説明

プレプロインスリンの精製方法

本発明は、フロースルー式の陰イオン交換体の第一のクロマトグラフィー、それに続く吸着式の陽イオン交換体での第二のクロマトグラフィーによって、より高分子量の物質が、プレプロインスリン水溶液から分離されることによる、プレプロインスリンのクロマトグラフィー精製方法に関し、および、プレプロインスリンを生産する方法を含むインスリンの生産方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
世界的に約1200万人の人々が1型糖尿病に罹っており、1型糖尿病は、インスリンホルモンの内因性の産生が不十分なことを特徴とする。このタイプの糖尿病の唯一の可能な療法形態は、内分泌性インスリンの分泌の欠如をインスリン製剤を適用することによって代替することである。
【0002】
インスリン製剤は、インスリンホルモンが活性物質である医薬製剤である。この場合、天然に存在するインスリンだけでなく、インスリン類似体およびインスリン誘導体が用いられる。
【0003】
ヒトの膵臓で生産されるヒトインスリンは、51個のアミノ酸残基を含むポリペプチドであり、これは、2つのペプチド鎖、すなわち21個のアミノ酸残基を有するA鎖と、30個のアミノ酸残基を有するB鎖とに分けられる。両ペプチド鎖のアミノ酸残基の配列は遺伝学的に決定されており、既知である。両鎖は互いに2個のジスルフィド架橋で連結している。加えて、A鎖はまた、鎖内部のジスルフィド架橋も含む。
【0004】
インスリン類似体は、少なくとも1つのアミノ酸残基の置換、および/または、少なくとも1つのアミノ酸残基の付加または除去により、ヒトインスリンと異なっている。インスリン類似体は、ヒト以外の種で天然に生じるものでもよいし、または、人工的に製造されたものでもよい。インスリン誘導体は、例えば追加のエステルまたはアミド基のような化学修飾されたアミノ酸残基を含むが、その他はヒトのアミノ酸配列または類似したアミノ酸配列を示す。
【0005】
通常、インスリン類似体またはインスリン誘導体は、修飾されていないヒトインスリンと比べて、改変された作用キネティクス(kinetics)を示す。
【0006】
ここ数年、ヒトインスリン、および、インスリン類似体もしくはインスリン誘導体が、組み換えDNA技術で製造されてきた。工業的な方法において、例えば、最初に式1で示される適切な前駆体のプレプロインスリン(PPI)が製造され、それからヒトインスリンまたはインスリン類似体が酵素による切断により製造される。例えば、ヒトインスリンを製造するための遺伝学的方法は、以下の方法工程を含む:
a)遺伝子操作された微生物を発酵させる工程、
b)前記微生物を回収し、細胞を崩壊させる工程、
c)未溶解の融合タンパク質を含む封入体を単離する工程、
d)ペプチド鎖が正しくフォールディングされた前記融合タンパク質を溶解させ、同時にジスルフィド架橋を連結させ、プレプロインスリンを得る工程、
e)プレプロインスリンを酵素で切断し、ヒトインスリンを得る工程、
f)ヒトインスリンを精製する工程、
g)ヒトインスリンを結晶化し、得られた生成物を乾燥させる工程。
【0007】
インスリン類似体を製造する際、プレプロインスリンの適切な領域のアミノ酸配列(A鎖およびB鎖の)は、予め決定されている。様々なプレプロインスリンの酵素による切断は、例えば酵素トリプシン、さらに必要に応じて酵素カルボキシペプチダーゼBのようなプロテアーゼを用いて行われる。
【0008】
プレプロインスリンは、式1で示されるタンパク質である;
【化1】

