説明

プレフィルドシリンジ用弾性シール体

【課題】 使用時に弾性シール体に針が刺し通されることによりタンパク製剤を抽出するプレフィルドシリンジにおいて、タンパク製剤中の有効成分の弾性シール体への吸着を確実に防止しつつも、弾性シール体への針の刺し通しを円滑かつ確実に行えるようにする
【解決手段】 弾性部材からなるシール本体2の天面に保護フィルム3を積層成形する際、天面に設けた凹部4によって保護フィルム3が比較的大きく延びるようにし、この凹部4の底に針の刺通部を設けることで、刺通部における保護フィルム3の膜厚を局所的に薄く形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレフィルドシリンジのシリンジガスケットや栓体などに利用できるプレフィルドシリンジ用弾性シール体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、下記の特許文献1〜4に開示されているように、種々のプレフィルドシリンジが知られている。また、プレフィルドシリンジ用のガスケットとして、特許文献5に記載のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平11−511358号公報
【特許文献2】特表2002−506695号公報
【特許文献3】特表平8−506749号公報
【特許文献4】特開2002−172166号公報
【特許文献5】特開2001−190667号公報
【0004】
上記特許文献1〜4記載の従来のプレフィルドシリンジでは、ガラス製の注射筒とブチルゴム製のシリンジガスケット(弾性シール体)とを用いるものが主流であって、ガスケットと注射筒によって囲まれた空間を薬剤収容部とし、この薬剤収容部内に内容液を無菌充填した状態で流通される。また、薬剤収容部内から内容液を注出するための針が備えられており、ガスケット中央の刺通部に針を刺し通すことにより、針を介して薬剤収容部から内容液を注出するように構成されている。
【0005】
また、上記特許文献5記載の従来のガスケットでは、フッ素系樹脂、超高分子量ポリエチレン系樹脂若しくはポリプロピレン系樹脂からフィルムによりガスケットの表面をラミネート(積層成形)することで、薬液に対する耐薬品性の向上を図ることが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、バイオ医薬品の研究開発が急速に進められており、このバイオ医薬品にもプレフィルドシリンジを用いることが要望されている。しかし、バイオ医薬品はタンパク製剤の一種であるところ、含有されるタンパクが保管中にブチルゴム製ガスケットに吸着して、薬効が低下するという問題がある。一方、プレフィルドシリンジ以外のバイオ医薬品の包装材においては、ポリテトラフルオロエチレン製若しくは超高分子量ポリエチレン製のフィルムを積層成形することによって、包装材へのタンパクの吸着を防止しているが、本願発明者らがプレフィルドシリンジ用のガスケットに同様のフィルムを積層し、各種試験を行ったところ、フィルムの硬度が高いために、針の折損や曲がり乃至フィルムの剥離という問題が生じた。また、針の刺し通し性を良好なものとするために薄いフィルムを積層成形したガスケットの試作も行ってみたが、この場合はフィルムが薄すぎて、フィルムの積層成形時にフィルムが破損したり穴あきが発生するという問題が生じた。
【0007】
そこで、本発明は、使用時にガスケット(弾性シール体)に針が刺し通されることにより内容液剤を抽出するプレフィルドシリンジにおいて、内容液剤中の有効成分のガスケットへの吸着を確実に防止しつつも、ガスケットへの針の刺し通しを円滑かつ確実に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、次の技術的手段を講じた。
【0009】
すなわち、本発明は、内容液が薬剤収容部に充填されるプレフィルドシリンジ用の弾性シール体であって、前記薬剤収容部を密封するとともに使用時に針が貫通して刺し通される刺通部を有するものにおいて、弾性部材からなるシール本体と、該本体の少なくとも前記薬剤収容部に対向する表面に積層成形された保護フィルムとを備えているとともに、前記刺通部における前記保護フィルムの膜厚がその周囲に比して局所的に薄く形成されていることを特徴とするプレフィルドシリンジ用弾性シール体である。
【0010】
かかる本発明のプレフィルドシリンジ用弾性シール体によれば、刺通部における保護フィルムの膜厚が局所的に薄く形成されているので、刺通部に針を刺し通す際には針の先端によって保護フィルムを容易に突き破ることができて、保護フィルムがシール本体から剥離してしまうことが防止される。また、刺通部の周囲では保護フィルムの必要十分な膜厚を確保でき、積層成形時にフィルムの破損や穴あきが生じることがなく、内容液剤中の有効成分のシール本体への吸着を確実に防止できる。
【0011】
より好ましくは、本発明は、内容液が薬剤収容部に充填されるプレフィルドシリンジ用の弾性シール体であって、前記薬剤収容部を密封するとともに使用時に針が貫通して刺し通される刺通部を有するものにおいて、弾性部材からなるシール本体と、該本体の少なくとも前記薬剤収容部に対向する表面に積層成形された保護フィルムとを備えているとともに、前記表面には前記フィルムの積層成形時に該フィルムが比較的大きく延びるようにするための凹部が設けられており、該凹部の底に前記刺通部が設けられており、前記凹部表面に密着させるように保護フィルムを展伸させることにより前記刺通部における前記保護フィルムの膜厚がその周囲に比して局所的に薄く形成されていることを特徴とするものである。このように、刺通部を凹部の底に設けることで、フィルム成形時に刺通部において大きくフィルムを展伸させることにより薄膜とすることができ、生産性の向上と製品の品質の安定化とを図ることが可能となる。
