説明

プレス油省略可能非脱膜型潤滑めっき鋼板の製造方法

【目的】 本発明はプレス油を塗布することなく深絞り、曲げ加工が可能でそのまゝ耐食性被膜として使用できる非脱膜型の潤滑鋼板の製造方法を提供する。
【構成】 めっき鋼板の表面にクロム付着量がクロムとして1平方米当り5〜100ミリグラムのクロメート処理を行いビスフェノール骨格、エステル骨格、カルボキシル基を有するエーテルエステル型ウレタン樹脂とエポキシ樹脂に10〜40%のシリカ、3〜30%のポリオレフィンワックスを含有する潤滑被膜を0.2〜5μmになるように塗布し板温80〜200℃に焼付けて製造する。
【効果】 フロン、トリエタンを使用せずにプレス加工出来、そのまゝ耐食性被膜として利用できる。有機溶剤を含まないため、既存のめっきラインで製造出来る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はプレス油を用いずにプレス加工した後、被膜を除去することなく使用する家電、建材、自動車等の部品に利用する表面処理鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来の部品はプレス油を塗布しプレス成形後油を除去して製造する工程であった。しかし、脱脂溶剤の使用規制や、コスト低減を目的としたプレス油省略できる潤滑性能、プレス後の被膜が優れた表面特性(外観、耐食性、塗料密着性等)を有する表面処理鋼板のニーズが強くなっている。本発明はこのニーズに答えることのできる画期的な潤滑めっき鋼板の製造方法を提供するものである。本発明に関係する公開技術としては特開平3−16726号公報「成形性の優れた潤滑樹脂処理鋼板」がある。この鋼板は明細書のなかで亜鉛系あるいはアルミニウム系の合金めっき鋼板の表面にCr付着量200mg/m2 以下のクロメート処理を行い、その上に0.3〜3.0g/m2 の樹脂被膜を有するもので樹脂被膜は水酸基および/またはカルボキシル基を有する樹脂100重量部、シリカ10〜80重量部、平均粒径1〜7μmのポリオレフィンワックス20重量部の割合の塗料を塗布し、焼き付けて得ると述べられている。
【0003】しかし、非脱膜型の潤滑鋼板では加工後の外観と性能が重要であり、潤滑被膜の膜厚の均一性や延び、圧縮、摺動摩耗性を考慮しなければならない。特に高速連続クランクプレス加工性や、加工後の被膜劣化が少ない観点では満足するものではなく、樹脂、シリカおよび潤滑剤で構成される被膜を最適化することによってはじめて安定操業可能な潤滑鋼板が得られる。また、従来の技術は高速のめっきラインで生産するための様々な問題を解決したものではない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、クランクプレスによる高速の深絞り加工、張り出し加工、フランジ成形および曲げ加工性に優れた潤滑性能を有し且つ、加工による被膜の劣化が少なく汎用性の特性に優れたプレス油省略可能非脱膜型潤滑めっき鋼板をめっきラインで製造する方法を提供するものである。特に潤滑鋼板は低コストで生産できることが品質と同様に必要不可欠であり、そのためには連続めっきラインで生産可能な塗料および塗装技術が必要である。現行のめっきラインの多くは有機溶剤塗料を塗装焼き付ける設備はなく有機溶剤を含まないか操業上極力抑えた水系樹脂塗料が前提となる。しかも、高速で高精度の膜厚制御が要求され、かつ、急速加熱冷却工程で製造可能な塗料物性と製造条件が必要となる。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は従来技術の課題を有利に解決するものであって、(1)めっき鋼板の表面にCr付着量5〜100mg/m2 のクロメート処理もしくは付着量0.2〜2.0g/m2 のリン酸塩処理を行って化成処理被膜を形成させ、ついでビスフェノール型骨格、エステル骨格およびカルボキシル基を有するエーテル・エステル型ウレタン樹脂(a)とエポキシ樹脂(b)の総和(a+b)が全固形分に対して50〜85重量%、ポリオレフィンワックス(c)を3〜30重量%、粒径3〜30nmのシリカ(d)を10〜40重量%含有する水性潤滑塗料を乾燥膜厚として0.2〜5μm塗布し、到達板温として80〜200℃に焼き付けたのち、強制冷却することを特徴とするプレス油省略可能非脱膜型潤滑めっき鋼板の製造方法。
