説明

プレート型ヒートパイプおよびその製造方法

【課題】 真空排気系との接続が確実にでき、溶接封止が容易にできるプレート型ヒートパイプとその製造方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも2枚の略平行に配置された金属プレート2A、2B間に作動流体通路3となる空隙を形成して密封固着されており、作動流体通路3内に作動流体4が封入されているプレート型ヒートパイプ1であって、作動流体4は2枚の金属プレート2A、2Bのいずれか一方の面内に設けられた作動流体注入口5から注入されて封止されてなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、IGBT、IPM、サイリスター等のパワー素子(トランジスタ)や整流素子等の発熱電子部品を冷却するのに適した製造が容易で伝熱特性に優れたプレート型ヒートパイプとその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、電子機器や電力機器等に使用されるパワーエレクトロニクス関連の電子部品の有力な冷却手段としてプレート型ヒートパイプが採用されている。このプレート型ヒートパイプは図9に示すようなブレージングシートを用いた方法もしくは図10に示すようなロールボンド法によりヒートパイプとなる容器が製造されている。
【0003】図9に示すブレージングシートを用いた方法は、皿状に窪みを設けた金属プレート21Aと平面状の金属プレート21B、例えば両プレート共にアルミ板の間に両面接着型のブレージングシート22を挿入して、それぞれがずれない程度の軽い圧力を加えながら加熱して2枚の金属プレート21A、21Bの周縁をろう付けしてプレート型ヒートパイプの容器20を製造するものである。図9において、23は作動流体注入口である。図10に示すロールボンド法は2枚の金属プレート31A、31B、例えばアルミ板を作動流体通路となる空隙部分に剥離剤を介在させてロール32で熱圧着し、その後、剥離剤部分を空気圧により膨らませてヒートパイプとなる容器30が製造される。
【0004】上記の製法により製造した容器の作動流体通路となる空隙に作動流体となる液体を注入した後、容器を作動流体の沸点以上に加熱して非凝縮性ガスを脱気する。または、容器の作動流体通路となる空隙を真空排気した後に非凝縮性ガスを含まない作動流体蒸気を流入させ必要量の作動流体を容器内に入れる。脱気した作動流体が注入された容器の開口部(作動流体注入口)を、例えば油圧等を利用したカシメで容器内を一時的に気密に保った状態にしてアーク溶接等により作動流体注入口を溶接し、完全に密閉している。図10において、33は作動流体注入口である。ところで、図9に示すようなブレージングシートを用いた方法もしくは図10に示すようなロールボンド法により製造されたヒートパイプとなる容器20、30は、いずれも作動流体通路となる空隙内に注入する作動流体注入口は2枚の金属プレートの合わせ目に形成されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上述のように作動流体注入口が2枚の金属プレートの合わせ目に形成されていると、真空排気系との接続の際に接続部を気密にすることが極めて難しい。したがって、ヒートパイプ加工を行う前にヘリウムリーク試験等をしようとしても作動流体注入口との接続部にリークが生じてしまい厳密なリーク試験ができないという問題があった。このため容器に欠陥があるものまでヒートパイプ加工を行ってしまうので、プレート型ヒートパイプの製造歩留まりが悪く、生産性が低いという欠点があった。
【0006】ヒートパイプの作動流体としては、例えば代替えフロン等が用いられることが多いが製造作業者の酸欠の危険や環境を考えた場合には、代替えフロンといえども作業環境に排出することはできない。作動流体を蒸気流入法で注入する場合には気密状態にすることが不可欠であるが、沸騰法においても蒸発した作動流体蒸気を作業環境に排出しないようにする必要がある。したがって、従来のような2枚の金属プレートの合わせ目に形成されている作動流体注入口は適したものとはいえない。また、従来の作動流体注入口は抵抗溶接等の容易に行える溶接方法では気密を保つことが難しく、作業者の技量が要求されるアーク溶接で行う必要がある。さらに、溶接封止しようとする周辺部はすでに2枚の金属プレートが接合されているため抵抗溶接を適応しても電流が回り込んでしまうためうまく溶接することができないという問題がある。
