説明

プログラム、運転曲線作成装置及び実績ダイヤ推定装置

【課題】列車の走行を模擬する列車運行シミュレーションにおいて、駅間走行時分の算出を行う新たな手法の提供。
【解決手段】列車ダイヤを構成する各列車スジを発着駅間で分割した断片スジそれぞれについて、発着駅間の運転曲線を作成して駅間走行時分を算出することで、列車ダイヤに従った運行を想定した実績ダイヤが作成される。駅間の運転曲線の作成は、発時刻における信号現示に従って発着駅間の仮の運転曲線aが作成され、この仮の運転曲線のうち、信号現示の変化時刻に対応する列車位置以降の部分が、変化後の信号現示に従ってbに示すように更新されることで実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所与の発着駅間の運転曲線を作成させるためのプログラム等に関する。
【背景技術】
【0002】
作成した列車ダイヤの評価や検証のために、列車の走行を模擬する列車運行シミュレーションが用いられている。特に、都心部など、列車間隔が狭く少しの遅延が後続の列車の遅延を引き起こすような密な列車ダイヤについては、駅間走行時分の予測精度を高めるために、列車の走行をより詳細に模擬する列車運行シミュレーションが求められている。このような機能を持つ列車運行シミュレータでは、微少な単位時間毎に、運動方程式を解きながら列車の位置と速度を計算することで、列車運行を詳細に模擬している(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】明日香 昌,駒谷 喜代俊、「ミクロモデルとマクロモデルによる列車運行シミュレーションの結合」、電気学会論文誌.C,電子・情報・システム部門誌、116巻10号、1996年9月20日発行、p.1134−1140
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の列車運行シミュレーションでは、例えば1秒といった微少な時間間隔で時刻を進めながら、列車の位置と速度を算出しているため、処理時間が膨大となるという欠点があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、列車の走行を模擬する列車運行シミュレーションにおいて、駅間走行時分の算出を行う新たな手法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の形態は、
コンピュータに、所与の発着駅間の閉そく区間に係る信号の時間経過に対する現示の変化を定めた信号現示遷移情報に基づいて、当該発着駅間の運転曲線を作成させるためのプログラムであって、
所与の発時刻における前記信号の現示である発時点現示を前記信号現示遷移情報から判定する発時点現示判定手段、
前記発時刻において発駅を発車した場合の前記発着駅間の仮の運転曲線を、前記発時点現示を用いて作成する初期作成手段、
前記信号の現示が変化する現示変化時刻及び変化後現示を前記信号現示遷移情報から判定する現示変化判定手段、
前記現示変化時刻における走行位置を前記仮の運転曲線に基づいて判定する走行位置判定手段、
前記仮の運転曲線のうち、前記現示変化時刻における前記走行位置以降の運転曲線の部分を、前記変化後現示を用いて作成して更新する更新手段、
として前記コンピュータを機能させ、前記更新手段により更新された最終的な運転曲線を前記発着駅間の運転曲線とするプログラムである。
【0007】
また、他の形態として、
所与の発着駅間の閉そく区間に係る信号の時間経過に対する現示の変化を定めた信号現示遷移情報に基づいて、当該発着駅間の運転曲線を作成する運転曲線作成装置であって、
所与の発時刻における前記信号の現示である発時点現示を前記信号現示遷移情報から判定する発時点現示判定手段と、
前記発時刻において発駅を発車した場合の前記発着駅間の仮の運転曲線を、前記発時点現示を用いて作成する初期作成手段と、
前記信号の現示が変化する現示変化時刻及び変化後現示を前記信号現示遷移情報から判定する現示変化判定手段と、
前記現示変化時刻における走行位置を前記仮の運転曲線に基づいて判定する走行位置判定手段と、
前記仮の運転曲線のうち、前記現示変化時刻における前記走行位置以降の運転曲線の部分を、前記変化後現示を用いて作成して更新する更新手段と、
を備え、前記更新手段により更新された最終的な運転曲線を前記発着駅間の運転曲線とする運転曲線作成装置を構成しても良い。