【0006】(2)エーテル・エステル型ウレタン樹脂(a)のポリエステル骨格に対するポリエーテル骨格の重量比率が10:90〜70:30であり、かつ前記ウレタン樹脂の酸価が10〜50であることを特徴とする(1)記載のプレス油省略可能非脱膜型潤滑めっき鋼板の製造方法。
(3)エポキシ樹脂(b)がグリコール骨格またはビスフェノール型骨格を有するタイプであって、(a)のカルボキシル基の20〜100重量%と反応する比率で(b)が配合されることを特徴とする(1)記載のプレス油省略可能非脱膜型潤滑めっき鋼板の製造方法。
(4)ポリオレフィンワックス(c)の融点が70〜160℃、粒径0.1〜7.0μmであることを特徴とする(1)記載のプレス油省略可能非脱膜型潤滑めっき鋼板の製造方法。
【0007】(5)ポリオレフィンワックス(c)の酸価が30以下または0であり、且つ分岐を有する構造であることを特徴とする(1)記載のプレス油省略非脱膜型潤滑めっき鋼板の製造方法。
(6)付加エチレンオキサイドのモル数が0〜20のアセチレングリコール・アルコール型界面活性剤(e)を塗料に対し0.05〜0.5重量%、エーテルおよびウレタン骨格を有するニュートニアタイプの増粘剤(f)を固形分に対して0.01〜0.2重量%のいずれかもしくは両方含有する水性塗料を塗布・焼き付けて得られる被膜を設けたことを特徴とする(1)記載のプレス油省略可能非脱膜型潤滑めっき鋼板の製造方法。
【0008】
【作用および実施例】本発明のプレス油省略可能非脱膜型潤滑めっき鋼板は図1に示す被膜の構造である。すなわち、薄鋼板(A)の上にめっき被膜(B)、クロメートもしくはリン酸塩被膜の化成被膜(C)、潤滑被膜(D)からなる被膜構造である。各被膜は用途に応じて両面もしくは片面もしくは表裏の膜厚、被膜組成の異なる構成をとることが可能である。本発明は基本的にはすべての薄鋼板即ちアルミキルド鋼板、極低炭素鋼板、高張力鋼板に適用できる。
【0009】本発明の製造プロセスの一例を次ぎに示す。


めっき種は電気めっき、溶融めっき、気相めっきで得られる亜鉛、亜鉛合金めっき、および複層めっき鋼板、アルミニウム、アルミニウム合金めっきおよび複層めっき鋼板である。めっき量は特に限定する必要はなく通常使用されているめっき鋼板を用いることができる。
【0010】上述のめっき鋼板(コイル)の表面に化成被膜を形成させる。化成被膜としてはクロメート被膜もしくはリン酸塩被膜を用いる。クロメートはクロム酸と硫酸等のアニオンを含む浴や、さらに不可避的もしくは必要により金属イオンを含有する液中でめっき鋼板を陰極として電解還元し、3価クロム水和酸化物を主成分とする後水洗型の電解クロメート、クロム酸と硫酸、硝酸フッ素等を含有するクロメート液をめっき表面にスプレーもしくは浸漬したのち水洗し、3価クロムと6価クロム水和酸化物を主成分とする被膜を形成させるエッチングクロメート、クロメート液を既存の方法で塗布し乾燥して水洗することなくクロメート皮膜を被覆する塗布型クロメートを採用できる。クロメートの付着量はCr換算で5〜100mg/m2 である。5mg/m2 未満では耐食性が得られないので好ましくない。100mg/m2 超ではクロメート自身の凝集破壊が生じ易く密着性が得られない。クロメート皮膜は3価クロム/6価クロム比率の高い水系潤滑塗料に溶解しにくい後水洗型のクロメートが望ましい。
【0011】リン酸塩被膜は市販のスプレー、浸漬、塗布型から選択したリン酸亜鉛、鉄、ニッケル、マンガン、カルシウム等のリン酸塩を形成させるリン酸塩処理をめっき鋼板の表面におこなう。リン酸塩被膜の付着量は、0.2〜2.0g/m2 の範囲が耐食性および密着性の理由で望ましい。0.2g/m2 未満では耐食性が得られない。2.0g/m2 超ではリン酸塩皮膜の凝集破壊により、厳しい加工で密着性が得られない。
【0012】本発明の潤滑被膜の塗料について以下説明する。本発明の塗料は樹脂、潤滑剤およびシリカを主成分として構成されている。本発明に用いる樹脂は分子量が3000以上でビスフェノール型骨格とエステル骨格を有しかつカルボキシル基を有する水分散性のエーテル・エステル型ウレタン樹脂(a)とグリコール骨格またはビスフェノール骨格を有する水溶性または水分散性のエポキシ樹脂(b)を(a)のカルボキシル基の20〜100%を反応させる比率で配合したもので構成する。本発明が目的とする被膜特性には樹脂が極めて重要である。
