説明

プレセニリンγセクレターゼによるアルツハイマー病アミロイドの分解アッセイ法

【課題】γ−セクレターゼの修飾物質または阻害物質等を効率的に同定し、Aβ42産生を特異的に減少させる医薬をスクリーニングするための技術を提供する。
【解決手段】アミロイドβの配列の37位、38位、40位、25位および21位で終わるペプチドを基質として、候補物質の非存在下および存在下でγ−セクレターゼを接触させ、生じた切断ペプチドの量またはレベルを比較、判断することによる、γ−セクレターゼの修飾物質又は阻害物質のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレセニリンγ−セクレターゼ(secretase)(以下、特に断らない限りγ−セクレターゼという。)の修飾物質または阻害物質のスクリーニングに関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、老人班、神経原線維変化、神経細胞脱落そして認知障害によって特徴付けられる進行性の神経変性疾患である。病理学的、生化学的な検討から、老人斑の構成物質であるβ−アミロイド42(Aβ42)がADの原因物質であると推測されている。Aβは、その前駆タンパク質であるβAPPからβ−セクレターゼ(BACE1)により切断を受け、その後更にγ−セクレターゼにより切断を受け、いくつかの種類のAβ分子が産生される。家族性ADを引き起こす変異はAβ産生全体に占めるAβ42産生比率を増大させること(非特許文献1)や、またAβ42のサロゲートマーカーであるAPL1β28の患者CSF中での解析(非特許文献2)から「孤発性ADでも発症前からAβ42産生の比較的割合が増大している」可能性が示唆されている。そのため、家族性あるいは孤発性ADに関わらずAβ産生全体に占めるAβ42の産生される割合の増大がAD発症に関与している可能性が十分に考えられる。
【0003】
また現在、Aβ42産生を特異的に減少させるγ−セクレターゼ修飾薬の投与がADの予防的治療につながると広く考えられており、抗AD薬として開発されている。抗AD薬としては例えば、特許文献1におけるように開発がなされている。しかし、γ−セクレターゼ修飾薬がどのようにしてAβ42産生を減少させるか不明である。結局「Aβ42固有の産生および分泌メカニズム」自体が不明のため、γ−セクレターゼ修飾薬の作用メカニズムについて論じようがないのである。
【0004】
以上のことから「Aβ42がどのような仕組みで産生および分泌されているか」の解明はADの病理過程解明研究の目標のひとつとなっている。Aβ分子を全体としてみるとβAPPを基質としたBACE1による細胞外切断とそれに引き続くγ−セクレターゼ(プレセニリン(PS)/γ−セクレターゼとも称するが、本明細書では、特に断りのない限り単にγ−セクレターゼと称する)による膜内タンパク質分解により産生され、この仕組みについては詳しく研究されてきた。そしてAβ42分子に関しては、そのサロゲートマーカーとなり得る分子APL1β28(非特許文献2)やNβ25(非特許文献8、特許文献2〜4)がβAPP以外のγ−セクレターゼ基質として同定されている。しかし、最終的にはどのような仕組みで「原因物質Aβ42が産生および分泌されるのか」はよくわかっていない。
【0005】
γ−セクレターゼによるβAPPの膜内タンパク質分解の結果、細胞外Aβが分泌され、細胞質内にAICDが産生される。不思議なことにAβのC末端とAICDのN末端は連続せず、それらの間には6あるいは9アミノ酸残基のペプチドが残存している。既存の報告では(非特許文献3)これらの膜中央部分に取り残されたペプチドはAICDを産生するε切断の後、3もしくは4ペプチドずつに分解され膜から取り除かれる。また同様に、Aβ42は特定のε切断部位(ε48)から産生される可能性が示唆され(非特許文献4)、Aβ40もまた特定の経路で産生されていることが示唆されている(非特許文献5)。一方、このような学説とは異なる切断経路を示唆する報告もある(非特許文献6,7)ことから、切断部位については、まだ定説がなく、開裂反応においてどのような産物が生成するか予測できない状態である。
【0006】
このように、間接的にどのような過程を経てAβ42が産生されるかについての評価系はある一方で、直接的にAβ42が何を前駆体として産生されるか、あるいはどのAβ分子の前駆体であるかについて解明するような評価系はなく、「Aβ42固有の産生および分泌メカニズム」を明らかにする上でもそのような評価系の提供が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】再表2007/141926号公報
【特許文献2】特開2010−115204号公報
【特許文献3】特開2008−237068号公報
【特許文献4】再表2004/009617号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Wolfe et al.,When loss is gain: reduced presenilin proteolytic function leads to increased Abeta42/Abeta40.Talking Point on the role of presenilin mutations in Alzheimer disease,EMBO Rep.2007 Feb;8(2):136−140.
【非特許文献2】Yanagida et al.,The 28−amino acid form of an APLP1−derived Abeta−like peptide is a surrogate marker for Abeta42 production in the central nervous system,EMBO Mol Med.2009 Jul;1(4):223−235.
【非特許文献3】Takami et al.,gamma−Secretase: successive tripeptide and tetrapeptide release from the transmembrane domain of beta−carboxyl terminal fragment.,J Neurosci.2009 Oct 14;29(41):13042−13052.
【非特許文献4】Sato et al.,Potential Link between Amyloid beta−Protein 42 and C−terminal Fragment gamma 49-99 of beta−Amyloid Precursor Protein.,J.Biol.Chem.2003 278: 24294−24301
【非特許文献5】Yagishita et al.,Abeta46 is processed to Abeta40 and Abeta43,but not to Abeta42,in the low density membrane domains.,J Biol Chem.2008 Jan 11;283(2):733−8.Epub 2007 Nov 16.
【非特許文献6】Weggen et al.,Independent Generation of Aβ42 and Aβ38 Peptide Species by γ−Secretase.,J.Biol.Chem.2008 June 20;283(25):17049−17054
【非特許文献7】Haass et al.,Generation of Aβ38 and Aβ42 Is Independently and Differentially Affected by Familial Alzheimer Disease−associated Presenilin Mutations and γ−Secretase Modulation.,J.Biol.Chem.2008 Jan 11;283(2):677−683.
【非特許文献8】Okochi et al.,Secretion of the Notch−1 Abeta−like peptide during Notch signaling.,J Biol Chem.2006 Mar 24;281(12):7890−7698.Epub 2006 Jan 23.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、γ−セクレターゼを調節する因子である修飾物質、阻害物質等を効率的に同定し、Aβ42産生を特異的に減少させる医薬をスクリーニングするための技術を提供し、γ−セクレターゼによるアルツハイマー病アミロイドの分解アッセイ法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、鋭意研究した結果、配列番号1の37位、38位および40位で終わるペプチド、配列番号2の25位で終わるペプチド、および配列番号3の21位で終わるペプチドがγ−セクレターゼ切断により特異的に生じることを予想外に見出したことによって、本発明を完成した。本発明は、以下を提供する。
【0011】
(1) (A)配列番号1の部分配列を含むペプチド配列であって、γ−セクレターゼにより切断されるペプチド配列を含む基質ペプチドに、γ−セクレターゼを候補物質の非存在下および存在下で接触させ、配列番号1の37位、38位または40位で終わる配列からなる切断ペプチドを得る工程;ならびに
(B)該候補物質の非存在下における該切断ペプチドの量またはレベルとの比較において、該候補物質の存在下における該切断ペプチドの量またはレベルが変わらないかまたは増加するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの修飾物質であると判断し、該切断ペプチドの量またはレベルが減少するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの阻害物質であると判断する、工程
を包含する、γ−セクレターゼの修飾物質または阻害物質のスクリーニング方法。
(2)前記基質ペプチドは32アミノ酸以上の長さを有する、項目1に記載のスクリーニング方法。
(3)前記基質ペプチドは配列番号1の11〜42位のアミノ酸配列を含む、項目1または2に記載のスクリーニング方法。
(4)前記切断ペプチドは配列番号1の37位または38位で終わる配列からなるペプチドの少なくとも1つを含む、項目1〜3のいずれかに記載のスクリーニング方法。
(5)前記切断ペプチドが基質ペプチドの配列番号1の40位で終わる配列を含む場合、前記基質ペプチドは、配列番号1の45位で終わる配列を含む、項目1〜4のいずれかに記載のスクリーニング方法。
(6)前記基質ペプチドは配列番号1の1〜40位のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1の1〜42位のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1の11〜42位のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1の1〜43位のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1の1〜45位のアミノ酸配列からなるペプチド、および配列番号1の1〜46位のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群より選択される、項目1〜5のいずれかに記載のスクリーニング方法。
(7)前記基質ペプチドが配列番号1の43位、45位または46位で終わる配列を含む場合、前記切断ペプチドは配列番号1の38位または40位で終わるペプチドの少なくとも1つを含み、
該基質ペプチドが配列番号1の42位で終わる配列を含む場合、該切断ペプチドは配列番号1の38位で終わるペプチドを含み、
該基質ペプチドが配列番号1の40位で終わる配列を含む場合、該切断ペプチドは配列番号1の37位で終わるペプチドを含む、
項目1〜6のいずれかに記載のスクリーニング方法。
(8) (A)配列番号2の部分配列を含むペプチド配列であって、γ−セクレターゼにより切断される配列を含む基質ペプチドに、γ−セクレターゼを候補物質の非存在下および存在下で接触させ、配列番号2の25位で終わる配列からなる切断ペプチドを得る工程;ならびに
(B)該候補物質の非存在下における該切断ペプチドの量またはレベルとの比較において、該候補物質の存在下における該切断ペプチドの量またはレベルが変わらないかまたは増加するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの修飾物質であると判断し、該切断ペプチドの量またはレベルが減少するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの阻害物質であると判断する、工程
を包含する、γ−セクレターゼの修飾物質または阻害物質のスクリーニング方法。
(9)前記基質ペプチドは配列番号2からなるAPL1β28である、項目8に記載のスクリーニング方法。
(10) (A)配列番号3の部分配列を含むペプチド配列であって、γ−セクレターゼにより切断される配列を含む基質ペプチドに、γ−セクレターゼを候補物質の非存在下および存在下で接触させ、配列番号3の21位で終わる配列からなる切断ペプチドを得る工程;ならびに
(B)該候補物質の非存在下における該切断ペプチドの量またはレベルとの比較において、該候補物質の存在下における該切断ペプチドの量またはレベルが変わらないかまたは増加するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの修飾物質であると判断し、該切断ペプチドの量またはレベルが減少するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの阻害物質であると判断する、工程
を包含する、γ−セクレターゼの修飾物質または阻害物質のスクリーニング方法。
(11)前記基質ペプチドは配列番号3からなるNβ25である、項目10に記載のスクリーニング方法。
(12)基質ペプチドを含む、γ−セレクターゼの修飾物質または阻害物質の評価のための組成物であって、該基質ペプチドは、γ−セクレターゼにより切断されるペプチド配列を含み、配列番号1の部分配列を含み、配列番号1の40位または42位で終わる配列からなるペプチドを含む、組成物。
(13)前記基質ペプチドは32アミノ酸以上の長さを有する、項目12に記載の組成物。
(14)前記基質ペプチドは配列番号1の11〜42位のアミノ酸配列を含む、項目12または13に記載の組成物。
(15)前記基質ペプチドは配列番号1の1〜40位のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1の1〜42位のアミノ酸配列からなるペプチド、および配列番号1の11〜42位のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群より選択される、項目12〜14のいずれかに記載の組成物。
(16)配列番号2の配列からなるペプチドを含む、γ−セレクターゼの修飾物質または阻害物質の評価のための組成物。
(17)配列番号3の配列からなるペプチドを含む、γ−セレクターゼの修飾物質または阻害物質の評価のための組成物。
(18)基質ペプチドを含む、γ−セレクターゼの修飾物質または阻害物質の評価のためのキットであって、該基質ペプチドは、γ−セクレターゼにより切断されるペプチド配列を含み、配列番号1の部分配列を含み、配列番号1の40位または42位で終わる配列からなるペプチドを含む、キット。
