説明

プレフィルター層を有する多層膜の製造方法

【課題】 目的物および目的物以外の物質である夾雑物を含有する液体中から、夾雑物を除去し、目的物を精製することに用いられる液体処理用の分離膜において、液体の透過速度が高く分離膜として有用な多層膜の製造方法を提供する。
【解決手段】 多孔膜の細孔部分が保護剤で充填された成形物を得る工程、前記成形物の少なくとも片側の表層に溶剤を接触させて表層を粗大化する工程、前記保護剤および前記溶剤を除去する工程を含むことを特徴とする、プレフィルター層と除去層から構成される多層膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過性能に優れる多層膜の製造方法に関する。目的物および目的物以外の物質である夾雑物を含有する液体中から、夾雑物を除去し、目的物を精製することに用いられる液体処理用の分離膜において、液体の透過速度が高く分離膜として有用な多層膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体中からサブミクロン程度の微粒子を分離する方法として、ゲル濾過法、遠心分離法、吸着分離法、沈澱法、膜濾過法が利用されてきた。これら除去方法の中でも膜濾過法は、微粒子の種類に関わらず、特定の大きさ以上の微粒子であればその分画能によって除去でき、しかも大量処理が可能であるという点で優れており、近年では精密濾過膜や限外濾過膜等、多孔膜による濾過操作は、食品産業、製薬産業、半導体産業、自動車産業など多方面にわたって実用化されている。
【0003】
目的物以外の物質である夾雑物を含む溶液を濾過する場合、多孔膜については、細孔の閉塞による濾過速度の低下が常に問題となる。よって、より短時間に必要量を処理し、目的物の生産効率を高めるために、より高い濾過速度を実現させる工夫が求められる。
【0004】
濾過速度を高めるために、予め孔径の大きいプレフィルターを用いて夾雑物を取り除いた後に目的物を濾過することが一般的に行われている。しかしながら、該方法では濾過工程が2段階となるため、濾過の操作や設備が煩雑となり、コストが上昇するなどの欠点がある。そこで、夾雑物による閉塞が起きにくく、一回の濾過で目的物を得ることのできる多孔膜が望まれていた。
【0005】
上記課題の解決方法の1つとして、プレフィルターと除去膜を単純に重ねただけで濾過する方法があるが、プリーツ加工などの最終的な成形加工段階においてプレフィルターと膜がうまく重ならず成形不良が生じ、濾液の流れおよび濃度の不均一さを招く場合があった。また、プレフィルターと除去膜をそれぞれ製造しなければならないため、製造工程の煩雑さ、製造コストの上昇等を招くという欠点があった。
そこで、プレフィルターと除去膜が一体となった多層膜の製造方法が提案されてきた。特許文献1には、融点の異なるポリオレフィンフィルムを加熱状態で圧着した後、延伸し、プレフィルターと除去膜が一体となった多層膜を製造する方法が示されている。該方法では、これまでの圧着法で問題となっていたフィルム同士の剥がれ等は改善されているが、フィルムそれぞれに適した方法で製造した後、圧着しなければならないため、製造装置が増え、製造工程も煩雑となってしまう。
【0006】
特許文献2には、溶媒に溶解させた2種のポリマー溶液を二重スロットダイ等を用いて、支持体上に同時にコーティングし、液体凝固浴中に浸漬して相分離をおこし、プレフィルターと除去膜が一体となった多層膜を製造する方法が示されている。特許文献3には、濃度の異なる2種のポリマー溶液を溶融させ、入口から出口まで少なくとも3層に区切られたダイを用いて共に押出し、冷却ロールに接触させて相分離をおこし、プレフィルターと除去膜が一体となった多層膜を製造する方法が示されている。特許文献4には、溶融させたポリマー溶液をダイや紡口から押出すと同時に押出した成形物の少なくとも片側を加熱した不揮発性液体を接触させ、部分的に溶解しながら冷却することによって相分離させて、プレフィルターと除去膜が一体となった多層膜を製造する方法が示されている。特許文献2〜4の製造方法においては、いずれも成膜の温度条件が孔径を決める重要な因子となっていながら、プレフィルター層と除去層を同時に形成するため、一方を制御しようとするともう一方にまで影響が及んでしまうという欠点が挙げられる。また、特許文献2および3のように2層以上の共流延法および共押出し法においては、ポリマー溶液同士の層間の乱れが生じやすく、また製造装置が複雑になるため、製造条件の見極めが難しい。特許文献4においては、両面をプレフィルター層としたい場合に、膜両面を加熱した不揮発性液体に接触させなければならず、除去層としたい膜内面の冷却速度が遅くなってしまうため、製造できる孔径の範囲が限定されてしまうという課題があった。