【0007】本発明は上記の課題を解決し、真空排気系との接続が確実にでき、溶接封止が容易にできるプレート型ヒートパイプとその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は上記の課題を解決するために以下のような手段を有している。
【0009】本発明のうち請求項1のプレート型ヒートパイプは、少なくとも2枚の略平行に配置された金属プレート間に作動流体通路となる空隙を形成して密封固着されており、前記作動流体通路内に作動流体が封入されているプレート型ヒートパイプであって、前記作動流体は前記2枚の金属プレートのいずれか一方の面内に設けられた作動流体注入口から注入されて封止されてなることを特徴とする。
【0010】本発明のうち請求項2のプレート型ヒートパイプの製造方法は、少なくとも2枚の金属プレートを略平行に配置して、前記2枚の金属プレートの間に作動流体通路となる空隙を形成して、前記2枚の金属プレートの周縁を密封固着し、前記2枚の金属プレートの内一方の金属プレートの面内に形成された貫通孔から前記作動流体通路となる空隙に作動流体を注入して、さらに前記作動流体通路となる空隙内を脱気した後、前記貫通孔を封止してヒートパイプを製造することを特徴とする。
【0011】本発明のうち請求項3のプレート型ヒートパイプの製造方法は、貫通孔の封止は貫通孔に設けた着脱自在な作動流体注入接続パッドに電極を気密に装着して、前記電極によりカシメるとともに電気溶接を行うことを特徴とする。
【0012】本発明のうち請求項4のプレート型ヒートパイプの製造方法は、貫通孔を含む部分を切り離して残りの部分をヒートパイプとすることを特徴とする。
【0013】本発明の請求項1のプレート型ヒートパイプおよび請求項2のプレート型ヒートパイプの製造方法によれば、作動流体を注入する作動流体注入口は金属プレートの面内に設けられているので、真空排気系との接続は着脱自在なパッド状のシールにより確実にできるためヘリウムリーク試験が容易となる。また、ヒートパイプ加工では金属プレートの作動流体注入口を排気系等に気密に接続した後に作動流体注入口と金属プレートとの間をカシメ等の手段により簡単、確実に気密に封止することができる。さらに、カシメ等で気密に封止された突き合わせ面は格別に複雑な合わせ面ではないので、抵抗溶接を適応した場合にも簡単確実に溶接することができる。以上の結果、伝熱特性に優れたプレート型ヒートパイプを歩留まり良く製造することができる。
【0014】本発明の請求項3のプレート型ヒートパイプの製造方法によれば、貫通孔に設けた着脱自在な作動流体注入接続パッドに電極を気密に装着して、この電極によりカシメるとともに電気溶接を行うので、仮封止とともに電気溶接による気密封止を同時に行うことができるのでより効率的にプレート型ヒートパイプを製造することができる。
【0015】本発明の請求項4のプレート型ヒートパイプの製造方法によれば、貫通孔を含む部分を切り離して残りの部分をヒートパイプとするので、貫通孔を含む部分がなくなり形状が単純でスッキリしたプレート型ヒートパイプとなる。
【0016】
【発明の実施の形態】以下に本発明に係るプレート型ヒートパイプとその製造方法について実施の形態により図1R>1ないし図8を参照してより詳細に説明する。図1において、1はプレート型ヒートパイプである。プレート型ヒートパイプ1は、2枚の例えばアルミ板からなる金属プレート2A、2Bの間に作動流体通路3となる空隙が形成され作動流体通路3を除く周縁部がろう付け等により密封固着されている。作動流体通路3内には熱媒体となる作動流体4が注入されている。2枚の金属プレート2A、2Bの内一方の金属プレート2Aには熱媒体となる作動流体4の注入口5が設けられていて、溶接等により密封状態に封止されている。図1において2はカシメ部である。
【0017】上記のプレート型ヒートパイプ1は図2に示すような方法で製造することができる。2枚の、例えばアルミ板からなる金属プレート2A、2Bの間に両面接着型のブレージングシート6を挟み込む。金属プレート2Aは中央部がプレス加工により皿状に膨らませたもので、その一方の凸状に突出した端部側の平坦面に作動流体4の注入口5が上面から下面に貫通している。金属プレート2Bは平面の形状が金属プレート2Aと同形の平板である。ブレージングシート6が挟み込まれた金属プレート2A、2Bをそれぞれがずれない程度の軽い圧力を加えながら加熱すると3者は中央部の皿状に膨らませた部分を除き周縁部が一体にろう付けされる。加熱温度はブレージングシート6の種類にもよるが、一般的には600°C前後の温度に加熱する。