(19)前記基質ペプチドは32アミノ酸以上の長さを有する、項目18に記載のキット。
(20)前記基質ペプチドは、配列番号1の11〜42位のアミノ酸配列を含む、項目18に記載のキット。
(21)前記基質ペプチドは配列番号1の1〜40位のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1の1〜42位のアミノ酸配列からなるペプチド、および配列番号1の11〜42位のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群より選択される、項目18に記載のキット。
(22)配列番号2からなるAPL1β28を含む、γ−セレクターゼの修飾物質または阻害物質の評価のためのキット。
(23)配列番号3からなるNβ25を含む、γ−セレクターゼの修飾物質または阻害物質の評価のためのキット。
【0012】
複数の実施形態が開示されるが、本発明の他の実施形態は、以下の詳細な説明から当業者には明らかになるであろう。明らかであるように、本発明は、すべて本発明の技術思想および範囲から逸脱することなく、種々の明白な態様において修飾が可能である。従って、図面および詳細な説明は、事実上例示的であると見なされ、制限的であるとは見なされない。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、従来は提供することが困難であった、γ−セクレターゼの活性を調節する因子である阻害物質、修飾物質等を従来技術より格段に効果的にスクリーニングすることができる方法、およびγ−セクレターゼによるアルツハイマー病アミロイドの分解アッセイ法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明で判明した情報も含めたγ−セクレターゼに関するAβ切断の説明を示す。即ち、ε切断からγ切断への方向に切断が順次進んで行くという学説(切断ラインとして示した)と順次進む訳ではないとする学説があるが、その実体は不明であり解明は進んでいない。図中AICD=APP細胞内ドメイン(intracellular domain)を示す。
【図2】図2は、合成Aβ42を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断のa)MALDI TOF MS測定結果およびb)Aβ38 ELISA測定結果を示す。
【図3】図3は、合成Aβ42を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断のa)最適CHAPSO濃度の決定およびb)時間経過と新規Aβ38の産生の関連を示す。
【図4】図4は、合成Aβ38を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断の解析。種々CHAPSO濃度におけるMALDI TOF MS測定結果を示す。
【図5】図5は、a)本特許で使用するγ−セクレターゼ修飾薬のAβ切断変化,化合物B添加時のγ−セクレターゼによる合成Aβ42切断への影響b)MALDI TOF MS測定結果、およびc)Aβ38 ELISA測定結果を示す。
【図6】図6は、isotype Aβ42であるAβ11−42を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断の測定結果を示す。
【図7】図7は、合成Aβ45を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断の測定結果を示す。
【図8】図8は、合成Aβ40を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断の測定結果を示す。
【図9】図9は、合成Aβ43を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断の測定結果を示す。
【図10】図10は、合成Aβ46を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断の測定結果を示す。
【図11】図11は、合成APL1β28を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断の測定結果を示す。
【図12】図12は、合成Nβ25を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当上記分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0016】
(用語の定義)
本明細書において、必要に応じて、以下の略語を用いる。
Aβ=βアミロイドタンパク質
βAPP=アミロイドβ前駆体タンパク質
PS=プレセニリン。
【0017】
本明細書において「ガンマ(γ)(−)セクレターゼタンパク質」および「ガンマ(γ)(−)セクレターゼ」とは、「プレセニリン(PS)/ガンマ(γ)(−)セクレターゼ」とも称し、γ−セクレターゼ活性を示すタンパク質をいう。γ−セクレターゼ活性としては、γ−セクレターゼ開裂配列を有するポリペプチド基質(例えば、アミロイドβ前駆体タンパク質(βAPP)またはそのフラグメントなどのポリペプチド基質)の認識、およびγ−セクレターゼ開裂部位でγ−セクレターゼ開裂配列の開裂を触媒して基質開裂産物を生成することが挙げられる。γ−セクレターゼは、通常複合体(代表的には4タンパク質の複合体)で活性を発揮する。4タンパク質の例としては、例えば、プレセニリン(Presenilin)1とニカストリン(nicastrin)とPEN2とAph1Aとの複合体、あるいはプレセニリン(presenilin)2とニカストリン(nicastrin)とPEN2とAph1Aとの複合体などが挙げられる。したがって、そのような複合体を形成するタンパク質分子のうち少なくとも1つがγ−セクレターゼ開裂配列を有するポリペプチド基質の開裂を触媒することが理解される。このようなγ−セクレターゼタンパク質複合体を構成するタンパク質分子は、互いに共有結合的相互作用および/または非共有結合的相互作用で結合していてよい。さらに、γ−セクレターゼタンパク質複合体はまた、ビタミン、ATPまたは二価カチオンなどの非タンパク質分子をも含んでいてよい。1つの実施形態では、界面活性剤で可溶化した形態で単離したγ−セクレターゼタンパク質が使用される。代表的なγ−セクレターゼとしては、Homo sapiens presenilin 1 Genbank(NM_000021.3);Homo sapiens presenilin 2 Genbank(NM_000447.2);Homo sapiens nicastrin Genbank(NM_015331.2)(ヒトAph−2とも呼ばれる);Homo sapiens PEN−2 Genbank(NM_172341.1);Homo sapiens Aph1A Genbank(NM_001077628.1)などを挙げることができるがそれらに限定されず、ヒト以外にもマウス・ラットのものなども利用することができることが理解される。
【0018】
γ−セクレターゼまたはその複合体は、ウシ、ヒツジ、ブタ、マウス、ウマ、および好ましくはヒトなどの哺乳動物種を含む多くの種から得た細胞、植物、昆虫(D.melanogasterなど)および無脊椎動物(C.elegansなど)などの種から単離することができる。さらに、γ−セクレターゼはγ−セクレターゼ複合体を含むあらゆる適切な組織または細胞(たとえば、γ−セクレターゼ陽性細胞)から単離することができる。たとえば、そのような細胞としては、ヒトH4神経膠腫細胞、およびマウスN2a神経芽細胞腫細胞、ヒト胚性腎(HEK)293細胞、COS−1細胞、CHO細胞、およびHeLa細胞などのγ−セクレターゼ陽性細胞を挙げることができる(Haass,C.ら、1992 Nature 359:322−325など)。
【0019】
本発明は、野生型、変異体またはスプライス変異体を含む、PS1および/またはPS2タンパク質分子の少なくとも1つの異なる形態を含むγ−セクレターゼ複合体を提供する。γ−セクレターゼ複合体は、野生型、変異体、またはスプライス変異体のPS1(Sherrington,R.ら、(1995)Nature375:754−760)またはPS2(米国特許第5,986,054号)を有する主体(たとえば、あらゆる種から)、組織または細胞株などの採取源から単離できる。
【0020】
細胞ではγ−セクレターゼ複合体はβAPPをγ−セクレターゼ開裂部位で開裂してβAPP開裂産物を生成する。βAPP開裂産物としては、β−セクレターゼおよびγ−セクレターゼから得られる基質開裂産物であるAβ40およびAβ42ペプチド;α−セクレターゼおよびγ−セクレターゼから得られる基質開裂産物であるp3ペプチド;γ−セクレターゼによる開裂のC末端産物であるp7またはAICDペプチド;またはそれらのフラグメントが挙げられる(Haass,C.& Selkoe,D.,Cell,75,1039−1042 (1993)において概説)。βAPPのγ−セクレターゼ開裂配列は背景技術に記載されるように、特に37位または38位での開裂配列は知られていなかった。また、40位での開裂配列についても45位からの切断は知られていなかった。γ−セクレターゼの活性阻害はアミロイドタンパク質産生を抑制し、アルツハイマー病の進行を停止もしくは遅らせられる治療薬になると考えられる。APPの加水分解の第1段階では、γ−セクレターゼ以外にもβセクレターゼおよびαセクレターゼ反応があるが、第2段階であるγ−セクレターゼ反応は両者の第1段階に共通して生じることからより広いスペクトル効果が期待される。
【0021】
本明細書において、ある事象(例えば、Aβ42産生を減少させること)について「特異的」とは、ある物質(例えば、Aβ42)についていうとき、その物質に対する選択性が他の同種の物質よりも高いこと(例えば、Aβ42であれば、他のAβ断片に対して選択性が高いことをいう。)(この場合、その物質(例えば、Aβ42)のみに反応(例えば、Aβ42の断片産生の減少)することを包含する。)をいう)。
【0022】
本明細書において「Aβ」とは、βアミロイドタンパク質をいい、代表的に配列番号1の部分配列を有する。ここで、Aβは多種類あることから、1位に始まるものについてはアミノ酸数に基づいてAβ(数字)と表示される。例えば、Aβ46は、配列番号1〜46からなり、Aβ45は、配列番号1〜45からなり、Aβ43は、配列番号1〜43からなり、Aβ42は、配列番号1〜42からなり、Aβ40は、配列番号1〜40からなり、Aβ38は、配列番号1〜38からなり、Aβ37は、配列番号1〜37からなる。あるいはそのアイソタイプとして、アミノ酸2位以降で始まるものも存在し、そのような場合は、Aβ(始点)−(終点)、と示し、例えばAβ11−42、Aβ17−42などと示す。同様に、サロゲートマーカーである配列番号2および3で示される配列についても、配列番号2については、1位に始まるものについてAPL1β(数字)、またはアミノ酸2位以降で始まるものについてAPL1β(始点)−(終点)と表示し、配列番号3については、1位に始まるものについてNβ(数字)、またはアミノ酸2位以降で始まるものについて(始点)−(終点)と表示する。
【0023】
本明細書において配列番号1、2、3等の「部分配列」とは、対象とされる全長配列のうち少なくとも一部の配列からなる配列をいう。したがって、本明細書において部分配列を含む配列は、全長配列を包含しうることが理解される。この意味で本明細書において「部分配列」は、全長配列のフラグメントともいうことができ、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1の配列長を有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドが該当する。部分配列またはフラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、(ポリ)ペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここで具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。
【0024】
本明細書において使用される用語「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。
【0025】
本明細書において「対応する」遺伝子(例えば、ポリペプチド、核酸等を含む)等とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子をいい、そのような作用を有する遺伝子が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある遺伝子の対応する遺伝子は、その遺伝子のオルソログであり得る。したがって、アミロイドプリカーサープロテインおよびγ−セクレターゼの配列などの遺伝子に対応する遺伝子は、他の動物種等においても見出すことができる。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。したがって、例えば、ある動物における対応する遺伝子は、対応する遺伝子の基準となる遺伝子の配列をクエリ配列として用いてその生物の配列データベースを検索することによって、またはウェットの実験でライブラリーをスクリーニングすることによって見出すことができる。
【0026】
本明細書では配列の同一性の算出および相同性の評価は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST 2.2.23(2010年3月22日発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメーターの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。
【0027】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に受け入れられた1文字コードにより言及され得る。
【0028】
本明細書において遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。
【0029】
本発明は、検索によって見出された配列番号1、2および3に対応する類似配列を用いることによっても実施することができる。本明細書において、「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、あるアミノ酸配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他のアミノ酸配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))、FASTA(Pearson & Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444−2448(1988))、Smith and Waterman法(Smith and Waterman,J.Mol.Biol.147:195−197(1981))、およびNeedleman and Wunsch法(Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443−453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、対応する核酸配列を用いたストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよび in situハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0030】
