローラー323が各辺221に1本ずつで合計4本配置され、第2のローラー324a,324bが各角部222に2本ずつで合計8本配置されることになる。このように配置された第1のローラー323と第2のローラー324a,324bの内周形状が、加工後の製品20aの外周面28aとなる。
【0049】
第2のローラー324aと第2のローラー324bとは、同じ外形を有している。第2のローラー324aと第2のローラー324bとは、1つの角部222の半分に対してそれぞれ係合することができる。第2のローラー324a,324bは、中心部から両端部に向かうに従って拡径する断面円弧状の外周面を有する円柱である。第2のローラー324a,324bは、回転軸Oに沿った断面において、ワーク20と接触する表面が円弧状であることができる。第2の実施の形態における第2のローラー324と比べると、角部222が同一形状であるとき、第3の実施の形態における第2のローラー324a,324bの方が中心部の外径と両端部付近の外径との差が小さい。本実施の形態においては、1つの角部222に対して2本の第2のローラー324a,324bを配置した例について説明したが、これに限らず、1つの角部222に対して3本以上の複数のローラーを配置することができる。このように、1つの角部222に対し複数本のローラーを配置することで、角部222の円弧の長さが比較的長い場合にローラーの外径が大きくならないので省スペースな金型とすることができる。
【0050】
第2の実施の形態及び第3の実施の形態は、第1の実施の形態の効果に加え、さらに以下のような効果を有することができる。辺221に対応する第1のローラー323と、角部222に対応する第2のローラー324,324a,324bと、を別々に設けることで、加工時において、第1のローラー323の表面の速度と、第2のローラー324,324a,324bの表面の速度と、の速度差を軽減することができる。このように表面の速度差が軽減することで、ローラーとワークとの滑り摩擦量の差が減少する。滑り摩擦量の差の減少は、摩擦熱を抑制し、また滑り摩擦している部分の潤滑油切れを抑制することになり、1つの角部222に対し複数のローラーを用いることがさらに有利である。また、第1〜第3の実施の形態におけるワーク20もしくは製品20aは、その横断面略多角形の角部222が円弧状であったが、これに限らず角部222に傾斜面を含んでもよく、円弧と傾斜面との組み合わせによって構成されていてもよい。その場合には、角部222を加工するローラーの外表面もその形状に合わせて形成することができる。
【0051】
(第4の実施の形態)
図9は、本発明の第4の実施の形態に係るプレス機械の転がり係合部を模式的に示す平面図である。図9では、図7と同様に、図2における第1の実施の形態と共通するリテーナー36、ホルダ34などは省略し、ワーク200における転がり係合部31、特に第3のローラー325の構造と配置を示している。ワーク200は、第1〜第3の実施の形態と同様に側壁220と図示しない底部とを有する有底筒状であって、第1〜第3の実施の形態と異なり側壁220の横断面が円形の外周形状を有する有底円筒体である。ワーク200の円形の側壁220の外周をN等分したN個の円弧部に対応してN個のローラーを配置することができ、側壁220における摩擦を軽減することができる。本実施の形態においては、N=4であり、4個の第3のローラー325を配置することができる。このように配置された第3のローラー325の内周形状が、加工後の製品の外周面280aとなる。第3のローラー325は、回転軸Oに沿った断面において、ワーク200と接触する表面が円弧状であることができる。このような第3のローラー325を用いることで、なめらかな円形の外周形状を有する製品に加工することができる。
【0052】
(第5の実施の形態)
図10は、本発明の第5の実施の形態に係るプレス機械の転がり係合部を模式的に示す平面図である。図10では、図7と同様に、図2における第1の実施の形態と共通するリテーナー36、ホルダ34などは省略し、ワーク200における転がり係合部31、特に第3のローラー325aの構造と配置を示している。図10は、加工途中のワーク200を点線で示している。ワーク200は、第4の実施の形態と同様の有底円筒体であり、本実施の形態においてはN=8であり、円形の側壁220の外周を8等分した8個の円弧部に対応して8個の第3のローラー325aが配置されている。このように配置された第3のローラー325aの内周形状が、加工後の製品の外周面280aとなる。第3のローラー325aは、回転軸Oに沿った断面において、ワーク200と接触する表面が円弧状であることができる。