上記式中、
Xは、
a)遺伝学的にコード可能なアミノ酸残基、または、
b)2〜35個のアミノ酸残基を有するペプチドであり、ここで、最初と最後がいずれの場合も塩基性アミノ酸残基(特にArg)であり、および、3個超のアミノ酸残基からなる場合、最初と最後がいずれの場合も2個の塩基性アミノ酸残基(特にArgおよび/またはLys)
であり、
1は、
a)水素、
b)遺伝学的にコード可能なアミノ酸残基、または、
c)2〜15個のアミノ酸残基を有するペプチド
であり、
2は、遺伝学的にコード可能なアミノ酸残基であり、および、
残基A1〜A20は、ヒトインスリンのA鎖またはインスリン類似体のアミノ酸配列に対応し、残基B1〜B30は、ヒトインスリンのB鎖またはインスリン類似体のアミノ酸配列に対応する。
【0009】
好ましくは、プレプロインスリンは、以下のような式1で示されるタンパク質である;
Xは、35個のアミノ酸残基を有し、ヒトインスリンまたはサルのインスリンのC鎖配列を含むペプチド、または、29個のアミノ酸を有するペプチドであり、その配列は以下の通り:
Arg−Asp−Val−Pro−Gln−Val−Glu−Leu−Gly−Gly−Gly−Pro−Gly−Ala−Gly−Ser−Leu−Gln−Pro−Leu−Ala−Leu−Glu−Gly−Ser−Leu−Gln−Lys−Arg(配列番号1)、
1は、2〜15個のアミノ酸残基を有し、そのカルボキシル末端アミノ酸残基がArgであるペプチドであり、
2は、アミノ酸残基AsnまたはGlyであり、および、
残基A1〜A20は、ヒトインスリンのA鎖のアミノ酸配列に対応し、
残基B1〜B30は、B3位のAsnをLysで置換し、B29位のLysをGluで置換しているヒトインスリンのB鎖またはインスリン類似体のアミノ酸配列に対応する。
【0010】
本プロセスの、ペプチド鎖が正しくフォールディングされた融合タンパク質を溶解させて、同時にジスルフィド架橋を連結させ、プレプロインスリンを得る段階では、望ましい単量体プレプロインスリン以外にも、競合反応でポリマー状のプレプロインスリンも生産される。前記ポリマー状のプレプロインスリンは、それらのより高分子量によりHPLC−GPC分析または動的光散乱法で検出することができる。この望ましくない競合反応を抑制するために、融合タンパク質の初期濃度は、できるだけ低くする必要がある(De Bernadez等,Meth.Enzym.309:217,1999年)。実際には、このプロセスの段階では、約0.5〜1g/Lの濃度でプレプロインスリンが生産され、さらに、より高分子量の割合が約40%であることがわかっている。より高分子量の区分には、ポリマー状のプレプロインスリンが含まれる。
【0011】
驚くべきことに、本発明の範囲内において、ポリマー状のプレプロインスリンは、それに続くプロセスの段階で未変性インスリンの変性を誘導することによってインスリンの安定性に不利に作用することがわかった。変性反応の連鎖中、第一の可逆性の工程で、溶解した単量体インスリン分子から、物理的な接着力で繰り返し単位が連結された直線状の凝集体が生産されることがわかっている。それに続く不可逆性の反応により、溶解した凝集体から、安定な不溶性の凝集体の束(フィブリル)が生産され、これらは順に、自己触媒プロセスで未変性インスリンの変性を誘導する。これら不溶性のインスリンの繊維は、生物学的に不活性なだけではなく、医薬インスリン製剤を適用する際に注射針を詰まらせる原因となり得る。加えて、これらはまた、インスリン製剤を用いた療法中に場合により起こりうる免疫学的な不適合反応に関与する(J.Brange等,J.Pharm.Sc.1997年,86,517〜525;R.E.Ratner等,Diabetes,39,728〜733,1990年)。
【0012】
インスリン製造プロセスのそれに続く部分において、プレプロインスリンは、酵素トリプシンとカルボキシペプチダーゼBによってヒトインスリンに変換される(Kemmler,W.,Peterson,J.D.およびSteiner,D.F.,J.Biol.Chem.,246(1971年)6786〜6791を参照)。この場合、A鎖とB鎖との間のリンカーペプチド(式1におけるX)と、B鎖のアミノ末端の先の部分(式1におけるR1)が除去される。トリプシンでの酵素反応は、その切断によりヒトインスリンが生産されるペプチド結合を切断するだけでなく、競合反応において、その切断により多数の望ましくない副産物が生産される他のペプチド結合も切断する。式1で示されるアミノ酸残基B29とB30との間をさらに切断することによる脱Thrインスリンの形成(EP0 264 250(B1)を参照)が、特に望ましくない。それに続く精製段階でこの副産物を除去すると、生成物が大量に失われる。この望ましくない副作用を抑制するためには、プレプロインスリンの初期濃度をできるだけ高く、すなわち8〜25g/l(これは1〜3mMに相当する)の範囲にする必要がある(EP0 264 250(B1)を参照)。この必要性は、2つ前の段落で述べられた必要性と対照的である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記から明白であるが、プレプロインスリン生産と、プレプロインスリンのインスリンへの切断の間に、ポリマー状のプレプロインスリンをできるだけ徹底的に除去し、同時に、単量体プレプロインスリン濃度をできるだけ多く増加させる追加のプロセス工程を導入することが有利である。このプロセス工程において極めて高い収率を確実にするには、追加の条件が必要である。
【0014】
従って、疎水性の吸着性樹脂でプレプロインスリンを濃縮することが提唱されてきた(EP0 600 372(B1))。本出願人は、高い濃度係数(F=10〜15)は達成可能であるが、実質的にはポリマー状のプレプロインスリンは除去されていないことを自身の実験で示すことができた。その他の提案(D.F.Steiner等,Diabetes,17(1968年),725〜736)では、イオン交換樹脂を用いたプレプロインスリンのクロマトグラフィーの精製が述べられている。我々の実験において、我々は、陰イオン交換樹脂を用いて、濃度係数F=5、および、より高分子量の区分を約5%になるまで除去することしかできなかった。陽イオン交換樹脂を用いてより高分子量の区分を約1%になるまで除去したが、樹脂のプレプロインスリンに対する結合能力が不十分であることがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
続いて、驚くべきことに、フロースルー式の陰イオン交換樹脂でのクロマトグラフィーと、その直後の吸着式の陽イオン交換樹脂でのクロマトグラフィーの組み合わせが、明らかに優れた結果を提供することがわかった。それゆえに、本発明は、同時に高濃度の単量体プレプロインスリンを含むプレプロインスリン水溶液から、より高分子量の物質を効果的に除去する方法に関する。
【0016】
本発明によれば、インスリン製造プロセス中に生産されるようなプレプロインスリンの希釈水溶液は、陰イオン交換樹脂が充填されたプレカラム(例えばSource30Q)を、pH7.0〜9.0、好ましくはpH7.5〜8.5で、伝導率5〜7mS/cmで通過して送り出される。この場合、単量体プレプロインスリンは、樹脂に結合しないが、透過液と共にカラムを通過する。それに対して、ポリマー状のプレプロインスリンを含むより高い分子量の物質の大部分は樹脂に吸着し、プレプロインスリンから除去される。この対象の物質を含むプレカラムからの透過液は、ライン上で塩酸を用いてpH3.0〜5.5、好ましくはpH4.0〜5.0に調節され、続いて、直接的に、陽イオン交換樹脂が充填された第二のカラム(例えばSource30S)に送り出される。プレプロインスリンはこの樹脂に吸着され、不純物は、透過液と共にカラムから洗浄される。プレプロインスリンは、濃度を1〜20g/l、好ましくは2.5〜15.0g/lに直線的に増加させた塩化ナトリウム含有溶出緩衝液で脱離させる。精製したプレプロインスリンは、主画分に回収され、その一方でさらなる不純物は、前の画分と後の画分で除去される。プレプロインスリンの初期量の>90%を含む主画分において、測定された濃度は15〜20g/Lであった(濃度係数F=20〜25)。より高分子量の物質は、<0.1%になるまで除去された。この方法で精製したプレプロインスリンは、途中で結晶化させることにより溶液から単離してもよいし、または、溶液を酵素による切断プロセス段階に直接供給してもよい。
【0017】
従って、本発明は、式1:
【化2】

