説明

プレート式反応器のスタートアップ方法

【課題】複数の伝熱プレート、伝熱プレートの間に形成された触媒層、及び触媒層の温度を制御するために用いられる常温で固体状の熱媒体を供給するための熱媒体流路を備えたプレート式反応器を、効率的にスタートアップさせる方法を提供すること。
【解決手段】複数の伝熱プレート、伝熱プレートの間に形成された触媒層、及び触媒層の温度を制御するために用いられる常温で固体状の熱媒体を供給する熱媒体流路を備えたプレート式反応器において、伝熱プレートの間に形成された触媒層及び/又は熱媒体流路に、温度100〜400℃の昇温用ガスを導入して、触媒層内及び/又は熱媒体流路内の温度を熱媒体の凝固点温度以上に昇温し、次いで凝固点温度以上に加温された熱媒体を熱媒体流路に供給することを特徴とする、プレート式反応器のスタートアップ方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒が充填されたプレート式反応器のスタートアップ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、接触気相酸化反応を利用し、不飽和脂肪酸等の反応物を製造する製造方法においては、工業的及び実用的な見地から、管式熱交換器形状の多管式反応器が用いられている。該多管式反応器を用いた反応物の製造方法では、多管式反応器の反応管の内側には固体触媒が充填され、反応管の外側には温度制御された熱媒体が循環され、該熱媒体により反応管内側の温度が制御される。
【0003】
上記多管式反応器に使用される熱媒体には、200〜500℃の温度範囲で使用できる硝酸塩混合物である溶融塩(以下、ナイターともいう。該ナイターは、前述のように、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム及び亜硝酸ナトリウムの混合物であり、その凝固点温度は、組成によって異なるが、142℃より高い。)が多用されている。例えば、接触気相酸化反応を利用し、不飽和脂肪酸等の反応物を製造する場合、反応温度が熱媒体の凝固点より高く、かつ発熱反応であるため、ナイターの溶解状態が維持でき、反応器内を容易に循環できる。しかしながら、スタートアップ前の反応器の温度は常温であり、熱媒体の凝固点温度よりも低いため、熱媒体の受け入れに際し、反応器を昇温して、反応器の温度を熱媒体の凝固点温度以上にしておく必要がある。
【0004】
特許文献1には、反応管と反応管内で発生した熱を除去するための反応管外側流体の導入口および導出口とを有する多管式反応器において、反応管側に温度100〜400℃の昇温用ガスを導入して昇温し、次いで、加温した上記の熱媒体を反応管外側に循環させることを特徴とする反応器のスタートアップ方法が提案されている。
また、特許文献2には、反応管と反応管内で発生した熱を除去するための反応管外側流体の導入口および導出口とを有する多管式反応器において、反応管外側に温度100〜400℃の昇温用ガスを導入して昇温し、次いで、加温した上記の熱媒体を反応管外側に循環させることを特徴とする反応器のスタートアップ方法が提案されている。
【0005】
一方、近年、上記多管式反応器が抱える問題点を解決するため、接触気相反応を利用した不飽和脂肪酸等の製造に、複数の伝熱プレート及び該伝熱プレート間に触媒層を備えたプレート式触媒層反応器を用いることが提案されている(例えば、特許文献3及び特許文献4)。
しかしながら、上記複数の伝熱プレート及び該伝熱プレート間に触媒層を備えたプレート式触媒層反応器を用いた場合のスタートアップ方法についての知見はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−310123号公報
【特許文献2】特開2003−265948号公報
【特許文献3】特開2004−167448号公報
【特許文献4】特開2004−202430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、その課題は、複数の伝熱プレート、伝熱プレートの間に形成された触媒層、及び触媒層の温度を制御するために用いられる常温で固体状の熱媒体を供給するための熱媒体流路を備えたプレート式反応器を、効率的にスタートアップさせる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 複数の伝熱プレート、前記伝熱プレートの間に形成された触媒層、及び前記触媒層の温度を制御するために用いられる常温で固体状の熱媒体を供給するための熱媒体流路を備えたプレート式反応器において、前記伝熱プレートの間に形成された触媒層及び/又は前記熱媒体流路に、温度100〜400℃の昇温用ガスを導入して、前記触媒層内及び/又は前記熱媒体流路内の温度を前記熱媒体の凝固点温度以上に昇温し、次いで凝固点温度以上に加温された前記熱媒体を前記熱媒体流路に供給することを特徴とする、プレート式反応器のスタートアップ方法。
[2] 常温で固体状の熱媒体が、凝固点50〜250℃の熱媒体であることを特徴とする、[1]に記載のプレート式反応器のスタートアップ方法。
[3] 前記熱媒体がナイターであることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のプレート式反応器のスタートアップ方法。
[4] 前記触媒層内及び/又は前記熱媒体流路内の温度を前記熱媒体の凝固点温度以上に昇温した後、2時間以内に、凝固点温度以上に加温された前記熱媒体を前記熱媒体流路に供給することを特徴とする、[1]から[3]のいずれか一に記載のプレート式反応器のスタートアップ方法。
[5] 前記熱媒体を昇温する温度が、60〜400℃であることを特徴とする、[2]から[4]のいずれか一に記載のプレート式反応器のスタートアップ方法。
[6] [1]から[5]のいずれか一に記載のスタートアップ方法によりスタートアップした後、熱媒体の供給温度が調整されたプレート式反応器に、反応原料を含む反応原料混合物を供給し、反応生成物を製造する製造方法であって、
前記反応原料及び前記反応生成物の関係が、下記(1)〜(7)のいずれか一であることを特徴とする、製造方法。