【特許文献1】特開平10-100344号公報
【特許文献2】特開2006-7211号公報
【特許文献3】WO2007/052839 A1パンフレット
【特許文献4】WO03/052839 A1パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は除去層の性能を損なうことなく、より簡単な方法で除去層と一体化したプレフィルター層を有する多層膜を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、多孔膜の細孔部分が保護剤で充填された成形物の表層に多孔膜の溶剤を接触させて表面処理をすることで表層の多孔膜の孔を粗大化し、その後保護剤および溶剤を除去することで、簡単にプレフィルター層を有する多層膜が製造できることを見出し本発明に至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
1. 多孔膜の細孔部分が保護剤で充填された成形物を得る工程(a)と、前記成形物の少なくとも片側の表層を多孔膜の溶剤を接触させて表面処理をする工程(b)と、前記保護剤および前記溶剤を除去する工程(c)とを経て製造されることを特徴とする液体処理用分離膜の製造方法。
2. 前記工程(a)が、予め準備された多孔膜の細孔部分にグリセリンとアルコールの混合液、流動パラフィンとアルコールの混合液から選ばれる保護剤を充填して成形物を得る工程であることを特徴とする請求項1に記載の液体処理用分離膜の製造方法。
3. 前記多孔膜を構成する材質がポリフッ化ビニリデンであることを特徴とする2に記載の液体処理用分離膜の製造方法。
4. 前記工程(a)が、多孔膜の原料と、その可塑剤である保護剤とを、溶融成形して成形物を得る工程であることを特徴とする1に記載の液体処理用分離膜の製造方法。
5. 前記多孔膜を構成する材質がポリフッ化ビニリデンであることを特徴とする4に記載の液体処理用分離膜の製造方法。
6. 前記可塑剤がフタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジ(n−ブチル)、リン酸トリフェニル、リン酸ジフェニルクレジルから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする5に記載の液体処理用分離膜の製造方法。
7. 前記溶剤がN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする3、5、6のいずれかに記載の液体処理用分離膜の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、除去層の性能を損なうことなく、より簡単な方法で除去層と一体化したプレフィルター層を有する多層膜の製造方法を提供することができ、除去層とプレフィルター層の孔径の制御が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明は、多孔膜の細孔部分が保護剤で充填された成形物を得る工程(a)、前記成形物の少なくとも片側の表層に溶剤を接触させて表層を粗大化する工程(b)、前記保護剤および前記溶剤を除去する工程(c)を含むことを特徴とする、プレフィルター層と除去層から構成される多層膜の製造方法である。
【0012】
本発明における多孔膜とは、固体部分が三次元的に任意の方向に分岐した網状構造を形成し、細孔部分は網状構造の固体部分に囲まれ、相互に連通した構造を形成している膜を意味する。形状は平膜であっても中空糸膜であってもよい。多孔膜の材質としては、ポリマーが種々の形状への成形が容易であることから好ましい。