で示されるプレプロインスリンのクロマトグラフィー精製方法に関し、
【0018】
式中、Xは、
a)遺伝学的にコード可能なアミノ酸残基、または、
b)2〜35個のアミノ酸残基を有するペプチドであり、ここで、最初と最後がいずれの場合も塩基性アミノ酸残基(特にArg)であり、および、3個超のアミノ酸残基からなる場合、最初と最後がいずれの場合も2個の塩基性アミノ酸残基(特にArgおよび/またはLys)
であり、
1は、
a)水素、
b)遺伝学的にコード可能なアミノ酸残基、または、
c)2〜15個のアミノ酸残基を有するペプチド
であり、
2は、遺伝学的にコード可能なアミノ酸残基であり、および、
残基A1〜A20は、ヒトインスリンのA鎖またはインスリン類似体のアミノ酸配列に対応し、残基B1〜B30は、ヒトインスリンのB鎖またはインスリン類似体のアミノ酸配列に対応し;
【0019】
本方法において、より高分子量の物質が、フロースルー式の陰イオン交換体での第一のクロマトグラフィー、および、それに続く吸着式の陽イオン交換体での第二のクロマトグラフィーによって、前記プレプロインスリンの水溶液から除去される;
ここで、前記プレプロインスリンは、以下のアミノ酸配列を有し得る:
Ala−Thr−Thr−Ser−Thr−Gly−Asn−Ser−Ala−Arg−Phe−Val−Asn−Gln−His−Leu−Cys−Gly−Ser−His−Leu−Val−Glu−Ala−Leu−Tyr−Leu−Val−Cys−Gly−Glu−Arg−Gly−Phe−Phe−Tyr−Thr−Pro−Lys−Thr
−Arg−Arg−Glu−Ala−Glu−Asp−Pro−Gln−Val−Gly−Gln−Val−Glu−Leu−Gly−Gly−Gly−Pro−Gly−Ala−Gly−Ser−Leu−Gln−Pro−Leu−Ala−Leu−Glu−Gly−Ser−Leu−Gln−Lys−Arg−Gly−Ile−Val−Glu−Gln−Cys−Cys−Thr−Ser−Ile−Cys−Ser−Leu−Tyr−Gln−Leu−Glu−Asn−Tyr−Cys−Asn;(配列番号2)
Ala−Thr−Thr−Ser−Thr−Gly−Asn−Ser−Ala−Arg−Phe−Val−Asn−Gln−His−Leu−Cys−Gly−Ser−His−Leu−Val−Glu−Ala−Leu−Tyr−Leu−Val−Cys−Gly−Glu−Arg−Gly−Phe−Phe−Tyr−Thr−Pro−Lys−Thr−Arg−Arg−Glu−Ala−Glu−Asp−Pro−Gln−Val−Gly−Gln−Val−Glu−Leu−Gly−Gly−Gly−Pro−Gly−Ala−Gly−Ser−Leu−Gln−Pro−Leu−Ala−Leu−Glu−Gly−Ser−Leu−Gln−Lys−Arg−Gly−Ile−Val−Glu−Gln−Cys−Cys−Thr−Ser−Ile−Cys−Ser−Leu−Tyr−Gln−Leu−Glu−Asn−Tyr−Cys−Gly;(配列番号3)
Ala−Thr−Thr−Ser−Thr−Gly−Asn−Ser−Ala−Arg−Phe−Val−Lys−Gln−His−Leu−Cys−Gly−Ser−His−Leu−Val−Glu−Ala−Leu−Tyr−Leu−Val−Cys−Gly−Glu−Arg−Gly−Phe−Phe−Tyr−Thr−Pro−Glu−Thr−Arg−Asp−Val−Pro−Gln−Val−Glu−Leu−Gly−Gly−Gly−Pro−Gly−Ala−Gly−Ser−Leu−Gln−Pro−Leu−Ala−Leu−Glu−Gly−Ser−Leu−Gln−Lys−Arg−Gly−Ile−Val−Glu−Gln−Cys−Cys−Thr−Ser−Ile−Cys−Ser−Leu−Tyr−Gln−Leu−Glu−Asn−Tyr−Cys−Asn(配列番号4)。
【0020】
本発明はさらに、インスリンの変性を誘導するプレプロインスリンの溶液から外来物質を分離するための上記方法に関する。
【0021】
本発明はさらに、前記第二のクロマトグラフィーは、pH3.0〜5.5で行われる、上記方法に関する。
【0022】
本発明はさらに、前記第二のクロマトグラフィーは、圧力1〜30barで行われる、上記方法に関する。
【0023】
本発明はさらに、フォールディングされていないプレプロインスリンを発現することによってインスリンを製造する方法に関し、本方法は、以下の工程を含む:
a)フォールディングされていないプレプロインスリンを発現する遺伝子操作された微生物を発酵させる工程、
b)前記微生物を回収し、細胞を崩壊させる工程、
c)未溶解のフォールディングされていないプレプロインスリンを含む封入体を単離する工程、
d)ペプチド鎖が正しくフォールディングしたプレプロインスリンを溶解させ、同時にジスルフィド架橋を連結させ、プレプロインスリンを得て、それに続いて、上述の式1で示されるプレプロインスリンのクロマトグラフィー精製方法を行う工程、
e)プレプロインスリンを酵素で切断し、ヒトインスリンを得る工程、
f)ヒトインスリンを精製する工程、
g)ヒトインスリンを結晶化し、乾燥させる工程。
以下で本発明をより詳細に説明するが、これに限定されない。
【実施例】
【0024】
以下の実施例1〜3に記載の、式1で示される様々なプレプロインスリンを精製するための出発溶液を、以下のような既知の方法(EP0 489 780、および、EP0 600 372)で、上述のプロセスの段階a、b、cおよびdに従って製造した:
微生物の発酵(プロセス段階a)の間、E.coli細胞は、プレプロインスリンのアミノ酸配列を有する融合タンパク質を含む封入体を形成した。発酵終了後、この細胞を遠心分離で単離し、通常の高圧ホモジナイズによって崩壊させた(プロセス段階b)。このプロセスで放出された不溶性の封入体を遠心分離で単離し、遠心分離機中で水で洗浄した(プロセス段階c)。それに続くプロセス段階dで、融合タンパク質の封入体を8M塩酸グアニジン溶液(pH10.8)に溶解させた。水で希釈し、塩酸システインを加えた後、3個のジスルフィド架橋をpH10.8、4℃で連結させて融合タンパク質をフォールディングさせ、式1で示されるプレプロインスリンを得た。次に、この溶液を10%濃度の塩酸を用いてpH5に調整し、その結果として外来タンパク質を沈殿させ、この沈殿を遠心分離で除去した。遠心分離後の上清は、0.6〜0.8g/lの単量体プレプロインスリンを含んでいた。プレプロインスリンの純度は、HPLC−RP分析で測定したところ、面積で約65%であった。HPLC−GPC分析により、より高分子量の不純物は、面積で約45%の割合と測定された。
【0025】
HPLC−RP分析
【表1】