本明細書において、「改変体」(variant)または「改変配列」(本明細書において「改変体」とまとめて総称することがある。)とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質または配列に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。本明細書において「改変体」は、本発明の目的を達成することができる限り、いかなるものも使用することができる。たとえば、そのような目的としては、γ−セクレターゼの基質等であり得る。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するか、あるいは、1または数個、もしくは1以上のアミノ酸またはヌクレオチドの置換、付加または欠失を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。本明細書において「機能的改変体」とは、基準となる配列が担う生物学的活性(例えば、γ−セクレターゼの基質特異性等)を保持する改変体をいう。
【0031】
本明細書において「基質(ペプチド)」とは、γ−セクレターゼの酵素反応の基質となる任意のペプチドまたはその改変体をいう。したがって、本明細書にいう基質ペプチドは、γ−セクレターゼにより切断される配列を含む。そのような基質としては、本明細書に記載される配列番号1、2、3などの配列もしくはその部分配列またはその改変体を含む配列を有するペプチドを挙げることができる。理論に束縛されることを望まないが、基質ペプチドは、γ−セクレターゼの酵素反応において認識される必要があることから、上記のように切断される配列を含み、一定程度の長さ(例えば、配列番号1では、下限として15アミノ酸以上、16アミノ酸以上、17アミノ酸以上、18アミノ酸以上、19アミノ酸以上、20アミノ酸以上、21アミノ酸以上、22アミノ酸以上、23アミノ酸以上、24アミノ酸以上、25アミノ酸以上、26アミノ酸以上、27アミノ酸以上、28アミノ酸以上、29アミノ酸以上、30アミノ酸以上、31アミノ酸以上、32アミノ酸以上等であり、上限としては、42アミノ酸以下、43アミノ酸以下、44アミノ酸以下、45アミノ酸以下、46アミノ酸以下、47アミノ酸以下、48アミノ酸以下、49アミノ酸以下、あるいは全長でありうる)を有すると定義されうる。
【0032】
本明細書において「切断(ペプチド)」とは、γ−セクレターゼの酵素反応の結果得られる生成物(基質がペプチドの場合は、ペプチド)をいう。本発明では、配列番号1の部分配列を含むペプチドを基質ペプチドとして用いた場合、代表的に、切断ペプチドは、配列番号1の37位、38位または40位で終わる配列、配列番号2の25位で終わる配列、配列番号3の21位で終わる配列などを含むがこれに限定されない。
【0033】
本明細書において、切断ペプチドまたは基質ペプチド等の「量」とは、対象となる物質の物理量を直接示す尺度(例えば、モル量、重量等)をいい、切断ペプチドまたは基質ペプチド等の「レベル」とは、対象となる物質の物理量を反映した他の尺度(例えば、酵素活性または免疫学的手法での量以外の指標(例えば、吸光度等)で表示されうる)をいう。本明細書では切断ペプチドまたは基質ペプチド等は、物理化学的手法などを用いて直接量を測定してもよく、免疫学的手法などを用いて間接的に量を測定してもよく、あるいは、量が不明であっても、存在量を反映するレベル(例えば、酵素活性または免疫学的手法での量以外の指標で表示されうる)で表示することによってスクリーニングを実施することができる。
【0034】
本明細書において「〜で終わる配列」とは、ペプチド配列について言及する場合、ある配列番号で示される全長配列のうち、任意のアミノ酸位で開始し、対象となる位置(アミノ酸位)において終結することをいう。したがって、配列番号1の37位で終わる配列とは、配列番号1のアミノ酸1位〜37位のいずれかで開始し、37位のアミノ酸で終わる配列を意味する。
【0035】
本明細書において「候補物質」または「被験物質」とは、交換可能に使用され、いずれも、スクリーニングの対象となる任意の物質をいい、例えば、低分子化合物(例えば、コンビナトリアルケミストリーなどで合成されたものも含む)、有機化合物、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、糖、核酸、脂質、およびこれらの複合体等を挙げることができるがこれに限定されない。
【0036】
本明細書において「因子」とは、ある物事の原因を分類した各要素(例えば、化合物、複合物等の任意の物質等)をいう。γ−セクレターゼの活性を調節する「因子」としては、阻害物質、修飾物質、活性化物質等を挙げることができる。
【0037】
本明細書において、「阻害」とは、ある物質について、その物質が、酵素などの機能物質(例えば、γ−セクレターゼ)の活性を少なくとも低減または消失させることをいい、その活性を「阻害活性」という。したがって、「阻害物質」は、γ−セクレターゼについていうとき、その活性を少なくとも低減または消失させる物質をいい、本明細書では「阻害剤」または「阻害薬」ともいう。
【0038】
本明細書において「活性化」とは、ある物質について、その物質が、酵素などの機能物質(例えば、γ−セクレターゼ)の活性を少なくとも増強することをいい、その活性を「活性化活性」という。したがって、「活性化因子」は、γ−セクレターゼについていうとき、その活性を少なくとも増強させる因子をいい、本明細書では「活性化剤」または「活性化薬」ともいう。
【0039】
本明細書において、「修飾」とは、ある物質について、その物質が、酵素などの機能物質(例えば、γ−セクレターゼ)の活性自体は阻害せず(したがって、活性化を含むが、活性化せず活性を変化させないものも含まれる。)、γ−セクレターゼについてはAβ42の産生を選択的に阻害すること、好ましくは、Aβ断片の総量への影響がないことをいい、「修飾活性」ともいう。したがって、「修飾物質」は、γ−セクレターゼについていうとき、その酵素活性自体は阻害せず、かつAβ42の産生を選択的に阻害する物質をいい、好ましい「修飾物質」は、このうちで、Aβ断片の総量への影響はほとんどない物質をいう。本明細書では、「修飾物質」は、「修飾剤」または「修飾薬」ともいう。Aβ産生を減少させることを目的として、いくつかのメカニズムの医薬が研究されているが、β−セクレターゼ阻害物質はAβ断片の総量を減少させてしまう可能性がある。また、γ−セクレターゼ阻害物質はAβ断片の総量を減少させてしまう可能性がある点に加え、γ−セクレターゼの酵素活性自体を阻害してしまうため、副作用の懸念が残される。一方、γ−セクレターゼ修飾物質は酵素活性自体は阻害せず、かつAβ42の産生を選択的に阻害し、好ましい修飾物質は、Aβ断片の総量への影響はほとんどないため、理論に束縛されることを望まないが、より副作用の少ない安全な医薬となる可能性がある点で有望である。
【0040】
本明細書において「Aβ断片の総量」とは、細胞内等ある系中に存在するAβのすべての種類(例えば、Aβ37、Aβ38、Aβ39、Aβ40、Aβ41、Aβ42、Aβ43、Aβ44、Aβ45、Aβ46、Aβ47、Aβ48、Aβ49等)の断片の合計量をいう。Aβ断片の総量は、インビトロのアッセイ、例えば、質量分析または免疫科学的分析などの方法、あるいは、参考例1に記載のような手法を用いて細胞レベルで測定することができる。
【0041】
本明細書において使用される場合、「スクリーニング」とは、目的とするある特定の性質をもつ物質(例えば、医薬)などを、特定の操作および/または評価方法で多数の候補から選抜することをいう。本発明では、所望の活性を有するスクリーニングによって得られた物質(例えば、医薬)またはその候補もまた、本発明の範囲内に包含されることが理解される。スクリーニングは、標的となる物質を標識して実施してもよく、あるいは標的となる物質に特異的な手段(抗体など)を用いるか、あるいは標的となる物質に特有の指標(たとえば、質量)を用いて実施することができる。
【0042】
本明細書において「標識」とは、目的となる分子または物質を他から識別するための存在(たとえば、物質、エネルギー、電磁波など)をいう。そのような標識方法としては、RI(ラジオアイソトープ)法、蛍光法、ビオチン法、化学発光法等を挙げることができるが、それらに限定されない。上記の核酸断片および相補性を示すオリゴヌクレオチドを何れも蛍光法によって標識する場合には、蛍光発光極大波長が互いに異なる蛍光物質によって標識を行う。蛍光発光極大波長の差は、10nm以上であることが好ましい。蛍光物質としては、核酸の塩基部分と結合できるものであれば何れも用いることができるが、シアニン色素(例えば、CyDyeTMシリーズのCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、N−アセトキシ−N−2−アセチルアミノフルオレン(AAF)、AAIF(AAFのヨウ素誘導体)等を使用することができる。蛍光発光極大波長の差が10nm以上である蛍光物質としては、例えば、Cy5とローダミン6G試薬との組み合わせ、Cy3とフルオレセインとの組み合わせ、ローダミン6G試薬とフルオレセインとの組み合わせ等を挙げることができる。本発明では、このような標識を利用して、使用される検出手段に検出され得るように目的とする対象を改変することができる。そのような改変は、当該分野において公知であり、当業者は標識におよび目的とする対象に応じて適宜そのような方法を実施することができる。1つの好ましい実施形態では、標識は放射能標識される。
【0043】
本発明のスクリーニング方法によって得られた物質は、γ−セクレターゼが関連する疾患、障害または症状、あるいはAβ42に関連する疾患、障害または症状を治療、予防等処置するために用いることができる。
【0044】
本明細書において「γ−セクレターゼが関連する疾患、障害または症状」または「Aβ42に関連する疾患、障害または症状を治療、予防」は、これらの因子が関連する疾患であればいずれも包含され、例えば、アルツハイマー型認知症(アルツハイマー症、アルツハイマー型老年認知症)、ダウン症候群、記憶障害、プリオン病(クロイツフェルト・ヤコブ病等)、軽度認知障害(MCI)、オランダ型遺伝性アミロイド性脳出血、脳アミロイド血管障害、他の変性認知症、血管性変性混合型認知症、パーキンソン病に随伴する認知症、進行性核上麻痺に随伴する認知症、皮質基底核変性症に随伴する認知症、びまん性レビー小体型アルツハイマー病、加齢黄斑変性症、パーキンソン病、アミロイドアンジオパシー等の神経変性障害、ならびにがんなどを挙げることができる。
【0045】
本明細書において、「予防」するとは、本発明の標的とする疾患、障害または症状(例えば、γ−セクレターゼが関連する疾患、障害または症状、例えば、アルツハイマー病等)が発生する前に、何らかの手段により、その疾患、障害または症状を生じさせないかまたは少なくとも遅延させること、あるいは疾患、障害または症状の原因自体が生じたとしてもそれが原因の障害が生じないような状態にすることをいう。
【0046】
本明細書において、「治療」するとは、既に発症している本発明の標的とする疾患、障害または症状の進行を食い止めるか、または完全または部分的に拘わらず、本発明の標的とする疾患、障害または症状の進行が止まるか、または改善することをいう。
【0047】
本明細書において「処置」とは、疾患、障害または症状に対して何らかの影響を与えるか、そのような疾患、障害または症状になることを防止することをいい、治療および予防の両方を含みうる。狭義には、「処置」は、「予防」に対して、発症後の上記行為をさす。
【0048】
本明細書において「界面活性剤」とは、当該分野において通常用いられる意味で用いられ、親水基および疎水基を有する物質をいい、極性物質と非極性物質とを混合させる働きを有する。本発明では、スクリーニングを行う場合の候補物質と基質または酵素との接触を円滑にする目的使用されうる。本発明で用いられうる界面活性剤としては、例えば、CHAPSO等が例示されるがこれに限定されない。界面活性剤は、膜内在タンパク質を可溶化する典型的な方法である。界面活性剤は、リン脂質二重層を断片化して膜内在タンパク質またはタンパク質複合体を与え、その際、該脂質二重層の化学特性を模倣した環境を用いて可溶化したタンパク質またはタンパク質複合体が天然のコンホメーションに折り畳まれるようにするといわれている。それゆえ、界面活性剤の環境中にあるタンパク質またはタンパク質複合体は可溶化形態にあるタンパク質またはタンパク質複合体となっている。さらに、可溶化形態になったタンパク質またはタンパク質複合体は、その天然のコンホメーションにある該タンパク質またはタンパク質複合体によって示される生物学的活性を有していても有していなくてもよく、本発明において有利な条件を提供する限り使用することができる。
【0049】
本明細書において「キット」とは、スクリーニングの目的で使用される場合、スクリーニングに必要な成分等を備えたユニットをいう。キットは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、基質ペプチド、γ−セクレターゼ、酵素用の緩衝液など)が提供されるユニットをいう。混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分(例えば、試薬をどのように処理すべきかを記載する指示書または説明書を備えていることが有利である。本明細書においてキットが試薬キットとして使用される場合、キットには、通常、酵素の使い方などを記載した指示書などが含まれる。
【0050】
本明細書において「指示書」は、試薬の取り扱い、使用方法、調合方法、作製方法、収縮方法など、スクリーニング法を実施する人、医薬などを投与する方法または処置・診断する方法などを医師、患者など投与を行う人、診断する人(患者本人であり得る)に対して記載したものである。この指示書は、本発明のスクリーニング法を実施する手順等を指示する文言が記載されている。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記されることが好ましい。指示書は、いわゆる添付文書(packageinsert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ(ウェブサイト)、PDF、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0051】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、 Sambrook J.etal.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).CurrentProtocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).ShortProtocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols inMolecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCRProtocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).ShortProtocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols inMolecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in MolecularBiology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,GreenePub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).ShortProtocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols inMolecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications:Protocolsfor Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0052】