【0053】
なお、上記のように本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。本発明の実施の形態においては、プレス加工におけるしごき加工について述べたが、ワークとダイとが通常は滑り係合するような例えば絞り加工、しごき絞り加工などにも応用することができる。また、本発明の実施の形態において1つのローラーで説明した例えば第2の実施の形態の第1のローラー323を、複数例えば2つのローラーを回転軸Oに沿って並べて1つの辺221を加工するように構成することもできる。さらに、本発明の実施の形態においては凹凸の少ない外周面を加工するために円柱状のローラーを用いたが、製品の仕様によっては例えば球体をローラーとして用いることもできる。また、ワークの全周に渡ってローラーを配置した例について説明したが、これに限らずワークの外周の一部に係合するようにローラーを配置することができる。例えば、凝着や焼付きし易いワークの外周の一部や、他の外周よりもしごき率の高い部分などに対してローラーを配置することができる。したがって、このような変形例はすべて、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0054】
(比較例1)
図11は、転がり係合部を有しない比較例に係るプレス機械の金型及びワークを模式的に示す縦断面図である。比較例1は、図11において、パンチ10及びワーク20については、第1の実施の形態と同様であるので説明を省略する。ダイ300は、従来のプレス加工用の金型と同様であり、ワーク20と係合し、しごき加工するダイR310が形成されている。材質がフェライト系ステンレス鋼(SUS430)のワークを、しごき率10%、矢印A方向のしごき長100mmの条件でしごき加工を行った。なお、加工前のワーク20の側壁22の肉厚をS,加工後の製品20aの側壁22aの肉厚をS’としたとき、しごき率は、100・(S−S’)/S(%)で計算した。しごき率の計算は、以下の比較例及び実施例においても同様に計算した。比較例1のダイ300は、1回のしごき加工で焼付きが発生した。
【0055】
(比較例2)
比較例2は、図11に示す金型を用いて、材質がアルミニウム(A1050)のワーク20を、しごき率20%、しごき長100mmの条件でしごき加工を行った。比較例2のダイ300は、1回のしごき加工で凝着が発生した。
【0056】
(比較例3)
比較例3は、図11に示す金型を有底円筒状のワークを加工する形状に変更して、材質がフェライト系ステンレス鋼(SUS430)のワークを、しごき率25%、しごき長200mmの条件でしごき加工を行った。比較例3のダイ300は、1回のしごき加工で焼付きが発生した。なお、比較例1〜3において、ダイRには加工前にあらかじめ潤滑油を塗布した。
【実施例1】
【0057】
実施例1は、図1,図2に示す第1の実施の形態のプレス機械の金型を用いて、材質がSUS430のワーク10を、しごき率10%、しごき長100mmの条件でしごき加工を行った。ダイ30、特にローラー32に焼付きは発生せず、問題なく加工できた。また、比較例1における焼付きが発生する前の加工圧力に比べて、実施例1では加工圧力が約10%減少した。
【実施例2】
【0058】
実施例2は、図1,図2に示す第1の実施の形態のプレス機械の金型を用いて、材質がアルミニウム(A1050)のワークを、しごき率20%、しごき長100mmの条件でしごき加工を行った。ダイ30、特にローラー32に凝着は発生せず、問題なく加工できた。また、比較例2における凝着が発生する前の加工圧力に比べて、実施例2では加工圧力が約10%減少した。
【実施例3】
【0059】
実施例3は、図9に示す第4の実施の形態のプレス機械の金型を用いて、材質がフェライト系ステンレス鋼(SUS430)のワークを、しごき率25%、しごき長200mmの条件でしごき加工を行った。第3のローラー325に焼付きは発生せず、問題なく加工できた。また、比較例3における焼付きが発生する前の加工圧力に比べて、実施例3では加工圧力が約10%減少した。なお、実施例1〜3において、ローラー32,325には潤滑油を供給しなかった。
【符号の説明】
【0060】
10 パンチ
12 外壁面
14 底面
20 ワーク
22 側壁
24 底部
30 ダイ
31 転がり係合部
32 ローラー