【0013】
ポリマーの形状は粉末状、顆粒状、ペレット状のいずれでもよく、材質としては、通常多孔膜の材質として用いられる熱可塑性樹脂を使用でき、例えば、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDF)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチル1−ペンテン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体、またはそれらの混合物を使用できる。中でも、PVDFは、成膜性に優れ、高強度の膜を得ることができ、さらに溶剤によって多孔膜の表層を粗大化することも容易である点から、好ましい。
【0014】
本発明における成形物とは、多孔膜の細孔部分が保護剤にて充填されたものであり、その形状はシート状であっても、中空糸状であってもよい。
【0015】
本発明におけるプレフィルター層とは、孔径が除去層よりも大きい層のことであり、目的物以外の物質である夾雑物を含む溶液を濾過する場合、除去層の孔径に侵入できないほど大きく、除去層の細孔を閉塞してしまう夾雑物を除去し、濾過速度を高めるための層である。プレフィルター層の孔径の大きさは濾過する夾雑物に合わせて設定すればよく、特に限定されない。また、プレフィルター層の孔径は均一であっても、徐々に変わる傾斜構造であってもよい。なお、プレフィルター層の孔径が除去層の孔径よりも大きいことは、得られた多孔膜の断面を走査型電子顕微鏡(以下、SEM)により容易に確認することができる。
【0016】
同様に、本発明において除去層とは、プレフィルター層よりも孔径が小さい層のことであり、目的物質と夾雑物をより厳密に精製するための層である。除去層は上記多孔膜の表面処理がされない部分のことなので孔径の大きさも目的物質に合わせて設定すればよく、特に限定されないが、実用的な上限としては10μmである。
【0017】
本発明において多層膜とは、該プレフィルター層および該除去層が一体化した構造から構成される多孔膜のことである。該多層膜の層構造もまた濾過する溶液中に存在する目的物質および夾雑物に合わせて設定すればよく、限定されない。
【0018】
本発明の多孔膜の細孔部分が保護剤で充填された成形物を得る工程(a)において、細孔部分に保護剤を充填する方法は特に限定されないが、大きく分けて2つの方法がある。第一の方法は、予め用意した多孔膜に保護剤を充填する方法であり、具体的には、液体とした保護剤に多孔膜を浸漬させる方法、保護剤を塗布する方法、保護剤を噴射する方法、保護剤の蒸気に触れさせる方法等があるが、細孔部分への保護剤の充填が容易であるという点から、液体とした保護剤に多孔膜を浸漬させる方法が好ましい。なお、十分に充填するために予め多孔膜を真空脱気してから浸漬したり、超音波をかけながら浸漬してもよい。多孔膜を保護剤へ浸漬させる時間は特に限定されず、細孔部分に十分に保護剤が充填されればよい。また、保護剤の温度が高すぎると多孔膜を変形させ除去性の低下を招くなどの悪影響を及ぼすので、多孔膜が変形する温度以下とするのが好ましい。多孔膜の材質をPVDFとした場合は、結晶融点である174℃以下で保護剤と接触させることが好ましく、接触させるための装置を簡易化できるという観点からすると、室温付近で接触させることがより好ましい。
【0019】
本発明における工程(a)の第二の方法としては、多孔膜の材質とするポリマーと保護剤を混合し、均一に溶融させた後、成形物を得る方法、すなわち溶融成形の手法を実施することができる。
【0020】
本発明において溶融成形とは、原料となるポリマーおよび保護剤等を溶融することが可能な温度に加熱、混練して均一に溶融させた後、成形、冷却し、成形物を製造する方法のことである。溶融成形を実施する場合、原料にはポリマーと保護剤以外に添加物を加えても良い。添加物としては、酸化防止剤や核化剤など公知の添加剤、微小な粒子径を有し保護剤の担持体となりうる無機粒子等を使用できる。特に、無機粒子は、ポリマーと保護剤の分散性を向上させ、溶融状態の均一性の向上、ならびに冷却時に生じる相分離の均一性の向上に寄与しうる。例えば、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩およびこれらの誘導体で構成された粒子が挙げられ、炭酸カルシウム、二酸化チタン、非晶質二酸化珪素(シリカ)などを使うことができる。
