説明

プレプロVIC遺伝子

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、マウスのプレプロVICポリペプチドの遺伝情報を担うDNA断片、該DNA断片が組み込まれたプラスミドベクター、該プラスミドベクターにより形質転換された形質転換微生物及び該形質転換微生物を用いてプレプロVICを生産する方法に関する。
〔従来の技術〕
VICはVasoactive intestinal contractor(血管作動性腸管収縮因子)の略で、従来エンドセリンβ(ETβ)(特願昭63−228839号)と呼ばれていたものであるが、その後の研究で、VICは血管内皮細胞(エンドセリアル セル)が産生する物質ではなく、腸組織が産生する物質であることがわかり、エンドセリンβ(ETβ)はVICと改名されたものである(J.B.C.264,14613〜14616,1989)。
このVICは血管収縮作用及び腸を収縮させる作用を有しており、本発明者等は先にこのVICの成熟ペプチド、及びその前駆体ペプチド並びにこれらをコードするDNAについて特許出願し(特願昭63−228839号)、また、VICを有効成分とする整腸剤について特許出願している(特願平1−109797号)。
〔発明が解決しようとする課題〕
しかしながら、上記VICの前駆体ペプチドは、その前駆体部分の一部の構造を有するものであり、VIC前駆体の全構造を有するポリペプチドをコードするDNAは得られていなかった。そこで本願発明の課題は、VIC前駆体のポリペプチドの全構造をコードするDNAを取得し、さらに遺伝子組換え手段を用いてプレプロVICを大量生産することにある。
〔課題を解決するための手段〕
本発明者等は、マウス腸のcDNAライブラリーを作成し、これを用いて初めてマウスのプレプロVICポリペプチドの遺伝情報を担い、VIC前駆体ポリペプチドの全構造をコードするDNA(以下、単にプレプロVIC遺伝子という。)を単離することに成功し、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は、1.下記の制限酵素切断地図で表され、マウスのプレプロ血管作動性腸管収縮因子(VIC)ポリペプチドの遺伝子情報を担い、かつ1.4kbの塩基対を有するDNA断片。


