説明

プレミックスモルタル組成物及びプレミックス無収縮モルタル組成物

【課題】ポリカルボン酸塩系減水剤を使用したプレミックスモルタル組成物及びプレミックス無収縮モルタル組成物を長期間保管しても、流動性の低下と流動保持性の低下とを抑制できるプレミックスモルタル組成物及びプレミックス無収縮モルタル組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】(A)セメント、(B)骨材、(C)ポリカルボン酸塩系減水剤及び(D)炭酸カルシウム粉末を含むプレミックスモルタル組成物、(A)セメント、(B)骨材、(C)ポリカルボン酸塩系減水剤、(D)炭酸カルシウム粉末及び(E)膨張材を含むプレミックス無収縮モルタル組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木・建築分野で使用されるモルタル組成物、特に、モルタル組成物製造後から工事現場で使用されるまでの保管期間を経ても、製造直後と同等の品質が維持されるプレミックスモルタル組成物及びプレミックス無収縮モルタル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水硬性結合材としてセメントを使用する水硬性組成物(ペースト、モルタル又はコンクリート)を製造する際には、単位水量を低減させたり、軟度を増大させるために減水剤が配合されている。プレミックス無収縮モルタル組成物等のプレミックスモルタル組成物には、優れた流動性が求められており、従来、流動性を高める減水剤として、粉末のナフタレンスルホン酸塩系減水剤が使用されている。
【0003】
プレミックス無収縮モルタル組成物等のプレミックスモルタル組成物は、通常、現場まで乾燥粉体として輸送され、施工作業直前に現場で水と練り混ぜて使用される。このため、プレミックス無収縮モルタル組成物等のプレミックスモルタル組成物が乾燥粉体として製造されてから実際に現場で使用されるまでの間に、長期間の保管が必要となる場合がある。しかし、従来のプレミックスモルタル組成物を長期間保管すると、品質劣化してしまうという問題があった。
【0004】
そこで、長期間保管後も製造直後の品質を維持するために、発泡剤として所定の粒度分布を有する金属アルミニウム類を所定量配合した無収縮モルタル組成物(特許文献1)や、セメントとBET比表面積が5〜25m2/gの微粉末とを含有してなるプレミックスセメント組成物を長期間保管できるポリオレフィンフィルム(特許文献2)が提案されている。
【0005】
一方、ナフタレンスルホン酸塩系減水剤はシックハウス症候群の原因物質と疑われており、代替の減水剤を使用することが求められている。そこで、例えば、モルタル組成物を使用したグラウトの流動性を向上させる代替の減水剤として、ポリカルボン酸塩系減水剤を使用することが提案されている。
【0006】
ポリカルボン酸塩系減水剤がプレミックスされた場合、プレミックス無収縮モルタル組成物等のプレミックスモルタル組成物の製造直後に水と混練すると、流動性等の著しい低下は見られない。しかし、プレミックス無収縮モルタル組成物等のプレミックスモルタル組成物を長期保管した後に水と混練すると、流動性等が低下してセメント硬化体の品質と施工性が著しく劣化するという問題があった。従来、ポリカルボン酸塩系減水剤を配合したプレミックス無収縮モルタル組成物等のプレミックスモルタル組成物の長期保管後の流動性等は、成分を適宜選択し、該成分の配合量を適宜調整することによって若干の改善が見られた。しかし、十分とは言えなかった。また、優れた防湿性を有する容器に、ポリカルボン酸塩系減水剤を配合したプレミックス無収縮モルタル組成物を保管しても、やはり長期保管後の流動性等の低下を防ぐことはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−328856号
【特許文献2】特開2009−132545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、ポリカルボン酸塩系減水剤を配合して長期間保管しても、流動性の低下と流動保持性の低下とを抑制できるプレミックスモルタル組成物を提供すること、及びポリカルボン酸塩系減水剤を配合して長期間保管しても、流動性の低下と流動保持性の低下とを抑制できるプレミックス無収縮モルタル組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、(A)セメント、(B)骨材、(C)ポリカルボン酸塩系減水剤及び(D)炭酸カルシウム粉末を含むことを特徴とするプレミックスモルタル組成物である。すなわち、上記態様のプレミックスモルタル組成物は、減水剤としてシックハウス症候群の原因物質ではないポリカルボン酸塩系粉末を配合し、長期保管後の流動性及び流動保持性を向上させるために炭酸カルシウム粉末を配合した粉体である。