【0021】
溶融成形の手法としては、公知の方法を適用することができるが、具体的には以下のような2つの方法が挙げられる。
【0022】
溶融成形の第一の方法としては、加熱したスクリュー式押出機等の連続式樹脂混練装置に原料であるポリマー、保護剤、および必要に応じて用いる添加物等を投入し、混練しながら均一溶融させ、金型から押出し、冷却する方法がある。原料を連続式樹脂混練装置に投入する方法としては、各原料を別々に連続式樹脂混練装置へ投入する方法、各原料を予めヘンシェルミキサー等の攪拌装置を用いて混合した後に投入する方法、各原料を予めヘンシェルミキサー等の攪拌装置を用いて混合した後、スクリュー式押出機等で溶融混練し、棒状に押出し、ペレット状に加工した原料を投入する等があり、いずれの方法でもよい。押出機としては、単軸スクリュー式押出機や二軸異方向スクリュー式押出機、二軸同方向スクリュー式押出機等が使用できる。該方法において用いる金型とは、溶融状態の組成物を押出し、所望の形に成形するためのものであり、平膜用のダイや、中空糸膜用の紡口等を使用することができる。金型からの押出しに続いて実施する冷却とは、溶融状態にある成形物を固化するための工程であり、キャストロールで引き取る方法や液体を満たした槽に落として冷却する方法等がある。冷却温度は除去層が所望の性能を有するよう設定すればよく、これは当業者が実施する試行錯誤の範囲で設定可能である。
【0023】
溶融成形の第二の方法としては、加熱したブラベンダーやミル等の簡易型樹脂混練装置を用いて原料を均一に溶融し、加熱した圧縮成形機等を使用して成形し、冷却した圧縮成形機や冷却した液体に浸漬させて溶融状態にある成形物を固化する方法がある。該方法はバッチ式となるため、生産性は良好とは言えないが、多種多様な形態の成形物を得ることができ、検討の自由度が高いという利点がある。
【0024】
本発明における保護剤とは、成形物を工程(b)で溶剤に接触させる際に、粗大化しようとする表層以外を溶剤によって溶解されないよう保護し、プレフィルター層の厚みを制御するために用いるものである。保護剤は、多孔膜の細孔部分に充填することが可能であり、その後の工程(c)において除去が容易であれば特に限定されない。
【0025】
ただし、保護剤を充填した成形物を工程(b)で溶剤と接触させた際に、保護剤が溶剤に簡単に置換されると粗大化する層の厚みを制御することが困難になるため、静置した状態で溶剤と混合しにくい性質を有することが好ましい。
【0026】
予め用意した多孔膜の細孔部分に保護剤を充填する場合は、粘性の比較的高いグリセリン、流動パラフィンが好ましい。さらに、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類との混合液とすると、粘性を容易に調整でき、多孔膜の細孔部分に充填しやすくなるため好ましい。保護剤とアルコールの混合比は限定されないが、細孔部分への充填のしやすさという面から、保護剤/アルコールの混合比は10/90vol%から90/10vol%が好ましい。さらに、細孔部分に充填した後にアルコールのみを乾燥させる工程を加えれば、保護剤を多孔膜の内部にのみ存在させることが可能となり、粗大化する層の厚みを制御できるのでより好ましい。このときの乾燥温度は特に限定されないが、室温であれば特に装置を必要としないため好ましい。
【0027】
