説明

プレチスモグラフ変動プロセッサ

プレチスモグラフ変動プロセッサが、ある組織部位の内部における拍動性血流に対応するパルスを有するプレチスモグラフ波形を入力する。このプロセッサは、選択されたプレチスモグラフ特性に基づいてプレチスモグラフ値を導き、変動値を決定し、プレチスモグラフ変動パラメータを算出する。上記変動値は上記プレチスモグラフ特性の変動性を表わす。上記プレチスモグラフ変動パラメータは、上記変動値を代表するものであり、さまざまな生理状態とこれらの状態についての処置の効能との有用な表示をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[優先権主張出願]
この出願は、2006年12月9日に提出されて「プレチスモグラフ変動指数」という発明の名称が付けられた先の米国仮特許出願である第60/873,663号出願と、2007年10月12日に提出されて「プレチスモグラフ変動指数」という発明の名称が付けられた先の米国仮特許出願である第60/998,782号出願について優先権を主張するものである。上記両出願のすべての内容は、参照によってこの明細書の中に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
脈動式酸素測定法では、人間の酸素飽和度(SpO)および脈拍数を測定するために非侵襲型センサが利用される。このセンサには、赤色波長および赤外線波長の光学的放射線を組織部位へ伝達する発光ダイオード(LED)と、上記組織部位の内部を流れる拍動性動脈血による減衰の後に上記光学的放射線の強度に反応する検出器とが備わっている。脈動式酸素濃度計は、外科病棟、集中治療・新生児施設、一般病棟、在宅医療、身体訓練、および事実上すべての種類の監視用シナリオが含まれる多種多様な医学的用途において急速に受け入れられた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
運動誘発ノイズを通して読み取り可能な脈動式酸素濃度計が、少なくとも米国特許第6,770,028号、第6,658,276号、第6,584,336号、第6,263,222号、第6,157,850号、第5,769,785号、および第5,632,272号に開示されているが、これらの特許は、米国カリフォルニア州アービンのMasimo Corporation(“Masimo”)に譲渡されており、参照によってこの明細書の中に組み込まれる。低ノイズ脈動式酸素濃度計センサが、同じくMasimoに譲渡され、かつ参照によってこの明細書の中に組み込まれる米国特許第7,027,849号、第6,985,764号、第6,934,570号、第6,760,607号、第6,377,829号、第6,285,896号、第5,782,757号、および第5,638,818号の1つ以上に開示されている。加えて、運動誘発ノイズを通して読み取り可能な脈動式酸素濃度計や、LNOP(登録商標)使い捨て型、再利用可能型および/または多部位型の各センサが含まれる低ノイズ光学式センサ、およびRadical(登録商標)型、Rad−5(商標)型、Rad−8(商標)型、Rad−9(商標)型、PPO+(商標)型の各モニタもMasimoから市販されている。
【0004】
複数パラメータモニタおよび複数波長センサが、2006年3月1日に提出されて「非侵襲性複数パラメータ患者モニタ」という発明の名称が付けられた米国特許出願第11/367,033号、および2006年3月1日に提出されて「複数波長センサエミッタ」という発明の名称が付けられた米国特許出願第11/367,013号に記載されているが、これらの内容は参照によってこの明細書の中に組み込まれる。加えて、Rad−57(商標)型、Radical−7(商標)型の各モニタ、およびRainbow(商標)型、Rainbow(商標)ブランドの接着型、再利用可能型の各センサが含まれる複数パラメータモニタおよび複数波長センサが、Masimoから市販されている。Analog Devices,Inc.のSHARC(登録商標)DSPを搭載するMSブランドのプロセッサボードもMasimoから市販されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
プレチスモグラフ変動プロセッサの1態様では、プレチスモグラフ波形が入力され、灌流値が導かれ、変動値が決定され、そして、プレチスモグラフ変動指数が算出される。プレチスモグラフ波形には、ある組織部位の内部における拍動性血流に対応するパルスがある。灌流値はこれらのパルスに対応する。変動値は一連の灌流値のそれぞれの変動性を示す。プレチスモグラフ変動指数はこれらの変動値を代表する。プレチスモグラフ変動指数は表示される。
【0006】
