説明

プロジェクタ型前照灯及びシェード

【課題】車体のバンク時に右又は左の前方が暗くなることを防止するとともに、車体のバンク前後で配光パターンの照射範囲の広がり具合や照度分布等の変化を抑えられるようにする。
【解決手段】プロジェクタ型前照灯1のシェード40は、投影レンズ30とリフレクタ20との間に配置され、光軸Ax又はその近傍において左右方向に延びる上縁61を有する中央遮光部60と、中央遮光部60の左側に設けられ、左右方向に延びる上縁71を有する左遮光部70と、中央遮光部60の右側に設けられ、左右方向に延びる上縁81を有する右遮光部80と、を備える。左遮光部70が中央遮光部60に対して左右に揺動可能に設けられている。右遮光部80が中央遮光部60に対して左右に揺動可能に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロジェクタ型前照灯及びシェードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロジェクタ型前照灯では、光源から発した光がリフレクタによって前方に反射され、その反射光の一部がシェードによって遮光され、遮光されない反射光が投影レンズによって前方に投影される。反射光の一部がシェードによって遮光されることによって、略水平な明暗境界線を有する配光パターンが前方に形成され、明暗境界線よりも上向きの光がない。これにより、対向車にとってはグレアの発生を抑えることができる。
【0003】
二輪車がコーナリングすると、車体がバンクする。車体の傾きに応じて、プロジェクタ型前照灯が傾くから、明暗境界線も傾く。具体的には、左コーナリング時には車体が左にバンクするので、明暗境界線が左下りに傾斜し、右コーナリング時には車体が右にバンクするので、明暗境界線が右下りに傾斜する。そのため、従来のプロジェクタ型前照灯を二輪車に用いた場合、車体をバンクさせたときには、その進行方向が暗くなる。つまり、左コーナリング時には、左前方が暗くなり、右コーナリング時には、右前方が暗くなる。そのため、ライダーが路面の状況等を把握することができなくなる。
【0004】
そのような問題点を解決すべく、特許文献1に記載のプロジェクタ型前照灯では、シェードがリフレクタ、投影レンズ及び光源に対して左右に揺動するように設けられている。このプロジェクタ型前照灯は、車体のバンク角がセンサによって検出され、検出角度に応じて制御部がアクチュエータを制御することによって、シェードがリフレクタ、投影レンズ及び光源に対して傾くようになっている。そのため、車体がバンクして、リフレクタ、投影レンズ及び光源が車体に追従して左又は右に傾いても、シェードが傾かないから、右又は左の前方が暗くならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2878811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記文献の技術では、車体のバンク時に、シェードが傾かずに、光源、リフレクタ及び投影レンズが左又は右に傾くため、光源とリフレクタなどの光学系の位置関係が変化してしまい、配光パターンの照射範囲の広がり具合や照度分布等が変化してしまう。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、車体のバンク時に右又は左の前方が暗くなることを防止するとともに、車体のバンク前後で配光パターンの照射範囲の広がり具合や照度分布等の変化を抑えられるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するため、本発明に係るプロジェクタ型前照灯は、光源と、前記光源からの光を前方に反射させるリフレクタと、前記リフレクタからの反射光を前方に投影する投影レンズと、前記リフレクタから前記投影レンズに向かう反射光の一部を遮光して、明暗境界線を有する配光パターンを形成するシェードと、を備え、前記シェードが、前記投影レンズと前記リフレクタとの間に配置され、前記投影レンズの光軸又はその近傍において左右方向に延びる上縁を有する中央遮光部と、前記中央遮光部の左側に設けられ、左右方向に延びる上縁を有する左遮光部と、前記中央遮光部の右側に設けられ、左右方向に延びる上縁を有する右遮光部と、を有し、前記左遮光部はその上縁が前記中央遮光部の上縁に揃った振り上げ状態と、その上縁が前記中央遮光部の上縁に対して左下りに傾斜した振り下げ状態とに揺動可能に設けられ、前記右遮光部はその上縁が前記中央遮光部の上縁に揃った振り上げ状態と、その上縁が前記中央遮光部の上縁に対して右下りに傾斜した振り下げ状態とに揺動可能に設けられていることとした。