一方、溶融成形方法を実施する場合には、保護剤としてポリマーの可塑剤が好適に使用できる。可塑剤とは、ポリマーと混合した際にポリマーの融点以上において均一に溶融しうるものであって、室温以上の温度で熱誘起型相分離点を有するものを意味する。多孔膜の材質をPVDFとした場合は、可塑剤として、フタル酸ジシクロヘキシル(DCHP)、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジ(n−ブチル)、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジ(n−オクチル)、等のフタル酸エステル類、リン酸トリフェニル、リン酸ジフェニルクレジル等のリン酸エステル類、またこれらの混合物が好ましい。溶融成形によって多孔膜を製造する場合、その孔径の制御は、多孔膜材質と保護剤としての多孔膜材質であるポリマーの可塑剤の組成を変化させることによって実施する。
【0028】
本発明の工程(b)において用いる溶剤とは、成形物の少なくとも片側の表層に接触させることによって、成形物の表層にあるポリマーを所望の程度溶解する物質であって、成形物から保護剤を除去することによって得られる多孔膜にプレフィルター層を形成させるために用いる。溶剤で成形物の表層を溶解する程度によってプレフィルター層の孔径の大きさが決まるので、所望のプレフィルター層の孔径となる程度に溶解すればよく、溶解する程度は特に限定されない。具体的には、成形物と接触させる溶媒の接触時間、温度によって制御する。
また、溶媒の拡散の速度を制御することによって、プレフィルター層の孔径は表層が大きく、除去層に近づくにつれて小さくなったり、プレフィルター層の全域にわたってほぼ同じ孔径としたりすることが可能であり、具体的には、溶媒の温度を上げると溶媒の拡散の速度がはやくなりプレフィルター層の全域にわたってほぼ同じ孔径となる。
【0029】
本発明における工程(b)は、成形物の少なくとも片側の表層に溶剤が接触する方法であればよく、溶剤に浸漬させる方法、溶剤を塗布する方法、溶剤を噴射する方法、溶剤の蒸気に触れさせる方法等があり、いずれの方法でもよい。溶剤としては、多孔膜を溶解しうる溶剤であれば何でも使用できる。多孔膜の材質をPVDFとした場合は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、またこれらの混合物を溶剤として使用できる。温度は、多孔膜を変形させない温度であればよいが、室温付近で溶解しうる溶剤であれば製造設備が簡易となるため好ましい。成形体を溶剤に接触させる時間は粗大化したい程度によって調整すればよい。
【0030】
本発明において表層とは、多孔膜の表面から所望の厚みを有する領域のことであり、細孔部分を粗大化し、プレフィルター層としようとする領域のことを意味する。
【0031】
本発明における工程(c)は、多孔膜の材質は溶解しないが保護剤および溶剤と親和性が高い性質を有する液体によって洗い流す方法が好ましい。具体的には液体に浸漬させる方法があり、特別な装置が必要なく簡単に実施可能であるため好ましい。保護剤としてグリセリンとアルコールの混合液、溶剤としてNMPを使用した場合は、該液体として、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、水、塩化メチレン、メチルエチルケトン、およびその混合溶液が使用できる。
【0032】
なお、以下の実施例および比較例において、それぞれの値は次の定義に基づき測定した。
【0033】
[透水量]
多孔膜から直径25 mmの円形状に切り抜いた膜を評価膜とした。評価膜をフィルターホルダー(アドバンテック株式会社製、PP-25 商品名)にセットし、温度25℃の純水を空気圧0.1 MPaで加圧して一定時間透過させ、その透過量を測定した。透過量および評価膜の膜面積から(1)式により透水量を算出した。
透水量 [L/m2/hr/(0.1 MPa)]
=(純水の透過量 [L])/(膜面積[m2])/(純水の透過時間 [hr]/
(膜間差圧 [0.1 MPa]) ・・・(1)
【0034】
[バブルポイント最大孔径]
バブルポイント最大孔径は、除去層の粒子の除去性の指標として用いた。ASTM F316-86に準拠したバブルポイント法から求められるバブルポイントをASTM F316-86に記載の(2)式を基に、(3)式によってBP最大孔径として換算した。多孔膜を浸漬する試験液として、表面張力が12 mN/mのフッ素系液体(住友スリーエム株式会社 パーフルオロカーボンクーラントFX-3250 商品名)を用いた。