(1)前記反応原料がエチレンであり、前記反応生成物が酸化エチレンである。
(2)前記反応原料が炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種、又は、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記反応生成物が炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド、並びに炭素数3及び4の不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
(3)前記反応原料が炭素数4以上の脂肪族炭化水素又はベンゼンであり、前記反応生成物がマレイン酸である。
(4)前記反応原料がキシレン又はナフタレンであり、前記反応生成物がフタル酸である。
(5)前記反応原料がオレフィンであり、前記反応生成物がパラフィンである。
(6)前記反応原料がブテンであり、前記反応生成物がブタジエンである。
(7)前記反応原料がエチルベンゼンであり、前記反応生成物がスチレンである。
[7] [1]から[5]のいずれか一に記載のスタートアップ方法によりスタートアップした後、熱媒体の供給温度が調整されたプレート式反応器に、炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種、または、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種、並びに、分子状酸素を含む反応原料混合物を供給し、前記反応原料を接触気相酸化し、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド、並びに炭素数3及び4の不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の反応生成物を製造することを特徴とする、製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の好ましい態様によれば、複数の伝熱プレート、伝熱プレートの間に形成された触媒層、及び触媒層の温度を制御するために用いられる常温で固体状の熱媒体を供給するための熱媒体流路を備えたプレート式反応器を、効率的にスタートアップさせる方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のプレート式触媒層反応器内に設置される伝熱プレートの縦断面図。
【図2】2枚の波板を接合して形成された伝熱プレートの拡大図。
【図3】図1のIII部の拡大図。
【図4】図1のIV部の拡大図。
【図5】図1のV部の拡大図。
【図6】本発明のスタートアップ方法の好ましい態様の一例を示すプロセス説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のプレート式反応器のスタートアップ方法(以下、単に本発明のスタートアップ方法ともいう)は、複数の伝熱プレート、伝熱プレートの間に形成された触媒層、及び触媒層の温度を制御するために用いられる常温で固体状の熱媒体を供給するための熱媒体流路を備えたプレート式反応器において、伝熱プレートの間に形成された触媒層及び/又は熱媒体流路に、温度100〜400℃の昇温用ガスを導入して、触媒層内及び/又は熱媒体流路内の温度を、熱媒体の凝固点温度以上に昇温し、次いで凝固点温度以上に加温された熱媒体を熱媒体流路に供給することを特徴とする。
なお、上記触媒層(内)及び/又は熱媒体流路(内)とは、触媒層(内)、熱媒体流路(内)、又は、触媒層(内)及び熱媒体流路(内)を意味する。
【0012】
また、本発明の製造方法は、本発明のスタートアップ方法によりスタートアップした後、熱媒体の供給温度が調整されたプレート式反応器に、反応原料を含む反応原料混合物を供給し、反応生成物を製造する製造方法であって、上記反応原料及び反応生成物の関係が、下記(1)〜(7)のいずれか一であることを特徴とする。
(1)反応原料がエチレンであり、反応生成物が酸化エチレンである。
(2)反応原料が炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種、又は、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、反応生成物が炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド、並びに炭素数3及び4の不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
(3)反応原料が炭素数4以上の脂肪族炭化水素又はベンゼンであり、反応生成物がマレイン酸である。
(4)反応原料がキシレン又はナフタレンであり、反応生成物がフタル酸である。
(5)反応原料がオレフィンであり、反応生成物がパラフィンである。
(6)反応原料がブテンであり、反応生成物がブタジエンである。
(7)反応原料がエチルベンゼンであり、反応生成物がスチレンである。
【0013】
さらに、本発明の製造方法は、本発明のスタートアップ方法によりスタートアップした後、熱媒体の供給温度が調整されたプレート式反応器に、炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種、または、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種、並びに、分子状酸素を含む反応原料混合物(以下、単に反応ガスともいう)を供給し、反応原料を接触気相酸化し、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド、並びに炭素数3及び4の不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の反応生成物を製造することを特徴とする。
【0014】
本発明のスタートアップ方法及び製造方法(以下、単に本発明の方法ともいう)に用いられるプレート式反応器について説明する。