さまざまな実施形態において、灌流値は、上記パルスについての山と谷を認識し、これらの山と谷から上記パルスについてのAC値を算出し、上記パルスについてのDC値を算出し、そのAC値をDC値で正規化することによって導かれる。変動値は、灌流値を複数のバッファの中に累積するとともに、それぞれのバッファについて1つの変動値を算出することによって決定される。一例として、変動値は、それぞれのバッファの内部における灌流値を最大灌流値から最小灌流値まで並べ換えるとともに、それぞれのバッファから少なくとも1つの最大灌流値と少なくとも1つの最小灌流値とを削除することによって決定される。
【0007】
プレチスモグラフ変動指数(PVI)は、それぞれのバッファについての最大灌流値と最小灌流値との間の百分率差から決定される。PVIの中央値が算出される。ある実施形態では、生理的に許容することのできるパルスが認識されるとともに、それぞれのバッファについての許容可能なデータの時間的価値の最小量が決定される。プレチスモグラフ波形のためにIRチャネルが入力され、また、許容パルスを検証するために赤色チャネルが使用される。
【0008】
プレチスモグラフ変動処理システムの1態様は、光学的放射線の複数波長を組織部位の中へ伝達し、この組織部位の内部を流れる動脈血による減衰の後に上記光学的放射線を検出し、検出された光学的放射線に応じてセンサ信号を生成する光学式センサである。このセンサ信号は、プレチスモグラフチャネルを生成するために、患者モニタによって復調される。患者モニタの内部におけるディジタル信号プロセッサ(DSP)によって、少なくとも1つのプレチスモグラフチャネルが入力されるとともに、それに応じてプレチスモグラフ変動(PV)パラメータが出力される。このDSPについて、上記プレチスモグラフチャネルを処理するとともに上記PVパラメータを導くために、PVプロセスが実行される。患者モニタの出力は上記PVパラメータに反応するものである。
【0009】
さまざまな実施形態において、PVプロセスには、少なくとも1つのプレチスモグラフチャネルに対応するプレチスモグラフ入力がある。このプレチスモグラフにはプレチスモグラフ特性がある。プレチスモグラフ測定プロセスによって、上記プレチスモグラフ特性に従うプレチスモグラフからプレチスモグラフ値が抽出される。プレチスモグラフ値の入力値はこのプレチスモグラフ値に対応している。プレチスモグラフ変動プロセスによって、プレチスモグラフ値から複数の変動値が生成される。プレチスモグラフ変動入力値はこの変動値に対応している。変動パラメータプロセスによって、この変動値からプレチスモグラフ変動(PV)パラメータが生成される。生理的許容基準がプレチスモグラフ入力へ適用される。削減データ分散プロセスによれば、分散基準に従って前記プレチスモグラフ値のうちの外にあるものが削除される。後処理によって、平滑化制限またはスルーレート制限の少なくとも一方が上記PVパラメータに適用される。前処理によって、プレチスモグラフから周期的なベースラインシフトまたは振動を取り除くために、帯域フィルタがプレチスモグラフ入力へ適用される。プレチスモグラフ変動における傾向を表示するために、患者モニタの出力によって、PVパラメータ対時間のグラフが作成される。
【0010】
プレチスモグラフ変動方法の1態様では、プレチスモグラフチャネルが入力され、その入力からプレチスモグラフ値が測定され、プレチスモグラフ値の特有の時間間隔をそれぞれ含んでいる時間窓が定義される。変動値が算出されるが、ここで、それぞれの変動値は、上記時間窓の特有の1つに含まれたプレチスモグラフ値から導き出される。変動値の特有の時間間隔をそれぞれが含んでいる第2時間窓が定義される。パラメータ値が算出されるが、ここで、それぞれのパラメータ値は、上記第2時間窓のうちの特有の1つに含まれた変動値から導き出される。パラメータ値が出力される。さまざまな実施形態において、プレチスモグラフチャネルのそれぞれには、ある組織部位の内部における拍動性血流に対応するパルスがあり、また、プレチスモグラフ値はこれらのパルスに基づいている。これらのプレチスモグラフ値はその組織部位での血液灌流の測定値である。代替実施形態では、プレチスモグラフ値は、吸収パルス下の区域、パルスの包絡線、正規化された包絡線高さの時系列値または正規化された包絡線区域の時系列値に基づいている。
【0011】
プレチスモグラフ変動処理システムの1態様は、プレチスモグラフ入力値をディジタル信号プロセッサ(DSP)へもたらすために、光学的放射線の複数の波長をある組織部位へ伝達するとともにある組織部位の内部における拍動性血流による減衰の後に上記光学的放射線を検出するセンサを有する。この入力値は上記複数の波長に対応するチャネルから選択される。上記DSPによって、プレチスモグラフからプレチスモグラフ変動値を導くための指示が実行される。ある測定手段によって、あらかじめ定義されたプレチスモグラフ特性によって上記プレチスモグラフ入力値からプレチスモグラフ値が生成される。ある算出手段によって、このプレチスモグラフ値から変動値が導き出され、また、ある削減手段によって、このプレチスモグラフ値からプレチスモグラフ変動(PV)パラメータが導き出される。さまざまな実施形態において、第1累積手段によって、ある変動式がプレチスモグラフ値の時間窓へ適用される。ある分散削除手段によって、この第1累積手段から外にある値が削除される。第2累積手段によって、変動値の時間窓へデータ削減基準が適用される。ある許容手段によって、生理的に許容することのできないプレチスモグラフ入力値からパルスが排除される。ある後処理手段によって、PVパラメータの傾きが制限される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、プレチスモグラフ変動処理システムの概略ブロック図である。