2.下記の塩基配列を含有する上記1記載のDNA断片。


3.下記のアミノ酸配列をコードするマウスのプレプロVIC遺伝子DNA断片。


4.下記の塩基配列を含むマウスのプレプロVIC遺伝子DNA断片。


5.上記1〜4いずれか記載のDNA断片を連結せしめたプラスミドベクター。
6.宿主微生物を上記5記載のプラスミドベクターにより形質転換して得られた形質転換微生物。
7.宿主微生物が大腸菌である上記6記載の形質転換微生物。
8.上記6又は7記載の形質転換微生物を培養することを特徴とするプレプロVICペプチドの生産方法。
に関するものである。
以下、本発明を詳述する。
(1)cDNAライブラリーの作成 まず、本発明においては、cDNAライブラリーを作成する。すなわちマウスの腸から抽出したmRNA(Chirgwin et al.,Biochemistry,18,5291−5299(1979))を鋳型として常法に従い作成する(Maniatis et al.,In:Molecular Cloning:A Laboratory Mannual,p230−241,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York(1982))。本発明で用いるmRNAは、Poly(A)+RNA(Poly(A)を含むmRNA)と同一の意味である。
mRNAを抽出する採取源としては、一般的に生きたマウスから分離した腸或いは分離直後に凍結して保存しておいたものであればいずれのものでもよく、特に限定するものではない。又、cDNAライブラリー作成にあたっては、一般的に行われている方法に準拠して行えばよく、mRNAの調製に関しては、例えばキィルグウィン(Chirgwin)らの方法(Biochemistry,18,5291−5299(1979))又、mRNAからcDNAライブラリー作成方法に関してはマニアティス(Maniatis)らの方法(In:Molecular Cloning:A Laboratory Mannual,p230−241,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harver,New York(1982))やオカヤマ−バークの方法(Okayama et al.,Mol.Cell.Biol.,2,161(1982))がその例となる。
その1例を具体的に説明すると、前記マウスの腸からmRNA(Poly(A)+RNA)を得た後、このmRNAを鋳型とし、オリゴ(dT)をプライマーとして、cDNAを合成する。
次いで、このcDNAを、例えばファージのDNA、λgt10等のベクターに組み込み、これをインビトロパッケージングしてcDNAライブラリーを作成するものである。
(2)スクリーニング 次いで、上記ファージライブラリーを大腸菌とともに適当な培地プレートにまき、プラークを形成せしめた後、VIC遺伝子の少なくとも1部分の配列を有するプローブを使用してプラークハイブリダイゼーションによりポジデイブなファージを単離する。
本発明の場合、このようなスクリーニングの結果、得られたファージ10個あり、これらファージのうち1.4kb程度フラグメントを有するファージ(pmVIC cDNA)から目的のプレプロVICcDNAを得た。このプレプロVIC遺伝子をベクターpUC18に連結したプラスミド(pmVICcDNA)の制限酵素地図を第1図に示す。
該プラスミドは、大腸菌HB101を形質転換し(Escherichia coli HB101/pm VIC cDNA)、微工研菌寄第11209号として寄託している。
(3)DNAの塩基配列決定 スクリーニングされたcDNAの塩基配列の分析は、常法によって分析が可能である。例えば、得られたcDNAからいくつかのcDNAフラグメントを作成し、一般に広く利用されているジデオキシ法(Sanger et al.,Proc.Natl.Acad.Sel.USA.,73,5463(1977))やマキサムギルバート法(Maxma et al.,Methods Enzymol.,85,499−580(1980))等によって各々の塩基配列を解析し、総合的に分析することで全配列を決定することができる。
この構造解析によって、プレプロVIC中にVICとともにVICと類似する新しいペプチドVLP(VIC−like peptide)が存在することが明らかとなった。第5図に、マウス染色体VIC遺伝子と転写されたプレプロVICmRNAにおけるVICとVLPの位置を示す。
(4)形質転換及びプレプロVICの生産 更に、本発明においては、得られたプレプロVIC遺伝子を適当な発現ベクターに連結し、これを用いて宿主微生物を形質転換する。宿主としては、例えば大腸菌HB101等を挙げることができ、その形質転換手段自体には特に限定されず、常法により行えば良い。
得られた形質転換微生物は適当な培地で培養して、プレプロVICポリペプチドを産生せしめることができる。
〔発明の効果〕
本発明により、プレプロVICの遺伝情報を担う、VIC前駆体ポリペプチドの全構造をコードするDNAを単離し、かつその構造を決定したことにより、遺伝子工学的手段を適用し、プレプロVICの大量生産が可能となるほか、VIC遺伝子と類似の塩基配列を有するDNA、例えばエンドセリン遺伝子と明確に区別できる遺伝子プローブを作成することも可能となる。また、さらにプレプロエンドセリン蛋白質などと明確に区別できる抗体を作成することも可能となり、平滑筋収縮の分子レベルで研究等にも利用できる。
したがって本発明は、医療、医薬品産業等において大いに貢献するものである。
〔実施例〕
実施例1(1)mRNAの調製 摘出後すぐに液体窒素中で凍結させ、−80℃で保存しておいたマウスの腸(10g)をワーリングブレンダーを用いて液体窒素の中で粉砕した。得られた組織粉末を80mlのグアニジンチオシアネート(4Mグアニジンチオシアネート、63mM クエン酸ナトリウム、1.27% N−ラウロイルサルコシン、0.1M 2−メルカプトエタノールを含むpH7.0)に加えて激しく攪拌し、ポッターのホモジナイザーでホモジナイズした後、1000×g、10分間遠心分離した。
上清に塩化セシウムを2.5ml当り1gの割合で添加して溶解し、更にホモジナイズし、19G注射針を通してDNAを短く切断した。次いで0.1M EDTAを含む5.7M塩化セシウム溶液pH7.0を10mlずつ4本の遠心チューブ(日立40PA)に分注し、この溶液の上に得られたホジネートを重層し、日立スウィングローターSRP28に遠心チューブをセットし、日立製遠心機にて27,000rpm、20℃で20時間遠心分離を行った。得られた沈澱を75%エタノール溶液で2回洗浄した後、少量の水に溶解して回収し、1/20容の3M酢酸ナトリウムpH5.2と2倍容のエタノールを添加して−20℃で1時間放置しRNAを沈澱させた。再び少量の水に溶解して同様にしてエタノール沈澱を行いtotal RNAを得た。total RNA(2.5mg)を約6mlの0.5M KClを含む10mM Tris−HCl緩衝液pH7.5に溶解し、同じ緩衝液で平衡化されたオリゴ(dT)セルロースカラム(1×4cm)に流してPoly(A)+RNAをカラムに吸着させ、10mM Tris−HCl緩衝液pH7.5にて溶出させた。その後Poly(A)+RNAを含む画分を集めてエタノール沈澱を行い、70%エタノール溶液中−20℃で保存した。この場合、1.0mgのtotal RNAより約100μgのPoly(A)+RNAが得られた。
(2)DNAライブラリーの作製 このようにして得たPoly(A)+RNA(mRNA)を鋳型(テンプレート)とし、オリゴ(dT)12-18(ファルマシア)をプライマーとしてcDNAを合成させ、これをベクターλgt10に組み込みcDNAライブラリーを作製した。λgt10(アマシャムから購入)は制限酵素EcoR Iにより切断サイトを1ヵ所もつ43.34kbのDNAである。これに上記のcDNAをT4ファージ由来のDNAリガーゼ(宝酒造社製)によって10℃、24時間DNA鎖の連結反応を行い、組み込んでインビトロパッケージング法(インビトロ・パッケージング キット(アマシャム・インターナショナル社製)を使用により得られた形質導入ファージ粒子を調整した。40μgのcDNAより約1000万個のファージが得られた。
(3)プレプロVIC遺伝子の単離 (2)のようにして作製したcDNAライブラリーを大腸菌NM514と培養し、プラークを形成せしめ、それからニトロセルロースフィルターにレプリカをとり、フィルターを0.5N NaOH/1.5M NaClでしめらせてアルカリ処理(5分間、2回)した後、1M Tris−HCl pH7.4、更に0.5M Tris−HCl pH7.4/1.5M NaClで処理し、風乾させた後、80℃で2時間ベーキングし、DNAをニトロセルロースに固定した。
固定化されたニトロセルロースフィルターは、3×SSC/0.1%SDS溶液中で70℃、30分間2回処理し、細胞残査を十分に取り抜き、4×SSC/10×Denhardt溶液/0.1mg/mlサケ精子DNAを含む溶液中で60℃、1時間プレハイブリダイゼーションを行った。
既に得ているVIC遺伝子の一部mVIC Pst I−BamH I 0.4kbをニックトランスレーション法(ベーリンガーマンハイム社製,ニックトランスレーションキット使用)を用いて、α−32P−dCTPで標識し、1ml当り1.2×106cpmになるようにハイブリダイゼーション液を調製し、60℃で10分間インキュベートした後、室温で18時間ハイブリダイゼーションを行った。ニトロセルロースフィルターは、4×SSC/0.1%SDS/0.2%ピロリン酸ナトリウム溶液で室温10分間2回洗浄し、更に30℃で15分間2回洗浄後、フィルターを風乾させ、オートラジオグラフィーを行った。
このようにしてスクリーニングした結果、目的のプレプロVIC遺伝子を得た。
このようなスクリーニングにより、上記プローブにポジティブなファージを10コ単離した。そのファージを5ml培養し、DNAを抽出してEcoR Iで消化し、電気泳動してVICのcDNA断片を切り出した。10種のDNAのうち1.4kbの長さを有する断片をpUC18ベクターのEcoR Iサイトに連結した後、この組換えプラスミドにより大腸菌HB101を形質転換した。
次いで、この大腸菌を培養後、プラスミドを抽出し制限酵素EcoR Iで切断し、得られたDNA断片を電気泳動にかけ1.4kbpの目的とするプレプロVIC遺伝子を大量に得た。該プレプロVIC遺伝子を有するプラスミド(pmVIC cDNA)を有する形質転換体は、Esherichia coli HB101/pmVIC cDNA(微工研菌寄第11209号)として寄託されている。
(cDNA塩基配列決定)
上記工程で得られたプレプロVIC遺伝子の構造解析をジデオキシ法により行った。この塩基配列及びアミノ酸配列を第5図に示す。
【図面の簡単な説明】
第1図は、ベクターpUC18にクローニングされている挿入cDNA(1.4kb)の制限酵素地図、第2図は、マウスの腸管収縮ペプチドVICのプレプロ体のcDNAをクローニングした分離のスキーム、第3図は、マウスの染色体のVIC遺伝子と転写されたmRNA中のVIC及びVLPVIC−Like Peptide)の位置を示す図、第4図は、VLPをコードする塩基配列及び対応するアミノ酸配列を示す図、第5図は、マウスのプレプロVIC遺伝子の塩基配列及び対応するアミノ酸配列を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】下記の制限酵素切断地図で表され、マウスのプレプロ血管作動性腸管収縮因子(VIC)ポリペプチドの遺伝子情報を担い、かつ1.4kbの塩基対を有するDNA断片。