当該プレート式反応器は、伝熱プレート、伝熱プレートの間に形成された触媒層、及び触媒層の温度を制御するために用いられる常温で固体状の熱媒体を供給するための熱媒体流路を備えたプレート式反応器であれば、その形状等は特に限定されない。
【0015】
以下、上記プレート式反応器を詳細に説明する。
プレート式反応器の好適な第1の例として、特開2004−167448号公報に記載された反応器を挙げることができる。
すなわち、伝熱プレートに挟まれた空間内に触媒を充填して反応帯域が形成され、伝熱プレートの外側に熱媒体が供給される熱媒体流路を有するプレート式反応器が挙げられる。
上記プレート式反応器に供給される反応ガスの方向は伝熱プレートに沿って流れ、熱媒体は伝熱プレートの外側に供給される。当該熱媒体の流れ方向は、特に制限は無いが、工業的規模での反応装置には通常、多量の触媒を収容する必要があり、多数の伝熱プレート対が設置されるので、反応ガスの流れと直角方向が都合よい。
【0016】
プレート式反応器の好適な第2の例として、特開2004−202430号公報に記載された反応器を挙げることができる。
すなわち、円弧或いは楕円弧に賦形された波板の2枚を対面させ、当該両波板の凸面部を互いに接合して複数の熱媒体流路を形成した伝熱プレートを、複数配列してなりかつ隣り合った伝熱プレートの波板凸面部と凹面部とが対面して所定間隔の触媒層を形成したプレート式反応器が挙げられる。
上記プレート式反応器に供給される反応ガスの方向は伝熱プレートの外側に沿って流れ、熱媒体は伝熱プレートの内側に供給される。当該熱媒体の流れ方向は、反応ガスの流れに対して直角方向、即ち十字流の方向に流れる。
【0017】
該プレート式反応器の第2の例を、図1〜図5に基づいて具体的に説明する 図1において、(1)は2枚の波板を対面させて形成された伝熱プレートであり、(2)は当該伝熱プレート(1)の内側に形成された複数の熱媒体流路であり、また(3)は隣り合う2枚の伝熱プレート(1)に挟まれた空間である。該空間に触媒が充填され触媒層が形成される。反応原料ガスは反応ガス入口(4)より供給され、触媒層を通過し、反応によって目的生成物が生産された後、反応ガス出口(5)よりプレート式反応器の外に排出される。当該反応原料ガスの流れ方向に制限はないが、通常、下降流か、或いは上昇流に設定される。
また、熱媒体は伝熱プレート(1)の内側に形成された複数の熱媒体流路(2)に供給され、反応原料ガスの流れ方向に対して十字流の方向に流される。供給された熱媒体は、伝熱プレート(1)を通して、発熱反応の場合は触媒層を冷却し、一方、吸熱反応の場合は触媒層を加熱した後にプレート式反応器の外に排出される。
【0018】
図2〜図5によって上記伝熱プレート(1)の構成を更に詳しく説明する。
図2において、(1)は2枚の波板(11)を接合して形成された伝熱プレート(1)である。該波の形状は円弧の一部で構成されているが、特に限定されず、製作の都合や反応原料ガスの流動を考慮して決定することができる。また、波の高さ(H)と波の周期(L)も特に制限はないが、高さ(H)は5〜50mm、周期(L)は10〜100mmが適当であるが、触媒層内での反応に伴う反応熱とそれを除熱或いは加熱する熱媒体の流量から決定される。
【0019】
図3〜図5[図3は図1のIII部の拡大図であり、図4は図1のIV部の拡大図であり図5は図1のV部の拡大図である]はそれぞれ反応原料ガスの入口近傍部分、中間部及び反応原料ガスの出口近傍の伝熱プレート(1)の形状を示す。
該伝熱プレート(1)は、円弧又は、楕円弧或いは矩形に賦形された波板(11)の2枚を対面させ、その波板(11)の凸面部(a)を互いに接合して複数の熱媒体流路(2)が形成されたものである。そして、隣り合う2枚の伝熱プレート(1)の波板凸面部(a)と波板凹面部(b)とを所定間隔で対面させて空間(3)が形成される。
ここで、図中のS1、S2、及びS3は、上記隣り合う2枚の伝熱プレート(1)に挟まれた空間(3)の最小間隔を示す。該S1、S2、及びS3は波板(11)に賦形される円弧又は、楕円弧或いは矩形の形状を適宜変えることにより変化させることができる。また、図3〜図5において、最小間隔は、S1<S2<S3に設定されている。
上記S1は5〜20mm、S2は10〜30mm、S3は15〜50mm程度に設定されることが一般的である。好ましくは、S1は10〜15mm、S2は15〜20mm、S3は20〜40mmが選定される。
【0020】
図1において、配列された隣り合う伝熱プレート(1)の間隔は、反応ガス入口(4)の位置における間隔(P1)と反応ガス出口(5)の位置における間隔(P2)とは同寸法である。即ち、隣り合う伝熱プレート(1)は互いに平行に複数配列して配置されている。該伝熱プレート(1)の薄板の板厚には、2mm以下、好適には1mm以下の鋼板が用いられる。
【0021】
伝熱プレート(1)の反応ガス流れ方向の長さは通常2メートル(m)以下で、2m以上の時は2枚のプレートを接合するか、組み合わせて用いることもできる。
伝熱プレート(1)の反応ガスの流れ方向と直角の方向(図1では紙面に垂直方向の奥行き)の長さは特に制限はなく、通常3から15mが用いられる。好ましくは6から10mである。
また、伝熱プレート(1)の反応ガスの流れ方向と直角の方向には、隣り合う2枚の伝熱プレート(1)の間に、各伝熱プレート(1)と直交するように仕切り板を設置することができる。該仕切り板は、触媒の充填性、反応器のメンテナンス性を考慮して、設置間隔が適宜選択される。該設置間隔は20〜1000ミリメートルであることが好ましい。
伝熱プレート(1)は図3〜図5に示した配置と同様に積層され、積層される枚数には制限は無い。実際的には、反応に必要な触媒量から決定されるが、数十枚から数百枚である。また、目的物の生産量のために必要なプレート式反応器全体の触媒充填量は、用いる触媒の反応速度や反応原料中の原料成分濃度などによって決定され、それぞれのプレート式反応器によって異なる。
【0022】
本発明の方法に用いられる熱媒体について説明する。