【0013】すなわち、高加工性と化学的な耐久性を満足させるためには密着性、被膜強度および延びのバランスがとれていることが重要である。低分子量の樹脂の架橋によって得られる被膜よりも分子量の大きいウレタン樹脂とエポキシ樹脂とを配合することで上記特性に優れた被膜が得られる。分子量の大きなウレタン樹脂は被膜の強度と延性バランスや耐摩耗性に寄与し、エポキシ樹脂は密着性、被膜強度、化学的な耐久性に寄与し、両者の配合により、高加工性と耐食性に優れた被膜が得られる。被膜の強度と延性バランスをより優れたものにするためには分子量の大きな樹脂が有利であり、樹脂のハードセグメントとソフトセグメントのバランスと架橋密度が重要である。
【0014】ウレタンのポリエステル成分は可とう性、ポリエーテルは強靱性が得られ、ウレタン樹脂のポリエーテル/ポリエステルの重量比を10/90〜70/30の範囲にすることが好ましい。エポキシ樹脂(b)の配合量はウレタン樹脂(a)のカルボキシル基の20〜100%を反応させる比率で配合したものが最も好ましい。ウレタン樹脂骨格のポリエーテルポリオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ビスフェノールAなどの低分子グリコール類にエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドなどを付加したポリオール、ポリオキシテトラメチレングリコールなどである。このうち、特にビスフェノールA骨格を有するポリエーテルポリオールが良好な結果が得られる。
【0015】ポリエステルポリオールとしては低分子グリコール類と二塩基酸との脱水縮合反応によって得られるポリエステル類およびε−カプロラクタムなどのラクタム類を低分子グリコールの存在で開環重合したラクタムポリオール類が挙げられる。ウレタン樹脂のエステル骨格とエーテル骨格を結合させるイソシアネート基としてはトリジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートの単量体、2量体、3量体およびそれらとポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとの反応物および混合物を使用することができる。配合量は使用するポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールおよび後述するカルボキシル基導入成分の分子量との比がNCO換算でウレタン樹脂の5〜20重量%が加工性に優れ好ましい。カルボキシル基は自己乳化するための官能基であるとともに金属表面との密着性を得るために必要である。
【0016】カルボキシル基の導入成分としては2個以上のヒドロキシル基またはアミノ基と1個以上のカルボキシル基を含む化合物であり、2,2−ジメチロール酢酸、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールペンタン酸などのジヒドロキシカルボン酸やリジン、アルギニンなどのジアミノカルボン酸を挙げることができる。カルボキシル基化合物は前記のポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとの組み合せでイソシアネート化合物で高分子化される。この方法により分子量3000以上のカルボキシル基を有するエーテル・エステル型ウレタン樹脂が得られる。カルボキシル基の量はウレタン固形分当たりの酸価で10〜50が好ましい。酸価10未満では得られる被膜の密着性が不十分であり、酸価50超では耐水性、耐アルカリ性が低下し好ましくない。
【0017】ウレタン樹脂の分子量3000以上は後述するエポキシ樹脂との配合で強度延性バランスに優れ加工性、耐食性などに優れた被膜を得るために必要である。水にウレタン樹脂を分散させる方法はカルボキシル基をアンモニア,アミンなどのアルカリで中和させて自己乳化させるか、乳化剤を用いて乳化させる。
【0018】以下エポキシ樹脂について述べる。ウレタン樹脂単独では加工性、耐食性が得られずエポキシ樹脂を配合する。エポキシ樹脂は反応性の水酸基、エポキシ基を有するものが使用できるが、特にグリコール骨格などの水溶性エポキシもしくはビスフェノールA骨格の水分散性のものが好ましい。配合量はウレタン樹脂のカルボキシル基の20〜100%以上が反応する比率が望ましい。20%未満では加えるエポキシの効果すなわち耐薬品性や耐食性が不十分であり、密着性にも影響が出る。100%超えるとフリーのエポキシ樹脂の可塑剤的な性質が現れ加工性が低下するため好ましくない。配合量は次の式に従って配合する。
エポキシ固形分重量(g)=ウレタン樹脂の酸価×[(1/56)/1000 ]×エポキシ当量×ウレタン樹脂配合量(g)