34 ホルダ
36 リテーナー
A 矢印
S 加工前のワークの肉厚
S’ 加工後のワークの肉厚
B 矢印
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイと、
筒状のワークの内周面と係合し、かつ、前記ダイに対し相対移動可能なパンチと、
を有するプレス機械であって、
前記ダイは、前記ワークの外周面の少なくとも一部に対して転がり係合する転がり係合部を含む、プレス機械。
【請求項2】
前記転がり係合部の外周面に対し滑り係合するホルダと、前記転がり係合部を挟んで該ホルダと対向するリテーナーと、をさらに備える、請求項1記載のプレス機械。
【請求項3】
前記転がり係合部は、複数のローラーで構成され、
前記ローラーが回転することによって、前記ワークと接触する前記ローラーの表面に潤滑油を供給可能に形成した、請求項1または請求項2記載のプレス機械。
【請求項4】
前記転がり係合部は、複数のローラーで構成され、
前記ワークは、断面が略多角形の外周形状を有し、
前記略多角形の各辺のそれぞれに対応してローラーを配置した、請求項1または請求項2記載のプレス機械。
【請求項5】
前記転がり係合部は、複数のローラーで構成され、
略多角形の前記ワークの角部は、円弧状に形成され、
前記各角部のそれぞれに対応してローラーを配置した、請求項4記載のプレス機械。
【請求項6】
前記ワークは、断面が円形の外周形状を有し、
前記円形の外周をN等分したN個の円弧部に対応してN個のローラーを配置した、請求項1または請求項2記載のプレス機械。
【請求項7】
前記ローラーは、前記ローラーの回転軸に沿った断面において、前記ワークと接触する表面が円弧状である、請求項6記載のプレス機械。
【請求項8】
筒状のワークの外周面の少なくとも一部を加工する複数のローラーと、
前記ワークの内周面と係合し、かつ、前記ローラーに対し相対移動可能なパンチと、
前記ローラーと接触する断面が円弧状の支持面を有するホルダと、
前記ローラーを挟んで前記ホルダと対向するリテーナーと、
を含む、プレス機械。
【請求項1】
ダイと、
筒状のワークの内周面と係合し、かつ、前記ダイに対し相対移動可能なパンチと、
を有するプレス機械であって、
前記ダイは、前記ワークの外周面の少なくとも一部に対して転がり係合する転がり係合部を含む、プレス機械。
【請求項2】
前記転がり係合部の外周面に対し滑り係合するホルダと、前記転がり係合部を挟んで該ホルダと対向するリテーナーと、をさらに備える、請求項1記載のプレス機械。
【請求項3】
前記転がり係合部は、複数のローラーで構成され、
前記ローラーが回転することによって、前記ワークと接触する前記ローラーの表面に潤滑油を供給可能に形成した、請求項1または請求項2記載のプレス機械。
【請求項4】
前記転がり係合部は、複数のローラーで構成され、
前記ワークは、断面が略多角形の外周形状を有し、
前記略多角形の各辺のそれぞれに対応してローラーを配置した、請求項1または請求項2記載のプレス機械。
【請求項5】
前記転がり係合部は、複数のローラーで構成され、
略多角形の前記ワークの角部は、円弧状に形成され、
前記各角部のそれぞれに対応してローラーを配置した、請求項4記載のプレス機械。
【請求項6】
前記ワークは、断面が円形の外周形状を有し、
前記円形の外周をN等分したN個の円弧部に対応してN個のローラーを配置した、請求項1または請求項2記載のプレス機械。
【請求項7】
前記ローラーは、前記ローラーの回転軸に沿った断面において、前記ワークと接触する表面が円弧状である、請求項6記載のプレス機械。
【請求項8】
筒状のワークの外周面の少なくとも一部を加工する複数のローラーと、
前記ワークの内周面と係合し、かつ、前記ローラーに対し相対移動可能なパンチと、
前記ローラーと接触する断面が円弧状の支持面を有するホルダと、
前記ローラーを挟んで前記ホルダと対向するリテーナーと、
を含む、プレス機械。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−189357(P2011−189357A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55671(P2010−55671)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
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