【0026】
ローディング溶液中のプレプロインスリン含量を決定するため、分析されたサンプル中のプレプロインスリンのピーク面積を、対応する標準物質のピーク面積で割った。純度を決定するために、プレプロインスリンのピーク面積を、分析されたサンプル中の全ての溶出可能な物質のピーク面積の合計で割った。
【0027】
HPLC−GPC分析
【表2】

【0028】
より高分子量の物質の区分を測定するために、単量体プレプロインスリンの前に溶出させた全てのより高分子量の物質のピーク面積を、全ての溶出可能な物質のピーク面積の合計で割った。標準物質を用いて単量体プレプロインスリンの保持時間を決定した。
【0029】
実施例1
上述のプロセスの段階a、b、cおよびdが完了した後、以下のアミノ酸配列を有するプレプロインスリンの溶液を、適切に遺伝子操作されたE.coli細胞から得た:
Ala−Thr−Thr−Ser−Thr−Gly−Asn−Ser−Ala−Arg−Phe−Val−Asn−Gln−His−Leu−Cys−Gly−Ser−His−Leu−Val−Glu−Ala−Leu−Tyr−Leu−Val−Cys−Gly−Glu−Arg−Gly−Phe−Phe−Tyr−Thr−Pro−Lys−Thr−Arg−Arg−Glu−Ala−Glu−Asp−Pro−Gln−Val−Gly−Gln−Val−Glu−Leu−Gly−Gly−Gly−Pro−Gly−Ala−Gly−Ser−Leu−Gln−Pro−Leu−Ala−Leu−Glu−Gly−Ser−Leu−Gln−Lys−Arg−Gly−Ile−Val−Glu−Gln−Cys−Cys−Thr−Ser−Ile−Cys−Ser−Leu−Tyr−Gln−Leu−Glu−Asn−Tyr−Cys−Asn(配列番号2)。
【0030】
前記プレプロインスリンは、式1に相当し、式中、
Xは、サルのCペプチドの配列を含む35個のアミノ酸残基を有するペプチド鎖であり、
1は、配列:Ala−Thr−Thr−Ser−Thr−Gly−Asn−Ser−Ala−Arg(配列番号5)の10個のアミノ酸残基を有するペプチド鎖であり、
2は、アミノ酸残基Asnであり(ヒトインスリンのA鎖のA21と同一)、
A1〜A20は、ヒトインスリンのA鎖の配列を有する(A1〜A20のみ)ペプチド鎖であり、
B1〜B30は、ヒトインスリンのB鎖の配列を有するペプチド鎖である。
【0031】
主として、連続して配置された2つのクロマトグラフィーカラム、および、その間に配置された撹拌容器を含む装置を用いて、プレプロインスリン溶液を精製した。2つのカラムの間のライン上で溶液のpHを変化させるために、撹拌容器を用いた。
【0032】
第一のクロマトグラフィーカラムにおいて(製造元:ファルマシア(Pharmacia),直径:5cm)、ゲルベッド(ベッド高さ:14cm,ベッド体積:275ml)を、陰イオン交換樹脂DEAE−セファロース・ファスト・フロー(Sepharose
fast flow)(製造元:ファルマシア・バイオテク(Pharmacia Biotech);製品番号17−0709−05)を用いて製造した。カラムを上から下へ大気圧1barで稼動させた。流速は2000ml/hとした。多重バルブ、ローディングポンプ(Ismatec MV)、および、バブルトラップをカラムの上流に取り付けた。以下の溶液を連続的にカラムに多重バルブを介して送り出した:
8.1Lのローディング溶液、
2.3Lの置換用緩衝液、
1.4Lの洗浄緩衝液、
1.4Lの再生溶液、
2Lの平衡緩衝液。
【0033】
UVプローブ(275nm,データの記録を伴う)およびその他の多重バルブをカラムの下流に取り付けた。第二の多重バルブを介して、約10.2Lの透過液画分を上述の撹拌容器に導き、続いて、約1Lの洗浄画分を回収容器に導いた。残存した透過液を、多重バルブを介して生物学的廃棄物チャンネルに排出した。
【0034】
陰イオン交換クロマトグラフィーをフロースルー式で稼動させ、すなわち、価値のある物質のプレプロインスリンがゲルには結合せずに、生成物を適用する間に透過液と共にカラムを通過して洗浄されるような条件を選択した(pH8.3;伝導率=6.1mS/cm)。それに対して、汚染物質はゲルに吸着し、洗浄緩衝液と再生溶液で除去された。
【0035】
用いられた溶液は、以下の組成を有する:
【0036】
カラム1用の出発溶液:
【表3】