【0013】
【図2】図2は、典型的なプレチスモグラフのグラフである。
【0014】
【図3】図3は、プレチスモグラフ変動指数プロセスの詳細なフローチャートである。
【0015】
【図4】図4は、プレチスモグラフ変動プロセスの概略的機能フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
PVモニタ
図1は、プレチスモグラフ変動処理システム100の実施形態を示しており、この実施形態では、プレチスモグラフ変動(PV)の1つ以上の測定値が算出される。プレチスモグラフ変動処理システム100では、患者の状態の処置を表示するとともにそれに影響を及ぼすために、PVに応じて少なくともいくつかの表示、警告または制御がもたらされる利点がある。PV処理システム100によれば、SpO、脈拍数(PR)、灌流指数(PI)、信号品質、および、複数波長構成においてHbCOやHbMetのような付加的血液パラメータ測定値がさらに生成される。
【0017】
図1に示すように、PV処理システム100には患者モニタ102とセンサ106とが備わっている。センサ106は、組織部位1へ取り付けられるものであり、脈動式酸素濃度計において利用される赤色波長および赤外線(IR)波長、ならびに、いくつかの構成ではこれらの赤色波長およびIR波長とは異なるか、あるいはこれらの赤色波長およびIR波長に加えられる複数の波長などの、少なくとも2つの光波長で組織部位1を照射することのできる複数のエミッタ122を含んでいる。センサ106は、組織1による減衰の後の光を検出することのできる1つ以上の検出器124も含んでいる。
【0018】
また、図1に示されたように、患者モニタ102は、1つ以上の生理的パラメータを示す1つ以上の強度信号を受信するためにセンサ106と通信しており、パラメータ値を表示する。ドライバ110は、ディジタル制御信号を、センサエミッタ122を駆動することのできるアナログ駆動信号に変換する。フロントエンド112が、(複数の)感光性検出器124からの(複数の)複合アナログ強度信号をDSP140へ入力されるディジタルデータ142に変換する。入力されるディジタルデータ142は、この明細書において、プレチスモグラフ波形、プレチスモグラフまたは短いものについてのプレチスモグラフと呼ばれる。ディジタルデータ142には、赤色チャネルおよびIRチャネルのような、それぞれのエミッタ波長に対応するプレチスモグラフチャネルがある。ディジタルデータ142は、拍動性血液から得られる体内組織における変化の関数としての特定の光波長の吸収における変化を代表するものである。DSP140には、多種多様なデータおよび/または入力データから生理的パラメータを決定するためのプログラムを実行することができる信号プロセッサが備わっていてもよい。ある実施形態では、DSPは、以下で図3および図4に関して説明されるように、1つ以上のプレチスモグラフ変動(PV)プロセス130を実行する。ある実施形態では、PVプロセス130は、ソフトウェア、ファームウェアまたは他の形態のコードもしくは指示、または論理ハードウェアもしくは他のハードウェア、またはこれらの組み合わせで実施し得る。
【0019】
図1にさらに示すように、機器管理装置160には、DSP140の活動を監視するような、システム管理を制御する1つ以上のマイクロコントローラが備わっていてもよい。1つ以上の出力装置180には、ディスプレイ182、アラーム184および制御装置186が含まれている。ディスプレイ182は、2、3の例を挙げると、LED、LCDまたはCRTによって生成された傾向グラフおよび棒グラフなどの読み出し型またはグラフィック型のような数値的表示のものであってよい。ディスプレイ182はまた、変動の大きさを表わすさまざまな色のLEDのようなインジケータであってもよい。アラーム184は、変動がたとえば所定閾値を超えたことの可視的表示または可聴的表示であってもよい。制御装置186は、投与される薬剤の量、人工呼吸器の設定またはプレチスモグラフ変動に基づいた注入流体の量を制御するために、薬剤投与装置、人工呼吸器および流体IVのような医療機器への入力装置であってよい。機器管理装置160には、モニタ102との通信のためのユーザーインターフェイスおよび/またはデバイスインターフェイスを提供する入力/出力(I/O)ポート168もある。ユーザー入力装置188には、2、3の例を挙げると、キーパッド、タッチスクリーン、ポインティングデバイス、音声認識装置、ネットワークおよびコンピューターが含まれてよい。ある実施形態では、I/Oポート168は、以下で説明されるように、PVプロセスについての初期設定をもたらす。モニタ102は、PVに関連した履歴データまたは最新データおよび他の測定されたパラメータまたは測定されたパラメータの組み合わせを記憶しまたは表示することも可能であってよい。