本発明においては、反応器による上記反応原料の接触気相酸化反応の温度コントロールに必要な温度範囲、通常は、200〜500℃(好ましくは250〜500℃)の温度範囲で使用できる、常温で固体状の熱媒体が用いられる。また、固体の熱媒体の溶融操作時の熱源(例えば、化学プラントで入手容易な蒸気など)の温度などから、当該熱媒体の凝固点は、50〜250℃であることが好ましく、130〜180℃であることがより好ましい。
上記熱媒体としては、溶融塩(ナイター)が好適に例示できる。ナイターは、化学反応の温度コントロールに使用される熱媒体のうちで特に熱安定性に優れ、液体金属と比較し、空気中の酸素や水蒸気と接触しても急激な変化が無く、取り扱いが容易であることから好ましい。特に550℃以下の高温において、最も優れた熱安定性を有する。
また、ナイターは、上述の如く溶融塩であり、組成の異なる複数の種類が存在し、その組成によって凝固点が異なる。本発明においては、何れの組成のナイターであっても、上記の凝固点を有する限り、好適に使用することが出来る。斯かるナイターに使用される化合物としては、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウムがあり、これらを単独で又は2種以上を混合して使用することが出来る。例えば、硝酸ナトリウム(7%)、亜硝酸ナトリウム(44%)及び硝酸カリウム(49%)の混合物が、ナイターとして用いられる共融混合物として一般的に知られており、当該組成のナイターの凝固点が最も低く、142℃である。また、硝酸ナトリウム(50%)、及び硝酸カリウム(50%)の混合物の凝固点は222℃である。一方、凝固点温度を下げたい時には、ナイターに水を少量添加することで、凝固点を常温程度まで下げることが可能であるが、反応時の高温状態では水蒸気の発生や水による硝酸塩類の加水分解等、弊害も考慮しなければならない。
また、上記温度100〜400℃で導入される昇温用ガスとしては、当該温度において、伝熱プレートの間に充填された触媒や反応原料と混合しても影響を与えない気体であれば特に制限はない。従って、充填された触媒や供給される反応原料の種類によっても異なるが、一般には空気、二酸化炭素及び水蒸気、並びに、窒素ガス、及びアルゴンガス等の不活性ガスを好適に使用できる。
ナイターは空気と接触しても急激な変化は無いので短期間の接触は問題ないが、空気中に存在する酸素によって、徐々にその酸化状態が変化し、ゆっくりと変質するので、長期間の接触は避け、長期的な接触としては窒素およびアルゴンガスが望ましい。
【0023】
本発明のスタートアップ方法においては、プレート式反応器内の温度を予め熱媒体の凝固点以上にするため、伝熱プレートの間に形成された触媒層及び/又は熱媒体流路に、温度100〜400℃の昇温用ガスを導入して、当該触媒層内及び/又は熱媒体流路内の温度を熱媒体の凝固点温度以上に昇温し、次いで凝固点温度以上に加温された熱媒体を熱媒体流路に供給する。
また、熱媒体の再凝固防止の観点から、上記触媒層内及び/又は熱媒体流路内の温度を熱媒体の凝固点温度以上に昇温した後、2時間以内に、凝固点温度以上に加温された熱媒体を前記熱媒体流路に供給することが好ましい。
【0024】
上記スタートアップの過程を、図6を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図6において、符号(50)で示されるプレート式反応器は、複数の伝熱プレート、伝熱プレートの間に形成された触媒層、及び触媒層の温度を制御するために用いられる熱媒体を供給するための熱媒体流路を備え、図示した例においては、プロセスガスはダウンフローで供給される。
ライン(L1)、(L2)、(L3)、(L4)はプロセスラインを構成し、ライン(L6)、(L7)、(L8)、(L9)、(L10)、(L12)、(L13)、(L14)は熱媒体ラインを構成し、ライン(L15)と(L16)は昇温の際に使用する放出ラインである。なお、図中、記号○●−及び●○−は、スペクタクルブラインド(SB)、いわゆる仕切板を表し、配管中にSBを挿入し、流路の開閉が行なわれる。上記の前者の記号は開状態、後者の記号は閉状態を表す。
【0025】
第一に、プレート式反応器内の温度を予め熱媒体の凝固点以上にするため、伝熱プレートの間に形成された触媒層に温度100〜400℃の昇温用ガスを導入して、触媒層内及び/又は熱媒体流路内の温度を熱媒体の凝固点温度以上に昇温し、次いで凝固点温度以上に加温された熱媒体を熱媒体流路に供給する方法(以下、第一の方法ともいう)を説明する。
【0026】
触媒を充填したプレート式反応器(50)に、ヒーター(24)で温度100〜400℃に加熱された昇温用ガスをブロワー(10)によって導入する。該昇温用ガスは、プレート式反応器(50)の下部ヘッダーを経て反応器外に導出させるが、該昇温用ガスの導入によってプレート式反応器(50)の内部、特に伝熱プレートの熱媒体流路が、伝熱プレートの触媒層側から昇温される。この操作により、熱媒体流路内の温度は後に供給される熱媒体の凝固点以上となるように昇温される。このとき、当該昇温の確認は、伝熱プレートの触媒層温度を測定する温度計、熱媒体流路、又は伝熱プレートの触媒層のガス出口部に設置された温度測定器を用いて行うことができる。
上記触媒層温度を測定する温度計の利用は、プロセス反応を監視する目的で設置されることから、多数点の温度が監視でき、従って、反応器全体の温度分布、温度上昇経過、及び局部的な温度偏差の監視が可能である観点より、好ましい。
具体的な温度は、使用される熱媒体の凝固点温度に依存するが、使用する熱媒体の凝固点が50〜250℃の場合、触媒層のガス出口部の温度(好ましくは、触媒層内全体の温度)が、60〜400℃であることが好ましく、80〜380℃であることがより好ましく、100〜350℃であることが特に好ましい。
なお、触媒層のガス出口部の温度が上記範囲であれば、その後に熱媒体を供給しても、熱媒体の再凝固を生ずることがない。しかしながら、触媒層内の温度を、許容範囲を超えて上昇させた場合、触媒損傷の可能性があるので、注意を要する。
【0027】