【0037】
カラム1および2のための再生溶液:
【表4】

【0038】
カラム1のための平衡緩衝液:
【表5】

【0039】
価値のある物質のプレプロインスリンを含む透過液分画、および、より高い分子量の不純物の大部分を含む洗浄分画をカラムアウトレットで回収した:
1.約10.2L 透過液画分
(生成物を置換する間、溶液ローディングの開始時はUV値20%から始め(上昇)、UV値35%にする(下降))
2.約1L 洗浄画分
(洗浄緩衝液のローディングの際はUV値30%から始め(上昇勾配)、UV値40%にする(下降))。
【0040】
その他全ての透過液を、生物学的廃棄物チャンネルに排出した。
【0041】
図1は、カラム1のアウトレットで測定されたUV図を示す。
【0042】
第一のカラムの透過液画分を、ライン上で中間に存在する容器(基準体積:4L,撹拌しながら,pHプローブおよびインレットチューブ)中で90%濃度の乳酸でpH3.5に調節し、次に、第二のクロマトグラフィーカラムに直接送り出した。
【0043】
第二のクロマトグラフィーカラム(製造元:ファルマシア,直径:5cm)において、ゲルベッド(ベッド高さ:10.5cm,ベッド体積:206ml)を、陽イオン交換樹脂Source30S(製造元:ファルマシア・バイオテク;製品番号17−1273−04)を用いて製造した。カラムを上から下へ大気圧1barで稼動させた。同様に流速は2000ml/hであった。多重バルブ、ローディングポンプ、および、バブルトラップをカラムの上流に取り付けた。以下の溶液を連続的にカラムに多重バルブを介して送り出した:
10.2L ローディング溶液(=カラム1の透過液分画,pH3.5に調節)
0.5L 置換用緩衝液当量
3.0L 溶出緩衝液A/B(等量のAおよびB)
2.3L 再生溶液
2L 平衡緩衝液。
【0044】
UVプローブ(275nm,データの記録を伴う)およびその他の多重バルブをカラムの下流に取り付けた。約1Lの主画分を、第二の多重バルブを介して回収容器に導いた。残存した透過液を多重バルブを介して生物学的廃棄物チャンネルに排出した。
【0045】
陽イオン交換体クロマトグラフィーを、吸着式で稼動させ、すなわち生成物を適用する間、価値のある物質のプレプロインスリンをゲルに吸着させ、(ローディング溶液を排出させた後)、溶出緩衝液A/Bを用いて再び脱離させた。最適な精製効果を達成するために、直線的に増加する塩化ナトリウム濃度勾配を、溶出緩衝液に適用した。
【0046】
用いられた溶液は、以下の組成を有する:
【0047】
カラム2用のローディング溶液:
【表6】