【0010】
本発明の第2の態様は、(A)セメント、(B)骨材、(C)ポリカルボン酸塩系減水剤、(D)炭酸カルシウム粉末及び(E)膨張材を含むことを特徴とするプレミックス無収縮モルタル組成物である。すなわち、上記態様のプレミックス無収縮モルタル組成物は、第1の態様のプレミックスモルタル組成物に、無収縮性を付与させるために膨張材を配合した粉体である。なお、本明細書では、無収縮モルタルとは、土木学会基準「充てんモルタルのブリーディング率および膨張率試験方法(容器方法)(JSCE-F 542-1999)」により測定した膨張率が、0.01%以上〜2.0%以内であるものとする。また、本明細書では、「流動性」とは、プレミックスモルタル組成物やプレミックス無収縮モルタル組成物が水と混練された直後の流動性を意味し、「流動保持性」とは、プレミックスモルタル組成物やプレミックス無収縮モルタル組成物が水と混練された後所定時間経過した時の流動性を意味する。また、前記「流動性」と「流動保持性」とを含めて「流動性等」ということがある。
【0011】
また、本発明の第3の態様は、前記(D)炭酸カルシウム粉末は、最大粒径が45μm以下であることを特徴とするプレミックス無収縮モルタル組成物である。本発明の第4の態様は、前記(A)セメント100質量部に対して2〜8質量部の前記(D)炭酸カルシウム粉末を含むことを特徴とするプレミックス無収縮モルタル組成物である。本発明の第5の態様は、さらに、(F)発泡剤及び(G)シリカフュームを含むことを特徴とするプレミックス無収縮モルタル組成物である。本発明の第6の態様は、前記(E)膨張材が、カルシウムサルフォアルミネート系膨張材と石灰系膨張材の混合物であることを特徴とするプレミックス無収縮モルタル組成物である。本発明の第7の態様は、前記(E)膨張材中における前記カルシウムサルフォアルミネート系膨張材の含有量が、25〜75質量%であることを特徴とするプレミックス無収縮モルタル組成物である。本発明の第8の態様は、前記(F)発泡剤が、アルミニウム粉末、スルホニルヒドラジド化合物、アゾ化合物及びニトロソ化合物からなる群から選択された少なくとも1種であることを特徴とするプレミックス無収縮モルタル組成物である。本発明の第9の態様は、前記(G)シリカフュームは、BET比表面積が5〜30m2/gであることを特徴とするプレミックス無収縮モルタル組成物である。本発明の第10の態様は、前記(A)セメントが、ポルトランドセメントであることを特徴とするプレミックス無収縮モルタル組成物である。本発明の第11の態様は、前記プレミックスモルタル組成物と水とを混合してなるモルタルである。本発明の第12の態様は、前記プレミックス無収縮モルタル組成物と水とを混合してなるモルタルである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プレミックスモルタル組成物に炭酸カルシウム粉末を配合することで、減水剤にポリカルボン酸塩系を使用しても長期保管後の品質劣化を防止できる。特に、プレミックスモルタル組成物を長期間保管しても、流動性の低下と流動保持性の低下とも抑制できるので、作業現場での施工性が向上する。また、プレミックス無収縮モルタル組成物に炭酸カルシウム粉末を配合することで、減水剤にポリカルボン酸塩系を使用しても長期保管後の品質劣化を防止できる。特に、プレミックス無収縮モルタル組成物を長期間保管しても、流動性の低下と流動保持性の低下とも抑制できるので、作業現場での施工性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態に係るプレミックスモルタル組成物及びプレミックス無収縮モルタル組成物について説明する。本発明の実施形態に係るプレミックスモルタル組成物は、(A)セメント、(B)骨材、(C)ポリカルボン酸塩系減水剤及び(D)炭酸カルシウム粉末を含むものであって、上記各成分は以下の通りである。
【0014】
(A)セメント
本発明で使用する(A)成分のセメントとしては、特に限定されず、例えば、普通、早強、超早強、中庸熱、低熱及び耐硫酸塩等の各種ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント及びフライアッシュセメント等の各種混合セメント、アルミナセメント並びに急硬セメント等が挙げられる。このうち、優れた練混性と機械的強度向上の点から、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、及び普通ポルトランドセメントと早強ポルトランドセメントとの混合物が好ましい。また、上記各種セメントは単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0015】