【0008】
好ましくは、前記シェードが、前記左遮光部の上縁が前記中央遮光部の上縁に揃った状態において前記左遮光部の上から前記左遮光部に当接する第1のストッパを更に有することとした。
【0009】
好ましくは、前記シェードが、前記左遮光部に設けられた第1の錘を更に有することとした。
【0010】
好ましくは、前記シェードが、前記右遮光部の上縁が前記中央遮光部の上縁に揃った状態において前記右遮光部の上から前記右遮光部に当接する第2のストッパを更に有することとした。
【0011】
好ましくは、前記シェードが、前記右遮光部に設けられた第2の錘を更に有することとした。
【0012】
本発明に係るシェードは、プロジェクタ型前照灯の投影レンズの後方に配置されたリフレクタから前記投影レンズに向かう反射光の一部を遮光して、明暗境界線を有する配光パターンを形成するシェードであって、前記投影レンズと前記リフレクタとの間に配置され、前記投影レンズの光軸又はその近傍において左右方向に延びる上縁を有する中央遮光部と、前記中央遮光部の左側に設けられ、左右方向に延びる上縁を有する左遮光部と、前記中央遮光部の右側に設けられ、左右方向に延びる上縁を有する右遮光部と、を備え、前記左遮光部はその上縁が前記中央遮光部の上縁に揃った振り上げ状態と、その上縁が前記中央遮光部の上縁に対して左下りに傾斜した振り下げ状態とに揺動可能に設けられ、前記右遮光部はその上縁が前記中央遮光部の上縁に揃った振り上げ状態と、その上縁が前記中央遮光部の上縁に対して右下りに傾斜した振り下げ状態とに揺動可能に設けられていることとした。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車体が右にバンクしたら、後ろから見て、中央遮光部の上縁が水平面に対して右下りに傾斜する。その際、左遮光部が中央遮光部に対して振り下げ状態に揺動すると、左遮光部の上縁は、中央遮光部の上縁に対しては左下りに傾斜するが、水平面に対してはほぼ平行を保つ。そのため、左遮光部によって遮光される範囲が狭くなり、右遠方を照らすことができる。
一方、車体が左にバンクしたら、後ろから見て、中央遮光部の上縁が水平面に対して左下りに傾斜する。その際、右遮光部が中央遮光部に対して振り下げ状態に揺動すると、右遮光部の上縁は、中央遮光部の上縁に対しては右下りに傾斜するが、水平面に対してはほぼ平行を保つ。そのため、右遮光部によって遮光される範囲が狭くなり、左遠方を照らすことができる。
また、車体が左又は右にバンクしたら、中央遮光部が投影レンズ、リフレクタ及び光源とともに左又は右に傾くから、これらの基本的な位置関係等に変化が生じない。そのため、基本的な配光パターンの照射範囲の広がり具合や照度分布等が車体のバンク前後で変化しないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】プロジェクタ型前照灯の前方斜視図である。
【図2】シェード及び光源の前方斜視図である。
【図3】シェードの後方斜視図である。
【図4】車体がバンクしていない場合にプロジェクタ型前照灯により仮想スクリーンに形成される配光パターンを示した図である。
【図5】車体が右にバンクした場合のシェードの正面図である。
【図6】車体が右にバンクした場合にプロジェクタ型前照灯により仮想スクリーンに形成される配光パターンを示した図である。
【図7】車体が左にバンクした場合のシェードの正面図である。
【図8】車体が左にバンクした場合にプロジェクタ型前照灯により仮想スクリーンに形成される配光パターンを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
また、以下の説明において、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」は、それぞれ、プロジェクタ型前照灯が装備された二輪車の「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」である。従って、後ろから前に向かって見て、左右の向きを定める。
【0016】
図1は、プロジェクタ型前照灯1の斜視図である。図2は、このプロジェクタ型前照灯1のシェード40及び光源10の前方斜視図である。図3は、このシェード40の後方斜視図である。
【0017】