【0018】上記のようにして形成されたヒートパイプ容器7に対して図3に示すようにして作動流体4の注入がなされる。図3において8は真空ポンプ、9は作動流体蒸気発生装置である。ヒートパイプ容器7の作動流体注入口5と真空ポンプ8または作動流体蒸気発生装置9の接続パイプ10との連結は図4に示すように硬質ゴム製の着脱自在な接続パッド11を介して行われる。接続パッド11は接続面が平坦な金属面であるので容易に確実に気密状態に、かつ着脱自在に固着される。先ず、図3R>3に示すようにヒートパイプ容器7と真空ポンプ8を連結する接続パイプ10のバルブ11を開にして、さらにヒートパイプ容器7と作動流体蒸気発生装置9を連結する接続パイプ10のバルブ12を閉の状態にして真空ポンプ8を作動させてヒートパイプ容器7の作動流体通路3内を真空引きする。作動流体通路3内を所定の真空度にしたら、バルブ11を閉の状態にしてバルブ12を開にして作動流体通路3内に作動流体3を注入する。
【0019】作動流体3の注入に際しては、先ずバルブ12を開にする前に作動流体蒸気発生装置9のバルブ13を開にして作動流体蒸気発生装置9内の作動流体3を十分に脱気した状態にした後、バルブ13を閉にしてから作動流体3の注入を行う。図3において、符号14は加熱ヒターである。ヒートパイプ容器7の作動流体通路3内に所定量の作動流体3を注入した後、図5に示すように凸状に突出した端部側の根元の部分をカシメ工具15A、15Bでカシメて仮封止を行い、次いで作動流体注入口5の接続パイプ10を取り外して作動流体注入口5を含む面の上下より抵抗溶接電極16を押し当て作動流体注入口5を溶接して確実に密封状態に封止することによりプレート型ヒートパイプ1が製造される。
【0020】なお、ヒートパイプ容器7に作動流体3を注入する前に、ヒートパイプ容器7のヘリウムリーク試験が行われるが、ヒートパイプ容器7と図示していないヘリウムリーク試験機との接続は図4に示す硬質ゴム製の接続パッド11を介して行われる。
【0021】以上説明したように、本発明のプレート型ヒートパイプによれば、真空排気系との接続が確実にできるので、ヘリウムリーク試験によりプレート型ヒートパイプ容器7の合否の判断がより確実となる。また、作動流体注入口5と金属プレート2A、2Bとの間を抵抗溶接を適応した場合にも簡単確実に溶接することができる。以上の結果、伝熱特性に優れたプレート型ヒートパイプを歩留まり良く製造することができる。
【0022】なお、上記実施の形態において、抵抗溶接電極による溶接は作動流体注入口5を含む面で行われたが封止の箇所は、作動流体注入口5を含む面に限るものではなく、例えば、図5に示す凸状に突出した端部側の根元のカシメ15の部分15を切断してその面を溶接等により密封状態に封止してもよい。このように凸状に突出した部分を切り捨てることによって形状が単純なプレート型ヒートパイプとすることができる。また、図6(イ)に示すプレート型ヒートパイプ1Aのように一方の金属プレート2Aの作動流体通路となる空隙のコーナ部の平坦面に作動流体注入口5Aを形成することもできる。この場合は初めから形状が単純なプレート型ヒートパイプ1Aとすることができる。
【0023】また、図6(ロ)に示すように一方の金属プレート2Aの作動流体通路となる空隙の中央部の平坦面に作動流体注入口5Bを形成することもできる。この場合は初めから形状が単純なプレート型ヒートパイプ1Bとすることができる。図6(ロ)に示すプレート型ヒートパイプ1Bの場合は図7に示すように作動流体注入口5Bを含む面の上下をカシメ工具15Bとリング状のカシメ工具15Cを用いてカシメて仮封止を行い、次にリング状のカシメ工具15Cの中心に電極16を挿入して、電極16とカシメ工具15Bを電極として電気抵抗溶接を行うとカシメによる仮封止と溶接による封止が一工程でできる。
【0024】さらにまた、図8に示すように、作動流体注入口5に取り付けられた配管接続パッド11Aの上部に電極16を挿入する気密リング17を備えた電極挿入孔18を設けて、電極挿入孔18に挿入された電極16で作動流体注入口5をカシメにより仮封止して、さらに電極16とカシメ工具15Bを電極として電気抵抗溶接を行うと真空引き、作動流体注入、カシメによる仮封止とさらに溶接による封止が一工程ででき、より効率的にプレート型ヒートパイプを製造することができる。
【0025】また、上記実施の形態において、ヒートパイプ容器7は、ブレージングシートを使用して形成したが、ヒートパイプ容器をロールボンド法を用いて成形してもよい。ロールボンド法を用いてヒートパイプ容器を成形する場合も、作動流体注入口を2枚の金属板の一方の平坦面に設けることはブレージングシートを使用して形成する場合と同様である。
【0026】