(B)骨材
(B)成分の骨材は、収縮の防止、水和熱の低減等のために配合するものである。本発明で使用する(B)成分の骨材としては、一般に使用される細骨材であれば特に限定されず、例えば、川砂、山砂、海砂、浜砂、砕砂、珪砂及び石灰石砂等が挙げられる。また、プレミックス商品として使用する点から、上記各種砂は乾燥品が好ましい。上記した各種骨材は単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0016】
骨材の最大粒径は、モルタルの分離を防止する点から5mm以下であり、2.5mm以下が好ましく、2.0mm以下が特に好ましい。また、骨材の配合量の上限値は、セメント100質量部に対して、硬化前の流動性等の低下と硬化後の圧縮強度の低下とを防止する点から200質量部が好ましく、硬化前の流動性等の低下と硬化後の圧縮強度の低下とをバランスよく抑制する点から180質量部が特に好ましい。一方、骨材の配合量の下限値は、セメント100質量部に対して、収縮の防止と水和熱の低減の点から60質量部が好ましく、収縮の防止と水和熱の低減をより確実にする点から80質量部が特に好ましい。
【0017】
(C)ポリカルボン酸塩系減水剤
(C)成分のポリカルボン酸塩系減水剤は、セメントに対する分散作用により、硬化前の流動性等の向上や硬化後の機械的強度を増大させるために配合するものである。本発明で使用する(C)成分のポリカルボン酸塩系減水剤としては、一般に使用されるポリカルボン酸塩系減水剤であれば特に限定されず、例えば、高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤等が挙げられる。また、本発明では、プレミックス商品として使用する点から、ポリカルボン酸塩系減水剤は粉体、特に乾燥処理した粉体が好ましい。上記した各種ポリカルボン酸塩系減水剤は単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0018】
ポリカルボン酸塩系減水剤(固形分換算)の配合量の上限値は、セメント100質量部に対して、凝結時間の遅延防止及びモルタル組成物の分離防止の点から1.2質量部が好ましく、機械的強度が低下するのを防止する点から0.6質量部が特に好ましい。一方、ポリカルボン酸塩系減水剤(固形分換算)の配合量の下限値は、セメント100質量部に対して、硬化前の流動性等を向上させる点から0.06質量部が好ましく、練混性の点から0.08質量部が特に好ましい。
【0019】
(D)炭酸カルシウム粉末
(D)成分の炭酸カルシウム粉末は、プレミックスモルタル組成物及びプレミックス無収縮モルタル組成物を長期保管しても、流動性と流動保持性とを維持して品質劣化を防止するために配合するものである。炭酸カルシウム粉末には、例えば、石灰石、方解石 霰石などを粉砕処理した鉱物由来のもの、工業的に生産したものなどを挙げることができる。また、プレミックス商品として使用する点から、炭酸カルシウム粉末は配合前に乾燥機等で乾燥処理させてもよい。炭酸カルシウム粉末の最大粒径は、長期保管(例えば、1ヶ月保管)後の硬化前の流動保持性を向上させる点及び圧縮強度を向上させる点から45μm以下が好ましく、長期保管(例えば、1ヶ月保管)後の機械的強度を向上させる点から35μm以下が特に好ましい。
【0020】
炭酸カルシウム粉末の配合量の上限値は、セメント100質量部に対して、長期保管(例えば、1ヶ月保管)品の硬化後における圧縮強度の低下を防止する点から8質量部であり、前記圧縮強度に優れる点から6質量部が好ましく、前記圧縮強度と長期保管(例えば、1ヶ月保管)後における流動保持性とのバランスに優れる点から5質量部が特に好ましい。一方、炭酸カルシウム粉末の配合量の下限値は、セメント100質量部に対して、長期保管(例えば、1ヶ月保管)後における流動保持性の低下を防止する点から2質量部であり、長期保管(例えば、1ヶ月保管)後における流動保持性の低下を確実に防止する点及び可使時間を確保する点から3質量部が好ましく、長期保管(例えば、1ヶ月保管)後における圧縮強度と流動保持性とのバランスに優れる点から4質量部が特に好ましい。
【0021】
本発明の実施形態に係るプレミックス無収縮モルタル組成物は、上記した(A)セメント、(B)骨材、(C)ポリカルボン酸塩系減水剤及び(D)炭酸カルシウム粉末に加えて、さらに、(E)膨張材を含むものである。
【0022】
(E)膨張材