次いで、プレート式反応器(50)の第1伝熱プレート(51)および第2伝熱プレート(52)にそれぞれ熱媒体を導入し、各伝熱プレート内の温度を上昇させる。
【0028】
第二に、プレート式反応器内の温度を予め熱媒体の凝固点以上にするため、伝熱プレートの熱媒体流路に温度100〜400℃の昇温用ガスを導入して、触媒層内及び/又は熱媒体流路内の温度を熱媒体の凝固点温度以上に昇温し、次いで凝固点温度以上に加温された熱媒体を熱媒体流路に供給する方法(以下、第二の方法ともいう)を説明する。
【0029】
先ず、ライン(L3)にSB(61)を挿入し(即ち流路を閉状態とし)、通常運転時に使用される、プレート式反応器(50)の伝熱プレートの間に形成された触媒層への供給ラインを閉とし、ライン(L5)のSB(62)及びSB(63)を外し(即ち流路を開状態とし)、ライン(L1)→ブロワー(10)→ライン(L2)→ライン(L5)→ライン(L6)→ヒーター(21)→ライン(L7)及びライン(L8)→タンク(30)→ライン(L9)から成るプレート式反応器(50)の熱媒体流路へのラインを確立する。なお、この際、ライン(L5)のバルブ(71)は閉状態とされている。また、ライン(L15)のSB(64)及びライン(L16)のバルブ(72)を開状態として導入した昇温用ガスを放出する。
【0030】
次に、ブロワー(10)を起動し、ヒーター(21)により温度100〜400℃に加熱された昇温用ガスを、プレート式反応器(50)に設置された伝熱プレートの熱媒体流路に導入する。この昇温用ガスにより、伝熱プレートの熱媒体流路が直接昇温される。この操作により、当該熱媒体流路内の温度は、後に供給される熱媒体の凝固点以上となるように昇温される。
このとき、当該昇温の確認は、熱媒体流路部、ヒーター部、及び熱媒体循環ポンプなどの熱媒循環系の測定部に設置された温度測定器を用いて行うことができる。
具体的な温度は、使用される熱媒体の凝固点温度に依存するが、使用する熱媒体の凝固点が50〜250℃の場合、上記熱媒循環系の測定部の温度(好ましくは、熱媒循環系の測定部における昇温用ガスの温度)が、60〜400℃であることが好ましく、80〜380℃であることがより好ましく、100〜350℃であることが特に好ましい。特に、昇温用ガスの出口付近のガス温度が上記温度内であることを確認するとよい。
上記測定部の温度が上記範囲であれば、その後に熱媒体を供給しても、熱媒体の再凝固を生ずることがない。なお、上記操作中、伝熱プレートの触媒層側は空気雰囲気に保つことが好ましい。
なお、上記昇温用ガスを温度100〜400℃へ加熱する場合、プレート式反応器に設置される熱媒体の温度調整用の機器と併用することも可能である。上記加熱の方法として、上記以外にも、電気ヒーター、蒸気を用いて加熱する熱交換器、或いはLPGなどの可燃燃料を燃焼させた加熱炉を用いる方法、及びLPGなどの可燃燃料の燃焼ガスそのものを昇温用ガスに混合する方法が挙げられる。
【0031】
次に、ブロワー(10)を停止し、ライン(L5)のSB(62)、ライン(L15)のSB(64)を閉状態とし、ライン(L16)のバルブ(72)を閉状態とし、ポンプ(41)及び(42)を起動し、プレート式反応器(50)の第1伝熱プレート(51)及び第2伝熱プレート(52)の熱媒体流路にそれぞれ熱媒体を導入し、各熱媒体流路システム内に付属するポンプ(43)及び(44)を使用して熱媒体を循環させ、各熱媒体流路内の温度を上昇させる。
【0032】
上記の各操作は素早く行うことが好ましい。好ましくは2時間以内(より好ましくは1時間以内)に行う。時間が掛かり過ぎる場合は、放熱により熱媒体流路の温度が下がってしまうため、熱媒体を導入する際に熱媒体が再凝固する恐れがある。
【0033】
常温で固体の熱媒体を使用して熱交換を行う場合には、プレート式反応器(50)の使用後に熱媒体をタンク(30)に全量回収することが多く、斯かる場合、熱媒体は、プレート式反応器(50)内にはほとんど残存させずにタンク(30)に収納する。従って、タンク(30)内の熱媒体が流動性を確保できる程度にヒーター(22)及び(23)で加温し、次いで、プレート式反応器(50)へ導入される。
【0034】
プレート式反応器(50)への熱媒体の導入は次の様な2つのルートを通して行なわれる。すなわち、熱媒体は、タンク(30)の熱媒体ポンプ(41)により、ライン(L13)、(L14)、(L6)、(L7)を経て第1伝熱プレート(51)の熱媒体流路に供給され、また、タンク(30)の熱媒体ポンプ(42)により、ライン(L12)及び(L10)を経て第2伝熱プレート(52)の熱媒体流路に供給される。
【0035】
次いで、第1及び第2伝熱プレートの熱媒体流路に導入された熱媒体は、付属するポンプ(43)及び(44)によって各熱媒体流路内を循環させる。何故ならば、当初に加温した熱媒体を導入し且つ循環させるだけでは各熱媒体流路内の温度を目的温度に昇温することが出来ない場合がある。そのため、必要に応じて熱媒体を循環させ、ヒーター(21)及び(23)で加温した後に再度各熱媒体流路に導入する。
【0036】
上記の様にして、熱媒体の循環によりプレート式反応器(50)が必要な温度を確保できた場合は、反応原料ガスを伝熱プレートの触媒層側に供給し、目的生成物の製造をスタートすることが出来る。
上記第一の方法及び第二の方法は、単独で実施することも、組み合わせて実施することも可能である。特に、第二の方法は、加熱操作終了後、上述のようにラインの切り替え等の復旧作業に時間が掛かるため、第一の方法と併用することがより好ましい形態である。
【0037】
上述のように、本発明の製造方法は、本発明のスタートアップ方法の後、熱媒体の供給温度が調整されたプレート式反応器に、反応原料を含む反応原料混合物を供給し、反応生成物を製造する製造方法に関する。
上記製造方法は、伝熱プレートの間に形成された触媒層に反応原料を含む反応原料混合物を供給し、反応により生じた反応熱を、伝熱プレートを隔てて、熱媒体により除熱又は加熱することで、反応温度の制御を行うプレート式反応器で製造可能なあらゆる反応生成物の製造に適用されうる。