【0048】
カラム2用の置換用緩衝液:
【表7】

【0049】
カラム2用の溶出緩衝液A:
溶出緩衝液Aはカラム2用の置換用緩衝液と同一である。
【0050】
カラム2用の溶出緩衝液B:
【表8】

【0051】
カラム1および2用の再生溶液:
【表9】

【0052】
カラム2用の平衡緩衝液:
【表10】

【0053】
価値のある物質のプレプロインスリンを含む主要な画分をカラムアウトレットで回収した:
約1.0L 主画分
(溶出中、UV値65%から始め(上昇)、UV値76%(下降)にする)。
【0054】
その他全ての透過液を、生物学的廃棄物チャンネルに排出した。
【0055】
図2は、カラム2のアウトレットで測定されたUV図を示す。
【0056】
精製した溶液(カラム2の主要な画分)において、面積で純度が89%の15g/Lのプレプロインスリンを測定した(HPLC−RP分析)。収率は、出発溶液中のプレプロインスリンの量に基づき91%であった。面積でより高分子量の区分は、HPLC−GPC分析で0.2%と測定された。
【0057】
実施例2
上述のプロセスの段階a、b、cおよびdが完了した後、以下のアミノ酸配列を有するプレプロインスリンの溶液を、適切に遺伝子操作されたE.coli細胞から得た:
Ala−Thr−Thr−Ser−Thr−Gly−Asn−Ser−Ala−Arg−Phe−Val−Asn−Gln−His−Leu−Cys−Gly−Ser−His−Leu−Val−Glu−Ala−Leu−Tyr−Leu−Val−Cys−Gly−Glu−Arg−Gly−Phe−Phe−Tyr−Thr−Pro−Lys−Thr−Arg−Arg−Glu−Aia−Glu−Asp−Pro−Gln−Val−Gly−Gln−Val−Glu−Leu−Gly−Gly−Gly−Pro−Gly−Ala−Gly−Ser−Leu−Gln−Pro−Leu−Ala−Leu−Glu−Gly−Ser−Leu−Gln−Lys−Arg−Gly−Ile−Val−Glu−Gln−Cys−Cys−Thr−Ser−Ile−Cys−Ser−Leu−Tyr−Gln−Leu−Glu−Asn−Tyr−Cys−Gly(配列番号3)。
【0058】
前記プレプロインスリンは、式1に相当し、
式中、
Xは、サルのCペプチドの配列を含む35個のアミノ酸残基を有するペプチド鎖であり、
1は、配列:Ala−Thr−Thr−Ser−Thr−Gly−Asn−Ser−Ala−Arg(配列番号5)の10個のアミノ酸残基を有するペプチド鎖であり、
2は、アミノ酸残基Glyであり、
A1〜A20は、ヒトインスリンのA鎖の配列を有する(A1〜A20のみ)ペプチド鎖であり、
B1〜B30は、ヒトインスリンのB鎖の配列を有するペプチド鎖である。
【0059】
プレプロインスリン溶液を、主として、連続して配置された2つのクロマトグラフィーカラム、および、その間に配置された撹拌容器を含む装置を用いて再び精製した。撹拌容器を用いて、2つのカラムの間で溶液のpHを変化させた。第二のクロマトグラフィー段階の装置は、圧力の安定性のために設計された。
【0060】
実施例1で説明した通りに、カラム1のクロマトグラフィーと、中間に存在する容器でのpH切り替えを行った(従って、ここでの説明および値は省略する)。
【0061】
第二のクロマトグラフィーカラム(製造元:プロクロム(Prochrom),直径:5cm,材質:ステンレス鋼)において、ゲルベッド(ベッド高さ:10cm,ベッド体積:196ml)を、陽イオン交換体Source30S(製造元:ファルマシア・バイオテク;製品番号:17−1273−04)を用いて製造した。このカラムを、上から下へ、稼動圧力10barで稼動させた。流速は、3500ml/hであった。多重バルブ、ローディングポンプ(製造元:ベスタ(Besta);タイプ:HD2−300)をカラムの上流に取り付けた。以下の溶液を連続的にカラムに多重バルブを介して送り出した:
10.2L ローディング溶液(=カラム1の透過液分画,pH4.6に調節)
0.5L 置換用緩衝液
3.0L 溶出緩衝液A/B(等量のAおよびB)
2.3L 再生溶液
2L 平衡緩衝液。
【0062】
UVプローブ(275nm,データの記録を伴う)およびその他の多重バルブをカラムの下流に取り付けた。精製したプレプロインスリンを含む主画分を、第二の多重バルブを介して回収容器に導いた。残存した透過液を多重バルブを介して生物学的廃棄物チャンネルに排出した。
【0063】
陽イオン交換体クロマトグラフィーを、吸着式で稼動させ、すなわち生成物を適用する間、価値のある物質のプレプロインスリンをゲルに吸着させ、(ローディング溶液を排出させた後)、溶出緩衝液A/Bを用いて再び脱離させた。最適な精製効果を達成するために、直線的に増加する塩化ナトリウム濃度勾配を、溶出緩衝液に適用した。
【0064】
用いられた溶液は、以下の組成を有する:
【0065】
カラム2用のローディング溶液:
【表11】