プロジェクタ型前照灯1は、光源10、リフレクタ20、投影レンズ30及びシェード40を備える。これらリフレクタ20、投影レンズ30及びシェード40はハウジング(図示略)に取り付けられて、これら光源10、リフレクタ20、投影レンズ30及びシェード40がユニット化されている。
【0018】
リフレクタ20が略椀状に設けられ、そのリフレクタ20が前方に向けて開口している。リフレクタ20の内面にはアルミ蒸着、銀塗装等の反射膜が施されていて、反射面21が形成されている。反射面21は、楕円面の形状に形成されている。楕円面とは、前後方向に延びた中心軸を回転軸とした回転楕円面若しくは扁平楕円面又はこれらを基調とした自由曲面をいう。扁平楕円面とは、回転楕円面が上下又は左右につぶれたものであって、前後方向に沿った鉛直断面の形状が楕円形状を成し、水平断面の形状が放物線又は楕円形状(鉛直断面の楕円形状の焦点間距離と水平断面の楕円形状の焦点間距離が異なる。)に成すものをいう。また、反射面21は、これらの回転楕円面、扁平楕円面又は自由曲面を組み合わせた複合楕円面であってもよい。
【0019】
反射面21が楕円面に形成されているので、その楕円面の頂点よりも前方に第一焦点F1が設定され、その第一焦点F1よりも前方に第二焦点F2が設定される。なお、反射面21が扁平楕円面又はそれを基調とした自由曲面に形成されている場合には、第二焦点F2は焦線をいう。焦線は水平左右方向に延びるとともに、左右方向の中央部が後ろに凸となるよう湾曲している。
【0020】
反射面21の頂点には、リフレクタ20を前後に貫通する装着孔22が形成されている。光源10がリフレクタ20の後ろから装着孔22に通され、その光源10がソケット等の固定具(図示略)によってハウジングやリフレクタ20に固定され、その光源10がリフレクタ20内に配置されている。この光源10は、反射面21の第一焦点F1又はその近傍に配置されている。この光源10は、放電灯(例えば、高輝度放電灯(HID)、高圧金属蒸気放電灯等)、ハロゲン電球、白熱電球その他のバルブである。なお、バルブの代わりに、発光ダイオード、無機エレクトロルミネッセンス素子、有機エレクトロルミネッセンス素子その他の発光素子を用いてもよい。
【0021】
反射面21は光源10から発した光を前に向けて反射させ、反射光を第二焦点F2に集光する。
【0022】
リフレクタ20の前には、投影レンズ30が配設されている。この投影レンズ30は、凸レンズである。投影レンズ30の光軸Axが前後方向に延びるよう、かつ、投影レンズ30の焦点が反射面21の第二焦点F2又はその近傍に位置するよう、投影レンズ30が配置されている。投影レンズ30の光軸Axが反射面21の中心軸に揃っていてもよいし、反射面21の中心軸から僅かにずれていてもよい。
【0023】
第二焦点F2又はその近傍にはシェード40が設けられている。シェード40は、反射面21によって反射されて投影レンズ30に向かう反射光の一部を第二焦点F2又はその近傍で遮光する。投影レンズ30は、遮光されていない反射光を前方に投影する。
【0024】
シェード40は、枠体50、中央遮光板60、左遮光板70、右遮光板80、錘91,92及びストッパ53,54を有する。なお、図1では、枠体50及びストッパ53,54の図示を省略する。
【0025】
枠体50は、リフレクタ20と投影レンズ30との間に配置されて、図示しないハウジングに固定されている。この枠体50は、薄板状に設けられ、光軸Axに対して垂直になるように立てた状態に設けられている。この枠体50に開口51が形成され、光軸Axが開口51を通っている。枠体50の後面には、後方に膨出したポケット52が設けられ、開口51の下部がポケット52によって塞がれているが、開口51の上部はポケット52によって塞がれていない。
【0026】
中央遮光部としての中央遮光板60は、薄板状に設けられているとともに、水平面に対して立てた状態に設けられている。この中央遮光板60の一方の面が前に向き、他方の面が後ろに向いている。中央遮光板60の後面にリブ62が設けられ、このリブ62が枠体50のポケット52の前面に取り付けられることによって、中央遮光板60が枠体50に固定されている。中央遮光板60は、光軸Axの下において、投影レンズ30とリフレクタ20との間に配置されている。具体的には、中央遮光板60の前後位置は、第二焦点F2の前後方向の位置又はその近傍にある。
【0027】
中央遮光板60は上縁61を有する。この上縁61は、前から見て、光軸Ax又はその近傍において直線状に左右方向に延びている。具体的には、上縁61の上下方向の位置が光軸Ax1に揃っているか、又は光軸Ax1よりも僅かに下であり、上縁61の左右中央部の左右方向の位置が光軸Axに揃っている。