【0020】
プレチスモグラフ波形
図2は、強度軸201対時間軸202に関してプロットされたプレチスモグラフ200を示している。このプレチスモグラフ200には複数のパルス210があり、それぞれのパルスは、山212と谷214を有し、また、時間周期216にわたって延びている。それぞれのパルス210について灌流指数(PI)値を定義することができる。
【数1】

「AC」220は、特定のパルスについての山振幅212から谷振幅214を引いたものを表わしている。「DC」230は、特定のパルスについての山振幅212を表わしている。包絡線250によって描かれたようなプレチスモグラフ変動の大きさに応じて、プレチスモグラフ変動測定値が算出される。1つの変動測定値は、以下で図3に関して説明されるプレチスモグラフ変動指数(PVI)である。他のプレチスモグラフ変動(PV)測定値は、以下で図4に関して説明される。PV測定値によって、個人の体調すなわち健康状態の数値的表示が有利にもたらされる。
【0021】
プレチスモグラフ変動指数(PVI)
図3はPVIプロセス300の実施形態を示しており、この実施形態により、プレチスモグラフ変動指数(PVI)が導き出されるとともに表示される。初めに、第1バッファが、算出された灌流指数(PI)値で満たされる(310〜330)。ある実施形態では、これらの値は、先に説明されたように、IRチャネルに基づいている。第1バッファ335の中に充分な量の生理的許容データがあるときには、第2バッファが、算出されたプレチスモグラフ変動指数(PVI)値で満たされる(340〜360)。第2バッファにおける中央PVIが算出されて表示される(370〜380)。第1バッファにおける許容データの量が不充分であるときには、ディスプレイは最後に算出された中央PVIで凍結される(390)。
【0022】
図3に示すように、プレチスモグラフが初めに認識される(310)。具体的には、PIの算出のために、生理的許容パルスだけが使用される。生理的プレチスモグラフ認識については、「プレチスモグラフパルス認識プロセッサ」という発明の名称が付けられ、Masimoに譲渡され、かつ、参照によってこの明細書の中に組み込まれる米国特許第7,044,918号に開示されている。ある実施形態では、赤色チャネルプレチスモグラフは、IRチャネルにおける許容パルスを検証するために利用されている。次いで、それぞれの許容プレチスモグラフのPIが、数式1に従って、かつ、図2について上述のようにして、算出される(320)。算出されたPIは第1バッファに記憶され(330)、そのバッファ基準が検査される(335)。このバッファ基準には、許容パルスの最小数と第1バッファにおける許容データの最小時間量との両方が必要である。
【0023】
ある実施形態では、プレチスモグラフ200(図2)には62.5Hzのサンプルレート、すなわち16ミリ秒のサンプル時間間隔がある。第1バッファはデータを上記サンプルレートで15秒間保持する。それに応じて、プレチスモグラフデータの15秒のスライディング時間窓が第1バッファに記憶され、次いで、その時間窓は1.2秒間、漸増的に動かされる。第1バッファにおける許容パルスの最小数は6であり、第1バッファにおける許容データの最小時間量は7.5秒である。最悪の場合の呼吸速度が1分当たり4呼吸であると仮定すると、上記15秒時間窓サイズによって1つの呼吸周期が可能になる。この時間窓サイズによれば、最悪の場合の呼吸速度が25bpmであると仮定すると、6つのPIも可能になる。特定の時間窓によって切り離された部分プレチスモグラフ周期は、その時間窓によって無視されるが、次の時間窓において考慮に入れられる。
【0024】
さらに図3に示すように、上記バッファ基準が満たされていると(335)、上記第1バッファのデータは並べ換えられるとともに削除される(340)。この並べ換えは、上記複数のPI値について、このバッファの一方端部における最小PIからこのバッファの他方端部における最大PIまで行われる。その後、所定数のPIがこのバッファのそれぞれの端部から落とされ、すなわち、最大PIおよび最小PIの双方が削除される。ある実施形態では、12%のPIが上記バッファのそれぞれの端部から削除される。例えば、上記バッファが10のPIを保持しているときには、12%の削除=フロア(10・12/100)=フロア(1.2)=1であり、ここで、フロアオペレーターは数字の小数点の右側を切り捨てている。従って、この例では、1つの最大PIと1つの最小PIとが第1バッファから落とされる。その後、削除された第1バッファから、プレチスモグラフ変動指数(PVI)が算出される(350)。ある実施形態では、PVIは、