具体的には、(1)エチレンと酸素から酸化エチレンの製造、(2)炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種、または、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種と、酸素から、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド、並びに炭素数3及び4の不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の反応生成物の製造、(3)炭素数4以上の脂肪族炭化水素(例えば、n−ブタン、1−ブテン、2−ブテン、ブタジエン、イソブタン、イソブチレン)又はベンゼンと、酸素からマレイン酸の製造、(4)キシレン又はナフタレンと酸素からフタル酸の製造、(5)オレフィンの水素化によるパラフィンの製造、(6)ブテンの酸化脱水素によるブタジエンの製造、(7)エチルベンゼンの酸化脱水素などによるスチレンの製造が、挙げられる。
また、これら製造における反応条件は、公知の反応条件を適用することが可能である。
【0038】
上記反応条件における反応温度は、各反応によって異なり、通常反応温度が高い反応を制御するために用いられる熱媒体は、常温では固体状態で存在する熱媒体であることが多い。ここで、当該熱媒体として好適な溶融塩(ナイター)であっても安定的に存在しうる温度範囲を超えた高温では塩分解が発生し使用できないこともあると文献などに示されている。従って、熱媒体として溶融塩(ナイター)を使用する場合は、ナイターが安定的に存在しうる温度範囲(200〜500℃)と、反応生成物を製造する時に使用する熱媒体の温度範囲が一致する態様が好ましい態様であるといえる。
この観点から、本発明の製造方法は、本発明のスタートアップ方法の後、熱媒体の供給温度が調整されたプレート式反応器に、炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種、または、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種、並びに、分子状酸素を含む反応原料混合物を供給し、反応原料を接触気相酸化し、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド、並びに炭素数3及び4の不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の反応生成物を製造する製造方法であることがより好ましい態様である。
【0039】
本発明の製造方法に用いられる反応原料は、上記製造に適用されうる反応原料であれば、特に限定されない。以下、上記(2)に係る製造、及び該製造に適用される反応原料の例を説明する。
上記(2)に用いられる反応原料は、炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種、または、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種である。
上記炭素数3の炭化水素としては、プロピレン、プロパンが挙げられる。
上記炭素数4の炭化水素としては、イソブチレン、ブタンが挙げられる。
上記炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドとしては、アクロレイン、メタクロレインが挙げられる。これら反応原料の状態は、限定されないが、ガス(反応原料ガス)の状態であることが好ましい。
また、上記反応生成物である炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド、並びに炭素数3及び4の不飽和脂肪酸における、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドとしては、アクロレイン、メタクロレインが挙げられ、炭素数3及び4の不飽和脂肪酸としては、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられる。
【0040】
上記プレート式反応器に供給される上記反応原料混合物は、反応原料、分子状酸素、及び必要に応じて窒素や水蒸気などの反応に不活性なガスを含む。
上記反応原料は、1種のみの構成としてもよく、また2種以上を混合した混合物(例えば、混合ガス)としてもよい。上記反応原料混合物(例えば、反応ガス混合物)の組成は、目的に応じて適宜選択される。
上記反応原料の、上記反応原料混合物に対する含有量は、特に限定されないが、反応原料の総量として、5〜13モル%であることが好ましい。また、上記分子状酸素の、上記反応原料混合物に対する含有量は、反応原料の総量の1〜3倍量であることが好ましい。
上記不活性なガスの、上記反応原料混合物に対する含有量は、上記反応原料混合物全量から反応原料の総量と分子状酸素量を除いた値となる。なお、上記不活性なガスは、反応系から排出される排気ガスを再循環した不活性ガスを用いてもよい。
【0041】
本発明の製造方法には、目的に応じて、公知の触媒を用いることが可能である。
触媒の組成としては、モリブデン、タングステン、ビスマスなどを含む金属酸化物、または、バナジウムなどを含む金属酸化物が挙げられる。該組成の金属酸化物粉末を、球状、ペレット状、リング状、サドル状、または星形に成型し、高温で焼成して触媒として用いる。
また、触媒の形状は、公知の形状が採用でき、直径が1〜15mm(ミリメートル)の球状、または楕円形以外の形状で1〜15mmの相当直径を有するペレット状、あるいは円柱の円柱中心に穴の開いたリング状の形状のもので、円外径が1〜10mm、円内径が0.1〜3mm、高さが1〜10mmの形状が好適に用いられる。上記直径、相当直径、円外径及び高さが、3〜5mmの触媒がより好ましい。
【0042】
反応原料がプロピレンの場合、上記金属酸化物として、下記一般式(1)で表される化合物が好適に例示される。
Mo(a)Bi(b)Co(c)Ni(d)Fe(e)X(f)Y(g)Z(h)Q(i)Si(j)O(k)・・・式(1)