(E)成分の膨張材は、硬化後の機械的強度の向上及び無収縮性の確保のために配合するものである。膨張材は、一般に使用されるものであれば特に限定されず、例えば、生石灰、石灰石及び消石灰等の石灰系、無水石膏等の石膏系、アルミナ及び水酸化アルミニウム等のアルミニウム系、カルシウムアルミノフェライト系並びにカルシウムサルフォアルミネート系等を挙げることができる。上記した各種膨張材は単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0023】
膨張材の市販品としては、例えば、石灰系では「エクスパン」(太平洋マテリアル(株)製)、カルシウムサルフォアルミネート系では「DENKA CSA」(電気化学工業(株)製)等を挙げることができる。
【0024】
使用する膨張材としては、ブリーディングの発生防止の点から石灰系膨張材とカルシウムサルフォアルミネート系膨張材との混合膨張材が好ましい。また、前記混合膨張材中におけるカルシウムサルフォアルミネート系膨張材の含有量の上限値は、施工時の可使時間が短くなるのを回避する点及び長期保管(例えば、1ヶ月保管)後の優れた流動性等の点から75質量%が好ましく、65質量%が特に好ましい。一方、前記混合膨張材中におけるカルシウムサルフォアルミネート系膨張材の含有量の下限値は、ブリーディングの発生を防止する点から25質量%が好ましく、35質量%が特に好ましい。
【0025】
膨張材の配合量の上限値は、セメント100質量部に対して、機械的強度の向上の点から10質量部であり、5質量部が好ましい。一方、膨張材の配合量の下限値は、セメント100質量部に対して、流動性等の点から0.2質量部であり、無収縮性と硬化時間の最適化の点から0.5質量部が好ましい。
【0026】
本発明の実施形態に係るプレミックスモルタル組成物では、上記した(A)セメント、(B)骨材、(C)ポリカルボン酸塩系減水剤及び(D)炭酸カルシウム粉末に加えて、さらに、必要に応じて(F)発泡剤及び(G)シリカフュームを配合することができる。また、本発明の実施形態に係るプレミックス無収縮モルタル組成物では、上記した(A)セメント、(B)骨材、(C)ポリカルボン酸塩系減水剤、(D)炭酸カルシウム粉末及び(E)膨張材に加えて、さらに、必要に応じて(F)発泡剤及び(G)シリカフュームを配合することができる。
【0027】
(F)発泡剤
(F)成分の発泡剤は、水との練り混ぜ時にガス(例えば窒素ガス等の不活性ガス)を発生してグラウトの初期膨張を得るために配合される。発泡剤は、一般に使用されるものであれば特に限定されず、例えば、アルミニウム粉末、アルミニウム合金粉末が挙げられ、さらにモルタル組成物中における反応により窒素ガスを発生するスルホニルヒドラジド化合物、アゾ化合物及びニトロソ化合物等を挙げることができる。上記した各種発泡剤は単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0028】
発泡剤の配合量は、添加する発泡剤の種類により適宜選択可能である。例えばアルミニウム粉末の配合量の上限値は、セメント100質量部に対して、初期発泡によりマトリックスが低密化するのを防止する点から0.01質量部であり、機械的強度の低下を防止する点から0.008質量部が好ましい。一方、発泡剤の配合量の下限値は、セメント100質量部に対して、初期膨張を得る点から0.001質量部であり、膨張性を確実に付与する点から0.003質量部が好ましい。
【0029】
(G)シリカフューム
(G)成分のシリカフュームは、プレミックスモルタル組成物を使用したモルタル及びプレミックス無収縮モルタル組成物を使用したモルタルについて、硬化後の機械的強度を向上させるために配合される。シリカフュームは、一般に使用されるものであれば特に限定されず、例えば、「メイコMS610」(BASFポゾリス(株)製)、「EFACO」(巴工業(株)製)等を挙げることができる。シリカフュームのBET比表面積は、施工性と機械的強度特性の点から5〜30m2/gが好ましく、分離抵抗性と強度発現性の点から15〜20m2/gが特に好ましい。
【0030】
シリカフュームの配合量の上限値は、セメント100質量部に対して、強度発現性の点から40質量部であり、流動性の点から20質量部が好ましい。一方、シリカフュームの配合量の下限値は、セメント100質量部に対して、硬化前の流動性等の低下防止と硬化後の機械的強度特性の向上の点から0.1質量部であり、好ましくは0.2質量部である。
【0031】
さらに、本発明のプレミックスモルタル組成物及びプレミックス無収縮モルタル組成物には、いずれも、本発明の効果を損なわない範囲において、通常使用される成分、例えば、消泡剤、防水剤、繊維等の補強材、硬化促進剤、撥水材、増粘剤、防錆剤、顔料、凝結調整剤、ベントナイトなどの粘土鉱物、ハイドロタルサイトなどのアニオン交換体等の成分を単独または2種以上を混合して使用してもよい。