【0028】
なお、中央遮光板60の上縁61の左の部分(以下、左部上縁という。)と右の部分(以下、右部上縁という。)に段差があり、左部上縁と右部上縁との間の部分(以下、傾斜部という。)が左部上縁及び右部上縁に対して傾斜していてもよい。具体的には、プロジェクタ型前照灯1が左側通行用である場合、左部上縁が右部上縁よりも上に位置し、傾斜部が右下りに傾斜している。一方、プロジェクタ型前照灯1が右側通行用である場合、右部上縁が左部上縁よりも上に位置し、傾斜部が左下りに傾斜している。
【0029】
左遮光部としての左遮光板70は左右方向に長尺な薄板状に設けられている。この左遮光板70の一方の面が前に向き、他方の面が後ろに向いた状態で、この左遮光板70が中央遮光板60に支持されている。左遮光板70が中央遮光板60の左側に配置され、中央遮光板60と左遮光板70が左右にオーバーラップしている。そのオーバーラップした箇所では、左遮光板70の右端部が光軸Axよりも左にある回転軸72によって中央遮光板60の左端部に連結されている。ここで、左遮光板70の前面と後面との間には正面視矩形状の空洞73が形成され、その空洞73が左遮光板70の上端面の右部から左遮光板70の左端面の上部にかけて開口している。そして、中央遮光板60の左部が空洞73に挿入され、中央遮光板60の左部が左遮光板70の前面部と後面部との間に挟まれ、その挟んだ部分に設けられた回転軸72によって左遮光板70の右端部と中央遮光板60の左端部が連結されている。
【0030】
回転軸72は前後方向に対して平行に設けられ、左遮光板70が回転軸72を中心にして上下に揺動可能に設けられている。回転軸72には、不図示のダンパ、バネ等の調整機構が設けられ、その調整機構によって抵抗が中央遮光板60に対する左遮光板70の回転を規制するように与えられる。
【0031】
右遮光部としての右遮光板80が左右方向に長尺な薄板状に設けられている。右遮光板80の一方の面が前に向き、右遮光板80の他方の面が後ろに向き、この右遮光板80が中央遮光板60に支持されている。右遮光板80の前面と後面との間には正面視矩形状の空洞83が形成され、その空洞83が右遮光板80の上端面の右部から右遮光板80の左端面の上部にかけて開口している。中央遮光板60の右部がその空洞83に挿入され、中央遮光板60の右部が右遮光板80の前面部と後面部との間に挟まれている。これにより、中央遮光板60と右遮光板80は左右にオーバーラップしている。そのオーバーラップした箇所では、右遮光板80の左端部が、光軸Axよりも右にある回転軸82によって中央遮光板60の右端部に連結されている。回転軸82は前後方向に対して平行に設けられ、右遮光板80が回転軸82を中心にして上下に揺動可能に設けられている。回転軸82には、中央遮光板60に対する右遮光板80の回転を規制するように回転軸82に抵抗を与える調整機構が設けられている。
【0032】
遮光板70,80の間であって中央遮光板60の上部前面及び上部後面には、段部64,65がそれぞれ凸設されており、段部64,65における中央遮光板60の前後厚が他の部分の前後厚よりも厚い。そのような段部64,65における厚みは、中央遮光板60と遮光板70,80がオーバーラップした部分の総厚にほぼ等しい。そのような段部64.65の下側の部分の前後厚が薄くなっているから、遮光板70,80と段部64,65が干渉せずに、遮光板70,80が上下に揺動できるようになっている。
【0033】
左遮光板70の光軸Ax寄りの部分(右の部分)が第二焦点F2に係る焦線に沿うように湾曲し、左遮光板70の左の部分が光軸Axに対して垂直な平板状に設けられている。右遮光板80の光軸Ax寄りの部分(左の部分)が第二焦点F2に係る焦線に沿うように湾曲し、右遮光板80の右の部分が光軸Axに対して垂直な平板状に設けられている。
【0034】
左遮光板70は、上縁71を有する。この上縁71は、前から光軸Axの方向に見て直線状に形成されているとともに、光軸Axの左方において左右方向に延びている。
右遮光板80は、上縁81を有する。この上縁81は、前から光軸Axの方向に見て直線状に形成されているとともに、光軸Axの右方において左右方向に延びている。
【0035】
枠体50の前面には、ストッパ53,54が凸設されている。一方のストッパ53は、開口51の左方であって左遮光板70の左端部の上方に、配置されている。他方のストッパ54は、開口51の右方であって右遮光板80の上方に、配置されている。
【0036】