上記式(1)中、Moはモリブデン、Biはビスマス、Coはコバルト、Niはニッケル、Feは鉄、Xはナトリウム、カリウム、ルビジュウム、セシウム及びタリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素、Yはほう素、りん、砒素及びタングステンからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素、Zはマグネシウム、カルシウム、亜鉛、セリウム及びサマリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素、Qはハロゲン元素、Siはシリカ、Oは酸素を表す。
また、a、b、c、d、e、f、g、h、i、j及びkは、それぞれMo、Bi、Co、Ni、Fe、X、Y、Z、Q、Si及びOの原子比を表し、モリブデン原子(Mo)が12のとき、0.5≦b≦7、0≦c≦10、0≦d≦10、1≦c+d≦10、0.05≦e≦3、0.0005≦f≦3、0≦g≦3、0≦h≦1、0≦i≦0.5、0≦j≦40であり、kは各元素の酸化状態によって決まる値である。
【0043】
一方、反応原料がアクロレインの場合、上記金属酸化物として、下記一般式(2)で表される化合物が好適に例示される。
Mo(12)V(a)X(b)Cu(c)Y(d)Sb(e)Z(f)Si(g)C(h)O(i)・・・式(2)
上記式(2)中、XはNb及びWからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示す。YはMg、Ca、Sr、BaおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示す。ZはFe、Co、Ni、Bi、Alからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示す。但し、Mo、V、Nb、Cu、W、Sb、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Fe、Co、Ni、Bi、Al、Si、CおよびOは元素記号である。
a、b、c、d、e、f、g、hおよびiは各元素の原子比を表し、モリブデン原子(Mo)12に対して、0<a≦12、0≦b≦12、0≦c≦12、0≦d≦8、0≦e≦500、0≦f≦500、0≦g≦500、0≦h≦500であり、iは前記各成分のうちCを除いた各成分の酸化度によって決まる値である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0045】
本発明において用いられる、反応原料ガスの転化率、目的生成物の選択率、目的生成物の収率、及び反応原料ガスの負荷量の計算方法を下記に記す。
<1>反応原料ガス(プロピレン、アクロレイン等)の転化率[%] =
(反応器で他物質に転化した反応原料ガスのモル数)/(反応器に供給された反応原料ガスのモル数)×100
<2>目的生成物の選択率[%] =
(反応器出口における目的生成物のモル数)/(反応器で他物質に転化した反応原料ガスのモル数)×100
<3>目的生成物の収率[%] =
(反応器出口における目的生成物のモル数)/(反応器に供給された反応原料ガスのモル数)×100
<4>反応原料ガスの負荷量[NL/L・hr] =
(反応原料ガスの毎時供給量L[リットル][標準状態(0℃、101.325kPa)換算]/反応に供される触媒量L[リットル]
ここで、標準状態とは、温度0℃、101.325kPaにおかれた状態をいう。
【0046】
<実施例1>
プロピレンを分子状酸素により接触気相酸化し、アクリル酸を製造するに当たり、プロピレンからアクロレインおよびアクリル酸に転換する触媒として、Mo(12)Bi(5)Co(3)Ni(2)Fe(0.4)Na(0.4)B(0.2)K(0.08)Si(24)O(x)、の組成の金属酸化物粉末を調製し、これを成型して外径4mmφ、及び高さ3mmのリング形状の触媒を得た。ここで、O(x)の(x)は各金属酸化物の酸化状態によって定まる値である。
プレート式反応器は図1に示す構造のものを用いた。波形形状の薄いステンレスプレート(板厚1mm)を2枚接合して反応温度調節用の熱媒体流路を形成した。図2に示す波形形状の周期(L)、高さ(H)及び波数を表1に示す。
該接合された波形伝熱プレートに、上記触媒を充填して触媒層を形成した。触媒層は波形形状の仕様によって、表1に示すように、反応ガスの流れ方向の上流から第1反応帯域(図1におけるIII)、第2反応帯域(図1におけるIV)及び第3反応帯域(図1におけるV)に分割した。波形伝熱プレートは図1に示すように平行に設置し、その間隔(図1に示すP1及びP2)を26mmに調整した。伝熱プレートの幅は114mmであった。
【0047】
【表1】

【0048】
上記プレート式反応器に、上記触媒を3.1L充填した。
次いで、熱媒体供給ライン及び熱媒体流路に沿って設置した配管(トレースライン)に、加温用の水蒸気を、1.5MPa、200℃にて供給した。
その後、ヒーターにて加熱した100℃の空気を200リットル毎時[標準状態(温度0℃、101.325kPa)換算]で、当該プレート式反応器の触媒層に供給した。
プレート式反応器の伝熱プレートの触媒層の出口部に設置した温度測定器が60℃となった後、上記加熱空気の温度を200℃、流量を140リットル毎時[標準状態(温度0℃、101.325kPa)換算]として反応器の加熱を継続した。
上記伝熱プレートの触媒層の出口部に設置した温度測定器が170℃となった後、上記加熱空気の温度を250℃、流量を100リットル毎時[標準状態(温度0℃、101.325kPa)換算]として反応器の加熱を継続した。
また、上記伝熱プレートの触媒層の出口部に設置した温度測定器が170℃となった後に、硝酸塩の混合物(凝固点145℃)である熱媒体を上記熱媒体流路へ供給した。
【0049】