【0032】
本発明のプレミックスモルタル組成物及びプレミックス無収縮モルタル組成物は、いずれも、上記各成分を所定量配合後に混合して調製した粉体である。上記各成分の混合方法は特に限定されず、例えば、アイリッヒミキサ、遊星型ミキサ、ヘンシェルミキサ等の汎用の混合機を用いた混合方法を挙げることができる。
【0033】
本発明のプレミックスモルタル組成物と水との混練方法及びプレミックス無収縮モルタル組成物と水との混練方法は、いずれも、一般に使用される方法であれば特に限定されない。上記混練方法には、プレミックス無収縮モルタル組成物の場合、例えば、プレミックス無収縮モルタル組成物と水とを混練機に投入して混練する方法がある。水の配合量の上限値は、プレミックス無収縮モルタル組成物100質量部に対して50質量部であり、硬化後の機械的強度の低下を防止する点で40質量部が好ましい。一方、水の配合量の下限値は、プレミックス無収縮モルタル組成物100質量部に対して25質量部であり、施工性、混練性及び硬化前の流動性の点で30質量部が好ましい。なお、プレミックスモルタル組成物と水との混練方法の具体例も、上記したプレミックス無収縮モルタル組成物の例と同様である。また、使用する混練機は、特に限定されず、例えば、ハンドミキサ、パン型ミキサ、グラウトミキサ、二軸ミキサ等の汎用の混練機を挙げることができる。
【実施例】
【0034】
次に、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例の態様に限定されるものではない。
【0035】
実施例1、比較例1〜3
(1)プレミックスモルタル組成物の配合成分について
(A)セメント
普通ポルトランドセメント:太平洋セメント(株)製
早強ポルトランドセメント:太平洋セメント(株)製
(B)骨材
珪砂:山形県産、5mmアンダー品、北日本産業(株)製
(C)ポリカルボン酸塩系減水剤
減水剤a:変性ポリカルボン酸塩系減水剤(「MELFLUX」、BASFジャパン(株)製)
減水剤b:ポリカルボン酸塩系減水剤(「コアフローNF100」、太平洋マテリアル(株)製)
(D)炭酸カルシウム粉末
炭酸カルシウム粉末a:45μmアンダー品、ボールミル粉砕品
・無水石膏
II型無水石膏:「D-700」、(株)ノリタケカンパニーリミテッド製
【0036】
上記配合成分について、表1に示す配合組成にて、実施例1及び比較例1〜3に係るプレミックスモルタル組成物を調製した。
【0037】
【表1】

【0038】
(2)測定項目及び測定方法について
・硬化前の流動性及び流動保持性:土木学会基準JSCE−F541によりJ14ロート流下時間を測定した。J14ロート流下時間の測定は、プレミックスモルタル組成物の製造直後品及び製造後1ヶ月保管品のそれぞれついて、水との混練(混練時間2分)終了直後(直後)、水との混練終了後10分(10分)、水との混練終了後20分(20分)及び水との混練終了後30分(30分)のものについて行った。製造直後品と製造後1ヶ月保管品のいずれのJ14ロート流下時間も6.0秒以上10.0秒以下のとき合格と評価し、判定「○」と記載した。一方、製造直後品と製造後1ヶ月保管品の少なくとも一方のJ14ロート流下時間が6.0秒未満または10.0秒超のとき不合格と評価し、判定「×」と記載した。さらに、前記基準に基づいて、J14ロート流下時間が10秒超となった場合には、水との混練終了後30分未満であっても、その後の流動保持性の測定は中止した。この場合は「−」と記載した。
【0039】
上記測定項目の測定結果を表2に示す。なお、表2中の「製造直後品」とは、調製直後のプレミックスモルタル組成物を用いたものを示す。また、「1ヶ月保管品」とは、調製後、直ぐに袋詰めにして屋内において室温にて1ヶ月保管したプレミックスモルタル組成物を用いたものを示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2に示すように、プレミックスモルタル組成物に炭酸カルシウム粉末を配合した実施例1は、プレミックスモルタル組成物の調製から1ヶ月保管後であっても、水との混練終了直後、水との混練終了後30分ともに、J14ロート流下時間が10秒以下であった。よって、プレミックスモルタル組成物の調製から1ヶ月保管後であっても、良好な流動性と流動保持性を有していた。この結果、減水剤にポリカルボン酸塩系を使用しても長期保管後の品質劣化を防止できた。
【0042】