(好ましい実施形態の説明)
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施例を参考にして、本発明の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。
【0053】
(医薬探索方法)
1つの局面において、本発明は、γ−セクレターゼの活性を調節する因子である阻害物質、修飾物質等のスクリーニング方法を提供する。この方法は、(A)配列番号1の部分配列を含むペプチド配列であって、γ−セクレターゼにより切断されるペプチド配列を含む基質ペプチドに、γ−セクレターゼを候補物質の非存在下および存在下で接触させ、配列番号1の37位、38位または40位で終わる配列からなる切断ペプチド、配列番号2の25位で終わる配列からなる切断ペプチドおよび配列番号3の21位で終わる配列からなる切断ペプチドのうち1つまたは複数を得る工程;ならびに(B)該候補物質の非存在下における該切断ペプチドの量またはレベルとの比較において、該候補物質の存在下における該切断ペプチドの量またはレベルが変わらないかまたは増加するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの修飾物質であると判断し、該切断ペプチドの量またはレベルが減少するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの阻害物質であると判断するあるいは判定される、工程を包含する。γ−セクレターゼによって、配列番号1の37位または38位で終わる配列からなる切断ペプチドが生じることが従来知られておらず、40位についても、あらゆる系列で切断ペプチドとして生じることは知られていなかったことから、これを測定することによって、γ−セクレターゼの阻害物質、修飾物質等をスクリーニングすることができることを見出したことは当該分野において注目されるべきである。同様に、配列番号2の25位で終わる配列からなる切断ペプチドおよび配列番号3の21位で終わる配列からなる切断ペプチドが生じることも知られておらず、これを測定することによって、好ましくはγ−セクレターゼに特異的な、γ−セクレターゼの阻害物質、修飾物質等をスクリーニングすることができることを見出したことは当該分野において注目されるべきである。γ−セクレターゼの活性阻害または活性修飾はアミロイドタンパク質産生を抑制し、アルツハイマー病の進行を停止もしくは遅らせられる治療薬になると考えられることから、注目されるが、γ−セクレターゼの非特異的な活性抑制は癌化誘導などの重篤な副作用を誘導する可能性があるということをも考慮すると、特異的にγ−セクレターゼを修飾、阻害ないし抑制することが重要である。従来種々のγ−セクレターゼの阻害剤が報告されているが、いずれも特異性が低いこともあって副作用が伴うことが指摘されている。その一つの原因としては、γ−セクレターゼに特異的なスクリーニング方法が確立していなかったということも挙げられ、本発明はこのような問題を解決する手順として有用である。また、Aβ産生を減少させることを目的として、いくつかのメカニズムの医薬が研究されているが、βセクレターゼ阻害物質はAβ断片の総量を減少させてしまう可能性がある。また、γ−セクレターゼ阻害物質はAβ断片の総量を減少させてしまう可能性がある点に加え、γ−セクレターゼの酵素活性自体を阻害してしまうため、副作用の懸念が残される。一方、γ−セクレターゼ修飾物質は酵素活性自体は阻害せず、かつAβ42の産生を選択的に阻害し、Aβ断片の総量への影響はほとんどないため、より副作用の少ない安全な医薬となる可能性があるという点でも有望である。
【0054】
したがって、本発明の好ましい実施形態では、本発明のスクリーニング方法において、さらに、Aβ断片の総量または総レベルを測定し、その増減を測定する工程を含む。Aβ断片の総量または総レベルが変動していない場合、その対象となる候補物質は、γ−セクレターゼの「修飾活性」を有すると判定することができる。加えて、本発明の好ましい実施形態では、本発明のスクリーニング方法において、さらに、Aβ42の量またはレベルを測定し、その増減を測定する工程を含む。ここで、Aβ42の量またはレベルの産生がコントロールに比べて減少する場合、すなわち、Aβ42の産生が阻害される場合、その対象となる候補物質は、γ−セクレターゼの「阻害活性」を有すると判定することができる。ここで、Aβの量またはレベル、Aβ42の量またはレベルの測定は、他の切断ペプチド、基質ペプチドと同様、免疫学的または物理化学的(質量分析などを含む)に行なうことができることが理解される。あるいは、Aβ2の量は、参考例1に記載されるような細胞を用いた手法で免疫学的手法(例えば、ELISA等)で測定することもできる。
【0055】
例示的な実施形態では、参考例1に記載されるような手法で、Aβ42の産生が抑制されていることを見出した場合、その情報のみでは、阻害物質または修飾物質の区別ができず、本発明のスクリーニング方法による情報が必要である。例示的な実施形態では、さらに、参考例2に記載の手法のように化合物添加時のγセクレターゼの基質量(CTFs量)が化合物非添加時に比べ増えない場合、阻害物質ではなく、修飾物質であると判断することができる。例えば、対照化合物であるγ−セクレターゼ阻害剤が濃度依存的にCTFs量を増加させ、他方、候補物質について濃度依存的なCTFs量が認められない場合、その候補物質はAβ42産生抑制作用を有しているが、γ−セクレターゼ活性阻害作用は有しないと判定することになる。
【0056】
Aβ総量は、特異的な抗体等を用いて免疫反応、例えば、ELISAにおいてはIBL社Aβ1−X ELISAなどを利用することができ、例えば免疫染色法においてはAβ断片と結合する抗Aβ抗体4G8(Covance)とプロテインGセファロース(protein G sepharose)と混合させ、適切な条件(例えば、4℃で一晩)免疫沈降し、適切な条件で洗浄し(たとえば、洗浄緩衝液(wash buffer)(50 mM Tris−HCl,pH7.6,150 mM NaCl、2 mM EDTA、Roche製 Complete inhibitor)で5回洗浄、3回超純水で洗浄)することによって精製されたものを、Aβ N末端断端抗体である82E1(IBL)を用いた免疫染色法によって検出ないしは定量することができる。
【0057】
あるいは、本発明のスクリーニング方法において、対象となる候補物質は、どのような物質を用いてもよいが、1つの実施形態としては、Aβ断片の総量に影響を与えないことが知られ、および/またはAβ42の産生を(好ましくは選択的に)阻害することが知られている物質を用いることが好ましい。このような候補物質を用いることにより、該候補物質の非存在下における該切断ペプチドの量またはレベルとの比較において、該候補物質の存在下における該切断ペプチドの量またはレベルが変わらないかまたは増加することを確認すれば、γ−セクレターゼの修飾物質を確定することができるからである。
【0058】
この方法において、γ−セクレターゼの活性の測定は、当該分野において公知または本明細書において説明する任意の手法によって実現することができる。
【0059】
本発明における基質ペプチドおよび切断ペプチドの一方または双方、あるいはAβ42またはこれらを含めたAβ断片の総量またはレベル等の測定は、in vitro γ−セクレターゼアッセイ系によって実施することができる。例えば、そのようなアッセイ系では、適切な緩衝液(例えば、Roche社から入手可能なBuffer C(300mMクエン酸,pH6.0,500mMスクロース,0.5%CHAPSO,0.2%ホスファチジルコリン,20mMベスタチン(Bestatin),20mMアマスタチン(Amastatin),10mMフェナンスロリン(Phenanthroline),20mMカプトプリル(Captopril),x10 Roche製 Complete inhibitor))を用い、公知の方法で入手可能な酵素であるγ−セクレターゼ複合体(例えば、Kakuda et al.,J.Biol.Chem.2006 May 26;281(21):14776−86.Epub 2006 Apr 4.により、培養細胞の粗精製膜分画から界面活性剤(例えば、CHAPSO)で抽出した膜タンパク質分画を抗nicastrin抗体で免疫沈降法により精製したもの等)を用いて実施することができる。反応は適切な緩衝液(例えば、上述のBuffer C)で希釈した酵素(例えば、精製γ−セクレターゼ酵素)に適切な基質ペプチド(例えば、Aβ42(配列番号1のアミノ酸1〜42位からなる。))を加え、適切な時間および温度(例えば、37℃、1時間)インキュベーションを行うことによって実施することができる。またγ−セクレターゼ特異的切断かどうかを検討するためコントロールとしてγ−セクレターゼ阻害剤(例えば、DAPT(ペプチド研から入手可能))を適切な最終濃度(例えば、10μM)添加した実験も行うことによって対照実験を実施することができる。反応後、適切な方法で(例えば、氷上に置くことで)反応停止し、そのサンプル上清を適切な分析方法(例えば、MALDI TOF MS解析)に供することによって分析を行うことができる
分析に際しては、サンプルは、適宜精製して、その精度を上げることもできる。たとえば、サンプル(酵素反応液)の一部は、切断ペプチドまたは基質ペプチドあるいはその両方に結合する適切な特異的結合物質(例えば、抗Aβ抗体4G8(Covance))とプロテインGセファロース(protein G sepharose)と混合させ、適切な条件(例えば、4℃で一晩)免疫沈降し、適切な条件で洗浄し(たとえば、洗浄緩衝液(wash buffer)(50 mM Tris−HCl,pH7.6,150 mM NaCl、2 mM EDTA、Roche製 Complete inhibitor)で5回洗浄、3回超純水で洗浄)することによって精製することができる。免疫沈降産物は適切な条件(例えば、三フルオロ酢酸/アセトニトリル/水(1:20:20))で溶出した後、MALDI−TOF MS等を用いて質量分析を実施することができる。
【0060】
あるいは、切断ペプチドは、特異的な抗体等を用いて免疫反応(例えば、ELISA、例えば、de novo Aβ38はIBL社Aβ38 ELISAなどを利用することができる)により同定および/または検出ないしは定量することができる。
【0061】
このように、γ−セクレターゼの切断量または切断レベルに対する候補物質の影響は、免疫染色等によって検出することができ、本発明では、このような検出方法も利用することができる。しかし、γ−セクレターゼによる切断は、複数の切断ペプチドの生成(主な切断部位とその周囲のマイナーな切断部位群)を伴う。この切断の正確さに対する薬剤の影響を見るためには、質量分析方法を用いることが好ましい。質量分析方法としては、公知の手法を用いることができる(例えば Wang R,Sweeney D,Gandy SE,Sisodia SS.The profile of soluble amyloid beta protein in cultured cell media.Detection and quantification of amyloid beta protein and variants by immunoprecipitation−mass spectrometry.J Biol Chem.1996 Dec 13;271(50):31894−902.)。ただし、正確な質量分析を可能にするためには、産生されるフラグメントの長さを短くする必要があることから、産生されるフラグメントの長さを精度よく質量分析できる程度の長さに短く設計した変異体を用いることが好ましく、このような用途に本発明は適している側面を有する。
【0062】
質量分析を用いる利点は、細胞なしで産生されたペプチドフラグメントの断端を正確に決定できることと同時に質量分析スペクトラムから断端の異なるフラグメントの存在比率が一目瞭然となることが挙げられ、これに加えその存在比率は主な切断部位とその周囲のマイナーな切断部位群に対する候補物質の直接的効果を反映していることもその特徴として挙げることができる。
【0063】
このようにして分析された結果から、候補物質の非存在下および存在下における、該基質ペプチド量、該切断ペプチドの量、および該基質ペプチド量と該切断ペプチドとの比率からなる群より選択される少なくとも1つを対比し、候補物質の存在下において、候補物質の非存在下に比べた場合において、該基質ペプチドの量の減少、該切断ペプチドの量の増加、および該基質ペプチドの該切断ペプチドに対する比率の減少からなる群より選択される少なくとも1つの現象が見られた場合に該候補物質がγ−セクレターゼ活性を活性化する物質であると判断し、あるいは、該基質ペプチドの量の不変または減少、該切断ペプチドの量の不変または増加、および該基質ペプチドの該切断ペプチドに対する比率の不変または減少からなる群より選択される少なくとも1つの現象が見られた場合に該候補物質がγ−セクレターゼ活性を修飾する物質であると判断し、該基質ペプチドの量の増加、該切断ペプチドの量の減少、および該基質ペプチドの該切断ペプチドに対する比率の増加からなる群より選択される少なくとも1つの現象が見られた場合に該候補物質がγ−セクレターゼ活性の阻害物質であると判断することができる。
【0064】