【0019】以下潤滑剤について説明する。本発明では潤滑性を得るため潤滑剤を含有する。潤滑剤はフッ素系、炭化水素系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石鹸および無機系等の潤滑剤を用いることができる。このうち、ポリオレフィンワックスが優れた潤滑性が得られ、なかでも軟化点が70〜160℃、粒径が7.0μm以下の球形の分岐構造を有するポリエチレンが最も良好な結果が得られる。粒径7μm超では被膜が不均一となり好ましくない。また、乳化剤を必要としない酸化ポリエチレンを用いる場合その酸価は30以下の物が良い結果が得られる。潤滑剤の添加量は目的によって異なるが、潤滑特性の観点からポリエチレンの場合、被膜中に3〜30重量%含有させる。3%未満では実用的な低い摩擦係数が得られない。また、30%超では加工性および耐食性が低下する。最も好ましい濃度範囲は被膜中5〜20重量%である。
【0020】以下シリカについて説明する。シリカは耐食性の向上、被膜の強度、硬さを付与するため被膜中に10〜40重量%含有させる。10%未満では被膜の強度が不足し、プレスでプレスかすが発生しやすい。また、シリカの依存度が大きい耐食性が不十分である。40%超では被膜の延びが低下し、プレス性、深絞り性能が不十分である。最も好ましいシリカの濃度範囲は20〜30重量%である。シリカの粒径は3〜30nmが好ましい。3nmでは塗料がゲル化しやすい。30nm超では摩擦係数が上昇しプレス性が劣化する。本発明に用いるシリカは水ガラスをイオン交換法でナトリウムを除去して製造される液相のシリカゾルおよび四塩化ケイ素を熱分化して得られる気相シリカを用いることができるが、二次凝集の少ない粒子が独立して均一分散している液相シリカゾルが最も優れている。
【0021】この他の添加剤として本発明には一般的な界面活性剤、増粘剤、着色剤、消泡剤、防かび剤、分散剤などを加えて使用することができる。特に界面活性剤を加える場合は付加エチレンオキサイドのモル数が0〜20のアセチレングリコール・アルコール型界面活性剤(e)を塗料に対し0.05〜0.5重量%、塗装時の粘度調整のため増粘剤を加える場合はエーテルおよびウレタン骨格を有するニュートニアタイプの増粘剤(f)を固形分に対して0.01〜0.2重量%添加によって目的とする効果が得られる。
【0022】以上述べた化合物で構成される本発明の塗料は用途、塗装条件によって異なるが一般的には不揮発分濃度15〜30%、粘度10〜50cps、表面張力を80dyne/cm以下に調整することが望ましい。その理由は狙い膜厚を制御しやすく、外観むらや塗料はじきのない均一な膜厚を得るためである。塗布の方法はロールコート法、浸漬法、エアーナイフしぼり、グルーブロール法、カーテン塗布法等の既存の方法を採用できるが、膜厚制御および膜厚精度、むらのない外観が得られやすいリバースロールコート塗布が最も望ましい。塗布量は乾燥膜厚として0.2〜5μm塗布後ただちに熱風、遠赤外線炉、電気炉、燃焼炉、誘導加熱で板温80〜200℃好ましくは120〜160℃に焼き付けたのち水冷等の方法により強制冷却し乾燥して巻き取る。
【0023】膜厚0.2〜5μmの範囲を限定した理由は0.2μm未満では本発明が目的とする潤滑性、加工性、耐食性が不十分である。5μm超では溶接ができず、ブロッキング等の問題が生じ易くなる。焼付板温の限定理由は80℃未満では樹脂のリフローと架橋反応が不十分のため粗面の欠陥の多い被膜となり、200℃超では樹脂、潤滑剤のポリオレフィンが熱分解、加熱酸化を受け性能が劣化する。最も望ましい樹脂の融解と架橋による均一で平滑な無欠陥被膜および潤滑剤の適度な表面濃化と被膜中分散は120〜160℃の範囲で得られる。
【0024】以下、実施例について述べる。評価は特に断わらない限り次ぎのように行った。
(1)膜厚:被膜中のSiを蛍光X線で測定し膜厚換算した。
(2)動摩擦係数:直径10mmの鋼球に荷重を100g付加し100mm/分で移動させ水平方向の力(F)をロードセルで測定し動摩擦係数(μ)=F/100で示した。
(3)静摩擦係数:市販の200gの分銅をのせ速度0.5度/秒で傾斜させ滑り始めた角度から静摩擦係数を測定した。
(4)深絞りプレス性:角筒(65×115mm,成型高さ50)ダイスR=5mmクッション圧4トンで高速クランクプレスし、側面を観察評点ずけした。評点 5:良好 4:傷が少し発生 3:かすが付着 2:かじり多くかすも多い 1:ネッキング、割れ