【0008】
この第1の形態等によれば、閉そく区間に係る信号の時間経過に対する現示の変化を定めた信号現示遷移情報に基づいて、所与の発着駅間の運転曲線が作成される。具体的には、先ず、発時刻における信号現示(発時点信号現示)を用いて発着駅間の仮の運転曲線が作成され、次いで、この仮の運転曲線のうち、信号現示の変化時刻における走行位置以降の部分が変化後の信号現示(変化後信号現示)を用いて更新さる。そして、最終的な運転曲線が、発着駅間の運転曲線とされる。このように、微少な時間間隔でシミュレーション時刻を進めていくような従来とは異なる新たな手法によって、所与の発着駅間の運転曲線の作成を行うことができる。
【0009】
また、第2の形態として、
コンピュータに、所与の路線のダイヤデータから実績ダイヤを推定させるためのプログラムであって、
前記路線に係る各信号の時間経過に対する現示の変化を定めた信号現示遷移情報を初期設定する信号現示遷移情報初期設定手段、
前記ダイヤデータを構成する各列車スジを発着駅間で分割した断片スジの中から前記ダイヤデータの時系列順に処理対象断片スジを順次選択する断片スジ選択手段、
前記処理対象断片スジに係る運転曲線を作成する運転曲線作成手段、
前記運転曲線作成手段により作成された運転曲線を用いて前記信号現示遷移情報を更新する信号現示遷移情報更新手段、
前記運転曲線作成手段により作成された運転曲線を用いて、前記処理対象断片スジに係る発着駅間の実績ダイヤを決定する断片スジ部分決定手段、
として前記コンピュータを機能させるとともに、
前記運転曲線作成手段が、
前記処理対象断片スジに係る発時刻における発時点現示を前記信号現示遷移情報から判定する発時点現示判定手段と、
前記発時刻に前記発駅を発車した場合の前記処理対象断片スジに係る発着駅間の仮の運転曲線を、前記発時点現示を用いて作成する発時点運転曲線作成手段と、
前記処理対象断片スジに係る発着駅間の信号の現示が変化する現示変化時刻及び変化後現示を前記信号現示遷移情報から判定する現示変化判定手段と、
前記現示変化時刻における前記処理対象断片スジ中の走行位置を前記仮の運転曲線に基づいて判定する走行位置判定手段、
前記仮の運転曲線のうち、前記現示変化時刻における前記走行位置以降の運転曲線の部分を、前記変化後現示を用いて作成して更新する運転曲線更新手段と、
を有し、前記運転曲線更新手段により更新された最終的な運転曲線を前記処理対象断片スジに係る前記発着駅間の運転曲線とする、
ように前記コンピュータを機能させるためのプログラムを構成しても良い。
【0010】
また、他の形態として、
所与の路線のダイヤデータから実績ダイヤを推定する実績ダイヤ推定装置であって、
前記路線に係る各信号の時間経過に対する現示の変化を定めた信号現示遷移情報を初期設定する信号現示遷移情報初期設定手段と、
前記ダイヤデータを構成する各列車スジを発着駅間で分割した断片スジの中から前記ダイヤデータの時系列順に処理対象断片スジを順次選択する断片スジ選択手段と、
前記処理対象断片スジに係る運転曲線を作成する運転曲線作成手段と、
前記運転曲線作成手段により作成された運転曲線を用いて前記信号現示遷移情報を更新する信号現示遷移情報更新手段と、
前記運転曲線作成手段により作成された運転曲線を用いて、前記処理対象断片スジに係る発着駅間の実績ダイヤを決定する断片スジ部分決定手段と、
を備え、
前記運転曲線作成手段は、
前記処理対象断片スジに係る発時刻における発時点現示を前記信号現示遷移情報から判定する発時点現示判定手段と、
前記発時刻に前記発駅を発車した場合の前記処理対象断片スジに係る発着駅間の仮の運転曲線を、前記発時点現示を用いて作成する発時点運転曲線作成手段と、
前記処理対象断片スジに係る発着駅間の信号の現示が変化する現示変化時刻及び変化後現示を前記信号現示遷移情報から判定する現示変化判定手段と、
前記現示変化時刻における前記処理対象断片スジ中の走行位置を前記仮の運転曲線に基づいて判定する走行位置判定手段、
前記仮の運転曲線のうち、前記現示変化時刻における前記走行位置以降の運転曲線の部分を、前記変化後現示を用いて作成して更新する運転曲線更新手段と、
を有し、前記運転曲線更新手段により更新された最終的な運転曲線を前記処理対象断片スジに係る前記発着駅間の運転曲線とする、
実績ダイヤ推定装置を構成しても良い。
【0011】