本発明では、別の局面では、(A)工程の後、基質ペプチドの量を測定することによって、γ−セクレターゼに対する効果があるかどうかを決定することができる。したがって、(B)工程では、例えば、切断ペプチド、基質ペプチドまたはその両方を定量または検出することができる。候補物質の非存在下における基質ペプチドのレベルまたは量との比較した場合に、候補物質の存在下での該基質ペプチドの消失または基質ペプチドの増減は、該候補物質がγ−セクレターゼの修飾物質または阻害物質等であることの指標である。候補物質の非存在下における切断ペプチドのレベルまたは量との比較した場合に、候補物質の存在下での該切断ペプチドの消失または切断ペプチドの増減は、該候補物質がγ−セクレターゼの修飾物質または阻害物質等であることの指標である。基質ペプチドについては、通常酵素反応とともに減少すべきであるところ、候補物質の存在によって、その減少量が低下する(すなわち、(候補物質なしでの)基準値より基質ペプチドが増える)ことは、酵素反応が抑制(阻害)されることの証拠であり、他方、候補物質の存在によって、その減少量が増大する(すなわち、(候補物質なしでの)基準値より基質ペプチドが減少する)ことは、酵素反応が修飾されることの証拠である。同様に、切断ペプチドについては、通常酵素反応とともに増加すべきであるところ、候補物質の存在によって、その増加量が低下する(すなわち、(候補物質なしでの)基準値より切断ペプチドが減少する)ことは、酵素反応が抑制(阻害)されることの証拠であり、候補物質の存在によって、その増加量が増大する(すなわち、(候補物質なしでの)基準値より切断ペプチドが増加する)ことは、酵素反応が活性化されることの一つの証拠であり、候補物質の存在によって、その増加量が変動しないかまたは増大すること(すなわち、(候補物質なしでの)基準値より切断ペプチドが変わらないかまたは増加する)ことは、酵素反応が修飾されることの一つの証拠である。このような修飾活性を有する物質または因子は、γ−セクレターゼ修飾物質は酵素活性自体は阻害せず、かつAβ42の産生を選択的に阻害し、Aβ断片の総量への影響はほとんどないことが好ましく、このような好ましい修飾物質は、より副作用の少ない安全な医薬となる可能性があるという点でも有望である。したがって、本発明のスクリーニング方法の局面においても、本発明の好ましい実施形態では、さらに、Aβ断片の総量または総レベルを測定し、その増減を測定する工程を含む。Aβ断片の総量または総レベルが変動していない場合、その対象となる候補物質は、γ−セクレターゼの「修飾活性」を有すると判定することができる。加えて、この局面においても、本発明の好ましい実施形態では、本発明のスクリーニング方法において、さらに、Aβ42の量またはレベルを測定し、その増減を測定する工程を含む。ここで、Aβ42の量またはレベルの産生がコントロールに比べて減少する場合、すなわち、Aβ42の産生が阻害される場合、その対象となる候補物質は、γ−セクレターゼの「阻害活性」を有すると判定することができる。ここで、Aβの量またはレベル、Aβ42の量またはレベルの測定は、他の切断ペプチド、基質ペプチドと同様、免疫学的または物理化学的(質量分析などを含む)に行なうことができることが理解される。
【0065】
あるいは、この局面の本発明のスクリーニング方法においても、対象となる候補物質は、どのような物質を用いてもよいが、1つの実施形態としては、Aβ断片の総量に影響を与えないことが知られ、および/またはAβ42の産生を(好ましくは選択的に)阻害することが知られている物質を用いることが好ましい。このような候補物質を用いることにより、該候補物質の非存在下における該切断ペプチドの量またはレベルとの比較において、該候補物質の存在下における該切断ペプチドの量またはレベルが変わらないかまたは増加することを確認すれば、γ−セクレターゼの修飾物質を確定することができるからである。
【0066】
本発明のいずれの局面のスクリーニング方法においても、1つの具体的な実施形態では、本発明の工程(B)において、該候補物質の非存在下における該切断ペプチドの量またはレベルとの比較において、該候補物質の存在下における該切断ペプチドの量またはレベルが変わらないかまたは増加するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの修飾物質であると判断し、該切断ペプチドの量またはレベルが減少するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの阻害物質であると判断する。
【0067】
本発明のいずれの局面のスクリーニング方法の1つの実施形態では、本発明の工程(B)において、該候補物質の非存在下における該切断ペプチドの量またはレベルとの比較において、該候補物質の存在下における該切断ペプチドの量またはレベルが変わらないかまたは増加するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの修飾物質であると判断する。
【0068】
本発明のいずれの局面のスクリーニング方法の1つの実施形態ではまた、本発明の工程(B)において、該候補物質の非存在下における該切断ペプチドの量またはレベルとの比較において、該候補物質の存在下における該切断ペプチドの量またはレベルが減少するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの阻害物質であると判断する。
【0069】
1つの具体的な実施形態としては、本発明は、(A)配列番号1の部分配列を含むペプチド配列であって、γ−セクレターゼにより切断されるペプチド配列を含む基質ペプチドに、γ−セクレターゼを候補物質の非存在下および存在下で接触させ、配列番号1の37位、38位または40位で終わる配列からなる切断ペプチドを得る工程;ならびに(B)該候補物質の非存在下における該切断ペプチドの量またはレベルとの比較において、該候補物質の存在下における該切断ペプチドの量またはレベルが変わらないかまたは増加するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの修飾物質であると判断し、該切断ペプチドの量またはレベルが減少するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの阻害物質であると判断する、工程を包含する、γ−セクレターゼの修飾物質または阻害物質のスクリーニング方法を提供する。
【0070】
また、別の具体的な実施形態としては、本発明は、(A)配列番号2の部分配列を含むペプチド配列であって、γ−セクレターゼにより切断される配列を含む基質ペプチドに、γ−セクレターゼを候補物質の非存在下および存在下で接触させ、配列番号2の25位で終わる配列からなる切断ペプチドを得る工程;ならびに(B)該候補物質の非存在下における該切断ペプチドの量またはレベルとの比較において、該候補物質の存在下における該切断ペプチドの量またはレベルが変わらないかまたは増加するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの修飾物質であると判断し、該切断ペプチドの量またはレベルが減少するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの阻害物質であると判断する、工程を包含する、γ−セクレターゼの修飾物質または阻害物質のスクリーニング方法を提供する。
【0071】
他の実施形態では、本発明は、(A)配列番号3の部分配列を含むペプチド配列であって、γ−セクレターゼにより切断される配列を含む基質ペプチドに、γ−セクレターゼを候補物質の非存在下および存在下で接触させ、配列番号3の21位で終わる配列からなる切断ペプチドを得る工程;ならびに(B)該候補物質の非存在下における該切断ペプチドの量またはレベルとの比較において、該候補物質の存在下における該切断ペプチドの量またはレベルが変わらないかまたは増加するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの修飾物質であると判断し、該切断ペプチドの量またはレベルが減少するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの阻害物質であると判断する、工程を包含する、γ−セクレターゼの修飾物質または阻害物質のスクリーニング方法を提供する。
【0072】
種々の実施形態では、本発明の上記スクリーニング方法において、基質ペプチドとしては、γ−セクレターゼによる酵素反応によって、配列番号1の37位、38位または40位で終わる配列からなる切断ペプチド、配列番号2の25位で終わる配列からなる切断ペプチドおよび配列番号3の21位で終わる配列からなる切断ペプチドが生じる基質であれば、どのようなものでも利用することができることが理解される。そのような基質ペプチドとしては、例えば、配列番号1の40位、42位、43位、45位、46位などで終わる配列からなるものを挙げることができる。基質ペプチドの長さとしては、例えば、配列番号1の部分配列を有するものであれば、例えば、15アミノ酸以上、16アミノ酸以上、17アミノ酸以上、18アミノ酸以上、19アミノ酸以上、20アミノ酸以上、21アミノ酸以上、22アミノ酸以上、23アミノ酸以上、24アミノ酸以上、25アミノ酸以上、26アミノ酸以上、27アミノ酸以上、28アミノ酸以上、29アミノ酸以上、30アミノ酸以上、31アミノ酸以上、32アミノ酸以上などの長さを挙げることができ、上限としては、42アミノ酸以下、43アミノ酸以下、44アミノ酸以下、45アミノ酸以下、46アミノ酸以下、47アミノ酸以下、48アミノ酸以下、49アミノ酸以下、あるいは全長でありうる。理論に束縛されることは望まないが、本発明では、11から42位のアミノ酸配列を含むものが基質ペプチドとして機能することが証明されており、また、Aβ28−55が基質として切断されうることが知られている(JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY AUGUST 10,2007、VOLUME 282、NUMBER 32 P23639)ことから、28よりC末端側のアミノ酸配列があれば、基質として機能しうると期待されることから、これに近似した長さであれば、γ−セクレターゼによって認識されうる構造を保持しうると予測されるからである。配列番号2の25位で終わる配列からなる切断ペプチドおよび配列番号3の21位で終わる配列からなる切断ペプチドが生じるものであれば、配列番号2および配列番号3のアミノ酸1位から始まるもののほか、γ−セクレターゼによって認識されうる構造を保持しうる長さであれば、全長でなくてもよく、2位、3位、4位などで始まるものであってもよい。
【0073】
また、本発明において使用されうる基質ペプチドは、配列番号1、2または3において、γ−セクレターゼに対する基質としての作用を保持する限り、1または数個、あるいは1以上のアミノ酸の置換、欠失および/もしくは付加を含んでいてもよいことが理解される。
【0074】
1つの実施形態では、切断ペプチドは、配列番号1の37位または38位で終わる配列からなるペプチドの少なくとも1つを含んでいてもよい。これらの配列で終わる配列(例えば、配列番号1のアミノ酸1位〜37位からなるペプチド、あるいは配列番号1のアミノ酸1位〜38位からなるペプチド等)は、γ−セクレターゼによる切断によって生じることがこれまで知られていなかった。したがって、これらの配列を測定することで、γ−セクレターゼの修飾物質または阻害物質等を同定することができることによって、従来にない方法が提供されることが理解される。
【0075】
また、基質ペプチドとして、配列番号1の45位で終わる配列からなるペプチド(例えば、配列番号1の1位〜45位からなるペプチド)を用いた場合に、切断ペプチドとして、配列番号1の40位で終わる配列からなるペプチド(例えば、配列番号1の1位〜40位からなるペプチド)が生じることも従来知られておらず、このような配列を測定することで、γ−セクレターゼの修飾物質または阻害物質等を同定することができることは、従来にない方法を提供することが理解される。
【0076】
1つの具体的な実施形態では、基質ペプチドは配列番号1の1〜40位のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1の1〜42位のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1の11〜42位のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1の1〜43位のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1の1〜45位のアミノ酸配列からなるペプチド、および配列番号1の1〜46位のアミノ酸配列、配列番号2からなるペプチド(APL1β28)および配列番号3からなるペプチド(Nβ25)からなるペプチドの1または複数を含みうる。
【0077】
特に、配列番号1の1〜40位のアミノ酸配列からなるペプチドを基質ペプチドとして用いた場合に、配列番号1の1〜37位のアミノ酸配列からなるペプチドが切断ペプチドとして使用されうること;配列番号1の1〜42位のアミノ酸配列からなるペプチドを基質ペプチドとして用いた場合に、配列番号1の1〜38位のアミノ酸配列からなるペプチドが切断ペプチドとして使用されうること;配列番号1の1〜43位のアミノ酸配列からなるペプチドを基質ペプチドとして用いた場合に、配列番号1の1〜38位のアミノ酸配列からなるペプチドおよび配列番号1の1〜40位のアミノ酸配列からなるペプチドが切断ペプチドとして使用されうること;配列番号1の1〜45位のアミノ酸配列からなるペプチドを基質ペプチドとして用いた場合に、配列番号1の1〜38位のアミノ酸配列からなるペプチドおよび配列番号1の1〜40位のアミノ酸配列からなるペプチドが切断ペプチドとして使用されうること;配列番号1の1〜46位のアミノ酸配列からなるペプチドを基質ペプチドとして用いた場合に、配列番号1の1〜38位のアミノ酸配列からなるペプチドおよび配列番号1の1〜40位のアミノ酸配列からなるペプチドが切断ペプチドとして使用されうることは従来知られておらず、特異的評価系としては、従来技術からは予想できないということができる。
【0078】
したがって、1つの具体的な実施形態では、本発明のスクリーニング方法では、(1)配列番号1の1〜40位のアミノ酸配列からなるペプチドを基質ペプチドとして用い、配列番号1の1〜37位のアミノ酸配列からなるペプチドを切断ペプチドとして使用することができる。また、別の具体的な実施形態では、(2)配列番号1の1〜42位のアミノ酸配列からなるペプチドを基質ペプチドとして用い、配列番号1の1〜38位のアミノ酸配列からなるペプチドを切断ペプチドとして使用することができる。他の具体的な実施形態では、配列番号1の1〜43位のアミノ酸配列からなるペプチドを基質ペプチドとして用い、配列番号1の1〜38位のアミノ酸配列からなるペプチドおよび配列番号1の1〜40位のアミノ酸配列からなるペプチドを切断ペプチドとして使用することができる。さらなる具体的な実施形態としては、(4)配列番号1の1〜45位のアミノ酸配列からなるペプチドを基質ペプチドとして用い、配列番号1の1〜38位のアミノ酸配列からなるペプチドおよび配列番号1の1〜40位のアミノ酸配列からなるペプチドを切断ペプチドとして使用することができる。さらに別の具体的な実施形態では、配列番号1の1〜46位のアミノ酸配列からなるペプチドを基質ペプチドとして用い、配列番号1の1〜38位のアミノ酸配列からなるペプチドおよび配列番号1の1〜40位のアミノ酸配列からなるペプチドを切断ペプチドとして使用することができる。さらに別の具体的な実施形態では、配列番号2からなるペプチド(APL1β28)を基質ペプチドをして用い、配列番号2の1位〜25位からなるペプチド(APL1β25)を切断ペプチドとして用いることができる。さらに別の具体的な実施形態では、配列番号3からなるペプチド(Nβ25)を基質ペプチドをして用い、配列番号3の1位〜21位からなるペプチド(Nβ21)を切断ペプチドとして用いることができる。これらの基質ペプチドおよび切断ペプチドは組み合わせて用いてもよい。
【0079】
1つの実施形態では、本発明の基質ペプチドは、精製または単離されていることが好ましい。他のペプチド等と夾雑している場合、例えば、天然物等では、測定時に誤差が生じうるからである。
【0080】
本明細書において「単離された」物質(例えば、核酸またはタンパク質などのような生物学的因子)とは、その物質が天然に存在する環境(例えば、生物体の細胞内)の他の物質(好ましくは、生物学的因子)(例えば、核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」核酸およびタンパク質には、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。したがって、単離された核酸およびタンパク質は、化学的に合成した核酸およびタンパク質を包含する。