最大孔径 [μm] = 2860×(表面張力)/(バブルポイント [Pa]) ・・・(2)
従って、
最大孔径 [nm] = 最大孔径 [μm]×1000
={2860×(表面張力)/(バブルポイント [Pa])}×1000
= 2.86×(表面張力)/(バブルポイント [MPa]) ・・・(3)
【0035】
[多孔膜の断面構造観察]
多孔膜から任意の大きさに切り取った膜を、エタノールで満たしたゼラチンカプセル(和光純薬製、ゼラチンカプセルNo.00)に入れ、液体窒素中で凍結し、カプセルごと割断し、風乾した後、導電性両面テープにより試料台に固定した。試料に10〜20 nm程度の白金コーティングを施して観察用の試料とした。走査型電子顕微鏡装置(株式会社日立製作所製、S-3000N)を用い、加速電圧5.0 kV、および所定の倍率で多孔膜の断面の構造観察を実施した。
【実施例】
【0036】
本発明を実施例に基づいて説明する。
【0037】
[実施例1]
ポリフッ化ビニリデン(PVDF、株式会社クレハ製、KFポリマーW#1300)50wt%、PVDFの可塑剤であるフタル酸ジシクロヘキシル(DCHP、大阪有機工業株式会社製、工業品)50wt%となるよう秤量し、ヘンシェルミキサー(株式会社カワタ製、SMV-100、容量100L)を用いて3分間攪拌混合した。得られた混合原料を210℃に昇温した押出機(株式会社プラスチック工学研究所製 BTN-25-S2-45-L型、同方向2軸押出機、特注品)に投入しTダイから押出して成形し、ロールの温度を30℃としたキャスト装置(大機工業株式会社製、特注品)を通すことによって、溶融状態の組成物を冷却し固化した。続いて、30℃のイソプロピルアルコール(IPA、和光純薬株式会社製、特級)中へ30分浸漬させる操作を4回繰り返しDCHPを除去した後、室温で風乾させ、多孔膜を得た。該多孔膜の片面を含む断面写真を図1に示す。該多孔膜の透水量は21.1 L/m2/hr/(0.1 MPa)、バブルポイント最大孔径は28.8 nmであった。
【0038】
得られた多孔膜を、グリセリン濃度が70wt%であるグリセリン(和光純薬株式会社製 特級)/IPAの混合溶液へ10分間浸漬させ、細孔部分にグリセリン/IPA混合溶液を充填し、成形物を得た。成形物を引き上げ、2時間室温にて乾燥させ、IPAを充分に揮発させた。続いて、該成形物を30℃のNMPへ10秒浸漬させた後、すぐに水へ浸漬させ、グリセリン/IPA混合溶液およびN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を除去し、12時間室温にて乾燥させ、多層膜を得た。該多層膜の断面をSEMにより観察した。多層膜の片面を含む断面写真を図2に示す。図2より、本発明の方法によって膜表層5-10μmにプレフィルター層が形成されたことがわかった。プレフィルター層を有する多層膜の透水量は20.4 L/m2/hr/(0.1 MPa)、バブルポイント最大孔径は31.9 nmであった。多孔膜とプレフィルター層を有する多層膜では、透水量およびバブルポイント最大孔径は大きな変化がないことが確認でき、除去層の透水性能および粒子の除去性を維持できたことがわかった。
【0039】
[実施例2]
多孔膜のNMPへの浸漬時間を30秒とした以外は実施例1に従って、プレフィルター層を有する多層膜を得た。該多層膜の断面をSEMにより観察した。多層膜の片面を含む断面写真を図3に示す。図1〜図3より、NMPへの浸漬時間を長くすると粗大化がより促進されたことがわかった。多層膜の透水量は16.2 L/m2/hr/(0.1 MPa)、バブルポイント最大孔径は32.3 nmであった。多孔膜とプレフィルター層を有する多層膜では、透水量およびバブルポイント最大孔径に大きな変化がないことが確認でき、除去層の透水性能および粒子の除去性を維持できたことがわかった。
【0040】
[比較例1]
多孔膜をグリセリン/IPA混合溶液に浸漬させる工程を省いた以外は実施例1に従った。結果、多孔膜がNMPに全て溶けた。
【0041】
[実施例3]