この第2の形態等によれば、所与のダイヤデータを構成する各列車スジを発着駅間で分割した断片スジそれぞれにかかる運転曲線が作成され、この運転曲線を用いて発着駅間の実績ダイヤが決定される。断片スジにかかる運転曲線の作成は、発時刻における信号現示(発時点信号現示)を用いて発着駅間の仮の運転曲線が作成され、この仮の運転曲線のうち、信号現示の変化時刻における走行位置以降の部分が、変化後の信号現示を用いて更新されることで行われる、
【0012】
このように、実績ダイヤの推定において、駅間の走行時分の算出に必要な駅間運転曲線の作成を独立した処理として行うことができる。また、この駅間運転曲線の作成は、微少な単位時間毎に繰り返し運動方程式を解くなどして列車の位置及び速度を算出するといった従来とは異なる手法によって実現される。
【0013】
また、第3の形態として、第2の形態におけるプログラムであって、
前記運転曲線作成手段により作成された運転曲線に基づく前記処理対象断片スジに係る着時刻が、前記ダイヤデータに定められた着時刻より遅れた場合、当該処理対象断片スジに係る列車スジの当該処理対象断片スジ以降の断片スジの発着時刻を遅らせるように再定義する遅延発生時断片スジ更新手段として前記コンピュータを更に機能させるためのプログラムを構成しても良い。
【0014】
この第3の形態によれば、作成された運転曲線に基づく処理対象断片スジにかかる着時刻が、ダイヤデータに定められた着時刻より遅れた場合、処理対象断片スジ以降の断片スジの発着時刻が遅らせられる。これにより、処理対象断片スジにかかる着時刻が大幅に遅れて、次の断片スジの発時刻と逆転したといった場合でも対処可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】列車運行シミュレーションの概要図。
【図2】駅間の構成例。
【図3】信号現示遷移の一例。
【図4】図3の信号現示遷移に従った運転曲線作成の一例。
【図5】信号現示遷移の一例。
【図6】図5の信号現示遷移に従った運転曲線作成の一例。
【図7】信号現示遷移の一例。
【図8】図7の信号現示遷移に従った運転曲線作成の一例。
【図9】列車運行推定装置の機能構成図。
【図10】断片スジの生成の説明図。
【図11】断片スジの発着時刻の変更の説明図。
【図12】列車運行推定処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。但し、本発明の適用可能な実施形態がこれに限定されるものではない。
【0017】
[原理]
本実施形態の列車運行シミュレーションは、所与の列車ダイヤに従って列車運行させた場合の実績ダイヤを作成(推定)するものである。具体的には、図1に示すように、駅間を単位として各列車の運転曲線(ランカーブ)を作成し、この運転曲線に基づいて駅間の走行時分を算出することで実績ダイヤを作成する。運転曲線は、例えば横軸を列車位置(キロ程)、縦軸を速度及び時間としたグラフによって表現することができ、定められた制限速度を守りつつ、その列車性能を充分に発揮して走行したときの速度変化を示した速度曲線と、この速度曲線に従って走行したときの時間変化を示した時間曲線とを含む。
【0018】
駅間の運転曲線は、信号現示遷移情報を用いて作成される。「信号現示遷移情報」とは、閉そく区間それぞれに対して信号現示の時間変化を定めた情報である。この信号現示遷移情報は、閉そく確保を実現するように定められるものであり、列車位置や進路設定等に基づいて定められる。なお、“信号現示”とは信号が示す符号のことで、赤・青・黄等の信号機の表示色の符号の他、制限速度を示す符号も含まれる。
【0019】
図2は、運転曲線作成の対象となる駅間の構成例を示す図である。図2では、発駅をA駅、着駅をB駅とした駅間を対象とした場合を示しており、この駅間には、5つの閉そく区間1T〜5Tが設けられている。閉そく区間1TはA駅を含み、閉そく区間5TはB駅を含んでいる。そしてこれらの閉そく区間1T〜5Tに対して、例えば図3に示すような信号現示遷移が定められている。
【0020】
図3は、信号現示遷移の一例を示す図である。図3においては、閉そく区間1T〜3Tの信号現示は「S2(青現示に相当)」で一定であり、閉そく区間4Tの信号現は、時刻t1までは「S1(黄現示に相当)」、時刻t1以降は「S2」であり、閉そく区間5Tの信号現示は、時刻t1までは「S0(赤現示に相当)」、時刻t1以降は「S2」である。
【0021】