【数2】

として算出される。すなわち、PVIは、第1バッファに残っているPI値によって反映された最大PIの百分率として表わされたPI変動率である。
【0025】
図3にさらに示すように、算出されたPVIは第2バッファに記憶される(360)。ある実施形態では、第2バッファは11のPVIを保持し、ここで、1つのPVIは、上述の15秒のスライディング時間窓における1.2秒ごとの全てのシフトについて導き出されている。次に、第2バッファから中央PVIが算出される。この中央PVI値はディスプレイへ送られる(380)。上述のバッファ基準(335)が満たされていないときには、最後に算出された中央PVI値が表示される(390)。すなわち、ディスプレイは、上記バッファ基準が満たされるまで、最後に算出された中央PVI値で凍結される。
【0026】
ある実施形態では、上記中央PVI値は、2桁の数値として、SpOおよび脈拍数のような他のパラメータとともに、モニタスクリーンに表示される。ある実施形態では、上記中央PVI値は、垂直な棒グラフまたは水平な棒グラフとして、モニタスクリーンに表示される。ある実施形態では、上記中央PVI値は、傾向グラフ対時間として、モニタスクリーンに表示される。ある実施形態では、上記中央PVI値は、所定の最大PVI閾値と比較される。その中央PVI値が上記所定閾値を超えるときには、1つ以上の可視的アラームまたは可聴的アラームが作動される。ある実施形態では、可視的PVIアラームは、患者の健康状態または生理状態のレベルを表示するための緑、黄および赤のような1つ以上の色付きインジケータである。
【0027】
プレチスモグラフ変動(PV)
図4は、プロセスステップ401および初期設定402を有するプレチスモグラフ変動(PV)プロセッサ400の実施形態を示している。初期設定402によって、プロセスステップ401の具体的特性が決定される。PVプロセッサ400によって、1つ以上のプレチスモグラフチャネル405が入力され、PV出力値407が生成される。プレチスモグラフチャネル405のそれぞれは、脈動式酸素濃度計センサの赤色エミッタおよびIRエミッタに対応する赤色波長チャネルおよびIR波長チャネルのような異なる光センサ波長に対応している。先に引用した米国特許出願第11/367,013号に記載されたような複数波長センサが使用されるときには、3つ以上のチャネルがあってもよい。例えば、波長が約630nmから約905nmまで変化する8つのチャネルがあってもよい。ある実施形態では、PV算出において精度または堅牢性を増大させるために、2つ以上のプレチスモグラフチャネル405が、平行して、または複合プレチスモグラフとして処理される。入力装置410により、PV算出のためにどのプレチスモグラフチャネル405をプレチスモグラフ入力値414として使用するかが、選択されたチャネル初期設定412に従って決定される。入力装置410により、任意の1つのチャネル405またはいくつかのチャネル405の組み合わせを選択してよい。前処理415により、所定の式417に従ってプレチスモグラフ入力値414が修正される。ある実施形態では、プレチスモグラフベースラインにおけるあらゆる緩慢な変化すなわち低周波振動を排除するために、あるいは、プレチスモグラフ全体が吸気および呼気で上下へずらされる呼吸誘発変化のような平均値を排除するために、前処理415によりプレチスモグラフ入力値414がフィルタ処理される。ある実施形態では、前処理415は、毎分通過帯域ごとに30〜550ビートを有している帯域フィルタである。認識された許容パルス420が、先に引用した米国特許第7,044,918号に開示されたような生理的許容パルス424だけを通過させるためにパルス基準422へ適用される。
【0028】
図4に示すように、プレチスモグラフの測定440により、プレチスモグラフ特性442に従って、残りのパルス424からプレチスモグラフ値444が抽出される。このプレチスモグラフ特性434は、パルスの山212(図2)およびパルスの谷214(図2)であってよく、また、プレチスモグラフ値444は、上記の数式1に関して記載されたPIのような灌流に関するものであってよい。別の実施形態では、数式1における「DC」値は、2、3の例を挙げると、パルスの谷、またはパルスの山とパルスの谷との平均のような、パルスの山以外のものであってよい。他の実施形態では、プレチスモグラフ特性442には、パルス当たり3つ以上の値が含まれていてよく、また、プレチスモグラフ値444は、関連する灌流以外のものであってよい。また、プレチスモグラフの測定440は、プレチスモグラフ値444当たり2つ以上のパルスにわたって実行されてもよい。
【0029】