【0066】
カラム2用の置換用緩衝液:
【表12】

【0067】
カラム2用の溶出緩衝液A:
溶出緩衝液Aは、カラム2用の置換用緩衝液と同一である。
【0068】
カラム2用の溶出緩衝液B:
【表13】

【0069】
カラム1および2用の再生溶液:
【表14】

【0070】
カラム2用の平衡緩衝液:
【表15】

【0071】
価値のある物質のプレプロインスリンを含む主画分をカラムアウトレットで回収した:
約0.9L 主画分(溶出中、UV値65%から始め(上昇)、UV値76%(下降)にする)
その他全ての透過液を、生物学的廃棄物チャンネルに排出した。
【0072】
精製した溶液(カラム2の主画分)において、17g/Lのプレプロインスリンは、面積で純度が93%であると測定した(HPLC−RP分析)。収率は、出発溶液中のプレプロインスリンの量に基づき92%であった。より高分子量の区分は、HPLC−GPC分析で面積で<0.1%と測定された。
【0073】
実施例3
上述のプロセスの段階a、b、cおよびdが完了した後、以下のアミノ酸配列を有するプレプロインスリンの溶液を、適切に遺伝子操作されたE.coli細胞から得た:
Ala−Thr−Thr−Ser−Thr−Gly−Asn−Ser−Ala−Arg−Phe−Val−Lys−Gln−His−Leu−Cys−Gly−Ser−His−Leu−Val−Glu−Ala−Leu−Tyr−Leu−Val−Cys−Gly−Glu−Arg−Gly−Phe−Phe−Tyr−Thr−Pro−Glu−Thr−Arg−Asp−Val−Pro−Gln−Val−Glu−Leu−Gly−Gly−Gly−Pro−Gly−Ala−Gly−Ser−Leu−Gln−Pro−Leu
−Ala−Leu−Glu−Gly−Ser−Leu−Gln−Lys−Arg−Gly−Ile−Val−Glu−Gln−Cys−Cys−Thr−Ser−Ile−Cys−Ser−Leu−Tyr−Gln−Leu−Glu−Asn−Tyr−Cys−Asn(配列番号4)。
【0074】
前記プレプロインスリンは、式1に相当し、
式中、
Xは、配列:Arg−Asp−Val−Pro−Gln−Val−Glu−Leu−Gly−Gly−Gly−Pro−Gly−Ala−Gly−Ser−Leu−Gln−Pro−Leu−Ala−Leu−Glu−Gly−Ser−Leu−Gln−Lys−Arg(配列番号1)の29個のアミノ酸残基を有するペプチド鎖であり、
1は、配列:Ala−Thr−Thr−Ser−Thr−Gly−Asn−Ser−Ala−Arg(配列番号5)の10個のアミノ酸残基を有するペプチド鎖であり、
2は、アミノ酸残基Asn(ヒトインスリンのA鎖のA21)であり、
A1〜A20は、ヒトインスリンのA鎖の配列を有する(A1〜A20のみ)ペプチド鎖であり、
B1〜B30は、ヒトインスリンのB鎖と類似した配列を有する、すなわちB3位のValをLysで置換し、B29位のLysをGluで置換したペプチド鎖である。
【0075】
実施例1で用いたのと同じ装置を用いてプレプロインスリン溶液を精製した。
【0076】
この時、カラム1のクロマトグラフィーには、陰イオン交換樹脂Source30Q(製造元:ファルマシア・バイオテク;製品番号:17−1275−04)が用いられた。このゲルの再生には、実施例1および2と比べて2倍量の再生溶液が必要であった。第一のクロマトグラフィーの残りのパラメーター、例えば溶液の組成と量は、実施例1および2で説明されたのと同じである。
【0077】
同様に、中間に存在する容器でpH切り替えを実施例1で説明された通りに行った。
【0078】
ここで、第二のクロマトグラフィーを稼動圧力15barで行った。第二のクロマトグラフィーのその他全てのパラメーターは、実施例2で説明されたのと同一である。
【0079】
精製した溶液(カラム2の主画分)において、17g/Lのプレプロインスリンの純度は、面積で92.5%であると測定された(HPLC−RP分析)。収率は、出発溶液中のプレプロインスリンの量に基づき91%であった。より高分子量の区分は、HPLC−GPC分析で面積で<0.1%と測定された。
【0080】
変性分析
変性分析(表1)により、フォールディング反応中に生産されたより高分子量のポリマー状のプレプロインスリンが、天然インスリンの変性を誘導できることを示す。
【0081】
変性分析において、実施例2で説明されたプレプロインスリンを酵素で切断することによって得られる未変性のインスリングラルギン(アベンティス・ドイツ社(Aventis Deutschland GmbH)製品)を結晶化した。驚くべきことに、我々は、インスリングラルギンの結晶化条件下(pH6.1、および、26℃)で、インスリンの変性を誘導し得る物質を結晶化混合物に加えると未変性インスリンの変性が起こることを、全実験において示すことができた。
【0082】
以下の組成の、結晶化混合物用の標準溶液を製造した:
インスリングラルギン 5g/L
クエン酸 5.2ミリモル/L
塩化亜鉛 3ミリモル/L
塩化ナトリウム 0.5g/L
n−プロパノール 7 %(v/v)
純水で500mlにし、
1N塩酸を用いて、pH3にした。
【0083】
この溶液を孔の幅が0.1μmのメンブレンフィルターでろ過した。
【0084】
変性分析において、この酸性の標準溶液を様々な分析物質の溶液と混合した:除去されたポリマー状のプレプロインスリンを濃度5g/Lで含むカラム1の洗浄画分、または、精製したプレプロインスリンをそれぞれ15および17g/L濃度で含むカラム2の主画分。インスリンの変性により観察された現象が引き起こされるというさらなる証拠のために、0.1%濃度のポロキサマー(Poloxamer)171のストック水溶液(10ml)を加えた。ポロキサマー171は、疎水性界面でインスリンの変性を抑制することがわかっている(H.Thurow and K.Geisen,Diabetologia(1984年)27,212〜218、および、EP0 018 609)。
【0085】
次に、この溶液を26℃に加熱し、10%濃度の水酸化ナトリウム溶液で撹拌しながらpH6.1に調節し、無晶性インスリンの沈殿を得た。この無晶性の懸濁液を26℃で50時間撹拌した。この後、全ての混合物は、インスリン結晶を含んでいた。
【0086】
この混合物を、バックグラウンドにおける、または、インスリン結晶間の無晶性粒子(膜)の外観を顕微鏡下で観察してサンプルを評価することによって分析した。加えて、それぞれの混合物を、ほぼ同じ量で2つに分けた。沈降の挙動を調べるために、第一の部分を250mlの測定シリンダーに導入し、この混合物を室温で60分間放置した後、沈殿物量と上清の透明度を評価した。第二の部分を1N塩酸でpH3に調節し、インスリン結晶が溶解した後、生じた溶液の透明度を評価した。
【0087】
表1は、変性分析の結果を示す。ポリマー分画を添加しなかったコントロールサンプル174A、および、188Aでは、変性は観察されなかった。顕微鏡下で、透明なバックグラウンドに対して結晶を目視できた。60分後、この結晶を沈殿させ、凝縮された沈殿物と透明な上清が生じた。この結晶をpH3で溶解させた後、透明な溶液が生成した。それに対して、サンプル174B、188B、および、174Cは、いずれの場合もそれぞれ1mlおよび5mlのポリマー画分が結晶化混合物に添加されており、これらは、インスリングラルギンの明らかな変性を示した。顕微鏡下で、結晶間に無晶性の膜を目視できた。沈降分析において、多量の沈殿物が生成し、それにおいて沈殿物量は、50〜90ml(結晶懸濁液250mlより)であった。結晶をpH3で再溶解させた後、程度の差はあるが不透明な無晶性の懸濁液が生成した。20ppmのポロキサマー171の存在下では、1mlのポリマー溶液(188C)の添加による変性は観察されなかった。同様に、精製したプレプロインスリン(実施例1、2および3のカラム2の主画分)と混合した分析混合物174D、174E、および、174Fにおいては、インスリンのグラルギンの変性は観察されなかった。
【0088】
ヒトインスリンを結晶化した類似の変性分析でも、同様の結果が得られた(ここには示さず)。
【0089】
【表16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1:
【化1】