一方、プレミックスモルタル組成物に炭酸カルシウム粉末を配合していない比較例1、2では、プレミックスモルタル組成物の調製後1ヶ月保管すると、水との混練終了後20分でJ14ロート流下時間が10秒超となり、流動保持性に劣っていた。さらに、流動性等を高める効果があるといわれている石膏を配合した比較例3であっても、プレミックスモルタル組成物の調製後1ヶ月保管すると、水との混練終了後20分でJ14ロート流下時間が10秒超となって流動保持性に劣っていた。
【0043】
実施例2、比較例4〜6
(1)プレミックス無収縮モルタル組成物の配合成分について
(E)膨張材
膨張材a:石灰系膨張材「エクスパンK」、太平洋マテリアル(株)製
膨張材b:カルシウムサルフォアルミネート系膨張材「DENKA CSA♯20」電気化学工業(株)製
(A)成分である普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメント、(B)成分である珪砂、(C)成分である減水剤a及び減水剤b、並びに(D)成分である炭酸カルシウム粉末aについては、上記した実施例1及び比較例1〜3で使用した配合成分と同様である。
【0044】
上記配合成分について、表3に示す配合組成にて、実施例2及び比較例4〜6に係るプレミックス無収縮モルタル組成物を調製した。
【0045】
【表3】

【0046】
(2)測定項目及び測定方法について
・硬化前の流動性及び流動保持性:上記した実施例1及び比較例1〜3と同様である。
【0047】
上記測定項目の測定結果を表4に示す。なお、表4以降、表中の「製造直後品」とは、調製直後のプレミックス無収縮モルタル組成物を用いたものを示す。また、「1ヶ月保管品」とは、調製後、直ぐに袋詰めにして屋内において室温にて1ヶ月保管したプレミックス無収縮モルタル組成物を用いたものを示す。
【0048】
【表4】

【0049】
表4に示すように、プレミックス無収縮モルタル組成物に炭酸カルシウム粉末を配合した実施例2は、プレミックス無収縮モルタル組成物の調製から1ヶ月保管後であっても、水との混練終了直後、水との混練終了後30分ともに、J14ロート流下時間が10秒以下であった。よって、プレミックス無収縮モルタル組成物の調製から1ヶ月保管後であっても、良好な流動性と流動保持性を有していた。この結果、減水剤にポリカルボン酸塩系を使用しても長期保管後の品質劣化を防止できた。
【0050】
一方、プレミックス無収縮モルタル組成物に炭酸カルシウム粉末を配合していない比較例4、5では、プレミックス無収縮モルタル組成物の調製後1ヶ月保管すると、水との混練終了後20分でJ14ロート流下時間が10秒超となり、流動保持性に劣っていた。さらに、流動性等を高める効果があるといわれている石膏を配合した比較例6であっても、プレミックス無収縮モルタル組成物の調製後1ヶ月保管すると、水との混練終了後20分でJ14ロート流下時間が10秒超となって流動保持性に劣っていた。
【0051】
実施例3〜6、比較例7〜10
(1)プレミックス無収縮モルタル組成物の配合成分について
(F)発泡剤
発泡剤a:アルミニウム粉末、「アルミ粉」、大和金属粉工業(株)製
発泡剤b:ベンゼンスルホニルヒドラジド系発泡剤、「ネオセルボン1000S」、永和化成工業(株)製
(G)シリカフューム:「メイコMS610」、BASFポゾリス(株)製(BET比表面積20m2/g)
(A)成分である普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメント、(B)成分である珪砂、(C)成分である減水剤a及び減水剤b、(D)成分である炭酸カルシウム粉末a並びに、(E)成分である膨張材については、上記した実施例1〜2及び比較例1〜6で使用した配合成分と同様である。
【0052】
上記配合成分について、表5に示す配合組成にて、実施例3〜6及び比較例7〜10に係るプレミックス無収縮モルタル組成物を調製した。
【0053】
【表5】

【0054】
(2)測定項目及び測定方法について
・硬化前の流動性及び流動保持性:上記した実施例1〜2及び比較例1〜6と同様である。
【0055】
上記測定項目の測定結果を表6に示す。
【0056】
【表6】

【0057】
表6に示すように、さらに、発泡剤とシリカヒュームを配合しても、プレミックス無収縮モルタル組成物に炭酸カルシウム粉末を配合した実施例3〜6は、プレミックス無収縮モルタル組成物の調製から1ヶ月保管後であっても、水との混練終了直後、水との混練終了後30分ともに、J14ロート流下時間が10秒以下であった。よって、プレミックス無収縮モルタル組成物の調製から1ヶ月保管後であっても、良好な流動性と流動保持性を有していた。この結果、さらに、発泡剤及びシリカヒュームを配合しても長期保管後の品質劣化を防止できた。
【0058】