【0025】(5)L曲げ:クリアランス5%で90度曲げを行ない外観評価した。プレスかすが全くないものを3点、ポンチ面に点状にかすが発生したものを2点、糸状にかすが発生したものを1点とした。
(6)密着性:エリクセンで9mm絞り凸面をテープ剥離し、剥離有り(×)、なし(○)で評価した。
(7)耐食性:塩水噴霧試験で白錆5%発生した試験時間(時間)で示した。
(8)耐薬品性:10×10mmの端子にガーゼを巻き、キシレンを浸し600g荷重で50回摺動させ外観から評点づけした。評点 3:良好 2:白化 1:剥離(9)スポット溶接性:直径が4.5mmのCF型電極もしくは先端に突起を有するプロジェクション型電極を用いて二枚の潤滑鋼板を150kg/cm2 で加圧し通電しナゲット形成(○)溶接不可(×)で評価した。
【0026】
【実施例】
実施例1板厚0.8mmの冷延鋼板に硫酸酸性亜鉛めっき浴を用いてめっき量20g/m2 の電気亜鉛めっきを行い、ただちにクロム酸/硫酸=50/0.5g/lの液中で陰極電解を行い(5A/dm2 )水洗しクロメート被膜を形成させた。続いて調合した潤滑塗料をリバースロールコーターで乾燥膜厚として3μ塗布し遠赤外炉+熱風炉の加熱工程で板温130℃に加熱後、水冷して潤滑鋼板を製造した。潤滑塗料は表1に示した樹脂および潤滑剤、シリカゾル、増粘剤を用いた。
【0027】
【表1】


【0028】図2にクロメートのCr付着量と密着性およびプレス性の結果を示した。図中の直線■は密着性(○、×)である。曲線■は深絞り性の結果である。曲線■は耐食性の結果である。Cr付着量が5〜80mg/m2 では良好な密着性およびプレス性が得られた。Cr付着量が100mg/m2 では性能低下が認められた。耐食性は30mg/m2 以上で良好な性能が得られ、Cr付着量が10mg/m2 では耐食性が低下する。全ての試料は0.06〜0.07の良好な動摩擦係数を示した。また、プロジェクション型の抵抗溶接で溶接は可能である。
【0029】実施例2実施例1のクロム付着量を50mg/m2 としためっき鋼板に表1の潤滑塗料を用いて潤滑鋼板を作成し、乾燥膜厚とプレス性、溶接性の関係を表2に示した。 膜厚0.2μmでも低い動摩擦係数が得られプレス割れのない深絞り成型が可能であった。L曲げは優れた性能を得た。膜厚1および2μm以上ではプレスにかじりが少し認められる程度でL曲げも良好な成型ができた。膜厚5μm材は深絞り性は優れているがL曲げおよび溶接で劣化している。特に溶接は辛うじて通電する程度に導電性が低下し、溶接性は不安定になった。耐食性では膜厚0.5μm以上で優れた性能が得られた。
【0030】
【表2】


【0031】実施例3板厚0.8mmの冷延鋼板に硫酸酸性亜鉛めっき浴を用いてめっき量20g/m2 の電気亜鉛めっきを行い、ただちに市販のエッチングクロメート処理液をスプレー処理したのち水洗しCr付着量50mg/m2 のクロメート処理を行った。続いて調合した潤滑塗料をリバースロールコーターで乾燥膜厚として3μ塗布し、熱風+電気炉の加熱工程で板温130℃に加熱後、水冷して潤滑鋼板を製造した。潤滑塗料は表3に示した樹脂および潤滑材、シリカゾルを用いた。
【0032】図3にポリエチレンの含有率と動摩擦係数および静摩擦係数とプレス性の結果を示した。図中の曲線■は動摩擦係数である。曲線■は静摩擦係数の結果である。曲線■はプレス性の評点結果である。■,■は左軸■は右軸である。ポリエチレンの添加量に従って摩擦係数が低くなり、プレス性も良好になる。特に10〜15%は優れたプレス性が得られた。摩擦係数は静と動で異なり、動摩擦では5%で略低位安定になるが、静では10%で安定化する。深絞りのプレス性は5%で良好なプレス性が得られ10〜15%で最も優れている。30%ではかじりが多くかすも発生してくる。いずれの試料も塩水噴霧耐食性は240時間で白錆の発生を認めなかった。
【0033】
【表3】


【0034】実施例4表1のめっき鋼板(Cr付着量40mg/m2 )および本発明の樹脂、シリカを用いて、潤滑剤の種類を替えて試験した結果を表4に示した。比較として市販のアクリル樹脂とシリカで構成される潤滑樹脂について同様の条件で製造した。本発明の4例はいずれも優れた深絞り性およびL曲げ性を示した。比較のアクリル樹脂系はテフロンでは割れが発生した。比較のアクリル樹脂にポリエチレンを用いた比較例では摩擦係数は低いが、かじりおよびプレスかすが発生しやすく本発明のウレタンエポキシに比べプレス性が劣っている。特にテフロン入り比較例はL曲げ性が良くなかった。