図2および図4に示すように、ある実施形態では、プレチスモグラフ特性442によって、パルスの山212およびパルスの谷214から補間されたプレチスモグラフ包絡線250が画定されている。プレチスモグラフの測定440によって、包絡線高さおよびΔ幅の一連の隣接スライス260が画定されているが、ここで、Δは1つのプレチスモグラフサンプルから多くのサンプルまで変化し得る。従って、プレチスモグラフ値444は、それぞれのスライスの区域である。別の実施形態では、プレチスモグラフの測定440によって、それぞれの吸収プレチスモグラフパルス270の下にある区域が算出され、吸収プレチスモグラフは強度プレチスモグラフ200の逆のものである。ある実施形態では、スライス260または区域270は、2、3の例を挙げると、DC値または平均値のようにプレチスモグラフ値に関して正規化される。
【0030】
また図4に示すように、プレチスモグラフ値の蓄積445によって、特定の時間窓446内におけるそれらのプレチスモグラフ値444が認識される。時間窓の許容450によって、時間窓446内に充分な数のプレチスモグラフ値があるかどうかが判定される。充分な数のプレチスモグラフ値がないと判定されたときには、残りのステップ460〜490が迂回されて、デフォルトPV出力値407が生成される。充分な数のプレチスモグラフ値があると判定されたときには、残りのステップ460〜490が実行される。データ分散の削減460によって、ある分散基準462に従い、削除されたプレチスモグラフ値464を残して外にあるデータが除去される。プレチスモグラフ変動の算出470によって、変動式472に従い、削除されたプレチスモグラフ値464から変動値474が決定される。ある実施形態では、変動式は、上記の数式2に関して説明されたように、時間窓における最大値と比較された時間窓における百分率変動を表わすものである。変動値の蓄積475によって、特定の時間窓476内におけるそれらの変動値474が認識される。時間窓446,476は、初期設定402による所定のサイズを有するスライディング時間間隔または時間区分である。隣り合う時間窓どうしは、時間的に間隔が置かれていてもよいし、隣接していてもよいし、または重なり合っていてもよい。
【0031】
図4にさらに示すように、変動パラメータの算出480によって、削減基準482に従い、蓄積された変動値478からプレチスモグラフ変動(PV)パラメータ407が決定される。ある実施形態では、PV407は、時間窓476内の変動値478の中央値である。他の実施形態では、PV407は、2、3の例を挙げると、ウィンドウ表示された変動値の平均値、最頻値、相乗平均、重みつき平均のいずれかである。PVパラメータ407のデータに関する後処理は、平滑化およびスルーレートフィルタを含んで実行されてよい。ある実施形態では、指数平滑法が使用される。スルーレートフィルタによって、PVパラメータ407の正の傾きまたは負の傾きが所定の最大値に制限される。
【0032】
PVの用途
多くの臨床医は現在、患者生理機能の変化について脈動式酸素濃度計のプレチスモグラフ波形を観察している。残念なことに、脈動式酸素濃度計の製造業者間には、プレチスモグラフ波形を表示する方法に整合性がない。さらに、平滑化用、自動計数用および他の表示データ処理用のマスクは、生のプレチスモグラフ波形において変化する。このため、いくつかの患者生理機能は、ベッドサイドモニタのプレチスモグラフディスプレイの単なる観察からは容易に予測することができない。PVIのようなプレチスモグラフ変動(PV)パラメータは、必要に応じてある方向へ向けることもできる数値的フォーマットで表示されるプレチスモグラフ波形変化を有利に定量化する。従って、たとえわずかな生理的変化であっても確実に観察することが可能である。
【0033】
PVは、非侵襲性機能的血流力学的監視について有利に使用することができる。プレチスモグラフ波形は、末梢血液容量および灌流における拍動から拍動までの変化に反応するものである。それゆえ、プレチスモグラフ変動は、患者の血管内容積状態の変化を反映する。上記のように、PVパラメータは、例えば血液量、体液反応度および心室前負荷の変化に反応する臨床的に有用な血流力学的測定値である。血液量は、身体全体を循環している血液の容量に関連するものであり、臨床的な設定で評価することが困難である。例えば、血液量減少とは、異常に低い血液容量をいう。体液反応度とは、体液容積の膨張の後における心室拍動量の増大の百分率をいう。心室前負荷とは、心筋が収縮し始めるときの心筋の緊張度をいう。
【0034】
特に有利な実施形態では、患者の処置の間にPVパラメータが監視される。一例として、血液量減少が疑われる患者への体液の付加の間に監視されたPVの下向き傾向は、その処置の効能を表わしている。同様に、喘息についての薬剤の投与の間に監視されたPVの下向き傾向は、投与された薬剤の効能と、喘息を管理することができるという公算とを表わしている。
【0035】
PVIまたは他のパルス変動(PV)測定値は、さまざまな臨床状態における有意なパラメータであってよく、例えば、それらの状態は以下の表1に示されている。