PVDF50wt%、DCHP50wt%となるよう秤量し、ヘンシェルミキサーを用いて3分間攪拌混合した。得られた混合原料を210℃に昇温した押出機に投入しTダイから押出して溶融成形し、ロールの温度を30℃となるよう調整したキャスト装置を通して冷却し、シート状の溶融成形物を得た。
溶融成形にて得られた成形物を30℃のNMPへ10秒浸漬させてから、30℃のIPA中へ30分浸漬させる操作を4回繰り返しDCHPを除去した後、2時間室温にて乾燥し、多層膜を得た。該多層膜の断面をSEMにより観察した。片面を含む断面写真を図5に示す。図5より、プレフィルター層が形成されたことがわかった。また、このプレフィルター層が形成させた多層膜の透水量は27.3 L/m2/hr/(0.1 MPa)、バブルポイント最大孔径は32.4 nmであり、処理前後において、透水量およびバブルポイント最大孔径に大きな変化がないことが確認でき、除去層の透水性能および粒子の除去性を維持できたことがわかった。
【0042】
尚、得られた成形物を30℃のIPA中へ30分浸漬させる操作を4回繰り返しDCHPを除去して多孔膜自体の孔径を測定したところ、この多孔膜の透水量は26.3 L/m2/hr/(0.1 MPa)、バブルポイント最大孔径は40.5 nmであった。得られた多孔膜の片面を含む断面写真を図4に示す。
【産業の利用可能性】
【0043】
本発明のプレフィルター層を有する多層膜の製造方法は、水処理、食品および医薬品製造等において用いられる分離膜の製造において好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1における多孔膜断面の電子顕微鏡写真。
【図2】実施例1におけるプレフィルター層を有する多層膜断面の電子顕微鏡写真。
【図3】実施例2におけるプレフィルター層を有する多層膜断面の電子顕微鏡写真。
【図4】実施例3における多孔膜断面の電子顕微鏡写真。
【図5】実施例3におけるプレフィルター層を有する多層膜断面の電子顕微鏡写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔膜の細孔部分が保護剤で充填された成形物を得る工程(a)と、前記成形物の少なくとも片側の表層を多孔膜の溶剤を接触させて表面処理をする工程(b)と、前記保護剤および前記溶剤を除去する工程(c)とを経て製造されることを特徴とする液体処理用分離膜の製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)が、予め準備された多孔膜の細孔部分にグリセリンとアルコールの混合液、流動パラフィンとアルコールの混合液から選ばれる保護剤を充填して成形物を得る工程であることを特徴とする請求項1に記載の液体処理用分離膜の製造方法。
【請求項3】
前記多孔膜を構成する材質がポリフッ化ビニリデンであることを特徴とする請求項2に記載の液体処理用分離膜の製造方法。
【請求項4】
前記工程(a)が、多孔膜の原料と、その可塑剤である保護剤とを、溶融成形して成形物を得る工程であることを特徴とする請求項1に記載の液体処理用分離膜の製造方法。
【請求項5】
前記多孔膜を構成する材質がポリフッ化ビニリデンであることを特徴とする請求項4に記載の液体処理用分離膜の製造方法。
【請求項6】
前記可塑剤がフタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジ(n-ブチル)、リン酸トリフェニル、リン酸ジフェニルクレジルから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項5に記載の液体処理用分離膜の製造方法。
【請求項7】
前記溶剤がN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項3、5、6のいずれかに記載の液体処理用分離膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−172477(P2009−172477A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11856(P2008−11856)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】