【請求項2】下記の塩基配列を含有する請求項1記載のDNA断片。


【請求項3】下記のアミノ酸配列をコードするマウスのプレプロVIC遺伝子DNA断片。


【請求項4】下記の塩基配列を含むマウスのプレプロVIC遺伝子DNA断片。


【請求項5】請求項1〜4いずれか記載のDNA断片を連結せしめたプラスミドベクター。
【請求項6】宿主微生物を請求項5記載のプラスミドベクターにより形質転換して得られた形質転換微生物。
【請求項7】宿主微生物が大腸菌である請求項6記載の形質転換微生物。
【請求項8】請求項6又は7記載の形質転換微生物を培養することを特徴とするプレプロVICペプチドの生産方法。

【第1図】
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【第3図】
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【第2図】
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【第4図】
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【第5図】
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【特許番号】特許第3051904号(P3051904)
【登録日】平成12年4月7日(2000.4.7)
【発行日】平成12年6月12日(2000.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−168535
【出願日】平成2年6月28日(1990.6.28)
【公開番号】特開平6−169774
【公開日】平成6年6月21日(1994.6.21)
【審査請求日】平成2年6月28日(1990.6.28)
【審判番号】平7−6680
【審判請求日】平成7年3月30日(1995.3.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成1年11月29日 日本分子生物学会開催の「第12回日本分子生物学会年会」において文書をもって発表
【微生物の受託番号】 FERM P−11209
【出願人】(999999999)工業技術院長
【指定代理人】
【識別番号】999999999
【氏名又は名称】 999999999 工業技術院生命工学工業技術研究所長
【合議体】
【参考文献】
【文献】J.Biol Chem.1989[264]p.14613−14616