そして、図4は、図3に示す信号現示遷移に基づいて作成される運転曲線を示す図である。先ず、発時刻t0における信号現示に従って駅間の運転曲線が作成される。すなわち、発時刻t0における信号現示や予め線路に定められた制限速度などをもとに駅間の制限速度が決定され、この制限速度や列車性能などをもとに、運転曲線が作成される。図3によれば、発時刻t0における信号現示は、閉そく区間1T〜3Tは「S1」、閉そく区間4Tは「S2」、閉そく区間5T,6Tは「S1」である。従って、図4(a)に示すように、A駅から発車し、閉そく区間5Tの手前で停止するような運転曲線が作成される。
【0022】
続いて、A駅〜B駅間の走行の間に信号現示が変化するか否かが判定される。図3においては、時刻t1で変化する。そこで、作成された運転曲線に対して、信号現示が変化する時刻t1以降の部分が更新される。すなわち、先に作成した運転曲線から、信号現示の変化時刻t1における列車位置d1が算出される。そして、この位置d1以降の区間について、変化時刻t1における信号現示などをもとに制限速度が再設定され、この再設定後の制限速度などに従って運転曲線が更新される。図3によれば、時刻t1において、全ての閉そく区間1T〜5Tにおける信号現示が「S2」に変化する。従って、図4(b)に示すように、この変化時刻t1に対応する列車位置d1以降の区間について、運転曲線が、着駅であるB駅に停止するような運転曲線に更新される。
【0023】
なお、図3では、信号現示の変化時刻が1つの場合を示したが、複数の場合も同様である。すなわち、これらの信号現示の変化時刻それぞれについて、時刻が早い順に、該変化時刻における信号現示に従って、対応する列車位置d以降の運転曲線が更新される。
【0024】
このように、駅間の運転曲線が作成されると、この運転曲線から駅間の走行時分が算出され、実績ダイヤが作成される。
【0025】
図5〜図8は、運転曲線の作成の他の例であり、何れも、対象駅間は同じであるが信号現示遷移情報が異なる例である。
【0026】
図5では、時刻t2において、全ての閉そく区間1T〜5Tの信号現示速度が「S2」に変化する。この信号現示の変化時刻t2は、図3に示した例の信号現示の変化時刻t1より遅い。この場合、先ず、図6(a)に示すように、発時刻t0における信号現示に従った運転曲線が作成される。ここで作成される運転曲線は、図4(a)に示した例と同じであり、閉そく区間5Tの手前で停止するような運転曲線である。この運転曲線から算出される信号現示の変化時刻t2における列車位置d2は、図4(a)に示した例の位置d1よりB駅側の位置となっている。
【0027】
次いで、図6(b)に示すように、この信号現示の変化時刻t2における信号現示に従って、位置d2以降の区間の運転曲線が更新される。従って、図4(b)に示した例の運転曲線と異なり、駅間で一度減速するような運転曲線となる。このため、図5,図6の場合の駅間走行時分は、図3,図4に示した例よりも長くなる。
【0028】
また、図7では、時刻t3において、全ての閉そく区間1T〜5Tの信号現示が「S2」に変化する。この信号現示の変化時刻t3は、図5に示した例の信号現示の変化時刻t2よりも更に遅い。この場合も同様に、図8(a)に示すように、先ず、発時刻t0における信号現示に従った運転曲線が作成される。ここで作成される運転曲線は、図4(a)や図6(a)に示した例と同じであり、閉そく区間5Tの前で停止するような運転曲線である。この運転曲線から算出される信号現示の変化時刻t3における列車位置d3は、図6(a)に示した例の位置d2よりも更にB駅側の位置となっている。
【0029】
次いで、図8(b)に示すように、この時刻t3における信号現示に従って、位置d3以降の区間の運転曲線が更新される。従って、図4(b)に示した例の運転曲線と異なり、閉そく区間5Tの手前で一度停止するような運転曲線となる。このため、図7,図8の場合の駅間走行時分は、図3,図4や図6,図7に示した例よりも長くなる。
【0030】
[構成]
図9は、列車運行推定装置1の機能構成を示すブロック図である。図9に示すように、列車運行推定装置1は、機能的には、入力部110と、処理部200と、表示部120と、通信部130と、記憶部300とを有して構成される。
【0031】
入力部110は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等で実現される入力装置であり、操作入力に応じた入力信号を処理部200に出力する。
【0032】