【0035】
【表4】


【0036】実施例5表5に示すシリカの含有率の異なるウレタンエポキシ樹脂、潤滑剤の潤滑塗料をめっき量20g/m2 のZn−Ni合金めっき鋼板(電解クロメート処理Cr付着量50mg/m2 )に1μm膜厚狙いで塗布し、燃焼炉で板温150℃に焼付けて試料を作成した。深絞りとL曲げの結果を図4に示す。
【0037】
【表5】


【0038】
【発明の効果】以上述べたように、本発明によって、フロン,トリエタンを使用せずにプレス加工することが出来、しかもそのまゝ耐食性被膜として利用できる。また、有機溶剤を含まないため、既存のめっきラインで製造することが出来る工業上極めて優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のプレス油省略可能非脱膜型潤滑めっき鋼板の被膜構造を示す図、
【図2】クロメートのCr付着量と密着性およびプレス性の結果を示す図、
【図3】ポリエチレンの含有率と動摩擦係数および静摩擦係数とプレス性の結果を示す図、
【図4】シリカ含有率とプレス性との関係を示す図である。
【符号の説明】
A 薄鋼板
B めっき被膜
C クロメート若しくはリン酸塩被膜の化成被膜
D 潤滑被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】 めっき鋼板の表面にCr付着量5〜100mg/m2 のクロメート処理もしくは付着量0.2〜2.0g/m2 のリン酸塩処理を行って化成処理被膜を形成させ、ついでビスフェノール型骨格、エステル骨格およびカルボキシル基を有するエーテル・エステル型ウレタン樹脂(a)とエポキシ樹脂(b)の総和(a+b)が全固形分に対して50〜85重量%、ポリオレフィンワックス(c)を3〜30重量%、粒径3〜30nmのシリカ(d)を10〜40重量%含有する水性潤滑塗料を乾燥膜厚として0.2〜5μm塗布し、到達板温として80〜200℃に焼き付けたのち、強制冷却することを特徴とするプレス油省略可能非脱膜型潤滑めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】 エーテル・エステル型ウレタン樹脂(a)のポリエステル骨格に対するポリエーテル骨格の重量比率が10:90〜70:30であり、かつ前記ウレタン樹脂の酸価が10〜50であることを特徴とする請求項第1記載のプレス油省略可能非脱膜型潤滑めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】 エポキシ樹脂(b)がグリコール骨格またはビスフェノール型骨格を有するタイプであって、(a)のカルボキシル基の20〜100重量%と反応する比率で(b)が配合されることを特徴とする請求項第1記載のプレス油省略可能非脱膜型潤滑めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】 ポリオレフィンワックス(c)の融点が70〜160℃、粒径0.1〜7.0μmであることを特徴とする請求項第1記載のプレス油省略可能非脱膜型潤滑めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】 ポリオレフィンワックス(c)の酸価が30以下または0であり、且つ分岐を有する構造であることを特徴とする請求項第1記載のプレス油省略非脱膜型潤滑めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】 付加エチレンオキサイドのモル数が0〜20のアセチレングリコール・アルコール型界面活性剤(e)を塗料に対し0.05〜0.5重量%、エーテルおよびウレタン骨格を有するニュートニアタイプの増粘剤(f)を固形分に対して0.01〜0.2重量%のいずれかもしくは両方含有する水性塗料を塗布・焼き付けて得られる被膜を設けたことを特徴とする請求項第1記載のプレス油省略可能非脱膜型潤滑めっき鋼板の製造方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【公開番号】特開平6−299367
【公開日】平成6年(1994)10月25日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−88448
【出願日】平成5年(1993)4月15日
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)