【表1】

【0036】
プレチスモグラフ変動プロセッサが、さまざまな実施形態に関連して詳しく開示されてきた。これらの実施形態は、例示だけのために開示されており、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。当業者は多くの変形と修正とを理解するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある組織部位の内部における拍動性血流に対応する複数のパルスを有するプレチスモグラフ波形を入力するステップと、
前記パルスに対応する複数の灌流値を導くステップと、
一連の前記灌流値のそれぞれの変動性を示す複数の変動値を決定するステップと、
前記変動値を代表するものであるプレチスモグラフ変動指数を算出するステップと、
前記プレチスモグラフ変動指数を表示するステップと、
を含むプレチスモグラフ変動方法。
【請求項2】
灌流値を導くステップは、
前記パルスについての山と谷を認識するステップと、
これらの山と谷から前記パルスについてのAC値を算出するステップと、
前記パルスについてのDC値を算出するステップと、
前記AC値を前記DC値で正規化するステップと、
を含む請求項1に記載のプレチスモグラフ変動方法。
【請求項3】
変動値を決定するステップは、
前記灌流値を複数のバッファの中に累積するステップと、
前記バッファのそれぞれについて1つの変動値を算出するステップと、
を含む請求項2に記載のプレチスモグラフ変動方法。
【請求項4】
変動値を決定するステップは、
前記バッファのそれぞれの内部における前記灌流値を最大灌流値から最小灌流値まで並べ換えるステップと、
前記バッファのそれぞれから少なくとも1つの最大灌流値と少なくとも1つの最小灌流値とを削除するステップと、
をさらに含む請求項3に記載のプレチスモグラフ変動方法。
【請求項5】
変動値を決定するステップは、
前記バッファのそれぞれについての最大灌流値と最小灌流値との間の百分率差から複数のプレチスモグラフ変動指数(PVI)を算出するステップ
をさらに含む請求項4に記載のプレチスモグラフ変動方法。
【請求項6】
プレチスモグラフ変動指数を算出するステップは、PVIの中央値を算出するステップを含む請求項5に記載のプレチスモグラフ変動方法。
【請求項7】
前記パルスのうち生理的に許容することのできるパルスを認識するステップと、
前記バッファのそれぞれについての許容可能なデータの最小時間量を決定するステップと、
をさらに含む請求項6に記載のプレチスモグラフ変動方法。
【請求項8】
入力するステップは、前記プレチスモグラフ波形のためにIRチャネルを使用するステップを含み、
認識するステップは、許容パルスを検証するために赤色チャネルを使用するステップを含む請求項7に記載のプレチスモグラフ変動方法。
【請求項9】
光学的放射線の複数波長を組織部位の中へ伝達し、この組織部位の内部を流れる拍動性血液による減衰の後に前記光学的放射線を検出し、検出された光学的放射線に応じてセンサ信号を生成する光学式センサと、
複数のプレチスモグラフチャネルを生成するために、前記センサ信号を復調する患者モニタと、
少なくとも1つのプレチスモグラフチャネルを入力するとともに、それに応じてプレチスモグラフ変動(PV)パラメータを出力する、前記患者モニタの内部におけるディジタル信号プロセッサ(DSP)と、
少なくとも1つの前記プレチスモグラフチャネルを処理するとともに前記PVパラメータを導くために、前記DSPについて実行されるPVプロセスと、
前記PVパラメータに反応する患者モニタの出力装置と、
を備えるプレチスモグラフ変動処理システム。
【請求項10】
前記PVプロセスは、
プレチスモグラフ特性を有する少なくとも1つの前記プレチスモグラフチャネルに対応するプレチスモグラフ入力と、
前記プレチスモグラフ特性に従うプレチスモグラフから複数のプレチスモグラフ値を抽出するプレチスモグラフ測定プロセスと、
を備える請求項9に記載のプレチスモグラフ変動処理システム。
【請求項11】
前記PVプロセスは、
前記プレチスモグラフ値に対応するプレチスモグラフ値入力と、
前記プレチスモグラフ値から複数の変動値を生成するプレチスモグラフ変動プロセスと、
をさらに備える請求項10に記載のプレチスモグラフ変動処理システム。
【請求項12】
前記PVプロセスは、
前記変動値に対応するプレチスモグラフ変動入力値と、
前記変動値からプレチスモグラフ変動(PV)パラメータを生成する変動パラメータプロセスと、
をさらに備える請求項11に記載のプレチスモグラフ変動処理システム。
【請求項13】
前記PVプロセスは、前記プレチスモグラフ入力値へ適用された生理的許容基準をさらに備える請求項12に記載のプレチスモグラフ変動処理システム。
【請求項14】
前記PVプロセスは、分散基準に従って前記プレチスモグラフ値のうちの外にあるものを削減する削減データ分散プロセスをさらに備える請求項13に記載のプレチスモグラフ変動処理システム。