【0012】
さらに好ましくは、前記シール本体の前記薬剤収容部に対向する表面は、シリンジの底面形状に略対応する形状とされ、該表面の中央部に前記凹部が形成され、該凹部内に、前記刺通部に刺し通された針の先端部が収まるように構成されているものとすることができる。これによれば、シール本体の天面(薬剤収容部に対向する表面)とシリンジの底面形状とを略同じにすることにより、シール本体の天面がシリンジの底面に押し当たるまでシール本体をスライドすれば、薬剤収容部内の内容液の残量を極めて少量にでき、高価なタンパク製剤の未使用量を激減させることが可能となる。また、保護フィルムの薄肉部を形成するための凹部内に針の先端部を収めることにより、シリンジ底面に針の先端部が当接することがなく、針やシリンジの破損を防止できる。
【0013】
上記本発明において、内容液はタンパク製剤であり、保護フィルムはタンパクの吸着を防止するためのフッ素樹脂製若しくは超高分子量ポリエチレン製のフィルムであることが好ましい。
【0014】
さらに、刺通部における保護フィルムとシール本体との表面密着力が、針を刺し通す際に刺通部における保護フィルムに作用するシール本体から離反させようとする外力よりも大きいことが好ましい。
【0015】
好ましくは、刺通部における保護フィルムの最小膜厚は、刺通部以外の保護フィルムの平均膜厚の30〜50%とすることができる。好ましい保護フィルムの具体的膜厚としては、刺通部においてはおよそ30〜50μmであり、刺通部以外の保護フィルムの平均膜厚は100μm前後である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、使用時に弾性シール体に針が刺し通されることにより内容液剤を抽出するプレフィルドシリンジにおいて、内容液剤中の有効成分のガスケットへの吸着を確実に防止しつつも、ガスケットへの針の刺し通しを円滑かつ確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係るプレフィルドシリンジ用弾性シール体の断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係るプレフィルドシリンジ用弾性シール体の断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係るプレフィルドシリンジ用弾性シール体の断面図である。
【図4】本発明の第4実施形態に係るプレフィルドシリンジ用弾性シール体の断面図である。
【図5】図3に示す弾性シール体の保護フィルムのラミネート工程を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本発明の第1実施形態に係るプレフィルドシリンジ用弾性シール体1を示している。該シール体1は、内部空間がタンパク製剤(内容液)の薬剤収容部7となる有底筒状のシリンジ6内に内嵌され、タンパク製剤が充填された薬剤収容部7を密封するものである。また、このプレフィルドシリンジは、薬剤収容部7からタンパク製剤を注出するための針8を備えており、該針8は、シール体1の中央の刺通部を背面側(図において上方側)から表面(図において下方)に向けて貫通して刺し通され、この状態でシール体1をシリンジ6に対して下方に摺動させることによりタンパク製剤を加圧して、針8の先端部から針8を介してタンパク製剤を注出し得るように構成されている。シール体1及び針8の操作機構は適宜のものとすることができ、シール体1の裏面側にはプランジャなどを装着するための取付ねじ部5が形成されている。
【0020】
弾性シール体1は、弾性部材からなるシール本体2と、該本体2の薬剤収容部に対向する表面及び外周面にわたって積層成形された保護フィルム3とを備えている。シール本体2は、ブチルゴム、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム等の適宜の未加硫ゴムを成形型を用いて加硫成形することもでき、射出成形法等の他の適宜の成形法によって成形することも可能である。
【0021】
シール本体2の前記表面の中央部には、保護フィルム3の積層成形時にフィルム3が局部的に比較的大きく延びるようにするための円形の凹部4が設けられており、該凹部4の底が針の刺通部となされている。また、シール本体2の薬剤収容部7に対向する表面(いわゆる天面)は、シリンジ6の底面形状に略対応する形状とされ、弾性シール体1をシリンジ6の底面に押し当てた状態で薬剤収容部7内のタンパク製剤の残液が僅少となるようにしている。また、タンパク製剤を注出する際、針8の先端は前記凹部4内に収められるようになっており、この状態で針8と弾性シール体1とが一体的にシリンジ6に対して軸方向移動する。
【0022】
保護フィルム3は、ポリテトラフルオトエチレンやエチレン−テトラフルオトエチレン共重合体などのフッ素系樹脂、若しくは、超高分子量ポリエチレン樹脂からなるものを好適に用いることができ、適宜のラミネート法によってシール本体2の表面に積層成形することができる。本実施形態においては特に、シール本体2の前記凹部4表面に密着させるように保護フィルム3を局部的に展伸させることにより刺通部における保護フィルム3の膜厚がその周囲に比して局所的に薄く形成されている。
【0023】