一方、プレミックス無収縮モルタル組成物に炭酸カルシウム粉末を配合していない比較例7〜10では、プレミックス無収縮モルタル組成物の調製後1ヶ月保管すると、水との混練終了後20分にてJ14ロート流下時間が10秒超となり、流動保持性に劣っていた。
【0059】
実施例7〜10、比較例11〜18
(1)プレミックス無収縮モルタル組成物の配合成分について
(D)炭酸カルシウム粉末
炭酸カルシウム粉末b::300μmアンダー品、発明者粉砕品
なお、(A)成分である普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメント、(B)成分である珪砂、(C)成分である減水剤a、(D)成分である炭酸カルシウム粉末a、(E)成分である膨張材a及び膨張材b、(F)成分である発泡剤a、並びに(G)成分であるシリカフュームについては、上記した実施例1〜6及び比較例1〜10で使用した配合成分と同様である。
【0060】
上記配合成分について、表7に示す配合組成にて、実施例7〜10及び比較例11〜18に係るプレミックス無収縮モルタル組成物を調製した。
【0061】
【表7】

【0062】
(2)測定項目及び測定方法について
・硬化前の流動性及び流動保持性:上記した実施例1〜6及び比較例1〜10と同様である。
・圧縮強度:JSCE−G505−1999「円柱供試体を用いたモルタルまたはペーストの圧縮強度試験方法」により、調製から1ヶ月保管後のプレミックス無収縮モルタル組成物を使用したセメント硬化体について、材齢1日及び3日の圧縮強度を測定した。圧縮強度は、材齢1日で20.0N/mm2以上、かつ材齢3日で50.0N/mm2以上を合格と判定した。
【0063】
上記各測定項目の測定結果を表8に示す。表8中、硬化前の流動性及び流動保持性と圧縮強度の両方の基準を満たした場合に、判定「○」とし、それ以外を判定「×」とした。
【0064】
【表8】

【0065】
表8の実施例7〜10に示すように、45μmアンダー品である炭酸カルシウム粉末aをポルトランドセメント100質量部に対して2〜8質量部配合すると、プレミックス無収縮モルタル組成物の調製から1ヶ月保管後であっても、水との混練終了直後、水との混練終了後30分ともに、J14ロート流下時間が10秒以下であり、流動性等に優れていた。さらに、45μmアンダー品である炭酸カルシウム粉末aをポルトランドセメント100質量部に対して2〜8質量部配合すると、圧縮強度は、材齢1日で24N/mm2以上かつ材齢3日で51N/mm2以上であり、1ヶ月保管後のプレミックス無収縮モルタル組成物を使用しても機械的強度に優れていた。
【0066】
また、実施例9に示すように、45μmアンダー品である炭酸カルシウム粉末aをポルトランドセメント100質量部に対して6質量部配合すると、特に、圧縮強度が向上した。さらに、実施例10に示すように、45μmアンダー品である炭酸カルシウム粉末aをポルトランドセメント100質量部に対して8質量部配合すると、1ヶ月保管品であっても、良好な圧縮強度を維持しつつ、水との混練終了後30分の流動保持性が特に優れていた。
【0067】
一方で、比較例11に示すように、ポルトランドセメント100質量部に対して45μmアンダー品である炭酸カルシウム粉末aを1質量部配合すると、1ヶ月保管品について、水との混練終了後30分のJ14ロート流下時間が10秒超となり、流動保持性が低下した。また、比較例12に示すように、ポルトランドセメント100質量部に対して45μmアンダー品である炭酸カルシウム粉末aを10質量部配合すると、材齢3日の圧縮強度が50N/mm2未満となり、機械的強度が低下した。
【0068】
表8の比較例13〜18に示すように、ポルトランドセメント100質量部に対して300μmアンダー品である炭酸カルシウム粉末bを配合しても、1ヶ月保管品の流動保持性と圧縮強度ともに低下を防止できなかった。このことは、ポルトランドセメント100質量部に対して300μmアンダー品である炭酸カルシウム粉末bを2〜8質量部配合しても同様であった(比較例14〜17)。
【0069】
実施例11〜14
(1)プレミックス無収縮モルタル組成物の配合成分について
(A)成分である普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメント、(B)成分である珪砂、(C)成分である減水剤a、(D)成分である炭酸カルシウム粉末a、(E)成分である膨張材a及び膨張材b、(F)成分である発泡剤a、並びに(G)成分であるシリカフュームについては、上記した実施例1〜10及び比較例1〜18で使用した配合成分と同様である。
【0070】