左遮光板70が回転軸72を中心にして振り上げられて、その左遮光板70がストッパ53に当接している状態では、左遮光板70の上縁71が中央遮光板60の上縁61に揃っている。左遮光板70が回転軸72を中心にして振り下げられて、その左遮光板70がストッパ53から離れている状態では、左遮光板70の上縁71が中央遮光板60の上縁61に対して左下りに傾斜している。なお、中央遮光板60の上縁61に段差がある場合、左遮光板70がストッパ53に当接している状態では、左遮光板70の上縁71が中央遮光板60の上縁61のうち左部上縁に揃っている。
【0037】
右遮光板80が回転軸82を中心にして振り上げられて、その右遮光板80がストッパ54に当接している状態では、右遮光板80の上縁81が中央遮光板60の上縁61に揃っている。一方、右遮光板80が回転軸82を中心にして振り下げられて、その右遮光板80がストッパ54から離れている状態では、右遮光板80の上縁81が中央遮光板60の上縁61に対して右下りに傾斜している。なお、中央遮光板60の上縁61に段差がある場合、右遮光板80がストッパ54に当接している状態では、右遮光板80の上縁81が中央遮光板60の上縁61のうち右部上縁に揃っている。
【0038】
左遮光板70の右端部の下側には、錘91が左遮光部70から垂下するように取り付けられている。左遮光板70の上縁71がストッパ53に当接している状態では、錘91が回転軸72の真下に位置している。
右遮光板80の左端部の下側には、錘92が右遮光部80から垂下するように取り付けられている。右遮光板80の上縁81がストッパ54に当接している状態では、錘92が回転軸82の真下に位置している。
【0039】
プロジェクタ型前照灯1及びシェード40の動作について説明する。
二輪車が直線走行している時には、車体が立っており、中央遮光板60の上縁61が水平になっている。そのような直線走行状態では、錘91に働く重力によって、左遮光板70がストッパ53に当接し、左遮光板70の上縁71が水平になって中央遮光板60の上縁61に揃っている。右遮光板80の上縁81も水平になって中央遮光板60の上縁61に揃っている。そのため、図4に示すように、プロジェクタ型前照灯1から前方に所定距離離れた仮想スクリーンには、H線(H線とは、光軸Axを通る水平面と仮想スクリーンとの交線である。)に沿ったカットオフライン(明暗境界線)C1を明部の上縁に有するすれ違い走行用配光パターンP1が形成される。
【0040】
二輪車が右にコーナリングすると、車体が右にバンクするから、中央遮光板60の上縁61が水平面に対して右下り(正面から見た場合は、左下り)に傾斜する(図5の正面図参照)。右バンク時には、左遮光板70は錘91に働く重力によって中央遮光板60に対して相対的に振り下げられストッパ53から離れる。車体のバンク角が深くなるにつれて、水平面に対する中央遮光板60の上縁61の傾斜角が大きくなり、中央遮光板60に対する左遮光板70の回転角度が大きくなる。そのため、車体が右にバンクしても、左遮光板70の上縁71が略水平に維持される。一方、右遮光板80がストッパ54に当接し、錘92に働く重力がストッパ54に受けられているので、右バンク時でも右遮光板80が中央遮光板60に対して相対的に回転しない。そのため、右遮光板80の上縁81が中央遮光板60の上縁61に揃い、その上縁81が水平面に対して右下りに傾斜している。
【0041】
車体の右バンク時には、遮光板60,80の上縁61,81が右下りに傾斜しているから、図6に示すように、仮想スクリーンには、H線に対して右下りに傾斜したカットオフラインC2を明部の上縁に有する配光パターンP2が形成される。また、左遮光板70が中央遮光板60に対して相対的に回転することによって遮光範囲が狭くなっているから、配光パターンP2のカットオフラインC4の上側には、H線に沿ったカットオフラインC3を明部の上縁に有する配光パターンP3が形成される。従って、仮想スクリーンには、配光パターンP2と配光パターンP3を組み合わせた配光パターンが形成され、右コーナリング時でも右遠方も照らすことができる。
【0042】
車体が右にバンクした状態から垂直に戻ると、錘91,92の自重により遮光板60,80の上縁61,81が水平に戻る。左遮光板70は錘91に働く重力によって中央遮光板60に対して相対的に反対に回転してストッパ53に当接し、その上縁71が水平になる。
【0043】