処理部200は、例えばCPU等のプロセッサで実現され、入力部110から入力されたデータや、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ等に基づいて、列車運行推定装置1を構成する各部への指示やデータ転送を行い、列車運行推定装置1の全体制御を行う。また、処理部200は、信号現示遷移予測部210と、断片スジ生成部220と、駅間運転曲線作成部230と、実績ダイヤ生成部240とを有し、所与の列車ダイヤに従った列車の運行を予測して実績ダイヤを作成(推定)する列車運行推定処理を行う。ここで、所与の列車ダイヤに関するデータは列車ダイヤデータ320として記憶され、生成された実績ダイヤに関するデータは実績ダイヤデータ370として記憶される。
【0033】
信号現示遷移予測部210は、列車運行に伴う信号現示の時間変化を予測する。具体的には、後述する線路条件データ340に含まれる閉そく区間のデータ等を用いて、所与の列車ダイヤ通りに列車が運行されたと仮定した場合に予測される信号現示の時間変化を算出し、信号現示遷移情報380として初期設定する。また、駅間運転曲線作成部230によって作成された駅間運転曲線を用いて、信号現示遷移情報380を随時更新する。
【0034】
断片スジ生成部220は、所与の列車ダイヤを構成する各列車スジについて、発着駅間で分割した断片スジを生成する。
【0035】
図10は、断片スジ10の生成を説明する図である。図10では、横軸を時刻t、縦軸を駅として、A駅〜C駅間についての列車ダイヤを示している。この列車ダイヤは、A駅からC駅に向かう2本の上り列車の列車スジ(1,2列車)と、C駅からA駅に向かう1本の下り列車スジ(3列車)とによって構成されている。この列車ダイヤにおいて、該列車ダイヤを構成する各列車スジを、発着駅間で分割して断片スジ10が生成される。すなわち、「1列車」の列車スジが、A駅〜B駅間の断片スジ10−1と、B駅〜C駅間の断片スジ10−2とに分割され、「2列車」の列車スジが、A駅〜B駅間の断片スジ10−3と、B駅〜C駅間の断片スジ10−4とに分割され、「3列車」の列車スジが、C駅〜B駅間の列断片スジ10−5と、B駅〜A駅間の断片スジ10−6とに分割され、合計6本の断片スジ10−1〜10−6が生成されている。
【0036】
また、断片スジ生成部220は、実績ダイヤ生成部240によって生成された実績ダイヤの着時刻(予測着時刻)の遅れに応じて、対応する断片スジと同一列車で且つ該断片スジ以降の断片スジの発着時刻を変更する。
【0037】
図11は、断片スジ10の発着時刻の変更を説明する図である。図11では、断片スジ10−5の予測着時刻が遅れ、この断片スジ10−5に繋がる断片スジ10−6の発時刻と逆転している。この場合、断片スジ10−6の発時刻及び着時刻が変更される。すなわち、断片スジ10−6の発時刻が、断片スジ10−5の予測着時刻に予め定められた停車時分を加算した時刻に変更されるとともに、この断片スジ10−6の発時刻の変更に合わせて、その着時刻も変更される。
【0038】
ここで、生成された断片スジ10それぞれに関するデータは、断片スジデータ350として記憶される。
【0039】
駅間運転曲線作成部230は、断片スジ生成部220によって生成された断片スジ10それぞれに対応する駅間の運転曲線を作成する。すなわち、信号現示遷移情報380を参照して、対象の断片スジ10の発時刻における信号現示(発時点信号現示)を判断し、この発時点信号現示と、対象の断片スジ10の発着駅間に定められている制限速度などから、発着駅間の制限速度を設定する。次いで、設定した制限速度を守るよう、当該発着駅間の線路条件や、運行を想定する列車条件などをもとに、発着駅間の運転曲線(仮の運転曲線)を生成する。このときの運転曲線の生成は、公知の処理で実現することができる。ここで、線路長や勾配、曲率、制限速度、閉そく区間といった線路に関する条件は線路条件データ340として記憶されており、加速度や最高速度、減速度、重量等といった列車の性能に関する条件は、列車条件データ330として記憶されている。
【0040】