【0081】
本明細書において「精製された」物質(例えば、核酸またはタンパク質などのような生物学的因子)とは、その物質に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製された物質におけるその物質の純度は、その物質が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
【0082】
本明細書において「精製された」および「単離された」とは、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の物質が存在することを意味する。
【0083】
1つの実施形態では、本発明の方法において、酵素への基質ペプチドへの接触は、界面活性剤の存在下で行われる。理論に束縛されることを望まないが、その理由としては、界面活性剤の存在により、酵素への基質ペプチドの暴露がスムーズになり、候補物質の影響がより顕著に観察することができることが挙げられる。上記界面活性剤としては、CHAPSOが使用される。特に、その使用濃度としては、0.125%〜1%が通常使用され、好ましくは、一例を挙げるとAβ42からAβ38を産生させるとき0.4%〜0.6%が使用されるがこれらに限定されない。理論に束縛されることを望まないが、この範囲で、反応効率がよいことが示されており、特に、Aβ42からAβ38を産生させるとき0.5%のとき最も反応効率が良いことが実証されていること、および直線性(線形性)が特に顕著に見られているからである。
【0084】
1つの実施形態では、このような接触の時間としては、前記接触は、10〜40分間、あるいは10分間〜20分間が挙げられるがそれに限定されない。理論に束縛されることを望まないが、これらの範囲では、直線性(線形性)を保つことが実証されているからである。
【0085】
本発明のスクリーニングに供されうる候補物質を合成するための素材および合成の各ステップにおいて用いる方法は、周知であり、当業者は合成、単離、精製等を適宜行なって目的とする化合物を適宜製造することができる。また大腸菌、酵母、枯草菌、昆虫細胞、動物細胞、植物細胞の自体公知の宿主を利用した遺伝子組み換え技術によって、本発明の化合物のポリペプチド部分を製造することも可能である。このようなポリペプチドは、ペプチド配列をコードする遺伝子を組込んだ発現ベクターを、形質転換により宿主細胞に導入し、発現させることにより、製造することができる。このようなポリペプチドは、精製または単離して使用してもよく、そのままスクリーニングに使用してもよい。あるいは、このような本発明の基質ペプチドを発現させた宿主細胞自体を用いてスクリーニングをしてもよい。化学合成としては、例えば、公知の方法に基づいて行なうことができ、目的とする化合物が得られる限り、いかなる方法を用いてもよい。例えば周知の方法であるBoc(t−ブチルオキシカルボニル)化反応、DMSO酸化、アルカリ反応、酸性反応、エポキシ化反応、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、アルキル化反応、ケン化反応、加熱反応、脱炭酸反応、縮合反応、逆相高速液体クロマトグラフィー等を適宜組み合わせて行なうことができる。例示としては、例えば、本発明の対象となる候補物質の構造要素部分を順次反応させ、コンビナトリアルケミストリーなどにより効率と反応物純度の検定を適宜実施する方法を行なってもよい。
【0086】
このような本発明の基質ペプチドを発現させた宿主細胞自体を用いてスクリーニングする場合、以下のような形態が考慮される。
【0087】
1つの具体的な実施形態としては、細胞膜上にAβ42を発現させる場合の例として、γ−セクレターゼの作用でAβ38が産生されるか以下のように実施することができる。βAPP−CTFを発現させるプラスミドにおいて、βAPP−CTF遺伝子(配列番号1)中43番目のコドンをストップコドンに改変し、Aβ42を発現するプラスミドを作製することができる。別の基質ペプチド(例えば、Aβ45)を使用する場合は、適宜ストップコドン(配列番号1の46番目)を移動させて改変体を製造することができる。
【0088】
染色体のβAPP遺伝子をノックアウトしたマウス胎児線維芽細胞(βAPP−KO MEF)にこのプラスミドを導入することができる。Aβ42等の上記改変体を発現するコンストラクトを持つβAPP−KO MEFおよび持たないβAPP−KO MEFの培養上清をELISA法により定量することができる(Aβ抗体を使用)。その結果コンストラクトを持つβAPP−KO MEF培養上清のみから、Aβ42およびAβ38を検出することができる。コンストラクトを持つβAPP−KO MEFにγ−セクレターゼ阻害剤(例えば、L−685,458等)を添加した場合Aβ38産生が抑制されることを確認することによって、γ−セクレターゼの作用によりAβ42からAβ38が生じることを実証することができる。
【0089】
本発明のスクリーニングに供されうる候補物質は、合成や精製を促進するための修飾、物理・化学的安定化を促進するための修飾、生体内の代謝に対する安定性と不安定性、条件付けの等の活性化修飾、更には、脳血管関門通過を含む臓器搬送効率の高進と低下をもたらす制御修飾を含むものであってよい(Schwarze,S.R.,Ho,A.,Vocero−Akbani,A.&Dowdy,S.F.In vivo protein transduction:Delivery of a biologically active proteininto the mouse Science 285:1569−1572)。
【0090】
本発明のスクリーニングに供されうる候補物質のその他の修飾には、アセチル化、アシル化、ADP−リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、交差架橋、環化、ジスルフィド結合、脱メチル化、交差架橋共有結合形成、シスチン形成、ピログルタメート形成、ホルミル化、ガンマーカルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、水酸化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質加水分解プロセッシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、脂質結合、硫酸化、セレノイル化、アルギニル化のようなトランスファーRNA媒介のタンパクへのアミノ酸の添加、ならびにユビキチネーション等があり、適宜使用することができる。
【0091】
(γ−セクレターゼの修飾物質または阻害物質等のスクリーニングのための組成物およびキット)
1つの局面において、本発明は、γ−セクレターゼによる酵素反応によって、配列番号1の37位、38位または40位で終わる配列からなる切断ペプチド、配列番号2の25位で終わる配列からなる切断ペプチドおよび配列番号3の21位で終わる配列からなる切断ペプチドのうち1つまたは複数を生じる基質ペプチドを含むγ−セクレターゼの活性を調節する因子である修飾物質または阻害物質等の評価のための組成物を提供する。本組成物において使用される基質ペプチドおよび/または切断ペプチドは、本明細書において(医薬探索方法)の節において説明した任意の実施形態を採用することができる。
【0092】
1つの具体的な実施形態では、本発明の組成物は、γ−セクレターゼにより切断されるペプチド配列を含む基質ペプチドを含み、該基質ペプチドは配列番号1の部分配列を含み、配列番号1の40位または42位で終わる配列からなるペプチド(例えば、配列番号1の1〜40位のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1の1〜42位のアミノ酸配列からなるペプチド、および配列番号1の11〜42位のアミノ酸配列からなるペプチド)、配列番号2の配列からなるペプチド(APL1β28)、および配列番号3の配列からなるペプチド(Nβ25)からなる群より選択される少なくとも1つのペプチドを含む。
【0093】
別の局面において、本発明は、γ−セクレターゼによる酵素反応によって、配列番号1の37位、38位または40位で終わる配列からなる切断ペプチド、配列番号2の25位で終わる配列からなる切断ペプチドおよび配列番号3の21位で終わる配列からなる切断ペプチドのうち1つまたは複数を生じる基質ペプチドを含むγ−セレクターゼの修飾物質または阻害物質等の評価のためのキットを提供する。本組成物において使用される基質ペプチドおよび/または切断ペプチドは、本明細書において(医薬探索方法)の節において説明した任意の実施形態を採用することができる。この組成物またはキットは、従来の方法において、γ−セクレターゼの阻害物質、修飾物質等を効率的にスクリーニングすることが困難とされていたという課題を解決し特異的な修飾物質または阻害物質等を簡便に評価することができるという点で好ましい。
【0094】
1つの具体的な実施形態では、本発明のキットは、γ−セクレターゼにより切断されるペプチド配列を含む基質ペプチドを含み、該基質ペプチドは配列番号1の部分配列を含み、配列番号1の40位または42位で終わる配列からなるペプチド(例えば、配列番号1の1〜40位のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1の1〜42位のアミノ酸配列からなるペプチド、および配列番号1の11〜42位のアミノ酸配列からなるペプチド)、配列番号2の配列からなるペプチド(APL1β28)、および配列番号3の配列からなるペプチド(Nβ25)からなる群より選択される少なくとも1つのペプチドを含む。
【0095】
本発明のキットは、その使用方法を明示した指示書が添付されていてもよい。本明細書において「指示書」は、本発明のスクリーニング方法などを利用者に対して記載したものである。この指示書は、本発明の基質ペプチド、酵素などを例えば、どのように候補物質または被験物質(たとえば、有機低分子のライブラリー)に暴露し、どのように、切断ペプチドを測定し、評価するべきかを指示する文言が記載されている。この指示書は、必要に応じて、本発明が実施される国の監督官庁が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0096】
また、指示書には、(医薬探索方法)の節において説明したような、判定方法に関する説明がなされていてもよい。
【実施例】
【0097】
以下の実施例で用いた動物の取り扱いは、大阪大学において規定される規準を遵守した。実施例において使用した物質、試薬等は、格別の記載がない場合、Roche、Sigma−Aldrich、和光純薬、ナカライテスク等から入手したものを用いた。Aβ42などの合成基質は、ペプチド研究所(ペプチド研)(大阪、日本)あるいはANASPEC社(サンフランシスコ、アメリカ)から入手した。
【0098】
MALDI−TOF MSは、Applied Biosystem社製の Voyager DERPを用いて実施した。
【0099】
(製造例)
本例では、実施例において試験されるべき化合物A,BおよびCを製造する例を説明する。
【0100】
【表1】

【0101】
本発明の一般式(I)で表される化合物A、BおよびCは、以下に示す合成ルートによって製造した。
【0102】
【化1】

【0103】
ここで、化合物A、BおよびCについては、以下のとおりである。
【0104】
(化合物A)
式(I)中
L=−SONH−
AkおよびAkはいずれも単結合
Aはベンゼン環(フェニル)、R、R,RはH
C=4−メチルイミダゾリル(A(フェニル)に対して4−置換)
B=2,5−ジメチルチアゾリルチオフェン
DがSO−Clであり、EがNHである。
【0105】
(化合物B)
式(I)中
L=−SONH−
AkおよびAkはいずれも単結合
Aはベンゼン環、Rはメトキシ(3−置換)、R,RはH
C=4−メチル置換イミダゾリル(4−置換)
B=2−(4−メチルフェニル−オキシ)置換フェニル
DがSO−Clであり、EがNHである。
【0106】
(化合物C)
式(I)中
L=−SONH−
AkおよびAkはいずれも単結合
Aはベンゼン環、Rはメトキシ(3−置換)、R,RはH
C=4−メチル置換イミダゾリル(4−置換)
B=2−(4−エチルフェニル)置換フェニル
DがSO−Clであり、EがNHである。
【0107】
化合物A、BおよびCは、それぞれ公知化合物であるかまたは公知化合物から常法により得られる化合物である、化合物aおよび化合物bを反応させることにより製造した。
【0108】
例えば化合物aは、化合物A、BおよびCにおいて示される各置換基を有するハロゲノスルホニル化合物であり、化合物bは、化合物A、BおよびCにおいて示される各置換基を有するアミン化合物である。化合物aは塩酸塩または臭素酸塩等の塩であってもよいが本実施例では、化合物A、BおよびCいずれについても遊離体のものを使用した。反応溶媒兼塩基としてピリジンを用い、室温〜200℃で適宜反応をさせた。
【0109】
このようにして製造した化合物A、BおよびCは、NMRおよび質量分析データを用いて同一性を確認した。質量分析データは、以下のとおりである。
化合物A:[M+H]+ = 431.1
化合物B:[M+H]+ = 450.1
化合物C:[M+H]+ = 448.2
また、これらの化合物A、BおよびCは、以下の手法を用いて、Aβ42産生抑制作用を確認した。
【0110】
(参考例1 ラット初代神経培養細胞を用いたAβ42産生抑制作用)
各試験化合物を初代培養大脳皮質細胞が分泌するAβ42産生濃度と細胞生存活性を評価項目として濃度依存的な効果を試験した。分泌Aβ42産生量はELISAで評価を行った。また細胞生存活性は生細胞数測定試薬を用いて評価を行った。初代培養大脳皮質細胞は胎生18日齢SD系ラット胎仔より調製した。エーテル麻酔下で頚動脈を切断後、胎仔を取り出し氷冷DMEM(ナカライテスク)/PBS中で脳を単離し、さらに顕微鏡下で大脳皮質を単離後、2.5%パパイン(Sigma)、0.2%DNase(タカラバイオ)を加えた反応液で37℃、15分間処理した。酵素反応は非動化ウマ血清(Invitrogen)により停止し、1,000rpm、5分間遠心した。DMEMで再懸濁、1,000rpm、5分間遠心した。ペレットに5mLのNeurobasal medium(Invitrogen)、2% B−27 supplement(Invitrogen)、0.5 mM L−グルタミン、25 μM L−グルタミン酸を加え、先をなめしたパスツールピペットでトリチュレーションしPLLコーティングした96穴プレートに1.6×10細胞/100μl/ウェルで播種し、37℃、5% CO条件下で1日培養後にmedium交換した。さらに6日後に化合物を処置した。試験化合物のDMSO溶液を最終DMSO濃度1%となるように希釈し最終溶液を1ウェルあたり200μLとした。対照化合物としてγ−セクレターゼ阻害剤であるDAPT(Calbiochem)を用いた。24時間後、培養液上清液は回収されAβ42測定用ELISAサンプルとして、適切な希釈を行った後にELISAに供した。培養細胞は生細胞数測定に用いた。
【0111】