二輪車が左にコーナリングすると、車体が左にバンクするから、中央遮光板60の上縁61が水平面に対して左下り(正面から見た場合は、右下り)に傾斜する(図7の正面図参照)。左バンク時には、右遮光板80は錘92に働く重力によって中央遮光板60に対して相対的に振り下げられストッパ54から離れる。車体のバンク角が深くなるにつれて、水平面に対する中央遮光板60の上縁61の傾斜角が大きくなり、中央遮光板60に対する右遮光板80の回転角度が大きくなる。そのため、車体が右にバンクしても、右遮光板80の上縁81が略水平に維持される。一方、左遮光板70がストッパ53に当接し、錘91に働く重力がストッパ53に受けられているので、左バンク時でも左遮光板70が中央遮光板60に対して相対的に回転しない。そのため、左遮光板70の上縁71が中央遮光板60の上縁61に揃い、その上縁71が水平面に対して左下りに傾斜している。従って、図8に示すように、H線に対して右下りに傾斜したカットオフラインC4を明部の上縁に有する配光パターンP4が遮光板60,70によって形成され、H線に沿ったカットオフラインC5を明部の上縁に有する配光パターンP5が右遮光板80によって配光パターンP4のカットオフラインC4の上側には形成される。このように、左コーナリング時には、右遮光板80による遮光範囲が狭くなっているから、左遠方も照らすことができる。
【0044】
車体が左にバンクした状態から垂直に戻ると、遮光板60,70の上縁61,71が水平に戻る。右遮光板80は錘92に働く重力によって中央遮光板60に対して相対的に反対に回転してストッパ54に当接し、その上縁81が水平になる。
【0045】
以上のように本実施形態によれば、右コーナリング時では、右遠方の視認性が向上し(図6参照)、左コーナリング時では、左遠方の視認性が向上するから(図8参照)、安全運転に大いに貢献できる。
【0046】
また、車体がバンクする時には、光源10、リフレクタ20及び投影レンズ30等の光学系全体が左又は右に傾き、遮光板70,80のうち一方と中央遮光板60も光学系全体に追従して傾く。そのため、バンク時に基本となる配光パターンP2,P4が通常時の配光パターンP1に対して傾いただけで、配光パターンP1,P2,P4の照射範囲の広がり具合や照度分布は殆ど変化しない。それゆえ、コーナリング時にライダーに視覚的な違和感を与えないようにすることができる。
【0047】
また、センサ、アクチュエータ、制御回路等を用いずに、重力によって遮光板70,80の揺動が行われるので、プロジェクタ型前照灯1をシンプルで故障しにくい構造にすることができる。
【0048】
また、遮光板70,80の間では、中央遮光板60の上部前面及び上部後面に形成された段部64,65における中央遮光板60の厚みが他の部分における厚みよりも厚いので、形成されるカットオフラインC1,C2,C4が明りょうに現れる。
【0049】
本発明を適用可能な実施形態は、上述した各実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。以下、幾つかの変形例を挙げる。以下に挙げる変形例は、可能な限り組み合わせてもよい。
【0050】
〔変形例1〕
上記実施形態では、中央遮光板60の左右一部が遮光板70,80の空洞73,83に挿入されていたが、中央遮光板60の左右一部が遮光板70,80の前又は後ろに重なるようにしてこれら遮光板60,70,80が連結されていてもよい。
【0051】
〔変形例2〕
上記実施形態では、中央遮光板60が枠体50に固定されていたが、中央遮光板60が上述のように立った状態から後ろ又は前に倒れるように中央遮光板60がスイング可能に枠体50に連結されていてもよい。中央遮光板60がソレノイド等の駆動源によって後ろ又は前に倒れると、遮光板70,80が中央遮光板60と一体となって倒れる。これら遮光板60,70,80が倒れると、反射面21による反射光が遮光板60,70,80によって遮光されないから、ハイビーム用の配光パターンが形成される。
【0052】
〔変形例3〕
上記実施形態では、左遮光板70が錘91によって中央遮光板60に対して相対的に回転するようになっていたが、左遮光板70がアクチュエータ(例えば、モータ、ソレノイド等)によって回転するようになっていてもよい。この場合、車体のバンク角度が検出器(例えば、ジャイロ、傾斜計等)によって検出され、その検出角度が制御回路に出力され、制御回路が入力した検出角度に応じてアクチュエータを制御することによって、左遮光板70の上縁71が略水平に維持される。右遮光板80についても同様である。
【0053】
〔変形例4〕