次いで、信号現示遷移情報380を参照して、対象の断片スジ10の発時刻と着時刻の間の期間に、発着駅間における信号現示が変化するか否かを判断する。信号現示が変化するならば、仮の運転曲線(時間曲線)をもとに、その信号現示の変化時刻における列車位置dを特定する。また、信号現示遷移情報380を参照して、変化時刻における変化後の信号現示(変化後信号現示)を判断する。そして、作成した仮の運転曲線に対して、列車位置d以降の部分について、この変化後信号現示に従って変更する。このとき、信号現示の変化時刻が複数有るならば、その複数の変化時刻それぞれについて、時刻順に、当該時刻における変化後の信号現示に基づく仮の運転曲線の変更を行う。このように、仮の運転曲線に対して変更された最終的な運転曲線を、対象の断片スジ10の発着駅間の運転曲線とする。
【0041】
実績ダイヤ生成部240は、駅間運転曲線作成部230によって作成された駅間運転曲線を用いて、所与の列車ダイヤに対する実績ダイヤを生成する。すなわち、断片スジ10それぞれに対応する運転曲線をもとに、発着駅間の走行時分を算出し、該断片スジ10の発時刻に算出した走行時分を加算して予測到着時刻を算出することで、実績ダイヤとする。
【0042】
表示部120は、例えばLCD等で実現される表示装置であり、処理部200から入力される表示信号に基づく各種画面を表示する。
【0043】
通信部130は、例えば無線通信モジュールやルータ、モデム、TA、有線用の通信ケーブルのジャックや制御回路等で実現される通信装置であり、外部機器との間でデータ通信を行う。
【0044】
記憶部300は、処理部200が列車運行推定装置1を統合的に制御するための諸機能を実現するためのシステムプログラムや、本実施形態の列車運行推定処理を実行するためのプログラムやデータを記憶しているとともに、処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が各種プログラムに従って実行した演算結果や、入力部110からの入力信号が一時的に格納される。本実施形態では、記憶部300には、プログラムとして、列車運行推定プログラム310が記憶されるとともに、データとして、列車ダイヤデータ320と、列車条件データ330と、線路条件データ340と、断片スジデータ350と、運転曲線データ360と、実績ダイヤデータ370と、信号現示遷移情報380とが記憶される。
【0045】
[処理の流れ]
図12は、列車運行推定処理の流れを説明するフローチャートである。この列車運行推定処理は、処理部200が列車運行推定プログラムに従って実行する処理である。
【0046】
図12によれば、列車運行推定処理では、先ず、信号現示遷移予測部210が、所与の列車ダイヤ通りに列車が運行されたと仮定した場合の信号現示の時間変化を閉そく区間のデータを参照して算出し、信号現示遷移情報380として初期設定する(ステップS1)。次いで、断片スジ生成部220が、所与の列車ダイヤを構成する各列車スジを発着駅間で分割して断片スジ10を生成する(ステップS3)。
【0047】
その後、これらの各断片スジ10それぞれを、発時刻の順に対象とした繰り返し処理(ループA)が行われる。この繰り返し処理(ループA)では、駅間運転曲線作成部230が、信号現示遷移情報380を参照して、対象の断片スジ10の発時刻における信号現示(発時点信号現示)を判断し、この発時点信号現示に従って、対象の断片スジ10の発着駅間(対象駅間)の運転曲線(仮の運転曲線)を作成する(ステップS5)。次いで、信号現示遷移情報380を参照して、対象の断片スジ10の発時刻から着時刻の間に、対象駅間の信号現示の変化が有るか否かを判断し、有るならば(ステップS7:YES)、これらの変化時刻それぞれを、時刻順に対象とした繰り返し処理(ループB)を行う。
【0048】
この繰り返し処理(ループB)では、仮の運転曲線から、対象時刻における列車位置dを判断する(ステップS9)。また、信号現示遷移情報380を参照して、対象時刻における変化後の信号現示(変化後信号現示)を判断する。そして、仮の運転曲線に対して、対象時刻における列車位置d以降の部分を、この変化後信号現示に従って変更する(ステップS11)。ループBの処理はこのように行われる。
【0049】
全ての信号現示の変化時刻を対象としたループBの処理を行うことで、対象の断片スジ10の発着駅間(対象駅間)の駅間運転曲線が作成される。対象の断片スジ10に対応する駅間運転曲線が作成されると、実績ダイヤ生成部240が、この駅間運転曲線を用いて、対象の断片スジ10の発着駅間(対象駅間)の走行時分を算出し(ステップS13)、実績ダイヤを更新する(ステップS15)。
【0050】