ELISAはHuman/Rat β Amyloid(42)ELISA Kit WAKO(和光純薬)を用いた。方法はメーカー推奨の添付文書に記載の方法にて行った。各サンプルについて対象群の培養上清中Aβ42濃度に対する百分率(% of Control)を算出し、続いて各試験化合物のIC50値を算出した。細胞生存活性は生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク)を用いた。方法はメーカー推奨の添付文書に記載の方法にて行った。各サンプルについて対象群の生細胞数に対する百分率(% of Control)を算出し、細胞生存活性を評価した。
【0112】
(結果)
参考例1の結果、化合物A,B,CはAβ42産生抑制作用を有することが分かった。
【0113】
(参考例2 試験化合物のγ-セクレターゼ活性阻害作用)
各試験化合物をHEK−APPswe細胞でのγ−セクレターゼによるAPPプロセッシング評価、即ちγ−セクレターゼの基質となるC−末端フラグメント(CTFs)量を評価項目としてγ−セクレターゼ阻害効果を濃度依存的に試験した(各試験化合物Aβ42 IC50値の1倍、10倍、30倍量濃度の3点)。γ−セクレターゼ阻害により蓄積するCTFs産生量はウェスタンブロット(WB)法で評価を行った。またコントロール対照となるAPP量も同様に評価を行った。
【0114】
HEK−APPswe細胞はHEK細胞に家族性アルツハイマー病変異のひとつであるスウェーデン変異を有するヒト型APP695が遺伝子導入され、安定発現細胞として樹立された。この細胞は10% FCSを含むDMEMで培養した。HEK−APPswe細胞を6ウェルプレートに1ウェルあたり1.0×10個/1mL DMEMとなるように播種する。同時に試験化合物のDMSO溶液をDMEM溶液で最終濃度2倍になるように希釈し、この希釈液を1mL添加し、よく細胞と混和し最終DMEM溶液を1ウェルあたり2mLとした。最終DMSO濃度は1%となるように調製した。対照化合物としてγ−セクレターゼ阻害剤であるDAPT(Calbiochem)を用いた。24時間後、培養細胞は回収されRIPAバッファーで溶解後、遠心上清(14000rpm,4℃,10min)である細胞抽出液を蛋白質定量Kit(Pierce)で蛋白定量した。細胞抽出液を4×SDSサンプルバッファー(Invitorgen)で希釈し5分間煮沸したものを評価サンプルとした。このサンプルを10−20%トリシンゲル(Invitorgen)にてSDS−PAGEを行った。蛋白質をPVDF膜(Invitorgen)に転写した後、5%スキムミルクPBSバッファーを用いてブロッキングしAPPのC末端抗体(免疫生物研究所)を用いてWBを行った。二次抗体はHRP標識抗体を用い、APPおよびCTFsの定量はLAS−3000(富士フィルム)イメージアナライザーを用いた。定量はDMSOのみを添加した対照群のCTFs/APPに対する百分率(% of Control)を算出し、続いて各試験化合物のCTFs増加量を算出した。このときγ−セクレターゼ活性阻害を有する試験化合物は濃度依存的にγ−セクレターゼ基質であるCTFs量を増加させる。
【0115】
(結果)
参考例2の結果、化合物A,B,Cはγ−セクレターゼの修飾物質であることが分かった。
【0116】
(実施例1.合成Aβ42を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断のMALDI TOF MS測定)
確立されたin vitro γ−セクレターゼアッセイ系に合成Aβ42を基質として加え,直接的にAβ42がAβ38の前駆体であるかどうか、MALDI TOF MS解析により検討を行った。
【0117】
基質となるAβ42(ペプチド研)はHFIP処理を行いDMSO溶解後、Buffer C(300mMクエン酸,pH6.0,500mMスクロース,0.5%CHAPSO,0.2%ホスファチジルコリン,20mMベスタチン(Bestatin),20mMアマスタチン(Amastatin),10mMフェナンスロリン(Phenanthroline),20mMカプトプリル(Captopril),x10 Roche製Complete inhibitor)で最終濃度470nMに希釈した。酵素であるγ−セクレターゼ複合体は文献記載(Kakuda et al.,J.Biol.Chem.2006 May 26;281(21):14776−86.Epub 2006 Apr 4.)の通り培養細胞の粗精製膜分画からCHAPSOで抽出した膜タンパク質分画を抗nicastrin抗体で免疫沈降法により精製した。反応はBuffer Cで希釈した精製γ−セクレターゼ酵素に基質Aβ42を加え、37℃、1時間インキュベーションを行った。またγ−セクレターゼ特異的切断かどうかを検討するためγ−セクレターゼ阻害剤であるDAPT(ペプチド研)を最終濃度10μM添加した実験も行った。反応後、氷上に置くことで反応停止し、そのサンプル上清をMALDI TOF MS解析に用いた。
【0118】
酵素反応液の一部は抗Aβ抗体4G8(Covance)とプロテインGセファロース(protein G sepharose)とを混合させ、4℃で一晩免疫沈降し洗浄緩衝液(wash buffer)(50 mM Tris−HCl,pH7.6,150 mM NaCl、2 mM EDTA、Roche製Complete inhibitor)で5回洗浄し、3回超純水で洗浄した。免疫沈降産物はトリフルオロ酢酸(trifluoroacetic acid)/アセトニトリル(acetonitrile)/水(water)(1:20:20)で溶出し、MALDI−TOF MS解析を実施した。
【0119】
得られた結果を図2のa)に示す。37°Cで反応後、基質として合成Aβ42を加えたサンプルにはde novo Aβ38が産生されていることを、IP−MALDI−TOF/MS 解析によって明らかにした。このde novo Aβ38はγ−セクレターゼ阻害剤であるDAPTの添加により消失する。それゆえに、γ−セクレターゼはAβ42をAβ38に切断することが示された。
【0120】
(実施例2.合成Aβ42を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断のELISA測定)
実施例1と同様に、確立されたin vitro γ−セクレターゼアッセイ系に合成 Aβ42を基質として加え,直接的にAβ42がAβ38の前駆体であるか定量的ELISA法により検討を行った。
【0121】
実施例1と同様の条件で、合成Aβ42を基質としたγ−セクレターゼによる酵素反応を行った。de novo Aβ38はIBL社Aβ38 ELISAを用いて測定を行った。酵素反応液の一部を用い、操作手順書に従い定量を実施した。
【0122】
得られた結果を図2のb)に示す。37℃で反応後、基質として合成Aβ42を加えたサンプルにはde novo Aβ38が産生されていることを、定量ELISA解析によって明らかにした。このde novo Aβ38はγ−セクレターゼ阻害剤であるDAPT の添加により消失する。それゆえに、γ−セクレターゼはAβ42をAβ38に切断することが示された。
【0123】
(実施例3.合成Aβ42を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断の最適条件の検討)
γ−セクレターゼによるAβ42からのAβ38産生効率において評価系中のCHAPSO濃度との関連について検討した。
【0124】
実施例1の酵素反応条件のうち、CHAPSO濃度を0%から1.5%まで条件を変えて、合成Aβ42を基質としたγ−セクレターゼによる酵素反応を行った。de novo Aβ38 はIBL社Aβ38 ELISAを用いて測定を行った。酵素反応液の一部を用い、操作手順書に従い定量を実施した。
【0125】
得られた結果を図3のa)に示す。CHAPSO濃度0%から0.5%まで反応効率が徐々に上昇し、0.5%のとき最も反応効率が良いこと示された。また0.5%からCHAPSO濃度を上昇させると徐々に反応効率が下がることも明らかとなった。
【0126】
(実施例4.合成Aβ42を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断の反応直線性の検討)
γ−セクレターゼによるAβ42からのAβ38産生において反応時間とAβ38産生との関係を検討した。
【0127】
実施例1と同様の条件で、合成Aβ42を基質としたγ−セクレターゼによる酵素反応を行い、反応開始0、10、20、30および40分後でのde novo Aβ38 産生量をIBL社Aβ38 ELISAを用いて測定を行った。またコントロールとしてγ−セクレターゼ阻害剤であるL−685,458(ペプチド研)10μM添加したサンプルも各時間でde novo Aβ38産生量を測定した。
【0128】
得られた結果を図3のb)に示す。時間の経過とともにde novo Aβ38が産生されていること、また試験を行った時間内では直線性を保つことが示された。一方、L−685,458 10μM添加したコントロールでは時間が経過してもde novo Aβ38産生は認められなかった。
【0129】
(実施例5.合成Aβ38を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断のMALDI TOF MS測定)
上述の実施例に記載されているように、確立されたin vitro γ−セクレターゼアッセイ系に合成Aβ38を基質として加え,直接的にAβ38がγ−セクレターゼによって切断されるのかMALDI TOF MS解析により検討を行った。
【0130】
実施例1と同様に、合成Aβ38を基質としたγ−セクレターゼによる酵素反応を行い、CHAPSO濃度を0.125%から1.5%まで変えた条件で酵素反応を行った。反応停止後、酵素反応液の一部を実施例1と同様に免疫沈降後、MALDI−TOF MS解析を実施した。
【0131】
得られた結果を図4に示す。全てのCHAPSO濃度においてもC末端の短縮したAβの新規産生は認められなかった。それゆえ、Aβ42とは異なり、γ−セクレターゼはAβ38を最早基質として認識しないことが示唆された。
【0132】
(実施例6.γ−セクレターゼによる合成Aβ42基質切断におけるγ−セクレターゼ修飾薬の影響)
γ−セクレターゼ修飾薬はAβ42の比較的(相対)産生比を減少させ、Aβ38の比較的産生量を増大させる。またその他いくつかのγ−セクレターゼ修飾薬はAβ42の比較的産生を上昇させる。このAβ42産生の増減とAβ38産生との増減の間に関連性があるか不明である。そこでAβ42を基質とする酵素評価系にγ−セクレターゼ修飾薬を添加しAβ38産生に影響を与えるか検討した。
【0133】
Aβ42の比較的産生量を低下させるγ−セクレターゼ修飾薬(阻害剤)として、製造例で製造し、参考例1および2でその活性を確認した化合物A、B、Cを用いた。
【0134】
上述のように化合物A,B,CそれぞれについてのAβ切断変化を解析するため、APP過剰発現培養細胞にこれら化合物を添加し、一定時間培養後の培養上清液を回収した。回収した培養液の一部を抗Aβ抗体4G8(Covanceから入手した。)とプロテインGセファロースとを混合させ、4℃で一晩免疫沈降し洗浄緩衝液(50mM Tris−HCl,pH7.6,150mM NaCl、2mM EDTA、Roche製Complete inhibitor)で5回洗浄し、3回超純水で洗浄した。免疫沈降産物はトリフルオロ酢酸/アセトニトリル/水(1:20:20)で溶出し、MALDI−TOF MS解析を実施した。
【0135】
得られた結果を図5のa)に示す。コントロールと比較し、化合物AはAβ42の比較的産生比を減少させ、Aβ37の比較的産生量を増大させた。化合物BはAβ42の比較的産生比を減少させ、Aβ38の比較的産生量を増大させた。化合物CはAβ40,Aβ42の比較的産生比を減少させ、Aβ37,Aβ38の比較的産生量を増大させた。
【0136】
次に実施例1あるいは2で実施されたAβ42を基質とする酵素評価系(CHAPSO濃度は0.25%あるいは0.5%)に上記化合物AおよびBを添加しAβ38産生速度に影響を与えるか検討した。de novo Aβ38 産生速度変化はIP−MALDI−TOF/MS 解析あるいはIBL社から入手したAβ38 ELISAを用いて測定を行った。
【0137】
得られた結果を図5のb)およびc)に示す。化合物B添加時のIP−MALDI−TOF/MS 解析(図5のb))ではAβ42からのAβ38産生量は何も薬剤を加えていないサンプルでのAβ38産生量よりも多かった。この結果は図5のa)で得られたAβ切断変化と一致する。また同様にELISA測定(図5のc))においても,化合物Bは何れのCHAPSO濃度においてもコントロールであるDMSO添加サンプルよりもAβ38産生量が多かった。一方、図5のa)でAβ38の比較的産生比に影響しない化合物A添加時ではAβ38産生量がほとんど増加しなかった。
【0138】
これらの結果は「γ−セクレターゼ修飾薬(阻害剤)が少なくとも部分的にはγ−セクレターゼによるAβ42からAβ38への分解速度を変化させることでAβ42の比較的産生量を調節している」ことを示しているとともに、本酵素評価系がAβ42固有の産生および分泌メカニズムの提供、ひいてはγ−セクレターゼ修飾薬のメカニズム解明に役立つことを意味している。
【0139】
(実施例7.isotype Aβ42を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断の測定)
確立されたin vitro γ−セクレターゼアッセイ系にisotype Aβ42であるAβ11−42を基質として加え,直接的にAβ11−42がγ−セクレターゼによって切断されるのかMALDI TOF MS解析により検討を行った。
【0140】
実施例1と同様に、合成Aβ11−42を基質としたγ−セクレターゼによる酵素反応を行い、CHAPSO濃度が0.5%の条件で酵素反応を行った。反応停止後、酵素反応液の一部を実施例1と同様に免疫沈降後、MALDI−TOF MS解析を実施した。
【0141】
得られた結果を図6に示す。37℃で反応後、基質として合成Aβ11−42を加えたサンプルにはde novo Aβ11−38が産生されていることを、IP−MALDI−TOF/MS 解析によって明らかにした。それゆえに、γ−セクレターゼはAβ11−42をAβ11−38に切断することが示された。以上から、少なくとも32アミノ酸の長さであれば、基質ペプチドとして作用しうることが示唆される。
【0142】
(実施例8.合成Aβ45を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断の測定)
確立されたin vitro γ−セクレターゼアッセイ系に合成 Aβ45を基質として加え,直接的にAβ45がγ−セクレターゼによって切断されるのかMALDI TOF MS解析により検討を行った。
【0143】
実施例1と同様に、合成Aβ45を基質としたγ−セクレターゼによる酵素反応を行い、CHAPSO濃度を0.25%から1.5%まで変え酵素添加ありなしで行った。反応停止後、酵素反応液の一部を実施例1と同様に免疫沈降後、MALDI−TOF MS解析を実施した。
【0144】
得られた結果を図7に示す。CHAPSO濃度0.25%においてC末端の短縮したAβ38およびAβ40の産生が認められた。それゆえに、γ−セクレターゼはAβ45を基質としてC末端を切断することが示された。Aβ45からC末端の短縮したAβ38およびAβ40の産生が見られることは従来知られておらず、本発明において見出された知見であり、このような知見も、本発明のスクリーニング方法において利用しうることが理解される。
【0145】
(実施例9.合成Aβ40を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断の測定)