上記熱媒体の温度を300℃に調整した後、プロピレンを9.5モル%、酸素15.1モル%、窒素67.4モル%及び水蒸気8.0モル%を含有する反応ガス混合物を、5,670リットル毎時[標準状態(温度0℃、101.325kPa)換算]の割合で、上記プレート式反応器の入口(第1反応帯域)から供給した。また、第1反応帯域、第2反応帯域、及び第3反応帯域の熱媒体流路へ供給された熱媒体の温度はそれぞれ340℃、330℃、及び330℃に調節した。上記プレート式反応器入口の圧力は0.107MPaG(メガパスカルゲージ)であった。
出口ガスをガスクロマトグラフィで分析したところ、プロピレンの転化率は97.5%、アクリル酸の収率は10.4%、アクロレインの収率は81.1%であった。
上記方法を用いることで、熱媒体流路へ供給された熱媒体の再凝固を生ずることなく、効率的にプレート式反応器をスタートアップさせることができた。
【符号の説明】
【0050】
1 伝熱プレート
2 熱媒体流路
3 空間
4 反応ガス入口
5 反応ガス出口
7 支持体
8 突起
11 波板
a 波板の凸面部
b 波板の凹面部
P1 反応ガス入口(4)の位置における間隔
P2 反応ガス出口(5)の位置における間隔
L 波の周期
H 波の高さ
S1、S2、S3 隣り合う2枚の伝熱プレートに挟まれた空間の最小間隔
10:ブロワー
21、22、23、24:ヒーター
30:タンク
41、42、43、44:ポンプ
50:プレート式反応器
51:第1伝熱プレート
52:第2伝熱プレート
61、62、63、64:スペクタクルブラインド
71、72:バルブ
L1、L2、L3、L4:プロセスライン
L6、L7、L8、L9、L10、L12、L13、L14:熱媒体ライン
L15、L16:昇温の際に使用する放出ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の伝熱プレート、前記伝熱プレートの間に形成された触媒層、及び前記触媒層の温度を制御するために用いられる常温で固体状の熱媒体を供給するための熱媒体流路を備えたプレート式反応器において、前記伝熱プレートの間に形成された触媒層及び/又は前記熱媒体流路に、温度100〜400℃の昇温用ガスを導入して、前記触媒層内及び/又は前記熱媒体流路内の温度を前記熱媒体の凝固点温度以上に昇温し、次いで凝固点温度以上に加温された前記熱媒体を前記熱媒体流路に供給することを特徴とする、プレート式反応器のスタートアップ方法。
【請求項2】
常温で固体状の熱媒体が、凝固点50〜250℃の熱媒体であることを特徴とする、請求項1に記載のプレート式反応器のスタートアップ方法。
【請求項3】
前記熱媒体がナイターであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のプレート式反応器のスタートアップ方法。
【請求項4】
前記触媒層内及び/又は前記熱媒体流路内の温度を前記熱媒体の凝固点温度以上に昇温した後、2時間以内に、凝固点温度以上に加温された前記熱媒体を前記熱媒体流路に供給することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のプレート式反応器のスタートアップ方法。
【請求項5】
前記熱媒体を昇温する温度が、60〜400℃であることを特徴とする、請求項2から4のいずれか1項に記載のプレート式反応器のスタートアップ方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のスタートアップ方法によりスタートアップした後、熱媒体の供給温度が調整されたプレート式反応器に、反応原料を含む反応原料混合物を供給し、反応生成物を製造する製造方法であって、
前記反応原料及び前記反応生成物の関係が、下記(1)〜(7)のいずれか一であることを特徴とする、製造方法。
(1)前記反応原料がエチレンであり、前記反応生成物が酸化エチレンである。
(2)前記反応原料が炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種、又は、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記反応生成物が炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド、並びに炭素数3及び4の不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
(3)前記反応原料が炭素数4以上の脂肪族炭化水素又はベンゼンであり、前記反応生成物がマレイン酸である。
(4)前記反応原料がキシレン又はナフタレンであり、前記反応生成物がフタル酸である。
(5)前記反応原料がオレフィンであり、前記反応生成物がパラフィンである。
(6)前記反応原料がブテンであり、前記反応生成物がブタジエンである。
(7)前記反応原料がエチルベンゼンであり、前記反応生成物がスチレンである。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載のスタートアップ方法によりスタートアップした後、熱媒体の供給温度が調整されたプレート式反応器に、炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種、または、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種、並びに、分子状酸素を含む反応原料混合物を供給し、前記反応原料を接触気相酸化し、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド、並びに炭素数3及び4の不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の反応生成物を製造することを特徴とする、製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−262136(P2009−262136A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75690(P2009−75690)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000176763)三菱化学エンジニアリング株式会社 (85)
【Fターム(参考)】