また、断片スジ生成部220が、対象の断片スジ10の予測着時刻が、該断片スジ10に繋がる次の断片スジ10の発時刻と比較して、予測着時刻が発時刻と逆転している場合に、次の断片スジ10の発時刻が対象の断片スジ10の予測着時刻より後になるよう、次の断片スジ10の発時刻及び着時刻を変更する(ステップS17)。また、信号現示遷移予測部210が、作成された駅間運転曲線をもとに閉そく区間のデータを参照して信号現示遷移情報380を更新する(ステップS19)。ループAの処理はこのように行われる。そして、全ての断片スジ10を対象としたループAの処理を終了すると、列車運行推定処理は終了となる。
【0051】
[作用・効果]
このように、本実施形態の列車運行シミュレーションでは、列車ダイヤを構成する各列車スジを発着駅間で分割した断片スジ10それぞれについて、発着駅間の運転曲線を作成して駅間走行時分を算出することで、列車ダイヤに従った運行を想定した実績ダイヤが作成(推定)される。駅間の運転曲線の作成は、発時刻における信号現示に従って発着駅間の仮の運転曲線が作成され、この仮の運転曲線のうち、信号現示の変化時刻に対応する列車位置以降の部分が、変化後の信号現示に従って更新されることで実現される。このように、駅間走行時分を算出するための処理を、列車運行シミュレーションから独立させた処理として行うことが可能となる。
【0052】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0053】
(A)運転整理に適用
例えば、運転整理ダイヤの作成(推定)に適用しても良い。具体的には、列車運行推定処理(図12)において、列車ダイヤを構成する断片スジのうちから、遅延を発生させる列車及び駅間に該当する断片スジを指定し、この断片スジについては、駅間運転曲線を作成する処理(図12のステップS5〜S15)に替えて、想定する遅延時間に応じて着時刻を決定して実績ダイヤを設定する。これにより、ある列車の遅れが後続の列車に与える影響(遅延の程度など)を知ることができる。
【符号の説明】
【0054】
1 列車運行推定装置
110 入力部、120 表示部、130 通信部
200 処理部
210 信号現示遷移予測部、220 断片スジ生成部
230 駅間運転曲線作成部、240 実績ダイヤ生成部
300 記憶部
310 列車運行推定プログラム、320 列車ダイヤデータ
330 列車条件データ、340 線路条件データ
350 断片スジデータ、360 運転曲線データ
370 実績ダイヤデータ、380 信号現示遷移情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、所与の発着駅間の閉そく区間に係る信号の時間経過に対する現示の変化を定めた信号現示遷移情報に基づいて、当該発着駅間の運転曲線を作成させるためのプログラムであって、
所与の発時刻における前記信号の現示である発時点現示を前記信号現示遷移情報から判定する発時点現示判定手段、
前記発時刻において発駅を発車した場合の前記発着駅間の仮の運転曲線を、前記発時点現示を用いて作成する初期作成手段、
前記信号の現示が変化する現示変化時刻及び変化後現示を前記信号現示遷移情報から判定する現示変化判定手段、
前記現示変化時刻における走行位置を前記仮の運転曲線に基づいて判定する走行位置判定手段、
前記仮の運転曲線のうち、前記現示変化時刻における前記走行位置以降の運転曲線の部分を、前記変化後現示を用いて作成して更新する更新手段、
として前記コンピュータを機能させ、前記更新手段により更新された最終的な運転曲線を前記発着駅間の運転曲線とするプログラム。
【請求項2】
コンピュータに、所与の路線のダイヤデータから実績ダイヤを推定させるためのプログラムであって、
前記路線に係る各信号の時間経過に対する現示の変化を定めた信号現示遷移情報を初期設定する信号現示遷移情報初期設定手段、
前記ダイヤデータを構成する各列車スジを発着駅間で分割した断片スジの中から前記ダイヤデータの時系列順に処理対象断片スジを順次選択する断片スジ選択手段、
前記処理対象断片スジに係る運転曲線を作成する運転曲線作成手段、
前記運転曲線作成手段により作成された運転曲線を用いて前記信号現示遷移情報を更新する信号現示遷移情報更新手段、
前記運転曲線作成手段により作成された運転曲線を用いて、前記処理対象断片スジに係る発着駅間の実績ダイヤを決定する断片スジ部分決定手段、
として前記コンピュータを機能させるとともに、
前記運転曲線作成手段が、