上述の実施例において記載されているように、確立されたin vitro γ−セクレターゼアッセイ系に合成 Aβ40を基質として加え,直接的にAβ40がγ−セクレターゼによって切断されるのかMALDI TOF MS解析により検討を行った。
【0146】
実施例1と同様に、Aβ40を基質としたγ−セクレターゼによる酵素反応を行い、CHAPSO濃度を0.25%から1.5%まで変えた条件で酵素反応を行った。このとき、実施例6で用いた化合物Cを最終濃度2μM添加し実験を行った。またγ−セクレターゼ特異的切断かどうかを検討するためγ−セクレターゼ阻害剤であるL−685,458(ペプチド研)を最終濃度10μM添加した実験も行った。反応停止後、酵素反応液の一部を実施例1と同様に免疫沈降後、MALDI−TOF MS解析を実施した。
【0147】
得られた結果を図8に示す。CHAPSO濃度0.75%においてC末端の短縮したAβ37の産生が認められた。このAβ37はγ−セクレターゼ阻害剤であるL−685,458の添加により消失する。それゆえに、γ−セクレターゼはAβ40をAβ37に切断することが示された。
【0148】
(実施例10.合成Aβ43を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断の測定)
上述の実施例において記載されているように、確立されたin vitro γ−セクレターゼアッセイ系に合成 Aβ43を基質として加え,直接的にAβ43がγ−セクレターゼによって切断されるのかMALDI TOF MS解析により検討を行った。
【0149】
実施例1と同様に、Aβ43を基質としたγ−セクレターゼによる酵素反応を行い、CHAPSO濃度を0.125%から1.5%まで変え酵素添加ありなしで行った。反応停止後、酵素反応液の一部を実施例1と同様に免疫沈降後、MALDI−TOF MS解析を実施した。
【0150】
得られた結果を図9に示す。CHAPSO濃度0.125,0.25,1.5%においてC末端の短縮したAβ40の産生が認められた。またCHAPSO濃度0.5,0.75%においてC末端の短縮したAβ38およびAβ40の産生が認められた。それゆえに、γ−セクレターゼはAβ43をAβ38あるいはAβ40に切断することが示された。
【0151】
(実施例11.合成Aβ46を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断の測定)
上述の実施例において記載されているように、確立されたin vitro γ−セクレターゼアッセイ系に合成 Aβ46を基質として加え,直接的にAβ46がγ−セクレターゼによって切断されるのかMALDI TOF MS解析により検討を行った。
【0152】
実施例1と同様に、Aβ46を基質としたγ−セクレターゼによる酵素反応を行い、CHAPSO濃度を0.125%から1.5%まで変え酵素添加ありなしで行った。反応停止後、酵素反応液の一部を実施例1と同様に免疫沈降後、MALDI−TOF MS解析を実施した。
【0153】
得られた結果を図10に示す。CHAPSO濃度0.75%においてC末端の短縮したAβ38およびAβ40の産生が認められた。それゆえに、γ−セクレターゼはAβ46を基質としてC末端を切断することが示された。
【0154】
(実施例12.合成APL1β28を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断の測定)
APLP1β分子はAβ様ペプチドとしてAPLP1からBACE1および(PS)/γ−セクレターゼによる膜内タンパク質分解によって産生され、その中でもAPL1β28はAβ42のサロゲートマーカーであることが示唆されている。そこで確立されたin vitro γ−セクレターゼアッセイ系に合成APL1β28を基質として加え,直接的にAPL1β28がγ−セクレターゼによって切断されるのかMALDI TOF MS解析により検討を行った。
【0155】
実施例1と同様に、合成APL1β28を基質としたγ−セクレターゼによる酵素反応を行い、CHAPSO濃度を0.25%から1.5%まで変え酵素添加ありなしで行った。このとき、実施例6で用いた化合物Cを最終濃度20μM添加し実験を行った。反応停止後、酵素反応液の一部を実施例1と同様に免疫沈降後、MALDI−TOF MS解析を実施した。
【0156】
得られた結果を図11に示す。CHAPSO濃度0.5%においてC末端の短縮したAPL1β25の産生が認められた。それゆえに、γ−セクレターゼはAPL1β28をAPL1β25に切断することが示された。
【0157】
(実施例13.合成Nβ25を基質としたγ−セクレターゼによる酵素切断の測定)
Nβ25分子はAβ様ペプチドとしてNotch1からTACEおよび(PS)/γ−セクレターゼによる膜内タンパク質分解によって産生され、その中でもNβ25はAβ42のサロゲートマーカーとなり得ることが示唆されている。そこで確立されたin vitro γ−セクレターゼアッセイ系にNβ25を基質として加え,直接的にNβ25がγ−セクレターゼによって切断されるのかMALDI TOF MS解析により検討を行った。
【0158】
実施例1と同様に、Nβ25を基質としたγ−セクレターゼによる酵素反応をCHAPSO濃度0.25%で酵素添加ありなしで行った。反応停止後、反応液の一部を実施例1と同様に免疫沈降後、MALDI−TOF MS解析を実施した。
【0159】
得られた結果を図12に示す。C末端の短縮したNβ21の産生が認められた。それゆえに、γ−セクレターゼはNβ25をNβ21に切断することが示された。
【0160】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明は、γ−セクレターゼの阻害物質、修飾物質等をスクリーニングすることができる方法を提供する。このような方法は、医薬品・製薬産業において有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0162】
配列番号1:アミロイドβ(1−55)の配列であるDAEFRHDSGY EVHHQKLVFF AEDVGSNKGA IIGLMVGGVV IATVIVITLV MLKKK
配列番号2:APL1β28であるDELAPAGTGVSREAVSGLLIMGAGGGSL
配列番号3:Nβ25であるVKSEPVEPPLPSQLHLMYVAAAAFV

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)配列番号1の部分配列を含むペプチド配列であって、γ−セクレターゼにより切断されるペプチド配列を含む基質ペプチドに、γ−セクレターゼを候補物質の非存在下および存在下で接触させ、配列番号1の37位、38位または40位で終わる配列からなる切断ペプチドを得る工程;ならびに
(B)該候補物質の非存在下における該切断ペプチドの量またはレベルとの比較において、該候補物質の存在下における該切断ペプチドの量またはレベルが変わらないかまたは増加するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの修飾物質であると判断し、該切断ペプチドの量またはレベルが減少するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの阻害物質であると判断する、工程
を包含する、γ−セクレターゼの修飾物質または阻害物質のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記基質ペプチドは32アミノ酸以上の長さを有する、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記基質ペプチドは配列番号1の11〜42位のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記切断ペプチドは配列番号1の37位または38位で終わる配列からなるペプチドの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記切断ペプチドが基質ペプチドの配列番号1の40位で終わる配列を含む場合、前記基質ペプチドは、配列番号1の45位で終わる配列を含む、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記基質ペプチドは配列番号1の1〜40位のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1の1〜42位のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1の11〜42位のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1の1〜43位のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1の1〜45位のアミノ酸配列からなるペプチド、および配列番号1の1〜46位のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群より選択される、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
前記基質ペプチドが配列番号1の43位、45位または46位で終わる配列を含む場合、前記切断ペプチドは配列番号1の38位または40位で終わるペプチドの少なくとも1つを含み、
該基質ペプチドが配列番号1の42位で終わる配列を含む場合、該切断ペプチドは配列番号1の38位で終わるペプチドを含み、
該基質ペプチドが配列番号1の40位で終わる配列を含む場合、該切断ペプチドは配列番号1の37位で終わるペプチドを含む、
請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
(A)配列番号2の部分配列を含むペプチド配列であって、γ−セクレターゼにより切断される配列を含む基質ペプチドに、γ−セクレターゼを候補物質の非存在下および存在下で接触させ、配列番号2の25位で終わる配列からなる切断ペプチドを得る工程;ならびに
(B)該候補物質の非存在下における該切断ペプチドの量またはレベルとの比較において、該候補物質の存在下における該切断ペプチドの量またはレベルが変わらないかまたは増加するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの修飾物質であると判断し、該切断ペプチドの量またはレベルが減少するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの阻害物質であると判断する、工程
を包含する、γ−セクレターゼの修飾物質または阻害物質のスクリーニング方法。
【請求項9】
前記基質ペプチドは配列番号2からなるAPL1β28である、請求項8に記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
(A)配列番号3の部分配列を含むペプチド配列であって、γ−セクレターゼにより切断される配列を含む基質ペプチドに、γ−セクレターゼを候補物質の非存在下および存在下で接触させ、配列番号3の21位で終わる配列からなる切断ペプチドを得る工程;ならびに
(B)該候補物質の非存在下における該切断ペプチドの量またはレベルとの比較において、該候補物質の存在下における該切断ペプチドの量またはレベルが変わらないかまたは増加するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの修飾物質であると判断し、該切断ペプチドの量またはレベルが減少するとき、該候補物質がγ−セクレターゼの阻害物質であると判断する、工程
を包含する、γ−セクレターゼの修飾物質または阻害物質のスクリーニング方法。
【請求項11】
前記基質ペプチドは配列番号3からなるNβ25である、請求項10に記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
基質ペプチドを含む、γ−セレクターゼの修飾物質または阻害物質の評価のための組成物であって、該基質ペプチドは、γ−セクレターゼにより切断されるペプチド配列を含み、配列番号1の部分配列を含み、配列番号1の40位または42位で終わる配列からなるペプチドを含む、組成物。
【請求項13】
前記基質ペプチドは32アミノ酸以上の長さを有する、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記基質ペプチドは配列番号1の11〜42位のアミノ酸配列を含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
前記基質ペプチドは配列番号1の1〜40位のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1の1〜42位のアミノ酸配列からなるペプチド、および配列番号1の11〜42位のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群より選択される、請求項12に記載の組成物。
【請求項16】
配列番号2の配列からなるペプチドを含む、γ−セレクターゼの修飾物質または阻害物質の評価のための組成物。
【請求項17】
配列番号3の配列からなるペプチドを含む、γ−セレクターゼの修飾物質または阻害物質の評価のための組成物。
【請求項18】
基質ペプチドを含む、γ−セレクターゼの修飾物質または阻害物質の評価のためのキットであって、該基質ペプチドは、γ−セクレターゼにより切断されるペプチド配列を含み、配列番号1の部分配列を含み、配列番号1の40位または42位で終わる配列からなるペプチドを含む、キット。
【請求項19】
前記基質ペプチドは32アミノ酸以上の長さを有する、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
前記基質ペプチドは、配列番号1の11〜42位のアミノ酸配列を含む、請求項18に記載のキット。
【請求項21】
前記基質ペプチドは配列番号1の1〜40位のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1の1〜42位のアミノ酸配列からなるペプチド、および配列番号1の11〜42位のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群より選択される、請求項18に記載のキット。
【請求項22】
配列番号2からなるAPL1β28を含む、γ−セレクターゼの修飾物質または阻害物質の評価のためのキット。
【請求項23】
配列番号3からなるNβ25を含む、γ−セレクターゼの修飾物質または阻害物質の評価のためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−85602(P2012−85602A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236917(P2010−236917)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度、独立行政法人医薬基盤研究所、「アルツハイマー病病理過程の分子レベル基盤研究と発症リスク遺伝子の機能解析およびそれらの融合」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)」
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】