前記凹部4の構造は、保護フィルム3を局部的に薄肉に形成できるものであれば適宜のものとすることができ、図1に示すように凹部4の底面が平坦であってもよく、図2に示すように凹部4の底面をテーパ面にしてもよい。また、図3に示すように、凹部4を滑らかなR形状とすることもできる。
【0024】
図4は、中央に局部的な凹部を設けるのに代えて、シール本体2の天面全体をクレーター状に窪ませ、その窪み部9の中央に台地状の凸部10を設けた実施形態を示す。かかる構成によっても、保護フィルム3をシール本体2の表面にラミネートする際、凸部10の存在によって天面の中心部で保護フィルム3が大きく展伸されるようになり、針の刺通部となる中心部では保護フィルム3の膜厚がシール本体2の外周部における膜厚の半分程度に薄くすることができる。
【0025】
図5は、図3に示す弾性シール体1の保護フィルム3のラミネート工程の一例を示している。図5(a)(b)に示すように、予め加硫成形されたシール本体2と、加熱温調された保護フィルム3とを重ねて成形金型11に嵌め込んでいくと、シール本体2の天面外周部と成形金型11との間に保護フィルム3が挟まれて天面に対応する部分では保護フィルム3が天面から離間した状態で張られた状態となる。成形金型11の底部中央には、前記凹部4に対応する凸部12が設けられており、該凸部12が、上記のように張られた保護フィルム3の中央部に突き当てられ、この凹部4に対応する部位を局部的に大きく展伸させて薄膜化する。図5(c)に示すようにシール本体2を金型11内に完全に押し込むと、少なくとも天面においては保護フィルム3をシール本体2に圧着させ、金型11からの熱により保護フィルム3をシール本体2に確実に密着させる。これにより好ましくは、刺通部における保護フィルム3とシール本体2との表面密着力が、針8を刺し通す際に刺通部における保護フィルム3に作用するシール本体2から離反させようとする外力よりも大きくなるようにする。
【0026】
なお、シール本体2の外周部においては、保護フィルム3を金型により圧着させることは必ずしも必要ではなく、保護フィルム3をシュリンク加工によりシール本体2に密着させてもよい。
【0027】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、適宜設計変更することができる。例えば、上記実施形態では、予め加硫成形したシール本体に対して保護フィルム3をラミネートしたが、未加硫ゴムをシール本体に加硫成形する際に同時に保護フィルムを積層成形してもよい。また、シール本体として射出成形品を用いることもできる。
【符号の説明】
【0028】
1 弾性シール体
2 シール本体
3 保護フィルム
4 凹部
5 取付ねじ部
6 シリンジ
7 薬剤収容部
8 針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内容液が薬剤収容部に充填されるプレフィルドシリンジ用の弾性シール体であって、前記薬剤収容部を密封するとともに使用時に針が貫通して刺し通される刺通部を有するものにおいて、
弾性部材からなるシール本体と、該本体の少なくとも前記薬剤収容部に対向する表面に積層成形された保護フィルムとを備えているとともに、前記刺通部における前記保護フィルムの膜厚がその周囲に比して局所的に薄く形成されていることを特徴とするプレフィルドシリンジ用弾性シール体。
【請求項2】
内容液が薬剤収容部に充填されるプレフィルドシリンジ用の弾性シール体であって、前記薬剤収容部を密封するとともに使用時に針が貫通して刺し通される刺通部を有するものにおいて、
弾性部材からなるシール本体と、該本体の少なくとも前記薬剤収容部に対向する表面に積層成形された保護フィルムとを備えているとともに、前記表面には前記フィルムの積層成形時に該フィルムが比較的大きく延びるようにするための凹部が設けられており、該凹部の底に前記刺通部が設けられており、前記凹部表面に密着させるように保護フィルムを展伸させることにより前記刺通部における前記保護フィルムの膜厚がその周囲に比して局所的に薄く形成されていることを特徴とするプレフィルドシリンジ用弾性シール体。
【請求項3】
前記シール本体の前記薬剤収容部に対向する表面は、シリンジの底面形状に略対応する形状とされ、該表面の中央部に前記凹部が形成され、該凹部内に、前記刺通部に刺し通された針の先端部が収まるように構成されていることを特徴とする請求項2に記載のプレフィルドシリンジ用弾性シール体。
【請求項4】
内容液はタンパク製剤であり、保護フィルムはタンパクの吸着を防止するためのフッ素樹脂製若しくは超高分子量ポリエチレン製のフィルムであることを特徴とする請求項1,2又は3に記載のプレフィルドシリンジ用弾性シール体。
【請求項5】
刺通部における保護フィルムとシール本体との表面密着力が、針を刺し通す際に刺通部における保護フィルムに作用するシール本体から離反させようとする外力よりも大きいことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプレフィルドシリンジ用弾性シール体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−228335(P2012−228335A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97835(P2011−97835)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000206185)大成化工株式会社 (83)
【出願人】(000132194)株式会社スズケン (12)
【Fターム(参考)】