(式中、Xは、
a)遺伝学的にコード可能なアミノ酸残基、または、
b)2〜35個のアミノ酸残基を有するペプチドであり、ここで、最初と最後がいずれの場合も塩基性アミノ酸残基(特にArg)であり、そして、3個より多いアミノ酸残基からなる場合、最初と最後がいずれの場合も2個の塩基性アミノ酸残基(特にArgおよび/またはLys)
であり、
1は、
a)水素、
b)遺伝学的にコード可能なアミノ酸残基、または、
c)2〜15個のアミノ酸残基を有するペプチド
であり、
2は、遺伝学的にコード可能なアミノ酸残基であり、そして、
残基A1〜A20は、ヒトインスリンのA鎖またはインスリン類似体のアミノ酸配列に対応し、残基B1〜B30は、ヒトインスリンのB鎖またはインスリン類似体のアミノ酸配列に対応する)
で示されるプレプロインスリンのクロマトグラフィー精製方法であって、プレプロインスリンの水溶液から、フロースルー式の陰イオン交換体での第一のクロマトグラフィー、および、それに続く吸着式の陽イオン交換体での第二のクロマトグラフィーによってより高分子量の物質が除去される、上記の方法。
【請求項2】
プレプロインスリンは、以下のアミノ酸配列:
Ala−Thr−Thr−Ser−Thr−Gly−Asn−Ser−Ala−Arg−Phe−Val−Asn−Gln−His−Leu−Cys−Gly−Ser−His
−Leu−Val−Glu−Ala−Leu−Tyr−Leu−Val−Cys−Gly−Glu−Arg−Gly−Phe−Phe−Tyr−Thr−Pro−Lys−Thr−Arg−Arg−Glu−Ala−Glu−Asp−Pro−Gln−Val−Gly−Gln−Val−Glu−Leu−Gly−Gly−Gly−Pro−Gly−Ala−Gly−Ser−Leu−Gln−Pro−Leu−Ala−Leu−Glu−Gly−Ser−Leu−Gln−Lys−Arg−Gly−Ile−Val−Glu−Gln−Cys−Cys−Thr−Ser−Ile−Cys−Ser−Leu−Tyr−Gln−Leu−Glu−Asn−Tyr−Cys−Asn(配列番号2)
を有する、式1で示される遺伝子操作されたプレプロインスリンのクロマトグラフィー精製方法。
【請求項3】
プレプロインスリンは、以下のアミノ酸配列:
Ala−Thr−Thr−Ser−Thr−Gly−Asn−Ser−Ala−Arg−Phe−Val−Asn−Gln−His−Leu−Cys−Gly−Ser−His−Leu−Val−Glu−Ala−Leu−Tyr−Leu−Val−Cys−Gly−Glu−Arg−Gly−Phe−Phe−Tyr−Thr−Pro−Lys−Thr−Arg−Arg−Glu−Ala−Glu−Asp−Pro−Gln−Val−Gly−Gln−Val−Glu−Leu−Gly−Gly−Gly−Pro−Gly−Ala−Gly−Ser−Leu−Gln−Pro−Leu−Ala−Leu−Glu−Gly−Ser−Leu−Gln−Lys−Arg−Gly−Ile−Val−Glu−Gln−Cys−Cys−Thr−Ser−Ile−Cys−Ser−Leu−Tyr−Gln−Leu−Glu−Asn−Tyr−Cys−Gly(配列番号3)
を有する、式1で示される遺伝子操作されたプレプロインスリンのクロマトグラフィー精製方法。
【請求項4】
プレプロインスリンは、以下のアミノ酸配列:
Ala−Thr−Thr−Ser−Thr−Gly−Asn−Ser−Ala−Arg−Phe−Val−Lys−Gln−His−Leu−Cys−Gly−Ser−His−Leu−Val−Glu−Ala−Leu−Tyr−Leu−Val−Cys−Gly−Glu−Arg−Gly−Phe−Phe−Tyr−Thr−Pro−Glu−Thr−Arg−Asp−Val−Pro−Gln−Val−Glu−Leu−Gly−Gly−Gly−Pro−Gly−Ala−Gly−Ser−Leu−Gln−Pro−Leu−Ala−Leu−Glu−Gly−Ser−Leu−Gln−Lys−Arg−Gly−Ile−Val−Glu−Gln−Cys−Cys−Thr−Ser−Ile−Cys−Ser−Leu−Tyr−Gln−Leu−Glu−Asn−Tyr−Cys−Asn(配列番号4)
を有する、式1で示される遺伝子操作されたプレプロインスリンのクロマトグラフィー精製方法。
【請求項5】
インスリンの変性を誘導するプレプロインスリン溶液から外来物質を分離するための、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
第二のクロマトグラフィーは、pH3.0〜5.5で行われる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
第二のクロマトグラフィーは、圧力1〜30barで行われる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
フォールディングされていないプレプロインスリンを発現することによってインスリンを製造する方法であって、
a)フォールディングされていないプレプロインスリンを発現する遺伝子操作された微生物を発酵させる工程、
b)上記微生物を回収し、細胞を崩壊させる工程、
c)未溶解のフォールディングされていないプレプロインスリンを含む封入体を単離する工程、
d)ペプチド鎖が正しくフォールディングしたプレプロインスリンを溶解させ、同時に、ジスルフィド架橋を連結させ、プレプロインスリンを得て、続いて請求項1〜7に記載の方法を行う工程、
e)プレプロインスリンを酵素で切断し、ヒトインスリンを得る工程、
f)ヒトインスリンを精製する工程、
g)ヒトインスリンを結晶化し、乾燥させる工程、
を含む、上記の方法。

【公表番号】特表2006−513978(P2006−513978A)
【公表日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−525238(P2004−525238)
【出願日】平成15年7月18日(2003.7.18)
【国際出願番号】PCT/EP2003/007820
【国際公開番号】WO2004/013176
【国際公開日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【出願人】(397056695)サノフィ−アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (456)
【Fターム(参考)】