前記処理対象断片スジに係る発時刻における発時点現示を前記信号現示遷移情報から判定する発時点現示判定手段と、
前記発時刻に前記発駅を発車した場合の前記処理対象断片スジに係る発着駅間の仮の運転曲線を、前記発時点現示を用いて作成する発時点運転曲線作成手段と、
前記処理対象断片スジに係る発着駅間の信号の現示が変化する現示変化時刻及び変化後現示を前記信号現示遷移情報から判定する現示変化判定手段と、
前記現示変化時刻における前記処理対象断片スジ中の走行位置を前記仮の運転曲線に基づいて判定する走行位置判定手段、
前記仮の運転曲線のうち、前記現示変化時刻における前記走行位置以降の運転曲線の部分を、前記変化後現示を用いて作成して更新する運転曲線更新手段と、
を有し、前記運転曲線更新手段により更新された最終的な運転曲線を前記処理対象断片スジに係る前記発着駅間の運転曲線とする、
ように前記コンピュータを機能させるためのプログラム。
【請求項3】
前記運転曲線作成手段により作成された運転曲線に基づく前記処理対象断片スジに係る着時刻が、前記ダイヤデータに定められた着時刻より遅れた場合、当該処理対象断片スジに係る列車スジの当該処理対象断片スジ以降の断片スジの発着時刻を遅らせるように再定義する遅延発生時断片スジ更新手段として前記コンピュータを更に機能させるための請求項2に記載のプログラム。
【請求項4】
所与の発着駅間の閉そく区間に係る信号の時間経過に対する現示の変化を定めた信号現示遷移情報に基づいて、当該発着駅間の運転曲線を作成する運転曲線作成装置であって、
所与の発時刻における前記信号の現示である発時点現示を前記信号現示遷移情報から判定する発時点現示判定手段と、
前記発時刻において発駅を発車した場合の前記発着駅間の仮の運転曲線を、前記発時点現示を用いて作成する初期作成手段と、
前記信号の現示が変化する現示変化時刻及び変化後現示を前記信号現示遷移情報から判定する現示変化判定手段と、
前記現示変化時刻における走行位置を前記仮の運転曲線に基づいて判定する走行位置判定手段と、
前記仮の運転曲線のうち、前記現示変化時刻における前記走行位置以降の運転曲線の部分を、前記変化後現示を用いて作成して更新する更新手段と、
を備え、前記更新手段により更新された最終的な運転曲線を前記発着駅間の運転曲線とする運転曲線作成装置。
【請求項5】
所与の路線のダイヤデータから実績ダイヤを推定する実績ダイヤ推定装置であって、
前記路線に係る各信号の時間経過に対する現示の変化を定めた信号現示遷移情報を初期設定する信号現示遷移情報初期設定手段と、
前記ダイヤデータを構成する各列車スジを発着駅間で分割した断片スジの中から前記ダイヤデータの時系列順に処理対象断片スジを順次選択する断片スジ選択手段と、
前記処理対象断片スジに係る運転曲線を作成する運転曲線作成手段と、
前記運転曲線作成手段により作成された運転曲線を用いて前記信号現示遷移情報を更新する信号現示遷移情報更新手段と、
前記運転曲線作成手段により作成された運転曲線を用いて、前記処理対象断片スジに係る発着駅間の実績ダイヤを決定する断片スジ部分決定手段と、
を備え、
前記運転曲線作成手段は、
前記処理対象断片スジに係る発時刻における発時点現示を前記信号現示遷移情報から判定する発時点現示判定手段と、
前記発時刻に前記発駅を発車した場合の前記処理対象断片スジに係る発着駅間の仮の運転曲線を、前記発時点現示を用いて作成する発時点運転曲線作成手段と、
前記処理対象断片スジに係る発着駅間の信号の現示が変化する現示変化時刻及び変化後現示を前記信号現示遷移情報から判定する現示変化判定手段と、
前記現示変化時刻における前記処理対象断片スジ中の走行位置を前記仮の運転曲線に基づいて判定する走行位置判定手段、
前記仮の運転曲線のうち、前記現示変化時刻における前記走行位置以降の運転曲線の部分を、前記変化後現示を用いて作成して更新する運転曲線更新手段と、
を有し、前記運転曲線更新手段により更新された最終的な運転曲線を前記処理対象断片スジに係る前記発着駅間の運転曲線とする、
実績ダイヤ推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−112247(P2013−112247A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261513(P2011−261513)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】