上記実施形態では、左遮光板70が中央遮光板60に連結されていたが、左遮光板70が枠体50に連結されていてもよい。その場合、左遮光板70と枠体50の連結位置は上述の回転軸72と同じ位置であり、左遮光板70はその連結位置を中心にして上下に揺動可能に設けられている。右遮光板80についても同様である。
【0054】
〔変形例5〕
上記実施形態では、バルブである光源10が光軸Ax方向(前後方向)を長手方向として配置されていたが、光源10の長手方向が光軸Axに対して交差するように光源10が配置されていてもよい。例えば、光源10の長手方向が左右方向になるように、光源10が横置きに配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 プロジェクタ型前照灯
10 光源
20 リフレクタ
21 反射面
22 装着孔
30 投影レンズ
40 シェード
50 枠体
53 ストッパ(第1のストッパ)
54 ストッパ(第2のストッパ)
60 中央遮光板(中央遮光部)
70 左遮光板(左遮光部)
80 右遮光板(右遮光部)
61、71、81 上縁
72、82 回転軸
91 錘(第1の錘)
92 錘(第2の錘)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源からの光を前方に反射させるリフレクタと、
前記リフレクタからの反射光を前方に投影する投影レンズと、
前記リフレクタから前記投影レンズに向かう反射光の一部を遮光して、明暗境界線を有する配光パターンを形成するシェードと、を備え、
前記シェードが、
前記投影レンズと前記リフレクタとの間に配置され、前記投影レンズの光軸又はその近傍において左右方向に延びる上縁を有する中央遮光部と、
前記中央遮光部の左側に設けられ、左右方向に延びる上縁を有する左遮光部と、
前記中央遮光部の右側に設けられ、左右方向に延びる上縁を有する右遮光部と、を有し、
前記左遮光部はその上縁が前記中央遮光部の上縁に揃った振り上げ状態と、その上縁が前記中央遮光部の上縁に対して左下りに傾斜した振り下げ状態とに揺動可能に設けられ、
前記右遮光部はその上縁が前記中央遮光部の上縁に揃った振り上げ状態と、その上縁が前記中央遮光部の上縁に対して右下りに傾斜した振り下げ状態とに揺動可能に設けられていることを特徴とするプロジェクタ型前照灯。
【請求項2】
前記シェードが、前記左遮光部の上縁が前記中央遮光部の上縁に揃った状態において前記左遮光部の上から前記左遮光部に当接する第1のストッパを更に有することを特徴とする請求項1に記載のプロジェクタ型前照灯。
【請求項3】
前記シェードが、前記左遮光部に設けられた第1の錘を更に有することを特徴とする請求項1又は2に記載のプロジェクタ型前照灯。
【請求項4】
前記シェードが、前記右遮光部の上縁が前記中央遮光部の上縁に揃った状態において前記右遮光部の上から前記右遮光部に当接する第2のストッパを更に有することを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載のプロジェクタ型前照灯。
【請求項5】
前記シェードが、前記右遮光部に設けられた第2の錘を更に有することを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載のプロジェクタ型前照灯。
【請求項6】
プロジェクタ型前照灯の投影レンズの後方に配置されたリフレクタから前記投影レンズに向かう反射光の一部を遮光して、明暗境界線を有する配光パターンを形成するシェードであって、
前記投影レンズと前記リフレクタとの間に配置され、前記投影レンズの光軸又はその近傍において左右方向に延びる上縁を有する中央遮光部と、
前記中央遮光部の左側に設けられ、左右方向に延びる上縁を有する左遮光部と、
前記中央遮光部の右側に設けられ、左右方向に延びる上縁を有する右遮光部と、を備え、
前記左遮光部はその上縁が前記中央遮光部の上縁に揃った振り上げ状態と、その上縁が前記中央遮光部の上縁に対して左下りに傾斜した振り下げ状態とに揺動可能に設けられ、
前記右遮光部はその上縁が前記中央遮光部の上縁に揃った振り上げ状態と、その上縁が前記中央遮光部の上縁に対して右下りに傾斜した振り下げ状態とに揺動可能に設けられていることを特徴とするシェード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−150950(P2011−150950A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12673(P2010−12673)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】