上記配合成分について、表9に示す配合組成にて、実施例11〜14に係るプレミックス無収縮モルタル組成物を調製した。
【0071】
【表9】

【0072】
(2)測定項目及び測定方法について
・硬化前の流動性及び流動保持性:上記した実施例1〜10及び比較例1〜18と同様である。
・ブリーディング試験:JSCE-F533「PCグラウトのブリーディング率及び膨張率試験方法(容器方法)」によって、製造直後品について測定した。
【0073】
上記各測定項目の測定結果を表10に示す。表10中、硬化前の流動性及び流動保持性とブリーディング試験の両方の基準を満たした場合に判定「◎」、ブリーディングが若干発生したものの硬化前の流動性及び流動保持性の基準を持たした場合に判定「○」とし、それ以外を判定「×」とした。
【0074】
【表10】

【0075】
表10に示すように、石灰系の膨張材aとカルシウムサルフォアルミネート系の膨張材bとの混合物を使用すると、製造直後品でブリーディングは発生せずにセメント硬化体の品質劣化を防止できた(実施例11〜13)。一方、石灰系の膨張材aを単独で使用すると、1ヶ月保管品の流動性及び流動保持性は良好であるが、若干のブリーディングが発生した点ではセメント硬化体の品質劣化を十分には防止できなかった(実施例14)。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のプレミックスモルタル組成物及びプレミックス無収縮モルタル組成物を使用すると、長期保管しても、優れた流動性及び流動保持性が維持されるので、土木、建築分野の構造物やグラウト材として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セメント、(B)骨材、(C)ポリカルボン酸塩系減水剤及び(D)炭酸カルシウム粉末を含むことを特徴とするプレミックスモルタル組成物。
【請求項2】
(A)セメント、(B)骨材、(C)ポリカルボン酸塩系減水剤、(D)炭酸カルシウム粉末及び(E)膨張材を含むことを特徴とするプレミックス無収縮モルタル組成物。
【請求項3】
前記(D)炭酸カルシウム粉末は、最大粒径が45μm以下であることを特徴とする請求項2に記載のプレミックス無収縮モルタル組成物。
【請求項4】
前記(A)セメント100質量部に対して2〜8質量部の前記(D)炭酸カルシウム粉末を含むことを特徴とする請求項2または3に記載のプレミックス無収縮モルタル組成物。
【請求項5】
さらに、(F)発泡剤及び(G)シリカフュームを含むことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載のプレミックス無収縮モルタル組成物。
【請求項6】
前記(E)膨張材が、カルシウムサルフォアルミネート系膨張材と石灰系膨張材の混合物であることを特徴とする請求項2に記載のプレミックス無収縮モルタル組成物。
【請求項7】
前記(E)膨張材中における前記カルシウムサルフォアルミネート系膨張材の含有量が、25〜75質量%であることを特徴とする請求項6に記載のプレミックス無収縮モルタル組成物。
【請求項8】
前記(F)発泡剤が、アルミニウム粉末、スルホニルヒドラジド化合物、アゾ化合物及びニトロソ化合物からなる群から選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載のプレミックス無収縮モルタル組成物。
【請求項9】
前記(G)シリカフュームは、BET比表面積が5〜30m2/gであることを特徴とする請求項5に記載のプレミックス無収縮モルタル組成物。
【請求項10】
前記(A)セメントが、ポルトランドセメントであることを特徴とする請求項2に記載のプレミックス無収縮モルタル組成物。
【請求項11】
請求項1に記載のプレミックスモルタル組成物と水とを混合してなるモルタル。
【請求項12】
請求項2乃至10のいずれか1項に記載のプレミックス無収縮モルタル組成物と水とを混合してなるモルタル。

【公開番号】特開2011−241095(P2011−241095A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111987(P2010−111987)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(503343336)コンストラクション リサーチ アンド テクノロジー ゲーエムベーハー (139)
【氏名又は名称原語表記】Construction Research & Technology GmbH
【住所又は居所原語表記】Dr.−Albert−Frank−Strasse 32, D−83308 Trostberg, Germany
【Fターム(参考)】