【請求項15】
前記PVプロセスは、少なくとも1つの平滑化制限またはスルーレート制限を前記PVパラメータへ適用する後処理をさらに備える請求項14に記載のプレチスモグラフ変動処理システム。
【請求項16】
前記PVプロセスは、周期的なベースラインシフトを除くために、帯域フィルタを前記プレチスモグラフ入力値へ適用する前処理をさらに備える請求項15に記載のプレチスモグラフ変動処理システム。
【請求項17】
前記患者モニタは、プレチスモグラフ変動における傾向を表示するために、PVパラメータ対時間のグラフを生成する請求項16に記載のプレチスモグラフ変動処理システム。
【請求項18】
その入力から複数のプレチスモグラフ値を測定する複数のプレチスモグラフチャネルのうちの少なくとも1つを入力するステップと、
前記プレチスモグラフ値の特有の時間間隔をそれぞれが含んでいる複数の時間窓を定義するステップと、
複数の変動値を算出するステップであって、これらの変動値のそれぞれが前記時間窓のうちの特有の1つに含まれたプレチスモグラフ値から導き出されるステップと、
前記変動値の特有の時間間隔をそれぞれが含んでいる複数の第2時間窓を定義するステップと、
複数のパラメータ値を算出するステップであって、それぞれのパラメータ値は、前記第2時間窓のうちの特有の1つに含まれた変動値から導き出されるステップと、
前記パラメータ値を出力するステップと、
を含むプレチスモグラフ変動方法。
【請求項19】
前記プレチスモグラフチャネルのそれぞれは、ある組織部位の内部における拍動性血流に対応する複数のパルスを有し、
前記プレチスモグラフ値は、これらのパルスに基づいている
請求項18に記載のプレチスモグラフ変動方法。
【請求項20】
前記プレチスモグラフ値は、前記組織部位での血液灌流の測定値である請求項19に記載のプレチスモグラフ変動方法。
【請求項21】
前記プレチスモグラフ値は、吸収パルス下の区域に基づいている請求項19に記載のプレチスモグラフ変動方法。
【請求項22】
前記プレチスモグラフ値は、前記パルスの包絡線に基づいている請求項18に記載のプレチスモグラフ変動方法。
【請求項23】
前記プレチスモグラフ値は、正規化された包絡線高さの時系列値に基づいている請求項22に記載のプレチスモグラフ変動方法。
【請求項24】
前記プレチスモグラフ値は、正規化された包絡線区域の時系列値に基づいている請求項23に記載のプレチスモグラフ変動方法。
【請求項25】
プレチスモグラフ入力値をディジタル信号プロセッサ(DSP)へもたらすために、光学的放射線の複数の波長をある組織部位へ伝達するとともにある組織部位の内部における拍動性血流による減衰の後に前記光学的放射線を検出するセンサを有し、前記入力値は、前記複数の波長に対応する複数のチャネルから選択され、前記DSPは、前記プレチスモグラフからプレチスモグラフ変動値を導くための指示を実行するプレチスモグラフ変動処理システムであって、
プレチスモグラフの入力装置と、
あらかじめ定義されたプレチスモグラフ特性によって前記プレチスモグラフ入力からプレチスモグラフ値を生成するための測定手段と、
前記プレチスモグラフ値から変動値を導くための算出手段と、
前記プレチスモグラフ値からプレチスモグラフ変動(PV)パラメータを導くための削減手段と、
を備えるプレチスモグラフ変動処理システム。
【請求項26】
ある変動式をプレチスモグラフ値の時間窓へ適用するための第1累積手段をさらに備える請求項25に記載のプレチスモグラフ変動処理システム。
【請求項27】
前記第1累積手段から外にある値を削除するための分散削除手段をさらに備える請求項26に記載のプレチスモグラフ変動処理システム。
【請求項28】
変動値の時間窓へデータ削減基準を適用するための第2累積手段をさらに備える請求項27に記載のプレチスモグラフ変動処理システム。
【請求項29】
生理的に許容することのできないプレチスモグラフ入力からパルスを排除するための許容手段をさらに備える請求項28に記載のプレチスモグラフ変動処理システム。
【請求項30】
前記PVパラメータの傾きを制限するための後処理手段をさらに備える請求項29に記載のプレチスモグラフ変動処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−512192(P2010−512192A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540509(P2009−540509)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【国際出願番号】PCT/US2007/086879
【国際公開番号】WO2008/073855
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(503426972)マシモ コーポレイション (14)
【Fターム(参考)】