【発明の効果】以上述べたように、本発明の請求項1のプレート型ヒートパイプおよび請求項2のプレート型ヒートパイプの製造方法によれば、作動流体を注入する作動流体注入口は金属プレートの面内に設けられているので、真空排気系との接続は着脱自在に固着されるパッド状のシールにより確実にできるためヘリウムリーク試験が容易となる。また、ヒートパイプ加工では金属プレートの作動流体注入口を排気系等に気密に接続した後に作動流体注入口と金属プレートとの間をカシメ等の手段により簡単、確実に気密に封止することができる。さらに、カシメ等で気密に封止された突き合わせ面は格別に複雑な合わせ面ではないので、抵抗溶接を適応した場合にも簡単確実に溶接することができる。以上の結果、伝熱特性に優れたプレート型ヒートパイプを歩留まり良く製造することができる。
【0027】本発明の請求項3のプレート型ヒートパイプの製造方法によれば、貫通孔に設けた着脱自在な作動流体注入接続パッドに電極を気密に装着して、この電極によりカシメるとともに電気溶接を行うので、仮封止とともに電気溶接による気密封止が同時に行うことができるのでより効率的にプレート型ヒートパイプを製造することができる。
【0028】本発明の請求項4のプレート型ヒートパイプの製造方法によれば、貫通孔を含む部分を切り離して残りの部分をヒートパイプとするので、貫通孔を含む部分がなくなり形状が単純でスッキリしたプレート型ヒートパイプとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るプレート型ヒートパイプの一実施の形態を示す一部を断面にした斜視図である。
【図2】(イ)および(ロ)は図1のプレート型ヒートパイプの製造方法の一工程を示す説明図である。
【図3】本発明に係るプレート型ヒートパイプに作動流体を注入する状態を説明する説明図である。
【図4】本発明に係るプレート型ヒートパイプの作動流体注入口の拡大断面図である。
【図5】本発明に係るプレート型ヒートパイプのカシメ工程と封止工程を説明する説明図である。
【図6】(イ)および(ロ)は本発明に係るプレート型ヒートパイプの他の実施の形態を示す斜視図である。
【図7】本発明に係るプレート型ヒートパイプの他の実施の形態におけるカシメ工程と封止工程を説明する説明図である。
【図8】本発明に係るプレート型ヒートパイプのその他の実施の形態におけるカシメ工程と封止工程を説明する説明図である。
【図9】従来のプレート型ヒートパイプの製造方法の一例を示す説明図である。
【図10】従来のプレート型ヒートパイプの製造方法の他の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
1 プレート型ヒートパイプ
2A、2B 金属プレート
3 作動流体通路
4 作動流体
5 作動流体注入口
6 ブレージングシート
7 ヒートパイプ容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】 2枚の金属プレートがその間に作動流体通路となる空隙を形成して固着されてなるプレート型ヒートパイプであって、封止部が前記金属プレートの主面に位置していることを特徴とするプレート型ヒートパイプ。
【請求項2】 少なくとも2枚の金属プレートを略平行に配置して、前記枚の金属プレートの間に作動流体通路となる空隙を形成して、前記2枚の金属プレートの周縁を密封固着し、前記2枚の金属プレートの内一方の金属プレートの面内に形成された貫通孔から前記作動流体通路となる空隙に作動流体を注入して、さらに前記作動流体通路となる空隙内を脱気した後、前記貫通孔を封止してヒートパイプを製造することを特徴とするプレート型ヒートパイプの製造方法。
【請求項3】 前記貫通孔の封止は貫通孔に設けた着脱自在な作動流体注入接続パッドに電極を気密に装着して、前記電極によりカシメるとともに電気溶接を行うことを特徴とする請求項2に記載のプレート型ヒートパイプの製造方法。
【請求項4】 貫通孔を含む部分を切り離して残りの部分をヒートパイプとすることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のプレート型ヒートパイプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開平10−82591
【公開日】平成10年(1998)3月31日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−237758
【出願日】平成8年(1996)9月9日
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)